■ 1985年 シングルチャート
■ 1985年を振り返る TSUKASA(以下 T):というわけで、おなじみ年間チャート回顧です。 まこりん(以下 ま):今回は20年前の1985年に照準を合わせて話してみようと思います。いつものまこりんと。 T:夏バテ気味のTSUKASAです。よろしくお願いしま〜す。 ま:よろしくお願いします。って、早速なんですが、もう20年前なのね、85年。ちょっとその事実が受け入れられないのですが。 T:85年が20年前で、95年が10年前っていうのがちょっと恐ろしい感じがする(笑)。 ま:信じられない、信じたくない。ちょっと前やん。 T:ねぇ。こうやって年取っていくんだねえ。 ま:95年なんて昨日みたいなもんですよ。やだなーー、もう。と、いきなり年寄めいた感じで。 T:85年というと、日航機墜落事故とか。 ま:夏休みはあの事故一色だったなぁ。 T:KKコンビのPL学園が甲子園を席巻した年でもあるね。 ま:あったあった。 T:そういう夏の記憶だけぼんやりとあるかな。 ま:日航機墜落の日、関東地方は凄いいい天気でさぁ。夕日が綺麗だったってのは強烈に覚えている。 T:夏休みの間、ずっとワイドショーで事故のニュースを見ていた記憶があるなあ。 ま:写真週刊誌がえぐい写真とって鬱になったりもしたなぁ。黒焦げの死体とかカラーで撮ってるよみたいな。 T:いやぁ…リアルタイムで見たんですか。 ま:リアルタイムで見たよ。ちょうど写真週刊誌が全盛の頃で、めっちゃ過激だった。 T:それはちょっとショックですね。ともあれ、個人的には、ヒット曲がリアルタイムで耳に入ってきていた記憶があるのもこのへんからかなあ。 ま:あーーー、わたしはもちっと昔から覚えているけれども。 T:わずかに年齢差ありますからね。自分は、音楽意識し出した記憶っていうのはチェッカーズがいたるところで流れていたあたりなので、まさにこの年なのかなと。 ま:わたしはたのきん・聖子あたりから覚えてる。ってまぁ、それはいいとして。まず音楽的なこの年のトピックをちょっと挙げるとすると、86年からオリコンのCDチャートがはじまるのね。つまり、この年がレコードメイン最後の年になるわけで。 T:あ、そうですね。 ま:そういう意味で、ひとつの移り変わりの時期かな。あとアイドルで云うと、松田聖子の結婚、おニャン娘クラブのデビュー、中森明菜当時最年少でレコード大賞受賞。これも抑えとくべきポイントかな、と。 T:なんかいろいろ胎動してる感じですね アイドル界。 ま:80年代のアイドルの潮流がここで変わったかな、と、そんな感じもある。 T:終焉への疾走開始というかなんというか。 ま:あーーー、そうかも。終わりの始まりだ。あと、歌番組では「ザ・ベストテン」久米宏卒業、「夜ヒット」二時間化。これもポイントかな。 T:あ、「夜ヒット」長くなったのこの年なんだ。 ま:そうそう。こっから「デラックス」。 T:長くなってからしか見た記憶ないので。 ま:あー、でもわたしも月曜時代の記憶はあんまりないよ。夜10時って普通に子供は寝るし。 T:そうだね、寝てたね。 ま:「夜ヒット」はニューミュージック勢を取り込むために、ここで拡大した感じ。 T:ああ、この年は非常にこう、クロスオーバーというか、アイドルとNM・ロックというのが非常に交叉しだしている年という感じがするかな。 ま:そうね。それまでの「夜ヒット」は枠が狭かったせいか、結構決まった面子でぐるぐる回している感じだったんだけれども、ここで門戸を解放して、非常に面白い歌番組なったし。 T:だから「歌謡界」って感じじゃなくなっていくよね。ほんとこう、ドアが開いていろいろごちゃまぜになってくるという。 ま:そうね。いわゆる狭義の「歌謡曲」を扱った番組という感じでなくなって、海外のアーティストとか、ミュージカル楽曲なんかも扱ったり。女優・俳優の歌なんかも結構扱ったりしていたしね。NM・ロック系の枠が広がったというだけでなく・・・ T:定型というのがなくなって、なんでもありになっていきますね。 ま:うん。これで数字がしっかりとれていたんだから、いい時代だったなぁ・・・。 T:遠い目になってますが。おーい。 ま:はははは。戻ってきたよ。 T:これで数字とれてたんだから、とは? ま:いや、もし、こういうスタイルの歌番組を今やったとしたら、散漫になりすぎて視聴率取れないだろうなぁというか。 T:ああ、前もいつか言ったけど毎週「FNS歌謡祭」みたいな。 ま:そうね、しかもウィークリーだから売れていない人やよく知らない人もそこそこ出るわけで。それでも視聴者は食いついていたわけだから偉いなぁというか。 T:偉いというか、まだ今ほど趣味の細分化が進行していなかったということかなあ。 ま:まあそうかも。あとNM系といえば、「ALL TOGETHER NOW」ってイベントがあったのもこの年。 T:ああ、すごい面子ですよね、あれ。 ま:そうそう。まぁこれは後ほど「今だから」の項で触れると思うけれども、これはNM系のひとつのメルクマールかなと。 T:今思うと非常に象徴的なイベントかもしれない。 ま:ホント、象徴的。NM系が拡大拡散していく過程のひとつの大きなイベントだったというか。と、いうわけでそれではおさらいはここまでにして、チャートを見てみましょう。まずはシングル編から・・・。 ■ クロスオーバーの象徴・チェッカーズ――「ジュリアに傷心」「あの娘とスキャンダル」…… T:ということで年間1位はチェッカーズ「ジュリアに傷心」。5位「あの娘とスキャンダル」と8位「俺たちのロカビリーナイト」もチェッカーズです。 ま:♪ おまいまいまい、じゅりあーーー T:いやあ名曲。 ま:チェッカーズ旋風が吹き荒れているね、この年は。 T:そうですね。ただこの年はあれですね、1位でも70万枚、7位から下は50万以下と。わりかし売り上げ低調な時期ですね。 ま:レコード→CD転換期で全体が沈んでいるよね。ここから88年くらいまではアルバムもシングルも低調になるんだよね。 T:そうですね、転換期で。85年〜87年あたりまでがちょっと谷底。 ま:これはまぁ、仕方ないことかな。アーティストのパワーをもってしてもどうすることもできまへん。 T:まあ、数字というのはほかに要因もあるからね。上位に3曲送り込んでいるというのを見るべきですね。 ま:そうですね。 T:前の年も10位までに3曲入れていて。もう大チェッカーズ旋風が。 ま:84〜85年のチェッカーズというのは凄かったよ。クラスの女子のほとんどはチェッカーズのファンだった。これが後に光GENJIに全部持っていかれるんだけれども。 T:あーそうか、光GENJIにもっていかれたのか。そういえば、子供の頃毎年夏休みになると親戚の家に行っていて、そこのうちが女の子3姉妹でさ。みんなチェッカーズのポスターを部屋に貼って、下敷きとかカンペンとか集めていて。フミヤーフミヤーといっていたんですが。 ま:はははは。シールとか色々グッズあったね。 T:数年後にはそれがかーくんになってたわ、ポスターとか全部(笑)。 ま:非情だ子供は。「ベストテン」でも、光GENJIの登場でがくっとチェッカーズのランクが落ちたし。 T:まあでもチェッカーズってさ、非常に象徴的な存在だと思いません?後付けで考えると。 ま:この80年代半ばの?うん、それはあると思う。 T:そうそう。アイドルとアーティストのクロスオーバーという点で非常に象徴的だなあと。 ま:つまり「歌謡曲」的なるものと「ニューミュージック」的なるものの二層構造を止揚した存在というか――それは私の説では「J-POP」的なるものってことなんだろうけれども。 T:そうですね。もともと久留米でキャロルとかのカバーをやっていて、オリジナルをやりたいのに、与えられた曲でアイドルとして露出しているというのも、すごくこのあたりから90年代初頭までのアイドルの流れを象徴しているなあと。 ま:そうね。それはチェッカーズだけでなく、例えば吉川晃司もそうだし。 T:その逆もですね。アイドルなのにアーティスト的とかロック的なイメージを付随させていくという。C-C-Bとか。そういうクロスオーバーがこのへんから随所に見られるようになってくる。 ま:C-C-Bはアルバムでは自作メインだから、案外チェッカーズ的なのよっ、てのをひっそりいっておきたい。 T:あ、そうなんだ。ココナッツボーイズ。 ま:そうよ。だから立ち位置的にはチェッと変わらんかも。更にこの年で言えば、オメガトライブとか、中村あゆみ、それにNMサイドではあるけれども、アイドル的人気と考えれば安全地帯とかアルフィーもそうだし。 T:そうですね。そのへんはフォークとのクロスオーバーもあるし。いろんなものが混ざり合って、どろどろと胎動しているという感じ。 ま:そうね。いよいよ、カオス化しているという。そこで、チェッカーズがトップというのは、実に象徴的。 T:納得ですね。 ま:ただ、この年に関して云えば、「涙のリクエスト」で火がついた人気をそのままキープしているという感じで、さしたる新しさはないんだよね。 T:まあ自作前はずっと同じじゃないですか?ぶっちゃけ。 ま:楽曲もシングルは全部売野―芹沢コンビだしね。 T:ずっとアメリカングラフィティ路線で。 ま:青春のほろ苦さを追求している。 T:んで自作前の最後のシングルが「Song For U.S.A」って、綺麗すぎ。綺麗にアイドル時代は完結しましたという。 ま:そうね。 T:まあなんかこの超アメリカングラフィティ路線ってのもなんか、80年代だなあという感じしますけどね。 ま:まだアメリカを信仰していた時代の名残って感じ? T:そうそう(笑)。いまこんな風にアメリカに憧れたりしないでしょ。 ま:あーー、まぁ確かにそうだね。その辺は日本の成長神話とパラレルなのかも。何もかもが右肩上がりであることが信じられた時代とアメリカへの憧憬の根幹にあった時代ってのは、繋がりとして深いかも、とかそんな印象を私は受けるな。 T:景気がいいからアメリカごっこなんかできるんだよぉっていう(笑)。 ま:「アメリカという先生・日本という忠実なる生徒」っていうこの共同幻想は、ある意味懐かしいよね。 T:まあ、20年も経てば日本も変わるよなということですね。 ま:そうですね。やっぱこれは冷戦体制が崩壊したのがきっかけなのかな。 T:って話が、どんどんチェッカーズから遠くなっていくが・・・。 ま:ははははは。文化論している。 T:楽曲の話はいいですか(笑)。 ま:あーーどうぞ。 T:いや、まあ楽曲は前年の「ギザギザハートの子守唄」「涙のリクエスト」「星屑のステージ」で、パターン出尽くしている感じだけども。 ま:そうなんだよね。だから私はこの年のチェはあんまり思い入れない。 T:そうなんかい。 ま:私のカラオケレパートリーにこの三曲は入っていないのは確か。「WANDERER」とかは歌うけれども。 T:えーー「ジュリア〜」歌わないですかー。「WANDERER」歌う人のほうが希少な気が・・・。 ま:オッオッオーーーーッって叫ぶ。ま、「ジュリア」はそこそこ歌うかな。 T:まあ曲は「ギザギザハート〜」と大して変わらんけど、「ギザギザ」より歌詞が恥ずかしくないから「ジュリア」のほうが歌うな(笑)。 ま:はははは。 T:「♪ 仲間がバイクで死んだのさ」と歌うのはやはりギャグだし。 ま:やーーそれがいいんじゃん、あの歌は。 T:ははは。まあでも実に芹沢メロディというか、好きですね、「ジュリア〜」。 ま:芹沢さんは手札は少ないんだけれども、こういうのはやっぱり磐石だよね。「少女A」とか「タッチ」とか。みんなおんなじっちゃ同じなんだけれども。 T:同じなんだけどね(笑)。これらの曲の良さは、頭まで終わりまで一筆書きみたいな感じ。 ま:はははは、それは誉め言葉なのか? T:いや誉め言葉のつもりです(笑)。 ま:まぁでも正味な話、チェッカーズは「NANA」以降のセルフプロデュースからが面白いから、それと比べるとこの時期のはね。 T:まあそうですね。この時期はおんなじだから。 ま:この時期にしても、いつセルフプロデュースに転向するか虎視眈々と狙っていた時期って感じで。 T:まあ本人らにしてみたら演じていた時期という。 ま:確か「あの娘とスキャンダル」は嫌いとか、メンバーもそういうこと平気で言っていたし。 T:でもあとでタカモクとか「自作曲やらないでずっと芹沢さんの曲やるべきだった」とか言ってたり、まあ内部事情はわからんのですが。 ま:ああーーー、その話を出しますか。まあ、正直、それは聞きたくなかったよ・・・。 T:まあその、アイドルかアーティストか?とか、歌謡曲かロックか?とか。そういう相反したものにすごく巻き込まれたバンドであったことは確かですね。 ま:うん。 T:ロック側からもチェッカーズは認める、とか認めないとか、そういう発言が結構あったり。 ま:扱う雑誌とそうでない雑誌とか、色々あったみたいよね。ロック系の雑誌でも。 T:そうみたいですね。「宝島」にも「明星」にも出ておまえらはなんだ、みたいな風に、本人達の意向に関わらず、周囲からはなにかと意識されることが多い存在ではあったんだよね。今ほどいろんな価値観がフラットじゃない時代ですからねぇ。 ま:今考えると、J-POP的なる下地を作ったアーティストって感じですよね。当時は、そういうイデオロギーめいたものが必要だったけれども、この時期から「鳴っている音が全て」って方向にだんだんなっていく。 T:そういう意味でやっぱりでかい存在だったんですよ。 ま:まあ、今のメンバーの状況はあんまりにもあんまりだけれどもね。 T:ね(笑)。いいバンドだったんだから、あんまりいま内ゲバとか聞きたくないよね。 ま:フミヤもでっかい万華鏡作っている場合か?みたいな。 T:ははははは。あれは、フミヤートですから! ま:フミヤートは小学生の工作を物凄い金をかけてやっているだけみたいなもんで褒められませんッ。 T:ま、チェッカーズはアルバムもあるんで、このへんで次行きましょう。 ■ アイドルから女王へ・・・傑作連発の明菜――「飾りじゃないのよ涙は」「ミ・アモーレ」「SAND BEIGE」 ま:次は中森明菜さんが「ミアモーレ」で第二位。 T:明菜様もチェッカーズに負けず、10位以内に3曲、20位にも1曲。 ま:この年のシングルは、「SOLITUDE」以外全部入っているかな。 T:「SOLITUDE」はちょっと下がって35位(26.4万枚)ですね。 ま:明菜vsチェッカーズの85年ですね、まさしく。 T:そういうことになってますね。まあしかし、この年の明菜様もすごいですよ。「ミアモーレ」に「飾りじゃないのよ涙は」だもの。 ま:この年の明菜はちょうど転換期という感じだね。でもって傑作がバンバンと出て、その勢いでレコード大賞まで獲得した。 T:「飾りじゃないのよ〜」の次が「ミアモーレ」という流れはすごいですし、レコ大も納得かなあという感じですね。 ま:そうねーーー、ちょっとその段差は凄いね。 T:一つ頂点極めたという感じがする。 ま:「飾り〜」はいわゆるツッパリ歌謡的な路線の決定打というか、決定打であり新境地というか。 T:そうですね、「少女A」から連綿と続く流れの決定打であり新境地でありですね。 ま:井上陽水の天才的な仕事が光っている。 T:これはもうねぇ、陽水先生炸裂してますよ。 ま:ちょっと陽水自身の作品でもなかなか出ない傑作。 T:そうですね、陽水作品としてもかなり傑作ですよね。曲頭の歌詞、「私は泣いたことがない〜」以外考えられないもん(笑)。 ま:はじめて聴いたとき、陽水先生は明菜をよく見ているなぁ、と私は思った。売野先生のツッパリモノはこれと比べると平板というか。 T:ああ、「飾りは〜」聴いちゃうとね。その前のは定型的というか。絵に書いたようなツッパリという。 ま:この歌って、明菜の内面から世界を分析的に歌った歌でしょ。 T:そうですね、明菜の内面ですよねこれは。そういうのはこれまでのツッパリ路線ではなかった。 ま:この何事にも醒めている感じというのは、その後のツッパリ・ヤンキーソングでも見られないよね。冷静で、理知的であり、虚無的というか。 T:じゃあすごい強い女なのかっつったら違うしね。 ま:そうね、やっぱり状況に流されるダメさみたいなものもあって。 T:その裏の弱さまで描ききっているのがすごい、この歌詞は。 ま:ホントこれは、まちがいなく傑作なんだけれども、次がいきなりリオのカーニバルだもんな。 T:はははは。 ま:この展開の持って行き方って、下手したら大失敗する可能性ってあったと思うけれども。うまくいったよねぇ。 T:ラテンとかサンバって、基本的に陽性なものじゃないですか。リオのカーニバルだしさぁ。 ま:そうね。 T:「少女A」のイメージで引っ張ってきたのに、それをここでぶつけてしまうというのは凄いかもしれない。 ま:「北ウイング」があったからこそこの曲は成功したかな、という感じはする。 T:ああ、ああ。そういわれればね。唐突にみえて、旅情というテーマで繋がっていたということ? ま:それもあるし、「北ウイング」のドラマ性がここに繋がるのかな、と。陰から陽という詞の展開もそうだし、状況の中にインクの沁みのように歌の主人公がいる感じとかもそうだし。 T:なるほど。作詞もこの2曲は康珍化さん繋がりだしね。 ま:ただ、そこにラテンフュージョンの松岡直也を持ってきたというのはやっぱり驚き。今考えても。 T:ね。やっぱりこれアレンジが素晴らしいですよ。ホイッスルとか入っても安っぽくないという。 ま:ね。で歌はひら歌からどんどん盛り上がっていくのがいいよね。 T:Aメロ、Bメロとじわじわきて、サビでカーニバル!という感じですね(笑)。 ま:最後の「アモーレ」の3連発で「カタルシス !!」って感じだし。 T:ああ、最後の「♪ あもーーれぇぇぇ」はゾクゾクするなあ。 ま:これはやっぱり気持ちいいよ。名曲ですね。 T:歌詞、曲、アレンジ、歌唱とすべてガチッと噛みあった傑作という感じです。 ま:「飾り〜」と「ミアモーレ」の2曲は完成度高すぎる。 T:だから1年に1曲あればいいかなという傑作が2曲続けて出ているというのがこの年の凄さですね。 ま:そうですね。まさしく全盛期という感じ。 T:そりゃレコ大だよという。この2曲で「女王」という響きがふさわしい存在になったという感じはしません? ま:あ、そんな印象はあるね。「アイドル」というよりも「歌謡界の女王」というか。 T:もうなんか上り詰めたぞという。貫禄がついたというか。 ま:別枠に行った感じ、この二曲で。 T:そうですよね。んで、「SAND BEIGE」はどうですか?まこりんさん的には。 ま:あ、地味だけれども好きです。 T:まあ、この2曲に比べると地味ですな。 ま:「ミアモーレ」に続くエキゾ路線ってことなんだろうけれども。詞が好きやなぁこれは。結構幻想的で。 T:自分はサビのメロディが好きかな。でもこれ息継ぎなくて大変そう、サビ。 ま:そうね、明菜もいっていた。息継ぎないよって。 T:歌うほうにしてみたら鬼のメロディですよ(笑)。「♪星屑わたしを〜」から「♪サンドベージュ」まで一息で歌えと。 ま:ははは。都志見隆だよね、作曲。 T:都志見さんでアレンジが井上鑑さんですね。 ま:個人的には結構好きなメロディーメイカーなんだよな。確か、彼の初のヒット曲だったかと。 T:あーそうなんだ。これが出世作か。 ま:この後しばらく明菜とか研音系のアーティストを担当して、マッチの「純情物語」でジャニと仕事するようになって、今に到るというか、そんな感じだったかと。 T:人に歴史あり、と。ていうか、なんかもっと前から活躍しているイメージがありました。 ま:結構歌謡感度の高い作曲家だからね。 T:そうですよね、だからなんかそういうイメージが。 ま:湿り気が強いから、もっと古い人っぽく見える。 T:アレンジも実に中近東チックでよかです。 ま:井上さんはこういうワールドミュージックみたいのもやっていたしね。自身名義のアルバムで。 T:へぇ 。 ま:「架空庭園論」とか、いいアルバムよ。 T:つうか聴いてるのがすごいですね(笑)。 ま:ってTSUKASAさんに褒められても……。 T:まあともあれ、こっからしばらく明菜様のエキゾ路線が出てくるぞと。 ま:そうですね。エキゾの明菜。あとこの曲から衣装がコスプレし始めます(笑)。 T:ああ、そうなんだ(笑)。「DESIRE」は着物だったけども、ほかどんなのあったっけ。 ま:この曲はなんか中近東をさまようジプシーのような衣装だった。あとは「TATTOO」のミニスカスパンコールとか― T:ああうん「TATOO」はすごかった。 ま:「アルマージ」の砂漠の女王風とか、「タンゴノワール」の薔薇っぽい感じの夜会服とか。 T:まあ衣装にしても曲にしてもアグレッシブになっていくと。アイドルから女王へと・・・。 ま:そうですね。そんな感じで。 T:上り詰めていく明菜様でありました。 ■ ドラマ主題歌バブルの萌芽?――小林明子「恋に落ちて」 T:次が小林明子「恋に落ちて」。 ま:「金妻」だ。 T:「金妻」ですね(笑)。ていうかこれはちょっと金妻以外に言うことがない・・・。 ま:はははは。 T:いいメロディですけども。 ま:いわゆるカーペンターズ的なサウンドで不倫の愛を昇華した名曲という感じで。 T:メロディもカーペンターズみたいな良さがね。 ま:まんまと言われればそれまでなんですが。 T:ふはははは。 ま:そりゃリチャードも目をつけるよ、という。 T:そう、小林さんはリチャード・カーペンターのプロデュースでアルバム出しちゃってるんですよね。 ま:だから、ホントこの人は日本のカレンでした、以上。という感じで。 T:まあ、ちょっとほかの作品聴いたことがないので・・・。カーペンターズ好きらしいということしか言うことが(笑)。 ま:ただ、91年のドラマ主題歌の話で言ったように、このドラマと主題歌のつながりの緊密さが、後のドラマ主題歌バブルを導いたというのはひとまず抑えときましょう。ここが原点だぞと。 T:ああ、うん。そうですね。その流れで次が、C-C-B。ちょうどいい流れです(笑)。 ■ C-C-Bは自覚した徒花だった!――「Romanticが止まらない」 ま:「Romanticが止まらない」、この歌もドラマ主題歌でのヒット。TBS「毎度お騒がせします」だね。 T:ミポリンの出世作! ま:(今は黒歴史だけれども……) T:なかったことにしたいみたいだけども・・・。 ま:だって半ケツしているし、股間蹴っているし。 T:はははは。 ま:そりゃ黒歴史だよ。 T:辻仁成は見たのだろうか、「毎度お騒がせ〜」。 ま:はははは。いや見ているだろうよ、彼なら絶対。って失礼なこといっている。 T:はははは。まあとりあえずミポリンは置いといて、C-C-Bだ。 ま:これはテクノポップだね。シンセドラムが素敵。 T:イントロがかっこよすぎる!きたーーーっ!ってなる。もうこのいかにもテクノポップです、という感じが今聴くと結構好きなんだよなぁ。 ま:ってまぁ、C-C-Bはベストくらいは聞いときましょう、みなさんっっ。面白いよ、C-C-Bは。ファニーな魅力がある。 T:「空想KISS」とかもファニーだよね。 ま:「ないものねだりのI Want You」とか、「原色したいね」とか。このあたりもサイコ―です。 T:ルックスと声と歌詞が、それぞれ微妙におかしなことになっているのが素敵です。 ま:ははははは、珍品だよね。物凄く。 T:なんか組み合わせが変という。そこにファニーな魅力が(笑)。 ま:衣装もなんかシャ乱Qみたいだったし。 T:あーー!シャ乱Qだねぇ! ま:派手の方向が間違っているという。そうじゃないだろ、と。 T:C-C-Bは80年代のシャ乱Qということにしましょう(笑)。 ま:されてしまった。ま、マジレスすると、筒美先生テクノ化計画のリーサルウエポンがC-C-Bだったんじゃないかな。 T:はははは、リーサルウエポンて(笑)。いやルックスとかもなんかリーサルウエポン的だけど・・・。 ま:全てを破壊する(笑)。や、まぁ、筒美でテクノするときって、いつもアレンジ船山先生だったし。 T:ってことはC-C-Bってこれかなり力入れられたプロジェクトだったわけですか? ま:あーー、でもどうなんだろ。この前の曲は売野―芹沢コンビで、もろチェッカーズの「瞳少女」だし。 T:や、曲は好きだけどこのユニットで何がしたいのか目的が見えないから。 ま:ちょっと内部事情的なことを言えば、「恋に落ちて」とともにC-C-Bの楽曲って確か、TBSの音楽出版の「日音」が実質、制作していたのね。当時、日テレがバップで菊地桃子やオメガトライブ、フジがポニキャンでおニャン子を擁立していたことを考えると、TBSにとってのそういう役割を彼らは担っていたのかもしれない、と思ったりもする。 T:なるほど。なんか梨本さんのように詳しいですねまこりんさん。 ま:梨本かいな。ショック。いや密かにC-C-Bのアルバム結構持っているからさぁ。ちょっと再評価したいというのもあったり。 T:ふへぇ。 ま:みんな完全に「お笑い」枠に入れていないか、という。 T:ははは、いやお笑い枠ではないけれども、徒花かと思っていた。 ま:いや、まぁ徒花なんだけれども。彼らは自覚した徒花だったっっ !! T:自覚した徒花・・・。 ま:俺たち徒花だよな、ということを自覚して、率先して徒花性を開花させたのが、C-C-Bだった― T:ふへぇ・・・。 ま:ってことで、やっぱりそれはシャ乱Qってことなのかもしらん。 T:なんか呆気に取られている俺がいる。 ま:はははは。すまん、熱くなったよ。 T:つうか、最近なんか「Romanticが止まらない2005」的なもの出さなかったっけ。 ま:あ、出していた? T:あ、CMで使われてたリミックスのだった。ちゃんとアピールすれば再評価されたかも(笑)。 ま:いやあ、いいのよ、徒花なんだから。 T:まあちょくちょくテレビでもお姿拝めますが― ま:あーーーーーー。あーーー。 T:ちょっとお太めかなという・・・。 ま:あー。 ま:なんですかあーあー呻いておられますが(笑)。 ま:いやぁ、こう、なんというか、そこには触れないでくれろ、と。まあ、その辺を含めて、こう徒花な感じが。 T:まあ、ほかにC-C-Bのようなバンドあったかと言われると案外ね。一風堂とかも違うし・・・。 ま:シブがき隊が一番近いと思う(笑)。 T:シブがき隊なのかーー。 ま:シブがきの笑いと一番近い、C-C-Bの笑いは。 T:笑いのカテゴリーじゃないんじゃなかったのかっ。 ま:いや、そのへんのタイトロープダンサーな感じが快感なのよ。 T:タイトロープダンサー(笑)。 ま:立ち位置的にはお笑いでないんだけれども、という。あと一歩いったら、ていうぎりぎり感が。 T:ま、この人たちもひとつのクロスオーバーだということで。 ま:はははは。 T:強引にテーマに括り(笑)。 ま:無理やりまとめられた。 T:ははは。次へ行きませんか奥さん。 ■ イメチェン成功・安全地帯――「悲しみにさよなら」 ま:で、次はだりだ。 T:次は一気に9位まで飛んで安全地帯「悲しみにさよなら」です。チェッカーズと明菜のおかげで楽ですね〜。 ま:あーー、これは名曲だね。「ザ・ベストテン」では年間1位。 T:安全地帯というとそれまでの曲はこう、マイナーでムーディーでお耽美でという感じだったんだけども。 ま:そうね。夜の匂い。ホストクラブって感じ。 T:これは毛色が変わりましたね。これはもう爽やかで暖かメッセージで。 ま:そのせいか、この曲は初動はしょっぱかったんだけれども、じりじり順位を上げていって最終的に一位というパターンだった。この曲があってたまきんのソロ時代があるって感じはあるよね。 T:たまきんってアナタ・・・。 ま:ダメ? T:上品な2人なんですから。紳士による対談なんですから。 ま:はーーい。紳士たれっっ。 T:まあ、たまきんソロの世界ですよね、これは。 ま:そうね。ソニー以降の玉置浩二。包み込むような温かさという。その予兆がここにあるかな。まぁ、このあたりでいい人っぽくやっとけって戦略もあったんだろうけれども。 T:ひどい言い草(笑)。感動メッセージなのにぃ。 ま:言い方が冷たい? T:いやまあね、マンネリ回避という面もあったでしょうけど。 ま:結構、作っていたからね。「ワインレッド」の頃は。 T:ま、どっちかつったら「碧い瞳のエリス」とかのほうが好きだけども。 ま:あーー、でもどっちも好きかも。一番カラオケで歌うのは「プルシアンブルーの肖像」だが。「♪ もう離さないっっっ」て。 T:すごいとこいくなあ。まあ、これはやっぱりたまきんの声が、ぐわーっと持って行かれるものがある。 ま:はぁぁぁぁぁぁああって声がね。 T:はははは。吐息がね。 ま:吐息はいてますっていう。 T:感情に迫るというか。 ま:物真似もよくされたけど。あの歌唱もこのあたりから少しずつ自然になっていくんだけれどもね。 T:そうですね、吐息ふはふはで過剰にムーディーというのは矯正されていきますね。 ま:スタッフにもデビュー当初は「喋るな」とか言われていたのも、このあたりからだんだん喋るようになるし。 T:へぇ、そんなキャラクター作られていたのね。 ま:北海道の訛りがひどくて、ぜんぜん直らなかったんだって。 T:はははは、それか。 ま:歌はムーディーなのに、MCは……。 T:ははははは!それはまずいよね(笑)。 ま:それでスタッフから「お前はしゃべるな」と。 T:「ワインレッド」どころじゃないよね。 ま:本当は朴訥な旭川のお兄さんだから。アーバンでムーディーな夜の遊びとか知りませんから。 T:ねぇ。「田園」のプロモとか耽美と程遠いしね。 ま:野良仕事だし。 T:謎の中国人だし。初期安全地帯はなんだったんだっていう。 ま:しかたないっしょ。曲はムーディーなんだもん。 T:ははは。陽水さんがそういう詞を書くんだもん、と。 ま:まぁ、だから、そういった意味ではたまきんが少し自分を出して、それがヒットしてよかったね、って曲ではある、「悲しみにさよなら」は。 T:そうね。いい曲ですよ。 ま:この曲がなかったら、もっと早い段階で失速していたかな、と思ったりするしね。 T:あー、「ワインレッド〜」路線から脱却できないと駄目だったでしょうね。 ま:ともあれここで「陽水の子分」という印象はなくなったよね。 T:まこりんさんとの対談で何度も触れているけれど、固定イメージとの戦いというのはやっぱ避けて通れない。 ま:やっぱり、そこをさりげなくサバイブしている人は残るよね。明菜もこの年に唐突にエキゾに行ってしれっとしているわけだし。 T:うん、というかそこを上手くやれないとやっぱ残らない。そういう意味ではこの曲も重要なヒットだったかな。 ■ 現在へ至る聖子の転換点――「天使のウインク」 T:というわけで10位。 ま:聖子ちゃんだね。「天使のウインク」。 T:あー、この曲子供の頃好きだったなあ。 ま:そういえば、TSUKASAさんの聖子に対する認識を私は今まで聞いていなかったな。そこんところが聞いてみたい。 T:えっ(笑)、いや嫌いじゃないですよ別に。 ま:いや、どういう認識で見てらっしゃるのかなぁ、と。 T:もう松田聖子は松田聖子でしかないという存在、かと。 ま:それかい結局。 T:なんかなんだかんだあっても「聖子だしなぁ」という、そういう存在までいった、と。 ま:まあ、いちいち文句を言えない感じではあるよね、いまや。もうそういう人なんだから、という。 T:文句言ったほうが馬鹿らしいというか(笑)。まあ、存在感の人ですよもう。あとはまあ、結婚前の映像とか見たら物凄くかわいい。今見てもかわいい。 ま:あーーー、そうねえ。 T:今あんな子近くにいたら惚れる(笑)。 ま:アメリカに行く前は純粋にかわいいよね。アレがこう、だんだんなんだかわからない領域に……。 T:うん。そういう感じです。って、楽曲の話にいきましょ。 ま:で、この「天使のウインク」は非常に「ザ・聖子」って感じしません。 T:うーん、なにが「ザ・聖子」なのかあんまりわからないんだけども。 ま:ミュージカルのような展開とか、砂糖菓子のようなくどい甘さとか・・・。 T:ああ、少女的ですよねぇ凄く。 ま:「なんだか良くわからないけれどもポジティブ」というか。 T:ものすごく全体的にキャピキャピした感じ。 ま:そういった全体のトーンが、「ザ・聖子」だなと。結構、松本隆が絡んだものはそのあたりを抑えている物が多いけれども、これは全開だな、という。 T:絵に書いたような少女チックさ、という感じはするかな。つうか今こんな歌歌えないよね。 ま:ははははははは。 T:こんな女の子いないもん。 ま:いやーー当時もいないだろ。ぶっちゃけ。 T:はははは。そうか。そこがいいんだろうな。 ま:人工的なんだよね、つまりは。 T:幻想ですよね。 ま:ディズニーランドのような。架空の少女趣味というか、あんまり血が通っていないのね。 T:うん。それをして「ザ・聖子」というならばこの曲はもうかなり全開ですね。当時の聖子ちゃんに「♪ 約束を守れたなら〜」って歌われたらやっぱ萌えると思うもん。 ま:結局それかい。 T:聖子たんはぁはぁ、と言っていると思うもん。 ま:はぁはぁいってるところで悪いけれども、ちょっと生臭い話していい? T:生臭いって(笑)どうぞ。 ま:「天使のウィンク」のリリース前後に、芸能史でも語り継がれている松田聖子の大立ち回りがあったってことは一応言っておこうかな、と。 T:出た、梨本さんだ。梨本まこりんだ。 ま:梨本と一緒にしないでっっ。確か「天使のウインク」リリース一週間前に「生まれ変わったら一緒になろうね」で、郷ひろみと離別記者会見があって。 T:あーそうか。このときか。 ま:で、ヒット中に神田正輝との婚約。でもって、「ザ・ベストテン」ランクイン最終週には「結婚・休業のため最後の登場」という、物凄い展開を彼女はみせたのね。 T:展開はやっ。 ま:一連の聖子のスキャンダル・ドラマのバックグランドにこの曲があったということは、一応いっておこうかと。 T:こんなキャピキャピした歌の裏で。 ま:どろどろした女の天秤ばかりがあったと。だから、そういった意味では「今の松田聖子」の原点ではあるかなという感じはする。 T:はははは。 ま:今の聖子って、歌では徹底してキャピキャピしつつ、スキャンダルはグログロって、そういうスタイルでしょ。 T:私は結婚前の聖子ちゃんと今の聖子は別の生物だと思っているので。違う生命体だと。 ま:はははは。言ったな。 T:多分この曲歌ってるときに入れ替わったんだよ。前の聖子ちゃんはUFOで拉致されたの。 ま:なんだかなー。まあその「大切なあなた」とかいって外人と平気な顔して寝ているよ、っていうのの発端はここかな、という。 T:はははは!歌のリアリティねえええっていう。 ま:完全に歌の世界と本人の世界が乖離していく、という。それが今の彼女の魅力なんだろうけれども、その原点を突き詰めると「天使のウインク」かな、と。 ■ 「卒業」バトルは斉藤由貴に軍配――斉藤由貴、菊地桃子、尾崎豊、倉沢淳美 ま:ってわけで、ベストテンは終了。 T:あとはいつもどおり11位以下から気になったところという感じ? ま:TSUKASAさんが語りたいものは? T:とりあえず11位が菊池桃子の「卒業」なので、斉藤由貴と尾崎豊を合わせて「卒業」バトルがあったというのは触れておかねばならないでしょう。 ま:やっぱりそれかい。 T:同じ週に出たんだっけ? ま:いや、週は違ったかと。二、三週ずれていたかな。 T:3曲同時に10位に入った週ありますよね?なかったっけ。 ま:尾崎は10位に入ってないよ。斉藤と菊地はある。ベストテンでも二曲続いて「卒業」って回があった。 T:あ、そっか。まあ同時期に同タイトルの曲が3曲ヒットしたという、なかなかない出来事でしょうね。 ま:倉沢淳美の「卒業」も、忘れないでやってくれ。 T:すまん、知らん(笑)。 ま:俺も聞いたことない(笑)。 T:ないんかいっ。 ま:知識として知っているだけ。だってわらべに興味ないし。一番売れなかったし。 T:確かに(笑)。まあしかし、でもこれ菊池桃子のより斉藤由貴のほうが圧倒的に名曲じゃね? まああーーーそれはもう。斉藤由貴が全てを持っていってしまった。 T:ねえ、ダントツでもう斉藤由貴ですよ。 ま:詞・曲・アレンジともに出色。 T:由貴ちゃんのほうは年間34位(26.4万枚)ですけどもね。 ま:これはデビュー曲だからなぁ……。これでも善戦かと。 T:とはいえ、エバーグリーンな名曲度はもう・・・。 ま:こっちでしょ。 T:ですね。 ま:で、いつもの尾崎な「卒業」もまたこれはこれでいい。まぁ、この青さってどうよ、と今聴くと思うけど。 T:いまだに校舎の窓ガラス割れてたってニュースが絶えないからね(笑)。ある意味エバーグリーンですよ。 ま:まあ、そうね。由貴ちゃんが表面としたらこれは裏面って感じだね。青春の焦燥とか、暴力性とか、そういうのが出ています。って、まぁ、いつもの尾崎なんですが。 T:この曲みたいな学校への反抗心って、古臭くてもう尾崎の歌は現代に通用しないっていう論もあるんだけども、なんかね、今でも通底してるものっていうのもやっぱりある気もするんです。 ま:いつの時代も中高の頃って、こういうもんだと思うけれどもね、私は。そこまで社会が変わっているようには思えないし。 T:何かに縛られているという疑問とか不満とか、支配の外に何かがあるという思いとか、そういうものは現代でも別に失われていないと思いますね。 ま:通過儀礼として、そういうのは必要だとも思うし。そういうのがないまま大人になるのってちょっとそういう子は信じられないな、私は。 T:まあどっちかというとネタ的に使用されることが多い曲なんですけども、いい曲ですよやっぱり。 ま:今でも中高生は本気で聞いているでしょ。 T:んー、どうなんだろうねぇ。 ま:私の世代にも、尾崎豊の歌詞をプリントの裏とかに走り書きしている子とかいたし。 T:ていうか今も当時も関係なく、斜めに聴く人も本気で共感し得る人もいるということだと思う。 ま:そういう歌だよね、尾崎豊の歌は。 T:リアルタイムだってプッってなる人はなるでしょ、尾崎は(笑)。熱いし。 ■ アイドルの無自覚性の象徴・菊池桃子――「卒業」 ま:ってわけで、ランクインしている桃子には触れていない私たちがいる。一番売れたのに…。 T:はははは。桃子のはあんまりだなぁ。 ま:まぁ、正直言って菊地桃子人気が一番盛り上がったところにこれがドロップされたというだけで、これだからこそという必然は感じられない。 T:桃子さんは別にこれじゃなくてもほかにいい曲あるしね。 ま:「愛は心の仕事です」とか? T:ラムーじゃないッ!! ま:「少年は天使を殺す」? T:ちがーうッ!!「TOKYO野蛮人」でも「青山Killer物語」でもありませんッ! ま:いや、ラムーもいいよ。あの薄いブラコン具合もいいもんだよ。 T:いや面白いけどさラムー。 ま:歌詞変だし。 T:歌詞ラリってる。 ま:「♪ ハートがきゅっきゅ」だし。「♪ あいまいみーまいん」だし。 T:黒人がいる必要性とか・・・。 ま:ブラコンだからでない? T:そんな、安易な(笑)。 ま:だってカルロストシキ&とオメガトライブにもあの頃黒人入ったし。黒人入れようって、プロデューサーは思ったんだよ、きっと。 T:ブラコン→黒人なんだ。 ま:桃子に足りないもの、それは黒さだ。よって黒人加入。 T:はははは。もう何がしたかったんだかわからない。って、ラムーの話はいいんですよ。 ま:まあ、素直に言えば「Broken Sunset」や「もう逢えないかもしれない」あたりが一番好きです、桃子は。 T:そうね。俺も「もう逢えないかもしれない」だな。 ま:「もう逢えないかもしれない」は、秋だなぁ・・・という。アイドルらしい明解な切なさがある。 T:胸キュンしてなんぼというね。 ま:そういった意味では、「卒業」の秋元康の詞は薄い。 T:うん、この歌詞はあんまり迫らないですね。 ま:やっぱり平板なんだよね、秋元康の歌詞って。特に女性歌手の作品だとそれが顕著に出る。 T:なんかね、「秋元マニュアル」みたいなものに当てはめて作られた、というかなんかこう、上手く言えないけど。感情よりこう手練手管に目がいかされるというか。内容よりコンセプト勝ちというか。そういうのが多い気がする。 ま:確かに小道具とかに語らせるというのは上手い。そのかわり内面描写がすんごい雑。 T:そそそ。 ま:なんかぺらっぺらだな、という。そういったところで歌手に対する思い入れを導きかねている部分が多い。 T:手際は上手いけどぐっとこないという、そんな感じで。 ま:うん。で、いちおう、秋元だけでなく桃子本人について言うと、アイドルの無自覚性(=無垢)を象徴したようなアイドルが菊地桃子なんでないかなぁという感じはする。本人の主張がまったくないというか、本当にただニコニコ笑っている、という。 T:ああ、だんだん80年代後半になってくると古臭さを帯び始めてくる、いかにもなアイドル像。 ま:そうそう。 T:それの最後の一線というか。おニャン子にぶち壊されたアイドル像の最後、かな。 ま:そういうアイドル像を彼女は一手に引き受けていたという。実際、それが虚像でなく、どうも実像に近いというのも驚きだしね。桃子の場合は。 T:ははは。あんまり歌以外の桃子さん知らないのでわからんけど。 ま:いまだにこれといったスキャンダルも暴露もないし。いまだに無個性な「いいひと」であり続けている。 T:ああ、そうね。ドロドロした話は聞かないなあ。 ま:これが演技であるとしたら、物凄い演技派だな、という。 T:全く自我を感じないですよね。 ま:かといって西村知美のような電波枠にもなっていないし。だから、すごいなぁ、と。 T:電波枠(笑)。そうね、なんか西村知美にも似た雰囲気ありますけど全然そっちには行ってないね。 ま:彼女にはまったく危なっかしさがないのよ、未だに。 T:だからラムーとかも素直に受け入れちゃったのかなあ。 ま:そうかもね。って、ラムーは素晴らしいんだってば。 T:ははは。 ま:あれは最高のプロダクトだっつうのッ。アルバムを聴けっつうのっっ。 T:聴きたくても売ってないよぉー。 ま:えーーー、100円で落ちていたよ。 T:えー、見かけたら絶対買ってますよそれは。 ま:ということで、話が落ちたようなので。次ですか? ■ NMのメルクマール「ALL TOGETHER NOW」――松任谷由実・小田和正・財津和夫「今だから」 ま:「今だから」は前フリしたので入れなきゃね。 T:そうですね。 ま:えーと、これは、「ALL TOGETHER NOW」ってイベントで生まれた楽曲です。「国際青年記念 ALL TOGETHER NOW by LION」ってイベントがありまして、1985年6月15日、国立競技場で開催したんですが、これがまぁ、とんでもないビッグイベントでして。 T:参加した面子がねー。 ま:参加アーティストが20数組だったのですが、もう、当時のNM・ロック・フォーク系アーティスト大集合というイベント。で、参加アーティストなどの詳細は、詳しいレポートを書いてらっしゃる方がいたので、こちらを参照させていただいて。 T:読んで想像するだけで凄いですね(笑)。 ま:もう、これは当時大人だったら絶対見に行っていたって面子ですよね。 T:これはねぇ、絶対行くよね。旅費出してでも行くね。 ま:大物は中島みゆき以外は全員という感じで、ほんと看板に偽りなしという大イベント。 T:だからこれがそのまま日本のフォーク・ロック・NMの歴史という感じですよね。 ま:だから、ほんと中津川フォークジャンボリーから85年までの全て、というライブであったともいえるかもしれないわけで。 T:ほんとによく集まったよなあこの面子が。フォーク組の大御所、ティンパンにはっぴぃえんどってもう、まさに日本のフォーク、ロックからNMに至る歴史がここに一つになったという。 ま:それは本当に思うよね。企業にそれだけお金があったっていうのもあるだろうしね、この時期は。バブル狂乱以前で、どの大企業も余剰資金があった頃だし。またNM系のアーティストがまだ市場が小さくて、お互いが緊密だったというのもあるだろうし。サディスティック・ユーミン・バンドも見てみたかったなぁ。 T:いやあこの面子なら見たい組み合わせありすぎですよね。同時にこう、フォークもロックも、歌謡曲でないものはなんでもNMになっていく。そして最終的にはNMも歌謡曲もなくなっていく、その流れの象徴的なイベントという気がするのですが。 ま:なんというかこのイベントは、「非歌謡曲」として傍流であったNM・フォーク・ロック系の大同団結運動というか、そのひとつの成果という印象がある。 T:このあたりからなんでもありになっていくからね。 ま:結果、そういったものはその後拡大、拡散していって、ジャンル自体の意味性を失っていってみんなJ-POPになっていくんだけれども。 T:だから「なんでもNM」になったものが、結局「もう一つの歌謡曲」になってしまったというか。どこがどう違うのよ、っていう。 ま:結局融和していくんだよね、全てが。 T:そうなっていきますよね。 ま:ジャンルとしての独自性というか、イノセンスなままであることができなくなる。その端緒がこのイベントだったのかな、と。このイベントソングの「今だから」も、NM的なものの拡大と拡散とその勝利の凱歌、という感じで。まぁ、特にどうというわけでもないといったらそういう感じなんだけれども。 T:曲自体はね、なんともですよね。 ま:リリースしたということが意味があるという。小室全盛の頃の「You are the one」とかこの年の「We are the World」とかみたいなもので、メルクマールとして、という。 T:この曲だけCD化されてないんだっけ、ユーミンで。 ま:そうかも。 T:まあ、されなくていいよねこれは。 ま:はははは。まあ、ねぇ。色々権利が面倒くさいだろうし、したところでメリットあるようにも見えないし。 T:こういうイベントがありましたよ、という記念みたいなもんで。すごい名曲でもないしね。 ま:まぁ、ともあれ85年を象徴する一曲ではある。 T:NMが勝ったんだ、という。いったい何に勝ったんだ。 ま:歌謡曲に。 T:やっぱそれか(笑)。 ま:ただ、こうしたビックイベントが企業主体で行われた、ってことは押さえなくてはならないことだと思う。 T:なんかねえ、そっからやっぱずれてるよね。 ま:NMとかフォークって、もともとがリスナーとアーティストの草の根からスタートしたものでしょ。それこそ中津川フォークジャンボリーとかさ。「俺たちが支える」みたいな。 T:うん、理念としてはそうですよね。 ま:そういう共同幻想が全体を貫いていたけれども、結局これは大資本が主催したイベントであるわけで。そこに、J-POPの「数の論理」の萌芽が・・・といったら穿ちすぎ? T:結局もう一つの歌謡曲が生まれましたということかい?っていうことですよね。 ま:そうそう。 T:だから結局全部J-POPへ辿りつくという。 ま:結局資本力を持つメーカーや放送媒体を使った、もうひとつの歌謡曲になったという。 T:まあだから非常に記念的なイベントですよね、今振り返ると。感慨深いというか。 ま:勝利はしたが、企業のイメージ戦略の尖兵になった、と。ミイラ取りがミイラになったという。 T:まあ感慨もなにも、おれらはこのとき小学生だったけどね。 ま:リアルで知らないんだからな。 T:ははは。見てきたように語っているけども、知りません(笑)。 ■ ポプコン最後のヒット――トムキャット「ふられ気分でROCK'N ROLL」 ま:もうひとつ、NM的なものの変節と終焉という意味合いで「ふられ気分でROCK'N ROLL」を語りたいです。 T:トムキャットかい。 ま:や、特に楽曲的なことを語るつもりはないんですが、「ポプコン」発の最後のヒット曲ってことで。 T:あ、そうなんだ。最後か。 ま:えーとこの翌年、86年にポプコンは終了するのね。だからラストはここかと。チェッカーズを輩出したライトミュージックコンテストはミュージッククエストと名を変えて、椎名林檎を見出したり、と続いているけれども、ポプコンはここで終了。 T:ポプコンの最後がテクノポップっていうのもなんだか、それでいいのかという気がするね(笑)。 ま:だから時代が変わったというか、役割が終わったんだろうな、という。 T:そうですね。いや、この曲にそんな感慨があったとは(笑)。 ま:何でも見出しますよ、わたしは。 T:ねぇ。 ま:コッキーポップ(ラジオ、テレビ)・ポプコン・世界歌謡祭の三位一体によるメディアミックス型のプロモーションってのがヤマハ戦略のメインだったんだけれども、コッキーポップは83年頃に終了して。で、世界歌謡祭が89年頃終了かな。 T:世界歌謡祭ねぇ。見たかったな。子供の頃存在を知らなかった。 ま:あーー、でも私も見た記憶がない。っていうかラテ欄見て、知らない歌手ばかりだったのでスルーした。 T:すごい面子出てたんでしょだって。スティービー・ワンダーとかロッド・スチュワートとか。どうやって出させたの、っていう。 ま:子供だから気づかんかった。 T:わからんよねえ、まだ。そこにチャゲアスとか一緒に出るという。 ま:シュールだ・・・。 T:はははは。今やってたらほんと絶対見るね。 ま:ともあれポプコンはNM・ロック系のアーティストの登竜門で、結果大賞とってヤマハでデビューしなくても色んな人が入賞していて、佐野元春なんかも出ていたかな。 T:甲斐バンドもだっけ? ま:甲斐はどうだっけ?井上陽水も「紙飛行機」で出ている。 T:世良さんはそうだよね。 ま:世良はヤマハ所属だし。あと庄野真代とか渡辺真知子、八神純子・・・ T:あみんとか因幡晃とかクリスタルキングとか。 ま:とにかく、70〜80年代前半のヒットファクトリーだった。 T:そしてトムキャットへと。 ま:で、終わったという。だからまあ、旧態依然とした「NM的なもの」というものがここで終わったのかなぁ、という。そういう印象がある。 T:一方、「ALL TOGETHER NOW」では新しいNM=もう一つの歌謡曲が生まれましたと。 ま:そうそう。で、それがJ-POPの原初にあるものではないか、と。 T:テーマとしてはやっぱりそんな感じですね、この年はね。 ま;うん。あと、一方の歌謡曲の人材輩出所である「スター誕生」も、同時期に岡田有希子を最後に終了していたりもするのね。 T:あーー。 ま:これがパラレルというのが時代のいたずらだなぁと。 T:終わっていくもの、始まるもの・・・という感じですね。 ま:音楽オーディションにおける「アイドル系→スタ誕」「NM・ロック系→ポプコン」という15年近く続いた構図がここで終わった。ここでの終わりと始まりが、4、5年後に来るわけですよ。オーディションの形態の変化が、実際のアーティストの変化へと、という。 T:後から振り返るとやっぱりこう、流れというのが軸上に見えるんですね。 ま:うん。だから歴史を紐解くというのは面白いですね。 T:そうですねぇ。だから89年にやった対談の内容の萌芽が、この年にあるという。面白いですねぇ。というところでシングルは終わっていいですか? ま:はい。 T:もっと下のランクとかいいですか?吉川とか― ま:吉川はアルバムがベスト20に引っかかっているのでそれで・・・。 T:「涙のtake a chance」は。 ま:ははははは。それかい。 T:ありますけども(笑)。 ま:慎吾ちゃんは、まぁ、いいです(笑)。 T:じゃあ、シングルはこの編で。 アルバム編へ続く |