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谷山浩子 猫森集会 2011

Aプログラム

「天才登場!」

(2011.9.18/全労済ホール スペースゼロ)
1.恋するニワトリ 2.風になれ 〜みどりのために〜 3.時の少女 4.鬼こごめ 5.SORAMIMI 6.おひさま 7.パタパタ 8.鳥籠姫 9.ここにいるよ 10.Beijing Duck's Screaming 11.意味なしアリス 12.まっくら森の歌 13.冷たい水の中を君と歩いていく 14.ガラスの巨人 15.電波塔の少年 16.ねこの森には帰れない 17.NANUK
Vo,Pf:谷山浩子 Syn:石井AQ  B:川村竜 (Guest)


 猫森集会!!
 ――というわけで、10回目の記念となる今年のゲストは順に川村竜・山川恵津子・斉藤ネコ・Rolly率いるバンド、The 卍というラインナップ。
 ふむふむ、谷山ファンには御存知の面子かな――って、ん? この人誰? 川村竜。ライブとかアルバムとか、谷山関連では今まで絡みなかったよね。
 でも、タイトルに≪天才登場!≫って、煽っているし。山口とものように、谷山さん、また面白キャラ発掘した? どういうライブになるかまったく予想できないけれども、怖いもの見たさで見てみたいかも。
 ってわけで、あえてこの日をセレクションし、やってまいりました、スペースゼロ。谷山ファンにはちょっと慣れないゲストなのか、入りは七〜八割くらい。定刻どおりに開幕。

 まずは谷山さん一人で登場。真っ赤のカーディガンに小花?の同系色のワンピースに、髪型はいわゆるハーフアップのお嬢様結びで、少女趣味全開――ってか、ちょっと若返った? 可愛いっ。
 まずは、毎度お馴染み「恋するニワトリ」の弾き語りでさらっとご挨拶。シンプルで鮮度の高いピアノプレイはあいからわず。いい音色だよね、ホント。前々から知ってるけどさ。
 んでもって、さっそくいつものAQとゲストの川村さんが登場――って、で、でかい。それでは三人で紹介がてらという感じで、手堅く「風になれ」。
 これはシンプルなコントラバスの音色が絶対はまるよね、という癒しの一曲で鉄板。うん。いい感じのライブになりそう、と予感を漂わせたところでゲスト・トーク。
 川村さん体重三桁だそうで、「シャツを来た力士」「コントラバスがふたつ」と早速谷山さん、デブキャラいじり。対する川村さんもカラッと受け止め、まったく動じず。というか、若いのにおしゃべりが達者。自虐ネタ、自慢ネタおりまぜ、場の空気を持っていく。
 あー、いわゆる葉加瀬太郎ラインのお方なのね。陽気で才気溢れる押しの強いデブキャラ。他の文化人で言えば小林亜星とか小松左京とか。海外で活躍する人らしいというか、これくらい身も心もどすんとしていないと、本場でやっていけないのだろうな。
 んで、何故彼が≪天才≫なのか。高校からエレキギターをはじめて、大学でコントラバスに転向。それからわずか数年の、22歳のときに「ハワイ国際コントラバスフェス」に甚平と雪駄姿で登場し、規定時間大幅に越えてフリー・インプロビィゼーションやったら、大絶賛で、最優秀賞を受賞しちゃったよ、という、まさに俊英。
 ……で、なんでそんな人が谷山浩子のライブに現れるの? ――音楽に目覚めたきっかけが、谷山浩子プロデュースの岩男潤子のアルバム「Kimochi」だったから、だって。なんだそりゃ。あー、わかった。変人なんだね、この人。才能ありすぎて変な人。

 と、ゲストの人となりが見えてきたところで、ここから本領発揮。「時の少女」〜「鬼こごめ」〜「SORAMIMI」とねっとりと夜の気配のただよう曲で攻める。
 スタジオ録音盤よりもぐっと引き締まった歌唱とピアノでみせる「時の少女」。ドラマチックで悲劇の匂いの漂う「鬼こごめ」は、このライブのための楽曲という感じ、妖しく乱舞するベースの音色が白眉。実らぬ恋に揺れる「SORAMIMI」も、夜の気配がより強く感じられて、ぐっといい。
 どすどすっと深く地の底から響くウッドベースの音色と、エロティックな谷山の恋歌ががっぷり四つに組み合って(――て、別に意図的に相撲イメージしたわけではないのですよ)、陽光の下では霧散してしまう危うい闇の幻想の世界が生まれた。
 さらに続いては、今は岩男潤子さんのサウンドプロデュースも担っている、という川村さん(――少年時代の憧れの歌手のパートナーになっているってすげーなー、しかし)ってわけで、岩男潤子提供曲コーナー。ほのぼのな「おひさま」、淋しげな「パタパタ」、ドラマチックな「鳥籠姫」、励まし系の「ここにいるよ」と、谷山の岩男ワークスの特徴的四パターンをひとまず全部やってみた、という感じかな。
 このへんの川村さんのプレイは耳に親しんでいた作品ということもあるのだろう、磐石のひと言。さきほどの攻撃的なサウンドではなく、全体的にしっとりめな仕上がり。「パタパタ」ではコーラスも披露。ジェントルないい声じゃん。ちなみに、岩男潤子へのオマージュということで、今回の「おひさま」の詞は岩男バージョン。このあとふたりが一緒になると谷山バージョンになるのだとか。

 トークでは、さらにデブキャラいじり。なんでそんなに太ったのか?コンテストで賞獲った頃はやせていたけど、その後スペインに長期逗留している間に食べ物がおいしくって、とか、スペインはコーラとポテチが国民的常備食、とか、今、エレキベース弾くとベースが斜めになる、とか、ベースは腕の重さで弾くから腕が太いのは役に立っている、とか、うんぬん。
 食道楽のベーシスト、という話から、香港の中華料理屋で店先の檻に入れられたあひるの鳴き声から着想した、という川村さんのオリジナル「北京ダックの断末魔」。
 これがカッコよかった。小汚い中華街の裏路地、その片隅にある檻、あひるががぁがぁと騒がしくひしめいていて――と映像が見えてくる。ちょっと間抜けで、可哀想で、それにプラス、ざわざわとした人の気配。ここからシームレスに「意味なしアリス」への流れは鳥肌モノ。今回のハイライトじゃなかろうか。
 ミュージシャン同士が親和しあい、浸食しあい生まれる、これがまさしく猫森でしか味わえない醍醐味。どちら寄りに合わせてというのでなく、それぞれが持ち合ってこの場でしかないベストの音が生まれるのだ。

 さてさて、またトーク。最近の谷山さん。暮らしているマンションの上の階の住人が水を出しっぱなしにしたせいで、家中水浸し。「もう、どうすれば」という事態に。
「でも最近気づいたんです。わたしってポリアンナ体質(――詳しくは「ポリアンナ効果/ポリアンナ症候群」で調べてみてね)なんだなって」
 「少女パレアナ(アニメでは「愛少女ポリアンナ物語」で有名)」の主人公のように、どんな状況でも強引に幸せを見つけることができる。それで気持ちを持ち直す(――と谷山さんが語っている間に、コーラのペットボトル、プシッと開けてごくごく飲み干す川村さんがデブチャーミング)。
「ひとまず、今生きてるし」と無理目な「よかった探し」であげぽよ状態に持っていく谷山さん。「わたしもここにいる人たちも、いつか、みんな死ぬわけだし」とかなんとか、もはやポジティブなんだかネガティブなんだか分らない感じになりつつ、歌。
 曖昧な結末だけれどもろくなことになっていないだろう少年を歌った三作(――なんだそりゃ)、ということで「冷たい水の中を歩いていく」「ガラスの巨人」「電波塔の少年」。
 うん。やっぱ、妖しいほうがいいね。川村さんとのセッションは。妖しさに奥行きが出る。「電波塔の少年」はエモーショナルが過ぎて、演奏がとっ散らかりかけたけれども、でもなんだか、谷山さん楽しそう。びしっと完璧に決めるより、ちょっと崩れた方が愛嬌があって谷山さんらしい(笑)。
 猫森集会十回記念ということでラストは「ねこの森には帰れない」。さらにアンコールは、ニューアルバムより、くまさんみたいな今日のゲストにぴったりということで、ホッキョクグマを歌った「NANUK」で、静々と幕を閉じた。

 ネコさんや渡辺等さんはじめ、今までで充分過ぎるほどわかっていたけれども、やっぱり思うね。谷山サウンドはやっばり弦との相性がいいっ。谷山さんのピアノとAQのシンセ、これに弦が加われば、あとは何もいらないんじゃないか、と。
 今回の川村さんは、若さゆえのギラっとした覇気、重心が下にしたどっしり感というのが随所に垣間見えて、今までのネコ・渡辺さんの油っ気が抜け軽妙洒脱な持ち味と違って、とても面白かったな。
 実質的に101人コンサートを引き継いで谷山浩子のライフワークとなった猫森集会だけれども、ご本人もいっているように、ホント最近は谷山版「徹子の部屋」。谷山浩子っていう土俵で、自由にゲストミュージシャンが遊ぶのが、見て聞いて、実に楽しい。
 谷山さんならこの人という馴染みのミュージシャンも友達の家に遊びに行く感じでいいし、今回のような意外な人材との格闘技的セッションで世界を広げるのもいい。これからもどんなアーティストを呼ぶかなと、期待して参加したいなっと。

2011.09.19
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