メイン・インデックス歌謡曲の砦>全アルバムレビュー 角川3人娘編  薬師丸ひろ子・原田知世・渡辺典子


全アルバムレビュー 角川3人娘編

薬師丸ひろ子・原田知世・渡辺典子

 薬師丸ひろ子


 メディアミックス戦略の草分けである80年代のカドカワ映画の象徴であり、80年代アイドルとしてみても松田聖子・中森明菜と比肩する人気を得たのが薬師丸ひろ子だ。
 78年のカドカワ映画「野生の証明」の鮮烈デビューからすでにアイドルとして一躍人気をえた彼女だったけれども、その後の主演映画は「翔んだカップル」「ねらわれた学園」と続き、「セーラー服と機関銃」の公開時にはその人気が頂点に達する。 「セーラー服と機関銃」の配収成績は角川映画のヒット作である「犬神家の一族」「人間の証明」を抜き22億円に達し、当時の歴代5位に入る爆発的なヒット、デビュー曲となった主題歌「セーラー服と機関銃」も売上86.5万枚で年間チャート2位という驚異的な記録をつくる。
 その後も角川映画の盆・正月のメインのプログラムで彼女は活躍、その主演映画の主題歌を歌うという形で歌手業を続けていく。84年の「Wの悲劇」を最後に彼女は角川から独立するが、以後も映画をメインとした女優業、その主題歌を歌うという形での歌手業というスタイルは変わらずつづけていく。

 歌手業がコンスタントな形で行なわれていたのは、84年のファーストアルバム「古今集」から、91年結婚時のアルバム「プリマヴェーラ」までの数年間。 シングルはほぼ全てが映画主題歌、または本人出演のCFキャンペーンソングという、いわゆるメディア連動型であったが、アルバムは一連のシングルの流れとはかなり違ったところで製作している感があった。「古今集」から「星紀行」までは4枚連続でシングル収録ナシのアルバムとなっている(―――「古今集」には初回盤のおまけがついていたけどね)。もちろんそれぞれのアルバムも実に堅実なつくり。

 彼女の楽曲制作で特徴的だったのは、徹底して大物アーティストへの楽曲依頼したところ。リリースのペースがアイドルとしては緩やかであったからこそか、アルバムの1曲にもシングルのB面にも決して手を抜かず、様々な有名アーティストからの楽曲提供を乞い、完成度の高い作品を連発している。
 来生たかお・えつこ姉弟のデビュー曲から始まり、阿木燿子・宇崎竜童夫妻、安井かずみ・加藤和彦夫妻、大瀧詠一、南佳孝、井上陽水、小椋佳、松本隆、伊集院静、玉置浩二、宮川泰、中田喜直、筒美京平、井上大輔、林哲司、大貫妙子、矢野顕子、吉田美奈子、尾崎亜美、epo、細野晴臣、坂本龍一、飛鳥涼、高見沢俊彦、大江千里、平松愛理、上田知華、楠瀬誠志郎、などなど。名前を挙げただけでも眩暈がする。中島みゆき、松任谷由実、竹内まりやの3人から楽曲提供を受けたの歌手というのも彼女くらいだ。
 これは東芝のディレクターである鈴木孝夫氏の尽力によるものも大きいのだろうけど、豪華楽曲提供者たちを一堂に集めて、纏め上げてしまう薬師丸ひろ子自身の魅力によるところも多分にあったんだろうな。彼女に似合う歌を作ってやりたい、彼女のためにひと肌脱いでやりたい。大の大人にそう思わせる不思議な魅力が当時の彼女にはあったんじゃないかな、と。
 91年の東芝時代までの彼女のアルバムは、そのどれもが安定していすばらしい。外れ一切ナシ。80年代アイドルポップスの粋はなにかといわれたら、80年代の松田聖子・南野陽子・斉藤由貴、そして薬師丸ひろ子のオリジナルアルバム、とわたしはいうだろう。上質で磐石。これがそれ、というエッセンスが凝縮している。

 とはいえそんな彼女の魅力は、泣きぼくろをなくしたのと一緒に今は失われたようにも見える。カドカワ時代の呪縛に今一番引きずられているのが彼女なんじゃないかな。玉置浩二との離婚後はドラマや映画に定期的に出演するものの、往年の魅力はそこにはなく、かといって新たな女優・歌手としての魅力も前に出てこず、厳しい。本人の努力が足りないわけではないだろうあたりが尚更。
 いっそのこと、めでたくメディアに復帰した角川春樹にもう一度映画を撮ってもらったらいいんじゃないか、と私は思ったりもするけど、どうなのかな?――などと、思っていたら一転、「ALWAYS 三丁目の夕日」の母親キャラで脚光を浴びるようになってしまった。なるほど、こういう展開か。原田知世が永遠の少女であるのと実に対照的に、また昨今の女性がなかなか「成熟」を目指さなくなったのと対照的に、あえて日本の「おふくろさん」となった彼女に、驚きを禁じえない。
 ふたたび今の彼女にあった歌を届けて欲しいという思いを私は持つが、おそらくかなわないだろう。もちろん映画の企画などで現在でも時折歌う機会はあるが、彼女自身が今、歌を必要としているようにはみえない。



cover ◆ 古今集  (84.02.14/第1位/47.7万枚)
1.元気を出して 2.つぶやきの音符 3.トライアングル 4.カーメルの画廊にて 5.眠りの坂道 6.白い散歩道 7.ジャンヌ ダルクになれそう 8.月のオペラ 9.アドレサンス(十代後期) 10.探偵物語 11.すこしだけやさしく 12.セーラー服と機関銃 13.探偵物語(ストリングス・ヴァージョン) (M.10〜13は初回分のみ)
 「国文学の角川書店」のアイドルのファーストアルバム、だからタイトルが「古今集」ということなのか。 スタンダードとなった竹内まりやの「元気をだして」をはじめ、大貫妙子、来生えつこ、阿木燿子、湯川れい子と作詞家は全員女性で固め、とことんフェミニンで品のいいお嬢さま路線で攻めている。淑やかだったり華やかだったりおきゃんだったりといったり、という少女の万華鏡世界。松田聖子の向こうを張るようなアルバムといえるかも。アイドルポップスのお手本といってもいい一枚。 歌唱も楽曲の世界観も既にこの時点で完成している。南佳孝作曲のマイナーな小品「つぶやきの音符」や、勝気な中に淑やかな横顔の見える「アドレサンス」などがよい。ちなみに初回版レコードには新アレンジの「セーラー服と機関銃」「探偵物語」を収めた12inchシングルレコードがついていた。「セーラー服〜」は、歌唱もこなれているし、アレンジもこっちの方が好きかな。8点。


cover ◆ 夢十話  (85.08.08/第2位/30.2万枚)
1.天に星、地に花 2.スマッシュ・ボーイの微笑み 3.冷たくされたい 4.過去からの手紙 5.千年の孤独 6.Welcomeback to my Heart 7.ある日印象派 8.クリスマス・アベニュー 9.水の中のイエスタデイ 〜再会物語〜 10.バンブー・ボート
 タイトルは漱石の「夢十夜」からか。 カドカワから早速独立して一年半ぶりの2枚目、とはいえ角川色は以前濃厚。「天に星、地に花」を筆頭に「過去からの手紙」「水の中のイエスタディ」(――宮川泰作曲で、副題からしていかにもカドカワ映画の主題歌風)などマイナーメロディーの向こうに立ち込める翳り帯びた神秘的なベールとその隙間から垣間見える「クリスマスアベニュー」「ある日印象派」などのお嬢様的勝気な可愛らしさが前作に引き続いていかにも角川映画女優的。 「スマッシュ・ボーイの微笑み」になっちゃうと、いかにも男目線の少女賛美(作詞は阿久悠)がちょっとダサくすぐったいんだけどもね。ラストを飾る「バンブーボート」の叙情性がささやかながらも極上の余韻。こういうドラマのある歌を歌わせると彼女は本当に光る。作品ごとの落差がちょっと大きすぎる感もあるけど盤石の1枚。7点。


cover ◆ 花図鑑  (86.06.09/第2位/17.9万枚)
1.花のささやき 2.100粒の涙 3.ローズ・ティーはいかが? 4.寒椿、咲いた 5.紅い花、青い花 6.麦わら帽子のアン 7.透明なチューリップ 8.紫の花火 9.哀しみの種 10.かぐやの里
 これは傑作。松本隆プロデュースによる花づくしのアルバム。83年「探偵物語」以来シングル作品では定期的に詞を提供し、そのことごとくが良質だった松本隆だけれども、本領大発揮。井上陽水、中田喜直、筒美京平、細野晴臣と、作曲陣がほとんど日本ポップス界最強レベル(――だからモーツァルトの日本語詞カバーなんてクラシカル・クロスオーバーを20年も先取りした大胆不敵なことしてもぜんぜん浮かない!)なのはもちろん、世界観が卓越している。 「僕だったら薬師丸さんにこういうのを歌って欲しいな」という松本隆の極めてシンプルな考えがスタート地点なのだろうけれども、結果、彼女に漂う宗教的神秘性を最も強く前面に出した作品に仕上がっている。 「花のささやき」「紅い花青い花」「かぐやの里」と、ここにある風景は彼岸の向こうにある人ならざるものが住む異界の風景である。もちろん「麦わら帽子のアン」や「100粒の涙」のようなアイドルらしさも忘れていないが(――このあたりのプロデュースワークも抜群。「100粒の涙」とか、シングルでもぜんぜんいける)、この部分が残る。 カドカワ時代からの連綿と続いた彼女の歌世界のひとつの頂点で集大成。白く美しく神聖で、深甚なるものを背後に感じさせる。薄くけむりがかった先に、やさしく微笑む御薬師様。ありがたやありだかや。それにしても中田喜直の作る清新な抒情歌を彼女が歌うとこれほどまでに説得力がでてくるとは。10点。


cover ◆ 星紀行  (87.07.06/第3位/8.1万枚)
1.星紀行 〜キャメルの伝説 2.幸福の岸へ 3.マリーンブルーの囁き 4.風と光に抱かれて 5.空港日誌 6.アフタヌーン・ティー 7.ギンガムシャツに書いた勇気 8.日差しのステディ・ボーイ 9.夢の中へ 10.未完成
 伊集院静プロデュースでタイトルに『星』とあるが、今回は星づくしではない。彼がほとんどの詩作を担当しているが、何故かここではいつもの伊達歩でなく、伊集院名義。このあたりの理由は不明。 「松本君がああいうアルバム作るなら俺はこうやってみるかな?」と思ったのどうかしらないが、内向的で心の景色を写し取ったような前作とうって変わって、夏の陽射しに照らされて明るくはしゃいだ曲が目立つ。ちょっと外に出て、いろいろと楽しんでます、という感じ。 髪を一気に刈り上げた87年の薬師丸は、女優業をいったん休止し、初のコンサートツアーを行い、積極的に歌番組に出演するなど、歌手業を前面にして動いた。コンサートを意識して、の、こういったコンセプトなのかも知れない。ただ、改めて今の時点で聞きいってみると、ちょっとミスマッチだったかな?と思わないでもない楽曲がちょっと目立つ。 エキゾチックでミステリアスな「星紀行」は薬師丸の神秘路線で磐石だし、竹内まりやの「アフタヌーン・ティー」も手堅いし、中島みゆきの「空港日誌」「未完成」も意外な妙味でいけるけど、あとの曲は、うーん、と。 このアルバムをもって、シングル収録ナシの漢字三文字タイトルシリーズは終了。ところで、コンサートで歌われた伊集院静+中田喜直のオリジナル「星は何処へいくのでしょう」はこのアルバムにいれるべきだったと思いますが、なんでないの? 7点。


cover ◆ Sincerely Yours  (88.04.06/第8位/7.5万枚)
1.時代 2.DISTANCE 3.おとぎばなし 4.もう一度 5.雨は止まない 6.時の贈り物 7.ハイテク・ラヴァーボーイ 8.ル・パ・ラ 9.色彩都市 10.終楽章 (album ver.)
 今回のテーマは「薬師丸 V.S 女流シンガーソングライター」。対戦相手は中島みゆき、竹内まりや、吉田美奈子、大貫妙子、尾崎亜美、EPO。名を連ねた大物たちに思わず恐れいってしまう。今回はこれらのアーティストから提供を受けたり、カバーしたり、(中島の「時代」、竹内の「もう一度」、大貫の「色彩都市」はカバーだよね)。 これだけのしかもバラバラな面子でありながら、薬師丸ひろ子のアルバムになってしまうのだから、彼女の引きの強さに驚いてしまう。 気の強い、だけどまだまだおぼこいお嬢様という「探偵物語」以来の薬師丸の可愛らしさを引き継ぎながらも、着々と大人の女性らしさと歌手としての表現力が増している。上品でしっとりと聞き心地のいい好盤。
 個人的には、明らかにオーバープロデュースな吉田美奈子作品(「時の贈り物」「ハイテク・ラヴァーボーイ」)が、ツボ。美奈子さん、前に出すぎだよっ。ちなみにこの盤から薬師丸自身がプロデューサーとして作品に名を連ねることになる。楽曲の良さで8点。


cover ◆ セ・ン・テ・ン・ス  (88.08.05/第18位/5.1万枚)
1.あなたを・もっと・知りたくて(another ver.) 2.瞳で話して 3.星紀行 〜キャメルの伝説〜 4.バンブー・ボート(another ver.) 5.麦わら帽子のアン 6.夢の中へ 7.天に星、地に花 8.胸の振子 9.未完成 10.時代(ニューリミックス・バージョン)  11.冬のバラ 12.探偵物語(ストリングス・バージョン)
 86年年末発表のそれまでのシングルを全収録した「ベストコレクション」(86.12.06/第7位/19.8万枚)以降の、アルバム未収録のシングルやB面曲、既発表曲の別アレンジバージョンなどを多数収録した、ベストというよりもコンピレーションかな。この盤のリリースの経緯はよくわからないが、楽曲の構成やまたその知名度などからいって、先行の「ベストコレクション」とともにライトユーザーに一番聞きやすいアルバムになっている。彼女の映画主題歌のシングルに見られる翳りの部分を前面に出した盤。 「瞳で話して」の憂い、「天に星、地に花」や「胸の振子」の神秘、彼女の声には、物語を感じさせる。「あなたを・もっと・知りたくて」はさりげなくバージョン違いだけど、気かれた方、居ます?9点。


cover ◆ LOVER'S CONCERTO  (89.02.15/第2位/18.6万枚)
1.A LOVER'S CONCERTO  2.素直になって  3.愛する感じ  4.平凡  5.元気を出して (new ver.) 6.水色の瞳  7.つばめが飛んだ空  8.さみしい人にならないで  9.うたかた  10.語りつぐ愛に(album ver.)
 久々のヒットとなったシングル「語りつぐ愛に」に続く形でリリース、アルバムの方も久々にベスト3入りしている。 今回は同世代の女性の等身大の私生活をテーマにしたような作品。彼女の良さでもある「花図鑑」の頃にみられた神秘的な側面、映画主題歌的な翳りはこの盤では薄く、彼女の前向きでおしとやかな部分が前面に出てくる。 作家陣は相変わらず豪華だけれども、作曲・作詞の組み合わせが珍しいパターンが多く、それでいて絶妙。 小室みつ子ー平松愛理コンビの「平凡」や許暎子ー上田知華の「さみしい人にならないで」、松井五郎―来生たかおコンビの「つばめが飛んだ空」など日常的な情景の中にあるささやかな哀歓を描いて好ましい。ここでの彼女は歌うストーリーテラーといった佇まい。 来生えつこ―筒美京平コンビの「愛する感じ」は上品で洗練されているし(――筒美作品はアルバム曲でこそ本領を発揮すると、個人的には思うぞ)、旧来のファン向けにはドラマチックな「水色の瞳」も用意してあり、更に竹内まりやのリメイクよってスタンダード化した「元気を出して」も再録音する、という実に安心設計。 個人的なベストは最愛の者との永訣を歌ったこれまた珍しい吉田美奈子―上田知華コンビの「うたかた」。こういった荘厳な歌を歌ってゆるぎないのが彼女の強みである。8点。


cover ◆ Heart's Delivery  (90.03.28/第3位/6.8万枚)
1.Heart's Delivery 2.手をつないでいて 3.Antique clock 4.止まった時計 5.瞳を知りたい 6.雨にさらわれて 7.Natural Season 〜海辺のミューズ 8.五月の地図 9.こんな朝は 10.Lonesome day
 前作「Lover's Concerto」のセールス的な成功を鑑みたのか、前作を発展したようなつくりになっている。前作に続いての上田知華、平松愛理、ゴールデンコンビな来生姉弟、なぜかここで初登場のMark Davisこと馬飼野康ニに小田裕一郎、さらに、大江千里、飛鳥涼、楠瀬誠志郎と新たな作家陣を組みこませながらも薬師丸ひろ子の歌の世界はまったくもって盤石。 柔らかなオーケストレーションとこころの襞を感じる丁寧な詞、それを薬師丸はやさしく歌に昇華してます。 タイトル曲である旅立ちを歌って壮大な「Heart's Delivery」から「雨にさらわれて」までの前半は完璧すぎる。これ、どの曲もシングルに切れるぞ、という重量級ですばらしいを超えてむしろビビる。 後半は少しテンションが落ちるけど、ラスト来生姉弟の「Lonesome Day」でしっかり締めている。前作からみるに上田知華は彼女との相性がいいよう。「止まった時計」は飛鳥涼がすぐさまセルフカバー、翌年チャゲアスがブレイクしたことによってこの曲も注目を浴び、結果スタンダード化、という、ハイ、これ、「元気を出して」コースですね。オリジナルアーティストは薬師丸なので、ひとつよろしく。8点。


cover ◆ PRIMAVERA  (91.03.13/第13位/3.9万枚)
1.PRIMAVERA 2.心の片隅で 3.留守番電話のHAPPY BIRTHDAY 4.冬の青空 5.もう泣かないで 6.ふたりの宇宙 7.星の王子さま 8.私の町は今、朝 9.DESTINY 10.風に乗って
 このアルバムリリース直前に玉置浩二と結婚した薬師丸ひろ子。この盤は薬師丸に久々に登板の大村雅朗の緻密なアレンジが印象的(―――ちなみに薬師丸の楽曲のアレンジャーに関していうと、作家陣が入れ替わり立ちかわりであったのと同じようにこちらもバラエティーに富んでいたが、萩田光雄も船山基紀も松任谷正隆も武部聡志も井上鑑も清水信之も新川博もみぃんな実にいい仕事をしている。彼女は本当に恵まれている )。 大貫妙子―矢野顕子の親友コンビによる「星の王子様」や大江千里―坂本龍一という異色コンビの「ふたりの宇宙」、大ファンだというKANの「私の街は今、朝」など、相変わらずの豪華幕の内スタイルだけど、ちょっと雰囲気にばらつきがあるようにも感じる。 大村雅朗のサウンドって少しばかり翳りがあって切れ味鋭いのが特徴だと思うけれども、どうにも結婚前夜の多幸感溢れるこの時期の薬師丸ではミスマッチなのかな、と。数年前か数年後にこのコンビでアルバム出して欲しかった。 前作からの風堂美起、楠瀬誠志郎、上田知華が手堅く、「留守番電話のHAPPY BIRTHDAY」や「風に乗って」といった温かな愛を歌った歌が印象に残る。作家陣の割に惜しい一枚。坂本教授の二作なんて、ホント怪作だし。7点。


cover ◆ 恋文 〜LOVELETTER〜  (98.02.04/ランクインせず)
1.ネクタイ 2.Heaven's Song 〜愛の繭〜 3.PHONE 〜お返事〜 4.交叉点 〜そう、それがそう〜 5.消えた年月 6.友情関係 7.恋文 〜哀愁編〜 8.卒業式から 9.再会橋
 ひさひざのアルバムは阿久悠の小説「恋文」と連動したアルバム、ということで全詞作は阿久悠なのだが、なかなか難しいね。正直なところ、阿久悠と薬師丸とは相性があわないと思う。薬師丸の歌声というのは天上的だとわたしは思う。なにを歌っても洗い清めてしまうのが彼女の歌声の最も素晴らしいところで、一方阿久悠の詞と言うのは、あくまで地上的な泥臭さ人間臭さがいつもまとわりついている。薬師丸の声が天から地上を見下ろしているとしたら、阿久の詞は地上から天を見上げているのだ。これはこのまま岩崎宏美のところへ持っていく企画だったんじゃないかなー。 SENSの勝木ゆかりや元クライズラーカンパニーの斉藤恒芳などの提供を受け、楽曲はストリングスを前面に出してアコースティック。いい線行ってるサウンドメイクなのに、全体の印象はどこかもっさりしていて、薬師丸のいい部分が出てきてない。いっそクラシック・クロスオーバーやればいいのににね。幸せが壊れる予感を歌った「Heaven's Song 〜愛の繭〜」は離婚秒読みであった彼女の私生活を感じさせて耳に痛い。6点。




 原田知世


 「第二の薬師丸ひろ子」を求める角川書店主催の新人女優オーディションで特別賞を受賞し、テレビ版「セーラー服と機関銃」の主演で芸能界への一歩を踏み出した原田知世。翌年の初主演映画「時をかける少女」の大ヒットでカドカワ映画は薬師丸・原田のツートップ体勢をとることになる。これは「Wの悲劇」/「天国にいちばん近い島」まで続く。
 彼女に訪れた最初の転機は映画「早春物語」であった。ここで監督・澤井信一郎の厳しい演技指導を受けた彼女は、薬師丸がそれで女優として更に飛躍したのと対照的に、女優としての壁にぶつかってしまった。演出が求める役割ができない自分、その要求を拒否したくて仕方ない自分。「―――こんななら、女優なんてやりたくない」その思いが結果、歌手業へと彼女を傾倒させることになる。
 翌86年は主演映画は一本も撮らなかったかわりに、シングル3枚アルバム2枚をリリース、さらに全国ツアー敢行と歌主体のアイドルレベルの仕事量をこなし、その勢いにのって87年には「黒いドレスの女」をもって角川春樹事務所から独立することになる。
 それは、自分がより自分らしく表現するための独立、そこに「女優」「歌手」という区別はなかったのではなかろうか。それは薬師丸や渡辺と比べてもより明確なビジョンがあった(―――ということが、今という時点で見てはじめてクリアに見える)。以後彼女は、歌手業と女優業のバランスを絶妙にとりながら活動を続けていき、気がつくと80年代のアイドル出身で数少ない現役の歌手のひとりとなってしまった。

 若い頃からオードリー・へプバーンへの憧れを語っていた彼女。自分らしくあるための表現の場として歌手業も女優業もあるべきだ、という強い信念が彼女にはあるようで、自分の意に添わないような台本、演出の作品に出ることも少なく(―――オードリーに倣って彼女は処女性を失いかねない「男性原理が求める類型的な女性像」をきっぱり拒否しているところがある)、自己のプロデュース範囲内から飛び出た、政治的な匂いの感じる楽曲をリリースすることもまた、少ない。 「イメージ戦略」といえばその通りだけれども、彼女が珍しいのはアイドル時代に周囲が作りあげた自ら意図しない虚像(―――つまりは「時をかける少女」のイメージ)を過激に破壊したはてに新たな自らを確立したのではなく(――大抵のアイドル歌手はそれをやろうとして、失敗する。彼女も後藤次利プロデュース時代にそれをやろうとして大失敗した)、少女時代に築かれた虚像を生かしつつ、横滑りするように少しずつ自らに近しいものへとすり変えて成功したところにある。

 彼女の音楽活動で面白いのは、アルバム3〜4枚ごとに世界観がからっと変わるところだ。
 「バースディ・アルバム」〜「PAVANE」までの3枚がいわゆる《「時をかける少女」の原田知世》、角川春樹と大林宣彦に見出された少女、原田知世の世界。「NEXT DOOR」〜「Schmatz」が秋元康ー後藤次利によるクールな《歌謡ロックの世界》。フォーライフに移籍して「Tears of Joy」〜「彩」までの3枚は《透影月奈時代》―――ホイチョイ+アミューズ+ハーフトーンで欧州風味で擬似今井美樹的。プロデュースは本人と元・サザンオールスターズの大森隆志で、当時原田は「透影月奈」なるペンネームを用いていた。 さらに「GARDEN」〜「CLOVER」の半分までは鈴木慶一との共同プロデュースによる《ひとり・女ムーライダース時代》となる。「CLOVER」でトーレヨハンソンと出会ってから「BLUE ORANGE」までは《和製スウェディッシュ・ポップの女王》に。 「a day of my life」で完全セルフプロデュースでスウェディッシュポップをおさらいして後に待っていたのは、「Summer breeze」と「My Pieces」、ゴンチチ・羽毛田武史との共同制作の《なつかしの擬似洋楽の世界》。さらに2010年現在は高橋幸宏とのバンド「Pupa」と、伊藤ゴローとの共同プロデュースを並行して行っている。

 フォーライフ移籍後の90年発表のアルバム「Tears of Joy」から後の作品からはいわゆるカドカワ女優臭はまったく感じられない。他の二人を見るに、カドカワ時代を乗り越え、さらに成功したのは(――少なくとも歌手という面においては)彼女だけと見える。その成功の秘訣は徹底したセルフプロデュースとやむことのない音楽への探求心にあったといえる。




cover ◆ バースディ・アルバム  (83.11.28/第2位/10.4万枚)
1.地下鉄のザジ 2.ダンデライオン 3.守ってあげたい 4.時をかける少女 5.ずっとそばに
 原田知世の誕生日を記念したミニ・アルバム。10万枚限定生産。東芝EMIからのリリースなので、キャニオンから発売された「時をかける少女」とカップリング「ずっとそばに」は再録音されている。純然たる新曲はCFソングとなった大貫妙子作品の「地下鉄のザジ」1曲のみ。というわけで、きちっとしたアルバムというよりもファングッズに近いニュアンス。ユーミンの作る少女向けソングがここまでべたはまりする素材は彼女と麗美が当時の双璧。「守ってあげたい」の歌唱の、なんていうピュアネス! ユーミンが表現しようとしてかなわなかったことを完全に表現しきっているように見える。この時期の彼女でユーミンプロデュースのアルバム、是非作って欲しかった。楽曲自体は良いがアルバムとしての体裁はまだ整っていないので、6点。


cover ◆ 撫子純情  (84.11.28/第2位/16.4万枚)
1.星空の円型劇場 2.Happy Yes 3.もっと素直に… 4.リセエンヌ 5.クララ気分 6.天国にいちばん近い島 7.愛してる(CDのみ収録)
 またまたバースディ・ミニ・アルバム。今度は坂本龍一プロデュースで新曲ばかり。教授お得意のストリングスの不穏な現代音楽チックの「リセエンヌ」、原田知世との相性ばっちりなロリロリの大貫妙子作品「星空の円型劇場」、ドリーミーなかしぶち哲郎の「Happy Yes」、クールなサウンドを知世のボーカルで甘く包み込んだ南佳孝の「クララ気分」など。提供作家もわりと坂本人脈です。「知世ちゃんかわういっ」とおもわず叫びたくなる、そんなとりみき気分が味わえる1枚かと。無意識過剰で存在の透明な少女を銀盤に瞬間パックしたという感じ。 80年代の坂本龍一なので音はもちろんキラキラふわふわのサーモンピンクなテクノポップ。そちら系のマニアも必聴。坂本作品で言えば飯島真理の「ロゼ」に近い感じかな。CD盤は「天国に一番近い島」のB面「愛してる」も収録されていた。7点。


cover ◆ PAVANE  (85.11.28/第7位/10.1万枚)
1.水枕羽枕 2.羊草食べながら 3.姫魔性 4.紅茶派 5.早春物語(album.ver) 6.夢七曜 7.カトレア・ホテルは雨でした 8.HELP ME LINDA 9.いちばん悲しい物語 10.ハンカチとサングラス 11.続けて
 3回目のバースディにしてやっとフルアルバム。当時のアイドル女優・原田知世を象徴する名盤、かつ、アイドル時代の作品で今の彼女の音楽世界に最も近い作品といっていいんじゃないかな?
 角川春樹と酒井政利の二大御大の総合プロデュースに、さらにリリックプロデュースに康珍化、実質ディレクションは当時は南野陽子も兼任で、今は大貫妙子担当の吉田格、 作家は、大貫妙子、かしぶち哲郎、加藤和彦、佐藤隆、麗美、伊藤銀次、大沢誉志幸という眩暈がするほどの豪華布陣。
 Water Sideと銘打たれたA面すべてが萩田光雄編曲、これが彼、お得意のストリングセクションで纏め上げられていて、破綻なく美しく、しかもほんのりと漂う欧州趣味がなんとも高貴。この世界から一気に「彼の彼女のソネット」に飛び、さらに「Silvy」と飛んで、そこからは地続きで今の彼女の世界に繋がるという感じ。
 「水枕羽枕」や「羊草食べながら」の無垢なあどけなさと「姫魔性」や「早春物語」の毒気と妖しさ、「紅茶派」の気品、それらがひとつの人格としてふしぎと繋がっていてしまうのが、当時の彼女の歌手としての良さだと、私は思う。 彼女の歌声は、透明感があるのに、どこか毒を孕んでいて、怜悧で切れ味の鋭いのだ。
 一方の、B面はLight Side、井上鑑が編曲し、わかりやすいアイドルポップの世界。
 「いちばん悲しい物語」「ハンカチとサングラス」は「愛情物語」「天国にいちばん近い島」などの林哲司作曲のAOR清純アイドルポップ路線の延長といっていいし、「カトレアホテルは雨でした」は井上鑑、加藤和彦両者お得意のオリエンタル歌謡、 ラストを飾る「続けて」は翌年からはじまる後藤次利プロデュースによる歌謡ロック路線を予感させる作品となっていて、A面と比べると散漫な感は否めないが、A面の高貴さと比べると好対照の親しみのある世界が広がっている。
 歌手としてはまだまだ拙さがある時代だけれども、「歌手・原田知世」のはじめの一歩といってもいいひとつの志向性を感じる。9点。


cover ◆ NEXT DOOR  (86.06.28/第4位/12.8万枚)
1.バックギャモンは負けない 2.異国の娼婦 3.月のリグレット 4.落書きだらけの青春時代 5.イニシャルを探して 6.雨のプラネタリウム 7.僕達のジングルベル 8.アップルティーには早いけど 9.葡萄畑の走り方 10.右手で抱いて
 知世は次の扉を開く。全曲秋元康詞、プロデュースとアレンジは後藤次利。おニャン子系全盛の86年にあえてこの二人の元に飛び込む。テーマは知世の処女性の破壊。大人になりたがりの18歳の少女の背伸びなのだろうが、ちょいとついていけない。後藤次利はわりと本気で、ベコベコと過激な歌謡ロックサウンドを展開する一方、秋元の詞はわりと手癖感のある仕事をしている。 「落書きだらけの青春時代」「僕達のジングルベル」などの、リリカルで青臭くいささかナルシスティックな「ボクもの」あたりが、これも彼の定番であるとはいえ、手堅くいい出来か。一方、「大人」を狙った詞は、はっきりいってしゃらくさい。うんざりする。 後藤の他の曲提供作家は原田真二、吉川晃司、岸正之などで、サウンドとして聞くと面白いものが多い。岸正之の作品はゴツグのアレンジでないほうがよかったよね。6点。


cover ◆ Soshite  (86.11.28/第10位/6.0万枚)
1.さよならの美術館 2.一幕のComedy 3.Cool 4.セレブレーション 5.土曜の停電 6.コンセプト 7.逆光の中で 8.家族の肖像 9.笑っていたナース 10.空に抱かれながら 11.左右のエレベーター 12.赤いダリア摘まれて 13.雨のプラネタリウム(nine-teen.ver)
 四度目のバースデイアルバム。シニックに、シックに、クールに、シュールに、そしてセクシーに。もう少女じゃないのよと、背のびをする19の原田知世がいる。多分、後藤次利が原田知世でやりたかったことがこのアルバム。インダストリアルな打ちこみサウンドはより過激さを増し、処女性の破壊をさらに突き抜けて不倫や失恋、報われない恋をテーマにした不幸の匂い漂う詞は、奥行きと物語性があり、淫靡でどこかあやしい。透明な刃の切っ先のような原田知世のボーカルは陰影が深く、ダークな匂いがする。ドラマチックで独自のクールネスが漂いこれはこれで全然アリ――なのだが、約半分の秋元っちゃんに任せた詞は相変わらず手抜き仕事。もう、ほんっと、こいつはっ。シングルはそこそこ力入れるもののアルバム曲になると「どうせアルバム曲でしょ?」って感じで舐めた態度取るのが、ゆるせん。「コンセプト」とか、存在自体抹消したいわ。他の作詞家の作品のほう平均二段階くらい良いぞ。今回の秋元っちゃんの成果は、華麗なる一族の冷たい晩餐会を描いた「家族の肖像」、これは善戦。小室哲哉のアクの強いメロディーとゴツグのベコベコアレンジの相克も異種格闘技めいて面白い。 街の一景を描いてるだけなのにどこかシュールリアルな「左右のエレベーター」、山奥の施療院の月明かりの寝室といった感じの暗示的でゴシックな「笑っていたナース」もなかなか。冬ざれて閑散とした美術館のひんやりした雰囲気のある「さよならの美術館」、三角関係の終焉の一幕を女優的にクールに決めた「一幕のComedy」、性の匂いを耽美的なニュアンスで捉えた「赤いダリア摘まれて」といったところも聞き所かな。ロングバージョンの「雨のプラネタリウム」もドラマチックでいい出来。8点。


cover ◆ Schmatz  (87.07.29/第14位/3.5万枚)
1.片面だけのラブソング 2.霧雨のステンドグラス 3.2人の休止符 4.キスの後の無口が好き 5.逢えるかもしれない 6.螺旋状の涙 7.サヨナラのない町 8.星屑達の標本 9.あしたの人魚(マーメイド) 10.彼と彼女のソネット
 ロンドンレコーディング。久留幸子の耽美的なジャケ写に似つかわしくない作品が並ぶ。無駄に高音の抜けのいいシンセ音だけが響く冗長なトラック、タイトルだけ先に決めて答えあわせのように後からつけたしたような完成度の低い歌詞、とってつけたように挿入されているサウンドコンセプトのまったく異なるシングル曲、聞くべきものが見つからない。前作前々作と後藤次利なりに力が入っているのが確かに感じられたけれども、このアルバムはホント、ダメ。結局原田知世の歌謡ロック路線とはいったいなんだったのか、と落胆させられる。 この盤ラストに収められた大貫妙子の端正な日本語詞による「彼と彼女のソネット」だけがこの時代の彼女の収穫なのだろうか。90年代に入ると彼女はこの時代の歌をほぼ完全に封印するようになる。実際、彼女の音楽史を見た時、「PAVANE」から一気に「彼と彼女の〜」までジャンプしてしまってもなんの問題もない。自分に見合った音楽を探すためにここから彼女は少し時間を置くことになる。5点。

 ちなみに。オフィシャルなベスト盤のリリースが滅多にない原田知世だが、この時期、86年年末の「ポシェット」を皮切りに公式・非公式とわず様々なベスト盤が一気にリリースされている。
 東芝時代の全ての楽曲をコンパイルした(――ので、未CD化のファースト「バースデイ・アルバム」はこのアルバムを聞けば問題なし、な)「ポシェット」(86.11.01/第18位/3.1万枚)、 キャニオン時代の全曲と、それだけだとCDの容量あまりまくりなので「時かけ」のサントラも加えたCDのみ発売の「ベスト+『時をかける少女』サウンドトラック」(87.04.21/第57位/0.7万枚)、 「ポシェット」の焼き直しで東芝時代の四曲、カラオケ含む、CD発売はなし、といういまいちコンセプト不明な「イマージュ」(87.05.01/第28位/1.2万枚)、 「太陽になりたい」をのぞくCBSソニー時代の全シングルに「時をかける少女」「愛情物語」を後藤次利の改悪アレンジで再録音した「From T」(87.11.28/第27位/1.9万枚)、 ソニー契約終了記念? 東芝・ソニー・キャニオンの共同企画でこれまでの全シングルを完全コンパイルし、カセット・LP・CDを三社が分担して発売した「Single Collection '82〜'88」(88.09.01/第30位/1.3万枚)
 まるで、歌手としての自らを清算するようなリリースラッシュ。メーカーがアーティスト別にシリーズで出している企画ベスト(「ゴールデン☆ベスト」とか「スーパー・ベスト」とか「ベスト・ナウ」とかの、アレね)ではなく、単発でここまで連続するというのも凄まじい。この時期、カドカワを独立したということもあるのかもしれないが、もう歌わないという選択肢も、彼女は考えていたのかもしれない。


cover ◆ Tears of Joy  (90.05.21/第30位/1.6万枚)
1.Silvy 2.ひとときの永遠 3.STEADY BOYS 4.二人の陽炎 5.ため息の日曜日 6.雨の降る夜に 7.うたかたの輪舞曲(ロンド)8.バースデイには勇気を出して 9.Tears of Joy 10.Shell Pink 〜眠りの国へ〜
 レコード会社を移籍し、3年ぶりとなったアルバム。プロデュースは透影月奈こと原田本人。スーパーバイザーに今井美樹担当ディレクターの松田直、ハーフトーンの武部聡志の名が連ねている。ということで目指すは、ホイチョイの今井美樹。(ちなみにこの頃、原田は「私をスキーに連れてって」「彼女が水着に着替えたら」のホイチョイ映画で話題を集めた)
 さりげなくおしゃれに自然体で夏に戯れるって感じ(――と自分で書いていて恥ずかしい)。とはいえそんなにうかれた盤でなく、「彼と彼女のソネット」で得たフレンチ風味を軽く散りばめて、日常的という名で演出された夏の一景を描いて大傑作とまでいえないが、なかなかの好盤。作家は柿原朱美、山口美央子、安藤芳彦などに原田本人も今回は詞を結構書いてます。個人的に鉄板は「雨の降る夜に」〜「うたかたの輪舞曲」の流れ。「早春物語」で見せた擬古典的でヨーロピアン・ロマンチックなダンスミュージックは、バレエを長年やっていただけにやっぱり原田知世に嵌まる。夢見のシュールリアルを描いた「Shell Pink 〜眠りの国へ〜」も傑作。前半の初夏の海辺をとことこと歩くようなノリよりも、後半部の内面に語りかけるような世界の方が私は好みです。タイトル曲「Tears of Joy」は「彼と彼女のソネット」に並ぶ彼女にとってのスタンダードとなった。8点。


cover ◆ Blue in Blue  (90.11.28/第70位/0.5万枚)
1.Silence Blue 2.Honey Moon 3.Tears of Joy (Ambiance Version) 4.白い朝 5.蒼い夢 6.冬の妖精
 久々のバースデイアルバムは当時サザン・オールスターズに所属していた大森隆志との共同プロデュース。アレンジはサザンサポートメンバーである片山敦夫がほぼ全て担当。透影/原田は、作曲が一作、作詞が五作担当。作詞作曲にここまで自らが携るのは初めて。 前作が夏を前面に出していたので、今回はその冬バージョンというところ。前作と対のようなアルバムとみていい。スキューバダイビングで見た海の底の風景(「彼女が水着に着替えたら」の撮影の前後のことだろうか)が着想となった「Silence Blue」が最もキャッチの強いナンバーで歌番組でも歌唱披露、本人出演の佐藤製薬「ストナ」CFソングにもなった。一方「白い朝」は「ストナリニ」の方のCFソングに使われたが、こちらはちょっと印象薄。 短歌的な小品「蒼い夢」もメランコリックでなかなか。柿原朱美作曲・崎谷健次郎編曲で、原田も大森も絡んでない「冬の妖精」は、他作品と毛色は違うが、ヨーロピアンで瀟洒な佇まい。間奏のcobaのアコーディオンがいい仕事している。7点。


cover ◆   (91.05.21/第67位/0.6万枚)
1.Breeze 2.メランコリーの妙薬 3.Marlene on the wall 4.永遠の約束 5.午前10時の誘惑 6.Jamais-Vu 7.闇の花 8.SMALL BLUE THING 9.青空(そら)の種子
 「あや」でなく「さい」と読む。このアルバム、結構好き。地味にいい。前作と同じく大森隆志をプロデューサーに迎えて、セザンヌ・ヴェガのカバーやイザベル・アンテナからの提供曲などを歌う。他楽曲提供者は同じくサザンの関口和之、片山敦夫、加藤和彦、コシミハル、中西俊博ら。全体的によりフレンチ的なテイストを強くしたといった感じ。シックで軽すぎず重すぎずよくできている。初夏の午後のカフェで薄くかかっていてベタハマリするような雰囲気。平凡な風景がCDを流した途端、エレガントにワンランクアップする。加藤和彦作品の「午前10時の誘惑」のアニメの声優チックなキャンディボイスには驚いたけどもね(――まだこの声出せたんだね)。個人的ベストはゴシック浪漫なコシミハルの「闇の花」、美しきメッセージソングである中西俊博の「青空の種子」。ところで「椰子の実かちる」って誰? 8点。


cover ◆ Garden  (92.08.21/第66位/0.8万枚)
1.都会の行き先 2.さよならを言いに 3.アパルトマン 4.WALKING 5.NOCTURNE 6.中庭で 7.リボン 8.夢迷賦 9.ノア 10.夢の砦 11.早春物語
 鈴木慶一氏との出会いとなった歴史的アルバム。彼女が咲かせようとしていた音楽の花々がここにきてようやく完全開花した。 夏の午後のイギリス式庭園の一景のような、穏やかで美しいアルバム。盤全体に散りばめられた大陸的な情緒が心地よく耳に響く。 作家陣は鈴木慶一人脈祭りといった感じで思いっきり多種多彩。また、同じレコード会社で「水彩画の夏」でコラボした中西俊博、「地下鉄のザジ」以来、原田のターニングポイントには必ずそこにいる大貫妙子、二年前の「夢迷賦」をさらに大胆にリアレンジした崎谷健次郎など、鈴木人脈以外の違うラインからも投入していて、それらの曲が良い挿し色になっていて、マニアックなだけでない飽きない作りになっている。もちろん文句なく10点。


cover ◆ カコ  (94.02.18/第83位/0.4万枚)
1.THE END OF THE WORLD 2.UN BUCO NELLA SABBIA 3.THE LITTLE BIRD 4,WINCHESTER CATHEDRAL 5.BOTH SIDES NOW 6.ELECTRIC MOON 7.T'EN VA PAS
 洋楽カバー・ミニアルバム。アルバムタイトルは過去の作品を取りあげたということと、今回のジャケット写真に使用した写真家・植田正治(――インナーの原田の写真も彼の手によるもの)の作品タイトルが「カコ」というところから。オープニング「THE END OF THE WORLD」のロケット発射のSEと宇宙空間を浮遊するようなアナログ感溢れるピコビコサウンドに、サイバーパンク以前のSFや、科学が夢を見せることの可能だった時代がセピアになってふわりと甦る。 懐かしく穏やかでちょっとファニーな60年代のサウンドをそのまま再現するというよりも、30年間冷凍保存したものに思い出補正という名の改造を意図的に施したという感じ。ここにあるのは、あったような気がしたけど本当はなかった60年代サウンド。80年代後半、鈴木慶一が渡辺美奈代で試した世界を、マニアックにより先鋭化させたアルバムといっていいかも知れない。原田知世の、ちょっと突っぱねたような無国籍なボーカルとも相俟って、世にも不可思議な「どこにもないどこか」のアルバムに仕上がっている。 これを原田・鈴木ともに、遊び心で軽く作って感じがいい。オケ作りや歌入れを楽しがっている雰囲気がよく出ているのだ。原田知世と鈴木慶一の邂逅は双方にとっていい効果があったのではなかろうか。音楽を愛する年離れたふたりの男女の音楽によるヘンテコなレクリエーションのアルバム。8点。


cover ◆ egg shell  (95.01.20/ランクインせず)
1.Une belle histoire 2.月が横切る十三夜 3.月とボロ靴とわたし 4.記憶の翼 5.野営(1912からずっと) 6.Attends ou va-t'en 7.のっぽのジャスティス・ちびのギルティ 8.夜にはつぐみの口の中で 9.UMA 10.空から降ってきた卵色のバカンス 11.TEN VA PAS
 重い、暗い、濃い、けど、なんだか、変に明るい、抜けてる。捻りすぎて逆にブチっと千切れて吹っ切れちゃったみたいなノリ。こりゃ完全に鈴木慶一の世界だ。鈴木慶一と原田知世がおんなじ卵の殻の中に入ってぶつぶつやってる。ぐだぐだとまどろんだり、お互いを昆虫の眼差しでじっと見つめたり、時々殻をコンコン叩いて外の気配をうかがったり、いっそこの殻を壊してやると暴れたりもしてる、という引きこもりなプライベートアルバム。こんな濃密で閉鎖的で趣味に淫したアルバムを原田知世が作るとは。ムーンライダースのアルバムが大好きっていう人には、待ってました、そうでない人は、どうしたの知世ちゃん、というアルバムかと。ボーカルも言葉に思いを込めるような歌い方ははなから否定していて、ある面で言えばゴツグと一緒に歌謡ロックを歌っていた頃のように、楽器的にクールに歌っていて、聞き手をピリッと突っぱねている。このあたり、今作が暗くても湿っぽくは聞こえない要因だったりする。 寓話的な詞が印象的な「のっぽのジャスティス・ちびのギルティ」「夜にはつぐみの口の中で」「野営」あたりが今回のキモで、フレンチカバー3曲はどちらかと言うと箸休め的ポジションかと。この不可思議で居心地のいい世界は中毒になる。9点。


cover ◆ Clover  (96.05.17/第80位/0.7万枚)
1.Metro 2.1 or 8 3.20世紀の愛のようなはかないあの歌 4.Happier than Marmalade 5.100 Love-letters 6.世界で一番退屈な日 7.戸棚の虹 8.ブーメランのように 9.消せない大文字 I LOVE YOU 10.裸足のマリア
 鈴木さんと原田さん、顔を合わせて「うちら、ポップなこと全然やってないよね」。はたと気づいて、「んじゃ、次のアルバムはポップでキャッチーなことやりましょう」と決め、一方「そういえば最近、スウェディシュ・ポップ、気になるなぁ」と原田さん、トーレ・ヨハンソン宛に「いっしょにアルバム作りましょ」とお手紙とデモテープ届けたら、「いいよ」とトーレが快諾しちゃった、んなもんでスウェーデンのタンバリン・スタジオで作っちゃったよ、というスーパー・ラッキーな一枚。だからタイトルもクローバー。鈴木慶一・原田知世・トーレの三葉の重なり合いで、最高にラッキーでハッピーな世界が広がっている。彼女はこんなこともできるんだね。妙に弾けた彼女が可愛らしい。 前半と後半でほとんど使用前・使用後といった感じで雰囲気ががらりと変わるのだけども(――M-5までがタンバリンスタジオ録音で、以降が東京録音)、詞曲の統一感か、絶妙にいいコントラストになっている。スウェーデン路線のアルバムはこの作品が個人的にベスト。8点。


cover ◆ I could be free  (97.02.21/第10位/9.8万枚)
1.愛のロケット 2.I could be free 3.君は君のもの 4.雨音を聴きながら 5.ロマンス 6.LOVE 7.CIRCLE OF FRIENDS 8.Are you happy? 9.PARADE 10.ヴァカンス 11.NAVY BLUE 12.燃える太陽を抱いて 13.ラクに行こう
 前作から、更にスウェーデンへ。全作トーレ・ヨハンソンプロデュースで、全作詞が原田知世(――これは初のこと)。「ラクに行こう」なんてタイトルの曲があるところからわかるように、原田の詞は力がだるんだるんに抜けて、極めてシンプル、「作っている」感のあった透影月奈時代とは隔世の感。 原田のボーカルもあえてイメージをずらして荒々しく歌っているようなところもあり、またひとつ変化と進化がうかがえる。 ただ、個人的な意見で言えば、鈴木氏がいないとちょっと物足りないかなぁ。朴訥としすぎたスウェーデンの音が時折退屈に聞こえたりもして。とはいえ、これらの諸要素が見事時代性とシンクロして、久々にベストテンにランクインとなる。 牧歌的で日向くさいスウェディッシュ・ポップと永遠の少女・原田知世の完全コラボな一枚。7点。


cover ◆ Blue Orange  (98.08.21/第20位/4.3万枚)
1.自由のドア 2.青空と白い花 3.春のうた 4.TOMORROW 5.day by day 6.ひまわりの丘で 7.Blue Moon 8.Angel 9.七色の楽園 10.蜘蛛の糸 11.Dream is over now 12.恋をしよう
 まだまだスウェーデン。今回はトーレにプラス、ウルフ・トレッソンもプロデュースに参画している。今回も作詞は全て原田知世。というわけなのだが、ごめん。さすがに飽きてきた。 久々のヒットとなった前作に続いて、な、第二弾的アルバム、それ以上でもそれ以下でもないというか。特に今回はコレ、といった試みがほとんど見受けられない。前作が好きな人にとっては期待値はクリアしているのだろうけれどもね。 常に変化する歌手・原田知世にあって、こうした停滞・踏みとどまりは珍しい。意外だからよかった偶発性の原田+スウェディッシュ・ポップスの新鮮なる妙味も、ルーテインになるといささか退屈に聞こえる。6点。


cover ◆ a day of my life  (99.09.22/第34位/1.4万枚)
1.シンプルラヴ 2.君の住む星まで 3.Road and Blue Sky 4.a day of my life 5.LOVE*TEARS 6.花と人 7.秘密のキス 8.You can jump into the fire 9.ロマンス(ニュー・ヴァージョン) 10.SECRET ADMIRER 11.Take me to a place in the sun 12.you&me
 スウェーデンおさらいの回? 久々のセルフプロデュースで、全曲詞は原田知世。作曲も七曲が原田知世、五曲がウルフ・トレッソンという布陣。プライベートバンドのmashを従えて、ここしばらくのスウェーデン路線を自らの手で再構築してみた、といったアルバムか。とはいえ仕上がりは前作前々作と少々趣が違っている。 ユーミンや矢野顕子、大貫妙子などの70年代のシンガーソングライターのプライベートアルバムのような作品にも一瞬聞こえたりする。努力の跡は垣間見えるのだけれども(――ここまで自作曲できちんと聞けるアイドル出身アーティストっての自体、稀有だしね)、さすがに全部自分でやるとなるとちょっと小さくまとまりすぎてしまう感がある。どのあたりに魅力の力点を置くのか、という点でもちょっと取りとめがない。 いつまでもスウェーデン路線に固執するわけにもいかず、さりとてコレというものもまだ見えてこず、みたいな事情も透けて見える。彼女にしてはこれまでの作品のどのラインにも分類することの出来ない過渡期的な雰囲気を持った一枚。 やっぱり優秀なプロデューサーと共に一緒に作っていくのが彼女は一番だと思う。ベストは何故か唐突にディスコ調な「You can jump into the fire」。7点。


cover ◆ Summer breeze  (01.06.20/第40位/1.4万枚)
1.Say You Love Me 2.Sunny 3.Just When I Needed You Most 4.How Deep Is Your Love 5.If 6.Scarborough Fair 7.You've Got A Friend 8.That's The Easy Part
 ゴンチチ+羽毛田丈史+原田知世で、70年代のなつかし洋楽をオーガニックなサウンドでカバー。夏向けの爽やかな小品といった感じで、CD流したとたんに一気に湿度が下がったような錯覚を受ける。ボーカルの清涼感、円熟ゆえに深みのある説得力、それは感じるが、そこにもう一味欲しい。 イージーリスニング的にさらっと流れてそれっきりという危惧もある。同じカバーアルバムでも「カコ」と比べると「いい子」過ぎて、エグみというか、「これをやるんだ」というとんがったところが足りない。コレぐらい原田知世ができること、もうとっくにファンは知ってるからさ。「癒し系」なんて通俗的な形でくくられることは本人も望んでないでしょうに。 スウェディッシュ・ポップから離れたこの時期は、鈴木慶一と出会う以前のフォーライフ初期の作品群に近い印象を受ける。良い作品をリリースしてはいるのだが優等生過ぎて、歌手・原田知世の方向性がクリアに見えない。このアルバムの質感はあえて言うなら「Tears Of Joy」に近しいだろうか。夏向けで涼やかなブルーのイメージ。7点。


cover ◆ My Pieces  (02.11.21/第80位/0.9万枚)
1.Let's fly away 2.As I like 3.空と糸 -taking on air- 4.Tell me why 5.A Summer Story 6.Lullaby 7.砂の旅人 8.Ready to leave? 9.LOVE-HOLIC 10.Sigh of Snow 11.恋の法則 12.Angels song
 羽毛田丈史との共同プロデュース。前作が洋楽カバーだったので、今回はオリジナルによる擬似洋楽アルバム――といったことなのだろうか。70年代の女流シンガー・ソングライターのような味わい(――ジャニス・イアンやジョニ・ミッチェルのあたりね)に聞こえるのは鬼束ちひろのプロデューサーでもある羽毛田氏によるところが大きいのだろう。 アダルトチルドレン的な鬼束と違って、成熟した大人な自我の持ち主の原田知世はこの世界を自然に楽しみ、歌い、演じている。上手い歌手なのだなと感心することしきりで、心地よさと品の良さと彼女の音楽的素養の確かさが充分に感じ取れる、およそ欠点というもののない洗練されて上質なアルバムだ。しかし、鬼束の一点突破的情念の塊プロダクトと比べると安定しきっていて、いささか退屈にも聞こえるのも確かだ。 このままで充分成立しているのは百も承知で、もうひとつ、この世界に何かが欲しいと思ってしまうのはわがままだろうか。 ちなみに「LOVE-HOLIC」は、薬師丸ひろ子の2000年のシングルと同名だが異なる曲。ただの偶然だろうが、大貫妙子の「色彩都市」をともにカバーしたりと、薬師丸・知世、微妙に今でもリンクしています。8点。


cover ◆ music & me  (07.11.28/第27位)
1.Cruel Park 2.色彩都市 3.きみとぼく 4.Are You There ? 5.I Will 6.Wondefull Life 7.菩提樹の家 8.シンシア 9.Aie 10.ノスタルジア 11.くちなしの丘 12.時をかける少女
 五年ぶりのニューアルバム。デビュー25周年記念ということで満40歳の誕生日に発売された。オニキユウジ、キセル、鈴木慶一、高橋幸宏、大貫妙子ら、繋がりの深い大物アーティストがこぞって参加するメモリアルアルバムだが、25周年ノスタルジアというよりも今の彼女に比重が置かれた作りに仕上がっている。プロデュースは「MOOSE HILL」の伊藤ゴローが担当。結婚をはじめプライベートの変化もあってか、この五年の間に音楽性が随分変化している。レコード会社移籍を挟んだ87年の「Schmatz」から90年「Tears of Joy」の三年の断層と同等か、それ以上の変化といってもいいかもしれない。無彩で、どこか静かに自分と向き合っている感じがあるのだ。とはいえ、閉鎖的な息苦しさと言うのはない。余分なものを排した四畳半の茶室の心地良さといえばいいのか。枯淡の境地。「音楽と私」というタイトルも極めて自照的だ。 インナースリーブの、参加ミュージシャンたちとの化粧っ気の薄いTシャツ姿の写真が端的に表すように(――それにしても大貫妙子との2ショットはまるで姉妹のようで微笑ましい)、彼女は、緩やかに音楽に身を委ね、満ち足りている。 20年近くの、永らくの封印をついに解いた「時をかける少女」も、昔を追想するように歌ってとても自然だ。7点


cover ◆ floating pupa (pupa)  (08.07.02/第30位)
1.Jargon 〜What's pupa〜 2.At Dawn 3.Creaks 4.Anywhere 5.Tameiki 6.Unfixed Stars 7.Glass 8.How? 9.Laika 10.floating pupa 11.marimo 12.Sunny Day Blue 13.New Order 14.Home Of My Heart 15.Cicada
 幸宏さんが知世さんに「一緒に音楽やらない?」と提案したところ「幸宏さんとだったら、バンドやりたいな」と返事があったので、 「集合ーっ」と幸宏さん、馴染みのミュージシャンに招集号令かけて集まった高野寛、高田漣など計6名で「バンドやるよ」というファーストアルバム。なんでこうも原田知世って引きが強いんだ!?
 pupaは、いわゆる大人の放課後バンド。それぞれのポジションがわりと対等(――あくまで「わりと」ね、やっぱり華は原田知世にあるし、音楽隊長は高橋幸宏だな、と)であるのが、ポイント。原田知世はよくある紅一点バンドのようなお飾りポジションでなく、あくまで一ミュージシャンとして参加している。楽器も弾くし、バックコーラスもする。作詞・作曲もメンバーで分担している。 「浮いてる蛹」というタイトルの通り、サウンドは浮遊感のあるエレクトロニカ。打ち込んでいるのだけれども、音に意図的な隙間があり、冷徹でなくあくまでヒューマンタッチで、愛に溢れてブルーミンなのが、まさしく高橋幸宏の世界。とはいえオーバープロデュースではなく、幸宏さんの手のひらの上でみんなが好きなようにきゃっきゃと遊んでるといった佇まい。春の宵のようなスイートな一枚。8点


cover ◆ eyja  (09.10.21/第37位)
1.ハーモニー 2.Giving Tree 3.us 4.FINE 5.黒い犬 6.夢のゆりかご 7.予感 8.voice 9.ソバカス 10.Marmalade 11.青い鳥
 前回に引き続いて伊藤ゴロープロデュースで、今回はアイスランド録音。その他、参加アーティストは大貫妙子、細野晴臣、ムームとヴァルゲイル・シグルドソンはアイスランドのアーティスト。タイトルはアイスランド語で「島」の意味。荒涼とした原野と靄の向こうに天使の姿が見える。そんなアルバムといえばいいだろうか。 シンプルなのに暗示的なリリックとサウンドは前作から続いての路線のなのだけれども、より一層寂寞として、どこか宗教的な佇まいすら感じさせる。 動物的な欲だとか業だとか、また体臭だとか、そういったものをまったく感じさせない。まるで植物のよう。 原田はデビュー前、久保田早紀の大ファンだったというが(――歌番組で「ナルシス」なんて誰も知らない久保田のアルバムの曲を歌ったこともある)、ヨーロピアンな異国情緒の向こうに宗教的彼岸が漂うというあたり、久保田早紀(久米小百合)に、このアルバムはもしかしたら近いかもしれない。「異邦人」のようなキャッチの強い曲は一切ないけどもね。全体にただよう冷え冷えとして天上的な雰囲気を楽しむ作品。 ポップスという範囲でいえばギリギリの極北にある、欲望を漂白した原田知世の彼岸的境地。はたして彼女は解脱してしまったのか?  ちなみに今回のジャケットのアートディレクションとデザインは原田のダンナ、エドツワキが担当している。8点




 渡辺典子

 ホリプロ・スカウトキャラバンに出場するものの、最終審査で落選(――この時のグランプリは堀ちえみ)。続けて受けたカドカワの新人女優発掘オーデションで見事グランプリを獲得し、真田広之主演の映画「伊賀忍法帖」でデビューを飾った角川娘の次女、渡辺典子。
 角川映画では「晴れ、ときどき殺人」「いつか誰かが殺される」「結婚案内ミステリー」と赤川次郎原作のミステリー三部作で主演しつつ、一方で他の角川俳優の主演した「彼のオートバイ、彼女の島」「恋物語」「キャバレー」では脇にまわり、また何故か大映でなく東映が制作した赤いシリーズ「赤い秘密」や、スキャンダルによって降板となった高部知子の代わりに主演となった映画版の「積木くずし」(東宝)など、角川制作ではない作品にも積極的に出演。箱入り娘のお姫様な薬師丸・原田とまったく違う戦略がとられた。
 もちろん人気という面でふたりとあまりにも差がありすぎていたがゆえに、のことなのだろうが、こうした展開に思うところがあったのか、久々に内定していたカドカワ映画「恋人たちの時刻」の主演を蹴って、87年独立する。とはいえ、独立直後の仕事も斉藤由貴主演の映画「トットチャンネル」、菊池桃子主演のドラマ「恋はハイホー」と、結局、華のあるアイドル女優の隣に居る二番手ポジションで、独立以前とあまりかわらなかったのが、哀。
 カドカワ時代、確かに主演映画に大作が割り振られることもなかったし(――内定していた映画「里見八犬伝」主演の薬師丸との差し換え降板なんてのもあったしね)、それが盆・正月のメインの時期に公開されることもなかった。映画主題歌からはずれたはじめてのシングルで見ても、薬師丸がNTTのCFソング(「あなたを・もっと・しりたくて」)、原田知世が日本生命のCFソング(「どうしてますか」)、一方の渡辺典子がワコールのブラジャーのCFソング「ここちE」だっていうのだから、ある意味徹底しすぎている(――――とはいえワコールの「ここちE」自体は世界初の形状記憶型ブラジャーということで未曾有の大ヒット、ブラジャー界の歴史的革命商品になったんだけどもね)。
 彼女の場合は、もう少しカドカワに残ったほうが良かったんじゃないかなと、思ったりもする。少女らしい華やかさという点においては確かに薬師丸や原田に劣っていたのかもしれないが、そのぶんシックで落ちついた大人の魅力が彼女には漂っていた。それを活かせる映画を一本でもいいから撮って欲しかったと思うし、それがそろそろできるんじゃないかなという頃の独立に見えた。少なくとも「恋人たちの時刻」は撮っておいた方が良かったんじゃないかな、と。
 歌の展開は84年元旦発売の「花の色/少年ケニア」からで三人の中で最も遅い。そのせいかアルバムも作品数自体がぐっと少ないし、歌手としての活動も散漫で、正直いって語ることが難しい状態なんだけれども、イコール彼女の歌手としての魅力が乏しいという事にはならない、と思う。
 確かにコロンビア時代は声も固く艶にとぼしく、退屈な歌い方といえなくもないんだけれども(――あまり彼女と相性がいいとはいえない阿木燿子ー宇崎竜童コンビに楽曲を多く委ねたのいい展開じゃなかったよね)、86年にCBSソニーへ移籍してからは、自分の声をつかみ出し、楽曲も良いものが増えている。個人的ベストは彼女の最後のカドカワ関連になる劇場版アニメ「火の鳥 鳳凰編」の主題歌であった「火の鳥」。カドカワアニメの主題歌担当の感も強かった彼女だけれども、この系統の作品はいい味でているものが多いよね。
 ちなみに、特に大きな話題を振りまくことはないものの、現在も役者仕事は継続中。二時間ドラマや昼ドラやらでお姿を拝見することが出来ます。



cover ◆ あこがれ座  (84.12.01/第28位/2.2万枚)
1.愛すべきドラマ,夢多きページ  2.グラジュエーション  3.7月22日  4.想い出花火  5.唇詩人  6.あこがれ座  7.一人旅をしなさい  8.女優誕生  9.遅いクリスマス  10.心の愛(I JUST CALLED TO SAY I LOVE YOU)
 歌が硬い。緊張しているようにも、歌うことが面白くないようにもとれる歌い方。下手ではないんだけれども、キーの問題か、低音がちょっとこもっていて聞きにくい。作家陣は阿木―宇崎コンビに、大津あきら―鈴木キサブローコンビ、秋元康―松尾一彦コンビで各3曲。 渡辺典子には歌でも、マイナー・ドメステッイクな方向で、と差別化を狙ったのかもしれないけれども、それが悪い意味でひと昔前の歌謡曲っぽく聞こえてしまっている。 薬師丸や原田のように、坂本龍一やら、ユーミンやら、竹内まりややらを呼びつけろってわけでもないけれども、もうちょっと魅力がクリアに見えるような作品にして欲しかったな、と。 ラストのスティービーワンダーの「I just called to say I love you」のカバーとか、恥ずかしくっていたたまれなくなる。5点。


cover ◆ JEWELRY  (87.12.21/ランクインせず)
1.DISTANCE 2.風の密告 3.空色のピアス 4.Hide & Seek 〜今夜も眠れない〜 5.彼にくちづけ 6.仕返しロングシュート 7.レイン・パドゥドゥ 8.リタルダンド 9.FOREVER
 実に3年ぶりのアルバム。その間にレコード会社を変え、角川を辞めた彼女だけど、ようやくまともなアルバムを発表することができたという感じ。ボーカルも以前と比べてぐっと魅力が出てきたし、事実うまくなっている。高音部が美しく、少女らしい躍動感が声に出てきた。ちなみにほとんどの楽曲はタケカワユキヒデの手によるものでこれが結構な相性。「風の密告」のフォービートなんてなかなかだよ。元々歌は上手いのだから、きちんと似合った作品を与えれば輝くのです。7点。


cover ◆ サラダ記念日  (88.04.01/ランクインせず)
1.サラダ記念日 2.モーニングコール 3.夏の船 4.いつもアメリカン 5.待ち人ごっこ 6.八月の朝 7.風になる 8.元気でね 9.たそがれ横町 10.路地裏の猫
 こりゃ企画盤だよね。俵万智の短歌集「サラダ記念日」に無理やりメロディーつけて歌っちゃいましたというトンでもアルバム。サウンドプロデュースは溝口肇と三枝成章なので、音はオーガニックでクラシカルで結構いいのだが……、うーむ。 やっぱり短歌にポップス的なメロディーをつけるというのは難しいですよ。やるにしてももっと徹底的に素材の短歌を切り刻まないとしっくり馴染まないと思う。これでは中途半端な企画盤にしか見えませぬ。
それにしてこれが彼女のラストアルバムというところが彼女の薄倖さを表しているようでなんともいえませんね。評価不能だが、個人的に聞くかというと聞かないので5点。

改訂 2010.07.20
2004.10.02
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