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メイン・インデックス少女漫画の館>全作レビュー 日の出ハイム


全作レビュー 日の出ハイム


 今、一番大好きなBL漫画家。日の出ハイムさん。
 リアルな世界とリリカルな言葉。胸がきゅんとくる切なさと、ぎゅっと抱きしめたくなるような愛おしさ。いま、青春のほろ苦い痛みときらきらと雲母のようにきらめく恋を漫画にしてもっとも素敵なのが、彼女の作品なんじゃないかな、と私は思う。
 どこまでもとめどなく続く日常のなかで、それでも飛びたいと願う。全てのくびきを解き放って、遠くへ、高く――。誰しもがそんな眩しい季節がある。そのことを、彼女の漫画は思い出させてくれるのだ。

 また、日の出さんの作品からは、色んなバックグラウンドを感じさせる。
 ジャンルがジャンルだけあって、アニメ・マンガ、ゲームに関して、こういうのが好きなのかな? というのは、もちろん、色んな音楽の匂いがするし、色んな映画の匂いもする。もしかしたら、バンド活動していたのかなとか、劇団とかにも入っていたかな、とも思えるほどだ。絵画や文学の気配も、時には感じる。
 とはいえ彼女の作品が、衒学的、オタク的というわけではないのだ。
 日の出さんは、きっと「好き」の引出しがとても多い人なんじゃないかなぁ。 色んなものに接して、そのなかで、自分の「好き」を見つけてくるのがきっと得意な人なのだろう。 このジャンルなら、こういうのがいいな、とか、これもいいよね、と。心の壁をあまり高くせず色んなものを楽しめる人なんじゃないかな?

 それはなにも文物だけじゃない。朝焼けのプラットフォームであるとか、季節の変わり目の風の匂いを感じた時であるとか、冬の夕暮れの家々の明かりが灯る瞬間であるとか、そういう普段の生活に転がっている様様な点景を愛することもできるんじゃないかな。
 荒川土手近くの東京の下町であるとか、高崎や前橋あたりであるとか、多摩川沿いあたりのリバーサイドの団地群であるとか、彼女は物語の舞台を繊細にロケーションにしつつも、常にそこに「ここでなくては」というリアルが立ち込める。どこにでもあるありきたりの暮らしだけれども、それは愛すべき暮らしなのだと思わせる、そういう描き方なのだ。
 それは、登場人物の心においてもそうで、ありきたりの恋愛を描きながらこれしかないと思わせ、ありきたりだからこそ、微笑ましく暖かい気持ちにさせてくる。
 日の出さんの物語は、時代物でも現代物でも、いつも「そこ」と、そこに暮らす「ひと」の物語――土地と心に深く根ざした、血の通った物語なのだ。
 常にその物語は、たしかにそこにある、と思わせ、善なるものを信じる心、温かみを感じずにはいられない。そこに作者の、他者へ対する共感と深い愛をわたしは見出さずにはいられないのだ。
 ――というわけで、遠い昔に発行してとっくに売り切れてしまってる同人誌まで漁って手に入れている。ええ、ただのファンですよ、わたしはっっ。


cover ◆ ファーラウェー  (2005年8月 / ビブロス)
1. ファーラウェー 
2. オーバーザレインボウ 
3. アザミヶ原18号線 
4. スリーピース・スピリッツ
5. 河川敷はひみつきち 
 空ばかりが広い田舎町で暮らす少年の憧れと夢と恋と性欲としょっぱい日常を描いた表題作「ファーラウェイ」とその続編「オーバーザレインボウ」。
 70年代の東京郊外、繊細な面影を持つ新任教師と彼の切ない過去を知った少年との恋「アザミヶ原18号線」。
 イギリス、夏のロックフェスで出会ったふたり、束の間の恋のはずが……「スリーピース・スピリッツ」。
 身内の自殺に荒んでしまった幼馴染み、それでも彼を慕ってしまう少年、ふたりの河川敷のプレハブ小屋での《秘密》「河川敷はひみつきち」。

 いなたい青春の、愛と性の日々を叙情的に、ノスタルジックに描いた、初の単行本。日の出ハイムの基本形といった作品が並んでいるんじゃないかな。 作品からぶわっと体臭のように漂う日常のあるある感と、質の高い詩情の融合、これですよね、これ。 お馬鹿でえっちで不器用でまっすぐ純愛。いつだって彼らは手の届かない遠い彼方を見上げているのだ。
 彼女の現代モノ漫画は日本を舞台にしながら常に「いまは失われた、ここではないどこか」。それがなんだか切ない。
 それにしても、「スリーピース・スピリッツ」の、うわっつらでは強がっているけれども、内心へたれな受の子の、あぁ、っなんてかわゆいことよっっ。んでもって攻めクンの明るく能天気な豪腕っぷりっっ。こういうカプ描かせるとホント絶品でごわす。 「アザミヶ原18号線」のような古典的ともいえる繊細なJUNEもまた良しっっ。
※ ビスロス倒産により絶版。後に「エンターブレイン」より再刊行しています。


cover ◆  花にて候  (2005年9月 / ビブロス)
1. 花にて候
2. L’INTERDIT -禁忌-(ランテルディ)
3. 春の夜はさくらに明けてしまひけり
4. 野のきよら山のきよらに光さす
5. てんぐのもり
 若き忍・晃太郎「俺のわざを見てくれ」と、ひそかに慕っていた男を伽に誘うが――タイトル作にして著者初の商業作品「花にて候」。
 村のはずれに住まう《カクレ》の子・陣三郎、刀を取り上げられた名主の息子・弥助、戦国末期の農村を舞台にしたひとつの恋「L’INTERDIT」。
 江戸初期、足抜けした美しき忍・百鬼の紋四郎と道中で出会う長閑に暮らすものどもとの交歓を描いた「春の夜はさくらに明けてしまひけり」「野のきよら山のきよらに光さす」。
 若武者が逢魔ヶ時の深山で出会った妖しき童子「てんぐのもり」。

 「ファーラウェー」からわずか一ヵ月後に発売されていて、ちょうど対になっている単行本といっていいかな。こちらはもうひとつの彼女のお得意路線、和風ファンタジーを集めた1冊。
 鎌倉〜戦国〜江戸初期を舞台に、時代の流れに翻弄されながらも精一杯生きる若者の愛と生を描いている好編。 歴史に名を刻むことのなかった人たちの、しかし確かにそこにあった愛や悲しみ、些細な幸福、ままならぬ運命。日の出さんの歴史漫画の焦点はいつも民草の中にあって、そこがとても共感できます。 この時点で時代作家としてもうしっかり成立しているといっていいんじゃないかな。
 ファンタジー・歴史系は「商業やおい」の鬼門、などという噂もちらほらありますが、これからも是非とも歴史・時代系でも活躍していただきたいな。
 ちなみに――、同人誌で出版した「L’INTERDIT」の後日談、「華ごよみ」がすげぇーかわゆいんだよなぁっっ。 血が熱く義に篤い泣き虫の弥助ちゃんがもう、たまらんっっ。激プリでごわす。男の泣きがかわいいっっ。再刊行するときは、これを是非収録をっっ。 ああっ、あと、紋四郎たんもねっっ、あんなにかわういのにっ、賢く小狡く逞しいところがさすが忍びというか、こいつは相当悪いことやって生きのびてきた奴だよっっ、こんなにほっぺがぷにぷにしててかわいいのにぃぃっ、っていうそこがたまらんですっっ(――なんだそりゃ)。これも続き読みたいなぁ。
※ ビスロス倒産により絶版。


cover ◆ それもこれもが恋ってもんだろ。  (2005年10月 / 海王社)
1. あいつほんとにやなやつなんだぜ。 
2. それもこれもが恋ってもんだろ。  
3. トーキョーコンクリートリバー 
4. ブルーブルーラグーン 
5. 梅ノ谷桃源郷(ユートピア) 
 高校三年間、たまたまずっとおんなじクラスでなんとなくつるんでいる悪友、百瀬、ふとしたきっかけでなぜかあいつを意識するようになって――「あいつほんとにやなやつなんだぜ。」。
 結局ふたりは恋人になったけれどもなんだかうまくかみ合わず、大学受験でこれからのことも気になりだして――続編「それもこれもが恋ってもんだろ。」。
 下宿の高校生に兄貴面してつきあっていたら、なんだかノリでエロい展開になって――巣鴨の下町を舞台にした「トーキョーコンクリートリバー」。
 南の島で遭難してしまったふたり、一緒にサバイバル生活をおくるうちに芽生える変な恋心「こんなのは錯覚だ」そう思いつつも――「ブルーブルーラグーン」。
 戦国時代、いわれなき咎を受け主家を飛び出した若武者が旅の途中立ち寄った里で受けた《もてなし》、そこで出会った少年との恋を描いた「梅ノ谷桃源郷」。

 結果的に3ヶ月連続リリースになった第三弾は、ダサくいけてないありきたりの恋愛模様とあっけらかんとしたエロが、なんだか可愛らしく暖かい作品が集まった。
 「おめえの顔エロくてマジひびんだよ」「がーん」(「それもこれもが恋ってもんだろ」)
 ――このおバカなやり取りよっ。恋人たちの青く能天気な日常――けれども、当人たちにとってそれは大事件なのだ。
 「あいつほんとにやなやつなんだぜ。」にある、イカヅチのように降って落ちてきた恋の確信。「バーカ」「好きじゃねぇよ」といいながらキスしあうふたり。 「梅ノ谷桃源郷」の、無学文盲の少年が、読むことの出来ない恋人からの手紙をじっと懐におしいだいている様。 「トーキョーコンクリートリバー」の「エロから始まる恋だってあるのさ」というあっけらかんとした姿勢。
 それら、ありきたりの恋をありきたりのままに描いて、それでいてそこにある「なにか」を表現してしまう。それが彼女の才能だと、私は思う。"属性"で読者に下世話なアプローチをかけずに、きちんと内面の魅力と、だからこその、愛であり恋を描いている。
 その自然な姿勢は性描写においてもそうで、ラーメンのトッピングを無言でトレードしあう恋人同士の親しみと同じ位相で、家族が留守中の自宅で急いではじめるセックスなんてのを、あからさまに描けちゃう、歴史を描いても純愛でありながら日本古来の土着的な性器崇拝とかもさらりと取り込めちゃう。 エロシーンの描写もあからさまなのに、とはいえそんなに下品な印象を受けないというか、作品から、読者の劣情をむやみにひきだそういう感じがしない。むしろそれが、暖かく好印象になるというこの才能。好きです。
 ネームのリリカルさも、ここぞというキャラの表情(「きひっ」と笑うヅカちゃんとか、「オラ、字が読めよねぇんだよ」の嘉七ちゃん――この子、冒頭なんてほとんど「幸福な王子」だよね、とかっっ)も最高。


cover ◆ 花の学蘭ハニー  (2006年9月 / 海王社)
1. 花の学蘭ハニー 
2. 花の学蘭ダーリン 
3. 翔くん、お家にかえろ? 
4. 裏通りのカテドラル 
5. アラシガハラ 
 惚れた弱みだ、愛する浅香鉄平のために廃部寸前の西高応援団を立て直す男一匹、大門寺菊の「花の学蘭ハニー」。
 そんなふたりは「親友」――のつもりがなんだかもやもやと変な雰囲気になってしまって、の続編「花の学蘭ダーリン」。
 東京郊外、リバーサイドの団地群。黄昏時、いつもぽつねんと団地の真ん中の公園に佇むわけありの男の子、なんとはなしに話し掛けてみたら――。家なき子の家族再生ともいえる「翔くん、お家にかえろ?」。
 ひとつの噂。大聖堂裏、マジックストリートの紅色のストールに「フランス煙草を売ってくれ」と云うと金貨一枚でやらせてくれるらしい……。偶然通りかかったそこ、ひそかに思いを寄せるクラスメートがストールを巻いて立っていた。ヨーロピアンクラシカルな「 裏通りのカテドラル」。
 戦国時代、伊賀の郷士の跡取り・草佐衛門は、子飼いの下忍・ヤマカゼとひそかに逢瀬を交わしていたが――エミリ・ブロンテの「嵐ヶ丘」をベースにした「アラシガハラ」。

 ……ツ、ツボだ。ばっちりがっつりツボだ。か、かわえぇぇ。表題作の受の子、浅香鉄平っっ、お約束の別れのキスがないのに、「えっ、ちゅうしないの?」という顔した次の瞬間、「なにおれ期待しているの、はしたない」といった感じで俯いて顔を赤らめるお姿が、うううううっ、たまらんんんっ。 まっすぐ頑な一本気なぁのに、どっかガードが甘いところが、カッコいくってかわぁわういっっ。行き着くところまでいってもうてるのに、「おれたちこんなことしていいもんなの」って、いまさら戸惑いますか、あなたはっ。
 脳みそはエロでぐるぐるしているのに、現実となるとからっきしウブい10代の恋模様の、あるある感の、まあなんてかわいらしいことですかっっ。 営業とか編集とか、色んな都合なのか、毎回毎回きちっとエロエロなシーンを入れているのも、さほど違和感がなく、とはいえただのエロ話にはならない、切なく淡い少女漫画の系譜でいてくれるのが嬉しいじゃあないですかっっ。やおいはこうでないと。
 一方、「翔くん、お家にかえろ?」と「裏通りのカテドラル」は、古式ゆかしいJUNE。ともに「幼き聖娼婦」の物語ですよね。 「翔くん、お家にかえろ?」は義父にレイプされる日々をおくっていた少年の幸福への階といった話で、「裏通りのカテドラル」は身内のために男娼に身を落とした少年の、ひそかなる純愛がテーマ。 「裏通り〜」のラストシーン、主人公エマの愛の告白が、眩暈するほど気障で、でもそこがかつての24年組の少年愛マンガっぽくってとっても素敵っっ。
 「アラシガハラ」は原作の「嵐が丘」というより、松田優作主演で戦国時代を舞台にした邦画版の「嵐が丘」のイメージかな? これもまた、草佐衛門すわんがたまらんっっ。ヤマカゼをはじめて誘惑する時の魔性っぷりとかっ、ラストシーン、刀を構えヤマカゼに対峙しながらの愛の告白とかっっ、 ストイックに言葉少なく情を交わし合うふたりがもうたまらんですばいっっ。日の出さんの受けの子は笑顔が男殺しだよね。


cover ◆ ビューティフルマイスカイ  (2007年6月 / 海王社)
1. ビューティフルマイスカイ ( 前・後編 ) 
2. ビューティフルマイスカイ ( 番外編 ) 
3. デュアルコミュニケーション 
4. アイロニカルエスカレーション 
5. Jump! 
 事業に失敗し失踪した母の借金数千万を肩代わりする宮坂潤之助、19歳、彼は回収屋の手引きに男娼となるが……という、表題作「ビューティフルマイスカイ」が一番ツボった。
 飄々と売春してしまう主人公のあっけらかんとした強さ、しかしそこには唯一の肉親である失踪した母を思う気持ちがあり、また彼を男娼に堕とした張本人、回収屋・巽にしても主人公を思う不器用なやさしさが常にただよっている。
 バイシュンは体が資本と、潤に手弁当をもたせる巽。ちょっとした誘惑のつもりで風呂あがり裸のままでポカリスウェットを飲む潤、それに背中を向けて煙草を吸う巽。悲惨で目を覆いたくなるようなどぶ板暮らしにも、どぶ板なりの日常と愛と恋がそこにはあるのだ。
 番外編は、ラブホテルのバイト従業員・タイキと、セックスが好きだからと学生ながらバイト感覚で体を売る男娼、セイヤの物語。これまた本編と同じく大都会トーキョーの地べたを這いつくばる若者の恋と青春の物語かな。洗足池のボートのシーンが、なかなかいいアクセントになっている。
 日の出さんの漫画って、さらっとしてて結構、愛が深いんだよね。 愛ではどうにもならない現実のどうしようもなさをちゃんと描きつつ、やっぱり愛しかないと思わせる。
 もうひとつの「デュアルコミュニケーション」〜「アイロニカルエスカレーション」はアホアホエロエロ日常やおい。まさしくやまなし落ちなし意味なしで、出来上がりきった大学生夫婦なふたりの日常をおバカなエロ〜ス満載でお送りしております。恋人同士の、ちっともロマンチックでない――とはいえ、あるある感満載のセックスシーンに、思わず半笑いでニヤニヤしてしまう、しょーもなさ。こういうアホエロ、最近日の出さん商業じゃ描かれてませんね。
 「Jump!」は日の出さんお得意のいなたい青春モノ。秀才眼鏡――だけれどもヘタレな攻めと、かわいく無邪気なわんこ――だけれども意外と大胆な受、のおふたり。 そんな幼馴染みのふたりが、お互いを意識して、距離をつめたい、けれどもできないじりじり感、そんな不器用な若気に萌えるしかっっ、という一品。
 カッコ悪いのは、なんてカッコいいんだろう。そんな青くダサいところが可愛い作品集と言ってていいかな。


cover ◆ ファーラウェー(新装版)  (2007年7月 / エンターブレイン)
1. ファーラウェー 
2. オーバーザレインボウ 
3. アザミヶ原18号線 
4. スリーピース・スピリッツ 
5. 河川敷はひみつきち 
6. メムル街のアストロノーツ
 ビブロス版を再編集し、さらに同人誌発表作「メムル街のアストロノーツ」を収録した一品。 「メムル街〜」は「河川敷はひみつきち」登場のふたりによるセルフ・パラレルなSFファンタジー。 サイバーパンク以前のアナログ感たっぷりのレトロなSF世界( ――丸い銀色のロボットがぎしぎし動いてたり、2Bの鉛筆みたいなロケットが宇宙を飛んだり、というアレね )へのオマージュがつまった、でもガチのやおいであります。 「おれはいつか アストロノートになりたいなぁ」って言葉に、ぐっと来るようなリリカルな御仁には是非。


cover ◆ 針のかたなと御器のふね  (2007年7月 / 大洋図書)
1. 針のかたなと御器のふね 
 小さい体に大きな野心、身の丈七寸五分の住吉の兵九郎は、住み慣れた故郷を後に、京の都で自分試し――、という日の出さんお得意和風路線。BLお伽草紙。しかも初の長編だぞっっ――というわけなんだけれども、うーーん、今までの単行本、すべて太鼓判つきの大オススメ作品、はずれまったくなしっっ、だったんだけれども、今回は作品のフォーカスが絞りきれなかった感じするなぁ。
 や、これ、萌え指数でいったら、今まででダントツなんですよ。ぶっちゃけ。一寸法師をはじめとするお伽草紙の色んなエピソードを色々色々をミクスチャーして再構成された世界観は、あ、日の出さん、この世界が好きなんだな、としみじみ実感できるし、実際、ぐっとくる萌えシーンもいっぱい。ここがかわうい、あそこが萌える、いちいちあげたらきりがないさっっ。
 けど、完成度でいったら、今ままでの中でちょっと落ちる。
 なんでだ。どうしてだ。考える。
 そういえば、日の出さんの今までの作品って同人を含め、ぜんぶ"ふたりの物語"だったんだよね。個と個が鏡合わせのようにむかいあってて、お互いの対話で物語が進展していく、っていう、まぁ、BLっていうのは、そもそもそういうものなんだけれども。
 んで、今回、主人公格を兵九郎、捨丸、藤原琴平、源八雲、と四人も用意してしまったので、そのあたりが散漫になっちゃったのかなぁ。
 ま、基本、琴平×兵九郎と八雲×捨丸というふたつのCPで、そこに捨丸の出自がらみの大枝山の鬼退治とそこに一寸法師の兵九郎の立身出世が絡み、って感じだったわけだけれども、そのあたり上手く融合できてなくって――と、ぐるぐる考えていて、今、ふと気づいた。
 これ、カップル同士のLOVEな話じゃないんだ、そもそも。 家族とか仲間の感じ。そういう四人の家族愛とか同士愛とか主従愛の世界なんだよ。一番近いのが「RPGのパーティー」かな。
 だからね、この話、BLなのに、ラブシーン、エロシーンが、わりと蛇足。え、なんで捨丸が輪姦されてるの? とか、え、なんで最後兵九郎と琴平がキスしてんの?って思っちゃう。 これら、ホント「やおい雑誌のノルマです」という感じで、今までの日の出さんの作品、そのへんの編集サイドからの要請なのだろうエロ部分も、けっこう作品性に絡めてきちんと昇華しているところがあったんだけれども、今回は頁数もほとんど割かれず本当に蛇足というかサービスカットという感じ。(――昔のJUNEや24年組くらいしか知らない人には驚きでしょうけれど、最近のBLは、もうあからさまに「ノルマです」いう感じ、作者も明らかに乗り気でない感じで強引にモロだしエロシーンに突入する作品が実に多いのですよ)
 だからそのあたりのラブ要素をばっさり切って、もう琴平×兵九郎に関しては「行き過ぎた主従愛?」でとどめたほうが綺麗だったかもしれない。――て、今のやおい雑誌でそれはとても難しいことなんでしょうけれどもね。
 ま、でも兵九郎ちゃんはかわういし、琴平さんは色っぽくっていけずだし、八雲さんは無骨でカッコいいし、捨丸は可哀想だし、それだけでごはん何杯でも食べられるので、わたしはいいんですがっっ。
 特に、兵九郎ちゃんっっ。かわうすぎるるるるぅぅ。わしも一匹欲しいぃぃっっ。頭にお椀被ってる姿とか、必死に真言となえている姿が、とってもらぶりぃっ。
 「春の雨に濡れていけ」の早乙女くんといい、「花の学蘭ハニー」の鉄平といい、つっぱらかってる天然っ子を描かせると、日の出さんの右に出る者、いないんじゃなかろうか。
 意外と泣き虫だったり、つまんないことでぐだぐだ悩んだりしてたり、そのくせ見え見えの強がりをしたり、でも迂闊に本心をひと言ポロリとこぼしたり、って描写がいちいちリアルで、萌える。
 そうそう。山の章で野犬の群れを倒す兵九郎ちゃんのお姿。まんま(ゲームの「どろろ」の)百鬼丸でわらた。かわカコイイよぅ。じたじた。兵九郎ちゃんは琴平さんにずっとからかわれていればいいと思うよ?


cover ◆ 微炭酸恋愛 (2008年11月 / 海王社)
1. 微炭酸恋愛
 ドゥルルルルルルル……。
 発表しますっ。2008年、まこりんやおい漫画大賞はっ、日の出ハイムさんの描かれた「微炭酸恋愛」に決定いたしましたぁぁっっ。わーわーわー。どんどん、ぱふぱふ。おめでとう、おめでとうぅ。おめでとぉぉぉーーっ。
 って、わけでついに俺的な栄誉に輝いたね、な一冊(――なんだそりゃ)。今年一番萌えた商業BLといったら、これしかないのですったらっっ。萌ゆる。死ぬる。溶ける。かわういのっ。かわうすぎるのぉぉ。もうね、きゅんきゅんきまくりだよっっ。
 ――冷静になって、語る。
 高校水泳部のエース、風間隆次(タカ)、忘れ物を取りに戻った夜の教室で、思いつめた会話をしている人気者の同級生・道永郁人(ミチ)と日本史の教師・鮎川諒を見てしまう。 帰り道、ミチのタカへの告白「オレが先生のこと、一方的に好きなの」――。 群馬県の小都市を舞台に繰り広げられる不器用で甘酸っぱい恋の物語――といったところ。西炯子の「STAY」シリーズのBL版と思っていただければいいかな?
 この方の、作品の圧倒的なリアリティーってなんなんだろうなぁ。 やおいなんてぇのは、すべて「現実にはない世界」の物語なのに、読むたびに溢れるこの「あるある」感。 こまかい心の機微であったり、生活の見える風景であったり、ホントにリアル。
 今回にしても、北関東の茫漠として長閑な感じ――夏の夕暮れ時の雷雨に、冬の朝の冷たいからっ風、送り迎えのクルマに、地元民の集まる居酒屋、ショッピングモールのだだっ広い駐車場、畑や田圃をまっすぐに突き抜けるバイパスと、その周りにあるラブホテルやらパチンコやら産直センターやら、といったああいうところで暮らしいている若者の話だな、というのが体感としてよくわかる。田舎なのでデートする場所があまりなく、色んな場所でかぶっちゃったり、とか、ふたりきりのドライブでもクルマはファミリーワゴン、とか、ホント、あるあるあるある、という感じ。
 常に物語が、土地に心に、根づいていて、そこに生きるものどもの些細な日常と、その中にある喜びと悲しみの物語なんだな、というのがわかる。 だから、そこに描かれる、愛を知るということ、愛の切なさ暖かさを知るということが、確かな力を持って読み手であるわたしに伝わってくるのだ。
 今回は四人の主要キャラクターそれぞれの視点で物語を進行していくという形式で、回ごとに視点がかわっていくのだけれども、ちょっと複雑な形式を余裕でこなしているのはもちろん、その効果で、四人の愛と思いがそれぞれ重なり合い、じつに暖かく、より深みのある仕上がりになっているのだ。
 確かな愛がここにある。そう言いきれる世界が広がっている。
 とにかくっっ。ミチちゃんが回を重ねるごとにどんどん受け臭くなってくのが、たまらんっっ、というかっ、ぽつねんとした表情が激かわでごわすっっだし、攻めのタカくんも若きもののふという感じで素敵だっしっ、鮎川と寿臣のふたりも、好きあっているのに向き合えない大人で切ない恋模様がた、たまらんのですよっ。
 日の出さん、非やおいのフツーのちょっと年齢層高めの少女誌で描いたら、絶対ブレイクすると思う。 BLって、ほら、出版業界内でもちょっと隔離されてるやん、その壁を突き破る一般性とクオリティーがあると思うし、ホモというだけで読まないのならもったいないわけで、わたしが編集者とかだったら、絶対そういう風に手引きするけど、でも、いいの、わたしは一介のやおらーだから、そんなことはしない(笑)。 それに日の出さんの描く作品は「やおい」という場がきっと一番光ると思うから、それでいいの。吉田秋生とか岡崎京子にならなくって、いいの。
 ちなみに原題は「グリーン・アンド・リバティ」。編集との打ち合わせで、連載途中から改題されたけども、 最後まで読んで、原題のほうが日の出さんらしいセンスで、より作品の雰囲気を言い表しているかなと思った。 もちろん「微炭酸恋愛」ってタイトルが悪いわけじゃないんだけれどもね。


cover ◆ プラスティック・ロマンティック (2009年02月 / 大洋図書)
1. プラスティック・ロマンティック
2. ロンリーロードローラー
 これもまたいいっっ。これと同時期に「春の雨に濡れてゆけ」「微炭酸恋愛」を連載していた日の出さんだけれども、この時期にひとつ、壁を乗り越えたんじゃないかな。画風も作風も本質的な部分は変わらないものの、ほんの少しだけ変化して器が大きくなったように思える。
 今回はなつかしの80年代オマージュ。デビュー時に「アザミヶ原18号線」で70年代の空気を再現したように、今回は80年代ノスタルジア。
 ウォークマン。深夜ラジオのリクエスト。回転数を間違えたレコードプレイヤー。ファンシーグッズ。 電話ボックスでの長話。馴染みの喫茶店での長話。喫茶店のインベーダーゲーム。駅の伝言板。改札口にはリズミカルなハサミの音。きらきらのテクノポップ。「笑っていいとも」に「ザ・ベストテン」。ワイドショーレポーター。などなど。
 今はもうないかつての風景とともに描かれる青春の風景――って、もうこれはやおいではないよね、フツーにメインのカプのラブシーンらしいものもさしてないし、熱烈なる友情、ってあたりで成立している。
 軟派な高校生・梅吉丈(ジョー)は、偶然見かけた喧嘩で、硬派な美少年・坂上千緋呂(チヒロック)に一目ぼれする。 馴染みのサテンでレスカを飲みながらジョーはチヒロックに言う。
 「ブロードウェー、ニューヨークの摩天楼、空へと続くフリーウェイ! いつか一緒によう、自由の女神に挨拶しにいかねぇか」
 ああ。いいなあ。素敵だなあ。もう、この時点で私はやられてしまった。このもどかしいほどの熱さ、率直なまでの憧れ。
 それぞれの少年に、それぞれのしがらみや人生がある。それでも、そのくびきを解き、飛ぼうとする。それが、青春ってものなんだよな、と、しみじみしてしてまった。
 最後のモノローグがカッコよすぎるので、抜粋。
音楽をいっぱい知っているのが カッコよかった
洋服をキメキメに決めるのが カッコよかった
格好をつけることが カッコよかった
ニューヨークや パリや ロンドンが 輝いて見えて
みんなが何かに強く憧れていた
青春? そうだな
俺たちはたまたまそうだった
今はもうない? いや
あるだろ 今も
 前々っから思っていたのだけれども、日の出さんって、作品から、なんか音楽の匂いがするんだよね。音楽人種の書く作品って感じする。
   洋楽はUKロックを中心かな、邦楽もナツカシものから今の流行に至るまでに結構いろいろ聴いてる人だと思う。バンド活動もきっとしていたんじゃないかな? わたしが編集だったら、「NANA」みたいな青いバンドモノをBLとして、描かせてみたい。絶対いいものが出来るような気がするけどな。
 あ、そうそ。脇役のヒカルのロリッ娘ぶりにはびびった。これはもう露骨に、男性読者のハート鷲掴み系の天然系ボク少女ですぜ? こんなキャラを出せるあたりも、変化のひとつかも。

 おまけの短編「ロンリーロードローラー」も、これも爽やかな小品。
 ある大企業の一大スキャンダル――その責任を一身に引き受けて死んだある初老の企業戦士、そのかつての部下と息子がひょんなことから出会い、ともに男の思い出の地、北海道・中標津の開陽台にむかう、というロードムービー風の短編。
 ままならぬ日常をそれでも僕らは生きていかなくてはならない、でもそれは決して哀しいことでないのだな、と、思える。ヘンテコなご当地ゆるキャラにけらけら笑うよう彼のように、軽やかにニコニコ笑っていけたらいいよね、あなたも、私も。


cover ◆ 春の雨に濡れてゆけ (2009年09月 / 飛鳥新社)
1. 春の雨に濡れてゆけ
 ――中学生時代の同級生・大越と偶然に会社で再会した早乙女。野球部のあいつは中学時代のオレのヒーローだった。でも今は関係ない。ただの同僚。そうおもっていた……。――

 り、り、り、りーまんやおいじゃないかぁっ。
 リーマンやおいがなにより苦手な小生ですが、フツーに萌えた。てかなんでリーマンやおいが苦手だったのか、なんとなくわかった。世間一般のリーマンやおいって、ぜんっっぜんっ、大人で会社でサラリーマンな感じがしないから、なんだよね。
 「やおいなんて、所詮ドリーム。嘘ハッピャクでいいじゃないのよ」
 ま、確かに、そうなんだけれどもさ。こんなんで会社が回るか、仕事が取れるか、いいかげんにしろ。仕事しろ、仕事。ここは『ほんにゃら商事』か――、と。やっぱ、どうしてもいいたくなる。野暮だとわかっていても、そういいたくなる。ずっぽり世間の波にもまれて、毎日タイムレコーダーがっちゃんこと押してお金稼いだりしますと、どうしてもそこまで強固なドリームが保てなくなる。なりますともさ。
 やおいって、会社とか、そういう社会的組織が描けないだよね。本質的に子供の物語だから。なぁんて思っていたのでしたが、これ、フツーに会社で、やおいで、萌えた。
 会社って組織に萌えている女子供の絵空事やおいでなく、フツーに会社で働いている大人の、やおい的春秋の世界だったからかな。
 東大出身、大手商社勤務のエリートサラリーマン、なぁんて設定にすると大抵やおいだと絵空事になるんだけれども、社食での昼食ついでの言伝とか、伝言メモの山とか、有楽町での飲み会とか、残業中にふと物思う些細な私生活のあれこれとか、そんなこんなが、フツーのそこらへんにいる、いかにも日本の誇る小市民的サラリーマン、という感じなのだ。ああ、やっぱ、この人の漫画、好きだわ。
 あと、受けの子の早乙女君が名前のとおり乙女で、萌えた。言葉にせずグズグズとどうしようもないことを考えているあたり、いい大人の男なのになんか脆くって可愛い感じ、鼻水ぐちゃぐちゃに汚く泣くのが似合いそうなん感じ。彼の逡巡で充分萌えました。学生時代の淡い片想いを思い出してもしかしたら偶然遭えるかもしれないから、と「実家の近くにまた引越しちゃおっかなぁ」とか、おま、どうなん、いい大人が、と。
 リアルめな感じの、大人になりきれない大人のしがらみたっぷりのほのぼのリリカルやおい。想いあっているのに、なかなか寄りそえず、ほんの少しばかりの距離をじりじりしながら、お互い見つめあう。せつなくて、でもそれがいちばん恋のおいしい時間。春先の甘い宵闇のように、しっとりと甘い恋の気配にみちている。
 それにしても、日の出さん、タイトルのつけ方、いっつも上手いよなぁ。他にも「あいつはほんとにやなやつなんだぜ。」とか「夕焼グラウンド少年」とか「桜の塔にて待ち入り候」とか、本歌取りタイトルも「春の夜はさくらに明けてしまひけり」の松尾芭蕉とか、もってくるところのセンスがいちいち良くって、って、ほんと、ファントークですな。


cover ◆ 君へつづく物語 (2010年05月 / 海王社)
1. 君へつづく物語
 ――俺の住むアパートの隣に最近引っ越してきたあいつはちょっとおかしい。どうやら彼は世界を守るために戦っているらしいのだが――

 特にホモというわけでもない男同士がただつるみあっていちゃこりゃしている日常みたいなモノが異様に上手い日の出さんの新刊。今回もキスシーンすらなく、BLというよりも今時のちょっとJUNEっぽいラノベみたいなノリ。
 今作は、その昔、日の出さんがアニパロ同人どさどさ出してた「ガンパレード・マーチ」の感じというか、いわゆるセカイ系的な世界観で、大学生の男二人が深夜のファミレスでグダグダしたり、アパートでゲームやったりという日常感と特撮戦隊モノのごとく世界平和の為に戦うという非日常のコントラストがこの話のキモになっている。
 クライマックス、現実をまるでRPGのように戦って生きた男は唐突にこの世から消え去る。周りは誰も、そんな人は知らない、はじめからいなかったと訝しがる。残されたのはラベルのないスーパーファミコンのゲームソフト一本。
 友人はその古めかしい謎のゲームをプレイしてみる。果たしてかれはそこに居た。彼はゲームの中にとりこめられたのか、あるいは元々ゲーム世界の住人だったのか、彼は現実で話した言葉そのままの台詞をゲームの中でも繰り返す。――というシーンが秀逸。
 これがエンディングなのか、いやしかし、そんな彼にもちゃんと真のエンディングが用意されていて、めでたしめでたし。
 ゲーム大好きな日の出さんの描いたゲームJUNEといっていいかと。みんなもふわっふわした天然でいて使命感に溢れて一本気なご近所ヒーロー・三星翔に魅力に打ちのめされればいいと思うよっっ。


cover ◆ 日本橋心中 (2010年11月 / 大洋図書)
1. 日本橋心中
2. 一輪簪恋錦絵
3. 妖怪変化浮草怪談
4. 桔梗屋敷大振袖決闘
5. 兄弟仁義白浜情死
 やったね。ついに傑作誕生。時代物BLの最高峰のひとつといってもいいんじゃなかろうか。
 怪異、仇討、心中、兄弟仁義、武家の主従、歌舞伎の色子、坊主と寺小姓……。江戸時代の読み物で、あるある、っていうテーマを今回は扱っているのだけれども、ひとつひとつがきちんと素材の良さ・持ち味をキープしつつ、ちゃんとBL読者でも読みやすいものにと、見事にアレンジしている。江戸・元禄の空気感が漂っているのだ。コレ、BLと歴史、両方に愛がある人であってもなかなか難しいんじゃないかしらん。
 多忙なのか、初期と比べると絵が雑になっているところが気になるけれども、それを抜かせば実に堂々とした一冊。まちがいなくこれが彼女の代表作。
 「一輪簪恋錦絵」の、これから仇討に向かうおうという侍に「なにかお力になれることは」と言いつのりながら、しかし所詮おのれは色子に過ぎぬ身の上であることが身に染みてわかり、思わず涙を零す京弥ちゃんとかっ、「桔梗屋敷大振袖決闘」の、好きすぎて好きすぎて、思わず想い人に決闘を申し込む、真面目すぎてちょっと面白い実直武家ッ子の初次郎ちゃんとかっっ、もう、ずっごくかばいいいのぉぉぉぉ。……と、まぁ、わたし萌え的には、場外ホームラン級でしたね、ええ。 不器用ッ子に圧倒的な魅力がある日の出漫画だけども、やっぱその不器用っぽさが最も光るのが時代物ですよねー。

 時代・歴史やおい好きっ子はマスト。読むべし。

2009.02.06
改訂 2010.07.04
改訂 2011.08.23
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