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本田美奈子は大歌手ではなかった。 「アイドル歌手としてデビューしながらアイドルの殻を破り、様々な分野に挑戦した、素晴らしい才能をもった歌手」 ――こう彼女を表現してしまうと、少しばかり、真実とずれてしまう。 アイドルでデビューしながら、アイドルを満足に全うすることすら出来ず、アーティストを気取ってファンに見放され、 ロックバンドを結成してはあんなものはロックじゃないと罵られ、先細りし、 活路を探してミュージカルに挑戦しては、すぐに潰れると揶揄された。 クラシックにトライした近年ですら、同じだった。あんな発声はなっていない、と小馬鹿にするような発言をわたしが聞いたのでも一度や二度ではない。 そして、それらの周囲の冷ややかな視線を撥ね退け、大輪の花を見事に咲かせた――わけでもなかった。 もちろん、その時時で評価されたり、あるいはそうでなかったりを繰り返してきたが、それがひとつの大きなうねりとなることはなかった。 現在、評価されている彼女の歌手最末期のクラシック・クロスオーバーの作品群も、発売当時はさしたる評判ではなかった。はっきり云えば売れなかった。 そもそも、彼女の活動年月の約半分が、新譜の発売やコンサートすら満足に出来なかった期間であることを、忘れてはならない。 レコードセールスだけを追えば、彼女は、アイドルであることを否定したとたんに、ほとんどの聴衆から見放され、以降、亡くなるまで再び大きなポピュラリティーを得ることはなかった。そういう歌手である。 ――がしかし、それは、彼女を貶めることには、まったくならないと私は思う。 確かに歌の美神は、あまり彼女に微笑んでくれなかったけれども、死ぬまで歌にこだわりつづけ、手に入らないものを必死で追い求め、疾走しつづけた彼女の姿はなによりも増して美しいと思うからだ。 彼女は、聴衆のほとんどいないうら寂れたステージでも心底楽しそうに歌った。音楽の境界線も無邪気に飛び越えて心底楽しそうに歌った。そんな姿がわたしは好きだった。 若き日の、歌に対する思いこみや粋がり、ちょっとした勘違いですら微笑ましかった。 彼女の憧れた越路吹雪や江利ちえみやあるいは美空ひばりのように、様々な音楽ジャンルを併呑して超然として自らを表現する、そのタフネスはまだ身につけていなかったけれども、いずれその領域に達する、そういう星の下にいる歌手だ思っていた。 クラシッククロスオーバーもひとつの通過点に過ぎない。しかし彼女は可能性の蕾だけを残してこの世を去った。 すべてが未完のまま終わって、改めて彼女の作品を聴く。 結局、本田美奈子は、どの音楽ジャンルに挑んでも、本格的になるには、あと半歩届かなかった。 がしかし、その届かない空白の数センチが、今、なんとも愛おしい。そこに触れようとするたびに青春の痛みにも似た切なさが胸に走る。
デビュー盤としてはべらぼうな歌の上手さとべらぼうな楽曲完成度。いちいちが上手いのだけれども、上手さゆえにどうにも違和感を感じてしまう。子役の達者な演技のような危うさといえばいいのか。 「Charlie」「讃美歌は歌えない」「DOUBT」のような例えばメッセージ性の強い歌詞、あるいは「マンハッタンの蛍」「APERITIF」のようなエロティックな歌詞、それらのどれほどがわかっているのだろうか、と。 こういう娘に秋元康の空虚な詞はかえって毒となる気がする。 もちろんこれらは決してやっつけでなく、秋元康の作品群の中でも相当良質な詞であるのは、確かなんだけれどもね。耳年増の生意気な少女を愛でるような感覚で聴けばいいのだろうが、ううむ、むずがゆいぞ。 ホント、「NOVEMBER SNOW」とか「HARD TO SAY "I LOVE YOU" 」とか名曲多いのは確かなんだけれどもなぁ。どうにも素直になれません、この盤には。 これが当時のシングルよりも売上げてしまってファーストにして自己最高。その後の彼女にとってこれはよかったのか、悪かったのか。7点。
「1986年のマリリン」の成功により、セクシー路線がより強調。歌詞からも歌唱からも過激に挑発しております――が、だから、彼女のそうゆうの、恥ずかしいんだってばっ。 ロリッ娘が大人ぶったコスプレしたりなんかして、なにもわからずに「カモン」って指でこまねいたりするのに萌える御仁には素敵過ぎるアルバムか、と。――って、そういうコアな趣味のおっさんをターゲットにするよか、もっとフツーでいいんだよ、美奈子。 んで、まあ、これで作品自体がしょぼかったら、華麗になかったことにできるのですけれども、全作、筒美京平だし、いちいちよくって、困っちゃうわけで。 美奈子も、やっぱりフツーに歌が上手いしさぁ。秋元っちゃんも本田美奈子作品に関してはかなり本気指数高くって、書き流しが少ないっ。かなり真っ当――というわけでむず痒いながらも聞いてしまう私がいるのであった。ま「破廉恥なコトしたい」(「マリオネットの憂鬱」)なんてあざとい事を言わせたりもしてますがっっ。 だいたいが歌謡ロック・アップテンポ調とミディアム・バラード系が交互にという曲順だけれども、今改めて聞きなおすと地に足のついたミディアム・バラード系のほうがいい感じ。「リボンがほどけない」「スケジュール」「愛の過ぎゆくままに」と、こういう曲でいいんだよ、ホント。7点。
「SHIKASHI」「24時間の反抗」「NO PROBLEM」など、歌謡感まったくなしの硬質なサウンド・メイクは聴きごたえだらけなんだけれども、はたして、アイドルでこれをやる意味って――あ、そうか、美奈子はアーティストだからいいのか。 ほか、筒美京平作曲でゲイリー・ムーアのギターが唸りまくるタイトル曲「キャンセル」をはじめ、青春の痛みを歌った名曲「Feel like I'm running」など、これまたいちいち完成度高くって、わたしは大好きなんだけれども、一年前の「M'シンドローム」と比べると売上は半減なわけで。美奈子の全力疾走は、相当数のファンを振り切ってしまった模様。 これは彼女に求められていた芸風ではなかったんだろうなぁ。ちなみに歌詞は、一人称"ボク"のメッセージソング路線と、セクシー・挑発路線のふたつで、いつもの秋元仕事です。8点。
もちろん全作英語での歌唱で、発音はもちろん、発声もかなり矯正されております。本田美奈子の歌だって、誰も気づきませんってば。 海外デビューって大変なんだなぁと、単純に感銘を受けるけれども、はて、この意味ってなに? 明菜・聖子ですら海外デビュー盤で思いっきりセールスを落としているのに、まして美奈子をや、だっちゅうの。 美奈子の本気だけはひしひしと伝わるけど、需要のないところに思いっきりボールを投げているような。体育会系が過ぎるぜ、美奈子。 品質はしっかりしているので、本田美奈子という名前をなしにして考えれば、バブルガムな欧米ポップスとして単純に楽しめます。7点。
このアルバムの成果を元についにガールズバンド「ワイルドキャッツ」を美奈子プロジェクトは決断する。 個人的には当アルバムでは継子的な「悲しみSWING」の優雅さが好ましい。こういう部分をもっと伸ばして欲しかったなぁ。7点。
本田美奈子は元々歌謡ロック傾向の強かったわけで、そこでロック色のより濃くなった前作「Midnight Swing」からさらに発展してワイルドキャッツヘと――そういう文脈なわけであって、アルバムをきちんと聞き込んでいるファンにとっては、さしたる転向ではないのだ。 バンドブーム到来を受けて、HM・HR色のより強いハードポップの美奈子、と。それにどれだけの需要があったのかはやっぱり謎だけれども、美奈子は疾走してしまったのだから仕方ない。 正味の話、美奈子は、ハードロックするには、ボーカルが細いのが弱点なんだけれども、改めて聞くとその弱点が魅力に聞こえる。不思議な歌手だ。 まるで「北斗の拳」のような「Full metal armor」の力強さには笑いと感動がなぜか同居してしまう。いつだって美奈子はやりきるんだぜ? 7点。
形骸化したハードロック・サウンドは商業主義の何者でもないが、それが売れなくて、何の意味があるというのか。本田美奈子は都合のいい物真似歌手ではない。5点。
みんなのコーラスが踊っている「It's My Party」や、美奈子もキーボードでちょっと遊んでみました、といった感じの「ららばい」のリミックスバージョンなど、 レコーディング風景が見えてきそうなほどに楽しげな音で満ちている。 ぽつりぽつりと落涙のように歌う「June」、ゆっくりと高まった情感がやがて筒いっぱいの歌唱となる「かげろう」、ミュージカルらしい詞曲をお手のものといった感じで歌う「Bye Bye」あたりが、今作のハイライトか。 また、美奈子の自作詞による70年代フォーク調の「幸せ届きますように」「この歌をfor you」もじんわりとしみてくる。振り返り、自分の薄い肩を見つめている、といった風情だ。 さらに、全体のカラーと違うエスニック色の強い宮沢和史作品「月見草」「僕の部屋で暮らそう」が良い挿し色になっている。 ――と、これら、じっくり聞き込むと良さがわかるけれども、一聴してぐっと引き込まれるような取っ掛かりがないのが難点といえば難点。7点。 昨今流行のクラシッククロスオーバーを美奈子もしてみんと、なんていう付け焼刃ではないのはファンなら、知っているよね。 ミュージカルの舞台に立つようになって以来、オーケストラのサウンドに魅力を感じていると彼女はしきりに語っていたし、少ないながらも、音楽番組やコンサートでそういった楽曲を取り上げてもいたのだ。 そんなこんなで、美奈子渾身のアルバムなのだが、その努力が見事に結実したことは、一聴してわかるはず。 アーティスティックだけれども、大衆性があるあたりが、もう、大正解。変に格式ばらないで、唱歌や童謡やあるいは歌謡曲を歌うように自分の領域に引き寄せて実にハートフルに表現している。 でまた、岩谷時子の詞がやさしいんだよね。 わたしは美奈子の力強い歌唱が好きなので、「Time to say good bye」「Amazing grace」「Jupitar」といったあたりを推すかな。9点。 このままで行くと、日本人の多くが持つクラッシック・コンプレックスを払拭するというよりも、むしろ糊塗するような方向になる感じがする。美奈子のボーカル力もまた周囲のプロデュースワークもこの段階では、そこまで強固ではないのだ。中産階級のスノビズムを満足させるだけの音楽になる危険、かなり大。 それが証拠に、井上鑑作曲の「時」「すべての輝く朝に」、サッチモの「この素晴らしき世界」、「ゴッドファーザー」といったクラシックではない曲のほうがぐっといいんだもの。特に「この素晴らしき世界」は今の彼女だからこそ真に迫る名唱なんじゃないかな? クラッシッククロスオーバ―という小さな器では、本田美奈子という歌手は収まりきらないのだ。レーベルの問題もあるだろうけれども、彼女はもっともっと色んな歌を歌うべきだよ。――と、更なる展開をわたし期待していたのだが、彼女は病に倒れ帰らぬ人となる。7点。
生前、レコードアーティストとしては決して恵まれなかった彼女が、このような形で評価されたのは皮肉なことであったが、とまれ、セールスの期待が持てないことから未発表となった作品、あるいはアルバム未収録となった作品たちがここにおいて陽の目を浴びることになる。 第一弾は、アニメ系のレーベル、マーベラスエンタテイメントからリリースされた楽曲を中心にまとめられたコンピレーション。シングルやあるいはゲームのサントラとして発表はしていたが、アルバム収録は初めて、という履歴の楽曲たちである。 95年〜03年の空白の8年を埋める貴重なアーカイブといっていい。 シンフォニックな「風のうた」や、可愛らしいアニメソング「ナージャ」、またクールなディスコチューン「Shining eyes」などなど、色々なタイプの楽曲がおもちゃ箱のようにコンパイル。それを美奈子が楽しげに歌っている。 純粋にいい曲たくさんです。美奈子の本懐はとにかく「うた」なのだ、ということがひしひしとわかる。8点。 「時」「Ave Maria」の選考落ちトラックや、ニューアルバム用にあらかじめ録音していたデモ・テイクをなんとか作品に仕立てあげたもの、さらに他アーティストへの参加作品や、テレビ番組のB.G.Mとして作ったものなどなど、 出自が様々な音源をパッチワークにしてなんとかひとつにまとめました、という一枚。 これを作品として成立させるにはスタッフの相当の熱意と努力が必要だったろうけれども、やっぱり「もし、美奈子が生きていたら、どんなアルバムだったろう」と余計な事を考えてしまう。 この世に無い作品を比較対照しても意味がないと、百も承知なんだけどもね……。 まったくもって仕方ないことなんだけれども、どうしてもアルバムにトータリティーがないし、ボーカルも仮トラックということがどこかわかってしまうシロモノなので、作品性と考えると難しいのだ。 とはいえ良い曲ももちろんあるのは、確か。美奈子のファンにとっては必聴なのも、確か。ファンならば「見上げてごらん夜の星を」「天国への階段」「つばさ」「命をあげよう」など、涙なしに聴くことは出来まい。大いなる未完のアルバム。8点。
楽曲はどれもいわゆる前向きJ-POPというか、結構あたりさわりない出来。アルバムの系譜でいうならば95年作品の「晴れときどきくもり」からエスノ臭、アコースティック臭を抜いた感じで、いまいち方向性が見えない。存在自体が未完だった「心をこめて」とはまた少し意味合いが違うのだろうけれども、同じような食い足りなさが残る。お蔵になるにはそれなりの理由があるのだな。おまけDVDも、ホントおまけという感じ。 そのなかにあってバンダイME解散後にMDによるダウンロード販売した経緯がある「満月の夜、迎えに来て」が一番の目玉なのだが、これが驚きの作詞・作曲が本田美奈子。いわゆるハイエナジーなディスコモノで、「マリリン」時代の本田美奈子がお好きな方にはたまらない逸品。久々にカッ飛んでるぞ。そういえば「Shining eyes」も美奈子作曲で、クールなディスコチューンだったよな。美奈子、もっと作曲させると面白い展開あったかもなぁ。そんなわたしは、ポップスの美奈子、ロックの美奈子、ミュージカルの美奈子、クラッシックの美奈子だと、ポップスの美奈子を取る人間ですとも。こういう自作ディスコ路線で1枚アルバムがほしかったな。まぁそれ以前に、リリースに足る支持がなかった、というのが当時の実際なんだろうけれどもね。むむむ。なんだかもの悲しくなってまいりました。 6点。 というわけで、二枚目だけでも話を―― 、と言っても、なかなかこれが語るに難しい。「売れなさそうだからお蔵入り」そんな楽曲たちが素晴らしいわけがない、そんな現実を叩きつけらたというか。ファングッズだなぁ――という音源ばかりで、こんな名曲が隠れていたのか、という驚きは残念ながら味わえなかった。 ロックアーティストとして挫折し、アイドルに戻ることも出来ず、支援者は潮が引くように彼女の周りからいなくなった。歌手としてどうやって立て直そうとしていたのか、混迷していた90年の美奈子、その迷いが音源にもモロに出ている。 あまり制作費のかけられなかったのだろう、作り込みの甘いペラっとした打ち込みメインのトラックに、美奈子らしくない精彩の欠いたボーカルが乗っている、というそれだけ。ソロ・アーティストとしてやり直しの1枚、となるはずなのに、これでは聞き手が再び美奈子になにかを賭けようと言う気持ちにはならないだろうよ。 作品から「これを表現するんだ」みたいな方向性は見えないし、作家陣も今までのラインから一新しているのものの、狙いは見えない(あ、不思議と当時の中森明菜と被っているな。都志見隆、佐藤健、関根安里、許瑛子とね)。本田美奈子が、レコードアーティストとしてはつくづく不遇であったことを証左するような一枚といえる。 このアルバムを発売中止して、しばらく後「演歌転向宣言」を打ち出し、さらに迷走すると思いきや、彼女は「ミス・サイゴン」と出会う。二枚目だけで判断すると、5点。 ≫≫≫≫≫本田美奈子 全シングルレビュー へ
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