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大竹直子よ、奮起せよ

(「写楽」/1996.03.05/角川書店)
(「源平紅雪綺譚」/1996.10.01/角川書店)



 そもそも漫画なんてぇモノは、子供おもちゃですよ、大人の暇つぶしですよ。空いた時間にちょろっと読んで、速攻ゴミ箱直行。そんなものを真面目に何度も読み返したり、ましてや話し合ったり、論じたりそんなのはオタしかやりませんってば。
 だぁーーら、クオリティー、そんなものなんていらないんだってば。ただ、どれだけ読者の下世話な欲動をそそるか、それだけよ。
 と、酒場でくだ巻く親父並に今回は荒れております、わたし。というのも、今回テーマの作家の不遇にほとほと呆れているから。この作家が漫画業界で冷遇されているなんて悪い冗談としか思えない。――と、わたしが熱愛しているその作家の名前は大竹直子。

 彼女は歴史漫画を中心に執筆。デビュー誌は角川書店の今は亡き「歴史ロマンDX」で、そこから単行本を2冊上梓している。一冊が、皆川博子原作による「写楽」で、もう一冊が「源平紅雪綺譚」である。この2冊を読めば彼女の漫画家としての実力は充分過ぎるほどわかるはず。彼女の漫画は、画面一つ一つが精緻な、一幅の画なのだ。
 描きこみの精緻さや人物の表情の細やかさはもちろんすばらしいのだけども―――とはいえ、部分に偏執的にこだわる作家というのは得てして物語が描けていなかったりするんだけども、いやいやいや、彼女の場合、そこを取り上げずにはいられない。上手い。上手すぎる。こんな作家が眠っているのだから世の中わからない。彼女は挿絵画家として活動するならば、彼女は平成の伊藤彦造、山口将吉郎といわれてもおかしくないほどの確かな画力を持っているとわたしは断言する。しますとも。もちろんストーリーも、絵に負けずしっかりと構築されたものなのだ。
 つまりは、少ない作品ながらもそれらの作品は画風に関しては伝統的な正統派の日本画に拠り、物語に関しては日本史や古典作品を踏まえ、また様々な歴史・時代小説の名作の薫陶をしっかりと受け継いだ作品なのである。
 実際彼女は実に多くの歴史作品に触れているよう。その一端は「活字倶楽部」での連載漫画エッセイ「時代小説に見る美い男」でみることができる。
 これが絶品といわずしてなんというだろうっつーわけですよ。彼女の初の作品集が出たときなんぞ「彼女こそが、今まで待ち焦がれてながらも決して現れなかった本格の歴史漫画家なのだよ」と私は思わず小躍りしたものです。ええ。

 が、その後の展開は以下の通り。
 90年代は角川の「歴史ロマンDX」以外に、潮出版社の「コミックトムプラス」を活動の場としていたが、両雑誌が廃刊後は流浪。今、彼女の仕事は雑草社の「ぱふ」増刊の「活字倶楽部」での1ぺージのエッセイ漫画と竹書房のやおい雑誌「麗人」に年1、2回ほど短編漫画。また老舗やおい雑誌「JUNE」に時折挿絵が載るだけである。(※ その後「JUNE」「活字倶楽部」も休廃刊。「戦国無頼」で宇喜多直家の漫画の連載もあったが、こちらも雑誌廃刊で途絶。「麗人」での執筆も現在見受けられない。2011年現在、定期的な作品発表の場はない)

 何故彼女が女流歴史漫画作家として大成しないのか。私は不思議でならない。彼女の才能を放っておいている出版社はどうかしている、と私はなかば呆れてしまっているわけですよ。ぷんぷん。
 彼女はもっと大きく羽ばたくべき。彼女といい、皇なつきといい、彼女らの停滞を考えると、歴史漫画などというものはジャンルとして確立していなかった、という残念な答えを私は導き出しかねない。私が出版社の社長なら、様々な出版社で細々と描いた原稿を単行本にまとめ、彼女の夢である「義経一代記」の執筆も「妖雲 大内太平記」の漫画化も後押しするのに……、と日々無駄な夢想をする私なのであった。まる。
 あー、ホント、もっといっぱいいっぱい彼女の作品、よみたいのになあ。ぶつぶつ。

(※ その後、短編作品の一部は小池書院から出版。よかったよかった)


2004.02.17
2011.08.18 改訂


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