【目次】 1. CD移行過渡期の真っ只中にあった1987年 2. 演歌はまだアリだった―瀬川瑛子「命くれない」 3. 女王の華と悲哀と―中森明菜 4. 「雪國」はパロディ演歌だった? 5. これぞジャニーズの魅力―光GENJI 6. 短冊ジャケット登場のトリビア―松田聖子「Strawberry Time」 7. 洗練されたエンタテインメントの少年隊 8. この時期のキョンキョンは面白い 9. 長渕アニキ復活 10. 青さがきらめく「輝きながら」 ■ 1987年 シングルチャート
TSU-KA(以下T):パンパカパーン!お久しぶりの年間チャート回顧でございます。 まこりん(以下ま):おひさしブリーーーフ! T:本当に久しぶりなんですが(笑)。 ま:もう八ヶ月以上ぶりなんですが。皆さんすっかりお忘れかも知れません、この企画。 T:忘れられても俺たちがやりたいから、やるっ。 ま:てか、やっている二人だけ楽しい、そんな企画かもしれませんが・・・。 T:もう後には引けません。 ま:TSU-KAさんが半年も自分探しをしたり、世界の中心で愛を叫んだりしているから、 すっかり忘れ去られてしまったんだよっっ。 T:えっ(笑)。そんなことしてねーーー。 ま:えっしてないの? T:UFOにさらわれていましたので。 ま:ははは T:インプラントとかされてたんですよっ。大変だったんだから。 ■CD移行過渡期の真っ只中にあった1987年 T:というわけでですね、今回は1987年なんです。 ま:はい。この年は、ちょうど世間的には円高不況からバブルに一気にひっくり返る年で。レコード業界も思いっきり 過渡期なんですが・・・。まず、シングルチャートの売上を見ていただければわかると思うんですが、とにかく低い。 T:売れてないですねー(笑)。 ま:ありえないほど低い。年間1位が42.2万枚って、ねぇ。 T:すごいちっさい数字の幅で、ランキング付けされていますけども。11位から20位まで、 5万枚しか違わないし。まー、字面で見ると、ここ数年のチャートに似てますわな。 ま:うん。ただ、この年は、なんでこんなにシングルが売れていないかというと、これは、 ものすごーーく理由は簡単なんですよね。 T:ソフトがレコードからCDに切り替わったという。 ま:ていうかですね、正確には、この時点では、シングルCDってのがこの世には、まだ存在していないんですよ。 T:そうなんですね。 ま:12センチのCDの初登場が1982年。で、1985年あたりを境に急激にアルバムのCD移行が進むんだけれども、 シングルには、まだこの時点でCDというフォーマットがなかった。 T:シングルはアナログだったわけだ。それは混沌とした状況ですね、ずいぶん。 ま:だからこの時期はね、シングルってのはもうなくなるんじゃないか、とまで言われていたのよ。あんまりにも売れないから。 T:へぇ、そうなんだ。単純にプレーヤーとかの面で困るよね。アルバムはCDで出てんのに、シングル聴けないんじゃあ。 ま:だからね、話が前後しちゃうけれども、中森明菜の「CD'87」とかね、シングルを何曲かコンパイルして、12センチのCDのアルバムにしましたよ、 みたいなモノが出たりとかしているのね。 T:同じように最近は8cmシングルがなくなったんで、12cmシングルにして出してる人とかもいますね。 ま:うん、てかね、実を言うと8センチのシングルCDより、12センチのシングルCDのほうが登場が早いのね。 T:それは非常に意外ですね。 ま:8センチのシングルは1988年2月21日に各社、一斉発売しているんだけれども、 それより以前にコロムビアとかキャニオンを中心に、87年秋頃に12センチでシングルCDをリリースしているのよ。 T:12センチのシングルで最初にチャート上位に入ってきたのって、杉山清貴「Shade」とかなのかなと思うんですけど。 ま:シングルは元々フォーマットでチャートを分けていなかったのでいまいち不明なんだけれども・・・。 T:オリコンも混沌としてたのね。 ま:工藤静香「Aagin」とか、斉藤由貴「さよなら」 、田原俊彦「どうする?」なんかは、 三曲入り1200円の12センチシングルという、まさしく今のマキシシングルの形態でリリースされている。 T:なかなかレアですね。っていうか別にそれでよかったのに、なんで8cmシングルなんて代物が・・・。 ま:そう考えると不思議だよねぇ。 T:とっととアルバムに合わせてシングルも移行対応しなかったのも、よくわかんない。 ま:そこまでCDが普及すると思ってなかったんでないの? T:そうなんかなー。今の感覚だとそりゃ普及するだろうよ、と思いますけどね。 ま:だって86年のチャートを見ているとLP:CT:CDの比率が5:4:1くらいだったのよ。それが87年には、 1:1:1くらいまで行って、もう88年からはCDが5割以上、っていう。 T:私も音楽ソフト自分で買い出したのって、次の88年ぐらいなんだけど、カセット買ってましたよ。 ま:まだCDラジカセが家庭になかったんだよ。だから、みんな光GENJIとかカセットなの、アルバムもシングルも。 T:そうなんだね。 ま:うちのクラスの卒業文集の「宝物」の欄、ほとんどの女子が光GENJIのカセットだったもん。 T:私もまさに光GENJIとか、WINKとかのカセット買ってましたよ。で、89年か90年ぐらいにCDラジカセ買ってもらったのかな。 それでCDラジカセがうちにやってきたから、シングルCD買い出したんだけど。まあ、当時の移行状況というのはどこの家庭もだいたいそんなもんだったんですかね。 ま:そうね。今までのラジカセが壊れて、じゃ、次はCDラジカセにする?みたいな。 T:だから90年からCDバブルが始まるっていうのは、そういう状況もあるわけですね。で、まさにここはその前の過渡期だと。 ま:うん、もちろんそれは大きいよねー。だから、ちょうどV字のまさしく谷底の年という感じ。 T:それでこの年のチャートは、アイドルの固定ファンの数だけでもかなり上位にいけてしまうという感じのチャートになっていて。 ま:そうね。 T:結果、その人の代表曲には入らないような曲なんかも、結構上位にインしている。まあこれも今の状況に似てるかなと。 ま:だからチャートが、そのまんま固定客の数、という。誰も五木ひろし「追憶」なんて今、知らないだろ、っていうのに年間9位ですっていう。 T:「追憶」はわりと歌ってないか?(笑) ま:そう?「長良川艶歌」とか「細雪」とか「夜空」とか「よこはまたそがれ」とかのほうが断然勝っているから、俺的には。 T:それより少年隊の「Stripe Blue」とか。これ年間16位に入ってるのかよっていう。 ま:ははは。「Stripe Blue」はねぇ…… T:まあ、ファンでしか知らないだろうというのが、結構上位にインしているよね。 ま:うん。凄いのがね、この年のシングルウィークリー。松田聖子「Strawberry Time」が3週、 中森明菜「BLONDE」「TANGO NOIR」が2週、BOOWY「Marionette」が2週、と、それぞれ一位を取っているんだけれども、これ以外は、全部1週のみの一位なのよ。 T:それはすごい。ほんとに固定ファンのみやん。だからまあ、一般的に認知度があるとは思えないアニソンとかが、 固定客だけでばかすか上位にインできる今と状況は同じですね。アイドルがアニソンになっただけで。 ま:うん、だから、よくよくフォーマットって言うのは大事なんだな、と。 T:今もちょうどCDじゃなくても音楽聴ける状況になって、混沌としているからね。 ま:うん。でもまぁ、ここまでチャートが荒れたのは、おニャン子戦略も噛んでいたりするんだけれども。 T:おニャン子は、86〜7年と、毎週なにか出してんじゃないか、っていうほど関連作品を出してますね。 ま:しかもね、1位獲得のため、発売日を調整したり、ファンに発売週での購入を求めたり、 ってのを大々的にやったのは、おニャン子が初なのよね。 T:発売週に購入を求めたり、とかそんなのしてたんですか。「夕ニャン」で? ま:してたしてた。その記憶、あるよ。 T:私ぎりぎり「夕ニャン」世代じゃないんでわからない。 ま:そもそも、オリコンの存在を世間に知らしめたのはおニャン子ですよ、これは絶対。 それまでは「チャート」=「ラジオやテレビのベストテン番組」って感じだったかと。 T:ああ、そうね。「ザ・ベストテン」とか「歌のトップテン」は知ってたけど、オリコン知らなかったもんな。 ま:「この歌はオリコン何位です」とメディアで言い出したのはおニャン子からですよ。 T:へぇー。秋元恐るべし。 ま:だから、現在まで続く超初動型チャートアクションの始まりが、この86〜87年かな、と。 T:なるほど。そんな要因もあるんですねぇ。 ま:てわけで、そんなこんなな束の間の音楽不況の87年なんですが。 たださ、年間チャート上位を見ると、結構、そこそこ知っている曲が多い感じしません? T:聴けばわかるよね。あとまあ、曲自体は代表曲じゃなくても、人の認知度はみんな高いし。 なんだこれ、っていうのはない。湘南乃風みたいのはない(笑)。 ま:KAT-TUNの「Real Face」なんて誰も知らないけれども・・・ T:えー、知ってるだろっ。ギリギリで生きていたい! ま:えー、おれは知らない。 T:えー、若者はみんな知っているよっ。 ま:私はもう若くないからぁ。てか、まぁ、 そういう世代間的なギャップとか、今のチャートには如実にあるんだけれども・・・。 T:まあ、30代以上お断りという感がある。 ま:この頃のはさ、まだチャートが、社会的なコンセンサスが取れている、という。 おばあちゃんの知っている曲も入っているよ、と。 T:まだギリギリ「お茶の間感」はあるよね。88年、89年ぐらいまでは。 ま:うん。まだ歌番組があったからね。 T:まあそんな過去に生きる俺たちのチャート回顧というわけで、いってみましょう。 ■演歌はまだアリだった―瀬川瑛子「命くれない」 ま:てわけで、栄光の1位が・・・。 T:「命くれない」だーーーー。 ま:EIKO SEGAWAだーーー。 T:エイコ・セガワって(笑)。 ま:思わずずこーーっ、て感じですが。 T:なんでコケるんだっっ。 ま:だって、E-CO・・・ T:表記がいちいちひどいですが(笑)。 ま:声がぬめっているんだもん。ぬめぬめしているんだもん。 T:「♪ うんまれるぅぅぅむぁえからぁぁぁん」って感じですか。まあ、だからモノマネしやすいだろうし。 ま:まぁ、1位だけあって、みんな知っているよね、この曲。 T:ただまあ、なぜこんなに売れたのかっていうのは、私はわからん。 ま:まぁ、そうだわね。てか、演歌ってなんで火がつくのか、火がつかない曲との区別がわからん。 T:それは私もわからん。何がよくて何がよくないのかわからん。 ま:この年の「無錫旅情」とかもさ、知っているけれども、なんで売れたの?という。 T:っていうかまあ、そう考え出すと、この頃はばんばん演歌がインしているのに、 なぜ90年代からダメになったのか、とかいろいろ考察しなきゃいけないことがあるわけで。 ま:そうだよね。この年を最後に一気に演歌は年間チャート上位から消えるわけで。 「みんなが知っている演歌の歌」も劇的に減っていく。 T:でもさー、演歌、私も好きな曲は好きですけど、だいたいモチーフって酒か海じゃない。 あとご当地ソングとか。だから良い悪いの差異があまりわからない。 ま:うん。でもまぁ、なんだろ、不思議と時々歌いたくなったりするんだよね。「♪ ぃえりぃぃものぉぉぉーはるぅはぁぁー」 とか歌いたくなりません? わざとデフォルメしまくって。 T:や、なるよ。「♪ あまぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」とか。 ま:あれが、不思議なんだよね、演歌。 T:まあ、そういう発声の気持ちよさというのはありますよね。 ま:やっぱEIKOの「命くれない」も、ぬめぬめぬめぬめ歌唱で歌いたくなるわけで。そんな演歌のパワーは感じるよね。 T:まあその、ぶっちゃけ演歌って、なんか哀愁とか不幸があって、メロディが覚えやすければいいのか、 とか思ってしまうんだが。 ま:あとは歌い手のキャラね。って、なんだかひどいこと言いまくっていますが。 T:まあ、この後の売れた演歌つったら、「孫」はギミック付きだし・・・。 ま:氷川君はアイドルだしね。 T:曲がどうだから良いのかダメなのか、とか未だによくわからないな。 ま:演歌ってさ、やっぱ、歌は上手いけれども顔に不自由な人がさ、苦節何十年って感じで歌の世界にしがみついてしがみついて、 で、やっと日の目を浴びました、のほうがドラマとしてわかりやすいよね。氷川君みたいなのは、ダメだろ、と。 T:まあそのほうが曲もリアリティを帯びますよね。 ま:EIKOもさーー、 T:EIKOいうなよ(笑)。 ま:71年に「長崎の夜はむらさき」っていう、なんかクールファイブかよ、 っていう長崎ご当地モノが小ヒットして以来、ずーーーーっと売れなくて売れなくて。 T:そこから潜伏していたわけだ。 ま:そうそう。ここでやっと陽の目を見ましたありがとう、皆々様のおかげです、みたいな、 わかりやすい浪花節の世界で。昭和だなぁ、演歌だなぁ、と。 T:まあしかし、J-POPの時代を目前にした87年時点では、まだこれだけ演歌がイケていた、というのはわりと驚きであり・・・ ま:うん。この年、演歌売れまくりだもんな。 T:それがいきなりこうもナシになってしまったというのは、ちょっとこれだけの紙幅では語りきれないのかなと思ったりする。 ま:やっぱ、演歌って、アナログレコードの時代のものだったのかな。 T:うーーーん。演歌は豊かになってはいけないんだろうかやっぱり。 ま:EPとともに使命を終えたのかな、と。あと、もうひとつの要因としては、フォーク系の歌手がまんま演歌化したっていうのもあるかも。 T:アリス2トップとか? ま:この年の「愛しき日々」の堀内とか、象徴的やん。演歌・歌謡曲路線に転向で、 再ブレイクという。あとさ、こんなこと言ったらファンに殴られるけれども・・・。 T:はははは、なにを今更。 ま:長淵剛とかさ。 T:あー、キックされる。 ま:あれもはっきり言って演歌の代替受け皿だろ。貧乏に対するルサンチマンのありようとかさ、もうどう見ても演歌だし。 T:泥臭い上昇志向とかな。あー、そういう系統にシフトしていったのかなあ、演歌の役目が。 ま:長渕もこの年にチンピラキャラに完全転向を果たして再ブレイクしているし、やっぱ演歌のバトンは、 この年にフォーク系に受け継がれたんですよ、きっと。 ■女王の華と悲哀と―中森明菜 ま:次は明菜様です。 T:たんごのあああああああああああだ。 ま:明菜様はこの年も絶好調に飛ばしております。んで、3年連続年間2位獲得の明菜様です。 T:まあ、しかし、あの、この年も明菜様がレコ大で、3連覇、で良かったんじゃないの?と思ってしまう。 「TANGO NOIR」と「難破船」歌ってるわけだし、文句ないだろ、と。 ま:うーーーん。でなければE-COの「命くれない」か、だよね。 T:まあ、レコ大の曲はずーっと下のほうに出てくるが。それは後でいいか。 ま:はい、ずいぶん下に。ま、その話はそのときで。で、明菜様は、この年リリースしたシングル三枚全部が 年間トップテン入りしている、という。まぁ、女王時代です。 T:レコ大を連覇して、この年もまあ実に素晴らしいですね。 ま:アグレッシブに変化しておりますね。 T:たんごのああああはもうこれだよこれ、という感じで。 ま:被モノマネ率の高さからも、もう、まさしく明菜様、という世界観ですよね。わかりやすーい明菜節の1曲、という。 T:まあ、物真似されるのってだいたい「DESIRE」かこれだしね。ヴィジュアル混みで、これが明菜様だっ、と。 ま:豪華な夜会服で、のけぞったり、くるくる回ったりで、そして「のあぁぁぁぁぁあああーー」という。 T:ちょっとオトナな雰囲気を醸しつつも、アゲアゲです。アレンジもアゲアゲです。ボカスカした打ち込みがいいです。 ま:この曲は、確か明菜様も大のお気に入りで、レコーディングは30分弱だった、というお話です。 T:何もケチをつけるところはないですな。 ま:で、次が「BLONDE」で、これは英語詞アルバム「Cross my palm」に収録された 「The look that kills」の日本語詞バージョンです。 T:ブラコンっぽくもあり、AORっぽくもあり、でもなんか無国籍でもありという不思議な感じで。 ま:イントロの変調子が結構好きだな、わしは。 T:ベースがべこべこいってますな。 ま:明菜様、ベースの音大好きだからなぁ。「TATTOO」とか「I missed "THE SHOCK"」もベースが主張しまくっているし。 T:ああ、明菜様自身が好きなのか。 ま:なんかドスドス、ってくる低音が好きみたいよ、明菜様は。 T:でもこの曲はCDより生のほうがかっこよさそう。 ま:そうね。これも歌番組とかでぶいぶい踊っている明菜サマの印象が強いなぁ。 シャネルの限定スカーフで作ったツーピースのドレスでくねくね踊っているイメージが。 T:昔はよくわからんと思ったんだけど、いま聴くとクールで良いですな。 ま:昔はよくわからんって、何事ですかっ。 T:いや、地味だなとか(笑)。そんな昔、ベースがかっこいぃぃとかそういう聴き方してないんですよっ。 ま:や、まぁ、地味だけれども。「TANGO NOIR」と「難破船」の間だし。 T:まあでも、この曲調についてこい、というかっこよさを感じる。あたしのやりたい曲についてきやがれ、というね。 ま:あぁうん、「I missed〜」とかあの辺の系譜だね、明菜様の趣味シングル。ついていけない子は置いていくわよ、 っていう。ってわけで攻め続けて、次が、「難破船」だ。 T:これはもう名曲と言わざるを得ない・・・。子供心にただごとでないなあ、と思った記憶がありますよ、テレビでの歌唱が。 ま:ははは。うん、なんかもう、この歌を歌う明菜、やたらめったら泣いてたしね。感情移入しすぎ、っていう。 T:なんだこの思いつめようは、という。でもこれは、加藤登紀子さんのほうから歌ってみない、と明菜様に渡された曲らしいですよね。 それはすごいなと思った。 ま:そうそう。カセット渡されて、どうですか、と。 T:発注したわけでないんですよね。 ま:うん。でも発注だったら、逆にここまでの曲って出来なかったかなぁ、と思ったりはする。 T:よくぞこの曲を渡しましたね。加藤さんは、この曲は明菜だ、とか思ったんだろうか。 ま:あ、そうみたいよ。歌っているうちに明菜の顔がちらちら思い浮かんで、これはもう明菜の歌だから明菜にあげよう、 ってプレゼントした、とお登紀さんは言っとります。 T:実際嵌まりまくっていますね。まあ、曲をもらっただけでなくて、自身の歌唱もものすごいですけどね。 「♪うぉーれーたーつーばさー」でぐわわわわ、ってなるし、やっぱり。 ま:うん。それまで明菜って、ここまで思いつめたバラードは歌ってなかったしね。それがいきなりで、 これ、っていう。凄い世界観が出来ていて、ドラマチックだし。 T:ひら歌とサビのバランスがいいんだろうな。 ま:結構このあとは、思いつめたラブバラードをよく歌うようになった明菜だけれども、 やっぱ「難破船」の完成度までは到達していないかなぁ、って感じが私はする。 T:うーん、やっぱり曲も世界観もレンジがダイナミックすぎるよね。ここまで到達するのは難しいのでは、と思ってしまう。 ま:うん、ほんとにサビでいきなり海の底に引きずりこまれるからね。ひら歌の淡々とした悲しみが、いきなりサビで異世界に飛躍する。 え、そう展開するん、っていう。 T:明菜の低い声と張った声と、両方生きているしね。アレンジも超ドラマティックなんだけども、 ここまで世界観に合っているといやらしくない。 ま:うん。だから暗い歌なんだけれども、そこに女王の華やかさがある。 T:でまあ、こういうこと言っていいのかわからんけども、この後の明菜様の顛末を知っているから。 ま:あぁぁ……、そうね。 T:どうしても明菜自身に重ねてしまうというか、そういうところもあるかなあ。 ま:てかちょうど、この時期、マッチとの雲行きが怪しくなって来た頃でさ。ちょっと前には、 テレビの前で一緒になって笑っていたのに、あれ、今日は他人行儀ですねみたいな。 T:徹子がつっこむわけ? ま:いやいやいや、世間の皆さんが。 T:あー(笑)。 ま:この年の歌謡大賞の受賞記者会見とかさ、隣同士で一緒になって取材受けてて、 金屏風を後ろに笑いながら、二人であーだこーだ言い合ったりしているのが、レコード大賞だと、あれ、 なんか二人の距離が微妙?っていう。 T:うーん、や、でも子供心にも、なんかあったのかなと、そう思わせるような凄まじさはやはり滲み出ていたしな。 ま:いやぁ、思いまくっていたよ私は。 T:そこへもってきてこの曲、というのもまた、なんか凄いことだな、と思いますが。 ま:だからこう、加藤登紀子は、中森明菜を予言してしまったんだな、という、そんな曲って感じがする。 しかもこれが売れてしまうという女王の悲しさ。確か「ザ・ベストテン」では15週ベストテンにインしていて、最長チャートインなんだよね、 この曲。有線とハガキが凄く強かった。 T:それだけ何回も歌わなければならないという・・・。いやでも、その数奇さもまた歌謡界の女王ならではという感じもする。 ま:ドラマがあるよね。 T:やっぱり女王と呼ばれてきた人は、人生と曲が変にリンクしてしまうとか、そういうとこあるでしょ。 ま:うん。確信犯的に自己演出してやるのは下品だけれども・・・ T:そうね。 ま:「難破船」みたいに、もう運命の悪戯としか言いようがないっていう、作品と歌手の出会いは、 やっぱり見ていて興味は尽きない。 T:だからまあそう考えると、この人が最後の歌謡界の女王だったのかなあという感じはあるな。 ま:そもそも今は「歌謡界」ってのが、ないからね。安室とか浜崎とか、トップの女性歌手は明菜以後も 続々生まれたけれども、業を背負う感じというか、そういうのがやっぱ違うな、と。 T:んーまー、だから安室さんはわずかに残り香みたいのはあるけどね。曲に出ないしね、安室さんは。 ま:うん。安室さんは、あえてそういうところを突っぱねている、そういう感じがする。私は違うのよ、と、 その気配を消そう消そうとしている感じ。 T:敢えて消そうとしてるのだろうか。 ま:うーーん、なんか私はそんな感じがするけれどもな。もっとあゆみたいに、 「私は不幸でした」とか言ってもいい立ち位置なのに。 T:ははは。 ま:ひとっこともそういうこと、言わないからさ、安室さんは。意識してそうしているのじゃないかな、と。 T:そうね。 ま:というわけでこの年の明菜様は、歌姫の華麗な世界と、うらはらの悲しい業、 というその両面を見せてくれましたよ、と。 T:まあ、当時にしても名曲だけれど、後から考えると一つまた明菜の格を上げてしまったなという感じも、 「難破船」はあるかな。 ま:うん、普通の歌手では巡り会えない、出会ったとしても歌いこなせない曲と出会って、歌いこなしてしまったな、と。 T:まあこういう共同幻想的なドラマというか歌謡的な感じって、もう生まれようがないのかなともちょっと思いますね。 ま:やっぱ、お茶の間がないとね。みんなが知っている世界でないと、厳しい。 T:みんなで共有する、というのがもう考えられないものな。 ま:最近の宇多田さんとか、休業前のCoccoとか、自分の物語を勝手に紡ぐアーティストってのはいるけれども、 それが大衆を巻き込むまでにならないというか。 T:そうだね。800万枚売った宇多田でさえそうだからな。 ま:そういう時代じゃなくなってしまった。 ■「雪國」はパロディ演歌だった? T:で、次がまたこれ・・・ ま:青森の生んだ伝説の男・・・ T:イクゾーだぁぁああっ。 ま:イクゾーきたーーっっ。 T:「雪國」。「俺は絶対プレスリー」「俺ら東京さいくだ」の2大「俺」シリーズに続くヒットであります。 ま:って、この人も、考えてみたら堀内と同じ演歌転向ヒットだな。 T:てか、「雪國」が売れてなければヒップホッパーだったのに。 ま:ヒップホッパー・・・。 T:今ごろ和製ヒップホップの元祖とかいって伝説化してたかもしれないのに、なんで売れてしまったんだ! ま:そ、そうかもしれ、ない、ね・・・。や、でも、「雪國」は、これは、売れるでしょ。 T:まあ、歌メロとかキャッチーだしな。 ま:そうそう。イクゾーって、「俺は絶対プレスリー」の頃から一貫してキャッチーやん。「♪ いぇいぇいぇい」だし。 T:「新日本ハウス」とか? ま:そうそう、「ワークマン」とか。 T:はははは。なんの人かよくわからなくなってくるな(笑)。 ま:イクゾーはさ、演歌転向しても、わけわかんない歌を作ってるからね。本物のクロスオーバーかもしらん。 T:ほら、やっぱり再評価系だ。20年後ぐらいに再評価される。 ま:はははは。 T:まあでもあれだよね、演歌で、自作でヒットっていうのこれ以前にあんまりなくないか?サブちゃんぐらいか。 ま:まぁ、五木とかも時々書いたりとかしているけれどもね。 T:この人は自作でのし上がったから立派ですよ。 ま:まあ、やっぱフォーク系譜の演歌しかありえない流れだろうね。自作演歌って。 なんか演歌歌手って、変にクリエイティビティを出そうとすると、すぐ脱演歌するからさ。ジャズっぽくなったりさ。 T:アイライク演歌みたいのとか?バイキングとか。 ま:はははは。そこで冠二郎かよっっ。 T:まあでも演歌を作りたいはずなのに、なぜかオルタナティヴになるわな。 ま:演歌歌手は演歌が嫌いなのか、と思ってしまう。 T:ねぇ。演歌をやってるのに、なぜ演歌から離れようとする。 ま:「演歌を歌っている私は、本当のわたしじゃないの」みたいな。あゆっぽく。 T:はははは。またあゆか! ま:初期あゆっぽく。「実はネグレイトされているわたし」、みたいな。 T:演歌だって自分探ししているのだ、と。根底は同じなのだと。 ま:ぬははは。なんか凄い展開になっているな。 T:ってまあ、語ることがないので突飛な展開で繋いでいる気もするが。 ま:はははは。や、でも「雪国」はフォーク転向演歌のメルクマールだし。 結果演歌歌手になったわけでもないイクゾーの立場は、つまりは「演歌を演じる」という姿勢なわけじゃん。 そういう、なんていうかな、吉のペルソナの軽い姿勢ってのが・・・ T:「吉のペルソナ」ってかっこいいななんか。 ま:演歌の退潮、とも言えるのではないかな、と。とっかえひっかえ仮面を被るその一つが演歌歌手でしたよ、と、 それだけ、という感じが。しかもそれがヒットしたよ、という。 T:うーん、なんかすごいなイクゾー。 ま:だって考えてみればさ、「雪國」以前の彼って、立ち位置的には嘉門達夫とか、なぎら健壱とかあの辺でしょ。 フォーク系コミックシンガー。 T:まー「プレスリー」だし、「東京さいぐだ」だしなあ。 ま:「雪國」以前は、テレビでおけちゃらけたことしまくっていたし。ミポリンに股間とか蹴られまくっていたわけだし。 T:ははははは。それがスーツ着て、真顔で真面目に歌い出したからな。 ま:そういう人が、演歌の曲歌っているから演歌歌手です、という。 だから系譜としては「雪國」は、「雨の西麻布」とかに限りなく近いと思うんだよ。 T:とんねるずと一緒の箱だったのか。 ま:でもそれをマジな顔してマジで歌ったら演歌として認められた、という。 ほらこの年、とんねるさんもマジな顔して演歌歌ったやん。 T:「迷惑でしょうが」(年間49位/15.5 万枚)か。 ま:あれでちょっとセールス盛り返したやん。あれと同じだと思うんだよね。って、なんか思いつきなのに、説得力あるな。 T:思いつきなのか、ここまで全て。 ま:はい。 T:壮大な思いつきですね。まあでも青森で、この訛りと歌唱で、さらに「雪國」っていうのはもう、 スナイパーのように狙いまくってるなイクゾー、という感じはする。 ま:やっぱこの被せ方はパロディーと見るべきでしょ。だって、あざと過ぎるもの。詰め込みまくっているもの。 T:ああ、なんかそうかもね。いま、話しててそう思った(笑)。東北のイメージをデフォルメしまくっているよね。 ま:うん。だから、演歌本流として「命くれない」があって、そのパロディーとして「雪國」がある。パロも本流も、 区別がつかなくなったのが87年、って感じかなと。 T:ああ、なんか「雪國」の本当の一面をみた。イクゾーの策士ぶりが暴かれた。 ま:ははは。溢れる才能といって。 T:クロスオーバーミュージシャンぶりが(笑)。 ■これぞジャニーズの魅力―光GENJI T:というわけで次ですが、第4位は光GENJIのデビュー曲「STAR LIGHT」でありますっ。 ま:あぁぁ、これも語らなきゃなー。 T;これは素晴らしい、最高だっ。疾走感、キラキラ感、青さ、切なさ、儚さ、という。全部詰まっています。 ま:イントロの疾走感が大好きです。 T:まあ、このへんからいよいよジャニーズが王国化していくというか、 男宝塚化していくというか。光GENJIは決定打という感じでしたね。 ま:うん。ていうか、多分ジャニーさんの一番やりたかったことは、 少年隊と光GENJIに集約されるんじゃないか、とすら私は思っていますよ。 T:なるほど。少年隊はミュージカルということ? ま:プロのエンターテイメント集団としての少年隊。 T:光GENJIは若い踊り子集団という? ま:そのへんに転がっている少年の、ただ若いだけの魅力を瞬間パックしましたよ、っていう。 T:なんかこうさらってきた感じのね(笑)。 ま:素人ゆえの魅力。 T:若い男の子の魅力そのままという感じか。 まあ今に至るまでのジャニーズっていうのはそれが二軸だなというのはあるよね。 ま:だから少年隊と光GENJIってベクトルが真逆なんだよね。で、常にジャニーズって、 その振幅で色々やっているって感じだけれども、その両極端がこの二つのグループかな、と。 完成形の美しさと、未完の美しさ、っていう。 T:あー、それはいい表現だ。 ま:って、なんかすげージャニーズファンみたいだな、おれ。 T:まあ、俺はファンだからいいんだけども。ってもう堂々と公言してしまっている俺がいるけれども。 ま:はははは。だからさ、ほんと光GENJIとか、ひどいっちゃーーほんっっとひどいんだけれども・・・ T:まーーー、ひどいことはひどいですねっ。 ま:ほんと、いきなりその辺を歩いている子供をさらって、 「YOU、歌っちゃいなよ」って、いきなり歌わせてますってプロダクトばっかで。 T:でもなんてーの、このひどい歌声がユニゾンするときの独特な感じってのは、 もうジャニのデフォルトになってしまったわけで。 ま:うん。光GENJIの作り出した手法だよね。 T:そういう意味でも、やはり光GENJIは偉大である。「である」とか言っている自分もどうかと思うけども。 ま:ほんと、クラスの男子で適当に歌っている、というぐだぐだユニゾン。 T:まあでもこの「STAR LIGHT」と「ガラスの十代」は、ジャニーズの魅力を凝縮しまくっていますよ。 ま:やっぱ、キラキラしているんだよね。ひどいとわかっていても、抗えない。 T:キラキラしていて、でもどこかこう翳りがあるというか。このキラキラした若さはいつか終わってしまうんだ、という。 ま:そう。で、そのことを歌っているこの子たちはなんにも分かっていないんだろうなぁ、と、感慨にふけるわけで。 T:そうそうそう、まさに。若いときって、自分が父親や母親と同じ年になるってこと、想像もしないからね。 全然別の存在のように思えてしまう。 ま:今手にしているものをいつか失うなんて、思ってもいないからね。まさしく「壊れそうなものばかり集めてしまう」わけで。当人は壊れるものとは思いもよらずに、ね。 T:だからこう、ただ若い、かわいい、ワーキャー、っていうんじゃないんですよ。 ジャニーズって、なんか。いまは若いけど終わってしまうなあ、とか。 さらわれてきて、わけもわからず歌わされているなあ、とか、そういうなにかほのかにブラックな感傷 というのも含んでいるわけで、そういう匂いが光GENJIは詰め込まれているなあと思う。 ま:だからさ、変な話、その後彼らが落魄してしまう、それコミの魅力なんだよね。かつての人気を失って、 しかもそのことに本人は気付かず、なんか、うらぶられたつまんない芸能人になるのコミでジャニーズ、という。 T:かーくんのことだろうか。それは。 ま:はははは、名前を出すなってば。 T:まージャニーズに限らずアイドルってだいたいそんなもんかなとも思うけれど。 ま:とくにさ、光GENJIっていきなりスターダムにのし上がって、で、あってまに一大ムーブメントになって。 T:確か最初、赤坂とあっくん中学生だったしな。 ま:そうそう、最初、「ザ・ベストテン」に出られなかった。で、いつのまにか、なんか、出ていた。 T:歌番組には毎週、全部の番組出ていたんじゃないかという感じですらあって、ほんとに凄かったなあ。 ま:いやぁ、実際ピンクレディー以来の大ムーブメントだったしょ。ベストテン番組にはほぼ毎週、 ランクインしていたし。「ミュージックステーション」はレギュラーだったし。それが綺麗さっぱり、 なにも残さず消えてしまったというのが、ジャニーズの栄枯盛衰そのもの、という感じで。 T:でもジャニーズってそんなもんだろう、と思ってたら、SMAP以降いきなり寿命伸びまくってね。 だからSMAPっていうのは異端なんだよな、ジャニーズの魅力からすると。 ま:ねー。なんか変にバラエティーで延命するようになってね。 T:そうなんだよね。歌番組なくなったから。 ま:で、その分キラキラ指数が加速度的になくなっていってね。こんなのジャニーズじゃないやん、という。 T:ただの芸能人になってしまうね。 ま:ねえ。 T:まあ私は光GENJIを忘れません。みなさんが忘れてもっ。 ま:ははは。でもジャニーさんは、どこまで光GENJIのブレイクを予想していたんだろうかね。 T:うーん、前の対談でも語ったけどデビューにあたってかなり力は入っていたはずだ。 ま:でもさ、たのきん以来、レコードデビュー以前にドラマやらなんやらで人気を確立させるって法則が ジャニーズにはあるけれども、光GENJIはそういう仕込みがまったくなかったやん。 T:内海と大沢の年長組とか、敗者復活だしね。 ま:「STAR LIGHT」以前って、まだ男闘呼組のほうが知名度あったし。そのあたりが、どうなんだろ、と。 T:でもなんか、「STAR LIGHT」って、もともとチャゲアスに依頼するときに、光とGENJIとを別々にデビューさせて、 あとでそれが一つにくっついてワーキャー、みたいな展開にしたかったので、曲もそれぞれ2つ別のやつがあとで1曲になる、 とかそんな無茶なことをたくらんでいたらしいので。 ま:無茶だなぁ。 T:結局そんなの作れねえ、ということで最初から1つになったらしいけど。なんかまあ、 ジャニさん的には結構大仕掛けだったのではと思いますが。 ま:でもほんと、光GENJIだけ、知名度ゼロでのレコードデビューなんだよね。あれがどう考えても謎。 T:まあそういやそうね。 ま:だからさ、チャゲアスもコンサートで「今度ジャニーズの新人プロデュースするんだけれども、 名前が光GENJIって言うんだぜ(半笑)」なんて言うわけで。 T:そんなこと言ってたのか(笑)。 ま:言ってたみたいよ。「なに、それ」みたいな言い草で。 T:ひどいな。まあ、依頼されたときも一回断ったみたいだしな。 ま:いやでも、光GENJIのブレイクを予測していた人って、ほとんどいなかったんじゃないかなぁ。 ミュージカル「STARLIGHT EXPRESS」のタイアップでデビュー曲はそこそこ行くかもしれないけれども、それっきりだよな、っていう。 T:下手したら変なトリックスターだよね。ローラースケートかよ、ぷぷぷ、みたいな。 ま:そうそう。ローラースケートって飛び道具じゃん、企画モノじゃん、っていう。 T:忍者と紙一重じゃないかと。 ま:忍者のほうが、まだデビュー前に色々お披露目して、仕込んでいたしね。デビュー前の扱いはそれ以下だったかと。 T:うーん、どうだったんだろ。でもなんかこう、光GENJIはすごく、ジャニーさんの夢が凝縮されている感じはする。 ま:うんうん、それはあるよね。他の売れたジャニーズタレントは、売れるべく戦略を練って売れたって感じ。 T:うん。 ま:一方、光GENJIは、ジャニーさんのピュアハートが思いもよらず少女の心を打って売れてしまった、という感じ。 T:これ以降のジャニの成功って、ここで少年隊〜光GENJIと当たりが繋がったのも大きいと思うし。ただこの光GENJI の時点ではまだ、これどう転ぶかわからんけど、 俺はローラースケート履かせて踊らせたいんだっっ、と。 ま:そう、デビューの時点ではジャニーさんの燃えるハートしかなかったろ、と。周囲は引いてただろ、と。 T:ジャニーさんまじっすか、みたいな。 ま:そうそう。これ、本気っすか、みたいな。だって、去年売り出したの、少年隊ですよ?っていう。 で、今年はこれなんすか、と。 T:それがローラースケートでこの歌唱ですかと。 ま:いやぁ、ジャニーさんの判断、知りたいなぁ。こと光GENJIに関してはかなり危なっかしい選択だったのは事実なわけだし。 T:まあ、ここでしょぼくれてたらどうなってたかっていう、オルタナティヴな歴史は見てみたくはあるな。 ■短冊ジャケット登場のトリビア―松田聖子「Strawberry Time」 T:次は聖子ちゃんですが。レベッカ土橋作曲で、争いのない国だ、という、まあ。 ま:これはアルバムの先行シングルで、アルバムのほうが面白いんだよね。 T:アルバム編に譲りましょうかね。 ま:あ、一つだけ。ソニーがこの「Strawberry Time」で 8cmCD対応の様々なジャケットパターンの商品見本を作っているのね。で、その中で、あの短冊形が本採用になった、という。 T:へー。じゃあ、事によっては正方形だったかもしれないわけだ。 ま:そうそう。本みたいに横開きのパターンとか、色々あったよ。 T:なるほど。それは知らなかった。 ま:そんなレコード業界の歴史として抑えとけ、と。 T:曲自体はまあこれ、どうですか。 ま:土橋さん、手抜き?ってそれはいいすぎか。 T:歌詞は「瑠璃色の地球」路線なのかな ? ま:でも「瑠璃色〜」よりも薄いんだよねー。 T:えー、なかなかポップでいいじゃん。きらきらして、ときめいている感じで。 ま:てか「苺時間」って、なんなん?っていう。 T:はははははは。あ、そこでまず引っかかるのか。甘ずっぱい時間? ま:や、まあ、同タイトルのアルバムは好きです私。いいです。 T:じゃあまあ折角なんで聖子ちゃんはアルバムにとっておこう。 ■洗練されたエンタテインメントの少年隊 T:で、次は・・・あー、どうする。 ま:語ることないっしょ、五木と「無錫旅情」は。 T:ない、なにもない。 ま:パスだ、ここは。華麗にパスだ。 T:ははは。柳沢のようにスルーだ。 ま:「君だけに」。少年隊は語っとこう。 T:まあ、光GENJIといっしょにちょろっと語りましたが。 ま:いやぁ、でも少年隊も好きです、私。こっちのキラキラ感はショービズのキラキラ感で、 安心して楽しめます。歌もクオリティ高いし、踊りも完璧。 T:ミュージカルチックな振りがね。 ま:いやぁ、でもこれがカッコいいんだよ。 T:「君だけに」もバラードなのに、やたら踊りが激しかった印象がある。 指パッチンにはじまって、バレリーナのようにくるくる回る、とかそんなんじゃなかったっけ。 ま:なんか東が華麗に踊らなかった? T:だった気がする。華麗だった(笑)。王子様のようだった。 ま:俺のダンスを見ろ、って感じで。 T:宝塚チックだった。台詞を歌で言いながら踊る、みたいなそんなの。 ま:ブロードウェイと言ってあげて。ジャニーさん的にはそう言って欲しいはず。 T:そうだね(笑)。 ま:や、でも私、「君だけに」みたいなバラードよりアッパーチューンが好きなんですが。「ABC」とか。 ま:あー、まあ私も少年隊は「ABC」が。これは良すぎ。 ま:素晴らしいですよね。 T:これは名曲ですよねぇ。頭のウーワッ!からもう、弾けるようなポップさで。アレンジも素晴らしいし。 ま:あと翌年の、「what's your name?」とかものすごツボなんですが。 T:あー、あれも好きだった。 ま:バラバラと三人の踊りが勝手に進行していって、どこ見ればいいの?っていう。 T:エンタテインメントだよね。全てが。素晴らしい芸能だ。 ま:うん、完成し尽くしている。 T:だからまあそれがジャニーズのもう一つの軸であるというわけで。 まあ「ABC」は、最近嵐がサンプリングしてラップしたり(「a Day in Our Life」)したけども、普通にカバーして歌い継げっ。 ま:うーーん、でも今のジャニーズは、歌とダンスだけでやっていくなんてストイックなグループないしなあ。 T:まーねー。でもコンサートでは結構伝統を重んじているようだし。ジャニーズ名曲は必ず歌うし。「ABC」もそん中に入るだろうと。 ま:まあしかし、少年隊ってヒット歌手としては結構短命なんだよね。 ヒット歌手としては、89年の「まいったね今夜」くらいまでだし。 T:そうだね。 ま:シブがき隊よりも総売上が低いし、ヒット期間も短い。 T:シブがき隊よりも、っていうのはなにか思うところがあるのでしょうか。 ま:はははは。や、シブがき隊って、売れたけれども、天下獲ったイメージはないからさ。一方少年隊は、短いながらも天下を獲ったというか。「ベストテン」でも一位獲得は日常だったし。 T:まあ、でも少年隊はどんどん洗練されすぎて、若い子がワーキャーできなくなったのかも。 「まいったね今夜」とかなんかジャジーでアダルトだし。 ま:だからさ、少年隊は、「完成されすぎると逆に展開が難しい」という、 その典型かなぁと。下手に壊せないし、かといって、いつもと同じでは意味がないし、と。で、手が塞がってしまう。 T:まあ、結構そこはアイドルに限らない感じですけど。やっぱり未完成の面白さってのはあるよね。 どう転ぶかわからないという。 ま:うん。だからさ、長くスターの位置にいるタレントってさ、ジャニだとSMAPとか、80年代ならトシちゃんとか。 未完成から完成への成長物語の形式になっているんだよね。 どんどん洗練されていく過程をファンが見守る、という。 T:うん。「音松くん」から「らいおんハート」へと、「にんじん娘」から「びんびん物語」へと。 ま:だからさ、トシちゃんが、洗練の果て手詰まりになって独立したような、その状態が今のSMAPなのかなぁ、 と思ったり。なんか変に日本を代表しちゃっているよSMAP、それでいいのかSMAPという。 T::もう完全にビッグだよね。まあ、SMAPは自ら俺はビッグだ、とは言いませんけどもね。 ま:ゆえに裸の王様、なにももう出来ない状態という。 T:まーでもずっと右肩上がりで面白いなんて人いないからね。 絶対どっかでつまらなくなるタイミングはあって。そこで盛り返せるかどうかだよね。 一回潜伏してそのまま沈むか、再び浮かぶかという。 ま:まぁ、一番難しいよね。少年隊みたいにさっさと降りて、本体はミュージカルメインの活動っていう、 「もうファンだけに特化してます」みたいなのも道としてありなのかな、と。 T:で、たまに「湾岸スキーヤー」とか世間的に引っかかればいいや、という。 ま:ユーロなダンスポップス以外の少年隊が、見たいとも思わないしなぁ、俺も。変に冒険して恥かいても、と。 T:まあ、そこであっさりフィールドを移ったわけだから、潔いといえば潔いかも。ってか、 このあと50歳になっても存在してそうなのが凄いよね。解散する必要性ないし。 ま:まぁ、解散する時期はとうに失っているしね。 T:まあ、50になったらまた3人で仮面舞踏会を歌ってほしいなと。って、「バラードのように眠れ」を一言も語っていない! ま:あぁぁぁああ。あの曲も好きだ。電話の受話器を持ちながら無理くりに歌ったのが印象的だった。 T:まあ、あれも悪乗りといえば悪乗りのような気もするが。って引っぱって、ごめん。次いこ次。 ■この時期のキョンキョンは面白い T:次はキョン2「木枯らしに抱かれて」だ。 ま:小泉は、アルバムで語りたいなぁ。「Hippies」も「ファンタァジェン」も好きだし。 T:まあでもシングルも、「木枯らしに抱かれて」「水のルージュ」(第32位/18.6万枚) と大好きです。この時期のキョン2はいいなあ。 ま:「キスをとめないで」(第99位/10.4万枚)とかもさりげに好き。 T:よっちゃん作曲。これもいいですね。 ま:このあたりからセルフプロデュース色が強くなって、結構シングルもいいものが多いんだよね。 T:あれこれ手を出しつつ、選択が結構びしばし決まってるんですよね。この時期のキョン2は。 ま:うん。 T:じゃあ詳細はアルバムに譲るとして。「木枯らし〜」はアレンジが素晴らしいですね。バグパイプが最高。 T:「ザ・ベストテン」では、小泉の自己最高得点作品なんだよね、「木枯らし〜」。 T:まあ、キョン2の中ではいちばん普遍性というか、どの世代もオッケーという幅広さはありそうですね、この曲は。 ま:初動ではあまり来なかったのが、延々とチャートに居座って・・・という。売上枚数ではさほどではないけれども、 紛れもなく代表曲だぞ、と。 T:いい曲だしね。キャッチーだし、哀愁だし。たかみーナイス、と。 ま:でも、「木枯らし〜」よりも「水のルージュ」のほうが好きな私だったりして。ニューウェーブ最高、と。 T:筒美テクノですな。 ま:バキバキしたサウンド、凄い好きやわ。 T:これはでもシングルとして切るには、結構冒険してるよな。サウンド志向じゃない?まあ、メロディも歌謡感はあるけど。 ま:あぁ、確かにそうかも。小泉のシングルにしてはかなりそっち方向かも。 T:てか、この年はこの後も何度も名前が出ると思うけれど、松本+筒美コンビが弾けまくっています。 ま:ミポリンとかね。 T:CCBとかさあ。「ABC」とか少年隊もそうだし。すばらしいっ。 ■長渕アニキ復活 T:次は長淵兄貴に徳永さんですが・・・パスですか? ま:あ、でも「ろくなもんじゃねぇ」が主題歌になったドラマ「親子ジグザグ」は大好きでした。毎週見ていた。 T:ははは。俺見てない。 ま:二代続く擬似親子の物語なんだよ。 T:キックしていないのか、それは。 ま:してないしてない。長淵がラーメン屋のあんちゃんで、安田成美と同棲しているの。 T:大変なことですね、それは。 ま:で、そこに「お父さん」って懐きの悪い子供がやってきて、そこに継母も押しかけて、っていう擬似家族ドラマでした。 T:ふへぇ。 ま:結構いい話だったのよ。前作の「親子ゲーム」も好きだった・・・って、なんかぶちファンみたいだな、おれ。 T:はははは。 ま:や、でも「ろくなもんじぇねぇ」がベストテンで1位獲った時、ちょっと嬉しかったよ、おれ。 T:ファンじゃないか!(笑) ま:ぶちが口も悪いし手も悪いけれども、実は気のいい兄ちゃんで、って役どころがね。 「くそばばあ」と継母の李麗仙を罵ったり、安田成美に「おれのぺろぺろキャンディなめろや」 と股間を押し付けたりとか、やりたい放題なんだけれども。 T:ははははははは。なんだそれは(笑)。 ま:でも、いい人なんよ。 T:そんな兄ちゃんがほしかったのか。 ま:いや、近くにいたら、絶対迷惑。 T:ははは。まあでも長渕兄貴は、ここで復活しなかったらどうなってたか、というのはあるよね。 ここでのブレイクが「乾杯」「とんぼ」「しゃぼん玉」へと繋がり、 もしかしたらあの伝説の「Captain Of The Ship」も聞けなかったかもしれない、という。 ま:うん。てか、再ブレイクがなかったら、フツーに武田鉄也になっていたと思うよ。長渕さん、ドラマの評判はずっとよかったからさ。 フォーク発役者行きだったかと。 T:でもそれだと「お前が舵を取れぃ」とか、言ってなかったかも。 ま:言わんね。「なんばしょっと」としか言わないね。 T:はははは。でも「母に捧げるバラード」と「Captain of〜」は構造的にはいっしょだな。 ま:そうかも。とはいえ「親子ジクザグ」が当たってから、なんかドラマでも、「俺はこう演じる」とかいうのが鬱陶しくなっちゃってねぇ…、ぶち。 役者としての才能を感じていただけあって、もったいないなあと、私は思った。「〜ジグザグ」の次のドラマが「とんぼ」で、長渕キック初披露だし。 T:まあ、キックからヨーソローへと続く布石がここに、と。 ■青さがきらめく「輝きながら」 T:「輝きながら」もこれいい曲じゃないかーー。タイトルと、歌詞と、音と、歌唱とこんなマッチしてるのあんまりないよ。 まさに輝きながらだよおい、という。ほかに考えられない。 ま:Tsu-Kaは、青春がキラキラしているの、ほんと好きだな。 T:はははははは。なんだその言い方はっ! ま:まあこれは、「想い出がいっぱい」の大津あきら/鈴木キサブローコンビという湿った歌謡の得意なお二人で。 T:まあでも、徳永さんは自作やりたかったので、フクザツだったようですけども。 ま:あ、そうなんだ。 T:なんか「輝きながら」の徳永、ってもう嫌だ、とか言ってたような。でも徳永さんはこの後に、 同じ路線でさらにいい曲の「壊れかけのRadio」を自分で作ったので、これはお見事だろうと。 ま:徳永さん、さりげにヒット曲多いんだよね。一発屋のにおい漂う佇まいなのに。 T:92,93年ぐらいまではコンスタントに売り上げています。っていうか「Wednesday Moon」とか1位獲ってなかったか。 ま:とってるとってる。「夢を信じて」「壊れかけ〜」の次で、初動に勢いがあった頃に偶然取れた1位、って感じだけれども。 T:「輝きながら」「壊れかけ〜」は知ってても、誰も知らないだろう、「Wednesday Moon」とか(笑)。ま、実は結構いい曲で、好きなんですけど。 ま:あ、うん。案外いい歌だね。 T:ってまあ、「輝きながら」って、この声でこの歌詞でこのメロディーで、ってあまりにもジャストすぎるからさ。 一番あとが続かなくなる感じではあるよね、こういうの。青いぞー切ないぞー、で、バラードって一番手づまる感じだけど。 ま:うん。うまくサバイブしたよなぁ、と。 T:徳永さんはわりと上手く乗り切った感じで。 ま:もやもや病も克服して、近年ではカバーアルバムも好調で。 T:まあ、やっぱり声に替えがきかない人はいいなと。いつのまにか今、大御所感漂っている。 ま:男・高橋真梨子って感じしません?徳永さんって。 T:ははは、あーーー。少し。 ま:なんかこう、芸能臭もアーティスト臭もしなくって、ただ、歌手、という。 T:いつのまにか大御所、という。ミュージックフェアーが似合う。 ま:美声で、メロウないい曲歌ってて、気がつくと大ベテランっていう。 T:結構、もやもや病になる前後とか試行錯誤してて、変なビートルズみたいなアレンジとか、って変なってひどいな。 ま:はははは。そうなんすか。 T:まあ、大変そうだなあという時期もあったんですが、上手くサバイブした感があります。 ま:こういう人材も大切だぞ、と。 T:まあ、「壊れかけ〜」1曲だけで俺の中では徳永さんは神ですけどねっ。徳永神。 ま:壊れかけのTSU-KAだしな、いつだって。 T:ぼくの体が昔より大人になったからなのか、といつも問いかけている。 ま:はははは。ピーターパンだ。 T:そんな三十路カウントダウンです。 シングル編 その2 |