◆ 虜 -TORIKO- ◆ REPEAT AND FADE ◆ THE BIG GIG
82年作品。ニューヨーク・パワーステーションでレコーディング、エンジニアにボブ・クリアマウンテンを起用。後に「ニューヨーク三部作」といわれるその第一作目。音源制作に3500万円も費やした――採算分岐点が30万枚というまさしく勝負作。 まあ、確かにそれだけの巨費を費やしただけあって、前作とはどこもかしこも段違いのクオリティー。音の抜け方がまず違う。カッコいい。それを反映してか、はっきりいって名曲ばっかりです、このアルバム。 「観覧車'82」も「BLUE LETTER」もあるのに、「無法者の愛」も「ナイト・ウェイブ」も「ブライトン・ロック」もあって、ラストは「荒野をくだって」だもんなー。甲斐バンドの魅力ってのは、ずばり負け犬男の哀愁だと、小生、そう思っておりますが、一番負け犬臭の強い、そんなアルバムだと思う。 流れ者の負け犬男が海辺の小さな町で捨て猫みたいな女と出会い、ひと夏寄り添うものの、女が孕んだのに男は逃げをうち、そしてしばらく後、女から男の元へ涙の粒のような手紙が届くという「BLUE LETTER」とか、どんだけダメ男だよ、と思いつつも、結構酔えるんだよなぁ。 「観覧車'82」は、これ、もう、彼女や奥さんと別れそうな男は、みんな聞いてみるといいと思うよ。 「呪縛の夜」なんかも好きだなぁ、わたしは。「夜が冷たくなる季節に 二人の運も尽きはて 愛も冷えてしまった 砂が黄金に変わる夜明け前に」のあたりとか、特に。 甲斐くん、詞が意外にも、かなりいいんだよね。ドラマチックで物語的、映像的。阿久悠の演歌的な湿っぽさをもう少し乾かさせると甲斐よしひろの詞になるって感じかな。中島みゆきや萩尾望都が甲斐くんを気に入っているのは、ここにあるか、な、と。 (記・2006.3.29)
86年リリース。甲斐バンドのラストアルバム。 12インチシングルの四枚組で全16曲という変則スタイルでリリース。それぞれのレコード一枚(各4曲)をメンバー四人それぞれが完全独立でプロデュースしている。甲斐のプロジェクト楽曲に大森や松藤が参加したり、といったメンバー内の交流も、ほとんどない。というわけで、これは甲斐バンドのアルバムというよりも、それぞれのソロの12インチシングル四枚をコンパイルした、という感じ。 このアルバムの発売二日前に、甲斐バンドの解散が告知されている。このアルバム制作時にはもう解散は決定事項だったのかどうか、というのは定かではないが、こんなアルバムがラストアルバムでは、やはり内部事情を考えてしまうもの。元々甲斐バンドは、作品のほとんどが甲斐よしひろの作詞・作曲・歌唱、という、名実ともに≪甲斐よしひろのバンド≫だっただけに、メンバーそれぞれがほぼ並列に並んでいるこのアルバムはことに異質。 作品はそれぞれクオリティーは高い。前作「LOVE MINUS ZERO」で得た成果を各メンバーが血肉化していることを感じることもできる。これは、メンバー四人が、それぞれ四つのかけらに分裂することによって、はじめてそれぞれの個性がはっきり表に現れたアルバム、といっていいだろう。しかし、それが解散と同時期というのは、ひとつの皮肉である。これが解散アルバムというのは、承服しかねる。 ≪バンドの総集編≫としてのアルバムが一枚欲しかったな、というのが正直な感想。 ちなみに――。四枚の中では、大森信和プロデュースによる全篇インストPART1(――共同プロデュースは久石譲)が、ギタリストらしい硬質な詩情があふれ一番いいかな。 (記・2007.08.04)
1983年8月7日、新宿副都心、都庁建設予定地で行われたライブ「THE BIG GIG」の模様を納めたDVD。会場の2万2千人の観客とチケットを入手することの出来ずに会場両脇の陸橋につめかけた6000人のために開かれたライブバンドである甲斐バンドの、記念碑的ライブ。ビデオとレコードの発売、さらにテレビとFMでの放送もあり、さらにそれぞれの編集を変えたりと、パッケージもかなり凝っていたようだ(――というか、DVDとなったビデオしか見ていないのでそれぞれの異同がわからんのよ)。 これは、アレだね。はっきりきっぱりと、ロケーションの勝利。 高層ビルの林立するなか、エアポケットのように取り残されたなにもない広大なあき地でライブするロックバンド――って、だってそれだけでもうカッコいいじゃん。企画を立てた人が、もう、断然偉い。風に流れるスモーク、落陽に刻一刻とその色を変えていく超高層ビル群。特にステージバックにある三角のビル――新宿住友ビルか、が、ズル過ぎるな。巨大な舞台装置になっている。 当時の甲斐バンドは「ニューヨーク三部作」制作まっただなかで――当時の最新アルバムは『黄金』、アーバンでハードボイルドタッチの世界を追求していたということもあって、このロケーションにベタはまりしております。東京砂漠、おれたちの青春の蹉跌はいま熱いロックのビートになった、というか、そんな感じ。 甲斐くんもカコイイぞ。時々動きが江頭2:50したり、顔がうっかりすると次長課長の「タンメンの人」になったりするけれど、それ含めてセクシーです。ベストアクトは、オープニングを飾った「ブライトン・ロック」、このライブ音源をそのままにシングルカットした「東京の一夜」、大合唱で会場と一体となった「翼あるもの」かな。「ポップコーンをほおばって」「100万ドルナイト」あたりも定番なんだろうけれども、泣けます。 (記・2006.2.24)
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