ということで、読んで字のごとくアイドル歌謡アルバムの個人的ベストテンです。 基本1歌手1タイトルという縛りで、そんではいってみましょ。 ちなみに選考の基準はアルバムとして統一性があり、一曲目からラストまで一気に聴ける。 でもって捨て曲がない。ってところかな。普通の判断ですな。 ■ 中森明菜 「Stock」 (88.03.03/32XL-193/最高位2位/売上 39.6万枚) ひとまず明菜でしょっ、ってことでこれ。 Sex+Violence=Stock。 80年代の明菜のベストアルバム。 ハードロック調の楽曲にエロティックな歌詞、それを明菜は悪魔的な声でもって歌い倒す。 このアルバムにたどり着くまでに「D404ME」「不思議」「クリムゾン」「Cross my palm」と煮え切らない試行錯誤のコンセプトアルバムを出した明菜だが、ここで開花。完全に自分の声を掴んだように見えた。 が、翌年には自殺未遂事件を起こし再び長い低迷期(??)を迎える。 ■ 松田聖子 「Citron」 (88.05.11/32DH-5040/最高位1位/売上 36.5万枚) 松田聖子と松本隆がたどり着いた最後の岸辺。 L.A録音、デビット・フォスタープロデュース。 松本隆による松田聖子のアルバムはどれも良盤だが、聖子の声が一番よく出ているということと、デビットフォスターのサウンドプロダクション、また聖子の松本隆作品の白鳥の歌ということでこのアルバムを推す。 松本の詞がいつにもまして鋭い。これで「聖子作品はラスト」という緊張感が詞からにじみ出ている。 「別れを決めたのは 私の過ちね」 以降松本隆とサンミュージックを離れた聖子は自身のプロデュースによる駄曲制作時代へなだれこむ。 ■ 斉藤由貴 「風夢」 (87.07.21/D32A-0281/最高位1位/売上 21.3万枚) 斉藤由貴はアイドルには珍しいアルバム・アーティスト。 「ガラスの鼓動」以降の作品ははどれもよいが、「風夢」は武部聡志、崎谷健次郎、谷山浩子などおなじみの面子の他、飯島真理がなかなかいい仕事をしている。 また、松本隆レベルの詞作をこなす「作詞家としての斉藤由貴」もこの盤では絶好調。 「体育館は踊る」「眠り姫」「風・夢・天使」地に足のついた少女趣味を披露、全5曲を担当している。 また三角関係を描いて秀逸な谷山浩子作詞の「ひまわり」、イメージピデオが美しい「街角のスナップ」(溝口肇のチェロもいい)などもよい。 ■ 南野陽子 「Virginal」 (86.11.01/32DH-540/最高位2位/売上 19.5万枚) 由貴とくれば次は陽子でしょ。 東の由貴に、西の陽子。 横浜の由貴に、神戸の(正確には伊丹なのだが)陽子。 港町が生んだ80年代のお嬢様アイドルの両雄。 「bloom」と悩んだけど、こっち。 ナンノの初期作品はまさしく「高校生版ユーミン」の世界。 ユーミン傘下の田口俊のきめの細かい作詞、斉藤由貴における武部聡志のアンチテーゼともとれる萩田光雄のアナログ編曲。 んーーー、すばらっしい。 「ベルベット・シークレット」「海のステーション」「黄昏の図書館」「私の中のヴァージニア」など佳曲が並ぶ。 「曲がり角蜃気楼」は特に傑作。 「かすんでいく私が 花になっても 雪になっても 思い出してね」 そうそう、大晦日の夜、六甲山から神戸港を見下ろしている二人を描いた「ニュー・イヤー・イブ」。 間奏にフランソワ―ズ・アルディーの「さよならを教えて」のワンフレーズが挿入されている。 こういう遊び心、私は大好きです。 ■ 薬師丸ひろ子 「花図鑑」 (86.06.09/CA32-1260/最高位2位/売上 17.8万枚) 藤田正氏いわく「仏壇の薄煙の向こうの世界」。 彼岸の香り漂う神秘的な一枚。 松本隆プロデュース。 薬師丸の魅力はやはり神秘性なのだと感じる。 神々しさというか、宗教っぽさと言うか。 ま、出自が角川春樹プロデュース所以というところはありますが、な。 作家陣は細野晴臣、コシミハル、筒美京平、井上陽水、中田喜直、モーツァルトのカバーなんかもある。 ともあれ、モーツァルト、中田喜直作品がアイドルポップスとして成り立ってしまうのだから、凄い。 「かぐやの里」「花のささやき」が個人的ベスト。 「天国の扉が静かに開いて 天使たちが歌う ようこそ ここへ」 ■ 河合奈保子 「さよなら物語」 (84.12.05/AF-7370/最高位11位/売上 6.7万枚) 全曲売野雅勇ー筒美京平作品によるアルバム。詳しくは「河合奈保子アルバム レビュー参照」 ちなみにこのアルバム、CDのものはびっくりするくらいプレミアがついてます。 ヤフオクとかも大変なことになっている。 かくいう私もレコードでしか持っていない。 というのも奈保子のアルバムでは不思議とこれだけが再販が一度もないという。 なんでだ、コロムビアーーーーー。 96年の廉価盤再販時も「デイドリームコースト」の次はいきなり「ナイン・ハーフ」に飛んでたし。 いちおうオンデマンド商品のR盤で今でも入手は可能っちゃあ可能ですけど……。 ■ 岩崎良美 「Cecile」 (82.06.21/C28-0220/最高位??位/売上 ??万枚) アイドルが格上を目指す時の一つの手段として使われる欧風路線に良美も突入。 「ヨーロッパの香りをあなたに!!」のコピーそのまんまに安井かずみ・加藤和彦夫妻の手による良美の王道ヨーロッパ系歌謡アルバムが、これ。 他に大貫妙子、金井夕子(青木茗)、パンタ、清水信之などが楽曲提供。 この手の路線ではなにかとお嬢っぽくおしとやかな歌唱になりやすいものだが、おきゃんに飛び跳ねる良美の躍動感がよい。 「初めてのミント・カクテル」。 これ、宮本典子に提供した「ニューロマンス」そのまんまじゃないですか、加藤先生。これは思いっきりタンゴ。 「どきどき旅行」。 初めてのハワイ旅行目前にハイテンションの良美。サビの「のぼりつめて行かせて ハワイに行かせて」はあほっぽくて素敵。 吾妻ひでおも気に入るはずだ。曲調はイタリアン・ツイスト??サーフ・ロック?? この詞を参考にしましたよね、つんくさん。松浦の「トロピカール恋してーる」ですよ。 ■ 高岡早紀 「Sabrina」 (89.06.21/VDR-1616/最高位25位/売上 1.9万枚) こちらも加藤和彦プロデュースのアルバム。 高岡早紀の名作群は80年代アイドルポップス最後の華だと個人的には思われ。 とにかく聴いたことないというなら、ぜひとも聴くべし。 他アイドルとは一線を画す高貴さが高岡アルバムのポイント。 どのアルバムもよいが、80年代縛りなのでこれ。 (個人的には「Romancero」が一番好きなのだけどね) 加藤和彦他、安井かずみ、清水信之、千住明、サエキけんぞう、特に森雪之丞が最上の詞を提供している。 「ナイフの鳥、綺麗な石」など、冴えまくり。 個人的ベストは「真夜中のバレリーナ」。加藤和彦本人のアルバム『Venezia』(超名盤、聴くべし)からのカバー。 千住明の弦のアレンジがよい。 高岡のウィスパー唱法もすばらしく、歌手活動が短命だったことが悔やまれてならない。 というか歌手活動は元々プライオリティー低目設定だったんだけどさ、彼女。 ■ 河合その子 「Rouge et bleu」 (87.07.22/32DH-697/最高位6位/売上 5.3万枚) おにゃん子の唯一の良心といっても過言でない河合その子の4枚目。 プロデュースはCBSソニーの稲葉竜文(当時は小林麻美の担当でもありましたな)、後藤次利に河合その子本人。 おにゃん子・キャンディボイス時代と後期の自作曲時代の端境にある作品。 板についたおフランス風味と実はものごっつ歌唱力があることを披露したアルバムでもある。 「Jessy」の歌詞差し替えバージョン「ジェシーの悲劇」、「乾いた地図」、「雨の木」「哀愁のカルナバル」など秀作が並ぶ。 が、以後は自己のアーティスト性とアイドル性のタブルバインド状態になって作品としては良作を残していくものの、セールスの結果は残せなかった。 ていうか「雨のメモランダム」以降シングル出したの??彼女。テレビで歌ってるの見た記憶がないし。 ■ 岩崎宏美 「偽夜曼」 (85.06.05/VDR-1060/最高位13位/売上 7.3万枚) 岩崎宏美は80年代にはすでに楽曲・存在ともにアイドル歌手という範疇ではなかったが、+1としてえらびたい。 80年代前半は「聖女たちのララバイ」の陥計にはまってしまった彼女だが、事務所からの独立、三貴のバックアップのこのアルバムでようやく「聖女たちのララバイ」の重力から離れることに成功した。 全作詞担当は松井五郎で、タイトルは全部漢字3文字(シングルの「決心」だけ2文字だけど)歌詞の女性像も20代後半で仕事を持ち、自立し、恋も自由も手に入れるわがままな女性といった感じで統一している。 (この女性像っては非常にパターンにはまった女性ファッション誌的だけど、「聖女たちのララバイ」のすぶずぶの女性像を振り切る為には仕方なかったんだろうな) 作曲は山川恵津子、奥慶一、滝沢洋一など。 結果アルバムとしては「聖女たちのララバイ」所収のアルバム『夕暮れから……ひとり』以来のヒットとなり、「cinema」「わがまま」「よくばり」「me too」と結婚まで続く彼女のアルバムの基本になる。 「恋孔雀」。こういう濡れた感じがなんで今まで出せなかったのかなと思うほどいい。 あとは、「唇未遂」のつっぱね方、「夏物語」の追想、「夢狩人」の魔性あたりが個人的な聴き所。 え、これだけ?? あの名盤が入ってねぇじゃねぇかよーーーー。 あのアイドルはハブかよーーーー。 そう思いました?? では、そんなあなたと私のメドレー、「80年代アイドルよ永遠に」いってみよーー。 惜しくも選からこぼれたけど、こんなのもいいよねってことで。 早瀬優香子「ポリエステル」 戸田誠司プロデュース。フレンチ・ロリ・ポップの名盤。テーマは亜熱帯の島の一日。優香子、熱射病で呂律が回ってません。 中山美穂「ONE AND ONLY」 鼻から斜め前におもっくそ力を入れたミポリン歌唱がここで出来上がる。このミポリン歌唱、生歌では耳障り悪いのがレコードでは一転コケティッシュにきこえるから不思議。「エキゾチック」も名盤だがミポリンのパブイメージからいったらこちらだろう。 工藤静香「ミステリアス」 静香のデビュー時はデビュー期の聖子並みの速球派の投手だった。小細工なしにズバッと決める。「すべてはそれから」。このぶっちゃけ感こそが静香の魅力。 松本伊代「センチメンタル・ダンス・クラブ」 伊代の戸板女子短大時代の青春グラフティー。50年代がかっているのは売野雅勇のせい。伊代はこのあと短大を出て短い大人の夢を見ます。そんな「風のように」以降も必聴。 長山洋子「オンディーヌ」 アイドル時代、彼女が唯一残したまともなアルバム。アルバムとおして一貫した物語を紡げる実力はあったのに運にもスタッフにも恵まれなかった彼女だがこれは、いい。「ハイウェイ物語」「アリス」を聴け。結局安いカバー歌手としてアイドルの役割を終えてしまったのだからもったいない。 荻野目洋子「ノン・ストッパー」 一方の荻野目はコンセプチュアルなモノより安っぽいユーロビートのほうが彼女の高音の抜けがよくコロコロッとした声質にあっていたのにスタッフは高級志向に向かったんだから皮肉なもの。「流行歌手」はこのアルバムの90年代版ってところでこちらもなかなか。この延長線上に安室奈美恵がくる。 柏原芳恵「しのび愛」 80年代に日本のコンテンポラリーミュージックが失ったもの、それは「歌謡曲」なのだと思う。芳恵はその「歌謡曲」最後の歌い手ということで。上手いっすよ、芳恵。しかし今考えると二十歳そこそこの当時の芳恵がこの世界を歌いこなしてしまうというのはいささか危なっかしい。 本田美奈子「キャンセル」 自称アーティストとして駆け出してしまった頃の美奈子のアルバム。が、トータルではなかなかのもの。ロンドン吹き込みでゲイリー・ムーアも参加。秋元の詞もこのアルバムに関しては正攻法でよい。「Feel Like I'm Running」など、光っている。ただし「Bond Street」は、恥ずかしいが。 小泉今日子「KOIZUMI IN THE HOUSE」 小泉meets近田晴夫。く、くらい。都会的で乾いた暗さ、不気味さがただよう異端のアルバム。小泉はこの生臭さを追及するべきだった。ジャケットのロングソバージュと共にパブリックイメージの小泉から最も離れた作品。 小川範子「こわれる」 子供の思いこみは時として実際のリアルをも越える時がある。そんな天才子役「小川範子」の作品。「1時間抱いてくれたらあとの23時間泣いていてもいい」この歌詞を15の娘が寸分の狂いもない情感で歌うんだから凄い。 原田知世「PAVANE」 角川姫時代の名盤。「羊草食べながら」「水枕羽枕」のイノセンスこそ初期知世の魅力。(それにしても康珍化先生ってば大島弓子読んでんのね)このあと角川を独立し、秋元康プロデュースでアイドル歌手として死に、90年代鈴木慶一の手によって渋谷系歌手として復活する。 山口百恵「メビウス・ゲーム」 80年引退カウントダウン時の作品。テーマはSF。百恵陣営の結集力の凄まじさを感じずにいられない。「One Step Beyond」のハードさを聴いてほしい。 |
2003.07.20