加藤登紀子 『青い月のバラード』
あるひと組の男女の愛の軌跡 (2003.04.20/小学館) |
この本は加藤登紀子による亡き夫・藤本敏夫へのラブレターといってもいい。 加藤登紀子にとって、夫・藤本敏夫は「永遠の恋人」なのだな。 どこまでいっても届かない、どこまでいっても彼方にある、夢の存在。 それは彼が亡くなろうとも変わりはしない。 「二人の人生がこれから別の形ではじまる」 夫に死に対して彼女がマスコミに向けたコメントがこれだが、私はこの言葉を最初にテレビのワイドショーで聞いた時、意味がよくわからなかった。 が、その意味がこの本を読んでようやくわかった。 そこに、この恋に生涯をかけるという彼女の決意と確信の強さを今の私は感じてしまう。 こんな素敵な恋が現実としてあるんだ、とわたしは羨ましくて仕方ない。 その他にも、彼女の歌手としての今までの歴史も綺麗に総括されていて、とても興味深い。 それにしても、彼女の初の自作によるヒット「ひとり寝の子守唄」が獄中にいる藤本を思って作ったということ、 また彼女の最大のヒットとなった「知床旅情」は藤本の愛唱歌であり、彼の歌声から知った、というのははじめてきちんと知った。なんとなくそんな気はしたけれど。 加藤登紀子が歌手としてあるのもまた藤本敏夫がいてこそ、ということなのだろうな。 しかし、加藤登紀子の視点からの藤本敏夫はあんまりにも自由過ぎ。自分のやりたいことだけやって生きて、まったく悪びれないところが羨ましすぎる。いい人だろうけれど、周りにいる人は色々と大変だろうなぁ、と不覚にも思ってしまった。 また彼女が自作するきっかけに当時親交のあった浅川マキの影響があったこと。結婚・出産し歌手を休業した加藤登紀子が再び歌うようになったのも彼女のライブを見にいったのがきっかけ、というのも知らなかった。 中島みゆき、中森明菜、坂本龍一、長谷川きよし、河島英五など加藤登紀子のこれまでの交友の範囲の広さはしっていたが、浅川マキもその中のひとりだったとは。 加藤登紀子という人間のこれまでとこれからがこの本にある。これは是非とも新譜「今があしたと出逢う時」と一緒に楽しんで欲しい。 ちなみにこの本をそのまま朗読と歌にしたsound history「青い月のバラード」という作品が2004年の夏に発売されている。密かに新録音の作品もあるのでこれも聞いて欲しい。 |