yae 『new Aeon』
1.My Dear
2.Wa-ya
3.花よ風よ
4.空の色
5.Gazon
6.月のささやき
7.ガイナの娘
8.Mishaela
9.enlasala
10.I feel
今後に注目 (2001.06.20/ポニーキャニオン/PCCA-01538) |
この娘の支持に1票投じよう。 この娘、おれは買うよ。 ということで、yae『new Aeon』を紹介。 加藤登紀子の次女、yaeのデビューアルバムである。 宇多田ヒカル以降才能ある二世アーティストの時代が到来している昨今のポップス界であるが、この娘もなかなかのものである。 森山直太朗、宇多田ヒカルなどと共に彼女も親からの多大な影響を無意識領域に蓄えながらも、新しい今という時代のに見合った若い独自の才能が輝いている。 彼女の特徴はなによりも様々な世界の民族音楽が混在していること、そして自然志向なところであろう。 これはなにより母加藤登紀子と父藤本敏夫の影響なのだろうが、加藤登紀子や藤本敏夫が意識的に行なっていた作業であるのに対して、一方yaeは彼女は加藤登紀子が掘り起こした音楽を子守唄に、藤本氏が行なっていたエコロジー運動を当然のものとして受け止めて育ってきたのだろう。生活の前提として民族音楽や自然志向があるというか、普段着のように自然にさりげなく着こなしている感じがあるのだ。 それが聴く者に新鮮に響いてくる。 加藤登紀子らにあるイデオロギー臭はもちろん抜けきっているし、また、最近のトラッドをやる歌手にありがちな暑苦しさ、サブカル的オタク的な自意識も彼女には感じられない。 『わたしは歌姫、みんなを癒してあげる』なんて鬱陶しさがない。万事において涼やかで、さりげないのだ。 好きな歌をただ、歌う、それだけ。といったシンプルさがよい。――自意識のあり方も自然、なのである。 この風通しの良さを味わうだけでも一聴の価値はあるだろう。 世界と自分とが直結しているというか、自分と他者というもの有り様に余計なものがなくシンプルかつ直截的なのである。 自分の可能性と自分の歌う歌の領域がそのまま同じ、というか、世界がそのまま私の歌の舞台、というか、そんな大きさというかおおらかさががある。世界のどんな場所にいても自分の歌う歌というものを歌える歌手なんじゃないかなぁ。――これは母の加藤登紀子からも感じることではあるのだが。 そのすきっとした感じはアルバムのジャケット写真にもよく出ている。 化粧っけのない顔。よく手入れされた髪を無雑作に束ねたり、流ししたり。そして背筋をぴぃんと張って姿勢よく立つ。 彼女はダンス経験のある立ち方だな。手が蜘蛛のような長くって、姿勢に余分なものがなくって綺麗だ。バレリーナのオフショットのようにも見える。 声の出し方は、多分無意識なのだろうが、結構こぶしが回っている。 抑揚のつけ方とか、ビブラートとか手癖っぽいのだが、その部分がそのまま日本人の琴線に触れる歌い方になっている。―――この辺は宇多田ヒカルに似ている 中低音に説得力があるのは母譲りであるが、声質は母がこもり系というか深くまぁるい声であるのに対して、少しばかり抜けのいい声である――が流行りのポップス歌手のようにスコー――ンとは抜けない。 似ている歌手と考えると――、そうだな、おおたか静流に近いかもしれない。 音作りは全体として、生音中心で優しい民族音楽テイストのポップ――ケルトの匂いが一番強いかな、なので『癒し系』というカテゴリーに入れられてしまいがちの位置にあると思う。 実際聞いていると完成度は高いのだが、一曲一曲の印象は残らず、すぅっと流れていってしまいイージーリスニング的に聞こえてしまう。 つまりはまだまだ手癖で作っているというか、素で作っている感は否めないのだが、卑しい響きのある『癒し系』という言葉でくくることは彼女の音楽に対して失礼というべきであろう。 この盤は彼女の未知の可能性が煌いている。 「My dear」の声がパラグライダーのように上昇気流に乗ってそのまま空に飛ぶような身軽な感じ、「花よ風よ」の日本の民謡テイストのさりげないこぶし、吟遊詩人のサガのような「ガイナの娘」、このあたりのテイストが今後どう変質していくかというのは実に楽しみである。 言葉と音楽がもっと緊密に繋がっている楽曲、代表曲となりうるような質量の重い楽曲、が生まれてくるともっといいだろう。 自作にこだわらず、トラッドという縛りにこだわらず、大きな活動をしてもらいたい。民族を超えたトラッド、文化や民族が混ざり合ったポスト歴史時代の新しいトラッドを歌う歌手のひとりに彼女がなりうる可能性というは充分にあるのだから。 ともあれ、デビューしてまだまもない歌手なのだから、これからである。 加藤登紀子は「似るのはよくない」とデビュー後は敢えて一緒に仕事はしないよう努めているらしいが、デビュー時点でyaeは両親の築き上げだ土台の上に独自のものを築く作業へ着実に向かっていると感じる。 非常に楽しみな歌手のひとりだ。 |
2004.02.11