メイン・インデックス歌謡曲の砦>原田真二『原田真二の世界』

cover
原田真二 『原田真二の世界』

(1998.03.21/フォーライフ/FLCF-3713)

1.てぃーんず ぶるーす 2.キャンディ 3.シャドー・ボクサー 4.タイム・トラベル 5.スペーシィ・ラヴ 6.Our Song 7.MARCH 8.Strawberry Night 9.雨のハイウェイ 10.Modern Vision 11.永遠を感じた夜 12.伝説 KISS 13.見つめて Carry On 14.君にもっと近づきたくて 15.You are my eneagy 16.Miracle Love 17.黙示録


これは98年にデビュー20周年を記念してリリースされたベスト盤である。 レコード会社の枠を越えて、年代順に楽曲が並んでいるので、原田真二の歴史を知るにはちょうどいい一枚といえるだろう。



フォーライフ一般公募アーティスト第1号としてデビューすることになった原田真二は、シングルの三ヶ月連続リリースで、華々しくデビューし(――トリプルシングルデビュー、と宣伝されたそうだ)、その三枚全てをヒットさせる。 それがM-1〜3の「てぃーんず ぶるーす」「キャンディ」「シャドー・ボクサー」。
それまでのポップシーンでは決してヒットすることのなかった、都会的で洗練されたソフトロック――それをまだ10代の、アイドルと見まがうばかりの風貌の少年が、自ら作曲し、歌う。 それはひとつの衝撃だったといえるかもしれない。 その時点で、彼はアイドル的人気を獲得。ツイストの世良正則、Charとともに西城秀樹・郷ひろみ・野口五郎の衣鉢を継ぐ「新・新御三家(――ロック御三家ともいわれた)」ともてはやされることになる。
ちなみに、彼は、御三家では「美少年の王子様」の役割を担ったといえるんじゃないかな。郷ひろみ→原田真二→田原俊彦の系譜(――またの名を松田聖子の元カレの系譜ともいう、っていうのは嘘)。 秀樹は不良感度の高いやんちゃ小僧の系譜で世良経由でマッチにつながり、五郎の本格派ギターキッズ路線はChar経由で野村義男と連なる。

ロック・アイドル期はそのまま第一次フォーライフ期、このアルバムでは、七曲目「MARCH」までとなっている。 メロディーメイカーとしての天賦の才能がのびやかに表現されていて、 またボーカルも少年らしいあどけなさが愛らしく、 彼は、ポップのミューズに愛されいるんだなぁ、と素直に思えるヒット感度の高い、かつ完成度の高くみずみずしい世界が広がっている。
松本隆の描く少年らしい純情で生真面目でロマンチックな詞も、彼の世界に豊かなふくらみをもたらしている。 これは、もう売れないはずないな。
個人的にはこの時期は「タイム・トラベル」がベスト。 古代エジプト、禁酒法時代のニューヨーク、近未来の宇宙と、さまざまな時代、さまざまな場所に舞台が飛躍し、それが最後「ここは東京 君の手の中」と収束するところは、ちょっとすごい。 君という名の時の女神の手のひらで、僕は踊っていた、ということか。 丁寧な弦楽も、はねたメロディーも、いいなぁ。



ロック・アイドルとしての安逸から、彼はデビュー数年もせずに飛び出すことになる。 彼の心の中で、それはトリプルデビューシングルの全てがヒットした時から、はじまっていたのかもしれない。 デビューわずか二年で事務所を独立し、フォーライフから離脱、ポリドール移籍と、怒涛の展開をみせることとなる。 ここから彼は、全ての楽曲の作詞・作曲・編曲を自ら行うようになり、「クライシス」なる自らのバンドを率いて活動することになる。

それはこのアルバムでは八曲目「ストロベリー・ナイト」からであるが、順番にきちっと聞いているとここでいきなり世界が変わって、驚く。 「ストロベリーナイト」は、テーマがいきなり地球滅亡だし、詞も「離脱の時」とか「戒めの時」とか、どこか宗教的な言葉がちらつく。 ただサウンドの強化は目をみはるものがある。デビュー時点から才気ばしったところがあった彼が、まさしく本領を発揮しはじめた、というかんじ。

アメリカ留学後フォーライフに復帰しての「雨のハイウェイ」から「伝説Kiss」までの流れが特にこのアルバムの白眉である。 この頃は彼の音楽活動でもっとも充実した時期だったのではなかろうか。
打ちこみを多用し、黒っぽいフレーバーをちりばめたニューウェーブ路線は、 エキセントリックで、時代の半歩先を行く、未来的で先鋭的な音像を構築しているといっていい。 今聞いても、インパクトのある、充分尖った音だと思う。
「雨のハイウェイ」の和太鼓のようにどこどこなるドラムといい、笙の音のようなシンセといい面白いしあがりだし(――この詞を松本隆はデビュー曲「てぃーんずぶるーす」を下敷きにして作ったんじゃないかな、セカンドデビューという意味合いもあったのでは?)、 「MODORN VISION」や「伝説KISS」はダンスポップスとして、今でも充分通用する作品だと思う。

彼のアルバムのセールスが初期のロック・アイドル期の頃まで持ち直す、ということはさすがになかったけれども、 この頃、彼は職業作家として注目を浴びることになる。 吉川晃司の「キャンドルの瞳」をはじめ、郷ひろみ、沢田研二、松田聖子、中森明菜、小泉今日子、早見優、堀ちえみ、シブガキ隊などなど、彼はアイドルを中心に多くの楽曲を提供する。
アルバムを順番に聞いていると、原田真二は、この頃でさえ、自らの才能を自らでハンドリングできかねない危なっかしさが漂っているのだが、とはいえ、この時期まではポップシンガーとして、サウンドクリエイターとして、 着実に成長したんだな、と実感できる。



ただ、フォーライフ末期〜NECアベニュー移籍以降あたりから妙な暗雲が漂ってくる。 このアルバムでいうと、13曲目「みつめて Carry on」以降。
元々彼にそこはかとなく漂っていた宗教っぽさが、楽曲のクオリティーを押してまで濃厚に漂ってくるようになる。 そのいまいち根拠の希薄な、ラブ&ピースなポジティビィティーは、どこかで聞いた彼の噂――なにかの新興宗教に入信していて、深く信心しているという、それが妙なリアリティーを伴って脳裏をよぎり、 という、なんともリアクションに困ってしまう。
っていうかさ、タイトルからして「YOU ARE MY ENERGY」「Miracle Love」って、もう言わずもがなでしょ。
彼のサウンドクリエイターとしての部分も、どこか以前ほどの勢いを感じることがない。 デビュー期の青々しいみずみずしさも、「MODEN VISION」の頃の先鋭的で野蛮でアバンギャルドなところもなく、なんだかフツーな感じに落ち着いちゃったなぁ、という印象が強い。

その後の彼は「生命交響楽」とか「ひろしまから始めよう」とか「Healing the World」とか「地球はこんなにやさしいハート」とか、 もう、タイトルだけでお腹いっぱいありがとうございます、という曲を作ったり、 環境チャリティーのコンサートやったり、明治神宮や伊勢神宮など全国の神社でライブをやったり、 しまいにはNPO法人の「ジェントル・アース」ってのを立ち上げたり、――彼ってきっと真面目で、真摯すぎるんだろうなぁ、 でまあ、その合間に松田聖子のプロデュースをやったり、それがワイドショーをにぎわせたり、なんだかんだで今にいたる。

ちなみにこのアルバムのラストはファーストアルバムから「黙示録」。デビュー時点のロマンチックな部分と、現在の宗教的でラブ・ピースでエコロジーな部分を結んでいるといえるかもしれないこの曲で終わる。

とまれ、彼の、歌手としての、作曲家・サウンドクリエイターとしての、そして原田真二一個人としての歴史が、このアルバムにはコンパクトにまとまっているので、みなさんも楽しんでみてはいかがでしょうか。 ひとりの才能溢れる真面目な少年の、不幸なのか幸福なのかわからないひとつの変節がかいま見えるかな、と。
才能って、なくても大変だし、あったらあったで、なお大変だよね。 彼のベストを聞き、公式サイトの彼のメッセージを読み、しみじみ思うわたしなのであった。

「地球全体がさらにレベルアップ」ねぇ……「地球が愛の波動で包まれる日」ねぇ……。

2005.12.14
偏愛歌手名鑑のインデックスに戻る