|
コシミハル『チュチュ』『パラレリズム』
『チュチュ』:
1.L’AMOUR TOUJOURS
2.LAETITIA
3.SCANDAL NIGHT
4.ラムール,あるいは黒のイロニー
5.SUGAR ME
6.PUSSY CAT
7.KEEP ON DANCIN’
8.日曜は行かない
9.PETIT PARADIS
やおい少女のあなたに捧げる (『チュチュ』/1983.10.26/ALCA-9117/アルファ) (『パラレリズム』/1984.09.25/ALCA-9118/アルファ) 『パラレリズム』: 1.龍宮城の恋人 2.Capricious Salad 3.IMAGE 4.サン・タマンの森で 5.メフィストフェレスを探せ! 6.逃亡者 7.パラレリズム 8.Decadance 120 9.薔薇の夜会 〜あるいは甘い蜜の戒め〜 |
日本全国の"ボク少女"のみなさんこんにちは、まこりんです。 うぃーーーーーーっっっ!!!!! ということでお葉書が届きました。 足立区の「Manaサマの化粧は2時間」さんから。 「まんだりーーーな。って、俺のことさりげなくオタいうたな。オタいうなオタいうな、くのくのくのくのくの。 ヤオラ―はジャニーズでも聴いとけっつーの。 でもって、萌えまくって同人誌でも出しとけっつーの。 そんな人には特製うちわはあげません、ジャニーズのうちわでも使ってください。ぷんっっ。 ◆ ということで、今回は深夜ラジオのいやなDJ風に始めてみました。 今回は全国3000万人のやおいッ子にお薦め、コシミハル『チュチュ』と『パラレリズム』の話。 初期「June」や「アラン」を古本屋で漁り、末には「夜想」や「幻想文学」まで行き着いたり、漫画なら24年組は基本で丸尾末広、ひさうちみちお、鳩山郁子あたりまでチェックを入れ、小説なら森茉莉、榊原、石原郁子あたりはもちろん、山口椿や野阿梓、岸田理生も、映画はヴィスコンティ―やベルトリッチ、また三島由紀夫一派の研究をしたり、ランボーとヴェルレーヌがどうちゃらとか、 足利義満と世阿弥がこうちゃら、などと全開でふかしちゃう、そんな志の高い才気走ったやおい少女に是非とも聞いていただきたいアルバムです。 私としては隠花植物・秘する花だった「耽美」がいつポップでほとんどギャグの「お耽美」になってしまったのかというのは、よ――わからんのですが、ちょうどその境目当たりにあるのが、この頃のコシミハルだと思います。 コスプレ少女が理解できるほどのわかりやすいポップさを持ちつつも、耽美本来の持ち味である淫靡さや格調を失っていない―――つまりは貴族の悪趣味感がぷんぷんな作品なのです。 『チュチュ』が83年、『パラレリズム』が84年の作品、共に細野晴臣の絶大なるバックアップで生まれた耽美派テクノであります。もちろん\enレーベルからのリリース。 まだ、シンセの発展途上期であったので、古きよきテクノ音、というか手弾きテクノ感が漂っています。 もちろん、いかにも高橋ユキヒロなストーンと終わるドラム、いかにも細野晴臣なインド風味たっぷりの無国籍アレンジなど、テクノ好きにとっても楽しめる作品でもありますね。 どちらのアルバムもざっくりいえば耽美的な性愛をテーマにしたアルバムといっていいんじゃないかな。 2作を比べると「TUTU」の方がわりと詞作は現実方向で一般的な恋愛の情景――――それでもダイアモンドでおはじきをしたりしますが、で「パラレリズム」は完全なる虚構美の世界といえるかな。 ―――気が触れた恋人を塔の最上階に幽閉したり、男の腕やら長い足にフレンチドレッシングをかけてフォークを突き立てたり、深更、どこまでも続く印度人の行列に挨拶をしたり、ゴシック建築のような城砦で幻の薔薇の夜会が繰り広げられたり、そんなこんなで耽美しておりまする。 ◆ コシミハルの隠れたすんごいところのひとつに、時と場合によって、変幻自在に歌を演じるところ、というのがあると思う。 結構女優なんだよね、歌のなかの彼女。 彼女は歌のなかで、美女になったり、幼女になったり、美少年になったりと変幻自在なのですよ。 特に美少年になるとほとんど無敵状態。 「モット愛シテ僕ノ事ダケ」 彼女は淑女に娼婦に幼女に少女に少年に、次々と姿を変え、エロティックで煽情的なデカダンスを歌いあげます。 また、この時期は年上の不実な男との不倫関係のような歌に妙なリアリティーがあったりしして、それも印象的かな。 鳴り続ける電話のベルここから細野氏と彼女のスキャンダルという下世話な妄想かきたてる私はダメ人間でしょうか。 個人的にはど耽美一直線の「メフィストフェレスを探せ」、「レティシア」「Decadance 120」「薔薇の夜会〜或いは甘い蜜の戒め」あたりにうっとり。 「私の部屋の私のベットに、あなたの場所を作ってあげるから、長い舌を奮わせて、仔犬になっておいで」と誘われたり、とか、こっそり注射されて「これ以上キミは大人になれない」とそっと囁かれたり、したいっちゅーーの。 海緑色(ベルマレエ)の絨毯が いつのまにか大きな海になる熱帯夜 この曲はアレンジが川島"バナナ"裕二さん(―――井上陽水周辺で、彼の打ちこみでのいい仕事っぷりというのは堪能できます。)。 不吉な金属音や、ミックカーンバリのフレットレスベースの音など、完璧なお耽美プロダクト。(―――明菜マニアのあなたは「I missed the "shock"」にゴスが入っている感じと言えばわかるかな)。最後、音がバタバタするところなど、めっさ好きやわ――。思わず乙女の瞳でうっとりです。 ◆ あとひとつ、ちょっといっておきたいこと。 彼女の歌って聞いていると、三島由紀夫だったり澁澤龍彦だったりボードレールだったり、色々な耽美的な作品が頭の中をかけめぐるのですよね。これは意識していることなんじゃないかなぁ、とわたしは思うのだけれども、うーん、彼女の蔵書が知りたいっ。 ―――「Capricious Salad」の食卓に置かれた少年の肢体にフォークを突き刺したり、ドレッシングをかけたり、白い喉元にかみついたり、ってのは、これ、絶対三島の「仮面の告白」の1シーンからのイタダキだよね。 ちょっと個人的に知りたいのが、彼女の森茉莉からの影響。 「日曜日に僕は行かない」→「日曜は行かない」、「甘い蜜の部屋」→「誰にも秘密の 甘い蜜の部屋」(「シュガーミー」より)などと意識したと思われるところが散見されるし、 「父とピストル」の「ミルルゥ、人生を一度も間違えずに歩くことはむずかしいよ」の「ミルルゥ」は森茉莉の翻訳本「マドモワゼル・ルゥルゥ」を、「スキャンダル・ナイト」の「飛びきり上等の愛」は鴎外が茉莉にしきりに言っていた「お茉莉は上等」を思い出させるし、 父子癒着が少年愛的に退行(昇華?)するという形も似ているといえるかもしれないかも。 ◆ この作品以降は、詩作も現実的な方向に微妙に軌道修正し、また自らプログラミングの勉強をしたり、生音を重視した作品にベクトルを向けたりと、細野晴臣氏のサウンドから少し離れるので――とはいえ、今でも彼女は細野プロデュースで、充分細野傘下の音ではありますが、ちょっと毛色が変わっていきます。 ポップ感は薄れていきますが、もちろん、以後も素敵な作品を残しています。 ともあれ、このアルバムが乙女達に届いていないと言うことが私にはとても残念なのですようっ。 あ、でもこの数年後、東京グランギニョルとかに彼女は参加しているから知っている人は知っているか。グランギニョルはJUNEとかでわりと紹介されていたし、知っている人は知っているかも。 ということはもしかして今回の文章は無駄な努力!? 追伸。萩尾望都の「マージナル」のラジオドラマの主人公キラ役を彼女が演ったというが、これをわたしは聞いたことがないんだけれども、 この配役を決めた人はえらいと思う。絶対はまり役に違いないもの。 |
2004.03.12