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中森明菜 「夢」

〜'91 Akina Nakamori Special Live〜

1.OPENING 2.難破船 3.二人静 -「天河伝説殺人事件」より 4.DESIRE -情熱- 5.LA BOHEME(ラ・ボエーム) 6.十戒(1984) 7.TATTOO 8.LIAR 9.乱火 10.雨が降ってた… 11.Dear Friend 12.CARIBBEAN 13.目をとじて小旅行(イクスカーション) 14.スローモーション 15.セカンド・ラブ 16.北ウイング 17.ミ・アモーレ [Meu amor e...] 18.水に挿した花 19.忘れて…


 91年7月27〜28日、幕張メッセイベントホールで行われたスペシャルライブをおさめたライブビデオ。
いわゆる自殺未遂後の復帰ライブの映像である。CD版の「Listen to me」はMCを含めた完全収録であったが、ビデオ版は大胆な編集がなされている。

 とっかえひっかえで見せる衣装は、派手なのだが、彼女には珍しくどこか着せられている感が漂っていたし、 また、彼女にしては珍しく多くのダンサーや大きな舞台装置で見せる派手なアリーナライブも、どこか虚ろな華やかさをわたしは感じた。
 そして、あきらかに声が出ていなかった。踊りにキレがなかった。
 明菜は以後、全盛期の歌唱からどんどん離れていくのだが、このライブでは、以後のライブに感じるボーカルの変質を逆手に取った表現の成熟・深化というのがまるでなく、ただ衰えたにすぎない、といった雰囲気であった。
 歌・ダンス・セット・衣装、その全てがひとつに集積していくのが、歌手・中森明菜の魅力であるのを、まったくもってここでは全てがバラバラで、集中力に欠けていた。



 この時点で彼女が歌手として復帰せんという意志が充分にかたまっていたかというと、そうではなかったのではなかろうか。 歌手として再起してほしいというファンやスタッフなど周囲からの期待に応えようという意識はあるのだが、心がついていない。そんな雰囲気がある。
 かつてのストックで、ライブとしてある程度の形になってはいたが、それから先がここにはない。
 それが中森明菜もよくわかっているのだろう。歌手としての自分、そして個人としての自分、さまざまなままならぬ現状に、おもわずにじみ出る悔しさと悲しみの表情。
 その不意に見せる表情にドキュメンタリー的な緊迫感があり、ファンならずとも思わず引き込まれてしまうのだが(―――思わず涙にくれる「少しだけ小旅行」や 歌詞を変えたアンコール「忘れて……」等に如実である)、しかし、それもまた、彼女の意図したことではなかろう。

 改めて見るに、もっとふさわしい形での復活ライブがあったろうとは思うが、しかし、それを許す状況ではなかった。
 当時、中森明菜の復帰プロジェクトのハンドルをテレビ朝日とフジテレビが奪い合っていたように、記憶している。 89年の大晦日の復帰会見はテレビ朝日が、初の歌番組出演は「夜のヒットスタジオ」のフジテレビが、それぞれ得ていた。
 そしてこの復帰コンサートは、フジテレビが主催し、放送した。この彼女に似つかわしくない舞台は、そういった政治的部分によるところが大きいといえるだろう( ――そもそも彼女はデビュー以来大きな箱でコンサートをやることを良しと思っていない。 人気の絶頂期においても2000〜5000席の、県民・市民会館クラスが常であった(――昼・夜2回コンサートするから狭いホールにして、といったとかいわないとか)。
 自殺未遂という、しごくもってパーソナルな出来事を、しかしそこからの復帰が、はからずも大資本の手のひらの上に乗り、商品として流通されてしまう、スターの悲劇をそこに感じずにはいられない。

 もっとも、彼女をきっちり管理し保護する実績と信頼のあるプロダクションなり後見者がいて、彼らがさまざまなオファーを整理できればよかったのだろうが、 そういった者が当時の明菜にいなかったことが、しばらく後の、自称明菜の後見人・木村恵子の登場で明らかになる。
 彼女の歌手としてのほんとうの復帰ライブは94年「歌姫」ライブといっていいだろう。 このライブで図らずも見せてしまった不意の彼女の横顔が、「歌姫」ライブでは、ひとつの表現として高められる。
 舞台で中森明菜を生きる。ドキュメンタリーとしてのライブ。その完成は94年である。



 歌手として、芸能人として、復帰というにほど遠いライブだが、 しかし、その中で必死にもがき、なにかを伝えようとしている中森明菜の姿が痛々しい。
 このライブ以後、彼女の道のりがさらに混迷を極めることを鑑みるに、彼女にとっても、またファンにとっても、消えない傷痕のようなライブビデオといっていい。

2006.11.14
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