メイン・インデックス歌謡曲の砦>年間チャート回顧 ―1987― シングル編 その2


年間チャート回顧 ―1987― 

シングル編 その2
シングル編 その1
アルバム編


【目次】

1. 良質アイドルポップのナンノさん
2. 新たな道を行くチェッカーズ
3. ミポリンはランクアップの一年
4. ついにブレイク、TMと小室先生 ―「Get Wild」
5. 海外へ飛び出したアーティスト、本田美奈子
6. 大ヒット無き年のレコ大受賞曲、「愚か者」
7.  87年大晦日の風景、レコ大と紅白の迷走
8. おニャン子とつんくの因果な関係
9. C-C-Bの12インチを聴けっ
10. 薬師丸さんの珍品と、隠れた傑作




良質アイドルポップのナンノさん

T:次はナンノさんだ。「楽園のDoor」と「話しかけたかった」が上位にランクイン。って、私はあまりわからんので、まこりんさんに任せます。
ま:えーっと、女性アイドル勢は86年におニャン子勢が場を荒らしまくっておかげで、 聖子・明菜・小泉のトップ三名を除いてぐちゃぐちゃと、カオス状態になっちゃったわけだけれども、 その混沌とした場から、一歩抜け出て頭角を顕したのがこの年の南野とミポリンかな、という感じで。 この二人が上位チャートに顔を出していますね。
T:薬師丸さんがちょっと落ちたのね。
ま:薬師丸さんは、角川離脱が大きかったねぇ。
T:ま、そこへ、ゆるさんぜよだ。
ま:ははは。
T:おまんらゆるさんぜよ、とナンノさんが殴りこんできたわけだ。
ま:まあでもぶっちゃけ、ナンノさんは聖子フォロワー、ミポリンは明菜フォロワーって感じしません?この時点だと。
T:だね。ミポリンははっきりそうだし、「ビーバップハイスクール」なわけだし。対するナンノさんはデオドラントな感じで。
ま:ナンノはレコード会社ソニーと聖子の後輩。古典的なアイドル像というか清純派というか、応援したくなる系というか。
T:シングルのタイトルからしてなんか、「悲しみモニュメント」とか「風のマドリガル」とか、いかにもな感じで。
ま:いかにもってなんですか、いかにもって。
T:いやなんか、ちょっと冷静に考えると赤面かなという。
ま:はははは。や、でも、「パールピアス」とか、あのあたりのユーミンが好きなら この時期のナンノのアルバムは聞かなきゃ、嘘っすよ。
T:良質ポップ、という感じですよね。シングルも。
ま:シチュエーションの細やかさとか、心象風景の切り取り方とか、実にユーミン的。てか「楽園のDoor」、 私大好きなんですけれども。
T:♪せーかいじゅうーがー、のとこで胸キュンするね。
ま:この歌って、いわゆる通過儀礼の歌でしょ。
T:大人になるというか、大人になってしまう、という。イノセンスの消失という感じで。
ま:そうそう。夢に、あなたに、近くなるために、私は楽園であるモラトリアムの世界からひとりドアを開けて、歩き出す、っていう。
T:で、来生さんのマイナーメロディがキュン、と。萩田さんのストリングスがぐわー、っと。
ま:また小倉めぐみさんの詞がね、私は凄い好きなのよ。後にSMAPの「がんばりましょう」を作る人だけれども。
T:ははは、そうだな。
ま:「楽園のDoor」と通じるものはあるでしょ、「がんばりましょう」。
T:えー?仕事だからがんばりましょう、って?
ま:「日常に生きる」って姿勢が。イノセンスな位置を捨てて日常に生きよう、っていう、 そういうメッセージは繋がっているかな、と。
T:あー、まあそうかも。曲調全然違うけど、言ってることはそうだね。
ま:モラトリアム、ダメ、ちゃんと生きてちゃんと自分の足で歩きなさい、っていう。
T:いま生きている場所にいる自分が自分なんだ、ここではないどこかに本当の自分なんかいないぞ、と。
ま:そうそう。だからくだらない仕事でもがんばれ、と。
T:まあ、あの時期のSMAPの歌詞のよさっていうのはそういうところだなと思いますよね。 なるほど、「楽園のDoor」と繋がっているか・・・。
ま:小倉さん、このあとナンノに「はいからさんが通る」を作るけれども、 あれもさ、現実色々あるけれども俯かずに笑顔で乗り切ってがんばっていこうってテーマやん。だから、 一貫してそういうメッセージを放っているんだと思いますよ、彼女は。
T:そういわれると「正義の味方はあてにならない」とか「君は君だよ」とかもそうだな。結構一貫している。
ま:で、ご本人は最近うつ病、というオチがついてくるのですが・・・。
T:えーーー、そうなの。まあ、なんともコメントしがたい。
ま:でもやっぱり、こういうことをいつも言う人ってのは、生きるのがつらい人なんだろうなぁ、 という。妙に説得力を感じてしまいました。
T:あー、まー、そうかも。こういう考えに至るって、そこまでにいろいろ思い悩んでこそというのはあるからなぁ。
ま:うん。
T:自分探しの馬鹿らしさ、とかって、通過したあとに反動で出たりとかするし。ってなにかほのかに共感している私なのですが。
ま:ははははは。それ知ってるから。
T:まあ、しかし私はこの年だと「話しかけたかった」のほうが好きだったりする。これは素直に萌えだろ、と。
ま:ナンノの歌は、メッセージ性のあるものと恋愛シチュエーションが細やかなものが交互にくるんだよね。「話しかけたかった」も名作っすよ。
T:ポニーテールで、セーラーでこういう女の子に話しかけられたい、とほんとにしょうもないですが、好きの理由が。
ま:ぐだぐだ四の五のしている少女をラストで一瞬で失恋させる作詞の技術がすげーなぁ、と私は思ったりする。
T:ははは。まあ、「〜たかった」って時点で思いは果たされていないわけでね。この「〜たかった」連呼が切ないなあと。
ま:うん。いやぁ、アイドルポップスとして珠玉でしょ、これは。
T:曲も普遍性あるしね。カーペンターズとかバカラック的なポップスで。
ま:そうね。なんとなく曲調は斉藤由貴の「初恋」とかぶるんだけれども・・・。「デイドリームビリーバー」にもちょっと似ているんだよね。
T:ああ。なんかどっかで聴いたことある感じの曲調ではある。でもまあ、ナンノさんにもすごく合ってる感じがする。
ま:完成形って感じする。「話しかけたかった」がお好きなら、 アルバム「Bloom」はお薦めですので。ブックオフに落ちているので、 聴いてやってくだされ。「リバイバルシネマに気をつけましょう」とか「シンデレラ城への長い道のり」とか、こういう萌えシチュラブソングどっさりだから。


新たな道を行くチェッカーズ

T:お次はチェッカルズですな。前年の主演映画「Song For USA」と同名主題歌を区切りに、自作曲へ移行した87年の彼らですが。
ま:そして、一気にファンを光GENJIに奪われた年でもあります。
T:やっぱそうだよなー、光GENJIにいったよなあ。
ま:実際「Blue Rain」(第88位/11.4万枚) のセールスがガタガタだったしね。 本人らも「Cute Beat Club Band」の活動でイギリスから帰ってきたら、ファンがみんな光GENJIに流れていたって 回顧していたし。
T:うちの親戚の女の子とか見事にそうだったからね。部屋中フミヤのポスターだらけだったのが、 いきなり全てかーくんになっていたし。
ま:曲調もねー、アイドルっぽいキャッチーな方向から外れていてね。
T:まあ初期のアメリカングラフティ路線は終わってしまったね。でも作品はこっからのほうが好きなんだけどな、おれ。
ま:でもまぁ、「フミヤーーキャーー」って言っていた小学生にはわかりづらいよ、自作路線は。
T:「Blue Rain」とか超渋いしな(笑)。AORかという。
ま:渋すぎる。
T:好きなんだけどなー。
ま:私はこの年は「I Love You,SAYONARA」が一番好きかなぁ。いっちゃんポップやし。
T:まあ、「I Love You,SAYONARA」は名曲ですね。でも、フミヤだから様になるというのはあるよなこれ。 歌詞、キメキメだし、恥ずかしいし。
ま:あ、うん。案外、カラオケで歌っても盛り上がらない。「ONE NIGHT GIGOLO」とかで、 キルユーとかやったほうが盛り上がる。
T:「ONE NIGHT〜」はその、スリッパばーんだから(笑)。キルユーまでならみんな知っているという。
ま:一発ネタかい。
T:「I Love You,SAYONARA」とかって陶酔系だからなあ。別れた俺って馬鹿だぜ、でも愛してたぜベイベー、という。
ま:んんんん、そんなこといったらチェッカルズって、存在自体が陶酔系というか、全部のシングルがそうか、と。
T:だいたいそうか(笑)。ってかフミヤがか。
ま:フミヤの詞が、ってか売野の詞もだ。
T:歌ってるとものすごく気持ちいいんだけどなあ。両手広げ、全てを受け止めよう、 とか歌ってると気持ちいいけど、周りは引くよな。
ま:君の事を守りたいーーって、いきなりなに言ってんの、と思うだろーなぁそりゃ。
T:俺最高だなあとか思うけど、歌われてるほうはたまらんよな。ま、実際歌うからいいんですけどもね。
ま:歌うのかい。
T:歌いまくる。フェイドアウトぎりぎりまで歌い上げる。まあその、 そういう意味ではフミヤだから成り立つ世界だなと思いますね。
ま:でもこの陶酔加減というか、なにかを俺たち成し遂げたよな感は、実にGLAY的いうか・・・。
T:あー、あるね。こんなに遠くまで来たよな、みたいな。
ま:田舎から一緒に上京したけれども、俺たちここまで一緒に歩いてきたよな的な。やたら誇らしげ。
T:もろそういう歌あるよね。「Friends And Dream」か。
ま:そうそう。私もその歌を思い出していた。
T:あれも好きだわ。いきなり語るしね。「俺たちは、いつ大人になったんだろう」とか。
ま:だからまあ、結構素に戻ると恥ずかしく感じたりとか、そんなチェッカルズです。
T:でもまあチェッカーズは、自作曲聴いてるとなにが好きでこうなるの、とかわからないのが結構独特ではある。
ま:って、それ前の対談でも言っていなかったか。激しくデジャブだ。
T:あ、言ったかも。まあその、チェッカーズのアルバムは良いよと言いたいのです。ブックオフで拾ってやってください。
ま:ははは。またそれがオチ?
T:そういう対談です(笑)。浮き草を拾ってくれと。
ま:ブックオフのための対談ですか?
T:はははは。いや、報われない銀盤たちのために。資源回収のために。
ま:ま、でも、ここでファンをふるいにかけたのは、長い目で見たら正解だったなってのは一応言っとこう。
T:まーね。いつまでもギザギザハート路線ではね。
ま:売上が落ちて、またハンドルを元に戻そうと焦る人も多いからさ。ま、冷静な判断のチェッカーズでした、と。


ミポリンはランクアップの一年

T:というわけで、「WAKUWAKUさせて」。次はミポリンか?
ま:ミポリンもねー、この年、いいシングル多いんだわー。
T:弾けているね、なんだか。改めて聴くとなんかすごいな、というのが多くて。
ま:松本+筒美コンビの和製ユーロ歌謡路線が、前年の「ツイてるね ノッてるね」 から「WAKUWAKUさせて」→「派手 !!!」(第24位/20.5万枚)と3作続いて。で、小室のラテンテクノ「50/50」(第23位/21.0万枚)と。
T:んで角松の「CATCH ME」(第38位/17.4万枚)と。まあ、この年のアイドル勢の中では、勢いという意味ではミポリンかね。 ぐいぐい飛ばしている。
ま:もう、遊びなしで、ヒットする気満々の曲をずばずば連発しています。
T:ランクアップするぞという意気込みが見えますね。でもわりと無茶してるなというところもあるような・・・ 「派手 !!!」とかすごく難しくないか、メロディ。
ま:てか歌えてないし、ミポリン。「音符がほら風に舞うわ」の部分とか、まさしく。
T:音符が風に舞ってますよね(笑)。
ま:ほんと舞っているよ、美穂、と。
T:はははは。
ま:いやでも、「派手 !!!」はね、無駄に難しい。
T:松本+筒美+船山さんが嬉々としてやっている感じがして好きですけどね。
ま:私はこの年は、「50/50」にどっさりやられたのですが。
T:コムロ先生っすか。
ま:てか、幼い頃から小室好きだったんだなあと。乱高下するサビとか、きゅんきゅん来てました。
T:でもこれもなんか、いきなりカリプソとか、結構無茶してるような。
ま:うん。でもラテン物やるやん小室っちって。時々おもむろにやる。
T:うん、でもサビは普通なのにAメロでいきなりカリプソだから、ええっ、って(笑)。 んでこれはアレンジ船山さんなのに、サビの後ろのシンセとか超小室っぽいのね。
ま:あ、この頃の小室さんはね、編曲まで頼んでないのに、ほとんどカンパケに近いオケを作って編曲家に渡して、 僕のする仕事がないじゃないか、とかたしなめられたりしていたみたいよ。
T:ははは。まあ、昔からオケから作ってそうな感じだしね。
ま:だからこのいきなりカリプソも小室アイディアだと、私は睨んでいる。
T:まあ、TMネットワークでもあるんだよね、カリプソっぽいの。初期のアルバムとか。
ま:あるある。「humansystem」にもなかったか?
T:だから、結構これはTMが浮かんだりするので、小室先生の仕業なのかね。
ま:やあでも、おもむろだよなあ、小室さん。なんでこんな曲を渡したんだろ。今までのシングルと全然繋がりないやん。
T:えーでも、結構気合入れて作ったらしいけど。スター街道を突っ走るミポリンのために。
ま:や、まあ、大好きなのでいいんですが。デビューからこの頃までのミポリンって、タイアップで枚数を稼ぐタイプのアーティストで、 タイアップ無しだとセールスを落としがちだったのね。「生意気」とか、「クローズアップ」とかさ。 ファンも他のアイドルと比べてあまり多くないのか、初動も低くて、オリコン1位も獲得していない。
T:本人パワーで押し切れない感じか。
ま:それが「50/50」はノンタイアップで、やっとタイアップ付きと同レベルまでセールスを持っていけて、 確かトップテンでは二週1位を獲得して、で、「CATCH ME」ではやっとオリコン1位まで漕ぎ着けた。
T:この年における一気呵成の格上げは成功したわけだ。
ま:そうそう。
T:だってこの年のシングル全部、一聴して気合入ってるもんね。まあ、そこが過剰に聴こえるところもややあるが。
ま:えー、「WAKU WAKU させて」のアレンジとか?
T:えー、やー、あれはいいんじゃないすか(笑)。
ま:「ツイてるねノッてるね」のブレーキ音みたいなSEとか?
T:はははは。や、なんかいい大人が三人で、嬉々としてやってる感じがしますよね(笑)。 先生方、楽しいんだろうなあという。
ま:うん。わー、こんなの作っちゃったー、これシングルでいい? いいよね? っていう。
T:なんか悪乗りしてるような気も・・・という(笑)。でも面白いからいいけどね。
ま:この頃のミポリンは最高っすよ。んでまあ、以降はバラードとブラコンにはまっていく美穂さんですが。
T:「CATCH ME」はこのユーロ路線の着地点としては、綺麗に収まったというか。美穂だと、 曲としてはやっぱり「CATCH ME」とか「人魚姫」が好きだなあやっぱり。
ま:「人魚姫」もいいよねぇ。
T:この2曲聴くと、もうちょっとこの後、なんとかならんかったのかと思ったり。 変にメロウな曲増えるよね。「Midnight Taxi」とか。
ま:「ROSE COLOR」とかね。なんだかなぁ、て。
T:「Rosa」なんかは良かったけど、あれも単発だったしなぁ。つまらなくなるの、ちょっと早くないか、と。
ま:なんか、アイドル歌手って自己主張し始めると、メロウなラブバラードに偏重するんだよね。あれが納得いかん。
T:うーん。まあ、この年のミポリンは全部良いので、よろしくどうぞ、と。
ま:はい。「MIHO NAKAYAMA COLLECTION 1」は買いましょうと。
T:買いです。ヘンテコなのも含めて買いです。
ま:ミポのシングルはヘンテコじゃないっっ。ぷんぷん。
T:ははは。でもそういうとこが面白かったりするからね。


ついにブレイク、TMと小室先生 ―「Get Wild」

T:ええと20位のBOOWYはアルバム編に回しましてですね、以下何かあればと。
ま:TM NETWORKの「Get Wild」(第22位/21.7万枚)は語りましょう。TMのブレイク曲。
T:TMのみんな知っている曲って、実はこれぐらいしかなかったりするよね。意外にも。
ま:あ、そうね。案外、シングルは小粒ヒットばっかでね。
T:まあ、数で言うと「Love Train」とかもあるけども。知名度で言うと、やっぱりこれが抜けてる感じで。
ま:ものすごいハイエナジーだよね、ゲワイ。今聴いてもインパクト大。
T:アレンジが結構変なんだよな。よく聴くと。
ま:うん、なんかお祭り状態というか、音がぶつかり合っているのよ。
T:ベースがべこべこいっていて、シンセのシークエンスがぴこぴこ鳴っていて、 スネアがなくて、バスドラだけたまにどかんどかんいっていて。
ま:岸和田のだんじりのように。
T:はははは。なんかどうしてこんなアレンジに、と問い詰めたい。
ま:もう一つ一つの音が、我が我がと主張している。で、その音にボーカルが結構埋もれているのがこれまたなんというか、 どこへ行きたいんだTMという。
T:そうね、バランスおかしいな。
ま:シーケンサーがピヨピヨいっているほうが、ウツの声よりもはっきり聞こえたりするし。
T:でもタイミング的にはあれだよね、デビュー以来アルバム3枚苦戦して、シングル「Self Control」 でやっとじわじわと来て、で、ここで勝負だというタイミングではあるよね。
ま:うん。作家として小室にもそこそこ仕事が舞い込んできたし、そろそろ本体でもブレイクしておかしくないんじゃない、 という時期にタイアップが来た。こりゃもうブレイクしなければ、という、まさしくそんなシングル。
T:なんかこの変なアレンジは、そこで周囲と差異を計ろうとしたのかと思えなくもない。やたらピコピコしてたり、 ドラムが普通じゃなかったり。
ま:ただ力みすぎただけかもしらんよ。小室さん、うっかりするとやりすぎる人だし。
T:はははは。まあ、そうかも(笑)。
ま:てかTMはね、初めて「ザ・ベストテン」に出たときの印象が凄く強い。
T:そうなの。
ま:うわー、なにこのバンド、と思った。なんかこう、およそ意味のない機材とか、 ずらっと小室っちの背後に並んで、何台ものキーボードに囲まれて。
T:意味不明なモニターとかね(笑)。
ま:黒柳の「これ全部あなたが使うんですか?」という質問に、平然と「はい、使います」と答える小室っち。
T:はははは。
ま:でも歌始まると明らかに使っていない、という。
T:そこはそれこそ周囲との差異化ですよね。使わなくてもいいのよ別に。
ま:てか、悪く言えばはったりだしね。
T:なんか近未来なバンドなのかも、というね。何か違うぞこの連中は、 というイメージを与えられればいいわけで。
ま:なんか演奏途中、モニターにものすごいスピードで字が流れてたり、とか。 意味なくグランドピアノの自動演奏とかしたり。
T:やってたねー。シンセで古館だか黒柳だかの声を出したりしてなかった?こんなこともできるんですよー、 みたいな感じで。
ま:うん。サンプリングはこういうものだ、みたいな。
T:TMはそれを徹底して女子供向けにやってたのが偉大だと私は思う。
ま:って、それも前の対談で言っていたぞ。
T:ありゃ、そうだったか。健忘症です。
ま:でも、そういう小室のはったりが、小中学生のハートをがっちりキャッチした、 と、わたしも思いますよ。「戦闘力」とか「聖衣」とかにすげーって喜ぶちびっ子達には・・・
T:ああ、TMってそういう要素あるね(笑)。
ま:このバンドはものすごいことを起こすのでは、いやもう起こしている、みたいなドキワク感を与えていたか、と。
T:それを堂々やりきったのが素晴らしいと私なんかは思いますね。てかさあ、「もしBOOWYがいなかったらどうなっていたか」 って言い方はよくされるけど、 「TMがいなかったらどうなってたか」ってのも、決して少なくないんじゃないか?と私は問いかけたい。
ま:いやぁ、小室はなんだかんだいって偉大ですよ。ちびっ子に与えた影響大。
T:なんかねえ、あれほど90年代の小室ファミリー期にばかすか売れてなかったら、 もうちょっと小室の評価って高かったんじゃないか、とも思う。
ま:あぁ、うん、そうね。せめて97年くらいで留まっていれば・・・。
T:なんだかんだいってやっぱ与えた影響大だしね。まあ、「Get Wild」って、あまりに聴きすぎてもういいよこれ、 というところもあったんだけど、やっぱりいい曲だと思いました。なんか少年少女のハートが疾走する、という感じで。 アレンジも小室炸裂だなあと思うし。
ま:久しぶりに聴くと、その変さを再認識するよね。だってアスファルトタイヤを切りつけながら、 ってどういう意味だよ、と。
T:わけわかんない(笑)。
ま:ど頭から疑問符ですよ。
T:でもなんかこう、若者のギリギリ感は出ている(笑)。
ま:アスファルトが暗闇を疾走するんですか?タイヤを切りつけながらっていう。
T:ふはは。
ま:どんなホラーだよ、どんな不条理小説だよ、と。
T:まあ、小室先生は、90年代も日本語が変なの多いしなあ。
ま:そんな日本語が不自由な部分も含めて、小室の原点だな、と。――ってこれは小室みつ子の詞だけれども。
T:やはり名曲だ、ということで。


海外へ飛び出したアーティスト、本田美奈子

T:ということで、次は、堀内さんですか?
ま:♪ 愛しき日々は〜、って歌える自分がいや。ゆるーやかでっ、あったならぁーー。
T:でも「愛しき日々」は私、密かに好きなわけだが。愚か者だと笑いますか?と問いかける。
ま:はははは。
T:って、まあ堀内じゃなくて、本田美奈子さんですか。「One Way Generation」(第26位/20.3万枚) 。
ま:時期が時期だけに触れようかなぁ、と。
T:ワイルドキャッツっていつだ。
ま:88年結成、89年解散。
T:ああ、この次の年か。
ま:この年の美奈子はねー、海外進出の美奈子でした。
T:「美奈子はアイドルって言葉、嫌いだから」と、外へ駆け出したわけですね。
ま:アーティストになって世界に飛躍しようとした。前年末の「the Cross」がゲイリー・ムーアのプロデュースで。
T:どこでどう繋がったんだゲイリー・ムーアと。
ま:知らんがな。で、次がこの「One Way〜」なんだけど、まぁでもこれは脇道で。 んで次のシングルがクイーンのブライアン・メイプロデュースの「CRAZY NIGHT」(4.0万枚)。
T:HRHM界を席巻している・・・。
ま:その次が「HEARTBREAK」(7.8万枚)で、これがマイケル・ジャクソンのパパのプロデュース。
T:どこでオファー取ってくるのよ(笑)。
ま:で、その間に「Golden Days」ってシングル―これもブライアン・メイのプロデュース― でイギリスデビューを果たす、という大車輪ぶりです。
T:そんな激動のさなかの「One Way Generation」と。
ま:そうそう。
T:この曲では全然背景が見えない(笑)。
ま:はははは。
T:これは普通にガールポップやん。オトナはわかってくれないから、 何かを探してどこかへ向かって、って全て詰まっている。
ま:これはドラマに合わせた楽曲だったのかなあ、と。「パパはニュースキャスター」の主題歌として歌っただけで、 当時の本田美奈子戦略としては脇道かな、と。
T:まあ、そうだろうね。
ま:でもその脇が売れて、本線がちっとも、っていうのが…。
T:うーんそりゃこっちのが売れるっしょ。美里が歌ってもおかしくないし、これ。
ま:や、まぁ、そうなんだよね。「がんばれ私」系のメッセージソング。
T:でもまあ、この路線では行きたくなかったんだろうな、美奈子さんは。
ま:でも、私はこっち路線で一年くらいやってもよかったのになあ、と思ったりもしますです。 そんな海外デビューとか、いいからさ、と。
T:まあねえ、いきなりクイーンとかねえ。
ま:無理でしょ、フツーに。
T:無茶だよね。
ま:脈絡がないし、わけがわからん。どこに訴求しているんだそれは、という。
T:いやー。どっかに需要があったんじゃ・・・ないのか。
ま:まあ「Golden Days」とか、確かにいい曲なんよ。でもねー、渋すぎるよと。こんなんアイドルの曲かよ、と。
T:だってアイドルじゃないからーー。
ま:あ、そうか。アーティストだからね。
T:まあでも、ガールポップ路線はありだったですよね。 中村あゆみ〜美里流れの。ロックといっても、レベッカぐらいの感じならまだねえ。 ロックとポップの中間ぐらいで、ちょうど良さそうだけれど。
ま:でも美奈子が求めていたのはワイルドキャッツだった、と。
T:いきなりハードですよねえ。
ま:で、海外進出に失敗して、ギター・大村憲司、キーボード・小林武史、 ベース・ボビー・ワトソンという豪華布陣のハードロック歌謡のアルバム「Midnight Swing」ってのをこの年の年末に作って。
T:ボビー・ワトソンって結構いつもすごいとこで弾かされてる気が(笑)。
ま:そうね。なんでも仕事しているよね。
T:宮沢りえでも弾いてただろ。
ま:岩崎良美とか八神純子とか浅川マキとかでも見かけた。まあ、そんなこんなで翌年にワイルドキャッツを結成してます。
T:うーん、ゲイリー・ムーアとかより先にワイルドキャッツとかのほうがまだ、順序としては分かる気が。
ま:なによ、順序って。美奈子は海外に行きたかったんだから、しかたあんめーー。
T:まあ、私はファンでもなんでもなかったから、なんとも言えん。
ま:やあ、でも、海外進出はいらなかったよなぁ、と。 筒美京平の曲にゲイリー・ムーアがギターがんがんに弾きまくっているの(「キャンセル」)とか、そういうの、いらないからさ、と。
T:はははは。壮絶ですねそれは、なかなか。
ま:結局、アイドルとしての寿命を海外進出で縮ませてしまったよなぁ、という、 そんな痛し痒しの87年の美奈子でした。
T:まーしょうがないよねそればっかりは。脱アイドルしたかったんだから。
ま:えー、で、海外なの?
T:いやあ、ま、ね。それはそうかもしれんが。まあ、人はいつも正解ばかりを選んで生きていけるわけではないし。
ま:ははははは。
T:何かを探してどこかへ向かっているわけだし。人生はワンウェイなわけだし。
ま:あ、なんか綺麗にまとめようとしているな。
T:まあしかし、そんな迷走もありつつも、そのあと行き着くべき場所を見つけられたのだから、 良かったのかな、と思いますけどもね。


大ヒット無き年のレコ大受賞曲、「愚か者」

T:じゃあ、次は第35位にインしている、レコード大賞受賞曲のマッチ「愚か者」(18.2万枚)に触れましょうか。
ま:はい。この年のレコード大賞は、明菜・瀬川・マッチ・五木の四つ巴でして。で、明菜・瀬川が「特別大衆賞」って謎の枠でまず外れて、 五木対マッチの争いになって、結果マッチが大賞に輝いたようです。
T:うーむ、マッチだけ謎だね。ほかの3人はわかるけども。
ま;謎言うなっ。
T:だって謎やーん。この時期ってまだ、レコ大に権威があった頃だし、一応、納得いくのが毎年選ばれているし。
ま:まあ、その年の代表曲がきちっと選ばれているよね。
T:売り上げも認知度もまあ、納得いくのが選ばれてるじゃないですか。それがいきなり、「愚か者」?っていう。
ま:まぁ、でもマッチにしては久しぶりのヒット曲ではあったんだよね、「愚か者」。
T:いつぶりだ。
ま:世間的には、84年の「ケジメなさい」の次のヒットがこれ、って感じだろうし。
T:ああ、そうだね。
ま:「ヨイショ」とか「大将」とか、微妙な知名度の曲も間にあるけれども。
T:ソニーに移籍してから、しばし潜伏してた感があったのかな。
ま:そうね。ソニー移籍後初のヒットって感じかも。前作から大きく売上伸ばしている。
T:まあ、その潜伏期からだんだんこうフォークロックっぽい流れというか、長渕チックというか・・・
ま:まあ、元々マッチは男気路線だったんだけれども、デビュー当時はシャレっ気があったというか、 お茶目ヤンキー路線だったのが、この頃はなんかもう、眉間にしわ寄せまくりです、みたいな。
T:だんだんアダルトな渋さを出し始めましたね。
ま:うん。
T:で、いちおう、そのシフトチェンジがここに結実したのかな。「愚か者」は。
ま:て、ことなんだろうね。
T:まあ、インパクトはありますよね。いきなり「おーろーかーもーのーよー」と看破されてしまう。
ま:詞も曲もいいよね。
T:染みる曲ではある。苦い酒が似合う。
ま:なんか、こう、やたら大袈裟で壮大な感じで。
T:だって金と銀の器を抱いてしまいますからね。
ま:だからまあ、売上がもうちょっとあったらっていう。
T:まあね、曲は悪くないもんな。
ま:楽曲自体は、大賞にたる風格はあると思うんだよね。大晦日に歌って映えます、っていう。
T:大衆性あるしね。演歌ロック的でもある。
ま:だから楽曲自体は好きですよ、ほんと。このあとの「あぁ、ぐっと」とか「アンダルシアに憧れて」とかも好きだし。
T:まあでもあのレコ大の、龍の頭に乗って歌ったのかあれは。
ま:Mステでそういうのやったの見た記憶はあるけれけども。
T:あ、Mステだね。あれは何かすごかった。マッチがなんかぐっと格上がってしまった、という感じではあった。
ま:けれども、レコ大はうーん、なにも光GENJIに新人賞を辞退させてまで大賞獲らせる意味あったん、ジャニーさんっていう。
T:あーそうか、そういう手引きもあったか。
ま:だってフツーに最優秀新人賞は光GENJIでしょ、この年は。なのに辞退させているわけで。で、大賞はマッチとなると、 政治的配慮を考えざるを得ない。
T:まあ、後から考えると、マッチはこれでいい感じで「あがり」できたのかな、という感じでありますが。
ま:うん。マッチストーリーの完結って感じだよね。
T:この後はもう好きなことやってるわけだしね。
ま:ただまぁ、長年にわたって最低売上のレコ大受賞曲ではあった、 と。それは事実として、残ってしまったな、と。年間第35位、18.2万枚 って・・・という。
T:まあでもさ、この年でいうと、順位でいうと35位だけども、売り上げでいうとベスト10内の曲と 10万枚程度しか違わないわけで。別にいいのかなとも思うけどね。
ま:うん。「ザ・ベストテン」の年間順位だと、第10位だったんだよね、「愚か者」。 ハガキと有線でそこまで上にもっていってた。
T:だからまあ、大衆性はあったんだろな。
ま:だから、まったく有り得ない、というわけでもなかった。昨年の倖田さんとは違うぞ、と。
T:ははは。その話になると思った。
ま:まぁ、マッチの記録も、彼女が華麗に更新したわけだしね。「Butterfly」年間第84位 11.6万枚 という。
T:これはもうねぇ、どういうことよって感じで。
ま:もはや笑うしかない。
T:お前の曲で一般に知られてるのは「キューティーハニー」だろ、と。「キューティーハニー」で受賞すればよかったのに。
ま:それは去年の曲じゃないし、無理だよ。
T:まあ、お茶の間・大衆というものがなくなり、レコ大も90年代を迷走し続けてきたわけですが、 昨年でついにお亡くなりになられた、という感じだったですね。安らかに眠ってくれ。
ま:ははは。でもまあ、その崩壊の序曲が、この87年なのかなという感じはあるよね。
T:まーねえ。このあとポップス部門と演歌部門に分けたり、とかしだしたしねぇ。
ま:マッチの大賞に象徴されるように、みんなの知っているヒット曲という、 そういうコンセンサスがとり辛くなってきてしまった。
T:賞レースってもの自体も、演歌の人は涙流して喜ぶけれど、ポップスの人はもう喜ばないとか、 そういう風になってきちゃうしね。


87年大晦日の風景、レコ大と紅白の迷走

ま:レコ大ついでに、紅白の話もしていい?
T:あ、どうぞ。
ま:大ヒット曲のないこの年、紅白は大改革を断行したのね。
T:なにをしましたか。
ま:「アイドル排除、若手排除、実力派の集う紅白」という施作に変更しているの。 で、いきなりトップバッターが八代亜紀VS森進一。
T:ふへぇー。濃すぎるだろ(笑)。
ま:アイドル系は小泉・明菜・聖子・荻野目・少年隊・マッチ・チェッカーズのみで、 ロック・バンド系は絶無。で、代わりにオペラ歌手の佐藤しのぶとか、シャンソン歌手の金子由香利とか、よくわからん人が初出場。
T:ああ、なんか紅白ってちょくちょくそういう人出るよね。
ま:それがこの年からなのよ。この年から、ジョン健ヌッツオとかあの枠が生まれている。 アイドルを落として、こういう枠を作った。
T:それはでもあれだね、アイドルとバンド系抜かしたら枠が開くから、苦肉の策でないの。
ま:てか、アイドル枠を削る意味がわからない。
T:まあだんだん世代間のギャップが出てきたのかな。そこにこの先の紅白は翻弄されまくっていくわけだし。
ま:だからお茶の間意識が薄くなって、キャスティングが迷走し始める紅白、その始まりがこの年からかなぁ、という。 フツーにこの年なら、光GENJIとかナンノとかミポリン出せばいいのに、なぜそれをしない?という。この後もどんどんわけわかんなくなっていって…。
T:よくわからんね。なんか変な格とか、を意識したのだろうか。
ま:わからんんん。
T:シンディローパーとか出てた年あるしな。ベンチャーズとか。
ま:あるある。バブルの頃だよね。
T:何をしたいんだ?一体という。
ま:ついに暴走する紅白。
T:まあレコ大も紅白も変になり始めるってことは、 やっぱりこの辺に大きなシフトチェンジがあったんだなと思ってしまいますよね。
ま:だからこう、87年は歌謡界の終わりの始まりっていう感じ。アナログレコードの役割も この年で終えるわけだし。でね、一方TBSはそんなアホなキャスティグをする紅白に対してチャンス到来と思ったのか、紅白の真裏で「ザ・ベストテン電リク祭り」を放送するんですよね、この年。
T:そうなんだってね。私、なぜか全然覚えてない。たぶん、家族といっしょにおとなしく紅白を見てたのでしょう。
ま:わしはがっつりザ・ベストテン見ていたよ。だって紅白、演歌ばっかりなんだもの。
T:こんなのじいさんばあさんと一緒に見てられるか、と。
ま:そうそう。確かね、「大晦日、レコード大賞の後はザ・ベストテン」という番組宣伝もあったのよ。
T:ああ、そうかそうか。レコ大の後チャンネルそのままにしとけば見るよね。で、紅白に出てない面子が軒並み出たりしたんですか。
ま:うん。紅白落選組のナンノ、ノリピー、Babe、立花理佐、森川由加里、 光GENJIなどが登場してました。あと寺尾聡とか、クリスタルキングとか、懐かしの人も。
T:おお。でもそっちのほうが紅白よりポップだよね、番組として。そっちのが民意が反映されているような気がする。
ま:紅白の大トリで五木ひろしが「追憶」を歌い上げている裏で、光GENJIが「ガラスの十代」〜「STAR LIGHT」のメドレーを 歌っていた、という。
T:すごい状況だなあ。
ま:で、これが視聴率10数パーセントとって、当時の紅白の裏番組としては結構健闘してしまったのよ。
T:まあでもこれだと大人と若い世代と完全に分断されるよね。お茶の間の解体があらわになってしまった、という。
ま:うん。でさ、これがきっかけかどうかわからないけれども、レコ大→紅白のコンボも解体するでしょ。
T:放送時間が?
ま:そうそう。89年に、紅白が2部制になって。
T:かぶっちゃうんだよね。このかぶりも結構困っちゃうのよね。
ま:そのせいで、レコ大のキャスティングとか加速度的にボロボロになっていってさ。 フツーに、紅白の歌順番とか見れば、あ、この歌手は大賞じゃないんだな、とか素人でもわかるようになっちゃって…。
T:ははは。
ま:やっぱさ、大賞候補は嘘でもいいから読み上げの瞬間まで会場にいて欲しいですよ、やっぱ。
T:ミスチルの1回目のときなんてビデオだったしなあ。どんだけ軽んじられているんだ、と。
ま:ミスチルの大賞はある意味男だったけれどもね。いなくてもやるものはやる、っていう。
T:まあ、普通来なかったらやらないもんね。まーでも、このへんから居間で一つのテレビで家族みんなでレコ大を見て、 終わったら紅白見てっていう、そういうの無くなっていったのかなあと。そんな感じする。
ま:うん。
T:居間で紅白やってても、子供は部屋でレコ大の浜崎見てたり、かたやお兄さんは 格闘技見てたりするわけで。子供が紅白見てても、じいさんばあさんはテレ東を見たかったりするわけで。
ま:あぁ、そうね。お年寄りは、紅白は二部からだね。一部の時間はテレ東だ。
T:だからテレ東は前半のほうが豪華なんだよね(笑)。
ま:紅白歌手がどっさり出るからね。
T:後半になるとレア度が増すという、すごい番組ですが。まあ、ここにきてそういう分断が 完全に進行してしまったなと。ま、時代ですかね。
ま:そうだね、時代だねー。で、そのきっかけがこの年の大晦日にあったという話でした。


おニャン子とつんくの因果な関係

T:さて、相変わらず収集がつかなくなって参りましたけども、おニャン子はどうする。
ま:うーん、さらっと触れる?短めに。
T:もうおニャン子は毎週のようにソロやらユニットやら、 関連商品を出しまくっていて、ほとんど初動だけでガーッと上がって、 サッと引くという感じでチャートを荒らしていたので・・・
ま:超初動型チャートですな。
T:年間ランキングだと、60位から下のほうにわんさかインしていますね(笑)。
ま:曲ごとに取り上げるときりがないんだけれども、TSU-KAさんは何か語りたいのある?
T:「TOO ADULT」(第52位/15.1万枚) が好きです。♪アダルトしたくて〜 アダルトできない〜
ま:はははは、ロリコンめっっ。チュチュチュチュ、ね。
T:ピコピコしててロリコンで。でもこれはアイドルテクノポップとしていい曲だと思う。非常にコンパクトな仕上がりで。
ま:バカっぽアイドルソングの典型というか、ある意味パロディーでもある。
T:そうね。歌い方がまたね。
ま:確信犯的にふざけているよね。次が「PINKのCHAO」と見事な流れでした、美奈代。 あ、あと美奈代は、88年に鈴木慶一プロデュースでアルバムを2枚作っていて、(「MY BOY」「恋してると、いいね」) これは、傑作だから聞いとけ、と。
T:おニャン子以降も良いぞ、と。
ま:うん。
T:あとなにかありますか。
ま:えーー、「マリーナの夏」(第91位/11.3万枚) の渡辺満里奈さんの悪声にのけぞった。
T:はははは。
ま:ジャイアンコンサートですか、という。
T:まあのけぞるよね。クレームつける気にもならないですね、突き抜けすぎていて。
ま:はははは。
T:ここまでいくなら、もういいよと。がんばれと。
ま:あと、「哀愁のカルナバル」(9.3万枚)「JESSY」(7.8万枚)の河合その子さん。ヨーロピアンクラシカルで、 ラテンの匂いも漂わせという、どう考えても私のツボ。好きです。
T:ああ、その子さんはびびった。あれがこうなるの?という驚きが(笑)。
ま:これ、おニャン子?っていう。
T:あとうしろ髪ひかれ隊の曲はどれも結構かっこいい。つんくのプッチモニの曲はこのへんを参考にしたかなと思う。
ま:あ、うん。つんくはうしろゆびさされ組も参考にしているよね。
T:ユニットものとか、嬉々としてやっていただろうね、つんくは。
ま:うしろゆびも好きだな。あの伸び切ったカップラーメンのような声でないと成立しない楽曲ばかりで、素晴らしいです。
T:ははは。うしろ髪は「時の河を越えて」(第89位/11.4万枚) とか「あなたを知りたい」(9.6万枚)とか、結構好きです。んでおニャン子最後の砦というか、 最後の花火というか、静香さんがソロデビューしたんですね。 「禁断のテレパシー」(第59位/14.5万枚)、かっこよいです。
ま:うん。気合入りまくってます。夜露死苦って感じ。
T:ヤンキーロック歌謡という感じで。でも、この曲聴いたらやっぱりほかのソロと比べたら格が違う気がするよ。 後から聴いてるからかもしらんけど。
ま:ていうか、静香さんは、おニャン子解散決定後にソロデビューが決まったので、 おニャン子という縛りがなく曲が制作できた、とディレクターの渡辺有三さんがインタビューで言っとりました。
T:ああそうか。じゃあまあ気合も違いますよね。
ま:チャートを見ると面白いんだけれども、 「夕ニャン」放送終了後にチャート1位獲得したおニャン子関連楽曲って、静香のシングルだけなんだよね。
T:うーん、それはやっぱり流石というしかないな。
ま:放送中は、それこそ毎週1位獲るつもりか、という感じでインしていたのが、きれーさっぱりなくなっている。
T:逆を言えば「夕ニャン」終わったら静香以外みんな買わなくなったのか、という。
ま:てことなんだろうね、つまりは。
T:夏休みは終わった、と。
ま:ははは。終わらない夏休みが終わった、と。
T:まあ、終わりがあるから祭りは楽しいんだということで。
ま:ちなみに、オリコン1位獲得作品の最低売上記録は長年、この年の夏発売したおニャン子クラブの 「かたつむりサンバ」7.2万枚でした。そんな不名誉な記録を残しております。
T:それを打ち破ったのがつんくだったというのもまた、因果なことで。DEF DIVAだよね。
ま:うん。DEF DIVA「好きすぎて バカみたい」4.3万枚。大幅更新してます。
T:そこまでリスペクトしなくても、つんく。まあ、そんなんでも1位獲れる時代だよ、この時代も今も、と。
ま:うん。もういっそお金持ちの人がCD買い占めて、チャート荒らしたら面白いのに。
T:ははは。競馬で大量に誰かが馬券を買って、変な馬が一瞬異常にオッズ低くなったりするのと同じか。
ま:そうそう。
T:まあ実際、2chの購買運動とかでもランク上げられたりするわけだからねぇ。やろうと思えば出来るよね。
ま:うん。できるよね、ほんと。
T:まあでもこういう状況だとオリコンってほんとに数字だけでさ、それが流行歌なのかとか、 一般で流行っているのかとか、そういう意味は孕んでいないのよね、もはや。
ま:うん。そんな今のシングル不況とだぶる87年でした。
T:一昔前にもこんなチャートはあったよという、87年のシングルチャートでした。


C-C-Bの12インチを聴けっ

T:ということでシングル編はいいかな。
ま:もうおしまい?
T:あ、まだネタがありますか。とことん突き進むか。
ま:や、もういいや。長すぎる。
T:ははは。あっ、C-C-Bか?まこりんさんが語りたいのはC-C-Bかっ。
ま:あーーーー、C-C-Bいいね。
T:「ないものねだりのI want you」(第65位/13.5万枚)かっ。
ま:「原色したいね」(9.3万枚)もいい。
T:じゃあ熱く語ってください。
ま:てか、テクノ歌謡の最高峰じゃないっすか、C-C-B。もはやこの年とか、なんでもありというか・・・
T:筒美さん、楽しいんだろうなあという感じですよね。
ま:ふざけるのも大概にしなさい、という。
T:はははは。「ないものねだり〜」はでも、ラップ取り入れているからね。
ま:うん。
T:ドラゴンアッシュみたいなもんだからね。
ま:はははは。
T:そんなこととっくにやっているよ、C-C-Bがと。
ま:「ないものねだり〜」の12インチシングルがこれまたとんがっているんだ、無駄に笑える感じで。
T:12インチとか聴いてない(笑)。なんで聴いているんだ。
ま:えーーっっ、是非聴きなさい。A面が贅肉ミックスで、B面は筋肉ミックスなんよ。
T:なんだそれは(笑)。だって、聴きたくても売ってないっしょ。アルバムに入ってる?
ま:アルバムなどに入っておらんっっ。
T:入っておらんっ、ってレアすぎるよ、一般人が手を出すには(笑)。
ま:12インチを買うんだよっっ。
T:ははは、そんな、買うんだよっって凄まれても、コアすぎます。ハードでコアすぎます。
ま:や、でも、CCBの12インチはどれもこれも面白カッコいいよ。絶対フロアで踊れない、素敵過ぎる仕上がりです。
T:ははははは。12インチなのに別に踊れない、という。普通クラブ仕様だったりするよな、12インチって。
ま:フツーならね。
T:でも踊れないんだ。
ま:だって方向性がどう考えても「笑い」なんだもの。リミックスって手段を知らなくって、 テープの切り貼りで作った「Lucky Chanceをもう一度」の12インチもマジお薦め。
T:はははは、レアすぎるっての。でもねえ、うしろの正面だっあっれ! とかこれをラップさせる松本先生と筒美先生っていうのも、すごいなって思うよ。やりたかったんだろうな、っていう。
ま:12インチ盤だとね、シナチクとか天津甘栗とかフェラーリ、ランボルギーニ、とか固有名詞を連発してて。
T:なんだそれはっ。
ま:んで、「Give me Give me 君が欲しいよ」って展開してます。
T:はははは。車がほしいのか(笑)。
ま:ブランドの名前とか車の名前とか、食べ物とか、連発。「グリコ・森永・雪印っっ、Give me Give me 君が欲しいよっ」っていう。
T:それいいのか?許可降りるの?(笑)
ま:っていうか、出てしまったわけだし。
T:ハードコアテクノですね、もはや。ハードでコア過ぎる。 何考えてそんなアイテムをドロップしたんだろうね。
ま:しかもジャケットがね、ポージングしているボディビルダーに囲まれて、 ピストル持ったり扇子持ったりしているメンバーの写真という。
T:どこで手に入るんだ、そのコアな逸品は。意味がわかりません。
ま:や、素晴らしい珍品じゃないですかっっ。
T:珍なんだな、やっぱり。
ま:だってー、ねぇ……。「♪ 牛丼ひと筋八十年」とかラップされても、珍品以外の何になるのか、と。
T:うーん、まあでも、「Romanticが止まらない」一曲では、到底CCBを感じることはできないのは確かだね。「C-C-Bを感じる」ってのもなんだが。
ま:うん。 ってか、「ないものねだり〜」もさりげに展開とか結構心地いいしね。サビが何個もあるぞって感じで、めまぐるしい。
T:なんかファンキーだしね。ディスコティークで。
ま:うん、「ツイてるねノッてるね」とかとおんなじテイストで。
T:なんかデュランデュランっぽくもあるような気もしてきた。
ま:松本さんも「give me」が「君」に聞こえるような仕掛けしていたりとか、凝っているし。 全体としてクオリティーは高い。でも方向性がお笑い、という。これは凄いですよ。
T:Aメロラップ→サビ歌メロっていうのもねえ、今はありふれたフォーマットだけども、 とっくにC-C-Bがやっていますよと。
ま:そうね。みんなC-C-Bに平伏せ、と。
T:C-C-Bを感じろ、と。ってこんなんばっかりだな(笑)、吉川とか。
ま:ははははは。そうだね。
T:まあじゃあ私はC-C-Bの12インチを探す旅に出るよ。
ま:ははは。


薬師丸さんの珍品と、隠れた傑作

T:あと語りたいのは薬師丸さんの「紳士同盟」(第82位/11.9万枚) か?
ま:いやぁー。それも珍品だろ、ぶっちゃけ。
T:サビでずっこけるよね。なにこれ、って。
ま:でもこれは珍品狙いというわけではないから、ちょっとイタい感じがする。
T:♪ ほかの人に感じないと約束するわ、って言われても、引く。
ま:てか薬師丸ひろ子に、こんなものを私は求めていませんっ。わたしはっっ。ファンなんだからっ。ぷんぷんっっ。
T:だよなあ。
ま:この年は「胸の振子」(5.0万枚)が神すぎるっ。売れなかったけれども大名作。てか、薬師丸のシングルだと、「Woman 〜Wの悲劇より〜」か「胸の振子」が個人的にBEST。玉置浩二作曲作品で、こりゃ惚れるよ、という。
T:ああ、たまきんの曲か。これがきっかけだったりするのか。
ま:そうそう。思いっきりきっかけです。
T:これは良いですね。こういう凛とし佇まいの曲は薬師丸さんに合いますな。
ま:ストリングが美麗だしぃー。詞が無駄に壮大だしね。神とかいっているし。
T:千の剣とかね。
ま:伊集院静と玉置浩二という、薬師丸と噂になった2人が作っただけあって、一番いい部分を引き出しているかと。
T:ま、次のヒットは翌年の「時代」のカバーなのかな?薬師丸さんは。
ま:そうだね。
T:ちょっと潜伏期で変な曲も出しつつ、玉置さんとも出会いつつという、そんな薬師丸さんでしたと。
ま:変なって言うな。
T:だっていくら阿木・宇崎コンビでも変なものは変だものーー。
ま:「紳士同盟」は忘れてくれろと。
T:というわけで、大ボリュームになってしまったシングル編でした。




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2006.08.07
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