「7.11」。 明菜と明菜ファンにとっての運命の日。 え??しらない??ここ開いているのに??んなあほなぁーーー。 マッチの家で自殺未遂を起こした日ですよ。 正確には89年7月11日。 今回はこの事件に関する個人的な思い出話を……。 確かこの事件の一報を私が初めて知ったのは翌朝の通学電車でおっさんが広げているスポーツ新聞だった。 ちょうど期末試験期間だったので(まだテストのためにまじめに勉強している年頃だった)当日にはまったく知らなかったのだ。 もう、びっくりした。 ただただ、驚いた。 午前で学校が終わると急いでうちに帰りワイドショーをつけた。 明菜が入院している慈恵医大からの中継と「愛・旅立ち」の頃のマッチとのツーショット会見の様子が何度も流れていたと記憶している。 マスコミも明菜の状態とまたその周囲の状況は杳としてわからないようだった。 それでも私はじっとワイドショーを見つづけていた。 そういえばと朝いそがしくて見なかった朝日新聞をひろげる。 明菜の記事が三面トップを飾っていた。 「近藤真彦の自宅の浴室で自ら左ひじ内側を切る。傷は長さ8センチ、深さ2センチ。命に別状はなし。ただし、正中神経を切断したため、後遺症の可能性あり。自殺未遂の原因、わからず。明菜の今後の芸能活動の一切が白紙。」 さまざまな情報をかき集めても確かなものはこれだけだった。 それでも私はじっとワイドショーを見つづけていた。 ちょうど翌日からは試験休みだった。 その期間、私の頭を占めていたのはこの話題だった。 両親は仕事でいない、兄弟で私立に行っているのは私だけだったので、昼間家には誰もいない。存分にワイドショーからの情報を舐め尽くした。 当時、なぜこんなにもこの話題にくらいついていたのか自分がわからなかった。 明菜の危機だ。明菜は歌いやめるかもしれない。 そう思うとただ、いてもたってもいられなかったのだ。 先週には私の一番好きだったテレビ番組「ザ・ベストテン」の9月での終了が番組内で発表された。 私はザ・ベストテンとザ・ベストテンで歌う明菜がとても好きだった。 彼女が一位で歌うとなによりも番組がきちっと締まるように見えた。 だが、番組は終わり、明菜は歌いやめるかもしれない。 この時私は生まれて初めて時の流れの無常と哀切というものを感じた。 と、ここに到ってはじめて「あ、私は明菜とベストテンのファンだったんだな」と気づいたのであった。 ―――私が明菜のファンとして自覚的に行動するようになったのは実に皮肉なことにこの事件がきっかけなのである。 それからしぱらく週刊誌、ワイドショーではさまざまな流言飛語が飛び交った。 やれ、事件当日マッチの家に某アイドルが電話をかけて、それが原因だ、とか、明菜療養中に激太りで紅白用にあつらえた衣装が入らない、とか、明菜、後遺症で指が動かない、とか。 そして89年12月31日、彼女は長い髪をばっさり切り、半年ぶりにテレビの前に顔を出すのだが、ゴシップとトラブルはこれから先も延々と途切れることなく続くのは周知のことなので、ここではあえて書かない。 ただ、これを契機に明菜はデビュー時からの所属事務所を離れ、家族との連絡を絶ち、恋人と別れることとなった。そして、帰る場所のない長いさまよいの日々が続くのである。 今振り返ると、あの事件があったから、明菜は歌いつづけているのかもしれない、と思う。 というか、あの事件は明菜にとって必然であったと思えるのだ。 岡田有希子が自殺した時は「なんで???信じられない」と、腑に落ちない部分があったのだが、明菜の自殺未遂の一報を聞いた時、驚きはしたのだが、不思議と明菜のことをなにも知らない癖して「だろうな」と思った。 妙に納得する部分があったのだ。 こうなるべくなり、その時が来た、というか。 それはまるでみずからの光に射抜かれ破滅するオイディプス王のように、粛々とこの奈落めがけて彼女は歩みつづけ、そしてついに辿りついた、という感じがあった。 芸能だとか、芸術というのは不思議なもので、かけがえないものを失えば失うほど磨かれていく―――逆説的にいえば、かけがえのない手足を切り落とす、その瞬間の静かな叫びそのものが芸の「華」といえる。 事実、幸せな結婚をし、引退する道を望む本人の夢とは真逆の泥沼にここから明菜は入っていくのだが、彼女の歌はその悲劇とはうらはらに今までファッショナブルに装っていた部分を殺ぎ落とし、掴みが深くなっていく。 それは明菜が自ら選んだ道ではないだろう、だが、もうこれはしかたないのだ。 ミューズに選ばれてしまった不幸としかいいようがない。 ちょっと最後に思い出したこと。 90年の正月、秋葉原に買出しに行った時、人垣が出来ていたので何かと思って見てみるとただ明菜のビデオ「AKINA EAST LIVE」が大型ビジョンで流れているだけだった。 たかがビデオで人垣。 「こりゃ明菜、今年復帰なら全然問題ないな。まだ聴衆は待望しているよ。あとは明菜のやる気だな」と私は思ったものだ。ま、そのやる気がなかなかでなかったんですが、彼女。 実際、MCAビクターに移籍するまではかなりへたれていましたしね。 歌もよう出さんと「今井美樹ちゃんの歌が主題歌のドラマに出たい」とかいったり、いやぁ今となってはいい思い出ですが。 |
2003.7.17