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全アルバムレビュー 大貫妙子


この人ほど、色々と音楽のスタイルをさりげなく変えている人もいないんじゃないかなぁ。と思う。
シュガー・ベイブ時代の延長のようなクラウン時代のフュージョン系のソロアルバムに始まって、「Romantique」以降の擬似ヨーロッパ・テクノ路線へ、「コパン」を最後に坂本龍一と離れてからは本当にやりたい放題。 「A Slice of Life」で大村憲司とGS調ギターサウンドで戯れたと思ったら、「プリッシマ」ではモダンジャズにスリリングに接近したり、 90年代初期には小林武史と組んでモータウン調のポップス王道のような作品を作ったと思ったら、今度はブラジル、その次はまたフランス、そして今は、山弦と組んで温もりのある音色にこり始めて……。
それが、しっちゃかめっちゃかという風に聞き手に映らないのは、彼女のなかにある音楽というものがしっかりしている――背骨がきちんとあるからだと思う。


彼女の作品は、アレンジとか音響的側面で語られることが多いけれども、彼女の音楽の中心にあるものは「うた」なんじゃないかなぁ、とわたしは思っている。
彼女は音楽家か歌手かでいったら、歌手。メロディーに言葉を与え、相手にイメージを伝える――ただ、それだけの、ものすごいシンプルなところが彼女の表現の出発点なんじゃないかなぁ。
フォーク系メッセージソング的な暑苦しさや押しつけがましさがないのと、豊かでしっかりとした音楽性が、そう見られづらかったりするけれども、 「四季」や「黒のクレール」、「TANGO」などを聴くと、この人は「うた」の人なんだなぁ、としみじみ思ってしまう。
それほどに、彼女の歌は実は引きがとっても強い。



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 Grey skies  (76.09.25/55位/0.7万枚)

1.時の始まり 2.約束 3.One's Love 4.午后の休息 5.愛は幻 6.Wonder Lust 7.街 8.いつでもそばに 9.When I Met The Grey sky 10.Breakin' Blue
クラウン時代の作品って個人的にはあまり好きな音作りじゃないんだけれども(――失礼)、76年という時代を考えた時にこのクオリティーと洗練には素直に驚いてしまう。現在のJ-POPの源流のひとつといってもいいんじゃないかな。 それにしてもこの時期の歌い方は80年以降の語りかけるようなそれとはずいぶん様相を異にしている。若さに任せた歌唱というか、ある種、無意識な歌いかた。
アレンジャーは坂本龍一をはじめ、山下達郎、細野晴臣、矢野誠など、いかにもこの時期ならという面子。 この作品でユーミンや矢野顕子、吉田美奈子などのいわゆるティン・パン・アレイ系歌姫のひとりとして彼女は名乗りを挙げることに。7点。


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 Sunshower  (77.01./ランクインせず)

1.Summer Connection 2.くすりをたくさん 3.何もいらない 4.都会 5.からっぽの椅子 6.Law of Nature 7.誰のために 8.Silent Screamer 9.Sargasso Sea 10.振子の山羊
坂本龍一自身にとっても初の総合プロデュース作品。無理やり頼みこんでプロデュースしたのだそうだ。ともあれ、このコンビが約10年『コパン』まで続くことに。
これはフュージョン・クロスオーバー期の日本ロックの名盤といってもいいんじゃないかな。アレンジャー・プレイヤーともに悪ノリ。どれだけアクロバティックな編曲を演奏をするか、ということに無駄に血道あげておりまする。ここまでやっちゃっていいのか、と。矢野顕子はデモテープを聴いて「どうやったらこんなの歌えるんだ」と山下達郎と言い合ったのだそうだ。 しかしこれで売れるわけがなく、大貫曰く「デビュー盤が思いの他注目されたのにこれで売上がドターっと下がった」とのこと。7点。


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 Mignonne  (78.09.21/ランクインせず)

1.じゃじゃ馬娘 2.横顔 3.黄昏れ 4.空をとべたら 5.風のオルガン 6.言いだせなくて 7.4:00A.M. 8.突然の贈りもの 9.海と少年 10.あこがれ
このアルバムでRVCに移籍。後年このアルバムは「ヨーロッパ3部作」の第1作、といわれたりもするが、別に聴く限りは、「ヨーロッパ成分」は低め。大貫自身もヨーロッパを意識して作った作品ではない、とのこと。どこでそんな勘違いが起こったんだか。
プロデュースは小倉エージ。「Sunshower」の商業的失敗を糧に外部からのプロデューサーを立てたってことかな。確かにシュガー・ベイブ時代の延長で作ったようなクラウン時代とは趣を変え、作品の虚構性が強くなるが、いまいちこれといった方向が見出せていない。「海と少年」「突然の贈り物」あたりが唯一の収穫か。何度もリテイクを重ねて作られた詞曲にもかかわらず、思ったような成果は得られず、彼女は二年ほどふてってしまう。5点。


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 Romantique  (80.08.21/72位/1.1万枚)

1.CARNAVAL 2.ディケイド・ナイト 3.雨の夜明け 4.若き日の望楼 5.BOHEMIAN 6.果てなき旅情 7.ふたり 8.軽蔑 9.新しいシャツ 10.蜃気楼の街
2年間の休養を得てのアルバム。プロデューサーの牧村憲一氏の提案によって、ヨーロッパ調のアルバムを製作することに。 様々な映像資料や音源、書物などを漁って丁寧に作られたそうだ。アレンジャーはA面は坂本龍一、B面は加藤和彦。 それにしてもオープニングの「カルナバル」のピコピコテクノっぷりには驚かされる。時代ですなぁ。とはいえ派手なテクノはオープニングのみで、坂本はピアノ音の陰翳が美しい端正なアレンジを、加藤はムーンライダーズを率いてわかりやすいヨーロピアンアレンジを披露している。 この作品で「ヨーロッパといえば大貫妙子」の法則が確立、以後しばらくはこの路線のバリエーションでのアルバムが続く。9点。


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 Aventure  (81.05.21/45位/1.5万枚)

1.恋人たちの明日 2.Samba de mar 3.愛の行方 4.アヴァンチュリエール 5.テルミネ 6.チャンス 7.グランプリ 8.la mer,le ciel 9.ブリーカー・ストリートの青春 10.最後の日付
「Romantique」の世界をそのまま引き継いだ1枚。ただし「Romantique」が内省的で陰の方向だったのに比べ、こちらは外向的で陽。親しみやすいポップ感が前に出てきている。この時期の大貫妙子らしい1枚。
打ち込みの処理のしかたも前作よりこなれて来たし、音もバラエティーにとんできた。アレンジャーは前作の坂本、加藤と他、清水信之、大村憲司、前田憲男等が担当。打ちこみなのに躍動感溢れるアレンジが秀逸な「Samba de Mar」、歌う紀行文といった佇まいの「アヴァンチュリエール」「テルミネ」(――前作の「果てなき旅情」「ふたり」の系譜か)、あたりが個人的ベスト。 8点。


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 Cliche  (82.09.21/15位/5.8万枚)

1.黒のクレール 2.色彩都市 3.ピーターラビットとわたし 4.LABYRINTH 5.風の道 6.光のカーニバル 7.つむじかぜ(tourbillion) 8.憶ひ出 9.夏色の服 10.黒のクレール(Reprise/Inst)
「ヨーロッパの大貫」このアルバムでついにパリ録音。とはいえ、実際の現地の音って朴訥としていて、アナログで野暮ったいのな。彼女が今まで作ってきたものがいかに「擬似・ヨーロピアン」であったか、というのがよくわかる。
A面が東京録音(坂本編曲)で、B面がフランス録音(ジャン・ミュジー編曲)。「色彩都市」「LABYRINTH」など、A面の人工的で無国籍な作品と、「光のカーニバル」「風の道」「夏色の服」など、B面の土臭い温もりのある作品のアンバランスな対比が面白い。 この齟齬に、あくまで自分の追いかけていたものが「擬似」であるということを彼女は自覚したのか、今作以降はわかりやすい「ヨーロッパ」というよりもむしろ無国籍な方向へとベクトルを変えていく。
ともあれ1曲ごとのクオリティーは高く、「黒のクレール」(――大名作 !!)の物語的な鋭い詞作をみるに、この時期の代表作といって過言ではないと私は思う。9点。


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 Signifie  (83.10.21/6位/6.3万枚)

1.夏に恋する女たち 2.幻惑 3.SIGNE〈記号〉 4.PATIO〈中庭〉 5.ルクレツィア 6.テディ・ベア 7.RECIPE〈調理法〉 8.アーニャ 9.SIESTA〈ひるね〉 10.エル・トゥルマニエ〈虹の神〉
自分の表現しているものは実体としての「ヨーロッパ」ではなく、あくまで記号としての「ヨーロッパ」。前作でそのことを自覚した大貫。ということでタイトルもそのものズバリ「シニフィエ」。 ということで内容も臆面もなくズバリ「擬似ヨーロッパ」の世界である。
フランス語やイタリア語などをロマンの符号のように気軽に使い、少女漫画の中のヨーロッパのように、時に妖しく、時に甘い、そんな幻の世界、ファンタジーになっている。 少女趣味のテーマパークのようなカラフルなアルバムだ。
根暗の私などは「幻惑」「PATIO」などのミスティックな作品に酔いたい。
ちなみに、TBS系ドラマ「夏に恋する女たち」の主題歌起用でこの時期、プチブレイク。今のところこれが唯一のベストテンランクインアルバムである。8点。


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 カイエ  (84.06.06/31位/2.7万枚)

1.カイエ(1) 2.Amour levant 〜若き日の望楼〜 3.輪舞 4.Le courant de mecontentment (不満の暗流) 5.カイエ(2) 6.宇宙(コスモス)みつけた 7.ラ・ストラーダ 8.雨の夜明け 9.夏に恋する女たち
同タイトルのビデオ作品と連動のサントラアルバムな、の、だ、が、筆者が肝心のビデオ作品を未視聴なので、いまいちこのアルバムの判断がしづらい。
とはいえ、彼女の落ちついたメロディーセンスはこれだけでも十分堪能できます。アレンジは坂本、清水信之、ジャン・ミュジーとこの頃のいつもの面子。「若き日の望楼」のフランス語バージョンもあり。こちらの方が私は好きかな。ただ箸休めのようなインストメインなので、これ単体で楽しめるかとちょっと微妙なので、6点。


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 COPINE  (85.06.21/23位/3.3万枚)

1.Les aventures de TINTIN 2.ベジタブル 3.春の嵐 4.Siena 5.Amico, sei felice? 6.OUT OF AFRICA 7.Leave me alone 8.Jaques―Henri Lartigue 9.しあわせな男達へ 10.野辺
ミディに移籍。帯には「ヨーロッパの哀愁」と書かれているが、そろそろその括りでとらえるにはむずかしくなってきた。
大貫妙子と坂本龍一の共同作業による作品というのは、常にどこか、破綻を孕んだスリルが全体に漂っていて、それで成立しているというところが多かったような気がする。 しかし、このアルバムはついに半歩進んで破綻の領域に踏み込んでいるような、そんな印象をわたしは受ける。バックトラックとボーカルとの齟齬をこのアルバムではじめてわたしは感じた。失敗作、とまではいいきれないが、「このまま行くとヤバイかも」そんな予感が漂っている。 これは二人も感じたことなのか、よって、このアルバムにて坂本龍一との二人三脚は終了。6点。
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 Comin' soon  (86.03.21/26位/3.4万枚)

1.Alice 2.ピーターラビットとわたし 3.ロボット・マーチ 4.メトロポリタン美術館 5.MOMO 6.森のクリスマス 7.テディ・ベア 8.チェッカーくん 9.お天気いい日 10.地下鉄のザジ 11.タンタンの冒険 12.Comin’ Soon “SMALL DAYS IN A BIG WORLD”
お子様向け作品・少女趣味な作品を集めたアルバム。旧録作品も少々。
大貫妙子の歌の子供は、ホンモノの万年少女、谷山浩子のような不気味さ、毒、反社会性はなく、またホンモノの万年幼女、矢野顕子のような、無意味性、過剰で悪意のない攻撃性もまたない。 彼女が描くのは、きわめて上品で体制に組しやすい優等生な子供像である。いうならば「大人がかくあるべきと思う理想的な子供」。彼女の子供向け作品にタイアップが多いのもけだし納得である。 お父さんお母さんも安心な良質な絵本。そんなアルバムになっている。7点。


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 A Slice of Life  (87.10.05/20位/2.8万枚)

1.あなたに似た人 2.もういちどトゥイスト 3.人魚と水夫 4.スナップ・ショット 5.恋人たちの時刻 6.五番目の季節 7.HYMNS 8.木立の中の日々 9.ぼくの叔父さん 10.彼と彼女のソネット
坂本龍一から離れて初の本格アルバム。坂本のかわりにアレンジ担当するのは、ジャン・ミュジー、大村憲司、清水靖晃、佐藤博などと、結果手堅いいつもの面子となった。
ちょうどこのアルバムはこの先に訪れる小林武史とのポップ路線と『PURISSIMA』『Tchou !』のアコースティック路線が混交したアルバムといえるかもしれない。 「もう1度トゥイスト」などの大村憲司のGS調のギタープレイにはちょっと微笑んでしまう。(――これは同時期に大貫がプロデュースした安田成美の『Ginger』でも同じアプローチをしている)この延長線上に小林武史との共同作品『Shooting star in the blue sky』があるといっていいだろう。 一方ジャン・ミュジーの「木立の中の日々」や「HYMNS」は弦楽の音色が端正なアコースティックな世界。 その中にあって、国内では原田知世との競作となったエルザのカバー「彼と彼女のソネット」がもっとも光っている。7点。


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 Pure Acoustic  (87.??.??/初版は一般発売なし)

1. 雨の夜明け 2. 黒のクレール 3. 横顔 4. 新しいシャツ 5. Siena 6. レイン・ダンス 7. 突然の贈りもの (以上が初版)
(93年ミディ版は、1.カイエ (1) M.2〜8は初版のM.1〜7の順 9.ソーン・トゥーリーのうた 10.「アフリカ動物パズル」より 〜エンディングテーマ〜)
(96年東芝版は、初版と同じM.1〜7の後に以下がプラス  8. ひとり暮らしの妖精たち 9. 彼と彼女のソネット 10. 若き日の望楼 11. 風の道 )

 「シニフィエ」以降、「カイエ」「Comin'Soon」「アフリカ動物パズル」と、企画色の強いアルバムが目立ったが、これもそのひとつ。 87年サントリーホールでのコンサート「ピュア・アコースティック・ナイト」開催を記念したスペシャルディスク。
 溝口肇のチェロ、中西俊博のバイオリン、フェビアン・レザ・パネのピアノ、清水靖晃のサックスをバックに同時録音 (ちなみに サントリーホールでのライブ音源ではない、あくまで"ライブ音源風")。 無駄なものを殺ぎ落としたタイトなアコースティッククサウンドで、既発表の楽曲たちがよりピュアに、より極上に生まれ変わった。
 このアルバムを契機に彼女がアコースティックサウンドへと傾倒していくことを鑑みるに、欠かせない一枚といえる。今の彼女の原点のひとつだ。
 ちなみにこのアルバム、発売当初はコンサート会場と通販のみでの販売であったが、大貫のミディ離脱後の93年にミディから、さらに96年には東芝EMIから一般発売されており、 それぞれのアルバムの収録曲には異同がある。現在最も入手しやすく、かつおすすめなのは東芝版。94年のアコースティックコンサートからの音源がプラスされている。8点。


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 PURISSIMA  (88.09.21/13位/3.2万枚)

1.Tema Purissima 2.Monochrome & Colours 3.Cavalier Servente 4.Voce e Bossanova 5.恋人とは… 6.Rain Dance 7.Good Luck! 小さなショーウィンド 8.或る晴れた日 9.Tema Purissina -Cool Sax Version 10.月のきざはし
大貫妙子はここに来てようやく坂本時代を完全に振り切るような作品を作り出すのだが、これがなんとも、豪華。
マーティ・ペイチ指揮のストリングスオーケストラの華麗な冒頭で既に持ってかれてしまう。続いての、スリリングなモダンジャズ「Monochrome&colours」もカッコイイ。コンチネンタルタンゴ調でヴェネチアを歌った「Cavalier Servente」もロマンチック。 「或る晴れた日に」でピアノを弾く親友・矢野顕子は久々にジャズピアニストの顔を見せている。
ジャズそのものではないが、ジャズ的なソフィスケーションが盤全体に漂っている。アコースティックな作りでありながら鋭くソリッドな部分が耳に残る。才気煥発な彼女らしい。まさしく「極上のPURE」な1枚。8点。


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 NEW MOON  (90.06.21/43位/2.1万枚)

1.泳ぐ人 2.CALL MY HEART 3.WE ARE ONE CIRCLE 4.楽園をはなれて 5.風の吹く街 -Hello new days- 6.マイ・ブレイヴェリー 7.花咲くころに 8.水の上の一日 -a day on the water- 9.LITTLE HOPE 10.地球ファミリーのテーマ -THE WIND OF MY HEART- 11.花・ひらく夢
「小林武史3部作」その1。
小林武史さんが優秀なアレンジャーでプロデューサーってのはよく知ってますよ。そりゃ。でも、どうにもわたしの肌に合わないのよ。 ナチュラルなものをものすごく人工的に作っているような感じがあってだめなのよう。実験を重ね、研究し尽くして、無農薬野菜を作っているような感じ。仕上がりはナチュラルかもしれんが過程が全然ナチュラルじゃないやん、みたいな。 や。これはただのいいがかりだってのはよくわかる。でもどうにも、その作り物っぽさが、彼女の声の瑞々しさ、色気を活かすところまではいけないように見えるんだよなぁ。これからの3枚は。 坂本龍一の理知さ、冷徹さとは上手く噛み合っていたと思うけれども……。って坂本さんは一方で情熱の人だからなぁ。6点。


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 Drawing  (92.02.26/14位/4.7万枚)

1.OKAVANGO 2.White Wolf 3.素直になりたい 4.ドリームランド 5.哀しみの足音 6.Dr.ドリトル 7.What to do 'cause love you 8.静かな約束 9.恋におちて 10.あなたと私
「小林武史3部作」その2。
このアルバムで東芝EMIに移籍。東芝に移るなりいきなり、タイアップ付きのシングルとかたくさん切り出すし、作風は前作の路線でポップよりだし、で正直とまどった。 「長いキャリアのなかでこういうことに一度くらいトライしてもいいかな」。そんな思いでこの路線をやったであろうことはいまではよくわかる。質がいいのは相変わらずだけれども、ともあれ、この路線は個人的にダメなんだってば。ファンも彼女にこういうことを求めているわけじゃないと思うけれども。つーことで、6点。


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 Shooting star in the blue sky  (93.09.22/42位/2.6万枚)

1.しあわせのサンドウィッチ 2.Shooting star in the blue sky 3.Do you smile again 4.Crazy on you 5.Sae of Cortez 6.Million bucks 7.六月の晴れた午後 8.会いたい気持 9.紙ヒコーキのラヴレター 10.サイレント・メモリー 11.春の手紙
「小林武史3部作」その3。
徹底してポップス。どこまでも果てしなくポップス。ふっきれております。臆面もなく「しあわせのサンドイッチ」なんてタイトルをつけちゃってます。 しかし、ここまで売れ線狙いをやっても大貫妙子は大貫妙子。その引きの強さはよくわかった。 ここまでやりきって本人も気が済んだのか、この路線はひとまずここまで。6点。


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 Tchou !  (95.04.19/49位/1.6万枚)

1.美しい人よ(アルバム・ヴァージョン) 2.小さなワルツ 3.BERIMBAU DO BEM 4.Praia Linda/美しい浜辺 5.永遠の夏 6.Onde esta voce 7.JAPAO 8.Meu Namorado/私の恋人 9.フレンズ 10.歌う森、踊る水 11.SAMBA DO MAR
小林武史との作業の反動か。有機的な生音を欲した大貫はブラジルへと飛ぶ。ちょうど「PURISSIMA」と対といってもいいアルバム。とはいえ「PURISSIMA」のような鋭さはなく、 温かいディナーの後の鼻歌のような、幸福で満たされた歌が並ぶ。ブラジルということでボサノバ調の楽曲が目立つかな。デビュー20年選手のアーティストらしい、しなやかで余裕の姿が歌から浮かぶ。
ギラギラにデコラティブでないのでパッと見地味に見えるかもしれないが、よぉく見ると、厳選された高価な素材を使い、時代を選ばないそれでいてじわっと雰囲気が滲み出る意匠を凝らしている。ホンモノのおしゃれっていうのはこういうモノよ、と教えらる。7点。


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 LUCY  (97.06.06/46位/1.7万枚)

1.LULU 2.Happy go lucky 3.Simba Kubwa 4.Volcano 5.TANGO 6.夢のあと 7.カカオ 8.Mon doux Soleil 9.空へ 10.Rain
ようやく坂本龍一との再開。何年もの間オファーを出しつづけての実現となった。
結局、坂本龍一ほどのパートナーを彼女は見つけ出すことはできなかったということなのだろう。それはこのアルバムからよく伝わる。 大貫にとって坂本龍一はもっとも自分の音楽を理解している者であり、また坂本も、自分が手にしているエレメントを十全に表現できる歌手は大貫しかいない、と。鉄壁のコンビネーションだ。 坂本龍一の天才的なオーケストレーションの味わえる「TANGO」「空へ」といったところはため息しかでてこない。 それにしても無邪気に楽しそうに人につかわれている坂本龍一というのも今となってはこのアルバムくらい。
坂本人脈ということでアート・リンゼイもアレンジに参加しているが、彼は前作を踏襲するようなブラジル路線で攻めている。 またこのアルバム以降は、歌詞にも大きく注目したい。言葉に淡彩でありながらふくよかなイメージがあり、どこかこの世を達観していながらも、決してアイロニカルにはならない。彼女自身がアーティストとして、人として、円熟したからこそ書ける詞となっている。 静かに死者を悼み、人々を浄化する「Rain」は涙なしに聴くことが出来ない。
ちなみに――ジャケットのキャンパスの切れ目のようなものがどうみても女性器にしか見えない。タイトルが「LUCY=人類の母」と云うことを考えるにこれは大貫のしゃれなのであろう。9点。


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 attraction  (99.02.24/46位/1.7万枚)

1.Cosmic Moon 2.枯葉 3.それとも 4.昨日、今日、明日 5.四季 6.Kiss The Dream 7.Mon doux Soleil 8.Cicada 9.風の旅人 10.Kiss The Dream(PIANO)
坂本成分を補給して再びヨーロッパの世界へ。 フランスの上流階級の不良風といった感じのLILICUBの音作りが心憎い。彼らの音楽に合う日本の歌手は大貫妙子以外考えられまい。 前作にも収録された「Mon Doux Soleil」は大人の坂本のペンよりもここに収められたまだまだやんちゃ盛りの彼らの音のほうがあっていると思う。
また「PURISSIMA」以来、定期的に大貫をサポートしてきたフェビアン・レザ・パネもここでいよいよメインに踊りでたという感じがある。 「四季」を聞くに、気がつけばこの人も大貫妙子に欠かせない人材になっていたんだな、と。9点。


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 ensemble  (00.06.21/86位/0.4万枚)

1.風花 2.Comment oublierto 〜忘却 3.L’ecume des jours 〜うたかたの日々 4.太陽の人 5.RENDEZ-VOUS 6.エトランゼ 〜etranger〜 7.花を待ちながら 〜en espera de una flor 8.愛を忘れないように 〜Pour ne pas oublier l’amour 9.Espoir 10.アカンサスの庭
日本・フランス・スペイン、世界を飛びまわって作られた本物志向で豪華で華麗な決定版。
このアルバムの最大の聴きどころはなんていってもPierre Adenotのオーケストレーション。若武者のように力強く、そして瑞々しい。 「L'ecume des Jours」はまるで絵画の中に収められたある海辺の一景――絵画の中の沖の彼方の波涛が突然うねりだし、一気に迫って、額を突き破って飛沫を散らすような、そんな華麗でかつ清新な勢いを感じる。 比べて「風花」(――「四季」を引き継ぐ世界。平安歌人のごとく洗練された言葉には思わず酔っぱらってしまう)、「Espoir」の坂本龍一のオーストレーションはさながらイタリアの老大家のよう。耽美的で重厚。裳裾をずるずる引きずるような官能的な弦楽。この聞き比べだけでもこのアルバムは聞くべき。 また前作を引き継ぐLILICUBのアレンジも手堅い(――「愛を忘れないのように」の鼻っ柱の強くも可愛らしい少女っぷりがいい)し、スペインはコルテス兄弟のフラメンコギターの音色も心地いい。10点。


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 note  (02.02.20/82位/0.3万枚)

1.あなたを思うと 2.緑の風 3.ともだち 4.Wonderland 5.虹 6.la musique 7.太陽がいっぱい 8.snow 9.星の奇跡 10.ただ
山弦(佐橋佳幸、小倉博和)との共同制作のアルバム。
淡白であっさりした作り。淡淡としていて、あるかなきかのうっすらとした色彩感。とはいえ、存在感がないか、といえばそんなことはまったくない。しっかり深みと味わいがある。 少ない色でどれだけふくよかで温もりのある色彩を紡ぎ出すか、ということに挑戦したアルバムといえるかもしれない。日本人にしか理解できない、わびさびの世界。幽玄で枯淡。 なるほど、こういう50代のポップスっていうのは、アリだな。70年代の歌姫たちの到達点のひとつといえるかもしれない。7点。


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 One Fine Day  (05.02.16/100位/0.4万枚)

1. 船出 2. The Blank Paper 3. One Fine Day With You 4. Hiver (イヴェール) 5. Hello, Goodbye 6. Time To Go 7. Deja vu 8. 春の手紙 [2005 version] 9. Voyage (ヴォヤージュ) 10. A Kiss From The Sun
 帯で「大貫妙子の最高傑作」と煽っている。 堂々と「これこそ彼女のベストだ」と断言するには少々はばかれるがしかし、そうは遠からず。  「note」の世界をさらに深く踏み込んで生まれた傑作。そういって差し支えないだろう。体の芯からあたたまる冬の陽だまりのような一枚。
 おだやかで満たされた日常。しかしそれは、たくさんの汗と涙、苦しみや悲しみを乗り越えてはじめてそこにあるもの。そんなあたりまえの日常の大切さに気づかされる。
 人の温みを感じるアコースティックサウンドと、彼女の綴る、派手派手しさとはまったく無縁のメロディーと言葉に、しかし、わたしは何度もはっとさせられた。
 「今は あなたに会いたい 誰よりも あなたに会いたい この思い届かなくても」(「Time To Go」)
 こんなありきたりの短い言葉なのに、そこに千の言葉にも勝る説得力があるのだ。
 今の大貫妙子は、さりげなくて、そして力強い。やさしさやおだやかさの向こうに、何者にも負けぬ強い愛と信念が垣間見える。
 もう見ることのできない風景、もう会うことのかなわない人たちへ、彼女は静かに「ありがとう、さようなら」と祈りながら、しずしずと明日を信じて歩いていく。
 わたしは、今の大貫妙子の歌う歌が、とても好きだ。9点。


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 Boucles d’oreilles  (07.03.21/124位)

1 Shall we dance ? 2 Cavaliere Servente 3 彼と彼女のソネット 4 若き日の望楼 5 風の道 6 Hiver 7 Time To Go 8 Shenandoah 9 メトロポリタン美術館 10 黒のクレール 11 横顔 12 新しいシャツ 13 Siena 14 突然の贈りもの
 タイトルはフランス語で"耳飾り"。東芝EMIからソニーへ移籍。その第一弾アルバム。今までの楽曲を再録音したセルフカバーアルバムである。
 ベテランの移籍一発目でカバーとかセルフカバーとか、近頃ほんと多いな。今回は「Shall we dance ?」や「メトロポリタン美術館」「彼と彼女のソネット」など"皆さんご存知の大貫妙子"を収録ですか。ベストアルバム的なニュアンスもってこと ? それってどうなん ? 安易でない ? そもそも96年発売の東芝EMI版の「Pure Acoustic」と収録曲被りすぎてない ?
 と、リリース前はぶつぶつ思っていたのだが、これ、いい。すごくいい。
 弦楽四重奏、ウッドベース、ピアノ、という編成が、もう、なんて贅沢なんだろう。 音数の少ないサウンドだがしかし、豊饒としているのだ。 さりげなく、あたたかく、しかし心を捕らえて離さない訴求力がある。
 テーマは「20年目の"Pure Acoustic"」、大貫にとってのアコースティックサウンドの原点「Pure Acoustic」にもう一度取り組むということだろう。 それは見事に成功したといっていいんじゃないかな。
 このアルバムには"うた"がある、"こころ"がある。そして愛に満ち溢れている。こんな素敵な歌手になっていたんだね、彼女。強くって、大きくって、こんなにもやさしい。
 これって蛇足なんじゃ、と聞く前は思っていた後半(M.10〜14)の87年の「Pure Acoustic」からの再収録部分も、これもなかなか効果的。 続けて聞いていくと、後半と前半の違いでどのように彼女が成長し円熟していったのかがよくわかる。
 まだ87年の段階では、歌唱も演奏も良くも悪くも脂っこいのだ。それはそれで見事ではあったが、自意識が強くてまだ音にほんの少し雑味があった。 それが20年経て、ほんとうにまさしく枯淡の境地へと彼女は達した。淡々としているのに、どこまでも深みがある。  大貫妙子という歌手を知らない人に最初に薦めるのは、この一枚がいい。最高。
 ちなみに。このアルバムのA&Rディレクターは、80年代に南野陽子、原田知世を担当した吉田格さん。こんなところで名前を拝見することになるとは。10点。


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 pallet  (09.04.29/145位)

1.snow 2.星の奇跡 3.森へ行こう 4.金のまきば 5.ピーターラビットとわたし (CD BOOK version) 6.めがね 7.春の手紙 (2005 version) 8.Shenandoah 9.ファム・ファタール 10.私のフランソワーズ 11.A Kiss From The Sun 12.メトロポリタン美術館 (Piano Quartet version) 13.Voyage (Long version) 14.名前のない空を見上げて 15.懐かしい未来 -longing future- 16.嘘と噂
 コンピレーションアルバムやトリビュートアルバム、他アーティストのアルバムでの参加、CMやゲーム・映画向け、などなど、いわゆる客演な作品で今までオリジナルアルバムに収録を見送られたものを中心にまとめたセレクションアルバム。EMIからのリリース。
 様々な経緯で生まれた作品をまとめており、なかには、作詞作曲なしボーカル参加のみ、という作品もあるのだけれども、オリジナルアルバムのような統一感がでているのはさすが。
 もちろんセレクションのセンスもあるのだけれども、30数年大貫妙子のアーテイスト活動のぶれなさというのにも舌を巻く。どんな企画的な作品であっても、常に大貫妙子は大貫妙子なのだなと。小器用に相手にあわせることなく、愚直なまでに自らを貫く姿勢に敬意を持たずにはいられない。
 「LUCY」以降特に強くなった、静謐さとはるかなるものへの祈念の強い、おおきな歌が光っている。「note」収録時にはあまり意識のしなかった「snow」が特にしみる。MISIAの「名前のない空を見上げて」、ユーミン「私のフランソワーズ」の自分のものにさせっぷりも凄い。細野晴臣「ファム・ファタール」の上品な小悪魔っぷりもなかなか。この出来をみるに大貫妙子のカバーアルバムってのもアリかなと思えるけれども、彼女がその企画にうなづかないだろうな。90年代後半から現在にかけての大貫妙子の世界が端的にあらわれた一枚といっていいかと。8点。


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 UTAU (坂本龍一&大貫妙子)  (10.11.10/22位)

【Disc.1】1.美貌の青空 2.Tango 3.3びきのくま 4.赤とんぼ 5.夏色の服 6.Antinomy 7.Flower 8.鉄道員 9.a life 10.四季 11.風の道
【Disc.2】 1.美貌の青空 2.Tango 3.koko 4.赤とんぼ 5.夏色の服 6.Lost theme - Femme Fatale 7.A flower is not a flower 8.Aqua 9.Geimori
 坂本龍一のピアノと大貫妙子のボーカルというシンプルなサウンドメイクによる初の二人名義のアルバム。既発表の大貫作品と坂本作品、それに新作を混ぜてという作り。二枚組版の二枚目は坂本のピアノ・インストとなっている。
 00年の「アンサンブル」以来のゴールデンコンビの復活――というアルバムなのだろうけれども、坂本龍一の勢いがいささか足りないように聞こえる。そして、大貫がかなり坂本の世界に歩み寄って表現しているようにも聞こえる。酷いいい方をすれば老いて覇気のなくなった坂本に旧知の大貫が介護補助のように歩調を合わせてつきあってあげている、そんな印象。「何か新しいもの」をこのアルバムに私は感じ取れなかった。
 大貫のアコースティックサウンドへの傾倒は87年の「pure acoustic」からはじまり、近年のアルバム「note」「One fine day」 「Boucles d’oreilles」でも一貫した流れがあったわけだけれども、それらのアルバムが総じて人肌を感じるヒューマンで暖かな印象を聞き手にもたらすのを対照的に、今作は孤独で、冷たく冷えていて、陰鬱だ。色でいうなら、ここ数年の作品が暖色系とするなら今作は寒色系という感じ。
 これは明らかに坂本のカラーに合わせてのことなのだろうけれども、そこから大貫がやりたいことが、近年のこれまでの作品と比べてクリアに見えない。坂本は、ちょっとこれ、まったくのノープランなんじゃないかなー。大貫の既発表曲のリアレンジとか、もっと闘争心燃やしてもいいものを、なんか無難に置きにいってる感じ。「四季」も「夏色の服」も「風の道」も元アレンジの方がいいぞ、これじゃ。音楽家として超えてるふたりなのだから、もちろん一定のクオリティーは保持しているのだけれども、スリルがない。なんかこう、ものすごい老後感が漂ってしまっている。未来が感じ取れない。
 ミニマルなピアノと女性ボーカルというコンセプトのアルバムを坂本は82年に加藤登紀子「愛は全てを赦す」でトライしているけれども、こちらは気迫に満ちていてスリリングだったのだから、サウンドコンセプトのせいだけではないのだろうな、おそらく。
 野蛮で兇暴で矛盾に満ちていてどっか壊れてる、そんな80年代の坂本龍一に戻ることは出来ないのかも知れないけれども、うーん。厳しい。この二人をしてこんな生気のないアルバムが出来てしまったことに驚愕した。80年代を華やかに生きたスノッブな業界人たちにとって、今は厳しい時代なのだろうけれども……。7点

2007.03.22 追記
2005.04.07
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