中森明菜 「APPETITE」
1.APPETITE 2.Sweet Susption
植物と動物のエロティックな関係 (1997.02.21/MCAビクター/MVDD-10027) |
夏野芹子、大爆発。 すご、すご、凄いっっっっ。 驚いた。 ベッドルームはファラオ気取る真紅の海最初はベンジャミンはてっきり見立てだと思ってたのよ。 あくまで女性の隠喩ね。 でもそうするとなんか詞が割り切れない。 次に来るフレーズがこうでしょ。 バーボンソーダと彼女連れもつれこむ ベンジャミンが女性だとすると、いくらタイトルが「APETITE」、つまり「食欲」だからといっても、これじゃ交尾のあとバリバリとオスを食べるカマキリみたいに骨の髄までしゃぶられるようで怖いですわ。 ―――ま、そういうアベサダみたいな明菜も面白いけどね。 それにそう見てしまうと、「彼女を連れ もつれこむ」の部分が納得いかない。 ちがうの。全然違うのよ。 初手から間違っているわけ。 この歌は見立てなんかじゃない。この歌の主人公はベンジャミンそのものなのよ。 植物のね。 つまり、この歌は植物のベンジャミンとキックボクサーでジゴロの(人間の)男性との恋の歌???なんですよ。 えっ、そんなトンでも設定なの!?とお思いでしょうが、そうみると実に、詞がすんなりと入ってくるのですよ。 キックボクサーでジゴロの男が部屋に女を連れこみ、事におよぶ。 その情景に嫉妬しながらも男の吐く二酸化炭素をおいしいと咽喉(ってどこよ??)を鳴らすベンジャミン。って歌なのですね。 妖しい腰つきになった私見て 濃密な男の呼気は、熱帯雨林の森の空気よりもうまい。と。 だから、「愛している 強い男 私のもの」だ。と。 すっげー。 すげーよ、夏野芹子。 中森明菜の御用作家っぽく見ていたが(というかこの作詞家は他でみたことがないぞ、俺は)、これはもう阿木燿子レベルだ。 なんでこんなテーマを思いついたんだろうか。ちょっと、想像できない。 この歌を明菜は「TATTOO」バリに挑発的にエロティックに歌い上げるのよ。 Juneっぽいなーーー。 と私は思ったね。 昔さあ、Juneの中島梓の「小説道場」(名著。読むべし。光風社出版刊)でさぁ、蜘蛛と蝶とオニヤンマの恋愛小説とかさぁ、究極の選択で恋人でなく愛犬を選んでしまう話とかあったりしたけど、ああいうのを思い出した。 そういえば藤たまきの「The Garden Prayers」なんかもそんな感じだったな。 (話がずれるのであまり書かんが私はJuneってのは「生殖を目的としない情緒的で濃密な個体同士の繋がりをエロティックに描写した小説や漫画」と判断しております。ホモが出てくるだけの小説はただのホモ小説) そうか、植物と動物ってのはこんなにもエロティックにつながっているんだと初めて気付きましたよ、私は。 曲ラストにボコーダーで「Te Quiero Saborear」(ほんと、おいしそうだわ)といっとるが、確かに植物から見たら動物はある意味「おいしそう」かもしれん。 「呼吸と光合成を媒介して植物と私達はつながっている」。そりゃ頭ではわかっているけどさぁ、こういう風にエロティックなまでに情緒的に迫られたのはちょっと今までなかったね。 恋愛実存主義者の明菜ならではのさすがの仕事ぶりですな。 ―――エコロジストもここまで洒落たことができればいいんだけどね。宮崎駿みたいな説教じみたのばっかりじゃげっぷが出るっていう。 しかし、こんないい曲なのに売れなかったのが、なによりも悲しい。 最高位46位で2.6万枚って、惨敗じゃん。 噂だと明菜が強引にシングルにねじ込んだという話だし。 このセンスは間違ってないんだけどなァ。 ちなみに曲的なことをいえばジャンルは「アシッド・ジャズ」(だよね??)。 アルバム『Shaker』(97)にもアルバムヴァージョンで収録されているけど、出だしのウッドベースのズルズルッとした音が師管や道管を行き来する水溶液の音のように聞こえるシングル盤のほうが私は好き。 ミニアルバム『Vamp』(96)からのクラブ系ミュージック寄りの音作りの延長にある曲で、この先に生まれたのが「The Heat」(02)と『Resonancia』(02)。 |
2003.03.30