谷山浩子 猫森集会 2008
D プログラム 「ちゃんと練習したネコ」 (2008.9.22/全労済ホール スペースゼロ) |
1.瞬間 2.お昼寝宮お散歩宮 3.椅子 4.心だけそばにいる〜Here in my Heart〜 5.アーク〜きみの夢をみた〜 6.わたしを殺さないで 7.時計館の殺人 8.パジャマの樹 9.光る馬車 10.トマトの森 11.ひとみの永遠 12.ひとりでお帰り 13.漂流楽団 14.海の時間 15.手品師の心臓 16.Elfin 17.なつかしい朝
Vo,Pf:谷山浩子 Key:石井AQ Vln:斉藤ネコ (Guest) |
谷山浩子、秋の恒例プログラム「猫森集会」の季節が今年もやってきた。 今回のゲストは、Aプログラムから順に十亀正司、ROLLY、山口とも、斉藤ネコ。 わたしはDプログラム斉藤ネコの回であり、最終日の9月22日に訪れた。 すこし早めに着いたので席につかずにロビーでゆっくりしていると隣の席でおもむろに古い少女漫画を読みだす若い男性、さらにトイレに向かうとなんと歯磨きをしている人まで……、な、なんというか、随分フリーダムだな谷山の男ファン。 セットは毎年いつもの感じ。千秋楽だけあって入りは満員御礼。時間通りに客電落ちて、谷山、AQ、ネコの三氏があわられ、すみやかにライブスタート。 一曲目は「瞬間」。声も、ピアノの調子も、いいようだぞ。ちなみに服装はのインナーに黒のワンピースというシンプルないでたち。一曲終わって挨拶。 「今回のゲスト、斉藤ネコさん」と谷山、紹介しながらも、「ゲストだけれどもゲストじゃないみたい」 「たんぽぽサラダ」以来レコーディングでは25年の付き合い、ライブも猫森集会の前身、青山円形劇場の「101人コンサートスペシャル」からずっと谷山をサポートしている、と、いわば彼は歌手・谷山浩子の完全たる身内。 「今日は奥さんお嬢さんでいらしてるようなので、間違えられませんね」 と、谷山のネコへ軽口も気の置けない仲間だからこそ、という感じ。さらに千秋楽というだけあって、集まったファンも彼女の手の内は大体わかっているというツワモノばかり、トークの途中にP.Aに業務連絡入れたりと、まさしく身内の集まりという感じで、会場全体にリラックスしたムードが流れていた。 谷山作品で初めて斉藤ネコがアレンジ(――このときは弦のみ)担当した「お昼寝宮お散歩宮」、さらに「椅子」と続く。 「お昼寝宮お散歩宮」ではAQのリコーダーが本番前にたくさん練習したにもかかわらず、すっとちるが、これはまあご愛嬌。「椅子」では早くもコンサート終盤のような充実した仕上がり。ちなみに今回の選曲は全てゲスト・斉藤ネコによるもの、というわけで、彼がアレンジを請け負った作品中心、自然と90年代前半の作品ばかりになっている。 それにしても、歌っているなあ、ネコ氏のバイオリン。ある意味、谷山浩子とツインボーカル、みたいな、それほどに主張が強く、食ってかからんほどの勢いがある。 さてさて「101人スペシャル」以来、オールリクエストライブばかりに借り出されていた斉藤ネコ。 しかし今回はオールリクエストではなく、タイトルも「ちゃんと練習したネコ」。谷山浩子は訝しがる。 「おっかしいなあ。私が知っているミュージシャンで一番リハーサル嫌いなのに」 「いや、そういうわけではない」と、ネコ。 「ただ、曲はあらかじめ決まったほうがいいなってだけで、練習はしたくない」 会場爆笑。 「その場でコードを聞いて、その場で弾く、などど云うと手打ちうどんの実演みたいなのは、年齢もあるし、ちょっと、つらい」 なるほどね。とはいえ、出たとこ勝負のフリーセッションないつもとうって変わって、今回はかなり密度の濃い真剣勝負、 三者がそれぞれ相手を驚かすために隠し球を用意している、という感じがした。 「心だけそばにいる」「アーク」とやさしい歌が続いて、さてさてMC。いつも猫森集会はここもゲストを中心にまわすのだけれども、今回揃った三氏、あんまりにも親しすぎて逆に話すことがない。 「ミュージシャンとして活動して今までで一番印象に残ったことは?」 柄にもなく谷山浩子がインタビュー。すると――。 「渋谷のエピキュラスというスタジオで谷山浩子さんという歌手のレコーディングに参加としているとき、ご本人に『谷山さん、歌上手いですね』と云ったんですね。そしたら彼女、『歌手だから上手くて当然でしょ』って――」 慌てる谷山。 「わたし、絶対そんなこと云っていないっっ」 不覚にも暴露大会へと発展。さらに「たんぽぽサラダ」で「船」をレコーディング中の話など、まあ、若き日のふたりのちょっとイキっていた話で盛りあがってしまった。 次は「殺人コーナー」と題されたおどろおどろしめの歌「わたしを殺さないで」「時計館の殺人」と続くのだが、ここが良かった。本当に良かったっっ。 スタジオ録音版のさらに上を行く世界が繰り広げられたといって過言ではない。うん、なかったね。 今回のライブはつくづく、谷山・AQ・ネコの三位一体の完璧ぶりが発揮されたライブだったと思うのだけれども、その白眉がこのパートだった。 お互いの手の内をよく知り尽くしている三者だからこそ、入り込める音の領域という感じ。この三人で完全であり、完結しているのだ。 ネコが煽るように狂い弾けば、浩子の指先は叩きつけるようにピアノの上で踊り狂い、AQのシンセも駆り立てる。 それぞれのマッドで白熱したプレイに、聴衆は、性の高揚にも似た陶酔として混沌とした音の渦の最中に飲み込まれていく。 「身内の集まりのようなライブ」とこのライブの雰囲気を前述したのだけれども、こういった場であるからこそ逆説的にピアニストでありボーカリストである谷山浩子のプロフェッショナルな部分を強烈に感じずにはいられなかった。 本気だな、彼女、と。 曲終わり、聞き手もプレイヤーも白く虚脱していた。 さてクールダウンするように続いて「パジャマの樹」「ひとみの永遠」などとかわいらしい歌やおだやかな歌がトントンと続く。ひとつの山を越え、緊張の糸が解けたのか、このあたりはかなりリラックスしてくつろいだ音。 ラストは「ひとりでお帰り」「漂流楽団」「海の時間」と、もうこりゃ、鉄壁のラインナップ。 「ひとりでお帰り」はこの時期にぴったりのやさしい歌でやっぱり素敵だし、「漂流楽団」のアレンジもこれ、ぐっと良かったんだよなぁ。スタジオ録音版よかこっちの方が好きだっっ。 アンコールはあやしいあやしい「手品師の心臓」と「Elfin」。曲名におおと盛りあがる客席。やっぱり不気味な歌歌ってなんぼだよねっ。 もちろん千秋楽ということでダブル・アンコール。最後は谷山の弾き語りによる「なつかしい朝」でしっとりと綺麗にクロージング。 今回もとてもいいコンサートだった。 これが今の谷山浩子のベースメントであり、そしてベストなんだろうな。 このままライブ音源をセルフカバーアルバムとしてパッケージ化して全然問題ないっしょ、というほどの出来だったのはもちろん、谷山浩子というアーティストの根幹にある音楽性もひしひしと感じられたし、それがもっともいい形であらわすことができるのがAQ氏とネコ氏のサポートの時なんだ、ということも痛感した。 強いミュージシャン・シップによって谷山浩子の音楽もまた構築されているのである。 |