×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

メイン・インデックス歌謡曲の砦>加藤登紀子「SONGS うたが街に流れていた」

cover
加藤登紀子「SONGS」

〜うたが街に流れていた〜

(08.05.07/ユニバーサル)

1. I LOVE YOU 2. 夜空ノムコウ 3. 時の流れに身をまかせ 4. 胸の振子 5. 粋な別れ 6. 恋の予感 7. 悲しくてやりきれない 8. わかれうた 9. 飾りじゃないのよ涙は 10. フランチェスカの鐘 11. みだれ髪 12. 夜のプラットホーム 13. 狂った果実 14. 愛燦燦


 ついにきた。ユニバーサルに所属している以上いつか来ると思っていた。だから覚悟は出来ていたぞ、邦楽カバーアルバム。というわけで、聞いてみた。結論。結構いいぞ。

 まず驚いたのが、このアルバムのサウンドプロデューサー島健氏の鮮やかなアレンジメント。 全篇に於いてストリングスを中心にしたアコースティックな響きを大切にしながらも、フォーク、ジャズ、ボサノバ、映画音楽と様々なスタイルに変幻自在。 それが斬新ながらも、実に的確。
 ラフマニノフをモチーフにした「夜のプラットフォーム」の荘重さは眩暈を引き起こさんばかりだし、アルゼンチンタンゴになった「フランチェスカの鐘」「みだれ髪」は、元々こういうアレンジのための楽曲としか思えない素晴らしさ。  ファドになった「わかれうた」には驚くばかり。というか、こんなにこの曲がファドだったとは、今までまったく気づかなかった。 変化球に見えて、これはもしや直球のアレンジかもしれない。「わかれうた」のという曲が持つ本来の素晴らしさがこれではないのか、と。わたしは思わずにいられなかった。 ズブの歌謡曲アレンジのみゆきバージョンよりわたしは断然こちらをとる。
 そして、なによりくやしいのが、ラスト「愛燦燦」でさりげなく「What a beautifu world」と重なるところっ。これ、ぶっちゃけて言って、明菜の「艶華」でやって欲しかったっ。 日本と西洋の、ふたつの「生」の讃歌が重なり合い、ひとつの響きとなる。
 洋邦の垣根を越えて、生きることの素晴らしさを表現しつづける加藤登紀子らしい、素晴らしいエンディングとなっている。
 島健氏は、このアルバムを制作するにあたって、中森明菜の「歌姫」(――の千住明の筆致)と、ちあきなおみの「港の見える丘」や「夜霧よ今夜もありがとう」などの活動末期の邦楽カバーアルバム(――の、倉田信雄の筆致)を、参考にしたんじゃないかな、と、わたしは類推する。 これらのアルバムに共通するのは、新しくもしっとりと耳に馴染むやさしい音、である。

 そしてなりより、そのサウンドに包まれた加藤登紀子の歌唱があたたかい。 半世紀にもわたる様々な出自を持った日本のポップスたちが彼女の歌声にやさしく包まれている。
 さすがお登紀さん、「日本のヒットポップス」というカテゴリーでアルバムをリリースしたのは今回がはじめてだけれども、 デビュー期から洋邦を問わず積極的に様々な楽曲をカバーしてきただけあって(前アルバムでは「千の風になって」を歌っていたしね)、元々の楽曲についていた色の良さを残しながら自分の色に染め上げる作業がこなれている。
 選曲もいかにもお登紀さんらしいというか、ひばり、裕次郎にはじまって、みゆき、明菜、陽水、玉置、テレサテン、尾崎豊――、と、彼女が共感と尊敬を抱いているだろうアーティストがずらりと並んでいるし、 それらの曲を、ただ歌うのでなく、オリジナルアーティストに共振するように、歌の魂にじかに触れんばかりに歌っているのだ。
 それは彼女が既存の楽曲をカバーする時のいつもであったが、このアルバムもまたそうであった。
 メーカーの要望にこたえて生まれたアルバムであろうことは想像に難くないけど、作品にきちんと加藤登紀子が息づいている。「これを歌いたい」という想いが歌声からあふれている。 そして古い歌が新しく生まれ変わった。温故知新。理想的なカバーアルバムといえる。好作品だ。

2008.05.14
加藤登紀子のインデックスに戻る