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全アルバムレビュー 中山美穂



 85年「C」でデビューし、80年代はアイドル女優兼歌手として、90年代は主にトレンディードラマで大活躍した中山美穂。 類稀な美貌とコケティッシュな演技、政治力の強い事務所のバックアップによって、芸能界をサバイブした。
 そんな彼女が、ある時、インタビューでこんなことを言っていた。
 「もし、歌手か女優か、と聞かれたら歌手だと言いたい」
 その時既に、数々のテレビドラマに主演し、有名企業のCFに出演してきた彼女、パブリックイメージとしては、もう女優であった。しかし――いや、だからこそなのだろうか、わたしは歌手であると、彼女はそう言った。
 そしてそれは決して間違いではない。彼女はまぎれもなく歌手でもあったのだ。
 あまり知られていないことかもしれないが、アイドル歌手としてデビューして以来、結婚し夫とともにパリに移住するまでの十数年の間、彼女の歌手活動が途絶えたことは一度もなかった。 毎年のニューアルバムに、全国縦断のコンサートツアー、年に二回、ツアーを組んだ年もある。
 90年代に入るとシングルは、危なげのない無個性なドラマ主題歌ばかりでいささか退屈になるのだが、一方で、アルバムでは自らがプロデュースを行い、様々なアーティストとコラボレーションしつつ、毎回変化に富んだ意欲的なアルバムを連打している。 そのなかには「マニフェスト」「Groovin' Blue」など実験的・先鋭的ともいえる作品もある。
 中山美穂の音楽における自己表現はじつに旺盛であったのだ。

 彼女のこれまでにリリースした20枚弱のアルバムは実にバラエティーに富んでいる。 初期こそ、方向性が定まらず評価が難しいものがあるが、松本隆・筒美京平コンビが全曲担当したコンセプトアルバム『EXOTIQUE』以降のアルバムはほぼ全て良作といっても過言ではない。
 Cindyと一緒にブラコンにのめりこんだ『Mind Game』『Hide'n'seek』、井上ヨシマサとともにエスニックサウンドと戯れた『De eaya』、バラード集の『Mid Blue』『Deep Lip French』と実に様々なタイプのアルバムがある。
 中山美穂の作品は、当時から既にアイドル的なべたつきの配した、洋楽的な洗練のあるサウンドとして耳に響いたが、今改めて聴いても、古さは感じない。 特に「Groovin' Blue」や「OLIVE」などの後期作品に至っては、音楽的には、小泉今日子や原田知世のポジションに近しいだろうに、今となってはあまり音楽マニアサイドから愛でられないのが、とても不思議だ。
 中山美穂のボーカルも、上手とは言いがたいのだが、セクシーなのに上品で、コケティッシュでフェミニンと、稀有な魅力を持っている。特にバラードは独特の説得力がある。彼女のバラードは、愛に潤んだ、薔薇の花びらのような感じとでもいいのか。
 ふたたび彼女が歌うことはないかもしれないが、たまには、彼女の歌声に耳を傾けるのも一興ではなかろうか。


cover ◆ 「C」  (85.08.21/第11位/9.0万枚)
1.ときめき 2.スピード・ウェイ 3.センチメンタル通信 4.SEE THROUGH LOVE 5.「C」 6.海を感じる瞬間 7.あいつ 8.ロンリー・バースディ 9.LAST DRIVE 10.ガラスの雨
 大型アイドルとしてデビューした中山美穂の一発目――にしては、いまいち決まらなかった。彼女の練れていないボーカルと共に全体的にもっさりした印象。牧歌的です。埼玉とか群馬の女子高生の日常風景、みたいな。 同期の由貴や南野や美奈子らの一枚目と比べると落ちる。アイドルのデビュー盤としてはぎりぎり及第点というところか。
 作家が松本隆、筒美京平、萩田光雄、林哲司、網倉一也、岩里祐穂・未央コンビなど、作家陣もバラバラなところからして、スタッフも手探り状態で作ったろうことは容易に想像できる。林哲司好きとしては「スピードウェイ」はいい感じ。5点。


cover ◆ AFTER SCHOOL  (85.12.18/第13位/9.5万枚)
1.STARLIGHT VACATION 2.生意気 3.けんか友達 4.放課後 5.蒼ざめたペンダント 6.あ・そ・び 7.HEARTBREAK 8.「U」 9.ストリート・ファンタジー 10.白いはがき
 制服のようなブレザーの写真がコスプレっぽさすら感じられる大人びた中山のセカンド。とはいえファーストとさしてテイストはかわらず、双子的な佇まい。 三浦徳子、三浦一年、馬場孝幸など、今となっては「へー、こんな人が」という作家が楽曲提供。とはいえ方向性はいまだ決まらず、スタッフのやる気もいまだ感じられず。お手本は初期の明菜なのだろうがむしろ三原順子的。 正直、この時期って完成度においては完全に松本・筒美コンビ頼り。ふたりの手から離れた作品を聴くのは、結構、つらいです。5点。


cover ◆ SUMMER BREEZE  (86.07.01/第8位/8.8万枚)
1.Tropic Mystery 2.クローズ・アップ 3.Leave Me Alone 4.ひと夏のアクトレス 5.Ocean In The Rain 6.サインはハング・ルーズ 7.Rising Love 8.わがまま 9.瞳のかげり 10.You're My Only Shinin' Star
 三枚目にして、ようやく中山美穂らしくなってきた。作家は角松敏生、井上大輔、来生たかお、財津和夫を起用。目指すは杏里か。この、夏を意識したアルバム作りは正解。 それにしても「Leave Me Alone」「Rising Love」「You're My Only Shinin' Star」の角松プロデュース曲が段違い。ある意味このアルバム内で浮いているんだけれども、カッコいいんだから仕方ない。スタッフもここに何かを感じ取ったのか、これが後の彼女の基調となっていく。 アルバムとしての彼女のはじめの一歩といってもいい作品。代表曲「You're my only shinin' star」も生まれてめでたしめでたし。6点。


cover ◆ EXOTIQUE  (86.12.18/第6位/20.6万枚)
1.炎の舞 2.ペニンシュラ・モーニング 3.黄金海岸 4.霧のケープコッド 5.WAKUWAKUさせて 6.スウェーデンの城 7.インカの秘宝 8.熱い夜 9.SWITCH ON -ハートのスイッチを押して- 10.時の流れのように
 84年の南佳孝の傑作「冒険王」(松本隆プロデュース)の女性版といったところか。 全作松本隆・筒美京平・船山基紀による超強力盤。異国情緒をテーマに、インド、アフリカ、インカ、スウェーデン、ケープコッドと世界を駆け巡る。まだ中山の声が出来上がっていないのがちょっとばかり惜しいけれども、なに大した問題じゃありません。 植民地でのスパイ同士の恋と暗闘を描いた「ペニンシュラ・モーニング」やインディ・ジョーンズバリの探検行「インカの秘宝」などなど、有無を言わさぬ圧倒的パワーで、売れにくいコンセプトアルバムにもかかわらず売上は倍増。このアルバムをもって中山は偉大なる松本・筒美両巨頭から卒業する。10点。


cover ◆ ONE AND ONLY  (87.07.15/第3位/15.4万枚)
1.Liberty Girl 2.Singapore 3.Linne Magic 4.おこっChaiなランデブー 5.悲しみのライダー 6.Bye-Bye My Sea Breeze 7.真夏はNonfiction 8.Time Up 9.決心 10.Silent Night
 おっ、中山(とそのスタッフ)もとうとうやる気になったか。ロスに渡って、中山本人の意見もどんどん取り入れながら楽曲選定をしてじっくりレコーデイングしたそうだが、 確かに、ここに来てようやくプロジェクト・チームとしての「中山美穂」が出来上がったよう、作品の粒が揃っているのだ。 久保田利伸、小室哲哉、EPOなどの引きの強い作家達に囲まれながらも、トータルとして彼女の魅力が勝っている。決して彼女の色が消えていないナイスなプロデュースワーク。
 バキバキの小室テクノな「Linne Magic」、コメディエンヌの魅力がつまったキュートな「おこっChaiなランデブー」、むせ返るほどの青臭さが切ない「Bye-Bye My Sea Breeze」「決心」など、捨て曲一切なし。 松本・筒美頼りでなくても、もう大丈夫だ。シングルを入れないという強気ぶりも好印象だぞ。 このアルバム以降しばらくブラコン一辺倒のサウンドになっていくので、このアルバムにある良質で陽性のアイドルポップはとても貴重。8点。

cover ◆ Catch the nite  (88.02.10/第1位/34.9万枚)
1.OVERTURE (inst.) 2.MISTY LOVE 3.TRIANGLE LOVE AFFAIR 4.SHERRY 5.スノー・ホワイトの街 6.CATCH ME 7.JUST MY LOVER 8.FAR AWAY FROM SUMMER DAYS 9.GET YOUR LOVE TONIGHT 10.花瓶
 病気でぶっ倒れたりもした中山だけれども、なに大丈夫大丈夫。 復帰アルバムは、角松敏生の完全プロデュースによるファンキーな一枚になったが、これがまた、いいんだ。きらびやかな夜の匂いを漂わせながら一気に疾走。ドライブの友に是非、といった感じだ。このアルバムでの角松は、菊池桃子における林哲司のような役割、とでもいえばいいのか。サウンドだけ聞けばもはやアイドルという領域ではないぞ。 中山のボーカルも着実に力をつけている。名バラード「花瓶」をはじめ、「JUST MY LOVER」「Catch me」など、秀作揃い。
 復帰直後のファンの飢餓感からなのか、はたまた角松人気もプラスしたのか、前後のアルバムと比べて突出したセールスを記録し初の一位獲得。オリジナルアルバムでは最高売上枚数である。アイドル時代の彼女の名刺的アルバムといっていい作品。8点。


cover ◆ Mind Game   (88.07.11/第2位/25.2万枚)
1.Into The Crowd 2.Strange Parade 3.Why Not? 4.Cat Walk 5.Moonlight Sexy Dance 6.In The Morning 7.Mind Game 8.I Know 9.Velvet Hammer 10.Take It Easy 11.Long Distance To The Heaven 12.Husky Town
 ここで言い切ってしまおう。アイドル時代の中山の夏向けアルバムにハズレなしっ。 前作の延長か恋人の影響か、ブラコンにずぶずぶとのめりこんでいく彼女だけれども、これまたよくできた傑作っっ。 ざわざわとした真夏の街頭に分け入るようにはじまる「Into The Crowd」にはじまり、様々な恋模様・夏模様を描きながら、初の中山作詞・作曲作品「Long Distance To The Heaven」で過ぎ去りし日々を追想し、ラスト「Husky Town」で祭りの後の秋の街にたどり着くという、シングルなしでコンセプチュアルなつくり。 作詞は芹沢類、川村真澄。作曲は久保田利伸、Cindyをはじめ、当時の久保田利伸のアレンジャーチーム・マザーアースの面々、杉山卓夫、羽田一郎、キタローらが総登場している。確実に狙いは、女・クボジャー。同時期のシングル「人魚姫」では、同年の久保田のアルバム「Such A Funky Thang!」のプロデューサーRod Antoonをアレンジャーに迎えているしね。
 小悪魔な彼女の魅力が爆発する「Cat Walk」「Moonlight Sexy Dance」「Velvet Hammer」、夏だ海だとわかりやすく陽性な「Take It Easy」、夏の黎明の涼やかで淋しげな情景が秀逸な「In The Morning」などなど、どれも統一感があって、かつ粒揃いだけれども、 タイトル作「Mind Game」と「I Know」で今回初登場のCindyとの相性が最高。いままでにないフェミニンでメロウな彼女の世界。これはいい。 特に「I Know」は、まるで大理石の心地よい冷たさのような逸品。ちなみにここから「All for You」までは、Winkや松田聖子でお馴染み川原勝氏のジャケットワーク。9点。


cover ◆ Angel hearts  (88.12.05/第3位/25.2万枚)
1.Sweetest Lover 2.Too Fast,Too Close 3.Bad Girl 4.Diamomd Lights 5.天使の気持ち 6.Witches 7.瞳でLovin'You 8.Please 9.Try or Cry
 前作で確かな手応えを感じたのか。Cindyとのコラボをさらに深める。9曲中6曲がCindy作品。――というわけで、フェミニン・メロウなゴージャス・ブラコン歌謡の世界なんだけれども、ここまで行くとやりすぎの感も否めず。 全体に漂うバブリーなキラキラ感が、今となってはなかなか趣深いです。 詞ではバブル期の20代前半の女性の都会的な恋模様っていう、まぁ、つまりはユーミン・今井美樹路線に背伸びしてトライしている。まだ中山は18歳。そんなに急がなくってもいいのにさ。 オフィスラブを歌ったり、「私は魔女」などといきがってぶっている彼女が可愛いという御仁にはいいかも。 そのなか「Sweetest Lover」「Try or Cry」といったスロー系が出色。相変わらずバラード能力は異様に高い中山さんです。 それにしても、今回メインアレンジの鳥山雄司のカシオのシンセ音が懐かしいですな。ちなみに作詞は英詩の「Too Fast,Too Close」以外すべて康珍化。7点。


cover ◆ Hide'n'seek  (89.09.05/第1位/19.0万枚)
1.Party down 2.Hide'n'Seek 3.Destiny 4.Naked Cruising 5.Endless My First Love 6.Virgin Eyes (Edit Version) 7.Stardust Lovers 8.Island Blue 9.Split Love 10.You're My Only Shinin'Star (Present from Miho)
 「ありがとうCindy」思わずそういいたくなる。クレジットにも「Super Special Thanks」と最大限の謝意をあげているだけあって、彼女が居なくては恐らく成立しなかったであろう一枚。
 初めての秋リリースだけれども、これは発売日が延期になったのかな?つくりは夏一直線。 セクシャルで挑発的な詞にCindyの手による打ち込みビシバシのベコベコした強烈ブラコンサウンドにプラス、中山憧れの杏里の手によるわかりやすく爽快な「Virgin Eyes」「Stardust Lovers」の2曲、そこに中山自身の作詞が4曲、作曲が2曲と言う布陣。 中山のアーティスト志向が俄然強くなり、それでいながらクオリティーはむしろぐんとあがっている。Cindyは中山美穂という歌手の魅力を一番わかっている作家なんだろうなあ。
 ブラコンに転んで以降の彼女は、ざっくり言えばティーン向けの杏里路線といったところだったわけだけれども、この路線も杏里招聘でついにエンデイングを迎えたのか、このアルバムで辿りついた境地を成果に、ゆるやかに中山は音楽性を変化させていく。 いわばこのアルバムはアイドル時代の彼女の結論。それにしても「Destiny」はシングルに切ってもよかったよね。9点。


cover ◆ Merry Merry  (89.12.05/第9位/11.1万枚)
1.Some Day At Christmas 2.White Christmas 3.Without You 4.I saw Mommy Kissing Santa Claus 5.Say Love Me 6.Have Yourself A Merry Little Christmas 7.Silent Night,Holy Night 8.Long Distance To The Heaven (instrumental)
 彼女って、絶対に声で得してるよな。上手い・下手で云えば明らかに下手な部類に入るのに、このアルバムみたいなゴージャスなサウンドに実に似合う声質なんだもの。 というわけでゴージャスなA.O.Rサウンドによるクリスマス・ミニアルバム。 自作曲が二曲にスタンダードナンバーを織り交ぜ、という手堅いけれども、それ以上でもそれ以下でもないといえばそれまでといった感じのつくり。 ちなみに、同梱のブックレットでは歌手デビュー目前にして自らの命を絶った美穂の親友・遠藤康子のことを語った私小説が掲載されている。 彼女への追悼歌である「Long Distance To The Heaven」とあわせて読めば、落涙必至。6点。


cover ◆ All for you  (90.03.16/第3位/12.4万枚)
1.Introduction to“All For You” 2.Save Your Love 3.Lonely Girl 4.Semi-sweet Magic 5.My Love Is All For You 6.Midnight Taxi 7.Sail In Your Arms 8.Heaven Knows 9.Koiiro
 作家は毎度お馴染みCindyに、飛鳥涼に、当時今井美樹でぶいぶい言わせていた岩里祐穂・上田知華コンビ。中山も作詞作曲を二曲担当。 「angel hearts」再び、といった感じのメロウな一枚だけれども、前回と違うのは、作品の中で語られる愛に実感がこもっている、というところ。溢れる想いに潤んでいるのだ。
 あなたと一緒に生きたい、あなたに私のすべてを贈りたい、あなたの腕に包まれて永遠の海を漕ぎ出たい、そんな女らしい感情に包まれている。音までほんのり桜色だ。 聞いていると、恋に落ちると女って変わるものよ、と綺麗なお姉さまにいなされているような気分になる。他人のコイバナで盛りあがる特性がある人なら存分に楽しめる一枚。 なにも恋したからって相手に全てを捧げるのはあぶないですよ、と老婆心ながら忠告しつつ、6点。


cover ◆ Jeweluna  (90.07.18/第3位/11.2万枚)
1.くちびる 2.そしてその夏 3.女神たちの冒険 4.野蛮な宝石 5.泣かない指輪 6.Vermilion Crime 7.秒読みのJealousy 8.これからのI Love You 9.天国への鍵 10.白い砂のラ・メール
 「Jewel+Luna=Jeweluna」。というわけで、月や宝石のごとく妖しい輝きを湛えた中山美穂の毎年恒例夏のアルバム。 彼女の長年のオファーがかなって松井五郎と中山美穂の共同プロデュース。ちなみにプロデューサーとして自身の名が明記されるのはこれが初めて。 他、森高千里のサウンドメーカーであった斉藤英夫をはじめ、中西圭三、林田健司、崎谷健次郎と、新しい人材も大量導入。
 このアルバムでブラコン・アイドル路線のその後を模索しているのは確かだけれども、人材総入れ替えの割に新鮮味はあまり感じられない。 「野蛮な宝石」「Vermilion Crime」とか、いいんだけれどもなんとなく「こなし」っぽいのだ。計算の範囲内で収まっている感じ。 その中、崎谷作品「白い砂のラ・メール」「これからのI Love You」はいままでにない世界観。特に「白い砂〜」のフレンチっぽい瀟洒さは今までにない雰囲気があったが、この分野の開拓はなされなかった。ここ、もっと伸びしろあったと思う。 色々とトライしてみたものの「意欲作」とまではいかなかった、という感じだが、そのなかで意外や意外、中山美穂の作詞・作曲の「くちびる」「そしてその夏」「天国への鍵」が善戦している。7点。


cover ◆ De eaya  (91.03.15/第2位/12.5万枚)
1.メロディー 2.MANA 3.Crazy moon 4.JOKER 5.Paradio 6.GRAY 7.BINGO 8.Flash Back 9.COCKATOO 10.ひとりごと 11.Special Ever Happend
 新境地。井上ヨシマサ率いるATOMの強力なバックアップで民族音楽とハウスをフュージョン。開放的なサウンドが心地いい傑作。
 大貫妙子作詞・作曲の「メロディー」の流麗なストリングスに始まり、南国の海辺のざわざわした感じのするポリネシア風の「MANA」、 中山の艶っぽいボーカルが嬉しいラテンナンバーの「Crazy moon」、中山美穂の自作詞が情熱的にまくし立てる「COCKATOO」は「Rosa」の前哨戦といったところか。 Cindyのカバーであるバラード「Special Ever Happend」もゆったりと甘く磐石の出来。
  南国リゾート地のカフェで薄くかかっているB.G.Mという感じ。15年前のトラックは思えない洗練だ。 「つい最近日本に帰ってきた中山サンの新曲がこれなんだよ」といわれても聴かされたとしても納得するものがあるぞっ。 これは大貫妙子、上田知華、尾関昌也らの作曲陣の成果もあるだろうが、やはり井上ヨシマサのサウンドワークが抜群なんだろうな。
 このアルバムでは、アルバムの約半数の自ら作詞している中山。 「今まではドラマを撮りつつアルバム制作と言った感じて追い立てられるように作っていたけど、今回は仲間達とじっくりと作りあげることができた」といった(類の)発言をしている。 ここでの確かな手ごたえが、次作の完全セルフ・プロデュースへと繋がったのであろう。 井上ヨシマサとのロマンスというおまけも生んだ彼女のターニングポイントアルバム。9点。


cover ◆ Mellow  (92.06.10/第3位/14.0万枚)
1.Mellow 2.あるきなさい。 3.ゆっくり My Love 4.Platinum Cat 5.Silent 6.忘れなくてもいいじゃない 7.灼熱の心 8.はなしをきいて 9.kiss kiss kiss 10.Treasure 11.Mellow (CM Version)
 91年夏の発売予定が制作に頓挫。リミックスアルバム「Dance Box」でお茶を濁して一年、ようやく生まれた難産の初・全面セルフプロデュースアルバム。詞がほとんどが中山自身の手によるものとなった。
 ジャケットのセクシーなバックショットに果たしてどんな音がと聞いてみると案外普通なのね。前向きで明るく、健全な中山美穂。ううーん。それが実態としての彼女なのかもしれないが、ジュリアナ扇子がよく似合う井上ヨシマサ作編曲のハードコアテクノ「Platinum Cat」の下世話さみたいなものが美穂の音楽には欠かせないとわたしは思う。そういう音楽でのし上ってきたわけだしさ。 アイドルのセルフプロデュースは鬼門だよなあ、つくづく。
 彼女の場合、自分で作るも結構なんだけれども、その時は同時に音楽的なパートナーをしっかり立てたほうがいい。 デビュー期の筒美京平をはじめ、角松敏生、Cindy、井上ヨシマサと、そのあたりが立っている作品ほど出来がいいのだもの。6点。


cover ◆ わがままなあくとれす  (93.06.23/第4位/14.5万枚)
1.崖っぷち 2.Keep Awake 3.A New Day 4.JARA JARA Switch 5.Dear My Friends 6.Pastel In My Heart 7.真夜中のキッチンから 8.わがままなあくとれす 9.Horizon 10.Love For You 11.こんな日の雨なら大好き -The Rain Came Down-
 セルフプロデュース第二弾。タイトルとはうらはらに歌手としての意識がめざましい彼女。 93年は女優活動を少しばかりお休みして歌手に専念。ロスに渡り、現地の著名ミュージシャンたちとともにじっくりゆっくりと作られた。 作詞はほぼすべて中山美穂、作曲はCindy、都志見隆、M.Rie、Julia、Pfeifer Brozなど、アレンジはJerry Hey、Ian Prince、Tom Keane、Bill Meyer などなど。 今回は角松敏生、杉山清貴らのアレンジの担当経験もある志熊研三(Shiguma Ken)が共同プロデュースしている。サウンドに統一感があり、これは大正解。
 河合奈保子の「Daydream Coast」「ナインハーフ」、松田聖子の「Citron」、岩崎宏美の「Wish」「I won't break your heart」にあたる作品、といえばいいのだろうが、現地アーティストによる海外アルバムというだけではない。 歌手・中山美穂の成長がこのアルバムから垣間見える。 いつもの内省的でしとやかだったり、あるいは妖しく小悪魔な彼女はここにはいない。 あっけらかんと明るく、しかも、休みの間にボーカルのトレーニングも積んだのか、声にもいままでにない骨太な力強さがあるのだ。
 「崖っぷち」「JARA JARA Switch」の、派手なのにタフといった感じは今までにはないものだし、「Dear My Friends」の本当に楽しそうな彼女の表情も素敵だし、 スリリングなタイトル作「わがままなあくとれす」もいい。 親友・網浜直子と中山美穂の共同による訳詞「こんな日の雨なら大好き」も、今までにないハートフルな佳曲。 彼女が本当に作りたい作品であることが聴いてよくわかるし、クオリテイーも高い。上質なA.O.Rと、新しい彼女の魅力がスパーク。8点。


cover ◆ Blanket Privacy  (93.11.26/第9位/8.9万枚)
1.幸せになるために 2.Tell me 3.Midnight Taxi 4.Just my lover 5.女神達の冒険(アカペラ・ヴァージョン) 6.野蛮な宝石 7.Time after time 8.You're My Only Shinin'Star 93 9.In the morning 10.ラストシーンに愛をこめて 11.The Rose 12.あなたになら…
 ベストやコンピレーションが出るたびに、ちょこちょこと再録音することの多い中山さん、今回はクリスマス企画として発売されたバラード中心のカバー&セルフカバーアルバムとなった。サウンドプロデュースは前作と同じく志熊研三が担当。 シングル「幸せになるために」「あなたとなら……」の2曲以外はすべて新編曲で再録音している。
 ――と、これを安易なバラードカバーアルバムと侮るなかれ。作りとしては小泉今日子の「バラードクラシックス」に近い。あの曲がこんなに!?という驚きの連続のリアレンジで、しかもそこに迷いがまったくなく、かつ的確。 ミリオンセラーをモノにし、セルフプロデュースのアルバムも堅調、という、歌手としてもっとも充実していた時期だからこそ生まれた余裕の一枚といっていい。
 ラジオから聞こえている風の演出 (明菜の「Crimson」の「ミックジャガーに微笑みを」ね)の「Midnight Taxi」はよりジャジーでよりスリリングに、「野蛮な宝石」はよりあられもなくより野蛮に、「Tell Me」は千住明のオーケストレーションでより切なく。 正統アレンジも面白アレンジも吃驚アレンジも、全部包括してよゆーの中山美穂、「In the morning」「Just my lover」 で顕著なように、大して変わらないようでいて、きちんと表現の幅は広がっているのだ。8点。


cover ◆ Pure White  (94.06.08/第3位/11.2万枚)
1.Sea Paradise -OLの反乱- 2.Panorama 3.あみあげた夢 4.あなたを宇宙(そら)へ届けたい 5.タ・ク・ラ・ミ 6.星の盗人 7.Blue Stone 8.いたずらにまねしたり… 9.Title 10.ふったりのphotograph 11.Pure White
 ゴージャスでフェミニンで内向的でセクシャルで線が細くって、などなど、それまでの「中山美穂」のイメージを前作前々作で綺麗に拭い去った中山美穂。 今回もさらにそれを推し進める。このアルバムのコピーは「美穂じゃないよ、コレ」。 彼女のプライベートバンドKNACKとともにアルバム制作、河合奈保子の「Members Only」と同じスタンスといえばいいのかな、気の置けない仲間たちと音楽を作る楽しさに、満ちている。
 スコーンと抜けた青空のように明るく気さくで外交的。オフショットのような化粧っ気のないジャケット写真とともに、何か一皮剥けたようだ。意外な世界がそこに広がっている。 Chara、浜崎貴司、To Be continuedらと意外なアーティストからの楽曲提供もあり。 KOIZUMIX Production的な方向といえばいいのか、中山美穂の歌って趣味じゃないよな、と今まで避けてきた人のためにあるような一枚。今までの中山美穂が好きなわたし的にはちょっと評価が難しいのだけれども、意味のあるトライだったといえるだろう。6点。


cover ◆ Mid Blue  (95.09.30/第7位/14.5万枚)
1.16ブランコ 2.LOVE 3.追憶 -Reminiscence- 4.抱きしめたい 5.イタイ 6.SWEETN'S OUR SOUP 7.AFTERNOON 8.GAMES IS OVER 9.BROWN SHOES 10.SMILE AGAIN 11.Hurt to Heart 〜痛みの行方〜
 「わがままなあくとれす」「Pure White」で見せた外向的な美穂から一転、内省的に、わが肩を見つめた一枚。久々にCindyをプロデューサーに迎えたバラード・アルバムである。 リリックプロデュースとして小竹正人が初登場。ミキシングは名匠、アル・シュミット、ハリウッドのウエストレイク・スタジオでレコーディング。
 やはりCindyは中山の音楽の一番深いところで共感しているアーティストなのだなということがよくわかる。日常のなかにエアポケットのようにある些細な悲しみ。なにが理由ということもないのに、はらり涙が溢れてくる、そんな瞬間を丁寧に切り取っている。 なにかが彼女にあったのかもしれないが、悲しみに溺れきらない軽さが全篇に漂っていて、B.G.Mとしてさらりと流せる余裕があるのがいい。溝口肇の弦アレンジもいいスパイスになっている。 若い女性が聞いたならはまること必至。彼女がトレンディードラマの主演を何度も務める理由がよくわかろうというもの。7点。


cover ◆ Deep Lip French  (96.06.01/第13位/8.0万枚)
1.True Romance 2.Smoke 3.Spiritual Kisses 4.Angel 5.不意のKiss 6.It's More 7.ライカスタ 8.Sometimes 9.Rain Ring 10.Sound of Love 11.Thinking About You -あなたの夜を包みたい-
 引き続いてバラード色の強い一枚だが、前作より少し楽しげ。涙を払い、過去に小さく手を振って後に湧き出すやさしさや労わり、そしてちょっとした華やぎといった感じ。かわいらしいアルバムだ。 井上ヨシマサ、Cindy、小竹正人と、美穂のよさをよくわかっている人達が集っている。 溝口肇・菅野よう子夫妻の手腕が光る「True Romance」「Angel」「不意のキス」「Rain Ring」といったあたりが特に印象的。弦やピアノの音色が綺麗な曲が多い。 ピチカートと美穂の今までにないウィスパーボイスが耳にくすぐったい「Smoke」や、タイトルにも繋がるフレンチポップ「Spiritual Kisses」のキュートさもいい。 前作、今作とただの平凡なバラードアルバムでおわらない音楽的洗練がある。これは中山美穂の音楽というのがしっかり確立されている証拠だろうな。
 ――と、作品は悪くないが、90年の「All for you」以来オリジナルアルバムでは10万台前半の売上をずっとキープしていた彼女が、ここでついに10万割れ。 これは安室・華原大ブレイクの余波だろうか、明菜・静香もアルバムセールスをこの時期に一気に落としている。7点。


cover ◆ Groovin' Blue  (97.06.21/第28位/2.2万枚)
1.SYMPATHY 2.ANGELSOUL 3.小さな太陽 -CARROTRED- 4.YEAH! 5.PRECIOUSLOVE 6.SHINING FOR YOU 7.嘘はやめた 〜DISAPPOINTED LOVE〜 8.マーチカラー 9.付和雷同 -WHAT↑I↓DO- 10.月のリング 11.優しい人 12.RUBY IN GLASS 13.The Eternities
 これは傑作っ。今回は名アレンジャー武部聡志をサウンド・プロデューサーに迎えての一枚となったが、デジタルなサウンドをベースにしながらも、温もりある質感は、当時、世に蔓延った小室サウンドを駆逐するかのごとく、インパクト大。 ジャジーでグルービーでアンビエンス。音という名の、ぬるい水の中をゆらゆらと漂うような感じ。胎内にいるかのように心地いい、癒しの音空間だ。
 塩谷哲、内藤慎也、宮田繁男、上田知華らもいい仕事しているが、元・クライスラー&カンパニーの竹下欣伸編曲作品が物凄くいい。 特に、先行シングルとなった、彼の編曲で、美穂+小竹作詞、AMAZONSの大滝裕子作曲ーの「マーチカラー」が白眉過ぎる。 小さな水たまりに生まれては消える雨の輪のよう。小さな幻想をひとつの歌に閉じ込めたといった感じ。
 92年のセルフプロデュース開始以来、着実に力をつけてきた彼女のひとつの成果といってもいいんじゃなかろうか。これが中山美穂の独自の世界。アイドル時代や、ドラマ主題歌のシングルしか知らない人は是非聴いていただきたい。8点。


cover ◆ OLIVE  (98.06.10/第9位/3.4万枚)
1.NAME 2.Fiance 〜あなたのok わたしのyes 〜 3.Labyrinth 4.ELNINO 5.Oliveの呟き 6.Baby Pink Moon 7.コワレタライム 8.少年の瞳 〜For Knack 9.Talk to 彼の匂い 10.MISS YOU 11.Daddy 12.Jasmine〜しあわせなこころ
 「Groovin' Blue」の続編的な作品。前作が雨模様でモノトーンだとしたら、今作はからりと晴れて原色の鮮やかさといった感じ。 作家は前作から引き続いて、塩谷哲、内藤慎也、竹下欣伸が参加、プラス、五島良子、羽毛田丈史 Cindyらといった布陣。
 ソウルありボッサありサルサありで、遊び心いっぱいで色々とやりながら、さりげない大人の女性の日常が垣間見える、といった感じ。 いわゆる渋谷系なおしゃれな雰囲気が浮ついたように聞こえないのは、彼女の音楽性にブレがないから、だろうな。 発表順に聞いていけば、彼女の音楽的嗜好はくっきり見えてくるのだ。
 ってわけで、ミポリンの音楽の趣味のよさがわかる一枚かと。自室にはきっと素敵なCDがいっぱい並んでいるんだろうな。7点。


cover ◆ manifesto  (99.09.16/第29位/1.2万枚)
1.ESPRESSO'n' MILK 2.あきるまで 3.ビシソワーズ フラワー 4.SEVILLANA 5.Sweetest Lover 6.Mark 7.Simple Things #22
 Little Creaturesとの全面コラボによる実験的なアルバム。全七曲だけれども収録時間は40分越えてます。
 鈴木正人の異常なほどぶっといベース、シンプルな栗原務のドラム、青柳拓次の要所要所でボーカルを食ってくるアバンギャルドなギター。 彼らの作り出す浮遊感のあるサウンドに中山美穂のボーカルがゆらゆらと漂っているという感じで、いわゆる歌モノとして聞くと肩透かしを食らわされる。あきらかにLittle Creaturesのアルバムなのだ。
「中山美穂」を求めて買うユーザーには迷惑この上ないつくりなのだろうけれども、ここ数年のミポリンの音楽的なトライを鑑みれば、こういう展開も、また想定内。意味のない音と言葉の群れが、そこにただある、という感じ。曲間のインストをふくめて、ひとつのオブジェを眺めるように楽しみたい。
 アイドルでもない、ドラマ主題歌シンガーでもない、自分の音楽をアルバムにおいては表現してきた彼女のラストアルバムがこれ、というのもなかなか趣深い。 その後はダウンロード販売によるシングルを数曲リリースして歌手活動をフェードアウト。02年に辻仁成と結婚し、渡仏。時折CFで元気な姿を見ることができるが、歌手としての復活は、まったくない。7点。




2008.11.17
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