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メイン・インデックス少女漫画の館>佐々木禎子 「野菜畑で会うならば」

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佐々木禎子 「野菜畑で会うならば」

美しき魂の悲鳴

(マガジン マガジン/2003.09)


 当時「JUNE」で連載されていた中島梓主催「小説道場」で話題をかっさらった表題作「野菜畑で会うならば」(初出「小説JUNE」92年5月号)に、その続編「雪だるまの日々」(初出「小説JUNE」01年9月号)、さらに 小説道場門弟時代の投稿短編「歩く花」(初出「小説JUNE」01年5月号)、「くくり姫」(ハルキ文庫)の元ネタである「UFO銀座で逢いましょう」(未発表)を収録した短編集。03年出版。

 中島梓の「野菜畑で会うならば」の激賞っぷりに一度読んでみたいと思っていたが、なぜかその当時は出版されることはなかった。が、なぜか、数年前にぽっと出されていたらしい。 偶然古本屋で購入し、読む。

 悪いけれども、感動した。読んでよかったと久しぶりに思えた。 だから、認めるしかない。
 この世界にはやっぱりJUNEが必要なんだよっっ。
 もう力いっぱいいっちゃう。

 そういえばここに収められた四篇、すべて男性同士のほにゃららな部分って、まったくなかったな。
 そこに描かれているのは恋愛感情ではまったくないし、もちろんキスシーンのひとつすらない。
 でも、これがつまらんとか萌えないというやおらーを、わたしは認めません、認めませんとも。
 これこそがやおいの根源にあるもの。
 この痛々しくグロテスクな、ひりひりするほどの愛の物語。孤独な魂の叫び。
 置き去りにされた子供が泣き叫ぶように、彼らは泣いている。
 これがわからないやつは、いますぐやおいの世界から立ち去れっっ。


 あたしにはわからない。もうなんだかわからないんだ。
 誰か応えろ。
 この世界は本当に平和で美しいのか?
(「歩く花」)
 美しい歌声のような、あるいは悲鳴のような、その言葉は深く胸に突き刺さる。
 この作品が小説として、果たしてどれほどのクオリティーであるとか、そういった批評は、まるで意味をなさない。
そこにある作者の強い希求、そこにあるひとつの真実、そこにあるひとつの生。その美しさ、醜さ、悲しさに、ただ、圧倒される。 これは、そういった小説だ。
 これがわたしだ。
 作者は読者にいつわりようのない魂をそのまま、さらけ出す。
 それを受け止めるか、あるいは受け止めかねるか。
 この二者択一しか読者には用意されていない。



 世界中のあらゆる人間が「野菜」に見えるようになってしまった少年。 あるいは、星空を見上げ「壊れませんように」と静かに祈りながら、無差別殺人を夢見る青年。
 この物語の主人公たちはみな、孤独の無間地獄で、グロテスクな幻想を見ている。
 人との関係を偽造し、自らの感情を捏造して、普通の人と同じような素振りで生きているが、 真実、人の温かみのなかで自らを実感することができない。
 彼らはただ、静かに全てに絶望し諦念している。
 そのくせ、彼らは全てを終わらせる最後の一歩が踏み出せない。
 断崖の切っ先に立ち、境界線の上に立ち、危ない綱渡りで現実を生きつづける。



 彼らに天地がさかさまになるような救済が訪れることは、決してない。
 しかし彼らは、一縷の、あるかなきかの人との繋がりのなかで、なにかを掴み、すこしだけ、ほんのすこしだけ、一歩前に踏み出し、生きなおそうとする。
 彼らの掴んだもの、それは自らの心の片隅に眠っていたほんのひとかけらの希望だ。
 それは、一瞬で霧散してしまうはかないものにすぎない。
 しかし、それがあれば人は生きていける。
 それが生きる、ということだ。
 その懸命な姿がせつない。
 
 人は生きなければなければならない。
 生きている限り生きていかなければならない。
 きっと、傷は癒えないだろう。
 きっと、孤独を捨て去ることもできないだろう。
 きっと、これからも倦むべき過酷が自らに幾たびも訪れるだろう。
 しかし、それでも生きていく――。
 その先になにかがあると信じるから。
 その信じる力こそ、愛だ。
 いつか「大好き」と、世界をまるごと抱きしめるために、わたしたちは生きていく。

 ぼくはこの世界が怖いです。
 そして疎ましいし、嫌いだとも思うんだ。
 怖いけれど、嫌いなんだけれど、それでもまだもう少しだけ野菜畑の中で生きていこうと思います。
 泣いても溶けない体で、誰かに触れられても溶けない体で、生きていってみようと思います。

……(略)……

 ぼくはここにいます。
 ここにいて、そして少し寂しくて、つらいけど、だけどもうちょっとがんばってみようと思う。

 ぼくはここにいます。
 いつかみんなに会えるかなぁ。

 ぼくは、ここに、います。

 みんなはどこにいるの? 

(「雪だるまの休日」)


 初期の栗本薫、リリカルな乙一、「メッシュ」以降の萩尾望都が大好きな人、 自殺を考えている人、抑鬱状態な人、生きている実感が希薄な人、 こわれた心を抱えた人、その全てに読んでもらいたい。必読の一冊。
 孤独な魂の静かな共鳴。
 涙が、とまらない。



落とし気味な蛇足。

 今のやおい系出版の編集がアホなのか、あるいは作者の志が変わったのか、そのどちらかはしらないが、 佐々木さん、いまはわりとどうでもよさげな読み捨てBLばかり書いているご様子。
 「野菜畑〜」路線で突き進めば、彼女は、ホラーでリリカルでコミュニケーション不全、という乙一の女流版というラインで、 もっと大きな作家としてはばたけた可能性があったのになァ、つくづくもったいない。
 ま、この一冊だけで、やおい界に登場した意味があるというものですが。
 とはいえ、「野菜畑〜」シリーズの続編の構想はぼんやりあるけれども、書いたとしても発表しないかも、なんていわないで、書いてください世に出してくださいお願いします。
 これ、まだ物語として完結しきっていないと、やっぱ読んでてて思うもの。 きちんと「大好き」のお返しをする立野くんを書くべき。 世界を抱きしめ、愛を与え、心を与える喜びを知る立野くんの姿は、きっと、とても美しいと思うな、わたしは。
 だから、書きましょう。佐々木さん。

2007.01.16
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