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さくさくレビュー 崎谷健次郎


 そういえば近頃聞かないなぁ、なんてアーティストの近況がすぐわかるのがネットのいいところだけれども、逆に知らなかったほうがよかったなんてことももちろんあったりするわけで、というわけで今回は崎谷健次郎。「がんばれ」という意味も含めて。

 歌手としての活動はともあれ、作曲家・アレンジャーのラインでもっと大成するかなあと思ったけれども、90年代後半から絶妙にフェードアウト。いまでは自身のレーベルでの活動が中心とのことだけれども、いまいちはかばかしくないよう。 山下達郎や小室哲哉とはいわなくても、せいぜい角松敏生ぐらいの位置にはいけると思ったんだけれどもなぁ。このまま中途半端な状態でなんとなくやっていくのかぁ、と思うと非常に残念。お小遣いの少なかった中学生の頃、数少ない「新譜が出たら絶対買う歌手」のひとりだっただけに……。

 自作に関しては、ある時期以降、ちょっと自分に拘泥しすぎていたんじゃないかなあ、という気がした。 理系派繊細美少年的な雰囲気にこだわりすぎてるんじゃないかなぁ、と。聞き手を単純にノらせて踊らせてくれるような、あるいは泣かせてくれるような初期の良さってのがだんだんと薄れていったような感じがする。
 
 まぁ、いっそのこと作曲家・アレンジャーとしての仕事に一本に絞ってしまえば、とも思ったりもする。実際彼のデビューってのは作曲家として、ってのが1番最初なわけだし。とはいえ、今はそっち方面もこれといった冴えた仕事っぷりを感じられないわけで、斉藤由貴の「夢の中へ」や『アージュ』とか中山美穂の「これからのI Love You」のようなヒットチャートをにぎわすような仕事もないわけで。
うーん。それってどうよ。とごにょごにょしつつ今回の前書きは終わる。

追記 08年現在、作曲家・サウンドプロデューサーという形でまた少しずつ復調しているよう。よかったよかった。

cover ◆ Difference  (1987.06.21/第68位/1.6万枚)
1.愛の時差(difference in time) 2.思いがけないSITUATION 3.夏のポラロイド 4.HALF MOON 5.愛されてもいない−ハーレムの天使達− 6.St.ELMO’S FIRE−幻の光− 7.僕には君だけ 8.KISSの花束 9.瓶の中の少年
 作曲家・アレンジャーとして既に谷山浩子、斉藤由貴、高橋真梨子、稲垣潤一など様々な歌手に楽曲提供を行なっていた彼の、満を持してのデビューアルバム。秋元康との共同プロデュース。 ポップでメロディアスで、でもそれだけでなくとんがった部分も垣間見えて。ポップスとして非常にバランスのいいコンテンポラリーなつくり。デビューアルバムとしてあまりにも良く出来すぎている。欠点を探すほうが難しいというような優秀さ。
 生意気ざかりのこの頃の彼はこのアルバム制作では秋元センセに食いつきまくったそう。ちなみにこの頃の彼のエピソードで好きなのが1つある。谷山浩子のアレンジを担当した時、ある気むずかしいことで有名なプレイヤーに演奏してもらったが、それがどうもよくない。「でも、もう一度といいにくいなぁ」と谷山がふと思ったところ、隣の崎谷が即座に一言「全然いまいちですね。もう一度お願いします」。8点。


cover ◆ Realism  (1988.03.21/第12位/5.9万枚)
1.GO INTO THE TV 2.THIS TIME 3.7TH AVE. 4.WITH 5.THE FLESH 6.ラベンダーの中で 7.夏の午后 8.6月・絵と君と 9.水に眠る 10.不安定な月 11.(request)もう一度夜を止めて
 ちょっとお高い雰囲気が「売れない」ではなく「売らない」という感じ。 1枚目に漂っていたわかりやすさはここにはなく、ちょっと食いつきが悪いかな、というところはあるけれども「水に眠る」や「不安定な月」などのミスティックな作品はこのアルバムだからこそという感じでいいんじゃないでしょうか。 この気品が彼のサウンドのなによりの売り。しっとりとしたい夜更けに薄くかけてみたい。 ところでこの時期の作詞担当の「有木林子」って誰やねんっっ。7点。


cover ◆ Kiss of Life  (1989.04.21/第21位/2.7万枚)
1.千の扉 2.JewelryよりMemory 3.I Wanna Dance 4.毒のように甘く 5.Till the End of Time 6.Black Star 7.Satellite of Love 8.Close to Me 9.風を抱きしめて 10.Kiss of Life 11.I Wanna Dance (Step Step Let's Dance mix)
 一転、ハウス・ミュージックをグググ―――っと追求した1枚。とはいえちょっとこれは才気走り過ぎているかなぁ。決して悪くはないし、こういうサウンドに向かうと大抵下世話になるのをそこは一線踏みとどまっているのがいかにも彼らしいし。とはいえ、あんまり地に足がついていないというか、ちょっと気分がハイな状態で一気に突き抜けたという感は否めません。 ジャケットのギラギラ感や、全体的に漂うバブリーっぽさもまた、時代だなあ、というか。ジャケットのお姿もやたらやる気に脂ぎっております。ボーナスの「I wanna dance」の「Step Step チャッチャッチャッ」はかなり今聞くと恥ずかしいぞぉっ。ぶっちゃけ同日発売の崎谷プロデュースの斉藤由貴の『アージュ』のほうが完成度高いんでないでしょうか?7点。


cover ◆ ただ一度だけの永遠 (1990.04.21/第33位/2.4万枚)
1.Melody 2.さよならも言わずに 3.太陽の傍で 4.Because OF Love 5.アクリル色の微笑 6.Parallel Line 7.ただ一度だけの永遠 8.冬の時計台 9.In My Rainy Garden 10.ためいきの青空
 これは、絶対的に名盤。当時中学生でほとんどのCDをレンタルですましていたわたしが「これはCDでもっていないと勿体ない」とおもってお小遣いをためて1ヶ月後CDで買ったというくらいなんだから、名盤に決まっていますっっ。
 トータルバランスでいったら、このアルバムをおいてないんじゃないかなぁ。全篇のうねりも程よいし、捨て曲もなし。 ロンドン録音で、全面でロイヤルフィルのストリングスがさりげなく組みこまれていて、それが絶妙な気品となっている。これが崎谷健次郎の音楽なのだよっ。
 定番の涙モノバラード路線の「Because of Love」はいつものごとくいい出来だし、ドビュッシーのような三柴理の超絶ピアノとロイヤルフィルのストリングスにハウスという組み合わせが華麗かつスリリングな「In my rainy garden」、ピアノとストリングスの静謐なバックだけで深深とした心のなかにゆっくりと分け入っていくタイトル作「ただ一度だけの永遠」、月への階を一歩ずつあがっていくようなロマンチックな「メロディー」、「さよならもいわずに」も「アクリル色の微笑み」も好きだなぁ。 メインの作詞は松井五郎にバトンタッチ。崎谷は彼との相性が1番いいと思う。 ちなみに「アクリル色の微笑」はもちろん斉藤由貴からのカバー。「太陽の傍で」の女性の声も彼女。田村仁のジャケット写真も美しく、文句なく10点。

cover ◆ ambivalence  (1991.04.21/第22位/3.1万枚)
1.ラヴリー・ペトルーシュカ 2.孤独(さみしさ)の標的(Re-mix) 3.科学的恋愛 4.きみのために僕がいる 5.Sweet Effection 6.25:00の嵐 7.意味 8.1980年の放課後 9.潮騒の時(The sound of waves) 10.狂えるセプテンバー 11.夜のない一日(Re-mix)
 いまだ絶好調。充実のアルバム。冒頭1発目がいきなりストラヴィンスキーだぁっっ。
 「LOVELY PETRUSHUKA」はストラヴィンスキーのコラージュによるファンク。種ともこのコケティッシュなボーカルも楽しめます。 いつもの「もう一度夜を止めて」路線の「君のために僕がいる」も手堅いし、KAYSUMIとのデュエットによる「狂えるSEPTEMBER」は耳に楽しい。斉藤由貴・作詞、三柴理・ピアノ、保坂誠山・尺八による「意味」(――ちなみに原田知世の「夢迷賦」のセルフカバー)はシノワズリなメロディーラインに内省的な詞、わびさびの利いた「和」アレンジと新たな境地を見せた実験的作品。これもまた崎谷の世界。 「孤独の標的」や「夜のない一日」「25:00の嵐」などハードボイルドタッチで陰影深い詞にクールなサウンドが個人的にはツボです。デビュー時のような気負いは消え、余裕がありながらも、しかし気迫には満ちている。9点。

cover ◆ Botany of Love  (1992.01.21/第20位/3.3万枚)
1.SAD SATURDAY 2.再会までSO LONG 3.A SPROUT IN DESERT 4.夜明けまでは 5.LADY IN LOVE 6.I WANNA TALK WITH YOU 7.涙が君を忘れない 8.TOUT TOUT POUR MA CHERIE 9.STARS FACED ON 10.真実に微笑を
 音作りは前作前々作の延長にあって、危なげないのだが、自作の詞がなんかぐちゃぐちゃに煮詰まった恋愛風景みたいなノリで妙に真に迫ってくる。 「Sad saturday」「Stars fade on」「真実に微笑を」など、今までにないシリアスさ。この理由は次のアルバムでわかる。 その中にあって能天気な「シャリ―にくちづけ」は一服の清涼剤。全体的に妙な緊張感があって、独特の味わい。安定感には欠けるけれども、わたしは嫌いじゃないです。 なにかが壊れるその一瞬前の、フラジャイルな魅力。近未来風のジャケ写も素敵ですね。納得の奥村靫正デザイン。8点。

cover ◆ HOLIDAYS  (1993.09.17/第42位/1.5万枚)
1.おだやかな愛があれば 2.泣かなくてもいい 3.君がいた休日 4.邂逅 5.愛はいつも 6.沈みゆくDIAMOND 7.HEAVENLY SKY 8.こわれものは君の涙 9.あじさい 10.偶然の支配 11.届かないジェラシー 12.OUR LIVES
 前作の緊張感は煎じ詰めれば「別れの予感」だったんだな、ということがこのアルバムでよくわかる。 失恋に傷ついた心をやさしく癒すセルフ・メディケーションなアルバム――といえば聞こえがいいのでしょうけど、全篇に漂う「繊細なボク」節が大炸裂で、彼の良さはことごとく薄れている。これはもう樹海突入と考えるしか。 今まで追っかけていたわたしはそりゃ驚いたさ。
 「音作り」が売りのひとつでもある彼がアレンジを担当しなかったというところでもそこになにかの異変を感じてしまうわけで。ま、当時新譜発売に伴ったインタビューで「この作品は制作前後にあったプライベートな出来事がモチーフ」とか云っていたので、そういうことだったのでしょうが、プライベートを切り売りできるほど「作詞家」としての彼が成熟しているとも思えず、5点。

cover ◆ delicate  (1994.11.02/第48位/1.5万枚)
1.遅すぎると僕は思えない 2.Rooms 3.なつかしい週末 4.“くされ縁”もいいさ 5.最後の夏の日 6.君のせいさ 7.与えられた砂時計 8.愛はまだ生きているんだ 9.誰のために雪は降る 10.delicate 11.Dying Roses
 結局、まだまだ繊細です。樹海脱出失敗。 デビュー時のプロデューサーでもある秋元康と再びの作品であるが、これはこまったもんだ。 秋元と崎谷の共通項ってのは、ぶっちゃけていえば「都会派のなよっちい男の自己憐憫の世界」だと思う――ということで自分語りしたくてたまらないこの時期の崎谷健次郎に秋元康ってのはもうこりゃ鬼門といわざるをえないわけで。 ラストの「Dying Roses」で作曲家としての実力を示すことは出来たけれども、それ以外はどうにもこうにも。 もっとフツーに、サウンドクリエイターでいいんだようっ。そうしてくれよぅっっ。5点。


2004.12.16
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