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中森明菜 『歌姫ベスト』

〜25th Anniversary Selection〜


(2007.01.17/ユニバーサル/UMCK-9154)

1. リバーサイドホテル(LIVE ver.) 2. ダンスはうまく踊れない 3. 魔法の鏡 4. チャイナタウン 5. 黄昏のビギン 6. 色彩のブルース 7. 桃色吐息 8. 愛はかげろう 9. 恋の予感 10. 窓 11. 傘がない 12. 秋桜 13. 別れの予感 14. 異邦人 15. 瑠璃色の地球 16. いい日旅立ち


 昨年11月にリリース予定だった「歌姫ベスト」が明けて一月にようやくリリース。カバーアルバム「歌姫」シリーズ三枚からセレクトした変り種ベストアルバム。
 これはもともと映画「旅の贈り物 - 0:00発」の主題歌としてカバーした「いい日旅立ち」ありきでスタートした、レコード会社発信の企画なんだろうなあ。 それを商品としての完成度を高め、またよりよいタイミングでプロモーションを行うために、二ヶ月発売を延期した、という感じ。25周年ベスト「Best Finger」の約一年後のリリースってのも、ちょうどいいしね。
 楽曲は70〜80年代の知名度の高いヒット曲、明菜と同世代の人なら誰でも知っている曲を中心にセレクト。いわゆるニューミュージック系が目立つかな。 「私は風」や「片思い」、「アデュー」のような「これぞ明菜」というべき歌唱を楽しめる(――が知名度のあまり高くない)曲は外されている。
 一方、歌姫シリーズ三枚をしっかりもっている現役ファンには、 新録音「いい日旅立ち」に、「歌姫3 〜終幕〜」からのアウトテイク「チャイナタウン」、さらに05年のライブ"Empress"より「リバーサイド・ホテル」と、初音源化楽曲を3曲を収録し、特典DVDには「秋桜」レコーディング映像と「歌姫3」のインタビュー映像が用意され、これで全16曲で3500円というバリュー感。 現役明菜ファンも、アイドル時代の明菜を知っている――けれども今の明菜はあんまり興味ないや、っていうライトユーザーもみんな買うでしょう、これは。 商品としての完成度がものすごい高い。
 これが既録音源のリサイクルで成立できるんだから、まぁなんて、ローリスクハイリターンな、見事な商品なんでしょう。 実際の採算分岐をどこに置いているのかはしらないけれども、これで赤字出したら、もう、中森明菜という商品は、歌手として終わりといっても過言でない。 というわけで、イニシャルはやっぱり順調に捌けているよう。

 な、ん、だ、け、れ、ど、も。
 まぁ、作品としてのクオリティーをみると、ちょっと散漫かなぁ、というのがハードでコアな一明菜ファンであるわたしの、正直な意見。
 曲順等苦心した結果これ、っていうのは充分感じるんだけれども、やっぱりつぎはぎ感というのは拭えず。 「瑠璃色の地球」で綺麗に幕が下りたと思ったら、おまけみたいに「いい日旅立ち」が流れて、妙な尻切れ感を残したり、とか、そういう流れを壊す部分が随所にあるんだよね。
 「歌姫」シリーズが、コード進行まで考慮に入れ、曲の流れを緻密に計算して作っていただけに、余計そういう違和感を強く感じる。
 それに、アレンジも、やっぱり「歌姫」シリーズは千住明で統一してほしかったなぁ、と。べつに「いい日旅立ち」「リバーサイドホテル」アレンジの上杉洋史さんがいけないってわけじゃ、ないんだけれどもね。
 いっそ「歌姫4 〜再生〜」を作ってくれればいいのに、というのがわたしの本音です。

 ――て、まあ、こういうのは、ファンのたわごとというもので、全国約一万人の「中森明菜の新曲ならなんでもひとまず買うよ」っていう人に発信するよりも、全国に何十何百万人といる「アイドル時代の中森明菜はわりと好きだったな。で今は何やっているの ?」っていう人に向けて発信するほうが商品として正しいわけで、これで正解なんだと思う。 てわけで、昔明菜に好意的だった記憶がある人、歌姫シリーズ買ったことないけれども実際どうなん ? という人は買いましょう「歌姫ベスト」。
 パッケージとして諸々、そういう不満はあるけれども、明菜様の歌唱自体はなんら問題ないわけですし、このバリュー感はライトユーザーには抗えないでしょ ?




初収録作品などについて少し。

・「いい日旅立ち」……いわずとしれた山口百恵の78年のヒットシングル。明菜はやっぱり、百恵のDNAを確実に受け継いでいる。ホント、実は親戚かなんかじゃないかろうかとすら思える。 物まねにならずしかし、息遣いすら似ている。「秋桜」「愛染橋」「いい日旅立ち」と、とうとう百恵の後期バラードシングル三曲を全てカバーしてしまった明菜さん。もう百恵カバーは卒業?

・「チャイナタウン」……矢沢永吉の77年アルバム「ドアを開けろ」より。98年の作品と書いたいいかげんなスポーツ紙があったな、おい(――98年の「SUBWAY EXPRESS」はセルフカバーだわさ )。ユーミンの「魔法の鏡」との連動でここは"中森明菜の中学時代のリスペクトシンガー"コーナーといっていいだろう。 明菜にとって馴染みの曲なのだろう、手馴れたものという感じで、鼻歌っぽく歌っているが、そこに昼下がりから黄昏にかけての港町の長閑な雰囲気、たゆたゆと波止場に打ち寄せる波のゆらぎを感じる。これは小品にしたてあげて正解。

・「窓」……特典DVDで、この歌についての思い入れを中森明菜は語っていた。明菜、この歌がそんなに好きなんだ。わたし的にはわりと、さもありなん、ってところなんだけれども。
 この「窓」は愛の断絶、世界との断絶を歌った歌だ。
 窓の向こうには世界が広がっている。窓の向こうにはたくさんの愛すべき人々が待っている。 私は窓の向こうを望む。しかし窓の向こうへ、決して言葉は、心は届かない。 私と世界の間にある一枚の窓、それは私を守り、私を閉ざす。 いつか、この窓を開いて、自由になりたい。言葉を、愛をわたしは世界へ届けたい。 祈りにも近い願いを、私は静かに願う。
 これは、わたしが再三述べている中森明菜の自我構造――閉ざされたひとりきりの繭のなかで、愛の夢を夢見る永遠の眠り姫たる中森明菜――そのもの、といっていい。

2007.01.19
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