y メイン・インデックス歌謡曲の砦>年間チャート回顧 ―1995― アルバム編


年間チャート回顧 ―1995― 

アルバム編
シングル編


【目次】

1. 90年代後半戦へ、様々な予兆
2. ドリカム、大きな転機の直前
3. ダンスミュージックをお茶の間へ提供したtrfのその後は……
4. 魔力の消えたユーミン
5. コンビニエンスな魅力をブランドとするビーイング
6. 90年代の「自分探し」ブームの起爆剤は桜井さん!?
7. マライアキャリーの魅力がいまいちわかりません by まこりん
8. ありがとう、米米クラブ
9. ヒムロック様、あなたはあまりにも遠い存在なのです
10. アイドルからガールズポップへ、森高千里
11. 草野マサムネはユーミン!? 谷山浩子!?
12. ブレイク理由すら不明な不思議な存在感、奥田民生
13. ジュディマリは放課後の部室を体現した
14. SMAPは90年代のど真ん中にいた唯一のアイドル
15. NOKKOの物語、感動のエンディング
16. 95年総括


■ 1995年 アルバムチャート

 売上(万枚) タイトル  アーティスト
1291.0DELICIOUSDreams come true
2236.7dAnce to positivetrf
3217.2THE DANCING SUN松任谷由実
4177.4forever youZARD
5161.8LA.LA.LA大黒摩季
6151.7Atomic HeartMR.CHILDREN
7150.5デイドリームマライア・キャリー
8144.0DECADE米米CLUB
9136.7SINGLES氷室京介
10132.3DO THE BEST森高千里
11130.4M Collection 風をさがしてる福山雅治
12118.4ハチミツスピッツ
13109.8メリー・クリスマスマライア・キャリー
14107.829奥田民生
1599.5スキャットマンズ・ワールドスキャットマン・ジョン
1696.4PIECE OF MY SOULWANDS
1795.4She loves you渡辺美里
1891.3hyper mix 4trf
1989.0GUITARHYTHM FOREVER Vol.1布袋寅泰
2087.8MAX洋楽・オムニバス


TSUKASA(以下 T):ということでアルバム編です。
まこりん(以下 M):はい。てゆーか、先生アルバム編入る前に一つカミングアウトしていいですか。
T:はいな、なんでしょうか。
M:あのですね、シングル編で、うちらの青春ど真ん中の時代のポップスで、同時代で味わったよ、みたいなこというとりましたが。
T:はい。
M:が、ですね。小生まこりん、ふと己の生き様を振り返りまして「あれ?もしかしてもうこの時代から俺ってナツメロ浸り?」ってことが発覚しました。
T:はははは。聴いてないじゃん。
M:ちょうど95年は沢田ジュリーと加藤おときさんに萌え萌えでした。
T:すごい高校生だなあ、それも。
M:かなり当時の売れ線から外れてました。
T:シングル編の導入が台無しなわけですが。
M:ははははははは。や、まぁ、同時代で味わったのは事実なんだけれどもね。時代の風を直球で受け止めていなかったなぁ、とシングル編語り終えてふと思い出した。
T:なんだよー、もう。ま、じゃあ、ありゃ嘘だったっつーことで。大どんでん返し、ということで。
M:や、嘘やないんだけれども、注釈ということで。そんなわたしの言い訳は終わりです。
T:じゃ、アルバム編行きますよっ。
M:本編入りましょー。


■ 90年代後半戦へ、様々な予兆

M:てわけで、ざっとチャート上位を見てどうですか。第一印象。
T:えー、とりあえず、シングルが売れている人はアルバムも売れているな、と。
M:そうね。
T:シングル編と重複が多いんですね、今までより逆に言うと、シングルが売れないとアルバムが売れなくなっていく。その傾向は、翌年以降さらに顕著になっていくんですが。
M:確かに大ブレイクにあたってアルバムから最初に火がつく、っていうそういうアーティストはこの頃からなくなっていくよね。シングルが売れてなんぼ、みたいなそんな感じになっていく。
T:うん。だんだんアルバムも、シングルやタイアップ曲を集めた半ベスト盤みたいになっていきますね。
M:あともうひとつ。印象論なんだけれども、この年のシングルは小室・小林両巨頭あり、ビーイングもドラマタイアップもあり、NM大御所の大ヒットもありって感じで、90年代の全てのヒットパターンが詰め込まれているって感じのチャートだったけれども。
T:そうね。
M:アルバム編はちょっと毛色違うかな、なんて思ったりする。
T:ほー、そうですか? 具体的にはどんな。
M:や、なんか「90年代前半組・おつかれ」って印象があるな、と。この年を境にチャート上位から勇退するアーティストが目立つな、と。
T:ああ、それは上のほうの面子見てるとそうかなあ。
M:で、下のほうにニューカマーがいるわけですよ。安室とかSMAPとかジュディマリとか。
T:あれだけ年間チャート上位に居座り続けたユーミンもオリジナルアルバムの年間ベスト10位以内はこの年が最後だったりするんだよね。
M:そうそう。82年からずーーっとベストテンに入っていたユーミンもこの年を最後にサヨナラですよ。
T:90年代前半のキングだったドリカムもここがピークだし。
M:あと米米とか森高とか美里とか。ビーイング両女帝のZARD・大黒も以降はちょっとおちついていくし。
T:そうね。90年代前半頑張った人達おつかれ、という。
M:だから、シングル編が90年代後半戦のスタートだとしたらアルバム編は前半戦のエンディングというかそんな印象があるな、と。
T:前半から後半への引継ぎ、みたいな感じもあるね。
M:この年はベストもちらほらと目立つしね。
T:そうそう。この年からじわじわベスト盤バブルの臭いがして、97年〜98年あたりは上のほうベスト盤ばっかり、みたいなことになっていく。
M:そうね。この年はその端緒っぽくもあったりする。
T:あと、シングルの売り上げがピークなのに比べるとアルバムは意外に落ち着いてるなという感じもあります。ってまあ、これでもミリオン14作なんだけども。
M:あ、そうね。やっぱりアルバムの動きの方がちょっと遅れるんだろーね。
T:ここでシングル売れ売れになって、で、シングルを聴くためのアルバム、というのが次の年からどかーんと来るって感じかな。
M:シングルとアルバムのセールスが完全に連動している90年代音楽チャートの法則から行くと、そういうことなんだろうね。
T:ということで。
M:総論はそんな感じで、以後はいつもの各論で。
T:1枚1枚語ってみましょうか。
M:はい。


■ 
ドリカム、大きな転機の直前 〜「DELICIOUS」〜

M:第一位はシングルでも触れたように。
T:ドリカムですね。
M:ドリンセスカムンセスです。
T:略す前を捏造しないように。
M:ははは。
T:実は前年の「MAGIC」に続き2年連続なんですが。
M:ま、ドリカムは「The Swinging Star」で300万枚突破してからセールスでは無敵状態で何だしても売れる時期って感じですよね。
T:そうねー。チャンピオンベルト巻いている状態だ。ただドリカムはアルバムの売れっぷりに比べるとシングルはわりと普通で100万行くか行かないかぐらいで。
M:そうね。
T:ってまあ、その感覚もかなり麻痺してるけども(笑)。アルバムにもシングル何曲も入ってるわけじゃないしそういう意味では90年代後半の売れるアルバム像とは違ってたわけですね。
M:このアルバムはシングルは「サンキュ」と「すき」が入ってただけだっけ?
T:そうね。「すき」もシングルとしては地味だし。
M:あ、でもまぁ「すき」はいい曲だと思うよ。
T:や、いい曲ですよ。
M:ドリカムファンは、こりゃベタはまりでしょ。シンプルなアレンジで直球で「すき」って。
T:すきー って切なく思いつめている私もすきーー、という。
M:こりゃファンはカラオケで歌うな、と。
T:「そうだ 私ずっと 泣きたかったんだ」でどかーん、ですよ。
M:まぁ「サンキュ.」も地味にいいシングルだし。
T:「サンキュ.」は年間チャートにも入ってるけども、「LOVE LOVE LOVE」よりこっちだろう、これは。
M:まーーでもタイアップの差が……。
T:ま、トヨエツには敵いませんが、アコースティックなアレンジで、爽やか切ないメロディで、乙女心くすぐる歌詞で、これはもう文句ないだろう。って、乙女だったのか俺って。
M:(笑)。吉田美和の詞は吉本ばななや俵万智なんかを想起させるものがあって。
T:「あなたにサラダ」とかいってるしな。
M:妙に少女のリアリティーがあるんだよね。一筆書きのようにさらっと少女の心理を描く。
T:ねぇ。実体験なのかわからんけども。
M:それが結構突飛だったりもするんだけれども、なんか妙にわかる、というか。
T:細かーい心理の描写が上手い。
M:そういう彼女の魅力が、よくでていると思う。「サンキュ」は。
T:で、アルバムとしては前作「MAGIC」からこう生音であたたかーい感じの音にしていて。
M:あーーそうね。ギターの音色が温くって、トラッドな感じ。
T:そそそ、トラッドな。で、「DELICIOUS」はその路線の完成形かな、と。これはサウンド的にもかなり完成度高いのでは、と。
M:イギリスの片田舎風というか、そんな感じですよね。
T:あ、そうですね。ぶっちゃけていうとそんな感じ。
M:で、小旅行でスペインに行くように、ちょっとラテンにも足を踏み入れたりなんかして、という。
T:ワールドミュージック的な要素もあり、と。ま、初期の打ち込みでソウルでファンクでっていうのは「Swinging Star」でひとつ完成かな、という感じだったので「MAGIC」とこれでそこから更に広がったかな、と思うんですが。
M:ただこの後、一気にあーらんびーに行くわけで、ドリンセスカムンセスは。
T:だからドリンセスカムンセスってなんだっつーの(笑)。や、まぁ、「DELICIOUSで思いのほかこの路線完結してしまったというか。完成形を作ってしまったというか。だからまぁ、こうなったら世界に行くしかないか、というのもわかる。
M:まーでも、この路線ってセールスは手堅いだろうけれども袋小路という感じがしないでもないし。才気煥発なアーティストならここで留まりはしないだろうな、という。
T:そうね。
M:これはここまででよかったんでないかな。
T:下手すると癒し系に堕してしまう路線ではあるしね。なんか聴き心地よくて、癒されるわーという世界に。
M:そうそ。今井美樹のようになられてはこまるわけですよ。
T:ははは。
M:「LOVE LOVE LOVE」の次のシングル「ROMANCE」からヒップホップとかそっち方向に早速転向していくわけだけれども、この「ROMANCE」もはじめて聴いた時、けっこう「ええっ?」と思いつつも「ありだよ、あり」、で、受け止めた当時のわたしだったのですが。
T:そうね。「DELICIOUS」の次としては正しい。コンテンポラリーな洋楽R&B方面に行ったわけですからね。ヒップホップも取り入れつつ、というただやっぱり早かったのかな、95年の時点では。
M:まぁ、セールス的には嘘のようにこっからがたがたになるわけですからね。マスに受け入れなかったってのは事実としてあるわけで。でもまぁ、おにいさんドリカムのクラブ系も嫌いじゃないですよ。
T:「the monster」なんかも今聴くと結構いいんですよこれが。
M:やっぱ単純に早かったってことなのかな。
T:90年代前半はわりかしカラオケでみんなこぞって歌うような、そういうのがドリカムに求められていたというか、作品もそっからはみ出てはいなかったというか。それこそ「未来予想図」とか「決戦は金曜日」とかみんな歌うわけですし。
M:まーーそれはそうだね。
T:ただ、ちょうどカラオケブームが爆発したこの頃にそこから次の段階に行ってしまったので、という。シングル見ても、ちょっとカラオケじゃないなって曲も切り出してくるので。
M:確かにカラオケ狙いではまったくないね。
T:「monster」あたりからはリズムフェチになっていったからね。だからまあ、90年代後半の作品がセールスに繋がらなかったのは納得でもあるし、そこで迎合しなかったから最近の復活もあったのかなあと思います。
M:それはあるね。能天気そうな顔をした二人だけれども。
T:中村さんはいつもニマニマ笑っていたけども。
M:美和もいつも小猿のようにはしゃぎまわっているだけにみえたけれども、その才能と自己プロデュース能力はただものでない、と。
T:実は筋通していたぞ、と。ともあれ、いいアルバムですこれは。


■ 
ダンスミュージックをお茶の間へ提供したtrfのその後は……  〜「dAnce to positive」〜

T:次はテツヤコムロレイブファクトリー「dAnce to positive」。
M:はははははは。
T:正式名称で呼んでいこう。
M:なんというか今真面目に語るのが一番恥ずかしいアーティストのひとつではありますね。
T:えーーーいいじゃんtrf。「♪ イエイイエイイエイイエイエイ」
M:「♪ うぉううぉううぉうお」
T:最高じゃないですか。
M:この間燃えないゴミの日にこのCD捨ててあるのを見たよ……。
T:はははははは。ブックオフの100円コーナーにもずらーーーーっと並んでいるよね。
M:切なくなるほどにだーーーーっと並んでいます。
T:236万枚売ったCDがいまやゴミか・・・せつねーー。
M:まーーーでも、今時trfのCDを大事に持っている人って逆にどういう人よ、というのはあるだろうし。
T:俺のことじゃないか、はははは。こういう人ですよ!
M:こういう人か、なるほど。っていうかですね。trfは玄人受けするマニアックさもないしアイドル受けする部分もないしってわけで、今一番大事にされない部類に行っている感じがする。
T:っていうかまあさ、この時代の何百万枚とか売れたCDってさ周りがみんな聴いてるらしい、テレビでも街でもよくかかってる、聴いてないとイケてないのかもしれん、みたいので勢いで買ってしまったりとかそういうのもあると思うんだ、やっぱり。
M:でないとここまで膨れ上がらないだろうし。
T:なんか、モノ自体はいいのかよくないのかわからんけども、みんな持ってるし、みたいな。だからまあ、そりゃ、5年も10年も経てばゴミになるのもまあ仕方ないかなというのはある。
M:ま、そういう浮き草なアルバムっていうの? この年のチャートにはそういうのがいっぱい上位にインしているわけだけれども。
T:はははは。ほんとだよ。
M:スキャットマン・ジョンとかさーー、もうどうするよ、と。
T:改めて見たら100円コーナーの常連チャートだよ。げんなりしてきた。
M:まーー売れないと100円にもならないからそれはそれで仕方ないんだろうけれどもさ。
T:まーそのー、この時代って、友達とか、誰の家のCD棚見てもとりあえずtrfとドリカムとB'zはあるぞ、みたいな。みんな同じCD持っているよ、みたいな状態もあったわけで。
M:確かにうちら世代の子は、なんかみんな持っていたね。
T:やっぱりね、CDを買うという行為自体がブームだったんだよ。だから、浮き草っぽいのが多くなってしまっているというのもまあ納得いくかなと。
M:そんな時代の象徴という感じはする、trfは。いまや、100円で手に入るアルバムの象徴。
T:って、作品の話全然してないが。
M:えーーっと楽曲の話で言うと「dAnce is my Life系」を。
T:はははは。それ語りますか。
M:あえて羞恥プレイとして聴いたりします。
T:怪曲やねえ。この時代の恥ずかしいところだけぐっと凝縮したという曲ですよね。
M:もう「ナウい」って感じ。
T:95年という時代の恥部を曲にしたと。
M:ある意味後世になってはじめて意味があるというかそういう曲です(笑)。
T:すごい曲ですよ、それも。ま、歌詞を羅列するのもなんなんで聴いてくれ(笑)。
M:って、いきなり斜めなところからこのアルバムを語っていますが、これは年頭三ヶ月連続リリース直後のアルバムで。
T:で、これはtrfでは小室先生がちゃんと作った最後の作品という感じですが。
M:そうね。そんな感じ。
T:この後globeとか始めちゃうんで。
M:trfでやりたいことはこのアルバムで全部やった、という。『WORLD GROOVE』でポップスとしてのtrfがはじまって、このアルバムでそれが終わったのかな、と。ダンスフロアとカラオケボックスをダイレクトにつないだtrfの役割はここで終わった、と。
T:てわけで結構力入ってて、良いアルバムだと思います。で、これは全体的にディスコっぽい感じなんですね。シンセ打ち込みバリバリだったのが生音っぽい感触で全体を作っていて、「OVERNIGHT SENSATION」の流れですね。
M:ここでディスコってのは原点回帰ってことなんでないかな? ラストで原点回帰、という。
T:そうだったのか。10年目にして今気づいた。
M:ダンスミュージックといえばその源泉はディスコでしょう、ってことで〆でディスコってみたのかな、と。
T:3部作シングルも全部わざわざ作り直してますからね。ちゃんとコンセプチュアルに作っている。あ、あとglobeでデビューする直前のマークパンサーが参加していたりする。
M:そういったところから見てもtrfって小室の興味の流れをダイレクトに受けていたよなぁ。
T:trfやり出したころって執拗に「レイヴ、レイヴ」って言ってたからね。レイヴってすごいんだよぉーー、ってね。
M:最初はなんか謎の実験集団っぽかったし。
T:まだTMやってるときは実験っぽかったんだよね。
M:何者? っていう。
T:最初ダンサー入れてなんか10人ぐらいいたからな。浮き草集団っぽかった。
M:てわけで結成時はわりとアングラっぽかったのが。
T:TM解散して小室がプロデューサーに転向してからは売れ売れ方面になって。
M:それがtrfだと『WORLD GROOVE』の頃で。以降はメジャー方向にどんどん突き進んで。
T:あれがまあ、ミリオンヒッターになったんだからそれはそれで凄いような気もする。
M:ただ、まあ、そうやってポップ一直線に行くとなると、「trfって初期のコンセプトが邪魔だな」なんて小室先生は思ったりもしたんじゃないかな――。
T:もうレイヴじゃねー、という。「r」いらね、と。
M:で、最終的には「t」もいらなくなるんだけれども(笑)。だからtrfはその後軽く放置に入って、安室とか華原とかKEIKOとか彼女らを引っ張り出してそっちに比重移すようになるんじゃないのかな、と、そんな風に私は解釈しとります。
T:まあ、ラップがやりたかったと思うんだ小室先生は。globeの初期コンセプトは2unlimitedだし、、安室でも「Chase the Chance」とか作っているし。ただtrfじゃラップできねーなと思ったんではと。
M:わたしは、もっと「歌謡」方向やりたくなったかな?小室さん、って思った。「アイドル」を作りたい、という。
T:そっちを安室と華原で補完したのかな。
M:だってYukiだと、アイドル性とかカリスマ性とか、そういうのはね――。
T:声も歌謡っぽい濡れた感じもないしね。ってアイドル性、なかったんすかね、YUKI。
M:え、あったの?
T:女子中学生が、YUKIに憧れて、みたいのは……。
M:なかったっしょーー、それは。だってなんか宝塚みたいな人だし。
T:ははははは。そうね。歌い方とかそうかも。衣装もなんか、「着られている」感があった。
M:まあ、ともあれ、ダンスミュージックをお茶の間へという小室の戦略をきちっと果たしたtrfのメンバーおつかれ、ということで。
T:はい。
M:みんなもゴミ箱に捨てる前にもう一度聴いてみようぜ、と。
T:ははははは。ほんとだよーー。10年も経つと一回りして意外といいもんだぜ、と。みなさん資源は大切にしましょう。


■ 
魔力の消えたユーミン 〜「THE DANCING SUN」〜

T:えー次はまた出ました。毎度お馴染みユーミソです。
M:またか。
T:ははは、「またか」って。
M:もう語るのもなんかアレだが。前年の二枚のミリオンシングル(「Hello,my friend」「春よ、来い」)に引っ張られて自己最高セールスを記録した、というそんなアルバムですね。
T:売りまくりのユーミンのアルバムの中でも最高セールスでございます。「天国のドア」を境に1回ややセールス漸減していたのがシングルヒットでまたここで炸裂したという感じですね。そういう意味ではパターンとしてはこれは90年代後半のパターン。
M:シングルで無理やり引っ張ったというユーミンらしくないヒットではありますね。
T:そうなんですよ、そこがね。ユーミンって、それまで全然シングルリリース自体少なくて、シングルの売り上げも大したことなくて、でもアルバムの売れ行きには関係ないって、そういう人だったんだけども、こっから普通にシングルヒットを見込んだタイアップつきシングルを切っていくんですよね。
M:そこでミリオンのドラマ主題歌シングルを二枚つっこんだアルバム、って完全に迎合しております。
T:あー、まあ、そうですね、迎合という言い方になってしまうね。
M:時代の牽引者が迎合してどうするよユーミン先生、ってあえて厳しく言うよ、わたしは。
T:ここで時代に追いつかれ、追い越されてしまったというそんな寂しさはありますね。そしてここでのスタンスっていうのが、その後のユーミンにも影響及ぼしてしまったかなあという感はとてもあります。
M:そうね。その後のユーミンは、もう、テレビも出るし、ベスト盤も出すし、今まで保っていたブランドを削り取るような作業が目立つようになってね――。
T:ね。90年代後半で孤高感が消えましたね。
M:そうそ。宇宙人と交信しているようにはもうみえません。
T:そこに丁度、このころボーカルもちょっと低めでドスの効いた感じになってきてしまって。
M:あーーーそうね。
T:普通に、40代の女の人だな、という。宇宙人みたいなイメージはなくなってしまった。
M:寂しい限りです。
T:まあ、このアルバム自体はユーミンお得意の詰め込みまくりな作りで好きは好きなんですけども最後のスパークというか。
M:最後の打ち上げ花火、という。
T:まこりんさんはあんまり?このアルバム。
M:うーーーん。正味な話あんまり好きじゃないかなぁ。
T:そうかー。
M:シングルと「砂の惑星」くらいしかインパクトがなかったというか。なんというかアレ風コレ風以上のものを感じなかった。いつものああいうのね、みたいな。
T:ああ、だからユーミンの手札をずらっと並べましたみたいな感じはするね。
M:そうなんだけれども、ユーミン独特の色彩感覚というか映像感覚っていうの? そういうのは感じなかったんだよね。
T:あーー。心情と景色を見事に盛り込んで、っていう。それはあるねー。ちょっと平坦よね、歌詞。
M:まあ、そのあたりはこのアルバムあたりから現在までわりとずっとそうなんだけれども。だからもう、それこそ映画のシーンを抜き取るような、ってのは、なくなっていって、「ユーミンポップス」というスタイルではあるけれどもそれ以上の何か、がないって感じ。
T:ぐわっと映像が立ち上ってくる立体感というのはちょっと欠けているかなと。
M:わたしはこのあたりからファン脱落ですから。TSUKASAさんがそこは萌えを語ってください。
T:えー、まあ、俺も次の「カトマンドゥ」あたりからはやっぱり思い入れないので、これはほんとに最後の花火かなと。
M:なんだよーーー。またそこで無駄に連帯してしまうわけ。
T:ははは。や、でもそういう人が多いからそれがセールスにも出てるんじゃないの。
M:そういうことなのかいな? わたしゃてっきり「まちぶせ」のPVがあんまりにも痛かったからだと。
T:ははは。あのセルフカバーはねぇ、何がしたいのかわかりませんでした、ユーミン様。
M:きっとアイドルしたかったんよ、ユーミン様も。
T:だからまあねえ、長いキャリアの中で一時期迷走したっていいんだけども、ユーミンも普通に迷走するんだなと、神通力が消えてしまったかなというのは寂しかったかなあ。
M:で、そこで「けっこうあがいているな――」っていうのがまるわかりなことをやってしまうユーミン様がね。「Cowgirl Dreamin'」とか、もうジャケットからあちゃーーーっていう感じだったし。
T:ちょっとねぇ、残念なことになっていたよね。だからまあ、ちょっとこう超越した存在のようだったユーミンが人間になってしまった、と。
M:地球に帰化した、と。
T:そんな95年。
M:この年からユーミンが失速する、というのもやっぱユーミンってのはある意味「戦後」の歌手なんだなぁ、って感じですね。
T:あー、そうね。
M:シングル編冒頭で行ったように、この年で日本の「戦後」の物語っていうか、日本の成長物語は終わった、ていう感じがするから。
T:ユーミンは景気が右肩上がっていく時代のポップスという。
M:富を幸福をどこまでも貪欲に追求することができると信じられた時代だからこそのユーミンだったのかな、と。
T:存在感としてはそんなところが大きいかなあ。って、終始ネガティヴなトーンでいいのかな。
M:や、もちろんユーミンにはもう一花咲かして欲しいっすよ。ただ「どうやって?」というのはあるな、と。
T:ユーミンにとっての「地上の星」みたいなの、ありえるだろうか?
M:え――、根っからのコンサバで中産階級であることを自負しているユーミン様に?
T:厳しいね(笑)。だからさ近田先生の名言だけども「ユーミンはユートピアの悲しみをみゆきはデストピアの希望を歌ってきた」とその通りだと思うんだ、それは。
M:そうね。
T:だからまあ、今の日本はユーミンにとってはもう逆風以外の何者でもないなと。
M:まーーー、デビューからこの年まで、これだけの絶対的なセールスってのは本人の努力もあるだろうけれども、やっぱり時代に引っ張られた部分は大きいわけだし、それこそユーミンは時代の巫女だった、と。そこで時代が変われば……ていう。それは仕方ないな。
T:まあでも、もうセールスとかどうでもいいから、でかいコンサートとかやらなくてもいいから、ヴィジュアライブとかやらんくていいから。
M:はははは。まぁ、ここぞ、という名曲をですね。
T:いい作品を書きたいように書いていてほしいなあと、もう時代がどうとかいいからさ。その中でこう、またどこかが時代の空気とシンクロしたりとかありえるからさ。
M:ユーミンはいまのところ熟年期の名曲がないのがね、ちょっと悲しいので、この年齢だからこそ、みたいな楽曲がほしいですね。わたしは。みゆきとか吉田美奈子とか大貫妙子とか谷山浩子とか、みんなガンバって、円熟期の佳曲を出しているのでユーミンも一シンガーソングライターとして50代の名曲を。と。
T:やっぱり日本の風景や季節というものを美しく描ける人なんだしさ、元来。
M:「春よ、こい」のような名唱歌をね。
T:そそそ、ああいう方面でまだいい曲書ける人だと思うんだ、やっぱ。恋愛とかテーマなのはもういいんでは、と個人的には思ったりします。
M:その路線でこれこそ、という決定打をですね。「Waver Of Love」みたいな二番煎じでもこの路線は許すから、と。
T:ははは、や、あれはまあアレなんですが。
M:ともあれ、和をもちっと追求しよう、と。
T:そうですねー、方向としては、そっちを期待しています。最近のでは「雪月花」とかいい曲だったと思いますし。
M:あ、そうね。ここは呉服屋の荒井さんの血を存分に活かして和モノ路線で。
T:やっぱり日本ならではの四季と風景を淡ーい心象に絡めて、というそんな方向で名曲をっ!期待していますユーミン様。


■ 
コンビニエンスな魅力をブランドとするビーイング 〜大黒摩季「LA.LA.LA.」、ZARD「forever you」〜

M:次はZARDと大黒摩季です。ビーイング両女帝が並んでますね。
T:ってちょっと曲目見るね(笑)。
M:っていうかですね。
T:ほいほい。
M:曲目うんぬん言いとりますが、このふたり果てして毎度毎度のアルバムでそんなにカラーが違うんか、という。
T:はははは。
M:たいてい前のアルバム以降のシングル全部入って、で、その隙間を埋めるようなインパクト薄めのアルバム曲が入って、っていうそういう作りじゃーーん。
T:いやーやっぱりビーイング系のアルバムって、きちっとした規格に毎度合わせて作ってある感じでそれこそ工房的というか。なわけでアルバムとしての色がどうとかは、ねぇ。
M:アルバム毎に語ることなんてできませんよ。だっていつも同じだもん。「毎度お馴染みZARDと大黒のアルバムです」以上、という。
T:いや、その発言をしないようにどう努力していこうか、という矢先に(笑)
M:ははははは。
T:同じですと言わないようにどう話題をもっていくか、というところだったのにぃ。
M:じゃ、そういう方向でもってって。
T:や、もう、時既に遅しなんで「同じです」と。
M:ビーイングはブレイクした当初のコンセプトをずーーーっと押し通すからね。絶対変えない。路線変更とか、基本的にしない。
T:で、そのアーティストのおいしいところはちゃんと出す、と。シングルヒットを入れて、で、そこから極端にイメージのずれないアルバム曲で埋めて、という。極めて安定しているが、破綻もないというそんな作りで。
M:これを人気が翳っても、押し通すっていうのは、凄いですよ。やっぱり。
T:まあ、凄いちゃあ凄いかも。
M:普通はさ、売上が下がったらそこで変なてこ入れして迷走したりするじゃん。そこでふんばるというのは物凄いですよ。
T:そういうの、ないね。
M:ブランド力に相当の自信がないとできない。それこそユーミンだってそこは揺らいじゃうのにビーイングはいつだって俺流で通す。
T:落合だ。J-POP界の落合。
M:それは褒め言葉なんか? 
T:いやー、なんとなく言ってみた。
M:まぁでも、このふたりは、そんなコンビニエンスな魅力しかなくってある意味爽快ではあるね。
T:ストライクな物言いだなあ。
M:「音楽でごちゃごちゃ抜かすのアホらしわ」っていう層は確実にいるわけだし、コンビニにはコンビニの良さがあるように、ジャンクフードにはジャンクフードの良さがあるように、こういう音楽にもこういう音楽なりの良さも、それを求める層もあって、音楽界には必要だな、と。
T:しかも、ビーイング系のファンの方の層って結構根強いからね。どうでもいい人にはどうでもいいかもしれないけど、掴むところは掴むという、そのブランド力はやっぱり認めざるを得ない。 ただ、やっぱりこう、ネットをざーっと巡ってても現在のGIZAレーベルなんかもファンの層って確実にあらせられまして、へーっ、こんながっちりとファン層が存在してるんだなあと、驚くほどでありまして。
M:ま、それはいますよ。ただ、ビーイングが狙っているターゲットってそこではないかな、と思ったりする。
T:そうなん。
M:それは筒美京平のファンがネットとかに多いのと同じ構図かな、と。筒美先生も絶対ああいうファンをターゲットに曲書いているわけでなく、もっと、一般大衆って言ったら悪いけれども。
T:あー、そうだよねえ。マスに向けて書いているよね、それは。
M:ボーーっとテレビとか見ている、コンビニ有線とかを聞いている人に向けて作っている、という。
T:この曲の元ネタは、とかそういう層へ目掛けて作ってはいないよね。
M:それと同じでないかな、と。ビーイングとファンの構図も。
T:GIZAもこう、GIZAのアーティストは全部把握している、とかそういう層ではなくて理念としてはもっと広いマスに向けてやっている、と。
M:それはあるでしょ。そういう部分が強いから逆説的に一部の熱狂的なファンを作り出しているのでは、と、そう分析しますです。
T:なるほど。ま、ビーイング系の熱狂的な人はほんとに熱狂的なんで。
M:だからツツミストもそれこそこんな楽曲までっていう、C級アイドルとかまでチェック入れるしさ。筒美だから、というそれだけの理由で。それと同じでしょ。
T:YMOとかもそうね。
M:YMOはサブカル方向が根っこにあるから、それはちょっと別かなぁ。それこそ熱狂的なファンに向けてサービスしまくっているわけだし、彼らは。
T:あ、そうね。ってまぁ、想定していたより尺が埋まったので、無事に(笑)。
M:次ですか。
T:はい。


■ 
90年代の「自分探し」ブームの起爆剤は桜井さん!? 〜Mr. Children『Atomic Heart』〜

T:『Atomic Heart』ね。
M:ミスチンだ。ミスターチン。
T:だからその、略称を変にして戻さないように。これは前年も176万枚売っていて。
M:前年もランクインしておりますね。
T:合わせて300万セールスです。
M:凄い売れ売れです。
T:まー、ミスチル人気は膨れ上がる一方だったし、この年はアルバム出さなかったのでね、「KIND OF LOVE」とか旧譜も売れまくっていたし、もう、人気爆発です、と。
M:このアルバムは 「Cross Road」「Innocent World」がはいっているわけで売れないわけがない、という。
T:ミスチルって、1枚目とか2枚目のアルバムはラヴソングが大半を占めていたのね。僕は君が好きで、君はなんとかこんとかで、という。
M:で、この辺から蒼―――い感じなわけですよね。「悩める俺」みたいな、「世相も皮肉っちゃうよ」みたいな。
T:そそそ。それが「Versus」でちょっと内面を歌った曲なんかも出てきて、で、この「Atomic Heart」では、純粋なラヴソングのほうが少なくなり、内面のモラトリアムな葛藤であるとか、社会への皮肉であったり、あと恋愛は遺伝子にプログラムされていることにすぎないのさ、みたいな歌まであったりして。
M:ははは。青いなー。マジ青いよ。
T:まあ、一度は通る道だよなっていう(笑)。高校大学あたりで一度はこういう気分になるよな、という。やっぱりこのアルバムにはこれがミスチルだよなあ、という要素が詰まっておりまして。
M:そりゃジャケット真っ青だよ、という。
T:ははははは。そうだな、象徴している。
M:「このアルバムは青いです」ってことでこのジャケットなんですよ、やはり。
T:そうだったのか(笑)
M:で、次の「深海」は鬱にはいったので、ジャケットは群青になるわけだ。暗い蒼になった、と。
T:まあ、そうね。ここで内面を歌い始めたのが、どん詰まりまで行ってしまったのが「深海」ですね。
M:さっそくどんづまりですよ。
T:よくも悪くもそんな「自分探し」な歌を青春の蹉跌や苦悩や葛藤を思いっきり眉間にしわ寄せて苦しげに歌い上げてくれた桜井さんなんですが。
M:でもまあこの頃って、ポップ感が結構勝っていたというか、ポップな音色で救われた部分が多いっていうか。
T:ポップスとして優れていて、しかも歌詞は内面を歌っているというラヴソングじゃない歌を歌っていると。このミスチルの歌詞の路線は、そのまま90年代後半のポップスの路線になったなあと思います。
M:あーー。ジャンル問わずに自我をたれ流すように自分語りしまくる歌詞って確かに90年代後半から目立つようになったけれども、その源が桜井さんにある、とそういいたいわけですか。
T:こういうのって、それまでは、やろうと思ったら、やっぱりフォークとかロックとかになっていたと思うんですよ。
M:さだまさしとか、長淵剛とかそこですね。
T:そっち系に行きますよね、フォークロックな感じに。もちろんミスチルもその流れ汲んでいるけどももうちょっとポップ感が強い。
M:そこはやっぱり小林武史先生の力が大きいのかも。
T:そうね。アレンジの力は大きい、この時期の曲は。で、ここから90年代後半はもう、小室みたいなダンスポップでもSPEEDなんかでも、「自分に負けない」とか、「明日を信じて」とかですね。
M:ねーー。ジャリのお前が言うなと。
T:ははは。だから、もう日本のポップスはみんな自分探しになっていくわけで。
M:なるほどね。あの手の詞の路線のはじまりはここにあったのか。
T:だから、ミスチルのブレイクと、「エヴァ」っていうのは象徴しているなあと思う次第なのですが(笑)。
M:「悩んでいる俺」路線ね。
T:でもそんな俺が好きだ、みたいな、そんな路線ですよ。
M:や。なんか、エヴァとミスチル好きな友達いたなぁ、とか、余計なこと思い出しました。
T:はははは。
M:そこは繋がっていたのか、意外な展開だ。
T:や、俺の中ではもう自分探しブームの端緒ということになっている。だからまあね、「Tomorrow never knows」なんかもうそれが凝縮されているかなと。 自分や友人や世界の存在について愛の意味について悩みまくっているぜ、と。でも明日へ向けて歩いていくぜ、と。
M:なんかこう、先ほどから聞いているとTSUKASAさんのミスチルへの愛に汚れたものをわたしは感じ取ってしまうのですが。
T:ははははは。えーーーいやーーー、そんなことないですよぉぉ。ただその、同属嫌悪みたいな気分は含まれている可能性はあります。
M:まーでも、桜井さん、ここから10年ずっと悩んでいるのだから凄いですよね。
T:うーん、だからね、そろそろその先に行って欲しいなというのはあるわけですよ。最近ミスチルに対して棘があるのは、そういうところだったりして。こういうのはやっぱり生きてる限り答えがないわけだからさ、そこにずっと留まってるわけにはいかないと思うんですよ。
M:まぁでもそれは芸風ってことでいいんではと外部のわたしは思ったりするが。
T:って芸風ってのも冷たい言い方だなあ〜。
M:「悩み芸」ってことで、ひとつ。
T:そこまでは言えません、私はっ。高校の頃「ALIVE」聴いて泣いていた私ですからっ。
M:ピ、ピュアだわっっ。
T:だからね、このアルバムはそういう内面歌っていても、桜井の思想とかそれ以前にポップスとして優れているわけで。
M:そこも支持された大きな理由の一つだしね。
T:だからやっぱり傑作だよなーと思うんですけど、次の「深海」はやっぱりそういう良さはないからさ。 あのアルバムも評価は高いんですが、そういう意味で自分はあんまり好きでなかったりする。それにやっぱりどん詰まりで未来がないし、あれは。まあ、どん詰まりってことでは、時代にシンクロしているなあとは思いますが。
M:まぁーーーでも、そんなどんづまりで悩みっぱなしの桜井さんを皆さん支持しているから今でも売れまくっているわけだし。
T:ま、それは悩める若者というのはいなくならないし、大人になっても悩みはあるわけですから。
M:ここはTSUKASAさんが一人だけ卒業してしまったというそういうことなのでは?
T:や、卒業はできてないですけどね、未だに。ただ、そこに留まっているわけにはいかないんだ、という思いはやっぱりありますよね。
M:でも桜井さんはそんな歌も歌っているじゃん。「もう留まるわけにはいかないんだ」的な。
T:や、でも結局戻ってくるからさ。
M:ははははは。そうねーー、確かにまた云っているよ、という。
T:メリーゴーランドのように回っているから、そこは。
M:やっぱりここは桜井さんは尾崎豊の箱に入ってしまったと、そう見るべきでは。
T:えーー。悩める若者の代弁者、みたいなん?
M:そうそう。センシティブに悩める20代の象徴みたいな。
T:それが嫌だからいろいろ言ってしまうんだけどねぇ。そこがやっぱり愛憎うずまく感じですか、ミスチル(笑)。なんかこの辺でこの話を切り上げたくなってきた俺がいる(笑)
M:TSUKASAさんがミスチルに対して複雑な感情を持っているということはわかりましたので次に行きましょー―。これ以上掘り下げるとTSUKASAさんが桜井さんに対していってはいけないことを云いそうな気がする。
T:はははは。非常にこう、危機センサーがピーピー鳴りだしたので自己保身優先で。
M:はははは。
T:まあ、その、フラれたときに「Over」聴いていたなあとか、そんなベタな思い出もありつつこれは青春の一枚です、やはり。墓に入れて欲しい一枚かもしれない。
M:わかった。じゃ、入れとくよ。
T:ということで、次。


■ 
マライアキャリーの魅力がいまいちわかりません by まこりん 〜「デイドリーム」〜

T:次は「デイドリーム」。マライアかー。
M:あーーー、どうでもいいっぽ。
T:っていうかさー、ソニーの力だろう。社長の力だろう。
M:ははははは。そそそそんな、って、そうなんですか? 裏でどんな力が働いていたかまこりんにはわかりません。
T:ま、日本でここまで売れるっていうのはやっぱり凄いよ。洋楽としては規格外だよ。
M:てゆーかですね、いきなり直球で申し訳ないんですがマライアの魅力って、何?
T:えっ。
M:パパ、そのへん、まったくわからんですわ。
T:いや、それはもう魅惑の7オクターブとか、そういうの。
M:そういうのって? そこをもちっと訊きたい。
T:歌が上手いってことじゃ、ダメ?
M:そんなに上手いの?
T:えーー、あの、曲調によって向き不向きが激しいなというのはあるがバラードとかはもう歌が上手いって、いいことねぇ、と思いますがそこに異論を唱えたい、と。
M:や、上手いってのはまぁ、確かにそうだけれども、ただ上手いだけで売れるならなんで八神純子とか岩崎宏美とかああいうラインが日本では消えていったわけ?
T:まあ、音楽的にはブレイクした「Vision of Love」にしろ、日本で売れた「Hero」にしろもう極めてオーソドックスであの時代ですら古い、というような曲で。
M:そうね。カギカッコつきの「アメリカンポップス」って感じ。ベタな感じ。
T:だから歌唱力以外に要素を見出すのが難しいんですけど。
M:で、本人のキャラのああでしょう。特にこれといって、という。
T:だから、やっぱソニーですよ。
M:結局それなのかね。だからマライアが悪いとは云わないけれどもそこまで売れる理由っってのがいまいちわからんのよ、わたしには。
T:日本でってこと? 向こうでも謎っていう?
M:向こうの事情ははわからんからなんともいえんが日本ではってのはあるね。
T:まあでもさ。こうピアノとリズムだけで、あと切ないメロと、声量でどかーんというバラードって日本人結構好きじゃん。
M:まーーーそうねーー。
T:ホイットニーとか、セリーヌとか。ダイアナロスの「If We Hold On Together」とか。あれはまあ声量タイプじゃないけど。
M:ただマライアの場合、このアルバムだけでなくコンスタントに今でも売れているわけじゃん。一発ならまだしもブランドになるのか?という。
T:まあねぇ。本国では一時期やばいことになっていたが。
M:あ、そうなんだ。
T:本国では9.11の年に主演映画作って、それがコケてですね、そっから今年のアルバムがヒットするまでしばらく「終わった人」ということになっていた。
M:その辺やっぱり本国ではシビアだったのですね。
T:だから今年の復活は驚きだったんですけど、まあそれはいいとして。まあ、ほらさっきも言ったけど、CD買う行為がもうイケてた時代でしょ。
M:またそれかよーーーーー。
T:で、まあ、洋楽も棚にあったらかっこいいぞ、と。そこで、マライア、と。っていうんじゃダメ?
M:年間ランキング上位に入る洋楽ってさ、ほんと限られていて、それこそ象徴的なものしかランクインしないわけで、だから洋楽モノでもある程度は納得いくものが多いんだけれども。
T:えーー。マライアは何を象徴しているのかって?
M:そうそう。
T:うーん。わかった。世はカラオケブーム、みんな高音を出すことに命をかけていた時代、ということで高音の象徴です。
M:もーーーー、またそれかよーーー。
T:なんだよーーー。
M:意地でもそっちもっていくな。
T:ほかに考えられねーよーー。
M:ははは。切れた。「切れたんじゃないんですか?」
T:ソニーという退路を断ったらもう無理矢理なこじつけしか出てきませんっっ。
M:はい、わかりました。「切れてないですよ。俺を切れさせたら凄いもんですよ」ってレスも返ってこなかったので。
T:あーーーっ。それ編集で入れといてくれーーーー。おいしいレス逃したーーー。
M:なんだそれーーー。
T:と、いうことで。
M:って、どういうことなんだ。
T:とにかく(笑)、次です。


■ 
ありがとう、米米クラブ 〜「DECADE」〜

T:「DECADE」。米米のベスト盤ですね。えー、91年にも「K2C」というベスト盤チックなものを出してるんですが。
M:はい。以前話しましたね。
T:あれはセルフカバーであり、未発表曲もふんだんに収録していたりと半オリジナルアルバムという趣だったので本格的なベストはこれが初かな。選曲もヒットシングルやアルバムの人気曲から順当に選びましたという感じで。
M:ベストらしいベスト盤だね。米米のヒットシングル全部入っていますよ、という感じ。
T:そうね。ただこの時期米米は、もうシングルもアルバムもセールス落としているんですよね。
M:そうねーーー。
T:92年の「君がいるだけで」をピークに。
M:それこそダダすべりの右肩下がりで、もう解散へまっしぐら、という。
T:それでもベストがこれだけ売れたっていうのはちょっと意外だったかな。まあ、「君がいるだけで」「浪漫飛行」「Shake Hip」が聴きたい人が多かったのかな。
M:最後の打ち上げ花火というか閉店セールというか、そういうのでおさえとこうかなというのはあったのかな。
T:あー、そういえば、この年はオリジナルメンバーが2人脱退したんだった。
M:あ、そうなん。っていうか、気づかないよ。んなこといわれてても。
T:はははは。や、外部の人はそうかもしれんが。
M:だってもう、石井と被り物担当の太った人がいたら、米米だし。
T:ファンとしてはもう、ジョプリン得能さんとRYO-Jが抜けるというのは大ショックですよ。やっぱりさ、このバンドはファミリー的なムードってあったわけだから、ライヴでも演劇じみたことやったりですね、なんか面白いことしようぜ、ってサークルの延長で来てたバンドですから。 だからまさに、このベストは総決算という感じはあります。解散はもうちょい後ですけど、もうこの時点でかなりバンドとしては、揺らいでいましたからね。
M:まぁこのアルバムから解散まではおまけという感じで、
T:そうね。
M:もう実質この10年で米米としてやることはやっていたな、と。
T:ナンセンスなことを金かけてやるライヴも定着してしまったし、ポップスとしてもレコ大受賞で極みまでいってしまったし、もうやることはない、というところまでは行ってしまったからね。
M:ま、ともあれ、米米をふりかえるにはこのアルバムから入るのが一番いいかな、というそんなアルバムなので。
T:そうですね。これはかなり粗のない、いい選曲ですし。入ってないのはライヴでやってたほんとにナンセンスなおバカ曲だけかな、という感じなんですけど、それは91年の「米米クラブ」で。
M:前回取り上げたやつので。
T:嫌というほど堪能できるので。
M:ちょっと試しに聴いてみるのはどうでしょう、と。
T:、この2枚で米米を再評価してみてくれ、ということで。
M:次。


■ 
ヒムロック様、あなたはあまりにも遠い存在なのです 〜氷室京介「SINGLES」〜

T:ヒムロック!これもベストだ。
M:うおーーー。これまたどうするよおい。
T:ふははは。どうもこうも「ライヴハウス武道館へようこそーーー!」と叫ぶしか。「夢みてる奴らに送るぜ!」と。
M:や、なんつーかなーーー。氷室・布袋・吉川の三人並べると氷室は一番つっこんじゃいけない空気があるからさーー。
T:はははは。それはあるなー。
M:どう語ろうか、と。ファンの方はどこまで許してくれるだろうか、と。
T:そうなんすよね、っていうか、すまん、おれヒムロック実はあまり思いいれないんす。
M:そんな、それを先に言う?
T:はははは。
M:てゆーーか、右に同じだ。
T:はははは どうするんだ。この2人でこの対談は成立しているのか。
M:まあ、でもなんていうのかな、氷室先生にはそんな笑っちゃいけない感が漂っていまして。
T:正座してなきゃいけない感はあるよね。ヒムロックが歌ってる間は。
M:それが私たちをして氷室にいまいちはまれない理由でもあるし、氷室があの三人の中で唯一ミリオンセールスを残した理由なのでは、と。
T:って、それは俺らの楽しみ方は一般とずれていると、そういうことなんですか。
M:え、今更それを確認しあわなければならないの?
T:「カリカリカリーパーーン」で大喜びしているのは少数派だと。
M:ま「ファンとして」なら少数派でしょ。
T:がーん。魅力はそんなところではない、と。
M:まぁわりとファンの人は本気でカッコいいと思っているんじゃないかなぁ。
T:本気でって(笑)
M:そこに笑いの入る余地はないぞ、という意味の「本気」っていうか。
T:そりゃ、熱心なファンの方々を前にしたら怒られるだろうなとは自覚していますが。
M:でもどうだろ、吉川とか布袋のファンはそこで乗ってくれるような気が俺はする。
T:そうね。
M:「なんだよアレー―」といいつつ一緒に楽しめそうな。
T:翻ってヒムロック様はねーー。
M:例えば「ヴァージン・ビート」のプロモとか、「なにあれ」といえない感じが……。
T:はははは。ものすごい高いですよね。
M:どれだけ高いところに登ればいいんだっていうね。
T:どこで歌ってんだという。
M:ね。それは云わざるを得ないわけじゃん、うちらとしては。
T:っていうか、どう見てもツッコミ待ちに見えてしまうんですが。だからツッコムわけですが。
M:やでも。
T:突っ込んだら怒られそうだよね。
M:そうなんだよ。
T:っていうか、ヒムロック様の魅力って、生き様とか、美学とかそういうものなんだろうか。
M:そのへんどう思います?
T:や、音楽的にはわりと特定のスタイルを貫いてずっとやっているわけだし、それこそ最近の曲聴いたって「KISS ME」とか、ああいう感じだし。だからやっぱりそこは、生き様とか佇まいに心酔していらっしゃるのかな、という気がするんですよ。
M:まー、そういったのはあるのだろうけれども、なんだろ、こう、やっぱり布袋や吉川と比べると破壊力に欠けるというか、ってそこで破壊する必要はないか。
T:はははは。その2人は破壊しすぎという気もするが。でもさーー、本質的にはさー、スピニッヂパワーの人ですよぉ。
M:ヒムロックが?
T:そう。「ポパイ・ザ・セーラーマン」歌ってたグループ。
M:あ、そこにいたんだ?
T:そうよーー。本名で活動していた。
M:へーへーへーへーへーへー。へーボタン押してみた。
T:6へー貰った。
M:ちゃんとビーイングっ子なんだね。デビューの履歴は。
T:そうよ、ビーイング出だよー。んで、BOOWYの真ん中のOの斜線をさして、「おしゃれっぽい感じがするでしょ」とか発言してしまう人ですよー。
M:おしゃれですかぁ。
T:だからやっぱり、布袋吉川に劣らぬですね面白さは内包しているはずなんですよぉー。
M:はい。
T:ただ、それが全然作品には出てこないという。
M:その辺がにじみ出てこないのが惜しいですね。遺憾であります。
T:ま、ていうか、あの歌ってるときのおなじみのポージングとかですね、わりと滲み出てる気がするんですけど。
M:なんなんだろーーね。おんなじようなポーズを吉川もよくするけれども。
T:ね。するよね。
M:そこはばっちりつっこめるのに。
T:でも、ヒムロックの場合ツッコめない感じですね、やっぱり。
M:その差はなんなんだ。
T:うーん。謎ですね、そこは。「KISS ME」のPVとかもあのヒムロックの微妙な揺れとか。
M:はははは。ゆれてるね。
T:びみょーーーーな揺れなんだよね(笑)。中学の頃、モノマネの対象になっていたのだが。
M:でも、なんかなあ、微妙なんだよ。もっとシグナル送ってくれよ、と。「笑ってもいい」と。
T:なんでヒムロック様がそれを送らなきゃならんのだ(笑)。
M:た、確かに。
T:ま、でも絶対自ら内包しているとは思うんだ、これは。
M:もーーー、さっきから音楽の話もまったくせず、ひどいことばっか云っているな。
T:ふはははは。だからこう、愛したいけど、近寄れないみたいな、遠くから見ていることしか出来ない切なさ、そんなものを感じます、ヒムロック様。
M:氷室先生、愛しにくいよ、と。
T:はい。私は貴方のそばにいちゃいけないのね、と。
M:そんな氷室先生のお話でした。
T:あ、あと音源の話としては、最近2枚組でもっとちゃんとしたベストが出たのでこのアルバムはお役御免かなと。2枚組のやつでヒムロックの美学を味わえ、と。ものすごい高いところで歌っているPVを見ろ、と。
M:って、さして味わってない二人が言うとります。
T:ははははは。ほんと、お前が言うなって感じだよ(笑)。


■ 
アイドルからガールズポップへ、森高千里 〜「DO THE BEST」〜

T:10位ですね。森高さんのこれもベストだ。
M:森高だ―――。
T:やっぱベスト盤バブルきてるなー。
M:やっとアイドルだよ――。お父さん、やっとだよ――。
T:まこりんさんがやっと活き活きしてきました(笑)。今まで死んだ魚の目をしていたのが、キラキラしてきました。
M:つーかまあ、でもこの時期の森高は、わりとどうでもいいんですが。と、いきなりぶっちゃける。
T:この時期はあがっちゃったよね。
M:だからまぁ「あがっちゃった記念ベスト」みたいなそんな感じ。
T:ははは。まあね。でもこのベストも選曲としては「わたしがオバサンになっても」以降という感じでほぼあがった以降の選曲、という感じも。
M:ははは。そういうかい。ま、でもセールスはシングルもアルバムも「わたしがオバサンになっても」以降から伸びているわけだし。
T:セールス的にはそうね。初の1位はなんだっけ?
M:「風に吹かれて」
T:だからこの時期のセールスはわりともうアイドルというよりガールポップ枠だったような気がしますが。
M:そうね。完全そっちでした。
T:ガールポップ専門雑誌というのも93年あたりにいくつか出ててさー。
M:あったねーーー。
T:今じゃなんだったんだあれはという感じですが、この時期、森高さんはそこの常連という感じだったものね。
M:このベストに関しては本人のあごの病気で契約上出さざるを得なくて出したのかなという感じですが。
T:顎関節症になったのってこの年?
M:たしかこの前後だと。この年は毎年全国津々浦々回っていたライブツアーも、オリジナルアルバムのリリースも両方なかった。
T:そうか 結果的に一区切りみたいなことになったわけね。
M:ともあれ森高さんは色んな意味で90年代を象徴しているかなという、そういう感じがありますが。
T:あー、そうね。
M:アイドル→ガールズポップって歴史の流れを体現している人でもあるし。
T:そうですね、時期的にもちょうどドンピシャだった。アイドル時代から歌詞書いていたからすんなり移行できたというのもあるね。
M:この年の「小室・打ち込みvs小林・生音」の構図を一人で体現している人でもあるかな、と、そうおもったりもするのね。
T:そこはちょっと説明ないとわからない。
M:アイドル期からしばらくずっと完全打ち込みメインだったのが『ペパーランド』で完全生音に急転直下で移行したじゃん。
T:ああ。そうね。
M:その辺の遷移も90年代的かな、と。
T:なるほど。『ペパーランド』って92年か。
M:そうね。この転向も今振り返ると時期的にいって絶妙だよね。
T:「ROCK ALIVE」→「ペパーランド」という流れも非常に的を得ているな、という感じはします。
M:ま、だから、生き残る人には理由があるな、と。戦略上手だな、と。
T:アイドル冬の時代に知能犯的に頭角を顕してきた人だけに。
M:作品としても『ペパーランド』は田舎の高校の学園祭バンドみたいな間抜けな音が愛らしくって素敵だな、と。
T:ははは。
M:や、なかなかないよ、アレを商業でやろうってのは。
T:そういう意味で、キョンキョンと森高って重なるところってあります?
M:うーーん。どうだろ。
T:森高もアイドルを破壊するアイドルって感じで出てきてで、自分で演奏したりとか、そんな学園祭バンドみたいなアルバムとか、で、このあとは細野さんとアルバム作ったりとかしてしまうわけじゃないですか。
M:そうですね。セルフプロデュース型でJ-POPへの橋渡し的な役割を果たしたとかそういうのはあるよね。
T:だから、森高にもうちょっと自己顕示欲というか自我があったらキョンキョンになっていたかも、という気もしないでもない。
M:ただKYON2と比べると、森高は存在に芸能界の匂いがないというか、本質的には地味というか、あんまり余計なことは本人は望んでいないというか、「あくまで歌手」というかそんな感じで。
T:そうね。そこはキョンキョンと全然違うね。
M:KYON2は祭り上げられることに躊躇いがない。むしろ自分でのってっちゃうみたいなそういうところがあったから。
T:御輿にかつがれるのがまんざらでない、という。森高さんは辞退しそうだもんね、そこは。
M:だから森高は『ペパーランド』以降はフツーーのガールズポッパーというかなんの変哲もないところに落ち着いてしまったというところがあって、ゆえに結婚を期に歌手休業、という凡庸な幸せに落ち着いていったのかな、と。なわけで、「ペパーランド」と「古今東西」聴いとけば森高はそれでいいんでないかな、と。
T:えーー「非実力派宣言」はーー。
M:あー。それも捨てがたい。
T:ともあれベスト聴くならこれより「ザ・森高」を先に聴いてほしい、というのはある。
M:あ、そうね。むしろこれは聴かなくていいから、と。
T:はははは。どういう対談だ。「ザ・森高」とこれは別物という感じで、「アイドル期森高」「ガールポップ期森高」ということで。
M:やっぱねー「渡良瀬橋」とかね、こういうラインは、私的にはいただけないわけで。松浦のカバーも納得いかないわけで。
T:あややもダメっすか。
M:いやーー。なんか、こうね、そんな人気が翳ったから生音で等身大の青春路線なんて、森高路線を狙いすぎてダメだろう、と。
T:そんなもん歌わせんなよ、って感じよね。いい子ちゃんになってどうする、と。
M:「青春宣誓」なんて言われてもだめよ、森高にゃなれないよ、と。
T:「めっちゃホリデー」で行けよと。
M:やっぱ森高は「ストレス」とか「17歳」を嫌そうな顔して歌っていたからよかったわけで。
T:はははは。
M:対してまつーらはそれを嬉々としてそれをやっちゃうわけで、素質が違うぞ、と。
T:嫌そうだったか、あれは。
M:え、でもアイドル期の森高ってなんか顔に険がなかった?
T:や、あった(笑)。イラッとしてた(笑)
M:なんでいつもそんな怒っているの? と訊きたくなるような顔だったじゃん。それで「のぞかないで」とか作っちゃうわけですよ。
T:あー 名曲ですねえ。すごい破壊力ですよ。
M:アレってパンチラ狙いのテレビカメラにイラっとして作った詞なんでしょ。
T:そうなんだ、テレビカメラなんだ。ファンとかかと思った。でもそんな詞を本人が歌ってるっていうのがね、また。しかも、それを歌っているときのテレビカメラも下半身映してるわけで。
M:そうね。もう矛盾だらけですよ。「こんな言いたいこともいえない世の中じゃポイズン」ですよ。
T:まあ、そんなカオスな魅力のあったアイドル期の森高も要チェックですよ。ま、バラードは「雨」1曲あればいいよという。
M:はははは。まぁそんなこんなで、「森高お疲れ」っていうそんなベスト盤でした。
T:そういうの多いなあ、この年。ユーミンも米米もおつかれアルバムだし。
M:だからそれは冒頭で言ったじゃん。
T:ね。ほんとそんな感じで。
M:氷室もこのあたりで売上落ちるしね――。
T:あ、そうだよね。まー、いつもよりネガティヴなトーンになった気がするベスト10でした。


■ 
草野マサムネはユーミン!? 谷山浩子!?  〜スピッツ「ハチミツ」〜

M:後は下位が待っていますがまず何からやっつけます?
T:えーシングルであまり触れてないのでスピッツは取り上げてあげなければならないでしょう、この年は。
M:あー、また俺の語りにくいものを……。
T:って「また」ってなんだい。まぁこれはもう、ご祝儀というか。祝ヒット!ですよ。6枚目よ、このアルバム。土に眠る蝉のようにからっきし売れない時期を5枚すごしてようやく、という。てわけで、スピッツは語ってあげてくれー。
M:まあ、この年は「スピッツおめでとう」ってのは確かにそうですがね。
T:ま、しかし、それまで全然売れなくて、「空も飛べるはず」も既に出していて売れてないのに、大したタイアップもなく「ロビンソン」が売れたっつーのはやっぱり人気って水モンだな、と思う次第です。わかんねーもんだな、と。
M:「ロビンソン」ってあそこまで売れてタイアップなしだったの?
T:えーと、「今田耕治のシブヤ系うらりんご」主題歌。
M:ぬるーーーー。ともチャンが昔の芸名で出ていた番組やん。
T:それは知らんかった、っていうかこの番組見てない。
M:や、多分札幌では流れていないかと。
T:あ、やっぱり。まあ、だからドラマやCMで売れたわけでもないわけで。
M:それでここまでってのは凄いですね。それは驚き。
T:ほんと売れてよかったっつーか、6枚目までガマンしたレコ社も偉い。スピッツは93年の4枚目のアルバムあたりから笹路さんをプロデューサーに迎えてポップ化を目論んではいたのですが、ま、それが結実した、と。
M:この人達もメガヒットはこの時期だけだけれどもその後もずーーーっと中ヒットくらいのを飛ばしまくって、アルバムは堅実に売れていて、実に手堅いアーティストになりましたよね。
T:そうね。やっぱり、替えがいない存在だからかなあと思う、それは。知名度上がるのは時間かかったけども一度掴まれるとなかなかほかに浮気できんぞ、という。
M:そうなん。では、そんな彼らの魅力は?
T:まー、歌詞からしてやっぱりマサムネの世界としか言えないものがあるし。
M:なんかこう中央線沿線在住の路上詩人のような不思議な空気感がって、そういうことですか。
T:はははは。中央線沿線っていうのはどっから出てきたんすか。
M:や、なんか、こうサブカルチックでもあり、庶民的でもあり、ちょっとストレンジでもあり。
T:そうね。
M:そしてモラトリアム、という。
T:少年期の妄想をいつまでも膨らませて抱えているみたいな感じはありますね。
M:草野さんは「ガロ」とか読んでそうな感じがしましてね。つげ義春が好き、みたいな。
T:だからねー、モラトリアムつってもミスチルのそれとは大きく印象が異なるね、スピッツは。
M:本人はわりとそれを楽しんでいるというか、「モラトリアムもいいよね」みたいな、そのへんが聴いていて、楽。
T:それにミスチルっていうのはやっぱり、歌ってるのはたえず今現在の桜井さんの心境なのよ。
M:その辺のつながりが緊密すぎるんだ。
T:草野っちのはこう、別世界というか、記憶から妄想的な世界をイメージしてそこで遊んでいる、というような。
M:そうね。一応フィクションにしている感じはするね。
T:そういう境界線っていうのはある。
M:だから桜井さんが中島みゆきだとしたら、草野さんは谷山浩子なんですよ。
T:あーーー、なるほど。
M:立ち位置は同じだけれども視線の先が違う、という。
T:桜井さんはこう、自分の心象とか目の前のリアルタイムな事実とかわりと直接的に歌に盛り込んでいくけど、草野っちは直接的な心象ってほとんど言葉にしないですからね。心象はあるんだけども、一回別世界のイメージを作って、んで出てきた歌は風景になる、という。
M:だから草野さんの方が広がりがある、というか。
T:それはありますね。
M:音もね、色々と遊びができる余地があるな、と。
T:そうね。フィルターかかってるからね、スピッツのほうがやっぱり。あともうひとつ。スピッツの魅力はマサムネの声だと思いますです。
M:朴訥としたあの声がいい、と。
T:あんね、ユーミンの声と被るのよ。
M:えーーーーそうなん。
T:なんかちょっと年齢不詳だし。
M:彼は確かに永遠の17歳って声だよね。
T:彼もちょっと宇宙人的というかどこに住んでる人?何人?みたいな。
M:スターゲイザーだしね。
T:そんな感じの声でもあるなあと。ま、歌もSF的なモチーフ多いしね。だからユーミンが「楓」を、スピッツが「14番目の月」をカバーしあってるんだけども両方とも自分の曲だといっても不思議じゃないような感じで。
M:あー確かに。メロディーラインとかそのあたりも、近いものあるかも。
T:ああ、そうね。
M:確かにあるパターンではユーミンとの擬似はあるかな。
T:風景の描き方の上手さとかも資質が似てるのかなー、と思う。誰もが見てる景色なんだけど私だけに見える世界が見えている、みたいな、誰も見過ごしているものが見えている、みたいな。
M:結構、才人っぽいイメージあるもんな、草野さんは。孤高の才人、みたいな。
T:共通項を二人には感じますです。ともあれこのアルバムでいうと「愛のことば」が最高です、ということで。
M:って、そんなこんなでいいですか。
T:はい。満足しました。


■ 
ブレイク理由すら不明な不思議な存在感、奥田民生 〜「29」〜

T:スピッツに続いてもう一つ、95年は奥田民生さんが頑張っていたなというのも記憶に残っています。
M:えーと94年末の「愛のために」がいきなりミリオンで。
T:そうですね。
M:これがソロデビューシングルだっけ。
T:ユニコーン時代に1枚シングル出してるんですが、事実上そうです。で、まあ、それがユニコーン時代からみても最高売り上げというか、桁が一つ違ってしまって。
M:そうね。
T:もちろんユニコーン時代から評価はあったんですけど、いきなり数字が跳ね上がってしまいましたね。まぁこれは、「愛のために」で突然きたわけではなく93年にユニコーンが解散したときに出したベストが、確か60万枚ぐらい売れたと思うんですけど、もう、解散前の売り上げからどーんと跳ね上がってしまって。 民生さんは「気づくのが遅いっ!」と憤慨していらっしゃったわけですが、そこからやっぱり民生さんに対する期待度というのはあったんでしょうね。
M:結構ユニコーンと奥田民生ってそのあたりの売上の動きが不思議なんだよね。
T:不思議ですか。
M:ユニコーンってイメージとしてはバンドブームの象徴のひとつという感じじゃん。
T:うーーん、まぁ、時期的にはそうなんですけど、でも一番バンドブームっぽいバンドじゃないですよね、ユニコーン。
M:そう? 「大迷惑」とか、あぁバンドブームだなぁ、という楽曲にわたしには聞こえますが。
T:でも、バンドブームといったら必ず名前が挙がるバンドのような、等身大とか、青春とか、メッセージとか程遠いわけで。
M:や、そういった路線の一方で「あえてファール狙い」ってのもバンドブームにはあったと思うんだよね。
T:ああ、爆風とか?
M:米米とか、たまとかさ。
T:まあ、ありましたね。イレギュラーなほうね。
M:だから、ユニコーンもね、そういうものの一派という印象があって。ただ売上に関してはもうそんなバンドブーマーのアーティストとはまったく違っていて。
T:そうなんだよね。
M:だから不思議だなぁ、と。
T:ユニコーンの現役時代っておれも小学生高学年とかだったのでよくわからないんですが、不思議ですよね。
M:まぁ、ミスチルとかスピッツなんかとともにここで踊り出たのかな、という印象はありますがそれがいきなりミリオンってのがね――。
T:なんでだろねー。
M:ユニコーン時代は20〜30万枚の世界だっのがとくに起爆剤もなく、という。
T:解散したときに嵌まった人が多かったのかな、って、それも不思議だけど。評価自体は前からあったのにね。
M:確かに前々から業界内評価は高かったよね。音楽雑誌とかさ、褒めまくりで。
T:そそそ。パチパチでもロキオンでもどっちでもイケるぞ、というそんなバンドだった。謎やね、って二人して謎謎いっているが。
M:まーーでも、これも時代性なのかな。って強引に持っていきますか?
T:はははは。
M:民生のたらーーーんとしたぬるい空気が殺伐としつつあった時代の一服の清涼剤になったというか。気ぃ抜いて釣りばっかしててもいいんだぜ、みたいなその空気が。
T:そして翌年のパフィーの大ブレイクへ、みたいな?
M:って、強引?
T:ま、民生っちもスピッツと同じく、一回引っかかっちゃうとやっぱり替えがなかなか見当たらない人だからさ。絶妙に芸能界から浮いているし。
M:そうだね。
T:パフィーとか芸能的なこともやってんのに。
M:なんかずれるんだよね、立ち位置的に。
T:本人のイメージは全然芸能臭がない、という。
M:そういう意味では稀有だよね。
T:あのー、陽水先生と魅かれあったのはなんとなくわかるかなと。
M:あーー、そうね。陽水も、たるたるーーってしてて、なんかこう半歩ずれているよね。
T:で、明菜とか安全地帯とかやっていても本人はどうも違う世界におわします、みたいなストレンジな感じだしさ。
M:売上とか人気とかそういうところから遠いところにいるというか、とはいえ、まったくアングラにはならない、という。不思議だよね。
T:それってかなり理想的なポジションだけども。
M:そうだね。
T:意識してそうなれるものでないしね。何があっても表情崩さず、マイペースでずーーーっとやっているっていうの。
M:陽水とのコラボの後も、O.P.Kingとか、スカパラと競演したり、あとツアーの「ひとり股旅」とか、つい最近では「The Band Has No Name」。
T:ねー、やりたいことやりたいようにやってますよね。
M:本当に好き勝手にやっていますよ。
T:それによって売り上げとかどうなるかな、とか全然気を配っているように見えない。
M:そうねーー。
T:これやったらファン的にアウトかな、とかないのがね。これはすごいですよ。そうなろうと思ってなれるもんではない。
M:まーー、それなりファンもついてきて、ほんと理想だよね。
T:ほんとに。まあ民生っちはずーーっとこのままでいいと思いますよ。
M:ちんたらちんたらとやっとけ、と。
T:っていうかこのスタンスを10年間保ち続けているというのが凄い。一つの奇跡だ。
M:まぁ、彼の場合、戦略とかそういうんでなく、本当にただ「素」なだけだろうしな。
T:ね。
M:それがたまたま時代性と上手くかみ合ったというか。それこそ時々猛烈に間抜けそうに見える彼と、彼の楽曲ってのは、やっぱり、この時代でないと陽の目を見なかったのかな、とか。
T:80年代だとどうかなというのはありますな。
M:80年代までだったら、アングラ系のそれこそ戸川純とかああいうラインどまりだったかも。
T:ははは。戸川姫かい。
M:やっぱ、異端だからさ。そういう点においては。
T:ま、さっき言ったように替えがいない人である、というそれが大きいと思うし、ずっとこのスタンスで来れているというのはそれは素晴らしい資質ですよ。
M:そうですね。
T:10年後もこんな感じじゃないかと、民生っちは。10年後もこうでも全然不思議じゃない。


■ 
ジュディマリは放課後の部室を体現した  〜「Orange Sunshine」〜

T:えー、もう95年といえばこれ拾わなきゃ、っていうのが多くてですね。そろそろ2人ひーひー言ってるんですけども。
M:ホントに。
T:ジュディマリは語りたいなーーー。
M:この年はシングルはなんだっけ?
T:「Over Drive」で初めてシングルヒットらしいヒット飛ばすんですが。
M:それがこの年か。
T:その前にリリースしたアルバムの「Orange Sunshine」(年間46位/53.4万枚)、これでジュディマリがガガガッときた、という記憶がある。この年の年間チャートでは46位ですが、いいアルバムです、これも。
M:TSUKASA先生はジュディマリ相当萌えてらっしゃるそうですので。
T:あー、萌えです。とても。
M:ここは語りまくってください。
T:いやー、まあ、YUKIちゃんのロリフェイス&ボイスにやられた、というのはまあそれもあるんですけど。
M:ポップでロリな不思議ちゃんにぶりにやられましたか。
T:もちろんそれ以上にこう、このバンドって放課後バンド的な佇まいがね、あると思うんですよ。
M:あー、そうね。
T:高校で放課後に部室で練習しているぞ、みたいな。それって、バンドブーム期はもうそんなのうじゃうじゃいたんだけどもそれが一回引いて、こうして90年代後半のチャート見ているとあんまりいなかったりするんですよね、こういう佇まいのバンド。
M:それこそ、この時期は彼らの独壇場というか、そんな感じですね。
T:そこにも魅かれた、とても。
M:だから、ある時期女性ボーカルのアマチュア学生バンドがみんなジュディマリ化したというそういうのはありましたよね。
T:それはそうでしょうね。モデルがだってJAMしかいないからね。「Orange Sunshine」なんてのはそんな放課後バンドな瑞々しさが詰まっていて大好きだな。 ま、あと安室のところで話が出ましたけどもYUKIちゃんというキャラクターもやっぱり女子中高生のモデルとしてそこもやっぱりキャッチーだったんだろうな、と。
M:あぁ、はい。そうですね。非常にこう憧れやすい要素がつまっていましたね。プロモで爆発コントしてしまうようなおちゃっぴぃさもあり。
T:ははは。
M:不思議チャン的なとらえどころのなさもあり。
T:そうそう。ロリっぽいファッションで不思議ちゃんっぽい女の子が街に溢れ出したのってこのへんの時期だったような気がするし。市民権を得た、というか。
M:そのあとは不思議ちゃんはともちゃんとか林檎姫とかまぁいろいろなパターンが出てきまして。
T:このへんからCharaさん系も増えましたね。
M:あーーー、そうね。そっち系もありますね。UAとかcoccoとか。
T:そそそ。だから割と時代に呼ばれ、時代を作ったキャラクターとしてYUKIちゃんは結構大きい存在だなあと、今思った。
M:その辺をミクスチュアしたものの始原として彼女はいた、と。
T:まあ、その前にNOKKOさんもいたんですけどNOKKOさんはちょっと違うでしょ。
M:NOKKOは孤高のまま終わったというか、そんな感じで。
T:キャラがちょっと重いよね。
M:うん。
T:何か背負っている、という。
M:だから路線として他者に広がりようがなかったというか。
T:そうね。そこが違いかな。
M:YUKIはそのあたりがもっと軽くて、ゆえにちょうど使い勝手のいいひとつの雛形になりえた、というか。
T:ですね。一つのモデルにはなったと思う。
M:JAMはその後は放課後バンドとしてやりたいように突き抜けていって、それこそ青春のリビドーのままに、というか。
T:そうね。で、終盤はギターのTAKUYAが結構音楽的に支えていたというか、音楽的な希求というのは彼が一番あったと思うんだ。 ただそうすると、だんだんJAMの放課後バンド的な魅力からは離れていってしまうわけね。そのギリギリのタイミングで解散したかな、と思う。
M:まぁ、恩田さんたちとYUKI・TAKUYAって年齢一回り違うしね。
T:そうね。バンド終盤のインタビューとか、やっぱりTAKUYAが鼓舞してたしね、年長組を。
M:だから、二人が成長するにつれてそういう齟齬は出てこざるをえないというか。それはあっただろうし、まあ、ベストな時期の幕引きだったかな、と。
T:だから最近のバンドの解散の中では最も清清しいというか、ほんとにやること全部やって解散した、と。 ま、放課後の青春っていうのはいつか終わるものですからそういう意味では、いい終わり方だった、と。うぅぅ・・・。涙が・・。
M:JAMはまさしく学校だったのですね。いつか卒業する学校、という。
T:うん。それはあると思うな。
M:ってわけで、卒業アルバムを懐かしむようにJAMを聴くつかささんでしたとさ、おしまい。で、いい?
T:はい。ま、YUKIちゃん登場はマークしといてください、と。試験に出ます。


■ 
SMAPは90年代のど真ん中にいた唯一のアイドル 〜「007 〜Gold Singer〜」〜

T:まだまだ続きます95年。シングルで触れなかったんですけども、ジャニ枠ということでSMAPは触れておきたいかなあと。
M:S ! M ! A ! P !
T:スマーーップ ! って、デビュー曲はいいんですよ。SMAPってCDデビューしてからしばらくファンによる小ヒットどまりで光GENJIのような大ヒットというのはしばらくなかったんだけども。
M:そうね。20万枚に壁があったというか。
T:それが93年の「$10」でようやくヒットらしいヒットを放って。
M:そうね。アレで、壁をぶち破って、でそっから翌年の「がんばりましょう」までの間にぐわっーと上昇して、この95年は高値安定、というそういうSMAPさんですよね。
T:で、ここでちょっとビックリするアルバムをリリースしてしまうわけなんですね。「007 〜Gold Singer〜」(年間44位/54.1万枚)という。
M:これは海外のフュージョン系の大物を起用しまくったっていう、そういうアルバムだよね。
T:そうそう。ちょっと、アイドルのアルバムとしてどころかポップスのアルバムとしても規格外では、というような。
M:Gold singerってPlayerの間違いやろ、という。
T:ははははは。ほんとだよ。だから、お世辞にも歌い手としてはゴールドではないSMAPにですね、ゴールドなプレイヤーを使ってアルバム作ってしまって、 で、これがきっかけでSMAPファン以外の音楽マニア筋にもですね「SMAPのアルバムって凄いらしいぜ」みたいな評価が出てきたりするんですよね。
M:まーー前作の「006 〜SEXY SIX〜」からこの路線は始まっていたわけだけれども。
T:何曲かやってましたね。で、しばらくずーっとこの路線でアルバム作るという。
M:確かにやたら音楽雑誌でもそういう文脈でプッシュされていたよなぁーー。
T:「$10」のヒットから明らかに音楽のほうに力入れ始めたんですね。
M:SMAPはドラマでのキムタクのブレイクとかが先にあったから。
T:後は「夢がMORIMORI」とか、バラエティですね。テレビ人気が先だった。
M:だから歌モノも、今までのいわゆるジャニーズ的な文脈による大ブレイクではなく違った形で、っていう戦略変更はスタッフの間にあったのかもしれない。それこそF1狙いだ、みたいな。その結実がこのアルバムなんでないかな。
T:ただこのSMAPのボーカルでこのトラック作ろうっていうのはすごい狙いだなと思いますが。
M:まーーねーーー。もっと歌唱力があるのならわかるけれどもってね。
T:こういうのって、SMAPファンは後ろで誰が弾いてるとか気にしないだろうし。
M:そうね。
T:逆にバックのミュージシャンにつられて聴いた人はなんだこのボーカル、ってなるだろうし、そこを組み合わせてしまったっつーのが凄いなあと。
M:まあ、とはいえ、こんなこといって水を差すのもあれですがアイドルの格上演出としてこういう豪華アルバムってのはそれこそ70年代からあったっちゃぁ、あったわけで。
T:そうですね。聖子とか。
M:ただ90年代にはそれを活かすアイドルが彼ら以外いなかった、ってだけの話なのかな、っていっちゃダメ?
T:とはいえ、そういうアルバムを作らせたSMAPという存在はえらい、と。たいしたもんだ、と。
M:うん。
T:ま、それはあるよね。
M:それに、スマのスタッフは、今でもそうなんだけれども、マスへの見せ方というか、情報の出し方というか、そういった諸々の演出方法が上手いなぁ、ってのはあるしね。 興味を引くように持っていくよな――と感心することしきりだし。
T:とにかく、アイドルがこれだけ賞味期限保っているというのがちょっと前にしたら奇跡みたいなもんだよね。
M:ただ、まあ、賞味期限うんぬんに関してはここ数年はシングルのリリースペース落としまくっているし。
T:ははは。あー、最近はそんなところありますな。
M:で、いざシングル出すときはメディアジャックでお祭り騒ぎにすりゃ、ま、ある程度の実績は残すかな、と。
T:ズバリ言うなあ、まこりんさん。
M:えーーー、いまさらそれいいますか。
T:細木かまこりんさんか、というぐらいですから。ま、アイドルってやっぱり周りに遊ばれてなんぼというところってあると思うんですよ。
M:それはあるよね。
T:そういう意味ではSMAPっていうのは遊び甲斐があるし遊ばれ上手だしそこはやっぱりSMAPの資質かなあとだからスタッフも頑張っちゃうんだろうし。
M:なんか必死にフォローしていません?
T:や、やっぱり「$10」から、「夜空ノムコウ」ぐらいまでのSMAPは遊びざまが面白いし。
M:あ、やっぱ、そこは「夜空ノムコウ」で切ってしまうわけ?
T:ちゃんと切るとしたら「らいおんハート」かな。スリリングだったのはあのへんまでですね。
M:まーーとにかく94〜98年くらいまでは結構次どうでるか、というのが楽しかったってのはあるよね。
T:そうね。どんな手でくるのかと。
M:個人的にはバラードがいきなり今までの倍以上売れた「夜空ノムコウ」が転換期だったのかな、と思いますが。
T:あそこでまた一個格が上がったからね。頑張って格上な音楽作らなくてもよくなったというのはあるかもな。
M:あそこから「世界に一つだけの花」まではひとつの流れかな、とそんな印象があるので。
T:そうね。ていうか、キムタクの結婚と「らいおんハート」で、また余計なセレブ感がついてしまったかなというのはある。
M:はははは。余計かい。
T:あそこであがったかな、という。で、もうあとは国民的アイドルとして国民的な愛唱歌「世界に一つ〜」を出してですね、頂点まで行ったかな、と。
M:ま、でも、正味な話、今のSMAPに関しては「どうやって幕引きするか」、ってのがわたしの一番の興味だったりする。
T:えー、幕引き、あるんですかね? SMAP。ずーーーっとやってそうだが。
M:やーー、でも、今のSMAPって結構無理くり感が漂っているからさ。この高嶺感を保ちながらどうもっていくよ、と。
T:あー、もう登るところはないもんね。
M:どっかでそれは落とさないといけないだろうし、果たしてそれをサバイブできるか、と。その瞬間が解散かな、とか。
T:はー、ちょっと想像つかないですね。まあ、もし解散なんてことになったら一番落ち込むのは中居だろうというのは想像できますが。
M:ははは。
T:中居くんはあれは同時に一介のSMAPファンだからな(笑)。
M:とはいえ、今の展開の先も想像ができないからさ。てゆーかですね、今の国民的歌手という席にしても歌唱力という点に関してはもう残念なことこの上ないわけで。
T:そのラインは「世界に一つ〜」だけでいいよ。あんなのは。
M:マッキーの魂の叫びを「あんなの」呼ばわりした。
T:ははははは。いやーでもさーあそこに行っちゃったらもう遊べないじゃん。SMAPという稀有なキャラクターを使ってあんな遊びのない・・・そんなのいいよ。だから「友達へ」なんかもう最悪に舵取り間違っている。
M:そうね。「友達へ」は、いただけない。
T:これだけはやめてくれ、っていう方向に見事に行った、あれは。だから売れなくてよかった、ほんとに。そこは国民は求めていないんですよ、と。
M:とはいえ「BANG BANG バカンス」もちょっとでっかいファールだったような。
T:針振り切りすぎでしたね。「友達へ」でまずったもんだからあわててハンドル逆に切ったらあらぬ方向へ、という。
M:ほんともう、ワイルドピッチにもほどがある、という。
T:はははは。
M:だから、今のスマップって難しいよな、と、わたしは思ったりするわけですよ。
T:んーー。ま、遊びづらくなっちゃっただろうね。いつまでも遊び遊ばれるSMAPであってほしいけどなあ。
M:その終焉は近いんでないかなぁ、と、わたしは予言しますです。
T:そうですか。まあ、全員40になったSMAPって・・・というのはありますな。
M:ま、少年隊のように解散しない解散ってのもあるだろうけれどもね。
T:うん。それが一番想像できるかな。
M:なんとなく歌うたってなかった、という。
T:と思ったらいきなり「湾岸スキーヤー」とか歌い舞っている、みたいな。ほんとに集まりたいときだけ集まってという。
M:理想はそういうところかな 。
T:ということで「どうするどうなるSMAP !?」ということで。
M:以下次号を待て。でなく、次だ。


■ 
NOKKOの物語、感動のエンディング 〜NOKKO「Colored」〜

T:最後に1枚埋もれた名盤を二人でサルベージしましょう。
M:やっぱ埋もれているわけ?このアルバム。
T:って、それは、NOKKO「COLORED」なんですが、完全に2人の趣味の枠です。
M:これは年間何位だっけ?
T:72位。
M:40万枚くらいか。
T:30.9万枚ですね。
M:あらら。そんなもんか。
T:NOKKOソロとしては最大のヒットシングル「人魚」が収録されたアルバムです。
M:なんというか、わたし、このアルバムには思い入れ深いです。
T:あ、そうなんですか。それでは思いいれをたっぷり語ってくださいませ。
M:語る。てゆーかですね、NOKKOはレベッカ時代も非常に濃密な、それこそ振り返ることの許されない作品をリリースしつづけて。
T:そうねー。レベッカは駆け抜けた、って感じですね。
M:で、一気に解散してソロになるわけですが。
T:ソロは最初はクラブ方面に行ったんですよね。
M:うん。海外デビューをもくろんだ「Hallelujah」と「I will catch U」の二枚はそうだね。で、この二枚がまた、ワンアンドオンリーというか濃密な世界でして。
T:で、まぁ、その路線もこの二枚で終わって。
M:"世界へ飛び出たN.Y.の暴れん坊、NOKKO"の時代も終わって、で、日本に帰ってきて初のこのアルバムは久しぶりの日本向けのアルバムというか、つまりは「放蕩娘、我が家へご帰還」っていう、そういうアルバムだと思うんですね。
T:そういう流れですね。
M:だからそれこそレベッカ時代から連綿と続いたNOKKOの物語の大団円として響くというか。
T:なるほど。そういう聴き方あんまりしてなかった。
M:それこそ「奇跡のウェディングマーチ」のように、プレジデントまで辿りついても、まだまだ何かを探し、選び続いていた彼女がとうとうひとつなにかを選んだ、という、そういうアルバムかな、と。
T:まあ、だからそのレベッカと、ソロの最初の2枚と、これって音楽的にはわりとバラバラなんですよね。
M:そうですね。その辺の音楽的なつながりはないんだけれども、ただ彼女の物語として見えてくるものはあるな、と。
T:そうね。
M:「MOON」の歌の主人公のように、トラウマどっさりでなにかから逃れるように歌手として走りつづけていた、怒りを吐き出すように歌に全てをぶつけていた彼女が、はじめてふと歩みをとめて、自分を振り返り、家族を振り返り、日常の幸せを歌い、命の大切さを歌い、ってそこに感動するわけですよ、このアルバムは。
T:だからJAMのところでちょっと出ましたけどこれまでのNOKKOというのは常に何かを背負っていたわけですよね。
M:そうね。
T:それは、ロックじゃないと言われて見返してやりたい、とか、アメリカに行って認められたい、とか、そういう上昇志向だったり。
M:ともあれ、何か、こう心の中に囚われているものがあって。
T:それが彼女を歌わずにはいられないようにしていたわけで。それが初めてここでほんとに音楽をやるために、それだけのために歌っている。
M:あ、自分を許してもいいんだ、そのままの自分でいいんだ、という。
T:そういうアルバムではありますね。なるほどねー。
M:だから「ライブがはねたら」の「ヒーローを探していた/ステージの上から/ヒーローなんて要らないわ/誰よりあなたが一番/好きよ」ってのは、まさしく自分と周囲を許した彼女の赤裸々な心であって。
T:はーーーーっ。なるほどねぇぇぇぇ。そんな風に聴いてなかったーー、あの曲。ちょっと、感動してしまった。
M:だから、ライブはねたらうちに帰ってあなたのためにごちそう作るよ、という、そういう些細なところに幸福を実感しているんだな、というのが真に伝わってきていいなぁ、と。
T:何かを背負って必死に歌っていたライヴがはねたわけだ。ほんとうに。
M:そうね。いつもぎりぎりだったNOKKOの長いステージが今やっと終わったんだな、と。
T:そういう曲だったのかーーー。や、正直このアルバムの中でこの曲だいたい飛ばしてた(笑)。
M:飛ばすなよーー。
T:はははは。でも聴き方変わりますわ、それは。
M:でまあ、後「エビスワルツ」で日常の些細な幸福を歌ったり、「Dream Machine」で過去の風景にはいっていったりと、こう、我を振り返るようなものがあって。
T:そうね。
M:で、ラスト3曲「LOVESONG」「い・の・ち」「人魚」で感動のエンディングなわけですよ。
T:この3曲は感動的ですよね。
M:もう泣かざるを得ない。
T:ラスト3曲はものすごい。今までと違ったかたちで歌というものに向き合っている、というそんな3曲ですよね。
M:だからそれこそ今までの自分と対峙して新たな自分に生まれ変わろうとしているというか、だからもうこれ以上のものはないな、という見事なまでの大団円っぷりですよ。
T:うーん そこで大団円になってしまうのがねえ。後が・・・っていう。
M:ははははは。そ、そこがねーーーー。
T:ちょっとねぇ。悲しいかな「最後の輝き」になってしまっているんですよねぇ。
M:感動の大団円のあとが「夜もヒッパレ」とかカップラーメンのCFっていうのがねーー。
T:なぜーーーーー、という。こんな素晴らしいアルバム作ったのに、なぜーー、と。
M:「人魚」で「アカシアの雨に打たれて泣いていた」っていう部分があるじゃん。アレって「アカシアの雨がやむ時」を下敷きにしているんじゃないかなとわたしは思うんだけれども。
T:そうだろうね。
M:「アカシアの雨がやむ時」って、絶望と死の歌でしょ。NOKKOってさ、それこそ「アカシアの雨」の歌の主人公のように歌うことと死が近しいところにあったというか、この瞬間燃えつきたらもう死んでもいい、というか、もし歌えなかったなら、死んだってかまわないというか、そういうギリギリのところで歌っていた感じがあったと思うんだよね。
T:そうだろうねえ。歌に命かけている、っていうのはやっぱりレベッカからずっとそんな感じで歌ってたんだろうし。
M:それが「人魚」の歌で倣えば、アカシアの雨に打たれて泣いていた孤独な少女の心がようやく目覚めて「抱いていて」って叫ぶように、ここで全てを許し全てを愛し、受け入れるようになったというか。 ただ受け入れた瞬間にかわりに何かを失う、というのはあるわけで。それこそ、優れた作品ってのは作り手が「不幸で幸福な状態」でないと、生まれないというか。CoccoがSinger Songerで戻ってきて、自らをはじめて受け入れた「初花凛々」は感動的だったけれども、その後は……、ていうさ。それと同じで。
T:あー、それ言おうといま思った。「初花凛々」が感動的だったのも、実はあれは一つの大団円だからなんですよね。だから自分を受け止めることができてしまったのと引き換えに歌は・・・っていう。
M:そうそ。
T:それまで彼女を歌わせていたものも消えてしまったという。
M:幸福になったがゆえに才能を失ってしまった。まあ、芸能や芸術的な才能ってのは幸福と引きかえってのは、仕方ないのかなあ、と思うけれども。
T:NOKKOさんもそんな感じなのかねえ。
M:その後も一応アルバム聴いておりますが、どーもね、評価のしようがない。
T:あとこのアルバムからいきなりボーカルの採り方変わってるでしょ。
M:あ、そうね。
T:なんか変なCharaみたいになってしまって。
M:ははは。変ないうな。
T:どうしたの?って思ったんですが、これがこの後さらに進行してしまって。だからまあ、ほんとにNOKKO最後の輝きかな、と。
M:あとこのアルバムは作家陣がチョー豪華で、いわゆる渋谷系? な。
T:ね。筒美先生、井上大輔、とか。
M:その辺の大御所職業作家陣を組み込みつつ。
T:佐久間Pやブラボー小松さんなんかも。
M:さらにテイトウワや、久保田早紀の旦那の久米大作さんもいます。
T:あとラルクでお馴染み岡野ハジメさんも地味にいます。だからこのアルバムは、作るにあたって力は入ってるよね、とても。
M:うん。NOKKOの個人的な部分ってだけでなく、楽曲として純粋に優れている。バラエティーに富んでいて飽きない作りで捨て曲なし。
T:ストレンジな感覚もあり、ジャパニーズポップス的な良さもあり、おフレンチな感じもあり、テクノなのもあるね。
M:「METALIC MOTHER」なんてデジロック風味でアニメ少年を誘惑する、というなんか凄い歌で。
T:そそそ。あれはカッコイイっす。歌詞がぶっ飛んでるんですがカッコイイ。
M:庵野とか押井とかのアニメに使えそうな曲だよね。
T:はははは。あり得るね。「♪ エッチなアニメのとりこ〜」とか言ってるし。
M:アニメの美少女キャラがモニターからにゅーーと出てきて「どうぞよろしく。女神と呼んで下さい」ってそんなイメージだし。
T:今で言うと萌え系ですね。
M:そうね。
T:あとラテンもありますな、「Vivace」。あと「Crying on the Monday」なんかもなんかこう、宮廷音楽のような(笑)ヨーロピアンな。
M:アグレッシブな弦楽がね、いいよね。や、とにかくこのアルバムはケチつけるところはありませんよ。
T:とにかくよいお皿です。是非聴いてください。
M:NOKKOありがとう、そしてさようなら、っていうそんなアルバムです。
T:あっさりさよならだなあ。
M:や、でもそこはあっさりいち抜けるか、ぐるぐるメリーゴーランドになるかで、いち抜けるのを選んだんですよ、NOKKOは。桜井さんのように止まらないメリーゴーランドに乗りつづけることなく。
T:また桜井さんを出すんだから、もう。
M:だってーーーー。
T:ということでそそくさと切り上げるぞ。
M:はーーい。


■ 
95年総括 〜95年は振り返りきれません〜

M:もういいかげん。語りまくったわけですが。
T:もう十分です。たらふくです。
M:収拾のつかない感じになりつつある、そんな95年チャート回顧です。
T:まとめやるの?
M:えー、一応、形として。対談もこの年を象徴するように、混沌としてしまいましたね。
T:90年代前半の人が最後の輝きを放っていたり後半活躍する人達が頭角を顕していたりでカオスでとてもまとめきれませんという感じでしたね。
M:はい。
T:対談もこれまでになく苦戦した感じでしてどこを語って、どこを削るのかっていう判断が厳しかったです。
M:しかもTSUKASAさんが、わたしがスルーしようかな、というものにいちいち引っかかって、内容を増やしていくからさー。
T:ははははは。
M:アレ語りたーーい、とか、いいだすし。
T:自分でハードル高くしていたか。や、でも95年といえば?っていう観点でやっぱりまとめたいからさー。あれも拾わなきゃ、これも拾わなきゃって感じで。
M:そして泥沼に、ですね。
T:とにかく大変でした。っていうか、これテキストになってるのだとわからないでしょうけどのべ何時間喋っているんだ? という。
M:はははははははは。そ、それいいますか。
T:ぶっちゃけ、実は日もまたいでまして。
M:すまん。それは俺の責任だ。
T:ってまあそれはいいんですけれども、ほんとに今までで一番喋り倒しました。
M:でもまぁ、この年は一番大変だろうなぁ、ってのはこの対談企画立てた時点でわたしは予感していましたよ。
T:はははは。悪寒はしていたか。
M:でもTSUKASAさん、やりたいだろーーなーー、この年……と。
T:まーねー、シングルとかもねえ、上位50曲全部レビューしろ、といわれたらできますし。
M:ははははは。いやだーーーーっ。できたとしても、いやだーーーっっ。
T:っていうぐらい好きなんですけど(笑)。それだけに客観的にまとめるのは骨が折れました。さすがに対談も回を重ねてこなれてきたかな?という私達でも今回は結構グロッキーですね。
M:ほんとうに。でも、楽しかったですよ。
T:ま、そんな感じで相変わらず楽しくはありつつもとても自分を追い込んだなという感触が。
M:ただ、まぁ、今回は対談企画にしては珍しく、あの頃はまだ若かったなぁーー――とか切ない気分にもなりました。はじめて過ぎ行く時の重さも知りましたよ。
T:10年前だからねー。
M:ま、俺は永遠の十七歳だからいいんですけれどもっっ。
T:もう四捨五入したら30ですからっ。残念っ。ということで三十路に向かって疾走する2人がお届けしました。
M:そんな二人がティーンの頃を懐かしんでいましたよ、と、そんな回でしたよということで。
T:やっぱり、リアルタイムで聴いてたときの自分が出てきますよね、ということで。
M:はい、おしまい。
T:またお会いしましょう〜!
M:さよーならーー。

2005.10.23
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