MALICE MIZER 『薔薇の聖堂』
1. 薔薇に彩られた悪意と悲劇の幕開け
2. 聖なる刻 永遠の祈り
3. 虚無の中での遊戯
4. 鏡の舞踏 幻惑の夜
5. 真夜中に交わした約束
6. 血塗られた果実
7. 地下水脈の迷路
8. 破誡の果て
9. 白い肌に狂う愛と哀しみの輪舞
10. 再会の血と薔薇
究極の"お耽美"アルバム (2000.8.23/Midi:Nette) |
そもそも階級社会でもない、キリスト教圏でもない日本人が、 西洋的な耽美主義を自分の表現とするなんてのは、土台無理な話なのだ。 かててくわえて、明朗として安穏、平板なこの現代の日本。蛍光灯の白い光が、テレビやパソコンの青いモニターが、あっけらかんと埋めつくし、翳りも妖しさもこの国のどこにもない。 これでは、幻想も耽美もあったものではない。 今に生きる私たちのもちえる耽美は、所詮"お耽美""四畳半耽美"でしか、ありえないのだ。 と、絶望しているわたしのところにMana様から一通の招待状が届けられた。 「まぁ、だからといって、耽美を諦めることもないんじゃない」 その招待状は「薔薇の聖堂」という蝋印が、施されていた。 「薔薇の聖堂」。 ボーカルのGacktが脱退、ドラムのKamiが急逝、さらには、所属の日本コロムビアとの契約解除、 という急転直下の緊急事態に、インディーズレーベル"ミディネット エーム・クロワ・エーム"を設立して作られた四枚目のアルバム。 メインボーカルが不在という状況のアルバムであるので、楽曲は、インストゥルメンタルや女性コーラスをメインに据えたものなどが並ぶ。 そのなかで、Klahaという男性ボーカリストを招聘しての楽曲が最も多い。彼は、このアルバム発売直前に、正式に3代目ヴォーカリストとして加入が決定。 つまり第三期、MALICE MIZERのスタートを世に知らしめるアルバム。――となるはずだったのだろうが、翌年、バンドは解散。ラストアルバムとなってしまった。 ◆ このアルバムは、 「チープなお耽美だっていいじゃない」 そう断言しているMana様のお姿が見えるよう。 その臆面のなさがむしろ心地いい。 第三期のMALICE MIZERは、このアルバムを含め、全体のイメージとして吸血鬼をモチーフとしている印象が強いのだが、 あくまで目指している像が「悪魔城ドラキュラ」や「夜明けのバンパイア」や「ポーの一族」あたりに過ぎない。 これは、この時期に限らず、このバンドに通底しているものである。彼らは、どんな耽美をしようとも、とどのつまり、ポップカルチャーに根ざした"お耽美"しかできない。 底の浅いチープなはりぼて耽美。数少ない手札のなかから必死に耽美しているのがどこか透けて見える、わたしたちのしているのと同じような"お耽美"なのだ。 しかし、そのチープさも極まればひとつの世界を作りあげるのだな、と、このアルバムを聴いて私は思わず感心して、そしてうっとりしてしまった。 Mana様、すてき☆ って。 底が浅くっても、ただの田舎者の思い込み耽美でも、いいじゃない。 思い込みが過剰になれば、それはもうひとつの世界なのだ。 ◆ このアルバムでは、パイプオルガンの音色や、重厚な弦楽や、聖歌隊のような女性コーラスなどといったクラシカルな音たちと、 ぺらっとしたシンセ音やぐしゃぐしゃしたギターなど、いかにもV系的な音が、見事なまでに、高度なところで融合している。 そのクオリティーの高さは相当なもので、前作「merveilles」と比べると、ほとんど子供と大人の違いといっても過言でない。 まさか、初ヒット「月下の夜想曲」から、わずか二年でここまでの音を繰り出すバンドに成長するとは、にわかに信じがたいものがある。 しかも、それらの音が、良くも悪くも、格調高くは、決して聞こえない。 あくまで「悪魔城ドラキュラ」的な音楽というか、ポップでキッチュな範疇にとどまっていて、例えば、サラ・ブライトマンのような昨今流行のクラシカルクロスオーバーの世界とはあきらかに一線を画している。 この、あくまでポップにとどまる、という姿勢が、なかなか凄い。 これは、"お耽美"でなければ出せないものなんじゃないかな。 そんな"お耽美"だからこそ辿り付けた、ロックでありクラシックでありながらポップという、奇跡のクロスオーバーっぷりを見せているのだ。ったら、そうなのだ。 この世界観は、中世ヨーロッパでもゴシックでも、少女漫画でも、ゲームファンタジーでもない。MALICE MIZERとしかいいようがない。なんだか、よくわからないけれども、そうとしか、いいようがないワンアンドオンリーの世界なのである。 そこに、チープであるが、安易さにとどまらない彼らの姿勢が窺える。 そもそも、このアルバム、一度メジャー展開し、それが成功したバンドのアルバムとは、とても思えないじゃないですかっっ。 メジャー展開に成功したV系のほぼすべてが厚塗り化粧を落とし、フツーのポップなロックを歌うものを、それに反するような、 ハードでコアなお耽美世界。 MALICE MIZERは厚塗りをより厚塗りに、とお耽美的世界観を強固にしていくわけで。 しかも、ボーカル不在、というバンドにとって致命的な状況において、 それを逆手に取った、メインボーカルに拠らない強固な世界観をもったクオリティーの高いアルバムを作る、という。 とても万人には受けないと思うけれども、このまんま突き抜けていってほしかったのになぁ。私はひそかに次のアルバム待ってましたよ、ええ。 とはいえ「薔薇の聖堂」は、既存のV系という範疇を越えた、チープなお耽美世界に生きる私たちに差す一条の光となった奇蹟の名盤、これこそお耽美の中のお耽美、と言い切っちゃうもんね。 ちなみに、このアルバムを引っさげての武道館ライブを収めたDVD「薔薇に彩られた悪意と悲劇の幕開け」(――相変わらずすげータイトルだな、おい)もマストアイテム。 ベタな演出の数々に、「Mana様、きんもーー。Klaha様、おっとこるぁしいわぁーー」とのけぞること幾たび、みなさんも爆笑しながらうっとりしましょう。 |