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谷山浩子 猫森集会 2007

C プログラム

「トモトモと初めてのオールリクエスト」

(2007.9.20/全労済ホール スペースゼロ)
1.まもるくん  2.Door  3.電波塔の少年  4.夢のスープ  5.ひとみの永遠  6.やまわろ  7.Moon Gate  8.恋人の種  9.てんぷら☆さんらいず  10.僕は帰るきっと帰る  11.早寝早起き朝ごはん 
Vo,Pf:谷山浩子 Key:石井AQ   Per,Drなど:山口とも (Guest)


 猫森集会っっ !!
 毎年谷山浩子のレパートリーの中から来場者に選曲してもらうオールリクエストDAYを組み込んでいるのだが、 オールリクエストのゲストは毎年斉藤ネコと決まっていた。
 斉藤ネコは、石井AQと同じく「たんぽぽサラダ」以来ほぼすべての谷山のアルバムに参加しているからして、まあ、手の内が見えやすいから、 なにが起るかわからないオールリクエストのゲストとして一番ベストなんだろう。
 が――、35周年の今年はちと違う。 なんと廃品打楽器演奏者として有名な山口ともがゲストなのだ。

 ――といって、山口さんのこと知っているような書きかただけれども、実はわたし数週間前まで彼の名前も知らなかった。
 「今、結構名が売れてるよ」とかなんとか、友人の話から彼が世間的にどんな位置にいるのかを聞き、またYoutubeで彼の演奏を見て、 なるほど、これは谷山浩子さん好きする人だな、「ごみごみ あ!ミーゴ」の突き抜けたナンセンスっぷりとか、なんか凄いもの。と納得。
 し・た・の・だ・が。
 なんと、彼、谷山浩子の曲、10曲程度しか知らないんだそうだ。
 リクエスト受けて、知らない歌をいきなりその場で演奏。
 そもそもそんなこと、できるのか ?
 ま、グダグダなライブもまたそれはそれで面白いけれどもね。
 戦々恐々半分、なんかハプニングあったら面白いよねという興味本位半分で私は訪れた。



 会場。オールリクエストだから、濃い谷山のファンが中心かと思ったらさにあらず、山口とも目当てなのかな、なんかこうサブカルーな感じの若い娘さんなんかもちらほら。入りは9割程度。
 さてさて。開演。
 オープニングでいきなり谷山・石井・山口の三氏が登場。おもむろにトークからはじまる。
 今日はオールリクエストですよ、とまずアナウンス。
 最近、さだまさしもオールリクエストライブをおこなったのだそうだ。 さだはライブ後「もう二度とやらない」といったという。 その話に谷山思わず「勝ったね」。
 そんな無謀な試みの二日目。 しかも今年は斉藤ネコでなく、谷山浩子の曲をほとんど知らない山口ともがゲスト。
 昨日のライブ後のアンケートは「山口ともさんが凄かった」という感想で一色だったという。
 「アンケート読むのがつまんなかったくらいそればっかり。今日の感想は『ともさんが凄かった』以外でー」
 と、わざわざ谷山浩子が言うほど。
 わー、一体どんなだろう。
 ひとまず最初の一曲目だけはあらかじめ練習した曲を、ということで11月発売のニューアルバム「フィンランドはどこですか?」から「まもるくん」が披露される。


 ホラー系という情報は知っていたが、なるほど。ほのぼのしたメロディーに意味不明な不気味さ。
 新宿のガード下とか、郊外の建売住宅とか、世界中のいたるところから生えてくるまもるくん。 膝のところに顔があって顔がくるくるまわっている。みんなが見て、見ないフリ。
 「キャンディーヌ」とか「逃げる」とか「穀物の雨が降る」とか、ああいう謎の怪生物の日常への浸食っていう谷山浩子のお馴染みのアレです。 これ、CDだと岩男潤子さんと相曽晴日さんが気持ち悪いコーラスつけてくれてるんだそうで。

 そして、山口とものプレイをはじめて生で見たのだけれどもーー。
 わー、なんか挙動不審。
 そして、テーブルの前の無作為に並んでいるガラクタにしか見えないものがちゃんと楽器になっているのが本当に驚き。



 一曲終わったところで、早速リクエスト開始。
 最初は座席抽選。
 入場時にもぎった半券を全部箱に入れて、そこからリクエスト当選者を選ぶ。 当たった人のところまで谷山さん向かっていって、軽いインタビューなんかも。 うーんなんてアットホーム。

 そしてリクエストを受けたのが、「Door」「電波塔の少年」。
 さてさてリクエスト。はじまるぞ。
 私ははっきりいって、山口ともばかり見ていた。 だって、なにかやらかしてくれそうな空気がびんびんに漂っていたんだもの。
 たら、もう、やらかしてくれたっっ。もちろんいい意味で。というか、山口とも、完璧。 あらゆる楽器――とは到底思えないみょうちきりんなモノをあの手この手で取り出しては、スリリングなまでに大胆に歌に斬りこんでくる。でもってそれがすべてジャストに決まるっ。これ以上ないというタイミングなのだ。
 譜面なし( ――ないのよ、これがっっ。AQ、谷山はリクエストのたびバタバタと用意してるのに、彼は泰然自若 )でなにも知らない楽曲をその場で聞いていきなりやっているとは到底思えない。
 天才を通り越して変人だね、こりゃ。どうかしている。
 一応谷山が歌前に軽く山口に対して説明するんだけれども、
 「盛り上がって、盛り下がって、また盛り上がって、波が何度かある曲です」
 「ちゃらーーちゃらららら、ちゃらーーー、んぱんぱんぱ、って始まります」
 「詞は、恋人のことが好きすぎて電波になっちゃう、っていう」
 とか、万事がこんな感覚的なのばっか。
 こんな説明をちょっと聞いただけで「わかりました」という山口とも。
 わかったのか ? や、これでわかっているんですよ。
 谷山浩子も思わず「わかりましたが早くて嬉しい」。

 ミュージシャンって、羨ましいなぁ。
 みんなこんな風に、言葉を介さずに、すぐにひとつになれるものなの ?
 私はちょっと嫉妬してしまった。

 さてさて2曲終わって。
 「ともさん素晴らしかった」と谷山絶賛。
 「難易度高い2曲だと思ったけれども、これでもできるんだ」
 一方、「電波塔の少年」のコーダを間違えた石井AQ。
 今回、ともさんがドラム・パーカス・SE担当なので、AQはシンセの打ち込みなしのすべて手弾き。 それはそれで三者三様、いっぱいいっぱいのライブなのである(笑)。



 次のリクエストは「夢のスープ」「ひとみの永遠」。
 「夢のスープ」。これリクエストした人、わかっているっっ。
 ともさんの芸風からいって、パーカスが主張している曲、へんなSEが挿入しやすい曲がいいだろうな、と、思っていた(――だから、私にリクエストがあたったら「風のたてがみ」か「意味なしアリス」あたりにしようと思っていたのだ)。 これはジャストだよね。
 一方、「ひとみの永遠」は、うーん、どうだろ、と、思った。フツーのなんの変哲もないポップスにともさんがどうやって絡むのよ、と。ビートもあんま効いてないし。
 が、結果。
 「夢のスープ」が変な廃品楽器を次々と取り出してあの手この手で楽しかったのはもちろん、「ひとみの永遠」がこれが意外にもよかった。これは、この日のライブセッションで、一番意外な結果を生み出した一曲だったんじゃないかな。 この「ひとみの永遠」は好きだぞ。オリジナルバージョンよりも、好き。ともさんが加わったことで、爽やかな朝のイメージがばぁっと広がった。
 谷山も「すっごくよかった。歌っていて気持ちよかった。この曲AQとふたりでやるとどうしても間延びしちゃうんだけれども――」と褒める。
 いやあ、面白いなぁ、オールリクエスト。




 次は恒例「○○さんをさがせ」。
 谷山浩子が会場に来ている客に質問。結果一番○○だった人がリクエスト当選者。今回のテーマは「エコな人を探せ」。
 「買い物はエコバック」「ゴミの分別は完璧」「自宅の冷房の設定は28℃」「風呂の残り湯で洗濯」「牛乳パックは再利用」などなどの質問の結果10問中9個マルだった方が、当選。
 さてさて、当たった方に「エコに対して興味あるんですか ? 」聞いてみると「ただ貧乏なだけです」―――だろうな。
 そんな彼女のリクエストは「やまわろ」。
 リクエストにおののく谷山。
 「以前のライブで、リハで練習しまくったのにうまく出来なかった曲。それが今出来るわけないじゃん」
 ポロリと心情をこぼす。
 「ま、いいや、やれば、終わる」
 おもむろにはじめる。
 
 これ……、カッコいいぞ。
 谷山浩子のピアノが、とってもジャジーでカッコいいのだ。
 山童――別名サトリという日本の妖怪をテーマにしているだけあって、民謡調のヨナ抜きメロディーなんだけれども、それにジャズ的テイストがからむ。 矢野誠と組んでいた初期の矢野顕子を髣髴とさせる出来。

 谷山浩子って、案外ジャズの血が流れているんだな。今日訪れて改めて、それを確認した。
 童謡調・フォーク調・プログレ調、いろんな谷山があるけれども、ジャズのノリも、また、あるんだよね。 橋本一子との関係性や、また父がジャズのトランペッターだったということを鑑みればすぐわかることなんだけども、案外見落とされがちな事実。谷山浩子はマインドとしての「ジャズ」を知っている人なのだ。
 そもそもこの「オールリクエスト」というコンセプト、しかもそれにあまり自身のレパートリーを知らないミュージシャンを招待するっていうあたり、かなりフリージャズだし。
 それぞれのミュージシャンが音楽的霊感とほんの少しのお互いのアイコンタクトだけを頼りにして、その瞬間瞬間で、ひとつの音を構築して、そして消えていく。二度と同じモノは生まれない。 これがジャズといわずしてなんだろうか。と。
 「譜面は ?」
 「譜面どおりにいってもねぇ……」
 と、いう谷山とAQのやりとり。
 「やまわろ」終わって、
 「やっぱり失敗しちゃった。でも、コードから外れた音って気持ちいいですよね」
 との、谷山の発言。
 このあたりも、かなりジャズ指数、高かった。



 次は、こちらも恒例三択クイズ大会。
 「9/20誕生日の芸能人は ?」「ウィルコムの前身の会社は?」「現在のイタリアの首相は?」「岩波新書『ゼロの発見』の作者は?」「世界三大がっかり ( これ、谷山が20代の頃、うっかりエッセイかなにかで書いたのが定着してしまったのだそうだ、というマメ知識) といわれる人魚姫の像がある街は ?」 などなど、それぞれのクイズに正解して最後まで残った人がリクエスト。
 当選者のひとりは、10年間通いつめて、やっと今日はじめてリクエストが当たったという方。
 リクエストは「Moon Gate」――し、知らない。
 成田美名子の漫画のイメージアルバム「ちゃき・ちゃき・はうすのサウンド・カーニバル」(88年発表)で、小笠原ちあきが歌っている、という。 さすが、コアなファン、とんでもないところからもってくるぜ。
 バタバタと譜面を探すAQ。しかし谷山は、さらりとリクエストを受ける。さりげにすげーな、谷山さん。自分の作った歌ならなんでもいける ?
 この歌の「Moon Gate」とはRPG「ウルティマ」のMoon Gateだそうで――って、ええい、このマニアックさんめっ。
 もうひとりの当選者のリクエストは「恋人の種」。
 山口ともに、この歌を説明する谷山。
 「種があってね、その種が二億年もまえからあって、ずっと『会いたい会いたい』って思っているの。で今現在もそこにあって『会いたい』と思っている。この先未来永劫、世界が滅びても『会いたい』ずっとおもっているだろう。っていうそういう歌なんだけれども――」
 それに山口とも、
 「きっと、会っていても、会いたいと思うんでしょうね。会っていても、会っていない、と――」
 谷山、その発言に感心。受け答えがにおぼつかなくなる。
 「いや、なんか、歌ができるなぁ、と思って――」

 さてさて。歌が始まるのだが――
 「Moon Gate」始まっていきなり谷山が歌をとちる。
 「『ふたつ』を『に』って読んじゃった」
 というわけで再開するのだが、
 AQ、なにかいいだけな顔を谷山に向けて、先ほどのピアノのイントロを少しだけ弾く。
 なによ ? という顔をして、谷山も同じイントロ弾き。
 「♪ パセリパセリ」
 あれれれれ。
 「もうっっ、ワンパターンだっていいたいんでしょ。わかったわよ。じゃ、イントロ変える」
 勝気少女な谷山浩子、でましたっっ。
 さてさて「Moon Gate」、「ウルティマ」のイメージというからその心つもりでいたけれども、結構可愛い曲なんだね。 一方の「恋人の種」は重厚でSFチックな佳曲。これまた山口ともの演奏とベタハマリ、演奏後谷山が「2億年、ともさんのことを待っていたんだね」と発言していたけれども、確かに。そういわせるに足る素敵な演奏だった。



 リクエスト最後は、これまた恒例じゃんけん大会。
 途中谷山さん「あなたには勝つ」と何故か指名しての戦いとなったが、 ついに一名が残り、リクエスト権獲得。
 「じゃんけん、元々強いのですか」と質問したところ
 「ただグー・チョキ・パー順番に出していただけ」
 とのこと。谷山浩子の天然炸裂。
 リクエストは「てんぷら☆さんらいず」。
 これ難易度最高レベルだそうで。
 打ち込みアリでも大変なのが、今回果たして成功するのか。
 「途中演奏とまるかも」
 と、谷山さんのエクスキューズ込みでスタート。
 これがもうさきほどの言葉にたがわぬ感じ。
 100m全力疾走、といったあわただしさ。あぁ、これもジャズっぽさ、かなり感じたな。
 バラバラと曲が展開していくのに三者がそれぞれ大車輪。 お互いが曲にふり飛ばされないように必死にしがみついている、という感じ。 余裕ナシでいっぱいいっぱいなのがよくわかる。が、このライブならではの面白さって感じかな。
 唐突に終わるアウトロにはさすがの山口とももちょっとあせっていた様子。
 「この曲ああやって終わるんですよ」
 ってそれは曲の前に言うべきだったか、と(笑)。



 そして最後の歌は「僕は帰る きっと帰る」。
 犬の歌。遠方から来ているお客さんも今日は多いようなので( 鹿児島から来た、という人もいた )皆さんが無事に帰宅できますように、ということでコレ、なのだそうだ。
 うーん、ほのぼの。リハした曲ということもあってか、ほっとする。さっきの「てんぷら〜」とは好対照。
 アンコールは「早ね早起き朝ごはん」。文部科学省の『早寝早起き朝ごはん』キャンペーンのテーマソングなんだけれども、 実は「早ね早起き朝ごはん」が全然出来ていない谷山さん。
 「何故か依頼がきました。作りました。歌ってます。ごめんなさい」
 谷山さんのような、出来てない人が「一緒に頑張ろう」ってアプローチで作ればいいんですよ、との促しでそれを引き受けたのだが、最初に渡した詞、あんまりにも直球だったようで、 文部科学省の担当者「谷山さん、さすがにこの部分は」と。で、ちょっと書き直したのだそうだ。
 曲は「恋するニワトリ」とか「しっぽの気持ち」のライン。童謡調で朗らかで可愛らしい。ちゃんとしたオファーの時はこういうメジャーのわかりやすい曲を作る谷山さんです。
 てわけで、今日の猫森集会も、楽しく幕。



 今回のオールリクエスト。
 まさしくミュージシャンの底力を見た、という感じ。
 山口ともがすごかったのはもちろんだけれども、谷山浩子も石井AQも並じゃない。
 先のまったく見えない予測不可能なライブ。それに3人は、失敗を恐れず、大胆に、臨機応変に挑んでいく。 むしろそのぎりぎりのスリルが楽しい、と、そんな雰囲気すら3人からはただよっていた。 この場をなにより一番楽しんでいるのは、この3人なんだな、と。
 ただものじゃない。
 そのリラックスしながらも高いテンションの3人に、観客もまた、飲まれていた。
 総立ちとかダイブとかはありえない谷山浩子のライブだが、会場のシズル感はそれ以上の、異様に高揚感のあるライブであった。

 いやぁ、いいものを見た。
 この三人の、コンビネーションのばっちりっぷり。
 山口ともが谷山浩子のアルバムに参加するのも、そう遠いことではないな。
 そう確信しながらホールを出ると、ロビーでさりげなく山口ともが物販を売っていた。
 びっくり。この人、面白いわぁ。好き。


 おまけ――。
 パンフレットに載っている山口とものプロフィールを見る。
 「パーカッショニストとして中山美穂・今井美樹・平井堅などのツアー・レコーデイングに参加」
 「中山美穂 ? 」
 んんんん。なんか中山美穂の後ろに、こんなみょうちきりんな人、いたような――。
 自宅のビデオをひっくり返す。
 ――いたいた。「ともちゃん」ってミポリンに紹介されてる。
 87年、「50/50」の頃の、彼女のバックバンド「Liberty Club」で、すんごいラテンな格好して太鼓叩いてます。このときのベースが後のドリカムの中村サンなのは割と有名だけれど、へ――。

2007.09.21
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