80年代からこっち「男性版ユーミンの系譜」ってのが確実にあるとおもうのですよ。 音楽的にはAOR、ブラックミュージック、フュージュンを引きずっていて、詞はきらびやかで都会的でなよっとした気弱な恋愛事情みたいなノリで、っやつ。 具体的にいうと―――。角松敏生、崎谷健次郎、中西圭三、久保田利伸、稲垣潤一、杉山清貴やカルロス・トシキなどのトライアングルプロの男性歌手陣、池田聡、KAN、槙原敬之、平井堅。 ズバリ、このラインの歌手ですよ。 で、「男性版ユーミン」はさらにその容姿やパブリックイメージから「派手系」と「地味系」に分かれるとおもうのですが、 そんな「男・ユーミン」地味系の最右翼なのが、池田聡なんじゃないかなぁ。と私は思うのですよ。 芸能人的華やかさはまったくなく、かなり淡白な容姿で、人柄も朴訥で洗練されていず、そのかわりに歌がべらぼうに上手い。 「地味系男・ユーミン」という全てが揃っているな、と。ってこれもなんだか失礼ないい方だな。 この人のいいなぁと思うところって、一応自分になりに作詞とか作曲できるのに、自分の世界に満足しないで、どんどん才能ある人のところに頼んでいろんなコラボレーションを実現していってるところにあると思う。 ほら、デビュー数年は色々外注しているのを、予算がつかないのか自己満足に走るのか印税がほしいのかよくわからないけれども、いつのまにか全部自分でやりだしちゃう――――本人的にはこれでいいのだろうけれども、ファンとしては昔の頃のポップ感度高いほうのがいいよなぁ……なんて、そういう歌手って多いじゃない。正味の話。 それが彼の場合ないんだよね。 デビューから、ずうっと一貫して、ホントに様々な人と歌を作っている。中西圭三や伊勢正三などの身内、友達、知り合い、先輩・後輩とアットホームに作る時もあれば、秋元康などの職人と一緒にガチガチのプロデュースワークで作るときもある。 作家陣にしても、ホントバラエティー豊か。先ほどの挙げた人の他にも―――佐藤健、タケカワユキヒデ、中崎英也、玉置浩二、南佳孝、筒美京平、林哲司、辻畑鉄也、来生たかお、柴矢俊彦、羽田一郎、柿崎洋一郎、久石譲、伊秩弘将、水島康宏、田島貴男、小西康陽……。 もう綺羅、星のごとくといっていいほどの人材。 しかもそれはただ集められた、というだけでなく池田聡自身が、「池田聡という歌手をどう料理するか」という視点に自ら立って率先して招聘して共同作業しているようにそれは見える。 彼はポップス系の男性歌手では屈指の歌唱力と美声の持ち主だが、その能力がどうやったらより輝くか、成長するか。彼はそれを極めて客観的に見ているんじゃないかなぁ。 だからこそ、ナルシスすれすれの女々しい歌を歌っても、情に溺れる一歩手前のギリギリでとどまっていられるんじゃないかなぁ(――それが出来ないとマッキーの世界になっちゃうわけで) と、わたしは睨んでいる。 ――彼は聞き手を酔わせるために自ら情動の水際すれすれまで迫って聞き手を誘いはするが、彼は決して水の中にははいらない。聞き手が次々と酔い溺れても、決して水の中にはいらない。逆にマッキーは自ら率先して水の中にジャブジャブ入っちゃう。ひとしきり溺れてから後ろを振りかえって、なんだそんなところにいるの、一緒に溺れようよ、リスナーに語りかける。 そんなところから、池田聡って歌手はニュートラルな位置に自分を置いている歌手なんじゃないかなぁ、とわたしは思っている。 自分の歌手としての魅力をわかっているというか、自分の立ち位置を理解しているというか。俯瞰で自分を見ているというか。 自身のサイトで自分の作品レビューを彼はしたりなんかしているんだけれども、それも実に的確で、聞き手からみて、こうだったんじゃないかなこう思うけれども、ていうところと彼の視線のズレが少ないのね(――だからこんなレビューは不要だったりもする。彼のサイトのアドレス、コピペすりゃそれでいいじゃんという)。 自分の思い入れであるとか、個人的な事情というものをある程度排除して自身の作品を振りかえる。これって出来そうでいてなかなかできないことだと思うんだよね。
ちなみにジャケット写真は事務所の先輩、小林麻美によるもの。戦略なのだろうが、デビューから数年は小林麻美の影が彼の作品には漂っている。というか小林麻美のような年上の洗練された女性に翻弄されている気弱な青年というのが彼の役どころである。このイメージは以後ずっと一貫して引きずっていく。 作家は佐藤健、大活躍という感じ。全体的にユーロっぽいテイストが漂っていて、そのへんの時代性を考慮に入れて聞くのもまたいとおかし。吉田美奈子作品の「Diana」だけが他の作品群をさしおいて妙なエナジーを発している。8点。
個人的にも1番好きな作品。全13曲で捨て曲まったくなし。ヨーロピアンなテイストをうっすらと散りばめて、好盤。 「雨のフォーチュン」はタケカワユキヒデのなかでも屈指の作品。ひら歌部分の緊張感ただようメロディーラインがサビ前のブリッジで一気に高揚して、爆発する。涙をこらえていたのが、一気に心が弾け涙がこぼれるような印象。川村真澄の詞も冴えてるなぁ。 さらに「NIGHT」で大橋純子とのハーモニーで酔っぱらったら、次は吉田美奈子の圧倒的なバックコーラスの「レクイエム」。や、その次の「Unforgettable」のEVEのコーラスだってカッコいいぞ。 他、ホーンセクションがカコイイ「サイレント・ステップ」、地中海テイストな80年代式「想い出ぼろぼろ」な「濡れた髪のLonely」、ラストを飾る「Zone」は松本一起の詞で、中森明菜の「ジプシー・クイーン」や「椿姫ジュリアーナ」などでおなじみの都市の書き割りをべりっと剥がすと、その向こうに広大な砂漠が広がっているような、という路線で手堅い。 サンバの群衆から半身だけずらして醒めている「オルフェの後身」も、リリカルな「センチメートルの涙」もいいんだよぁ。文句なく、10点。
アーバン版寅さんといった趣のフラレ男っぷりを感じる「Sylvia」、目指すはマイホームパパな日常こそがエデンだと歌う「Sweet Eden」がいい。ちなみにCD・カセット版はアルバム未収録の楽曲がどっさりとライブレコーディングでプラスアルファとして後半に並んでいる。ラストを飾る「La Rose Noire」は小林麻美の詞。雰囲気重視の色気むんむん。7点。
シノワズリなメロデイーラインの「月の舟」は彼の代表曲のひとつ。綺麗な歌だよなぁ。名曲と推すファンも多い。それにしてもこのアルバム、いつもにまして全体的に女々しい歌が目立つよなぁ。「さよならよりもつらい別れ」とか「アドレスのない手紙」あたりになると、もうタイトルだけでお腹いっぱいだし。 「Dear Friend」なんて池田聡だからこそ成立している歌なんじゃなかろうか。他の男性歌手が歌ったらホモ臭くって聞けたものじゃないぞ。 「吉田美奈子モノ(=「Stony rain」)」「ラテンモノ(=「desperado」)」「ユーロ系ダンスポップスモノ(=「幻とダンス」)」など、初期のアルバムの作りが守られるのはここまで。8点。
今回は珍しくラスト「time after time」を除く10曲が彼の作曲。アレンジャーは西平彰、大村憲司、清水信之。 「冒険者たち」。いわゆるドライビングポップスだが、運転手が女性で男は助手席という構図。女の「次のコーナーで曲がりきれなくて死んでもいい」なんて過激な言葉に「それもいいかも」なんて話に乗っかっちゃう。いくら女性上位時代とはいえ、今でもなかなかお目にかかれない。おメメで情けない男を歌わせたら池田聡ほどはまる歌手もいまい。 他、「もっと悲しいサヨナラ」、「きみが愛した少年」など女々しい歌はどれも相変わらずいい。7点。
初期の世界から飛び出て違う何かを表現しようと思ったのだろうが、まだ試行錯誤の段階というところ。ちょっと全体的に散漫かなぁ、と思ってしまう。が。アルバムタイトルとなった名曲「君を忘れない」をラストにおいて見事にアルバム全体をクロージングしている。 作家は伊秩弘将、水島康宏、有賀啓雄、佐橋佳幸など、当時の新人・若手を起用。 それにしてもジャケット写真のちびっこが反則的にかわうい。6点。
まだ樹海からは抜け出しきれていないが、なんとか出口は見えてきたよう。デビュー時から培っていた世界と新しくやろうとして上手く行かなかった部分とをある程度の形にまとめているように見える。 今回も筒美京平をはじめ、林哲司、辻畑鉄也、来生たかお、柴矢俊彦、羽田一郎、柿崎洋一郎など、と彼にしては今までなかった作家陣に発注。 「マリッジ」は池田版「シンデレラ・エキスプレス」。まさしく男・ユーミンの彼の世界。「誤解するなよ」はいとうせいこう作詞で彼はラップも披露。他、「また雨が降る」「くちびるの赤」「Long Distance Love」(――典型的来生節 !)など佳曲多し。全体的にブラック色が以前よりも強くなったかな。7点。
今までの世界を壊しきっていて、それでいてポップで痛快。ま、ピチカートのアルバムなんじゃないかこれは、といわれれば確かにそうなんだけれどもね。まままま、それはそれ。よいではないかよいではないか。 「あぁ〜堕ちいいくぅ〜、うんめいぃ〜」ってことで。あ、ちなみに玉置浩二がさりげにメロウないい曲書いております。8点。
「満月」はcobaのイタリアンなオーケストレーションに森雪之丞の耽美的な詞が美しい名曲。南佳孝作曲の「愛さずにいられない」、隠れたゴールデンコンビ、大津あきら―鈴木キサブロー組の「君を抱けば」もいいし、 玉置浩二作曲の「Femme Fatale」も捨てがたいよなぁ。いつも苦言ばかり勝手にいっている秋元センセにしても「悲しみにキリがない」に関しては結構いいと私はおもう―――って池田さん本人は自身が作った「流星」という詞のほうが気に入っているようですが。それにしても伊勢正三のフォーク「冬京」をブラックに染めちゃうセンスには完敗で乾杯。ジャケットもカッコイイです。9点。
弦楽メインのアレンジによるセルフカバー作品。といってこれがまったく退屈に感じない。全5曲それぞれを弦を得意とするがまったくタイプの違うアレンジャーに発注したというのが功を奏している。楽曲を果断に再構築。 弦楽四重奏がエキセントリックな「HEAVEN」(中西俊博・編曲)、ロマンチックな「Femme Fatale」(清水靖晃・編曲)、和製フレンチな「オルフェの後身」(橋本一子・編曲)もいいけれども、特にマンドリンと胡弓の音色が美しい「月の舟」(Coba・編曲)とパーカス類がアフリカンチックで印象的な「なにも言わないで」(溝口肇・編曲)は絶品。 原アレンジを完全に凌いでいると思う。彼にあって異色の名盤。9点。
この時期、中西圭三や伊秩弘将らとの期間限定ユニット「Ice Box」(これはメンバー達の意志以前に事務所の意向で無理やり作られたユニットだったそうで)のヒット、さらに本人出演のドラマ主題歌「思い出さない夜はないだろう」の久しぶりのヒットというのはあったが、それだけという気がしないまでもない。 90年代前半の典型的J-POPアルバム。中庸にもほどがあると。 それにしても、本人曰く「秋元康さんからあがってくる詞があまりにも拙かったので自分が手直しして、結果詞はほとんど共作になった」って。秋元センセもっとがんばれ。超がんばれ。6点。
生音重視のバンドサウンドなのが、彼にしては珍しいかな。こういうアナログな音作りも彼には似合うのです。ジャケット写真のよみうりランドで撮ったであろうスナップもこのアルバムをよく表していると思う。 アルバムイメージとしては「ミュージシャンの休日」そんな感じ。1番彼の実像に近いアルバムなんじゃないかなぁ。 作家は川村真澄、中崎英也といった旧知の者もいれば、阿木燿子、久石譲といった意外な人材も。8点。
「今年の夏は異常気象で 真夏に雪が降ります 夢中で君に会いに行きます だけど皆が笑います そして君も誰かとまたやっぱり笑う」(「汚れた世界」)の部分など往年の中島みゆきバリの被害妄想っぷりで唖然としてしまう。 他「どーせ彼女は誰かのものさ」「風の吹かれて」「Hello」とちょっと理解の上を行く生々しいフラレ歌、孤独な歌の世界。「again」や「春夏秋冬」でなんとか自分を立てなおそうとしているしているところがなお痛々しい。 このアルバムからしばらく彼は新譜のリリースがなかったことを考えるに、これは私小説だったのかなと思える。 アーティストとしてのバランス感覚を失っている状態で、採点不可能としたいが、ファンなら7点とつけたい。 それにしても「まるで世界が泣いているように 花弁は散る」(「風の吹かれて」)って表現はなんか好きだな。 |