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本田美奈子 「I LOVE YOU」

(06.03.29/マーベラス/MJCD-20054)

1.風のうた 2.ナージャ!! 3.愛の砂漠 4.晴れた空お天気 5.星空 6.Honey 7.shining eyes 8.etoile -星- 9.I LOVE YOU 10.impressions 11.一瞬/永遠


 96年から03年までの本田美奈子のアルバム未収録楽曲を集めたコンピレーションアルバム。
 この期間、本田美奈子はレコード会社との長期的な契約結んでいない。 本田美奈子のミュージカル歌手時代は、楽曲リリースにおいては、空白なのだ。 その七年の空白を埋めるアルバムが、彼女が亡くなってようやくリリースとなった。

 そもそも発表楽曲が少ない時期の楽曲をとにかくかき集めたという ( ――ここに収められていないものは、あとは非売品として発表された「素敵な明日のために」「Get chance!」 MDダウンロード発売した「満月の夜に迎えにきて」くらいかな? ) つまりはごった煮のアルバムなのだが、これ、案外いいぞ。



 広井王子作詞・藤倉いくろう作編曲の「愛の砂漠」は、薄っぺらなアレンジになんちゃってスパニッシュフレイバーがとほほ、だったり、と ( ――まぁ、制作費安かったんだろうな ) 、そういう楽曲もまぎれてはいるのだけれども、 そういった歌でも、しっかりと自分の仕事をしている本田美奈子がじつに好印象。
 アニメ主題歌やゲーム劇中歌など、さまざまな状況下で作られた歌―― それは「本田美奈子」という名前の通用しないフィールドなのだが、それにきちんと制作サイドのオファーにこたえながら、 きちんとプラスアルファで、本田美奈子は自分の色を出している。 だからこのアルバムも、通しで聞いて、きちんと本田美奈子の個性でまとまっている。 まぎれもなく、本田美奈子のアルバムなのだ。
 当時の多岐にわたっていた彼女の活動が、決して散漫に終わるだけでなく、きちんとひとつの形へとになっていた。 その証明となる一枚といっていいんじゃないかな。
このアルバムから、実にさまざまな本田美奈子の一面が垣間見える。 全体の印象からは、94年『Junction』のテイストに近い、バラエティー溢れる佳盤。



 テクノ・ユーロ系の同時代的ないい意味で薄いトラックに、 思いっきり歌いそうで、そうでもない、( ――アイドル時代だったらそれこそ全力で歌うところ半歩引いているあたりが実にいい ) 絶妙な歌唱加減がすぐれている超クールな「Honey」( 前田和彦作、編曲 )や、 もろディスコ直球な美奈子自作曲の「shining eyes」( ――コーダのハイトーンスキャットが心地いい )はポップスシンガーとしての彼女の可能性が、仄見える。
 さらに母性を表現した壮大な「風のうた」、スキャットだけで魅せる「imprerssions」の美奈子のボーカルは圧巻、後のクラシッククロスオーバー時代と、また彼女が生きていたら、その先にあったかもしれない世界がここから見える。 この「風のうた」「imprerssions」ラインの、エスニックテイストを散りばめた生音重視のクラシカルなオーケストレーション――けれどもポップ、というのが、これからの彼女には一番いい世界かな、と生前の彼女を見て、わたしは思っていた。

 「etoile -星-」(作・編曲 奥慶一)にいたっては、ほとんど『Ave Maria』『時』に収録されてもおかしくないど真ん中のクラシック路線。 また、美奈子と同郷、尾崎豊のカバー「I love you」も、「仔猫のような泣き声で」と歌詞にある女性側に感情移入して、わざと舌足らずに甘ったるく、けれども微妙におさえて歌うところところも、面白い ( ――これは好き嫌いに分かれる歌唱かな ) 。 古きよきアニメソングそのもの、という「ナージャ」や「晴れた空お天気」も堂々とした歌いっぷりで、保母さんが子供に歌ってあげている、という感じで( ――今時アニメ楽曲的な、おっきなお兄さんお姉さんに媚びている感じがなく )悪くない。

 そして、偶然の産物なのだろうが、ラストを飾る「一瞬/永遠」が、いい。
暑苦しいまでに全力でつっぱしるモロ美奈子節歌唱で、 「永遠分の一瞬を燃やして終わらない愛を誓おう」と力強く絶唱する。 それは、短いがゆえに激しく燃えさかった、まるで彼女の一生のような、ひたすらに熱いストレートな愛の歌だ。
 ラスト「地球が砕け散っても 愛している」は、美奈子の敬愛した越路吹雪の「愛の讃歌」的でもあるし、またファンへの最後のメッセージとも、響く。
 泣ける。


2005.04.12
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