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「年間チャート回顧」 ―1989― その3

アルバム編 part2

シングル編
アルバム編 part1


  ■静香は明菜のバトンを落とした?


M:工藤静香「gradation」。デビュー以来のシングル5枚のシングルA/B面を集めたアルバム。これは聞いたことある?
T:えーと これはない
M:ないか。これは「禁断のテレパシー」から「MUGO ん…色っぽい」までだね。これはリリースのタイミングがよかったのかなという感じの好セールス
T:シングルはその後に出た2枚組みので満足してしまって。だからB面しらない。掘り出し物あります?B面の曲
M:このアルバムにはさほど「おおおおっ」てのはないかな
T:ないのか
M:中島みゆきが後に歌った「群衆」がはいってはいる
T:「群衆」はいいですね
M:あ、静香版は微妙。みゆき版で満足していたほうが無難
T:や、静香版の「群衆」もなぜか聞いたことある。たぶんシングル借りたかなんかで。記憶ないけど
M:でも静香版はアレンジがなんか安っぽくない?
T:うん。なんか曲のテーマもあんまり静香に合ってないような
M:全作中島作詞のミニアルバム「静香」やシングル作と比べて「群衆」はさほど成功していないよね。
T:でも小学生の頃とかは中島みゆきを知らないで「FU-JI−TSU」やら「MUGO ん…色っぽい」を聞いていてあとであれみゆきだったんか!と 「♪めっとめっで通じ合う〜」だよ、って
M:そりゃそうだよね。みゆき自身も「MUGO ん…色っぽい」はかなり無茶してつくったと後にいっているしね。でも1度だけライブでも歌ったみたいだけれど「MUGO ん…色っぽい」
T:ええっ 聞きてええ
M:怖いもの見たさで聞いてみたい
T:たしかに怖いものみたさだな(笑)
M:88年のツアーのどこか1箇所だけで歌ったみたいよ
T:でも「FU-JI-TSU」で中島みゆきを持ってきたって英断だったというか、ハマりましたよね
M:元みゆき担当の渡辺有三ディレクターの采配が決まった
T:だって、秋元の世界からみゆきの世界でしょう
M:一説によると「ユーミンとみゆきと竹内で誰の歌が歌いたい?」と渡辺Dが静香に聞いたところ「みゆき」と答えたとか
T:それは素晴らしい直感だ。ユーミンやまりやだったら・・・と思っちゃいますね
M:でも「学校の掃除の時間に音楽室で『あたいの夏休み』をよく聞いていた」とかそんな本人の話を聞いたことがある
T:まじかよ。掃除の時間に「あたいの夏休み」(笑)どんな子供だよ
M:『36.5℃』のボコボコした打ちこみが新鮮だったんだって。中島みゆきのこれもアリだなと
T:へぇー。自覚的に選択していたんだ
M:そうなんじゃないかな。だって「あたいの夏休み」の頃って時期的にいってもう彼女はおニャン娘に在籍していたし
T:でもそれにしてもその選択は見事だ
M:彼女は中島と出会って成功した部分っていうのはおおきいよね
T:「抱いてくれたらいいのに」→「FU JI TSU」でステップアップした感というのはある
M:実際「抱いてくれたらいいのに」→「FU JI TSU」→「MUGO ん…色っぽい」で売上も一気に伸びたわけだし
T:その次が「恋一夜」ですよね
M:うん
T:この辺の流れは完璧だなあと
M:ゆるぎないよね
T:もう着実に次のステップとして相応しい曲を歌っている
M:ただこれが90年以降続かないのがもったいない
T:好きな曲もあるんですけどね。「くちびるから媚薬」以降はなんだかなあというのも出てきますよね
M:そう。「うらはら」とか飛ばしちゃうし。パス1って
T:「うらはら」(笑) あと「Please」とかわけわからん
M:「Please」。あの無駄な展開そこそこ好きかも。2番手クラスとしてだけれども
T:無駄だよなあ、あの構成は(笑)
M:ゴツグはこういうのはあんまり上手くないよね
T:ともあれ「黄砂に吹かれて」までの集中力がちょっとね、散漫になった感はある。その後の「慟哭」のヒットとかはもう文脈がちょっと違うヒットですし
M:ドラマ様様 みゆき様様
T:ドラマ主題歌の流れ。キョンキョンも美穂もドラマで売れた。ドラマ主題歌ならなんでも売れたという。
M:ドラマ主題歌バブル……
T:だって甲斐ファイブですら売れる
M:ははははは
T:「風の中の火のように」が売れる。ファイブってなによっていう
M:俺に聞くなよ
T:まあそういう意味で、正統的なアイドル歌謡としての文脈はなんかこの年の静香が最後の一花という感じがするかな
M:そうね。静香と明菜がいて新旧交代のはずが二人とも失速という
T:新がいなかった。そして冬の時代到来と
M:リレーのバトンを思わず落とした静香と
T:なんかそう思うと静香の罪は重いという風に感じてきたんですけども
M:はははは。そんなつもりはないっす
T:まあ今いっても詮無いので


  ■ブルハは語り尽くせません byTSUKASA


M:じゃあ下位10枚をさらっといく?なにか思い当たるのは?
T:うーん、この中だと、やっぱりブルーハーツなんですけども
M:やっぱりそれか
T:ただブルハがらみの話を真面目にすると今までの倍ぐらいのボリュームになるのでやめる
M:やめんのかい
T:や、やっぱりブルハっていうのはいろいろ付随してきますよ。この時代のロックとかバンドの状況を絡めて語りやすいし。ただまあ、それを語るに相応しいのはこの「TRAIN-TRAIN」よりもやっぱりデビュー作だろうなあと思うのでここではパス


  ■岡村孝子はユーミンのB面


T:で、またちょっとわからないのはハウンドドッグと岡村孝子。あ、さっきの杏里と今井美樹に付け加える!岡村孝子もわかんないわ。
M:じゃあ岡村孝子に関して自説を語っていい?
T:あ、はい 聴きたい
M:当時の彼女はユーミンの裏面の象徴なんだと思う
T:ほほう
M:ユーミンのように今の時代に乗れないイケテナイ平凡なOLのための象徴
T:ああ〜なんか身も蓋もない言い方ですけども(笑)
M:みゆきのように怨霊は背負えない、でもあの人達のやっていることっていまいち共感できない
T:イケイケにはなれない
M:そんなふつーーーのF1層の代表格
T:非常に納得
M:この人がユーミンがトップに立ったのと同じタイミングで再浮上するは気のせいではないんじゃないかなぁと思う。
この流れは岡本真夜が引き継いだけれども今はどこなのかなぁ……
T:岡本真夜は結婚して、その後ちょっと露出していたけどいなくなった
M:このラインは今空席だけれどもまた出てくればそこそこいけると思う
T:一定の需要はあると
M:だってイケテナイ人はいつの時代だっているんだから


  ■Wink、人体改造前の危うさ?


M:まぁ後は「CAROL」でブリティッシュロックをやった返す刀でハウスをやっちまったTMの「DRESS」に、ボウイのお二人さんのそれぞれに
T:パチパチ系のバービー
M:でもってWINKのユーロカバーアルバム
T:このWINKのもかなり好きなんですけどねぇ
M:話す?いいよわしも好きだし。ただやっぱり二人としては「TWIN MEMORIES」という感じが……
T:や、こう「淋しい熱帯魚」でのぼりつめる前の未完成な部分がともすると「TWIN MEMORIES」より好きだったりする
M:若木のような新芽のような、瑞々しい生き生きとした未完成の良さね。できてない部分が次への期待になってしまうという
T:あとなんかこのアルバムエコーが深くないです?
M:あ、そうかも。リバーブ気持ち深いよね
T:この変なエコーがまたね、なんかそういう儚さというか消えてしまいそうな不安さというかたまらんです
M:ははは 消えるなよ
T:わたしたち売れるかしら?みたいな
M:この時点でもう売れているし
T:まだ大丈夫かしら?という。なんかまだ覚束ない感じがいいです。おれは応援しているよ!といいたい
M:アレンジャーが門倉聡になってからの虚構性が強くなった世界も私は好きだったりする。もう完全に絵空事の世界という、「ニュームーンに逢いましょう」とか
T:ああ、タイトルがどんどんすごいことになっていくんですよね。「永遠のレディードール」とか「背徳のシナリオ」とか
M:コスチュームもなんか大変なことになっていく
T:わけわからない世界になっていく
M:「夜にはぐれて」とか、もう孤高の領域。どこに行くんだという
T:「夜にはぐれて」はねぇ、当時ついていけなかったな(笑)あれでちょっと戸惑った
M:アレは振り付けがかなり珍奇だったよね。イントロでショウコの後でちまちま動くさっちんが良かった
T:「珍奇」っていいなあ。曲のアレンジとかもなんか妙だし。
M:そう。「♪ ドギゃンドギゃンドギゃンずーんんん――」ってイントロ
T:声出して笑ってしまった
M:アレ、へんだよね
T:そうあのイントロからして「???」という。なにがはじまるの?っていう
M:アレのアルバムバージョン好き。間奏でバイオリンが狂い鳴る
T:あれもなんだか凄い。つかあの辺からアルバムもひじょうにこう、独特なものに……。特殊な世界というか……
M:アレは誰をターゲットにしていたのかねぇ……わたしは面白かったけれども
T:わけわかんないですよね(笑)
M:いやぁ、わたしは好きよ。KISSの「I was made for lovin'you」のカバーとか、無謀のひとことだし
T:ぶはは 無謀(笑)まあその、そんなWINKの初々しさがまだこのアルバムにはあったよね。そんな一枚
M:「まだ人体改造受けてません」みたいな
T:あははは
M:「私たちこれからどうされちゃうの?」みたいな
T:いや、そういわれるとおれがいいと言っていたのはそんな感じかも。やめろー!ショッカー!みたいな
M:はははは。なにをいっとる。そうそ、あと一言。ウインクに関してはB面の名曲度が高いということはいわせてくれ
T:ああ、確かに!「想い出までそばにいて」とかタイトル忘れたけどいっぱいいいのあったぞ
M:「CAT WALK DANCING」とか「いちばん哀しい薔薇」「スカーレットの約束」「ロマンスの方舟」……。
T:すごいな、曲名出てくるなあ
M:ファンだし。とにかくB面にアルバム未収録の名曲が多いんだよ
T:確かに。B面まとめたMD作ってたな俺
M:「BACK TO FRONT」というB面集も末期に出てたよ。全然売れなかったけれども
T:そうなんだ。買おう。おれ「EACH SIDE OF SCHREEN]ぐらいまでなので、追っかけてたの
M:あ、次の「ノクターン」も結構良かったよ
T:そうなんだー WINK熱再燃してきた
M:そっから先はオススメできない
T:「咲き誇れ愛しさよ」とか?あのへん?「ふりむかないで」とか、売上がプチ復活した
M:うーんアルバム持っているけれどもね。微妙。ハイパーユーロの「JIVE INTO THE NIGHT」は結構好きだった。最末期のシングル
T:ああ、出てるのは知ってたけど聞いてない。最後のほうのも聴きたくなってきた
M:最後はフォークやったりユーロビートに戻ったりと無茶苦茶で
T:しっちゃかめっちゃかだ(笑)
M:それが逆にある意味いとおしい感じ
T:その頃はなんか遠巻きになんか「ああ、がんばれよ」って感じで見ていた
M:遠巻きかよ
T:なぜピーナッツなのとか、織田哲郎かよとか、なにやってんのか理解できないけどもなんとなく漏れ聞こえる昔の恋人のうわさのようなそんな感じで
M:心の恋人かよ
T:解散したときはちょっと感慨深かったな。こういう好き方したアイドルって唯一WINKだけだな
M:なんてったって最後の晴れ舞台が「夜もヒッパレ」だしな
T:いやーん。切ねえ
M:だってウインクは売れなくなって終わった、ただそれだけという感じだし。いかにもJ-POP的な終末。レコ大歌手なのに……
T:まあなあ だって需要がなくてもほかに表現できるものがあるってタイプじゃ全然ないし
M:なんかいま手厳しいこといってない?
T:そういう意味ではさっきの歌謡曲/J-POPに繋がるかも
M:そうともいえる
T:や、でも最近の翔子ちゃんの復活は嬉しい。さっちんは・・・ASAYANでみたのが最後(泣)
M:さっちんは午前の通販番組とか深夜のアイドル系暴露番組とかで見たことあるよ
T:ええっ ほんとに
M:今の将来の夢は「カラオケ屋さんを開くこと」だって。歌が好きだから、って
T:うう・・・頑張ってくれ
M:泣くなッッ
T:「♪ たのむーがんばれー がんばってーくれー」by武田鉄也


  ■というわけで89年総括


M:と、いうことでザッと流してみたんですが――って全然ザッとじゃない
T:コレだけで6時間も話している
M:ということで、もうここで総括する。するったらする。89年チャートはJ-POPと歌謡曲の境目で
T:ほんとそうでしたね
M:ユーミンがブイブイいわせていてそのお零れで色んな人がトクしましたよ
T:あとはボウイが伝説となり、久保田がファンキーを伝播した
M:そんな時代でしたとさ、ということで強引にまとめる
T:まあとにかくいろんな面で節目感があるのは再確認できましたね。非常に面白かったです
M:そうですね。





 ―後記―

結果、こちらは「『歌謡曲』が『J-POP』になった時」以上の長尺になってしまった。

それにしても、あたらためてみるにこの年は色んなところに時代の変わり目のシグナルが落ちているなぁ、と感心。
社会情勢的に言えば、終戦後一貫して続いた東西冷戦構図が東側各国の社会主義体制の崩壊によって、ついに終焉。日本は終戦以来の共産主義の防波堤という役割の末に、経済的繁栄がMAXに到ってバブルという時代。 こっからは先、世界はアメリカ的なグローバライゼーションが一気に拡大して――まぁ色んな問題を各地で引き起こし、日本はというと、冷戦体制の中での役割を終え、そこから方向を見失い失われた10年の時代へ、という転機を迎えるわけで。
そういった大状況が歌謡曲に影を落としているとはまったく思わないけれども、いやぁ、転機ですよ転機。と思わざるをえないことの連続。
実に興味深い1年といわざるをえない。


―――しかし、こうしてあらためて読み返してみると、いや、このテキスト結構面白くない?
とはいえ、前々から「対談」企画をやりたいなぁ、というのは私もひそかに思っていたことなのだけれども、いや、こんなに上手くいくとは思わなかった。クロストークでしか味わえない掛け算的なトークの展開が充分出ているよね――ってこう思っているのはわたしだけだったりして。
ほら、私のテキストって結構屁理屈でイヤらしい部分があるじゃない?その臭みがいい意味で中和されていて、自然な感じがするし。TSUKASA氏もちょっと今までとは違うテイストが出ていない?そうでもない?
いやぁーー、この企画やって良かった。TSUKASA氏とはもちろん、他の方ともこの対談企画、色々とやってみたいなぁ、と思った次第。癖になりそう。
ちなみにこの対談の後日、二人してWinkを聞きなおしていたことが発覚――ったく二人して何しているんだか。っていわんでくれっっ。Winkは永遠なのだぁぁっっ。


2005.05.04
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