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中森明菜
「The Heat〜musica fiesta〜」


けして振り返らない20周年記念ソング

(2002.05.02/キティMME/UMCK-5060)

1.The Heat~musica Fiesta~ 2.Siesta~恋のままで~ 3.The Heat~musica Fiesta~(instrumental) 4.Siesta~恋のままで~(instrumental)


デビュー20周年を飾る曲である。
とはいえ、この曲には甘いノスタルジーもプロパーのファンへの余計な語りかけも無い。

コンサートのMCで明菜はこの曲について、「受け入れられるとどうかわからないが、今の私が歌いたい歌」というような趣旨で話していたのを聞いた。
この歌を一聴して中森明菜が歌っているとわかる人は相当なファンだろう。
曲調は簡単に言えばR&Bラテンといったところなのだろうが、ちょっとねじれていて、玄人好みな佇まいなのだが何よりも驚くのが中森の歌声だ。
全体的にアーシーでざらざらした乾いた歌声で中森特有のつや消しの効いたなめらかな低音とビブラートはまったく姿を消している。多分彼女のボーカルディレクションなのだろうがあえて自分の声の特徴を殺している。そしてそれが楽曲と見事に融合している。

この曲のなかの中森はまだ歌うことの新鮮な喜びを持ちつづけている。
そして聞き手にもそれは充分新鮮に響いている。
大物歌手特有の腰の重さなんて微塵も感じられない。
外資系ストアなんかで流れていても全く違和感の無い音作り。
今の(しかも子供だましじゃないしっかりした)音なのだ。

「apetite」の時も思ったのだが、この人は本当に歌に対して絶えず積極的だ。
常に新しいものを、新しい表現を、それも独り善がりにならずに常に時代の音と折り合いをつけていっている。このアーティストとしての揺らぎのないスタンス。それを裏づけする創造に対する強い意思は、本当にちょっと尋常でない。
(ま、その尋常になさがさまざまなトラブルの遠因になったりしてるのだろうが……)。
それはアルバム「不思議」のころの姿勢と何一つ変わっていない。
外野では(というか昔ながらのファンの一部には)昔ながらのいわゆる「デザイア」みたいな歌を望んでいるものも多いと聴くがそんな雑音は全く気にしなくてよろしい。このまま好きなようにやればいい。ただスタッフは大事にね、明菜。
あと、いいかげん明菜の周りは明菜の本質がA&Rプロデューサー兼歌手であることに気づいてくれーーっ。

ともあれ、この曲は、いい。
まだまだ彼女は成長しつづけていることの何よりの証左であり、私はまだ彼女から離れることができそうにない。

2002.7.21

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