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大貫妙子 「アトラクシオン」

円熟期の名盤

(1999.02.24/ 東芝EMI/TOCT-24064)

1.Cosmic Moon 2.枯葉 3.それとも 4.昨日,今日,明日 5.四季 6.Kiss The Dream 7.Mon doux Soleil 8.Cicada 9.風の旅人 10.Kiss The Dream(PIANO)


80年代の大貫妙子の作品は全て網羅していた私だったが、正直、90年代の彼女には食指が向かなかった。
小林武史のアレンジもタイプで無かったし、彼女がアフリカや南極などに旅行し、ナチュラリストとしての作品が目立ってきたせいもある。
坂本龍一と再びコラボしたアルバム「LUCY」も聞いていなかった。しかし、これは大きな不明であると気づく。
きっかけは偶然「ミュージック・フェア」で歌う彼女を見てから。
大貫は「四季」を歌っていた。
マックス・ファクターのCFソングとして流れていることは知っていたが、フルで聞いたのはこの時がはじめて。
はっきり言って感動した。
むっちゃ名曲じゃん。
翌日には、もう「四季」収録アルバム『アトラクシオン』を買ってしまった。
テレビ見てこんなわかりやすい反応するというのは私にとってはとても珍しいことだ。
いやー、「四季」もいいけど、全部いいよね、このアルバムの曲。トータルでものすごいいい感じ。
「四季」はわかりやすくいうと「新日本紀行」みたいな曲。
日本的な情緒を描いているけど、フォーク・演歌的にべたついていない。
詞はあくまで淡々と情景を描写し、メロもストイックなまでに同じフレーズを淡々と繰り返す。
つないだ手に夏の匂い 海へと続く道
光る波とひとひらの雲 遠い蝉時雨

山が燃えて草は枯れて 瞳は秋の色
風が立てば心寒く 陽だまりの冬

求めつづけ待ちぼうけの あなたの季節
溶けて儚い春のぼたん雪

夏から冬へ。四季の移ろいを淡色で描くこの部分は見事。夏の海の青。秋の山の赤。冬の白。日本の風景を限りなく短い言葉で的確に攫っている。
水に落ちた赤い花よ 思いと流れていこうか
そして、このサビ前のブリッジが効果的聴く者に異化作用を及ぼさせる。
さくら さくら 淡い夢よ
散りゆく時を知るの
胸に残る 姿やさしい 愛した人よ

さようならと さようならと
あなたは手を振る
鈴の音が歌いながら 空を駆けてく
そして、春。
一気に、ここで今までためこんだ情感が一気に溢れ出す。
この部分に来るとどうにも私は泣けてしまう。
う―――ん、いい曲。「四季」は大貫妙子には今までなかったタイプの曲で、和テイストの侘びと寂びの世界が渋い、渋いっすよ――。
アレンジはちなみにフェピアン・レザ・パネ。彼はもしかしたら80年代の大貫における坂本龍一のような位置になりうるかもしれないなぁ。
他の楽曲でも相性抜群だ。

この名作「四季」の他、このアルバムは本当に佳曲揃い。
「magnetic moon」「Lunar moon」「electric moon」などなど、幻想的なエフェクトにぽつりぽつりと「〜〜moon」という言葉を重ねるポエトリーリーディングのような「Cosmic moon」。
お手のものといった感じでブラームスの楽曲をフレンチ仕立てにした「昨日、今日、明日」。
無国籍で大貫スタンダードな「風の旅人」、「Kiss the dream」は品の良いフェビアン・レザ・パネのアレンジがいい。
面白いのがフランスのテクノ小僧LILICUBアレンジの楽曲で、大貫の持ち味のひとつでもある「品のいい不良性」とでもいうべきものが彼らのアレンジで良く引き立っている。
「枯葉」「それとも」など、流して聴くと「風の旅人」「四季」などの清廉さと対比になって、良いアクセントになっている。
前作では坂本龍一のアレンジで歌われた「mon doux soleil」だが、私は断然こちらのLILICUBのアレンジの方を推す。今彼女の音はこちらだな、と私は感じる。

前作『LUCY』、次作『emsamble』と、この『アトラクシオン』を私は勝手に大貫妙子の「新・ヨーロッパ三部作」としている。
これらは坂本龍一の手による『ロマンティーク』『アバンチュール』『クリシェ』の80年代ヨーロッパ三部作と並ぶ、90年代の彼女の音楽活動の、ひとつの解答と私は見る。
80年代の才気ばしったエキセントリックな部分が実にいい形で円熟しているのですよ、この3作は。聴き比べをすると、あぁ、実にいい流れで彼女は成長したんだなぁ、というのがよくわかる。
言葉と歌唱が重くなっているというのが、昔との最大の違いかなぁ。「四季」「TANGO」「空へ」「RAIN」といった歌は昔では絶対歌えなかった歌だとわたしは思う。
どれもいいでよ。是非とも、80年代の彼女のアルバムを聞いた方なら絶対というアルバム群でしょう。
とくに『emsamble』。もう、これも本当ね、絶品でさぁ、という話もしたいのだが長くなるので、これは次の機会に。

2004.02.12

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