1.お早うございますの帽子屋さん 2.河のほとりに 3.窓 4.すずかけ通り3丁目 5.本日は雪天なり 6.赤い靴 7.やまわろ 8.眠レナイ夜 9.カーニバル 10.草の仮面 11.そっくり人形展覧会 12.悲しみの時計少女 13.ウサギ穴 14.空の駅 15.素晴らしき紅マグロの世界 16.カイの迷宮 17.恋するニワトリ 18.まっくら森の歌 19.まもるくん 20.猫の森には帰れない 21.カントリーガール 22.てんぷら☆さんらいず 23.風になれ 24.DESSART MOON 25.約束 26.テルーの唄 27.MAY 28.王国 29.海の時間 30.銀河通信 31.ドッペル玄関 Pf,Vo:谷山浩子 Syn:石井AQ Per:山口とも G:古川昌義 B:渡辺等 Cho:岩男潤子 相曽晴日 Vln:斉藤ネコ |
08年03月02日、谷山浩子35周年記念・コンサートが東京国際フォーラムホールCにて開催された。 開演10分前に会場に着くと、既にエントランスは人でごった返していた。おお。人がいっぱい。この期待感に沸き立つにぎわい。なんかメジャーなアーティストのコンサートみたいだぞ(――って、失礼)。1200席あまりのホールC、チケットは既にソールドアウト。 さてさて、席に辿りつくとちょうど場内アナウンス。「撮影録音はご遠慮ください、ケータイの電源はオフにー――」とかの例のアレが、おおお、これ、谷山浩子さんの声やん。 スペシャルコンサートらしいサービス。否応なく期待感が高まるというもの。 ほどなく客電落ち、カーテンライズ。いきなり四角に切り取られたホリゾントが明るく――、えっ、大型ビジョン? ま、まるでメジャーなアーティストのコンサートみたいな装置じゃないですか(――またまた失礼)。 ファーストシングル「おはようございますの帽子屋さん」の当時の映像がそこに流れる。多分コッキーポップのものだな。 ワンコーラス終わったところで、威勢よくカウントあがり、まっくらだった舞台が一気にライトに照らされ、いまの谷山浩子による「おはようございますの帽子屋さん」へとバトンタッチする形で、ライブスタート。 デビュー曲でスタートという記念ライブらしい一曲目、それにしても今回のライブ、音が分厚いなぁ。 なんでも95年の「漂流楽団」以来のバンド形式のコンサートなのだとか。 さてさて。オープニング終わりトーク。 「デビュー当時のわたしと聴き比べていただく形になりましたが、歌い方とピアノのひき方はあの頃とまったくおんなじ。こんな進化のまったくないアーティストもいないんじゃないか」 と谷山、自嘲気味に挨拶。そのまま今回のメンバー紹介。 シンセは音楽監督でいつも谷山と一緒の石井AQ、ベースはこちらも毎度お馴染み渡辺等、ドラムスが昨年猫森集会でのパフォーマンスが凄かった"ともとも"こと山口とも、ギターは、90年代からちょくちょく谷山作品でお見かけするこちらも縁の深い古川昌義、と、メンバーは豪華ながらもみんな気心の知れた面子。 ともともとは子供も泣き出す「ごみごみあみーご」の話題、相変わらず濃ゆい雰囲気を周囲にまきちらせているともともであることよ。ブースに怪しげな楽器がやっぱり並んでいるしね。 渡辺さんとは楽器の話題、「平行二弦の楽器なら何でも好きなんだそうで」ベースが基本なんだけれども、この人も器用な人で、色んな楽器をパートごとにとっかえひっかえ、実に大忙し。 古川さんとは最近参加した中島みゆきツアーの話題。 「大変でしょう」と谷山。 「そんな大変だったと云わせたいみたいな――。ここでは云いませんよ」と古川。 谷山のコンサートでは、必ず出る中島みゆきの話題です(笑)。 さて、そのままセカンド・サードシングルを披露する。フォーク時代の谷山だぁ。 「河のほとりに」はヤマハと正式な契約を交わしての最初のシングル、モチーフにした川は北上川、高梁川、多摩川のみっつなんだって。 「窓」は高校時代を追想したという、うん、やっぱりね。でこれが当時の歌唱よか、ぐっとエモーショナル。追憶が深い分歌も良くなった感じする。真赤な照明がまるで昔日の夕日のよう。 ちなみに大型ビジョンは、曲タイトル表示とイメージ動画で使われる感じ。 ◆ さてさて、このまま知名度の高い曲を順番にやっていくのかなと思いきや一転、ここからは谷山浩子自身が大好きという、物語をモチーフにして作った楽曲をメドレー形式で披露していく。 まずは77年の「すずかけ通り3丁目」から80年の「カーニバル」まで。ここからはコーラスとして岩男潤子、相曽晴日が参加する。 ここもよいよい。当時の音源って、今聞くと当時の歌謡曲・フォーク色が強くって結構厳しいものもあったりなんかするんだけれども、元の楽曲がしっかりしているからちょっとしたニュアンスを変えるだけで随分印象が変わって今の音になるね。「やまわろ」なんてフツーにカッコいいぞっ。 「眠レナイ夜」が稲垣足穂の「チョコレット」を元にした作品というのは初耳。連綿とねばつく恋愛感情を歌ったアルバム「鏡の中のあなたへ」にあってこれと次の「星のマリオネット」だけは少年愛的というか「恋愛とか僕は苦手だ」という世界で異質なんだけれども、そういうことだったのね。 そして岩男・相曽のコーラスが爆発した「カーニバル」がなんてったって出色。谷山とのボーカルの呼応が幻惑的。ともとものドラミングも凄かったっ。これは今回のライブで一番の収穫だったかも。 物語ソングスパート2は自身の書いた小説、ラジオドラマ、また音楽劇「幻想図書館」からのピックアップ。 「草の仮面」は古川氏さんのイントロのギターパートに酔わされ、 「悲しみの時計少女」では渡辺等さんが大活躍、前半はマンドリン、後半はウッドベースだったかな、これもシズル感の溢れるプレイと歌唱で最高、 やっぱり歌うのねの「素晴らしき紅マグロの世界」と「そっくり人形展覧会」はもはやライブで歌う定番のヘンテコ谷山ソング、そして物語ソングの最後を飾るのは「カイの迷宮」!!! これは、もう、谷山浩子のサウンドメイクの真骨頂。 「カイの迷宮」をはじめ「王国」とか「七角錐の少女」とかですね、もう演奏がはじまった途端に異世界がひらけるというか、音から時空が生まれるのですよ。 この哀しく美しく冷えていく、荘重なる世界、たまらんっっ、とぞぞけ立ってていると、舞台上から人工雪が舞い降りてきたっっ!! うあっ。メジャーなアーティストのコンサートみたいな演出だよっっ(――失礼だってば)。 関係ないけど、この歌「鏡はかけらに 体は粒子に 心は言葉に こまかく割れていく」ってところ、ホント凄いよなぁと、思いまする。心がまとまりを失うと、言葉になるのかぁ……。 降りしきる雪の中、破滅の美を歌い上げ、大きなカタルシスを観客に放り投げたところで、第1部は幕。 ◆ 15分の休憩を挟んで第2部は、やっぱり歌うのね、NHK「みんなのうた」より「恋するニワトリ」「まっくら森の唄」でスタート。 これもまさしく彼女の代表曲。もしかして一番知名度高いのがこの2曲かもね。 そしてここで岩男潤子、相曽晴日の二人を呼んでMC。それぞれの谷山浩子との繋がりなどを紹介しつつという感じではじまったのだが、似たものシンガーソングライター3人のガールズトークという感じで実に微笑ましい。 相曽に「『舞』って何歳の時作ったの?」と、谷山。 「高校の頃」と相曽。 「あれは実体験――?」 「まさか。あれ不倫の歌ですよ。そんな、本当だったら『淫行』? もちろん想像ですよ」 「わたしも小学生の頃から想像でラブソング、作っていた」 とか。 岩男は体育が不得意なのにバク転バク宙をマスターしたセイントフォー時代を「猿まわしのお猿さんのようだった」と自嘲、 また96年発売の岩男のアルバム「Entrance」制作にあたって、岩男がプロデューサーの斉藤ネコに渡したデモテープがなぜか谷山の「わたしを殺さないで」だったというエピソードを披露したり、 さらにそのアルバムに収録された相曽晴日作詞・作曲「晩夏」を「あれは名曲。わたしが作りたかった。名前書き換えようかと思ったほど」 と谷山は明るく嫉妬したり(――確かに。わたしもパーソネル確認する前に「晩夏」を聞いて、これは絶対谷山浩子作詞作曲だよな、と思ったほどに、谷山的だった)、 と、まぁ、そんなこんなで楽しくおしゃべり。 んでもって、3人で歌う「まもるくん」へと繋げる。CD収録のものよりもさらに岩男と相曽の二人のボーカルを前に出ていて、これまた不気味で素敵な仕上がり。 それにしても岩男潤子と相曽晴日のハーモニーが心地いいなあ。絶妙。 二人でいっしょにライブをするのも納得。このふたり、声質が似ているようで微妙にカラーが違うんだよね。 相曽の方がしっかりと芯があって、一方岩男はふわふわと柔らかい。 その微妙な違いが重なるととても気持ちいいのだ。お互いの個性を殺すことなく、調和しあっている。 そしてオーラスは怒涛の谷山浩子、ヒットメドレー。 デビューアルバムタイトル曲「猫の森には帰れない」をはじめ、 中期ヒット曲「カントリーガール」、谷山浩子のオールナイトニッポンのオープニングテーマ「てんぷら☆さんらいず」、みどりの胃薬サクロンのCFソング「風になれ」、CX系ドラマ「青い瞳の聖ライフ」テーマの「DESSERT MOON」、映画「孔雀王」主題歌でグロイア・イップの歌った「約束」、「ゲド戦記」挿入歌で手嶌葵の歌いヒットした「テルーの歌」、斉藤由貴のヒットシングル「MAY」、 と、認知度が高いシングル曲がダダダっと並ぶ。 変な歌ばっかリ作っては歌っているくせにさりげにA型気質で他人に気を使う谷山さん。今回のライブの選曲は相当苦慮したとMCで語っていたけれども、人気曲・知名度の高い曲、ライブで盛り上がる曲は絶対外さない、極めて公式見解的なセットリストになった模様。ある意味、とても谷山浩子らしいです。 ここはやっぱ「てんぷら☆さんらいず」がいっちゃんカッコ良かったかな。 さてさて。最後の〆は何かな? 「さっきのメドレーは露出の多かった曲だけれども――これは、人気曲?」 ということで披露されたのは、やはり「王国」と「海の時間」。 谷山浩子ファンで人気投票したらぶっちぎりで1、2を争うだろう大人気曲で大名作っ。 ライトサイドのの谷山の頂点が「海の時間」だとしたら、ダークサイドの頂点が「王国」。まさしく谷山浩子の真骨頂。これと「よその子」で三位一体で頂点だと、わたしは思うぞぉっっ。 もはや安定感すらある破滅の美を歌った「王国」で、被虐的に陶酔した次の瞬間には太古の海に恋人と一緒にダイブ。この落差が気持ちいい。 この「海の時間」は、夜更けの恋人との愛のあるセックスから、太古から連綿と繋がる生き物たちの営為を自らもまた引き継いでいることを知らされるという、幻想的で直截的な壮大な愛の歌。 「恋愛とファンタジーの融合」というアーティスト・谷山浩子のテーマの決定版といっていいものだよなあ。しみじみ。 ――というわけで、「海の時間」ともに感動的なエンディング。 ◆ もちろんコレで終わるわけもなく、アンコール。 ふたたび、メンバーが袖からぞろぞろ登場。――と、あれ? ひとり多い。 会場もざわめき、拍手がちらほら。ここで、谷山浩子からの紹介。 「斉藤ネコさんです」 やったね。やっぱりこの記念コンサートにはこの人も来ないとねっ。 「たんぽぽサラダ」以来だから、谷山浩子とは25年来の仲、彼女のすべてのレパートリーに対応できるという彼、 もちろんこのコンサートにあたってオファーをかけたのだそうだが、スケジュールの都合があわなかった、と――。 しかし、仕事を終えたその足で、アンコールに駆けつけた。 いやぁ、嬉しいサプライズ。 そんな斉藤ネコを交えて送るアンコールは「銀河通信」。 101人コンサートではアンコールでおなじみだったこの曲、やっぱりアンコールにとっておいていたかっ。 これが、このコンサートを象徴するような一曲に仕上がった。本当、いいプレイっ。宇宙的調和とでもいえばいいのか。 スペイシーなともともの謎打楽器のSEからはじまって、ロマンチックな猫のバイオリン、ベースもギターもいいなぁ。 このライブで印象的だったのが、ミュージシャンそれぞれがとても楽しそうにプレイしていたということ。 決して歌の伴奏・コーラスではなく、それぞれが自分らしくプレイしていて、自分の音楽を紡ぎ、愉しんでいたのだ。 あ、ともともがまたやらかしている、とか、古川さんっぽいな、とか、等さんってロマンチックだよな、とか、音から顔が表情が見えてくる。 だからといって出来上がった音が、てんでバラバラに好き勝手にやりたい放題ということは決してないのだ。 もちろんそれぞれの個性が激しくぶつかりあう場面も時にはあったが――「カーニバル」なんてそんな感じだったな、それすらも美的な調和となる。 それぞれがどこまでも自由で伸びやかで、それでいて共にプレイする相手を思っている。 仕事ではなく、いっしょに音楽するのが楽しいからここに集まった、という。まさしく「仲間」という感じなのだ。 なんて愛に溢れているんだ。――わたしは思った。 愛のある音楽風景。このコンサートをひと言でいうと、これに尽きる。 ただひとつ苦言を呈するとすれば、そんな個性溢れるプレイをしていたメンバーたちに、あんまり照明があたっていなかったのが、ちょっとばかり残念。 「今、絶対ともとも、変な楽器使ったよな」 ってところでドラムのブースのところ真っ暗だったりして――。それぞれのプレイヤーの表情とか気配をビジュアルとして愉しみたかったな。 ◆ さてさて本当にオーラス。 「聞きたくなかったという人もいるかと思いますけど――やります」 といって流れ出したのは、これもある意味毎度おなじみになってしまった「ドッペル玄関」。 爽やか・ポジティブ・明朗系の歌を一曲歌ったら、ヘンテコ・不気味系でフォローせずにはいられないのか、谷山さん。 今日も楽しく明るくぶっ壊れて、谷山浩子らしく、この記念コンサートも幕。 本当に谷山浩子的としかいいようのない、いい記念コンサートだった。谷山浩子と彼女を愛するミュージシャン・スタッフ、ファンに幸あれっ。 次は40周年だっ。 |