―前文― もう二人の間で勝手に連載企画なってしまった「年間チャート回顧」。今回は91年をお届けします。 いまでもお馴染みの面子がチャートを席巻している91年――「わたしは歌謡曲の人だからなぁ」などと対談前にはぼやいていたわたしですが、 いやぁ、わたしたちはどこまでも行きます。どうなっちゃってるんでしょうね。と自分で自分に呆れかえりつつ、それでは、どうぞ。 TSUKASA(以下T):パンパカパーン!いきなりテンション上げる。(笑) まこりん(以下M):新・年間チャート回顧、第2回。今回は、91年を回顧したいと思います。メンバーはいつものまこりんと。 T:毎度お馴染みのTSUKASAです。よろしくお願いします。 M:ということで91年なんですが、前回が89年、バブル絶頂の時期で、その89年から連なり、かつターニングポイントになるのは91年なんじゃないかと私は思っていたのですが。 T:そうですね。バブル景気はもはや傾き始めているけれども、音楽バブルはこの年から本格的に膨らんでいく時期ですね。 ■バブル崩壊、失われた10年へ M:えーと、確か「バブル崩壊」という言葉が出てきたのが91年だったと。 T:地価が下がってきて土地神話が怪しくなってきた頃でしょ。 M:事前のリサーチによると、89年年末に「東京証券取引所 平均株価38,915円」で史上最高をマークしたのが、91年3月には5年ぶりに二万円割れするわけですよ。 T:夢の終わりやね。 M:公定歩合も1年で6.0%→5.5%→5.0%→4.5%とだだ下がりして、証券会社の損失補填疑惑なんかも出てくる。まさしく「終わった」という。5年間の何もかもがなくなったと。 T:そして、90年代へのツケだけがたんまり残ったと。 M:たった5年の黄金のバブルの夢に苦しめられるのが90年代から今にいたるまでの日本なわけで、そういった意味でも91年はスタート地点でもあるのね。で、しかも湾岸戦争なんかも起こったりと。 T:ソ連も崩壊したしね。 M:冷戦体制崩壊後の問題が早くもここで出て来たりして、世界情勢的にも能天気にそんなしてられないぞ、という。 T:もういきなりどんよりしてますね90年代(笑) M:そうね。急転直下という感じ。 T:早くもこっから10年辛いなあという。 M:まさしく「失われた10年」のスタート。音楽業界もバブル後の現在の体制が取られるようになったのはここからなんじゃないかなぁ。 T:しかし、少なくともテレビを囲む日本のお茶の間を見るとなんかどんよりするどころか、毎日パーティーみたいなことになってるんですが。それがこのチャートにも如実に現れているわけですが。 M:世の中が不景気になって外で金を落とすかわりにみんな早く家に帰ってテレビを見るようになったのかな。ぼんやりとした危機感を抱えながらもなにも対処せずテレビの箱のなかにカラオケボックスにひきこもる時代というか。 T:テレビの箱の中だけでも狂騒の続きを・・・というところかな。 M:非常にアンビバレンツな感じ。「バブルがはじけたといってもまだオレ的には続いているよ」という。気分的にはまだまだ盛りあがっていきたいという。 T:CDの売上、テレビの視聴率という数字がもうイッツ・ア・パーティーという感じで、遅れてきたバブルという感じ。 M:お茶の間的にはまだ殺伐とした空気ってのは流れてこないね。90年代後半のように。 T:90年代後半はもうね、いい加減夢から醒めざるをえないという、どよーーーんとした感じで。 M:どすぐろーーーいよね。そのあたりは95年が転機かな、という感じだけれども。ま、これは95年の時にはなすとして、いい加減ちょっと91年のチャートを見てみましょう。 T:はい。 M:ではまずシングルチャートから。 <1991年 シングルチャート>
1. ドラマ主題歌の時代 ■トレンディードラマとのシンクロ――小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」 T:1位は小田和正「Oh! Yeah!/ラブ・ストーリーは突然に」です。 M:これはフジ系ドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌。「カンチッ」で。 T:「セックスしよ!」だね。 M:言わずもがなだな。もう。決定的なドラマタイアップのヒット曲。 T:で、これがダブルミリオン・・・っていつぶりだっけ? M:えーーーと、いつだったけ?てあれだ、「愛は勝つ」のほうがリリース早いよ。年割れしてこの年のチャートだと200万いっていないけれども、全体では200万いっている。 T:あ、そうか。 M:で、その前が「泳げタイヤキくん」だ。 T:とまあ、タイヤキくんぶりにダブルミリオンが生まれ、しかもそれがいきなり3作もあって。 M:この年から売上が早速壊れるのね。 T:今思うと「壊れてる」という表現になるかな(笑)ドラマタイアップ+狂った売上というのがいよいよ始まったという。 M:ていうか、ねぇ、むしろいまはふつーーよ。 T:前も言ったけど、90年代抜かすと普通なんだよね。だから90年代が狂っていた、と。 M:音楽業界に「91年体制」という言葉があってもおかしくないほどこの年から狂い始めている。 T:だからこの年は音楽的なムーヴメントというより、タイアップ+メガヒットという90年代のチャートの傾向を決定付けるムーヴメントという側面が大きいですね。 M:うん。バブルがはじけてメガヒット時代が訪れた、その象徴だね。 T:その1位がこの曲というのもまた非常に象徴的。でもこの曲はいいよやっぱり。イントロがいいじゃん。チャカチャーン!って鳴った瞬間もう織田裕二と鈴木保奈美って感じで。 M:キャッチ―だよねぇ。ドラマの絵が見える。 T:チャカチャーン!でもう「カンチ!」じゃないですか。 M:人馬一体というか、あまりにもはまりまくっているよね。でも「ラブストーリーは突然に」はあくまでカップリングなんだよね、実質は。 T:両A面じゃなかった? M:一応そういう態だけれども。 T:一曲目は「Oh! Yeah!」なんだよな。 M:小田和正は当時のインタビューで「「ラブストーリーは〜」はシングルでもあくまでも"ニ曲目のシングル"ですから」みたいなこといっていたとわたしは記憶している。 T:意味がわかりそうでわかりません小田先生。 M:「Oh! Yeah!」があくまでメインってことでしょ。 T:でも今や「Oh! Yeah!」より「ラブストーリー〜」のほうがコンサートでも歌っているでしょ、たぶん。 M:そうなの? T:よくテレビでライヴ見るけどしょっちゅう歌っているよ。「ラブストーリーは突然に」。ってファンの方につっこまれると困るので正確ではないと言っておきますが。で、前の対談でもまこりんさん言っていたけど NM系の大御所がドラマ主題歌でメガヒットを飛ばしていくという90年代初頭の傾向、その走りでもありますね。 M:そうですね。で、この「あくまで『Oh! Yeah!』がメインよ」なんていう小田和正のスタンスって非常に当時のNM系大御所っぽいなと思ったりする。 T:売りに走ってはいないんだ!という(笑) M:あんまりがっついてないというか、いきなり売れても、結局ローテーションとか、その後の方向とかあんまりかえない。地味ぃーーにアルバムメインで売るスタイル。 T:それはやっぱりそれまでに固定ファンもがっちり掴んでいるからね。 M:そうね。敢えてそこを切るほどのモノでもないとみていたのかもね。その後タイアップに起用されるNM系ベテランもほとんどタイアップのみのヒットって感じだったりして、その後をあんまり引きずらないで、マイペースに持っていっていたのが多かった。 T:しかし、なしていきなりこんなにCD売れるようになったかなぁ。小田和正とチャゲアスが200万枚売るなんて前年に誰も予想できないでしょ。 M:それはやっぱりドラマの力でしょうよ。 T:やっぱそうなのかなあ。ただドラマがそこまで力持ちえたというのも謎。 M:90年に「夜のヒットスタジオ」が終了して歌番組大空位時代というのも大きいかな。テレビから流れる歌はCFソングとドラマ主題歌という構図にかわった。 T:ああ、歌番組が宣伝媒体だったのがそっちに流れたという。 M:うん。 T:CDプレイヤーの普及がここで完了して、ハードがあったら次ソフトが棚に並んでないとかっこ悪い、みたいのもあったかなとも思う。 M:この時期CDが音楽メディアとして安泰になったしね。旧譜の再発売もこの時期ど――っとでた。 T:前年だってミリオンは「おどるポンポコリン」と「浪漫飛行」だけだったのに、いきなり200万ヒットがどかどか出るって、やっぱり相当浮動層の財布がゆるくなったのは間違いないわけで。 M:ただこの時期ってのは90年代末期ほど猫も杓子もメガヒットの時代って感じでなく、「タイアップ寡占時代」って感じで、タイアップの強いものだけがどかかかかっと売れる。チャート1位の推移とか見るとそれまでの各週入れ代わりというのが嘘のようにタイアップメガヒットがどかーーーっと1位に居座る。 T:ああ、連続1位多かったですねこの時期。「SAY YES」とか「愛は勝つ」とか。 M:「SAY YES」なんて13週連続1位よ。ありえない。 T:今ありえないね(笑)13週って。 M:ありえん。76年の「ビューティフルサンデー」以来の記録。 T:まあ「SAY YES」はドラマがまた凄かったからな。 M:とにかくこの年は1ヶ月ずっと1位とかフツーで「タイアップ=馬鹿売れ、なし=しょぼーーん」って構図が露骨に出ている。 T:テレビとチャートが全く切り離せない年ですよね。 M:そうねぇ、ほんと。 T:この年間チャート見ても、フジテレビがかなり牛耳ってしまっているわけで(笑) M:タイアップ別でみるとドラマ・バラエティ・CFって感じで分けられるけれども、そのなかでもフジは凄い。 T:やたら力持ってんなあ、って感じですよね。ということでまあ、この年はほんとにタイアップとヒットが切り離せないので音楽的な括りよりも、そういうタイアップの括りで見てみようかなあという感じなんですけども。 M:そうですね。今回はちょっとタイアップ別に見てみましょう。 ■あの時代のドラマってネタ?――CHAGE&ASKA「SAY YES」 T:で、まず一目瞭然でチャートを牛耳っているドラマ主題歌。 M:まさしくドラマの時代という感じで、えーとフジ系ドラマが何曲だ。 T:5曲だね。ベスト10内に4曲という。1位の小田和正に続いて2位もチャゲアスの「SAY YES」がダブルミリオンで「101回目のプロポーズ」主題歌。これもまたインパクト大なドラマだったわけですが(笑) M:鉄矢の「死にましぇーーーん」だ。 T:これもまた、イントロ流れた瞬間武田鉄矢とダンプカーと泣き顔の浅野温子という。 M:もう、でてくるよね絵が。 T:しかし、「何度もいうよ 君はたしかにぼくを愛してる」ってものすごく自信過剰な歌じゃない? M:キモイ……ていうかメンヘルさん? T:「はい、と言え」だしいつ聴いても引っかかるんだけど(笑) M:ていうか引っかかりまくるよ、俺は。 T:メロディ好きなんだけどさどうもこの一節が引っかかる(笑)一歩間違ったらストーカー。 M:ちょっとね、このフレーズがどうして出てきたのか問い詰めたいよね。 T:ドラマ内の武田鉄矢もストーカーチックだったわけで。でもこれでお茶の間はもううるうるだったわけですよ。 M:そうなん? T:ちがうの?(笑) M:俺はネタドラマとしてみていたよ。 T:最後ボルトが結婚指輪だしな。壮大なネタ? M:やっぱりネタでしょ。 T:っていうかあれをやれる勢いがあったというのがすごいよね。月9だぜ。 M:結構、この作品で90年代のドラマ界のノリが決まったようなところあるよなぁ。 T:どんどん過剰にしてオッケーという。 M:ネタ臭の漂うことをマジでやるっつうか。「ひとつ屋根の下」とか「高校教師」とか「家なき子」とか。 T:「ひとつ屋根」とか「高校教師」も一歩引いて見るとニヤついてきちゃうんだよね。 M:テーマとしては純愛だったり、家族愛だったりマジなんだけれどもね。 T:ことごとくマジなノリなんだけども笑えてしまうという。 M:非常に各処で「それってどうよ」というエピソードが入っている。 T:「真珠夫人」とかと変わらんよね、実際。 M:あ、そうかも。大映ドラマとか韓流ドラマとかと同じ箱かも。 T:ま、しかし異様な勢いは確かにありました。それが視聴率とCD売上に現れていると。 M:上位ニ曲はドラマの勢いでぐわーーっといったって感じだね。 T:今思うと幸福な時代だったかもしれないっすねぇ。 M:なぜノスタルジー? T:いやー(笑)テレビの中だけでも騒いでいられたというか、90年代後半のどんづまりことなどまだ知る由もないというか。 M:まぁ、ここで現実を見ないでテレビ画面に向かっていたからその後が来るわけで。 T:そうなのよねぇ。 M:因果応報ですね。 T:どうしても世相じみた話になっていくんですが、まぁ次いきましょ。 M:はい。 ■TBS vs CX――小泉今日子「あなたに会えてよかった」 T:6位にはキョンキョンの「あなたに会えてよかった」。 M:TBSですね。「パパとなっちゃん」主題歌。 T:これも、80年代のアイドルがドラマタイアップだけ売れるというこの時期の傾向の一つかな。NM系と同じく。 M:主演が歌ってヒットの系譜でもあるね。この年なら長淵剛の「しゃぼん玉」もそうだし。 T:あ、そうですね。 M:この年のTBSのドラマ主題歌は3曲インしているけれども実際、ドラマ主題歌のヒットのノウハウってのは元々はTBSのものだったと思うんですよね、わたしは。 T:そうなんですか。 M:古くは久世光彦演出のドラマの沢田研二「時の過ぎゆくままに」とか、郷ひろみ「お化けのロック」とか浅田美代子「赤い風船」とかってあたりで。この時期のドラマ主題歌のノウハウは「金妻」「男女七人」がベースにあるんでは、というのが私の説。 T:ああ、ああ。そういわれるとそうだね。小林明子も石井明美も森川由加里もほかに大ヒットはないものね。 M:で、「SHOW ME」とかきいているとさんちゃんと大竹しのぶの絵が出てくるでしょ。 T:そういわれると90年代のドラマヒットっぽい。 M:大ヒットはするけれども、ドラマのイメージだけで終わるって感じがそれっぽいかなと。 T:なるほどねぇ、それが汎用化されたと。 M:うん。フジのドラマのプロデューサーは「とにかく"男女七人"を意識している」と当時いっていたしな。主題歌も意識して使ったんじゃないかな。 T:あ、それ自分もどっかで読んだ気がします。いわゆるイントロで画が浮かぶような使い方ですよね。盛り上げどころでイントロがジャーンと。 M:9時46分くらいに聞こえてくるわけですよ。 T:ははは、そうね。って46分って細かいな。そういえば、「ふぞろいの林檎たち」で劇中にサザン使いまくったりとかもしてたし。 M:あぁそうね。あれもTBSだ。 T:ドラマと曲を連動させてっていうのはTBSは先駆といえるのかもしれないですね。 M:フジは88年の「君の瞳を逮捕する」あたりから主題歌を強化するようになって久保田、ZIGGY、ピンク・サファイア、Winkを起用してヒットさせて、で、一方TBSはドリカム、ブルーハーツあたりを起用してヒットを導いてっていうこのニ局のドラマ主題歌の対立構図って言うのは80年代末期から出てきたわけだけれども、これがこの時点で一気に全体に敷衍したと言うか、そんな感じがする。 T:その手法が汎用化してメガヒット時代へ・・・という感じかな。 M:うん、最初はドラマの演出方法とテレビ局の音楽出版の小遣い稼ぎという感じだったのがどんどん肥大していく。 T:もう販売戦略のメインになっていくわけですからね。 M:この時期まではヒットする物はドラマとやっぱりうまく合致しているものが多いけれども、もうね、以降は……。 T:なんでもかんでも、って感じになっていくからなぁ。まあいかにもバブルだわな。 ■小林武史の登場 M:て、TBSVSフジの話だけもあれなんで、この曲の作曲の小林武史の話でもしましょ。 T:コバタケはまた90年代を語る上では外せませんね。 M:彼の作曲のヒットシングルってのはこれが初だよね。 T:そうですね。編曲では前年のサザン「真夏の果実」に続いてという。桑田ソロとサザンでの一連の仕事でめきめき頭角を顕して。 M:で、この曲で初のミリオン。 T:そしてミスチル・マイラバへと。 M:90年代に欠かせないプロデューサーだよね。 T:この人が90年代にもたらしたのは、いわゆるビートリィな音をお茶の間へ、という感じ。90年代中盤のロウファイブームに繋がるというか。 M:60、70年代的な音の作りをあえてデジタル込みで、90年代的に再生したというか。 T:そそそ。その匙加減が上手い。 M:80年代のポップスを今聞くとパキパキ、ぺらぺらに聞こえるものが多いってのは彼の仕事に感化されている部分が大きいかも。デジタルなものをうまく使いつつ温みのある感じが巧いよね。 T:なんか日本人のツボつくなあという。まあ90年代中盤にまたバンドものがガーッと盛り上がってきたのはミスチルのブレイクがきっかけなわけで、ミスチルの音がこうデフォルトになってしまった感があるから、やっぱり90年代にとってはデカいなあと。 M:ただ、まあ、こんなこといってはアレですが、実を言うとわたしはあんまりこばたけさんタイプじゃなかったりする。 T:どのへんがお気に召しませぬか。誰をやっても全部同じになっちゃうっていうのはあるかも(笑) M:計算しているなぁ、という感じがなんか気になるんだよぅ。才人であるってことはよくわかるんだけれども。 T:ああ、だってなんかルックスも知将、って感じするじゃんコバタケさん。 M:そうね。小室みたいにマッドな部分も持ち合わせているといいんだけれども、どこまでも理知的で抑制的じゃん。破綻がなさ過ぎる。そこが、ファンです、となれない。 T:本人のエゴが見えづらい、というのはあるかなぁ。曲を聴いても「計算上ここまで」という歩留まりは感じたりもする。 M:ま、わたしはヘンテコなところがないと愛でられないってタイプだからな。 T:マイラバのアルバム曲とかだと結構変なこともやってたりするんですけどもね。まあコバタケさんの話は後の年でも出てくると思うのでこの辺にして。 M:ともあれ、82年の杏里の「思いきりアメリカン」から基本的な音作りを変えてないのは凄いですよ、こばたけさん。というのはいちおうフォローとしていっておく。美学のある人なんだなと。 M:そうそう、あと小泉がこの曲のヒットで「いいひと路線」になったのが耐えられんということはおまけでいわせてくれッッ。 T:はははは。 M:この曲のせいで「過激なコイズミ」でなくなったから。 T:そうなのよねぇ。次のヒットが「優しい雨」だもんね。 M:89年の「KOIZUMI IN THE HOUSE」がベストと思うわたしとしてはどうしてこうアイドルってのは年取るといいひとっぽくなるかなぁ、と非常にアレだった。 T:近田さんと組んだあれね。あれは最高ですよ。 M:最高です。壊れてます。 T:この時期もアルバムは結構いろいろやっていたけれども頂点はやっぱり「KOIZUMI IN THE HOUSE」かな。 M:少なくともこの二人のあいだではそうですよ。 ■アイドルの終焉――明菜、美穂、静香…… T:で、キョンキョンなので一つ触れると、この曲のヒットはドラマタイアップってのがやっぱり切り離せなくて、この年からはアイドルはもう本格的にだめね。明菜、静香、美穂と21位以下に追いやられている。 M:明菜様21位(「二人静」48.3万枚)、おしい。 T:曲的には悪くない曲多いんですけどね。 M:まぁね、もうアイドル単品では勝負できない時代になってきましたよね。プラスで何かをつけないと、という。 T:静香も美穂も後でヒットシングル出すけれども、やっぱりタイアップがないと、という。これも歌番組の宣伝効果がタイアップに移行してしまった、ということの顕れなんでしょうね。 M:だとおもうなぁ。90年代半ばにプロデューサー主導のアイドルが復活するけれどもこの時はまた歌番組がちょっと勢いもどした時期だったしね。 T:ヘイヘイとか出てきた頃だしね。 M:うん。歌番組がないとアイドルって成り立たないんだろうな。 T:という感じで冬の時代に突入してしまったアイドル勢ですがともあれ美穂の「Rosa」が好きだということを言いたかった。 M:あーーー、カコイイよね、あれは。 T:第41位(30.8万枚)なんですけど、拾い上げてあげたかったッ! M:ノンタイアップであそこまでよく売ったよ。 T:この曲は篠崎未知の物真似が強烈だったです。。「♪ほんとにほんとにほんとにごくろぉさん」っていうの。 M:ははは。それかいな。 T:いやでもカコイイっすこの曲。 M:「Rosa」は7/16発売で10/28まで20位以内キープしていたという、ひそかなロングヒットだったね。 T:そうなんだ。健闘ですねそれは。 M:一週あけて「遠い街のどこかで」がインしているからすごい粘り腰。 T:しかし、年間チャートの上に入るにはタイアップが必要だぞ、ということになっていくと。 ■ドラマが先か、主題歌が先か――B'z「ALONE」 M:第10位のB'z「ALONE」とりあげてもいい? T:あ、どうぞ。なんか意外だが。 M:え、なぜ? T:や、B'zは黙殺かと思った、まこりんさんは(笑)。 M:はははは。 T:どうぞ。 M:ただドラマのタイアップの話なんですが、この「ALONE」が主題歌となった「ホテル・ウーマン」ってドラマのサントラの存在って知ってます? T:このドラマの?知らん。聴いたことないっす。 M:1.寂しさは秋の色(WANDS) 2.グッバイ・トゥ・ユー(栗林誠一郎) 3.きれいだと言ってくれた(宇徳敬子) 4.離したくはない(T-BOLAN) 5.ステイ(大黒摩季) 6.ハード・トゥ・セイ・グッバイ(生沢佑一) 7.アローン(B’z) こういうサントラが出たんですね。 T:わはは。あからさまにビーイング。 M:笑っちゃうでしょ。 T:アーティストどころか会社ひっくるめての戦略という、今でいう「名探偵コナン」みたいなもんだね。 M:そうね。この「ホテルウーマン」ってドラマは、関西テレビ制作で主演が沢口靖子という、あんまりブランド力のないドラマで、そこでドラマ班がビーイングにたのみこんだのか、あるいはビーイングが好き勝手に暴走したのかはしらんが、こういうビーイングのためのプロモーションドラマが作られたと言う。 T:プロモーションドラマ(笑)。そうだね。 M:これは忘れてはならない事実かと。 T:立場が逆転してるぞと。 M:うん、早くもこの時点で逆転しているのね。ドラマが先のはずが主題歌が、という。 T:まあ、そういうドラマもこの後散見されますからね。ミスチルの曲使いまくった・・・タッキーのあれとか。 M:翌年のCXの「親愛なるものへ」では中島みゆきばっかだったしね。 T:まあでもビーイングはともかくB'zに関してはあんまりドラマ主題歌と相性よくないというかドラマタイアップの効果がいまいちない。 M:そうね。あんまりつながりが密なものはない。 T:結構ドラマ主題歌あるんだけども、フジじゃなくてテレ朝とか地味なのが多いし、いかにもドラマタイアップっぽいのってガラスの仮面の「Calling」と、ビューティフルライフの「今夜月が見える丘に」ぐらいじゃないかな。 M:やっぱり稲葉さんが勝っちゃうから。 T:ははは そうなのかな。 M:「今夜月が見える丘に」にしても、稲葉イズムとキムタクイズムが偶然に合致したから主題歌として成功したのかなという感じだし。 T:あー なるほど(笑) M:キムタクと稲葉って、結構位置的に近くない? T:いや、なんとなくわかる。 M:非常に独特な語彙をもってらっしゃるあたりとか。 T:ふはは。どちらも色は違えどオレ流ではある。 M:あと話飛ぶけれども、おまけで、翌年、同じ関テレ+ビーイングで「ウーマンドリーム」ってドラマがあったこと、これは裕木奈江の売り出しも絡んでいたってのと、 T:無尽蔵にネタが出てくるなあ。 M:このサントラ路線は「フットルース」「トップガン」「私をスキーにつれてって」「ふぞろいの林檎たち」あたりが嚆矢なんではということもいわせてくれ――っ。 T:もうなんか際限ないっすねぇ。「ホテルウーマン」のサントラでここまで膨らむわけですから。 M:すまんんんん。っていうかぁ、だってぇ思いついちゃったんだもの。もうよろしければ次いっちゃってくださいな。 ■「織田くんの歌は誰かを不幸にしているわけじゃないですから」by TSUKASA M:あとトレンディードラマブームに乗った織田くんが調子にのってシングル出して、なぜか大ヒットしたよという「歌えなかったラブソング」。第14位。これもここにいれちゃおう。 T:あー忘れてた(笑)。 M:しかもいまでも時々歌っているよ織田くん、という。 T:語るんだったね。打ち合わせしたんだった。 M:じゃあ語ろう。 T:いやこのまま忘れておこう。カラオケでたまに歌うよ、ということをそっと一言だけ告白して終わらせたいと思います。 M:えぇぇ、なんでよ。前回のうち合わせで「歌えなかったラブソング」というより「歌えていないラブソング」とせっかくキラーパスを出したというのに。 T:ぶはは。いやーまあ90年代彼は本業であれだけ頑張ってくれたわけですから、歌はまあご褒美というかなんというか、触れないでおいてあげようじゃないの、という。 M:でも俳優兼歌手でここまで長く歌歌っている人も今のご時世、貴重というのはあるよね。 T:そうだよね。途中でやめるもんねみんな。吉岡くんとか反町とか江口とか、気づくというか。この人だけが続けているというのは普通気づくところを気づいていないのだろうか。それとも気づいたまま疾走しているのだろうか。 M:はははは。ゆうぱっく抱えて疾走しているわけだ、織田くん。 T:はははは。 M:かといってこれだけ長く歌っていて歌手のイメージつくかというと、どこまでも余技だし。石原裕次郎がずっと歌っていたりとか、昔はそういう流れってあったけれどもね。 T:いやあ最近もラストクリスマスのカバーとかさあ、とことん素敵だし。 M:「素敵」って。 T:「歌えなかったラヴソング」から全く変わってないよ!素晴らしいことですよ。 M:わたしはこの人の歌を買っている人が全くイメージできない。売れていないことはないのに、誰買っているのよ、と。 T:織田くん萌えな人達では。 M:やっぱマストアイテムなわけ? T:まあ少なくともおれは1枚アルバム持っている、という。 M:その事実が既によくわからないぞ、TSUKASA。 T:いやあもう、なんかどうだろ。もう何も言えない感じになってきた、ははは。 M:はははは。こんくらいで許しといたろ。と。織田くんも。 T:そっとしておく優しさというか、捨て置く優しさというか―って捨て置いたらだめか。 M:それはバファリンの半分みたいなものか。 T:うん。よくわからんけどきっとそうだよ。っていうか織田君の歌は別に誰かを不幸にしないし。 M:はははははは。すげ―――褒め方。「誰も不幸にしていない」って。ツボ入った。 T:ぶはは。むしろ幸せになる人もいるんだろうからいいんじゃない、って感じで。 M:よかれと思って織田くんも歌っているんだから、と。人の好意を無駄にするな、と。 T:うん。この幸せに回っているサークルを敢えて壊そうという意図はありません。自分は中には入れないけれど。 M:はははは。織田裕二のファンに読ませられない、こんなテキスト。 T:はははは。いやそんなこといったらほかにも放言吐きまくっているし、もうしょうがないです。 M:まぁね。もう思っちゃったんだから仕方ない。 T:という感じで。 M:思わせるあんたがいけない、と。 T:ふはは。それも酷いな(笑) M:他人に責任押し付けて、被害者ヅラして次いきましょう。 2. バラエティーとのタイアップ ■やまかつ時代 T:ドラマタイアップはこのへんにして、それでは次の……。 M:バラエティータイアップの話を――というか「やまだかつてないTV」の話を。 T:「やまかつ」ねぇ。山田邦子が輝いていたときですね。「やまかつ」「みなおか」「やるやら」がこのときの小中学生の定番セットかな。で、この3つの番組から大中ヒットが何曲か生まれているわけですが、やまかつが一番勢いありましたね。 M:1番音楽的なヒットに恵まれたね。 T:すごく瞬間的な爆発力ではあったけれども。 M:「やまかつ」は夜ヒットが一時間になった時に空いた一時間の枠ではじまったわけで、枠に音楽的な怨霊が住みついてたいのかもよ。ヒットが出ざるをえない磁場があったのかと。 T:ははは。――ってちょっとまって、いま「やまだかつてないCD」(第24位/54.6万枚)を引っ張り出す。 M:「KAN」「大事マンブラザーズバンド」「大江千里」(映画共演がきっかけ)「永井真理子」「やまかつウインク」「川村かおり」「江口洋介」このあたりが音楽系のやまかつメンバーかな。 T:永井真理子もKANも、たしかやまかつの中のドラマコーナーみたいので使われてヒット、というかたちだったんだよね。 M:その辺の経緯は覚えていないや。 T:内容覚えてないけど、なんかね、マジなドラマコーナーというのがあったんですよ(笑)。そこで使われていたと思う。 M:川村かおりの「神様が降りてくる夜」はなんか平安貴族のコントドラマでつかわれていたのを覚えている。 T:あはははは そうだそうだ。なんか最後みんな踊るんだよね。 M:やまかつウインクは「やまかつベストテン」で山田邦子が相田翔子のモノマネをしていてだったかなぁ。 T:よく覚えてるなあ。 M:「さっちんいない、さっちんいない、さっちんどこぉーーー」で歌わずという。 T:で、さっちんのほう募集したんだ。しかし、思い出してもあんまり嬉しくないのは何故だろう。 M:覚えている俺の立場は一体……。 T:ははは いま「やまだかつてないCD」を引っ張り出したら、「愛は勝つ」の替え歌の歌詞が載っていて非常にどんよーりした気分なんですけども。 M:最後にチキンカツ? T:「♪ 心配ない唐揚げ 君のおもちが 誰かに豆腐」だって。OTL M:「♪ カーレーうどん カーレーライス 愛するせつなサラダ 少しつかれ天丼」でしょ。 T:まこりんさん、覚えすぎ(笑) M:しっかり覚えている。俺の記憶容量間違ったところに使っている。 T:なんか仮面ノリダーとかに比べてやまかつの記憶にはなにか後ろめたさを感じる。 M:なんでよーー。もっとヤマクを再評価しようぜ。 T:現在の邦ちゃんを想ってしまうからでしょうか。なんかすごく浮かれたムードが漂っていたじゃないですかあの番組。 M:あぁ、そうね。 T:あのノリがバブリーに記憶されているのだと想う。 M:確かに躁状態のような番組だった。 T:ははは、そうなのよ って洒落じゃないよ。 M:コントもあんまり練ってなくって勢いだけっていうモノが多かったしね。 T:パーティーって感じだったよ。 M:邦子がすいかっかで愉しそうだな、邦子は姫だな、という。 T:なんか改めて映像みてみたくなったな。 M:寒いと思うよ―――。 T:だろうなぁぁ。 M:笑いは2の次で、邦子のお気に入りの俳優とかタレントとかはべらかしている感じだったし。 T:真木蔵人とか。 M:江口洋介とか、「キールロワイヤル」のCFで出たての東幹久とか。 T:ああああああ。なんかやっぱ思い出したくない。忘却しておきたい感じがする。 M:邦子はゴミ箱いきかいな。 T:削除。ゴミ箱を空にします。 ■「やまかつ」に見出されたKANの幸福と不幸 M:まぁ、そんな「やまかつ」で最大のヒットとなってしまったKANの「愛は勝つ」。200万枚突破でレコード大賞まで取ってしまった。 T:下積みが長かった人だから売れてよかったけれどもKANさんファンとしては複雑だな。 M:わたしの個人的な記憶としては90年の今井美樹の「retour」ってアルバムでKANの名前をはじめて知って。 T:「雨にキッスの花束を」 M:そう。で、ちょっと雑誌とかで調べたら「これから要注目」みたいなことが書いていて「野球選手が夢だった」とかも褒めていて聞こうかなと思っていながらも売れてないからどこにもレンタルされていないし、ってところに「愛は勝つ」で、げげげげげと思って。 T:ははははは。げげげげでしたか。 M:で、結局、ちゃんと聞かなかった。TSUKASAさんがKANのファンだってのは知っているけれどもファン視点でも「愛は勝つ」って微妙でない? T:まあねぇ、売上もそうだけど歌の内容としてもKANさんにとってはかなりイレギュラーな曲なのよ。 M:でしょ。「丸いお尻が許せない」とか「まゆみ」だっけ。あのあたりが「KAN」なのかなと思うからさ。 T:いやそうよ全く。「愛は勝つ〜」って歌いながら「へっへっへっ」て舌出して笑っているというのがKANさんだから。上半身タキシードで、下半身裸でピアノ弾きながら「愛は勝つ」歌う、みたいのが本質なのよ。 M:なんだそりゃ。 T:いやほんとに(笑)だから「愛は勝つ」だけの人みたいになっちゃったのはちょっとね。 M:しゃれのめしちゃう感じの人っぽく見えたのに「最後に愛は勝つ」かよ、で、げげげと当時のわたしは思ったのね。それで正解だったのね。 T:何が最後に愛は勝つだ、っていう批判はわかるんだけども、そんなこと本人もわかっていますよと敢えて擁護したい。 ■KANと槇原敬之の違い M:それはマッキーの「どんなときも。」と比べるとそれは如実にわかるよね。ちょうど「愛は勝つ」の下、第4位にランクされているけれども。 T:うん。そうね。そんな、自分超好きみたいなポジティヴィティはないわけよ。ウジウジ細かいこと歌ってるのがKANさんだから。 M:ついでに「どんなときも。」の話もしちゃっていい?あのさ、マッキーが出てきた時に「愛は勝つ」の二番煎じだって思わなかった? T:えっ、いや二番煎じとはおもわんかった。ピアノ弾くし被ってるとは思ったけれども。むしろマッキーは大江千里の流れかなあと。 M:あーーーー、なる。ていうか大江とKANと楠瀬は同じ箱にいれていた俺。 T:KANとマッキーってそんなにブレイク時期離れていたっけ? M:「愛は勝つ」の約半年後に「どんなときも。」が1位取っている。 T:あー やでも別になんとも当時小学生だし(笑)ピアノ弾く優しいあんちゃん系かなぁと。 M:わたしは「どんなときも。」のマッキーに対して第1印象は「二番煎じ」だったのね。でもよくみると「KANはあそこまで気持ち悪い顔していないぞ」「自分抱きしめてないぞ」と。 T:ふはははははは。ちょっと、アップするんですからこれ。 M:あーーーー、そうだ。すっかり忘れていた。 T:まんまでアップしちゃうけどね。 M:つまりは「どんなときも。」を聞いてKANの魅力がわかったのね。 T:そうかぁ。 M:KANには含羞がある、と。 T:うん それはめちゃくちゃある。 M:"「愛は勝つ」とかいってるよ俺"と思いながら歌っていて"でも「愛は勝つ」とかいいたいよなぁ"とも一方で思っていて。 T:そそそ、まさに。インタビューとか読んだらそんな感じよ。「別にウソじゃないよ、でも愛は勝ったらいいなあと思うじゃないですか。とはいえ、インタビュアーに「最後に一言。愛は勝ちますか?」と聴かれたらスリッパで殴りたいわけで」とか言っている。 M:含羞と居直りが同居していてそれを全部冗談でコーティングしているというか、その辺がこう、あ、なんか、わかるわ、という。 T:KANにとって含羞っていうのは非常に大きい要素だと思います。 M:「プロポーズ」って曲あったよね、KANに。 T:うん 名曲っす。 M:詞のおとし方とか、あれ、KANだなあ、と思う。 T:何もないけどぼくのとこにおいで、と。 M:というわけでなぜかKANを大プッシュしている俺がいる。 T:いやぁね、だからまあKANを拾い上げたやまかつのプロデューサーは目ざといなと思うけども世間的に「愛は勝つ」の人になっちゃったのは残念です。 M:やまかつの中の人はちょっと楽曲のコーディネイトを間違えたよね。本人の素質とちょっとズレがあったな、という。 T:もっとKANっぽいのを使ってくれればねぇ。「REGRETS」とか。 M:だから俺も一瞬マッキーと一緒の目で見たわけで、世間もそんな風に見て、結果彼は一発屋になってしまったわけで。 T:そうねぇ。 M:やっぱりマッキーの自分ダイスキ光線と明らかに素質が。 T:マッキーに棘があるなぁさっきから(笑) M:え?あ、じゃあ褒めます。 T:ははは。 M:洋楽的なセンスを持ち合わせつつ、とかそういうこと語ればいい? T:そんなとってつけたように。まあ私は捕まる前のマッキーはそれほど嫌いじゃないですよ。まだ可愛気がある。 M:マッキーはどんどん袋小路に入っていくんだよね。 T:なんかねぇ、だんだん笑ってられなくなってくるというか、無邪気さがなくなっても自分オーライまっしぐらだから、ちょっとなぁ、というのはある。 M:まだ「どんなときも」の頃は「浪人生の頃って孤独だよねぇ」とかそんな感じで、かるーーく受けいられるというか。 T:実際浪人生だったんだもんね(笑) M:って、この曲って浪人している自分を叱咤するため作ったって話聞いたことあるよ。ちがった? T:いやそんなこと言っていた気がする。 M:そのエピに「あぁぁわかるわ」というリスナーは多いだろうなというのはわかる。 T:自分ガンバ!って感じで、「悩んでる自分が好き」系。 M:「でもがんばるよ、俺」みたいな。ミスチルみたいな。 T:困難に立ち向かう僕。悩んでる自分も自分さ。全て抱きしめよう!ってな感じで。 M:詞の路線は非常に90年代Jポッパーだよね。 T:自分探し系の走りかもな。 M:そのへん、やっぱりKANとは全然素質が違う。自分の周囲をひたすら見つめていて、あんまり相対化できてない、洒落に出来ないという。だからこそ袋小路に突き進むんだけれども。 T:洋楽ポップスを上手く消化してっていう作曲とかアレンジの資質は似ているんですけどもねぇ。 M:J−POPにおいて自意識ってやっぱ大きいよね。そこでぱかっと分水嶺ができる。 T:もうそれはね、90年代中盤からはもうヒット曲の大半自分探し系なんじゃないかという勢いで、自分探しというのは早晩どんづまるしかないんだけども。 M:まあ、自我なんてタマネギの皮だからね。本当の自分を探し続けると最後なにもなくなってしまう。俺って全部皮だったよ、という。 T:まあねぇ 最近なんかそういう傾向って薄れたかなという気もするんですが。 M:一時期と比べるとね。 T:未だにやり続けているミスチルは凄いなと。 M:ミスチルはもう「こういう芸風」ということでいいんでないかなとわたしは思ったりする。 T:もうね、桜井の味ということで。まあでもその、ほんとにこの時期のマッキーは私は好きよ、とフォローしておく。好きな曲いっぱいあるし。という感じでいいですか、マッキーは(笑)いい足りないですか? M:や、わたしはマッキーには気まずい言葉しかいえませんから。 ■大江千里は槇原敬之にくわれた? T:ふはは。で、ついでだから――っていい方も酷いんだけども、19位に大江千里がいるんですけども。この人はマッキーの登場でちょっと霞んじゃった感じですね。駄目な弱いボク系という独占市場をかっさらわれた感じで。 M:大江千里はドラマにやたら出たりとか色々やっていた時期だね。主演映画もあったし。キャラはかぶっているけれどもでも大江のほうが私は好きかなぁ。大江のほうが視点が開けていた。 T:おれは声が駄目。声がまず第一の障壁になってしまって聴けない。 M:そういうのってあるよね。わたしはなぜか甲斐よしひろがまったく聞けない。 T:ははは。あのハスキーボイス駄目か。 M:中島みゆきとか萩尾望都とか自分がリスペクトしている人が甲斐の友達だったりするので、なんとかきちんと聞こうと何度もトライするけれども、駄目。 T:まあしかし、この「格好悪いふられ方」は好きです。かなり身に染みる。 M:声がダメなのに? T:この曲はなんとか。 M:「なんとか」ってのも、どうよ。 T:ははは。いやだって「君のすべてに泣きたくなる〜」だよ。最高です。オレも泣きたいし。 M:どうぞ泣いてください。わたしはノーコメントで。 T:まあその 恋愛の話とかしだすとウザイと思うので 一人で浸っておきます。 M:しちゃえしちゃえ。 T:いやなんか大江にかこつけて語ってる自分が嫌だからやめとく(笑) ■とんねるず無敵時代とはいえ…… M:あとバラエティー枠で「情けねぇ」語っていないけれどもいいのか? T:あぁぁ。どうしよ。 M:迷ったらいくのが俺達流では? T:なんか非常に語れば語れるんだけども語っても詮無い、という曲のような気もする(笑) M:はははは。 T:秋元だしぃ。もう狙いまくってるしぃ。 M:これって「みなさんのおかげです」ってなっているけれども、そうだっけ? T:EDテーマだったんじゃない? M:わたしは「生ダラ」でやたら歌っていたイメージがあったからさ。湾岸戦争の映像をバックに、みたいな。 T:記憶が曖昧だ。でも「みなさん」でも歌ってはいた。 M:そうやって自分たちの番組で歌いまくっていたのね。 T:「情けねえ」「ガラガラヘビ」「一番偉い人へ」「がじゃいも」あたりは、自分たちの番組使って売りまくっていましたね。 M:この曲は長淵剛のスタッフの1人であった秋元康がセルフパロディーしてしまったという。しかもそれがわりとマジに受け取られてしまったという。 T:つうか「とんぼ」だよね。 M:うん。 T:歌謡大賞とっちゃったからなぁ。 M:歌謡大賞の息の根を止めたね、この曲で。 T:この曲ってすごくねじくれたパロディの固まりじゃないですか。 M:うん、秋元イズムの塊のような。 T:秋元ととんねるずイズムですよね。何もかもをパロるという姿勢を批判するような歌をパロディでやっているという。んでアルバムバージョンのほうでは歌詞を変えてネタばらししている。 M:すごーくテレビ的で、結局どうでもいいわいという馬鹿馬鹿しさだけが残る。けっこう空しいよね、いま振り返ると。邦ちゃんと同質の空々しさが。 T:歌謡大賞の審査員には、アルバムバージョンのほうも聞いてほしかった(笑)。 M:ていうか歌謡大賞はほんとこれで終わったね。次の年の大賞、知っている? T:忘れた。 M:ていうか、タイトル聞いても知らないよ、多分。香西かおりの「花挽歌」。 T:知らん。 M:その次の年が、堀内孝雄「影法師」。これで歌謡大賞、終わり。 T:ふはは。なんかものすごい失速ですね。 M:賞レースって「実力・セールス・キャリア」の三位一体で競っているような感じで、売れれば大賞ってモノでもなく、ってのがそれまであったわけで。 T:うん。 M:それ以前に歌手でない人にはあげていないわけで。それが、とんねるず、という。 T:だからあれでしょ、審査員のみなさん湾岸戦争がらみとかマジで受け取ってしまったのでしょう。 M:そうなんかなぁ……。ま、もともと歌謡大賞は83年に俊ちゃんが「さらば…夏」で大賞獲ったあたりからおかしかったからなぁ。 T:ふへぇーっ。 M:明菜も日本歌謡大賞とっているけれども何で受賞しているか知っている? T:なんだっけ。「SAND BEIGE」? M:「Fin」。 T:「Fin」かぁぁ。って、「Fin」の年ってほかになんかなかったか。 M:「Desire」。これでレコ大とってます。 T:ははは。意味わからんな。どういう基準なのかわからん。 M:でしょー。 T:「DESIRE」じゃなくて「Fin」でなくてはいけない何かがあったんだ。 M:だから80年代後半から非常に微妙な賞になっていたんだけれども。 T:秋元がトドメさしたと。 M:そんな風に映るんだよね。 T:まあ勢いは凄かったけどね、この頃のとんねるず。小中学生は「みなおか」と「生ダラ」中心に話題が回っている感じで。 M:うん。だからみんなうっかりCD買っちゃったわけで。今の「みなおか」しか知らない人には想像できないだろうけれどもね。 T:「食わず嫌い」しかやらない「みなおか」しか知らない人は、そうだろうなあ。凄かったんだよあの頃。 M:それは一応いっとかないとね。 T:もう完全にとんねるずっ子でしたから、今がどうでも文句言えない、という感じがあるおれは(笑)。 M:んーー、わたしは「ベストテン」と「やまかつ」潰した人だから、なんともいえないけれども。 T:ははは。「やまかつ」もかい。 M:「やまかつ」は「生ダラ」が潰した。 T:あーおれも「生ダラ」始まってから「やまかつ」見なくなった。闘牛とか見てた。 M:って、俺も結局移っているからさぁ、人のこといえないんだけれども。 T:なんだよ。「やまかつ」の最後看取ったのかと思ったよ。 M:っていうか、「生だら」は初回見てました。本当に生だった頃覚えています。あうーーー。 T:はははは。途中から開き直ったもんね、全然生じゃないという。 M:そうね。 T:まあ、そんな勢いで普通なら考えられないほどCDも売れていたと。でもとんねるずってこの後も野猿がそこそこ売れたり、CDは売るよね何故か。 M:まぁ。でも、野猿はちょっとなぁ、いたい感じがした。 T:洒落でやっとくべきものなのにマジ感がありすぎたね。 M:うん、それに煽ったわりにセールスもたいしたことなかったし、色んな意味でとんねるずの終焉を感じた。 T:ゴツグさんとか超マジなベース弾いているし、そこでマジになってどうするよ、という。 M:ねぇ。 T:ベースだけだったらすごい良いんですよ野猿(笑)あんまりほかでこんなガチなゴツグ師匠聴けないぞという。 M:ゴツグも秋元もちょうどオファーが減ってきた時期だったんだよねな。もんだから、ヘンに力はいっちゃってさぁ。 T:なんつうか、とんねるず、ゴツグ、秋元って揃うとやっぱり80年代後半〜90年代前半という感じが。 M:そうね、そこからぬけ出せないそれ以外の意味性というのが、見えないね。 T:だから野猿の頃になるとちょっともう時代とのズレを感じた。ああ、もうとんねるずも「あがり」かなという。 M:って、凄いプロデューサー目線ですがTSUKASAさん。 T:えっ、そうかな。まあ、「情けねえ」は良くも悪くもそんな90年またぎのとんねるずイズム、秋元イズムの結晶かな。紅白でもやりたい放題やったしね(笑)。 M:あぁーーーなつかしいなぁ。 T:受信料を払おう。たしか歌手別視聴率でもかなり上じゃなかった?紅白のとんねるず。 M:インパクトあったもんね。 T:無敵時代の象徴という感じで。 M:非常にまだまだやる気のあったとんねるさんでした。 3. CFとのタイアップ M:次はCFタイアップものだね。ただCFに関しては化粧品・三貴系・フジフィルムとわりと王道なラインナップでタイアップ自体に"をををを"というのはないですな。 T:カメリアダイアモンドとかカネボウとか王道ですしね。まあそこに今回は、B'z、ドリカムという90年代前半の2代巨頭がいるわけですけど。 M:この2組は正確には前年にブレイクを果たしている。 T:そうね。 M:ただ、トップは取っていない。そこで、天下取るために王道の大型タイアップをひっぱって来たという、そういう意味では計算の通りのヒット曲って感じ。 T:ここで足場を磐石にしたという感じね。 ■つまりは「稲葉イズム」なんですよ T:「LADY NAVIGATION」とかまったくもってB'zの王道。前年の出世作アルバム「RISKY」の次の1手としては非常に手堅いなあと。 M:でも「レディナビ」って音がペラッとしていない? T:ああ、音、ペラッペラっすね(笑)。スカスカ。 M:ギターもあんまり主張していなくってTMの二番煎じ時代を想起させるのですが。 T:んーでも打ち込みも初期みたいにもろTMチックというのではない。 M:これならWANDSでもいいかもという感じはするなぁ、わたしは。 T:いやでも上杉には「♪ 公園のベンチでソフトクリームを舐める〜」とは歌えないわけですよ。 M:ははは。 T:「♪ 地球にはじける頬」とかさあ。 M:あっ、いおうと思っていたのに。 T:なんじゃそのボキャブラリーっていう。 M:それはもう、稲葉イズムですね。 T:稲葉イズム―って、今度はこっちがいわれた。ともあれ稲葉の面白さが完全に開花しているなあと。 M:なんかイロモノをみるような視線だなァ。 T:いやいや 稲葉の歌詞はもっと評価されるべきだとおもっとりますよ私は。まあツッコむのが楽しいのは否定しないけれども。 M:でも稲葉の詞を稲葉以外が歌うのを想像できない。 T:そうそう(笑)それはあるね。汎用性はないかもしらん。 M:キムタクのソロとかならいいかもしれんが、SMAPとしてならアウトだしなぁ……。 T:なんでだろうな。存在に説得力がないと歌えないかもしれん。「♪ 太陽の小町エンジェル〜」とかさ。 M:その存在感って一体……。 T:この人ならいいか、っていう(笑)。 M:それって長嶋茂雄とかに通じるよね。 T:うん。「ツー安打」とか「ヘイ、カール!」みたいなもんですよ。 ■90年代前半を席巻した「カメリアダイモンド」タイアップ――TMN「Love Train」 M:カメリアCFソングのTMN「Love Train」。 T:これはTMで一番売れたのかな、確か。 M:シングルでは最大のヒットだね。 T:意外とシングルででかいヒットはなかったんですよね。 M:うん、なんでだろ。 T:小室は、TMでカラオケを意識したのはこの曲だけだと言っていた。カラオケで歌われることを意識したのがこの曲が初めてだったと。 M:でも「Get Wild」とかもカラオケでよく歌う私なんですが。 T:いや、「Get Wild」は同年代でカラオケ行ったら必ず誰か歌うけれども(笑)やっぱりあの16分音符が早口でタッタタタタ―っっていうのは当時にしてみたらカラオケ向きではなかったんでないかなあ。 M:なるほどね。 T:今は16分なんて普通だけども。そういう意味では小室とB’zが一般リスナーの耳を教育したところはあるかなぁなんて。 M:入り口としてというのはあるかもね。 T:ま、「Love Train」はもうTMとしか言いようがないという感じで、超王道。 M:ただ、個人的にはあんまり面白味を感じないなぁとか思ったり思わなかったり。 T:ま、磐石な曲という。 M:ヒット狙いでしたヒットしましたってことで。 T:でもイントロのシンセとか好きだな。昇って降りてくるシンセ。カコイイ。 M:TMはイントロでつかむよね。 T:歌メロ以前にシンセのリフでグッとくるのね。まあ、TMッ!って感じですよ。 M:三貴系は、タイアップでは90年代前半で猛威を振るうことになるわけで、そのひとつがここに入っているということも一応いっておこうかな。 T:三貴系? M:カメリアとかブティックJOYとか。地方に住んでいる方は実感ないかもしれないけれども、この時期、深夜でそれこそ何度も流れていたのよ。 T:カメリアダイアモンドはものごっつ流れていた記憶があるなあ。 M:1時間テレビ見ていたら10回以上見るよという。 T:もうわかったよ!っていうね(笑)。そんな言われてもダイア買えねえよ、小学生だし。 M:そうそう。やたらきれーな外国のねーちゃんが夜会服を身にまとって、胸元のダイヤギラギラ光ってますという、それが何度もリピートの嵐。 T:なんかそんな感じだった。この後カメリアってどんな曲あったっけ。WANDSとかあった? M:あー、なんか色々あって思い出せない。杏子の「Distancia」とか。 T:ああああ、あったなあ。ものすごい繰り返し流れてた(笑)。 M:あと、「永遠の1秒」とか。 T:あー、田村直美だ。言われると思いだすわ。 M:荻野目洋子の「Steal your love」とか、古くは高橋真梨子の「桃色吐息」もそうかな、B'zもなんかあったし(「MOTEL」「太陽のKomachi Angel」)、末期は朋ちゃんとか(「Love is all music」)もやっていた。WANDは「愛を語るより口づけをかわそう」と「恋せよ乙女」だね。 とにかく、まぁ色々ッス。 T:まあ、やたらCMに金かけていたと。 M:その効果をエイベックスが後に利用したらしいね。最初期は新興でコネクションが少なく、ドラマのタイアップなどが取れなかったので、カメリア方式で深夜にCFながしまくった、とかそんなテキストを読んだことある。 T:カメリア方式だったのかあれは。 M:タイアップに金積むなら直接流せ、という。 T:なるほどね。 M:この事実は押えとくべき。 M:あと言い残したシングルとかあります? T:「会いたい」と「WON'T BE LONG」はタイアップ一応ついてるけども。 M:違うよね。タイアップによる影響力はなかった。 T:確か有線発信だったと思うんだけども。 M:そんな感じ。 T:こういうヒットも毎年何曲かありますね、という感じであっさり終わる。 M:ではアルバムいきますか。 T:そうですね。シングル編は以上、と。 その2 アルバム編 part1へ |