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篠原烏童
「いっしょにあるこうね 盲導犬コディ」


全国の児童コーナー担当の司書の方、注目

(2004.03.28/秋水社)


一体なんなの、この人、あまりにもいい人過ぎるッッッ。
読後思わず叫んでしまった。
前回、篠原さんの「沈黙は星々の渇き」のレビューで彼女は「人柄作家」と断言した私だけれども、 それにもましてこの作品はものすごい。

この漫画はいわゆるよくできた「教育漫画」です。
架空の盲導犬「コディ」の一生の歩みから、盲導犬の社会的な役割、育成機関などの仕組みや彼らを取り巻く事情、さらに彼らの教育法、わたしたち一般人と彼らとの細かいつき合い方に至るまで、知ることができます。
「みなさん、盲導犬とアイコンタクトを取るのは彼らにとっても大変なストレスなのでやめてあげてくださいね」などというのは、いやぁ、盲導犬というものをよく知らないわたし達にとっては新鮮な知識(――犬大好きな貴方、気をつけてくださいね)。
純粋に盲導犬や視聴覚障害者に対する正しい認識への導入としてこの本はものすごくよくできているし、そういった知識に彼女のやさしい視線がやわらかくかぶさって、いやぁ、なんてこの人はいい人なんだ。
彼女は昔から弱者に対する視線、生存競争に打ち克つのが難しいものどもへやさしさを忘れずに作品に描いていたけれど、それがこういったある種社会的な、きちんと社会とコミットできる作品へと結びついていることに素直に感心してしまいます。
この人は私が思っていたよりももっと大きい作家のようですね。

後書きにこの作品の執筆動機が書かれているのだけれども、そこでもまた驚き。
この作品、出版社への持ちこみ企画なのですよ。
漫画家としてプロデビューする前から盲導犬は一度扱ってみたい素材と温めていたのものだったそうだ。02年の秋、ついに執筆を決意した彼女は日本盲導犬協会のキャンペーンに自ら訪れ取材開始。 ある程度企画が固まったところを企画書持って出版してくれる出版社探し、なんとか秋水社からの出版ということになり、全編書下ろしで04年春に単行本として出版、という流れなんですね。
えらいっっ。漫画家でこんな作家やライターのような地道な取材や更に出版社探しなどという努力をひとりでして、更に書き下ろしで自分の出したい本を出すなんて、わたし聞いたことがないよ。

後書きにも「まわし読みでもかまいませんから友達にも読んでもらってくださいね」とコメントしているし、自身のサイトでは「読み終わって、手放してもいいや、とお考えの方はよろしかったら市の図書館や、お子さんの学校の図書室等に寄贈していただけると嬉しいです」とまでいっている。
えらいなぁ。「立ち読みは泥棒」などといっているダメ漫画家に聞かせてやりたい。
ひとりでも多く盲導犬のことを知ってもらいたいという作者の思いが各所から滲み出ています。

この作品、全編書き下ろしでさらに大手出版社からの出版でないということで、あまり数が出回っていないものだけれど、 もっと多く、特に子供に読んでもらいたいと、そう思いますね。これを埋もれさせてしまったら、ダメだよ。
いやあ、全国の司書のみなさん。うちは漫画は入れない方針だからって、いやいやこれは別枠ですよ、これは入れていきましょう。全国の公立図書館の児童書コーナーと、全国の小学校の図書室には各1冊入れるくらいの勢いでいきましょうよ。
とにかく盲導犬のことを知る手掛かりとしてこれほどいい作品はありません。みなさんも是非一読を。


2004.06.06
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