中森明菜 「はじめまして」
1. Bon Voyage
2. 脆い午後
3. スローモーション
4. メルヘン・ロケーション
5. 銀河伝説
6. X3ララバイ
7. 少女A
8. 哀愁魔術
9. 咲きほこる花に
10. 条件反射
11. Tシャツ・サンセット
12. セカンド・ラブ
「素」の明菜 (85.05.01/ワーナーパイオニア) |
デビュー三周年の記念日に発売されたデビュー直前の中森明菜の様子を追ったビデオ。いわゆる蔵出しってやつ ? 内容は、デビュー曲「スローモーション」をレコーディングするためにロサンゼルスへ飛んだ彼女の様子を追ったもの――なのだが、実際ロスへ飛ぶ前に、「プロローグ」に収録された10曲のレコーディングは済ませていたようで、つまりは、そういう態ということ。 ロスの海岸で水着姿でまったりしている姿や遊園地ではしゃいでいる姿をメインに映したもので、いわゆるデビューにあたって業界向けにつくった宣材のひとつ、というところかな。ある意味、純粋な「プロモーション・ビデオ」である。 撮影は82年3月中旬。ロスのサンタモニカ・ベニスビーチやナッツベリー・ファームなど。 この撮影旅行は「近代映画」とタイアップを組んでおり、当時の同誌にこの時の写真が多く使われている。 ◆ ――というオフィシャルな紹介はこんなものなのだが、さて内容はというと、どうだろう。語る意味あるのかね ? 自らとりあげてずいぶんないいかただが、まぁ、そういう作品。 いわゆるデビュー当時の音源をBGMに16歳の、まだ何者でもない一人の少女の「素」の表情の数々が映し出される。 これがまもなくあの「中森明菜」になる、と思ってみれば、あぁ、なるほど、と思わせるものが各所に散らばっており、 そういった楽しみ方もあるといえばあるのだろうが、それはファンの楽しみというもの。 家庭用ビデオで撮影した家族旅行のようなものといってしまえばそれまで、という感はぬぐえない。ま、当時は、8mmビデオすら普及していなかったけれどもね。 「中森明菜」ならなんでもいい、っていう大ファンの人と、16歳くらいのフツーのかわええ娘のプライベートな表情をじっくり堪能するのが大好きじゃっていう好事家の方以外は、まあ、見る必要はないか、と。 海外旅行ついでにビデオ作っちゃいました的なノリのアイドルのビデオ作品って、明菜だと「New Akina エトランゼ in ヨーロッパ」もそうだし、あとほかには、河合奈保子の「Daydream Coast」「スターダストガーデン」、石川秀美「偏西風」、南野陽子「カラフルアベニュー」などなど、もう、実にたっくさんあるけれども、 ああいう作品の意図って、いまいちわかりません。動く写真集ってこと ? ただひとつ思ったのは、「素の中森明菜」は、この16歳の時も、40歳を越えた今も、ほとんど変わらないのだなぁ、ということ。本当に無邪気で、危なっかしい。でもそこが可愛い。 ◆ このビデオ作品のリリースの直前のアルバムが「Bitter&Sweet」。 このアルバムを境に中森明菜は自己プロデュースを前面に押し出し始める。 また彼女は期を同じくして、いわゆる「明星」・「平凡」といったアイドル雑誌を卒業し、また「アイドル水泳大会」「大運動会」といったとっぽいアイドル番組からも卒業している。 彼女がこの時期、アイドルからアーティストへと急激な変化を見せることを鑑みるに、「アイドル・中森明菜」を総括するというタイミングとしてはベストである。 そういう意味合いもあって、この作品をリリースしたのかもしれない。そうみると、遺影めいたモノクロのジャケット写真も納得するものがある。 この作品にあるような無邪気な表情を、彼女はしばらく封印することになる。 もちろん、コンサートやファンクラブなど、一部の限られたファンの間にだけ、その無邪気な姿は披露されつづけていくのだが、 しかし、ブラウン管に映る彼女は、凛として近寄りがたい、孤高の歌謡界の女王然としたものへとなっていく。 その封印がとかれるのが、あの「自殺未遂事件」であった。 あの事件以降しばらく、あんまりにも素の無防備な表情でテレビの画面に映る中森明菜に、多くの視聴者はおののき、痛々しいと感じたが、しかしそれは、彼女の芸能活動の初期、アイドル時代に見せていた一面でもあったのだ。 |