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谷山浩子 猫森集会 2007

Aプログラム

「由貴ちゃんとにんじんポテト」

(2006.9.16/全労済ホール スペースゼロ)
1.放課後  2.まっくら森の歌  3.テルーの歌  4.空の駅  5.パラソル天動説  6.よその子  7.プラハリアン 〜子供部屋の地球〜  8.情熱  9.May   10.土曜日のタマネギ  11.ブルーサブマリン  12.悪魔の絵本の歌   13.そっくり人形展覧会   14.朗読 〜 アトカタモナイノ国   15.SEAGULL   16.ドッペル玄関   17.恋するニワトリ 
Vo,Pf:谷山浩子 Key:石井AQ   Vo:斉藤由貴(Guest)


※ 記憶に頼ったライブレポートなので、実際のそれとは若干の違う部分があると思います。特にトーク部分とか。ニュアンスで伝わればな、と。



 さてさて。今年で6回目、谷山浩子、秋のスペシャルライブ「猫森集会」。今年は谷山浩子の芸能活動35周年を記念して、猫森のゲストも豪華なラインナップがそろった。 Aプログラムから順に、斉藤由貴、渡辺等、山口とも、小室等。 谷山浩子のCDはもちろん、斉藤由貴のCDもすべてもっているわたしはAプログラム「由貴ちゃんとにんじんポテト」を選択した。
 斉藤由貴がアイドルであった80年代後半、谷山浩子は楽曲提供者として斉藤由貴と濃密なコラボを繰り広げていたが、ジョイントライブは実は今回がはじめて。 また斉藤由貴のコンサートも自身の10周年を記念したライブ「moi」(94年)以来実に13年ぶり。 そのせいか、斉藤由貴の回は、チケットは一般発売当日に完売。ちょっとばかり貴重なライブとなったのだか、それでは内容は一体どうだったのか。

 会場構成は前回わたしが訪れた昨年とまったく変わらない。階段状に椅子が四方ぐるりと囲み、真ん中の舞台が一番低い底という配置。 客層もほとんど一緒かな。ちょっとばかり以前より男性客が多くオタ濃度が高いような気もしたが、 元々谷山ファンと斉藤ファンの層がかぶっているのか、さしたる違和はない。
 わたしは前回とは真逆の位置――本来であれば、舞台に使うだろうスペースの最後列に座った。これだと、谷山さんも斉藤さんも見るのは背中ばかりかなぁ。 ほぼ完璧な満席状態で客電が落ちて、ライブがスタート。



 谷山浩子、石井AQとともに、会場の拍手に包まれながら登場。谷山浩子の衣装は青いビロード地のドレス――ドイツの民族衣装っぽい感じ。中世欧羅巴風。 谷山、お辞儀をし、いきなりピアノ横のお茶を一口飲んで、ピアノに座る。演奏スタート。
 「ん、これ、聞いたことないぞ」
 記憶の糸を辿り寄せるがどこにも、思い当たる歌が見つからない。
 はたして――。 これは11月発売「フィンランドはどこですか ?」からの一曲、「放課後」であった。
 思春期の淡い痛みを歌った佳曲――「窓」「銀の記憶」の系譜にあたる感じかな。谷山浩子のお得意のセンチメンタルなピアノが心地いい。 これはアルバムが楽しみだ。
 そして、この席に座って見て、思ったのだけれども――ここ、谷山さんのピアノを弾く手の動き、よくみえるぞ。 もしかして、案外ラッキー ?

 さてさて一曲目終わって、もう一度立ち上がって、今度は四方それぞれに向かって挨拶。 ――と、その時、遅れて席についた客に 「さっきの曲聞けました ? 」「いい歌だったでしょう」と、おもむろに谷山浩子は話し掛ける。
 えらく自由人だな、谷山さん。しかし、彼女を超える自由人がこのあと登場することになるとはわたしはつゆしらず――。

 さて話題は今年の猫森集会について。
 今までほとんどのゲストがプレイヤーだった猫森集会、しかし昨年あたりから微妙にズレはじめて――昨年のゲスト・漫画家のますむらひろしさんには、わたしの曲をギターで弾いてもらった、 今年のDプロの小室等さんもわたしの曲のギターを弾いていただく。――俺はプレイヤーじゃないんだよ、と、自分の曲だけ弾くつもりだった小室さんに「去年は漫画家の方にも全部やってもらいました」と返す谷山さん(笑)。
 そして、今年のAプロは、斉藤由貴さん。実はボーカルのみ、しかもメインのボーカルの人のゲストははじめて。 どういう構成にすればいいのか。メインのボーカルの人なんだから、やっぱりメインで歌ってもらおう―――ということで、後半は「斉藤由貴祭り」。前半は地味に私だけになります、と。
 今回のライブに訪れた「斉藤由貴目当て、谷山浩子ってどういう歌うたっているの ? 」という人に向けて、「これを機会に今後もごひいきに」ということで、次のパートは谷山浩子の代表曲と相成る。 歌うは「みんなのうた」で有名な85年作品「まっくら森のうた」と、昨年ヒットした「ゲド戦記」挿入歌「テルーの歌」(――CD売上 28万枚 音楽配信 85万DL という数字に谷山浩子思わず「いいなぁ」と、ぽつり)。
 そして歌いだすのだが、代表曲とはいえ、この薄暗さ。これが谷山浩子なんだなあ。しんとした夕暮れの森に迷い込んだような、そんなパートとなった。



 さて。ふたたびトーク。
 今年は35周年ということで2枚のアルバムがリリースされる。ひとつが「静かでいいな」のスペシャルエディション。常識しらずの変な子だった10代の私がそこにある。 ポプコン予選会の「おはようございますの帽子屋さん」なんて、オケが下手で、ほのぼのしてしまう。と。
 もう一枚は11月発売のニューアルバム「フィンランドはどこですか ?」 今回は35周年記念ということで、色んなアーティストの方に参加していただいた。中島みゆき、橋本一子、岩男潤子、相曽晴日、陰陽座、小室等――。 自分でも発売が待ち遠しい。i Podでニューアルバムばかり聞いている。もう見本盤できているから、会場でも流したいくらい。と、自画を大自賛。わりといつも自分を褒める谷山さんです。
 また1曲目に歌った「放課後」をはじめ、今度のアルバム収録の「図書館はどこですか」「きみのそばにいる」はあるアーティストに提供するつもりで作ったもの。 秋に発売予定だったので秋をイメージして作ったが、発売が春になったので戻ってきたという ( ――ってこの「あるアーティスト」って手嶌葵なんじゃないのか ?) 。 昨日のアンケートで「『放課後』はバッハの平均律に似ていますね」という意見がありましたが、それをモチーフにした、本歌取りです(笑)、と。

 かように新作の告知をさらっとしたところで次は、「空の駅」「パラソル天動説」「よその子」。
 ここのパートは、おそらく後にトークで言っていた、斉藤由貴の「こんなにいっぱい歌えない」との言葉に、セットリストから数曲斉藤の歌唱を削って、かわりに埋めたっていうパートなんじゃないのかな。特に今回のテーマとは関わりがない――が、今回のライブで谷山浩子らしさが一番濃密だったパートでもあった。
 わたしは、谷山浩子のピアノを弾く手の動きをじっと見ていた。
 ピアノを弾く彼女の手は、表情豊かでとても雄弁だった。
 「パラソル天動説」では、ピアノ弾くのが楽しいっっ、といわんばかりに鍵盤の上をぴょんぴょんと自由自在に指先が跳ね、 それが一転「よその子」では、ほとばしる情念を叩きつけるように重く、熱っぽい動きになる。
 あぁ、ピアニストなんだなぁ。当たり前のことに私は感動した。
 そしてやはり「よその子」は名曲であった。生で聞けてよかった。
 名作・傑作・問題作の多い谷山浩子だが、私の中で「王国」と「よその子」はゆるぎようのない双璧。こういう歌が作れるのは、世界で谷山浩子だけだ。
 「長い歌ですけど、歌詞をよく聞きながら楽しむとそんなに長い歌に感じないと思います」
 歌う前に谷山は言っていたが、はい、全然長く感じませんでした。
 ここは、斉藤由貴ファンに向けて、あえてコアな今の谷山浩子を見せたのだろう。「いまは、こういう歌を歌ってるんですよ」と。



 いよいよ「斉藤由貴祭り」前夜祭 (――と、谷山本人が言っていたのだ)。
 由貴ちゃんにはあとで私のレパートリーを歌ってもらうので、そのかわりに――、と、斉藤由貴のレパートリーから2曲を谷山浩子が歌う。
 ひとつは斉藤由貴作詞の歌のなかかから。色々ある中から、意外なのもいいけれども、谷山浩子ならやっぱりねというのにした、といって選んだのが、 90年のアルバム「MOON」(斉藤由貴・板倉文プロデュース)より「プラハリアン 〜子供部屋の地球〜」。
 やっぱりね。しかし斉藤由貴のアルバムでいっちゃんマニアックな「MOON」からのセレクションというのが、わかっているぜっ、谷山浩子っっ。
 「プラハリアン」というのは造語。幼い頃斉藤由貴が見たプラハの人形劇の記憶から作った。まだ一度も訪れたことのないプラハの夜の街を人形達が行進している、というイメージなんだそうで――ってはじめて知ったぞ、それ。由貴ちゃんの「心のプラハ」の歌ってわけね。
 この歌は、ひとつ・ふたつ・みっつとなっているのに数え歌になっていない、嘘数え歌。 それに対抗して「嘘お絵かき歌」作りたいな、と。谷山。
 「あっという間になんとかかんとかー―」って、全然仕上がり違うじゃん、みたいな。
 と、それに石井AQすかさず「早寝も早起きもできない、朝ご飯も食べない人が「早寝早起き朝ご飯」の歌作るみたいなもの ?」と。
 会場爆笑。谷山絶句。
 最近、文部科学省の『早寝早起き朝ごはん』キャンペーンのテーマソングを作った谷山浩子さんです。

 そしてもう一曲は「情熱」。谷山浩子のオールナイトニッポンの最終回でも歌ったという、谷山浩子のフェイバリット・斉藤由貴ソング。 谷山浩子も尊敬する松本隆・筒美京平のゴールデンコンビのシングル。
 この「情熱」、レコードセールスでみるとそこまでの大ヒットではなかったのだけれども、「わかっている」通な人に結構愛されております。私も好きだなぁ。
 松本隆さん自身もこれはリキ入れた作品のようで (一番と二番のあいだで時間経過があって、映画のようにシーンが変わっているのがポイント、と、自ら語っていた) 、後にプロデュースしたクミコの「AURA」にも収録している。
 この歌、アイドルの歌としても成立するけれども、実は大人の激しい情念の歌なんだよね。 谷山作品でいえば「闇に走れば」「夜のブランコ」の系譜。 闇の中で、身も世もなく、むさぼるように抱きあっているふたり、という感じの歌。

 以上、ベタはまりするの、タイトル聞いただけでもうわかりますってば、の2曲だったわけだけれども、聞いて、やはり、想像通りの仕上がり。 谷山のピアノと石井AQのシンプルなアレンジにまた新しい魅力が生まれて、いやぁ、いいもの聞けた。二度と聞けないだろうことが勿体なさすぎる。



 と、興奮冷めやらぬうちに、それでは皆さんにお待ちかね、斉藤由貴さ……――って、由貴ちゃんっっ。
 谷山さんがきちんと紹介しようとした矢先にふらふらと斉藤由貴、不審な闖入者のごとく舞台に登場。
 会場大爆笑。
 すげーー、斉藤由貴。反則級のつかみだ。
 そのまま舞台を所在なくうろうろ。
 この雰囲気、往年の植木等の「およびでない、こりゃまた失礼しました」の直前の雰囲気だ。
 どう収拾するか、客も少し様子を見ようとしはじめる。あせる谷山。
 「昨日もやったじゃない。本日のゲスト・斉藤由貴さんです、どうぞっ。会場拍手。で、登場って」
 斉藤由貴、おもむろにマイクを手にしてマイクアピール。
 「そういうの面白いですか ?」
 その眼の、その声の、なんてふてぶてしいこと。
 これで会場またまた大爆笑。
 すげぇっっ、完全に今日の斉藤由貴、ヒールを演じている。
 衣装は谷山浩子の衣装と似ているが色が臙脂色で対照的という、こちらも中世の欧羅巴風の衣装で、髪も綺麗に結いあげて、ビジュアル的には美しい女優さんなんだけれども (また少し痩せたしね) 、 それでのっしのっしと威圧的ともとれる感じで歩くのさ。胡乱な目つきで、谷山さんをはじめ、周りを見るのさ。
 いったいなんだこの変な人は。
 客席に向かっての挨拶もなんだかかったるそうなおざなりなそれ。でもって、
 「これ、一度に四回も挨拶しなきゃいけないから、めんどう」
 って、どんだけ。斉藤由貴。
 「声に出すのは一度でいいでしょ。頭だけ四方に下げて」と、かえす谷山に、
 「なにが違うんですかね」と、斉藤。
 「声が省略できる」と谷山。
 黙る斉藤。
 思わず谷山もおののき、
 「喧嘩売ってる ?」
 「今日はこういう感じ ?」
 「バトル ?」と。
 多分、これ、斉藤由貴なりの演出だったのだと思う。
 舞台女優って、こういう人を食ったような行動をあえてとって、相手の突拍子のないリアクションを引き出す。そういう悪戯、よくするもんね。それで舞台は盛り上がるんだから、まぁ、いいんだけれども、役者でない谷山浩子にそれしかけるっていうのも人が悪い。 とはいえ、「素の斉藤由貴さんって、こういう方だったんですか ?」と思えてしまうところが彼女の天才的な演技力。

 「昨日はここのトークが長引いて怒られたから、早く歌にしよう」
 そういって、まず斉藤由貴へ提供してヒットしたシングル「May」「土曜日のタマネギ」が披露されたのだが、斉藤由貴さん、もう唐突に歌の主人公になりきっている。これには驚いた。
 さっきまでの殺伐・挑発的な小芝居はどこへやら。完璧じゃん。表現力が当時より断然深くなっている。
 「May」の大サビ「だけど好きよ 好きよ好きよ 誰よりも好きよ」の最後の「好きよ」が涙まじりで揺れる歌唱 ( 一瞬、本当に泣いているのかと思った )、 「土曜日のタマネギ」の「さよならにんじんポテト」( ――今回のプログラムタイトルは、ここからだろう )の煮過ぎた根菜がとろっと煮崩れるような、それでいて色っぽい歌唱、などなど、 格段に歌手としてのスキルがアップしている。斉藤由貴、おそるべし。
 しかも歌う斉藤由貴が、これまた、とっても楽しそうなんだわ。座りながらの歌唱だったのだけれども、時折、手で拍子を取ったり、軽い手のフリみたいのしたり、表情をつくったり、というそれらがホント楽しげ。
 アレンジは、「May」は斉藤バージョン、武部聡志の編曲に準じたアレンジ。一方「土曜日のタマネギ」はシンプルなピアノメインのアレンジで、斉藤・谷山どちらのスタジオ録音盤とも違ったもの。

 それにしても――。女優なんだなぁ、彼女って。
 つくづく思ったが、この人、間が凄いのだ。
 所作や発言のいちいちがここぞというところにここぞと豪速球でやって来る。 でもって、テンポや、声色の具合、それがものすごく的確なのだ。
 だから、時に相手の言葉を切り捨てたり、雑な言葉使いをしたり、というそれらが全然いやに聞こえない。 芝居で心地いい言葉の応酬を見ているような、そんな感じなのだ。
 ある程度のトークテーマは決めていたのだろうが、このやりとり、ほぼアドリブだろ。ものすごすぎ。
 ま、相手にどんなこと言っても、相手からどんなこと言われても お互い傷つかないということがよくわかっている信頼関係があってこそ、ここまで遠慮斟酌なく漫才トークができるんだろうけれどもね。
 もちろんそれはトークだけでなく、歌にもきちんと反映されている。
 いわゆる声量とかピッチとか、そういう部分はアイドル時代と変わらず不安定なのだが、 歌のもっている世界を的確に表現するその能力がすこぶる高くなっている。掴みが深いのだ。 これをまったく力まずに自然体でできてる。ハンパじゃねぇ。



 というわけで、2曲終わったところで、またトーク。てかトーク異様にある。しかも一回が長いぞ。
 斉藤由貴がゲストということで、チケットの売れ行きがすこぶる良かった。おそらく彼女目当ての人が多く来たのだろう。
 「このあたりの席の方、真っ先にチケットを取った方ですよ」といって谷山浩子が指し示したのは、ちょうど斉藤由貴の座る椅子の真後ろあたり。
 「背中かよっっ。これ、詐欺ですよね」と斉藤。
 「いや、由貴ちゃん出てるし、歌っているし、嘘ついてない」
 さらに、谷山浩子のコンサートのゲスト出演という依頼に即答で「出る」と返したけれども、まさかこういった四方に客がいるライブだとは思わなかったと、斉藤はぼやく。
 「背中なんて見られたくない。背中に『見るな』って張り紙貼ってやろうかと思った。もしくはおっきな矢印の張り紙。で、その矢印は谷山さんのほうを向いていて――」
 「じゃあ、私の背中にはAQに向かう矢印を貼って……」
 おいおい。
 「でも、アイドルとか、女優とか長くやっているから、人に見られるのは、慣れているでしょう」と谷山。
 「特に今日は緊張していない」と、斉藤。それは見ててよくわかるぞ。
 で、ここで名言飛び出す。
 「ていうか、谷山さんって、人にリラックスを無理強いしますよね。(怒気をはらんだ声音で) リラックス、してよ !! して !! で、よかったら、寝て !! みたいな」
 会場、拍手と爆笑。
 「だって、コンサートで寝るの、好きなんだもの。クラシックとか、途中ではっと目覚めて、あ、二楽章だ、で、また寝る、みたいな」
 ただ歌詞を間違えてしまうのではという緊張はあるけれども、と。ここで斉藤さんさらりと、
 「でも、谷山さん、昨日、歌詞、間違えましたよね」
 谷山絶句。
 「あ、いっちゃダメでした ?」
 「……わっざとらしい顔して」
 「これ本番で、絶対いってやろうと思っていたのっっ」
 斉藤由貴、悪戯の成功した子供のように大喜び。こういう事しているから後でしっぺ返しが来る。
 なんでも譜面台に置いていた歌詞カード、谷山の手書きのものなのだが、それ自体が間違っていたのだそうだ。
 「あ、由貴ちゃん間違えたと思ってたら、私が間違えていた」
 ――と、仲良しふたりのまったナシの素のトークがだらだら続くのだが、 はたと、なんでこう話が長くなるんだろうね、と、ふとふたりは我に返る。これが今回のライブの最大のトラップとなった。
 「お互い似ているから、増幅して倍化されるんじゃない ?」と谷山。
 「2+2でなく、2×2になるように?」と、斉藤。
 ここで会場大爆笑。
 AQと谷山はすぐに気づくのだが、斉藤は気づかない。
 「なんで笑っているのっ。わたし面白いこといっていないっ。全然っ、わからない」
 斉藤由貴、完全に怒り口調で四方の客席に向かって食ってかかる。
 「凄い」
 「凄いね」
 むしろ感心している谷山とAQ。
 谷山は斉藤に聞く。
 「2+2は ?」
 「4」
 斉藤が答えるより先に会場から声が上がる。
 「なにをそんな当たり前のこと、偉そうに」
 冷たく返す斉藤由貴、まだ気づかない。
 「2×2は ?」
 斉藤由貴、ようやく気づく。その場にしばらくうずくまる。
 会場、爆笑の渦。
 ようやく立ち直って斉藤。
 「2じゃなくて、3にすればよかったんですよね」
 「だいたいさ、2からスタートするからいけないのよ。普通ならさ1からはじめる……」と谷山、言ったとたんにはたと気づく。
 会場またまた爆笑。すげー、このふたり、素で天丼している。
 「これ以上しゃべるとまた墓穴を掘るような気がするから、歌いきましょう」
 斉藤が促す。
 「1だと、掛けた方が、減るのかぁ」
 谷山、しきりと感心しながら、ピアノ前につく。というところで、ようやく歌再開、斉藤由貴の一番好きな谷山浩子からの提供曲「ブルー・サブマリン」が披露されたのだが、 なんというか、トークがすさまじくて、ぶっちゃけここの歌の印象、ほとんどないわ。ただ、あんだけ面白トークが炸裂していたのに安定感のある歌と演奏ではあったな。



 というわけで「ブルー・サブマリン」終わって、え、また、トーク ?
 「掛け算って、なんだろうな、と」
 谷山、まだ引きずっている。
 「さっきの歌のあいだずっとそれ考えていたんですか」
 「うん」
 「それって、お客さんに対する裏切り行為じゃないですか」
 「や、違う。『ブルー・サブマリン』と掛け算は近いから」
 斉藤由貴、一瞬絶句して、
 「理っ解、出来ないっっ !!」
 谷山浩子は「掛けた方が減るんだよ、これ、使える」と、なんだか嬉しげ。
 さてさてふたりとも数字にめっぽう弱いことが発覚したところで、先日自由が丘で一緒にお食事していた時 ( って、やっぱプライベートでもフツーにお友達なのねこのふたり ) の話の続きで、谷山浩子のはまっているパズルに関して。
 斉藤由貴は、もうともかく論理的な思考がめっぽう苦手なよう。
 「これは文系パズルだよ」
 と、谷山浩子が薦めても、もう脊髄反射でダメなようだ。意味がわからない。理解できない。ナンクロとか、その名前の意味すらわからん。と。そういう問題か、斉藤さん。
 「え、でも私なんかよりも、AQのほうがすごい――。私がやり方教えたのに私よりも上手くなって。最近、私の中でAQに対する好感度がさがっている (笑)」
 ということで不覚にも流れはAQいじりに――。
 「でも、頭よさそうに見えますものね――」
 「それは由貴ちゃんが、ステロタイプな感性の持ち主ではないからか、と。一般的な、漫画なんかにでてくる『頭のよさそうな人』っていう感じではないでしょ」
 「でも本当に頭いい人っていうのはそう見えない人だったりして――。宇宙人みたいな――」
 遠慮というものはないのか。斉藤由貴。
 「そうくると思った。持ち上げると思ったら、落とす」
 谷山、楽しげ。
 斉藤由貴の主人、昨日のライブを見に来ていたのだそうだが、ライブ終わって、斉藤を注意したのだそうだ。
 「ツッコミ過ぎ。谷山さんに失礼だ。人前であんな言い方をしちゃいけない」と。
 それを聞いて谷山、
 「その忠告、全然生かされていませんよね」
 確かに――。
 そして、まだまだAQいじり。
 「だって、AQ、東大だから」
 谷山、ぽつり。
 「ええっ」
 驚く斉藤。
 「しかも、数学専攻」
 「ええっ」
 「しかも中退」
 「不遜だ。卒業していればまだ可愛げがあるものを」
 って、斉藤さん、それは野田秀樹に対しても喧嘩売ってるの ?
 「在学中に仕事が面白くなってやめちゃったんだって」
 と、二人そろってAQの高学歴いじりを繰り広げるのだがー――。
 しかし谷山さん、私は知っているぞ、あなたは中学受験で「フェリス」と「お茶の水女子大附属」( 苛烈を極める東京圏の中学受験において女子部門では頂点に位置する最高偏差値校、お茶の水女子大附属なんて、フツーにみなさん東大・京大クラスに進学する)を受験し、ともに合格を勝ち取り、 そして、お茶の水女子大附属中・高に進学しながら「大学まで体育の授業があるなんて、耐えられない」という理由のみで、大学進学しなかったということを。 お茶の水女子大附属高が最終学歴なんて女性、多分谷山浩子さんを除いていったい何人いるか、って感じ。東大中退よか、全然レアですぜ。
 「で、なに学部だったんですか」
 たずねる斉藤。
 「東大は入学するときは学部とかでわけなくて、理1っていうんだけども――」
 斉藤由貴、いまいちピンと来ていない。
 「理1? リーチっっ !!」
 って、いま、完全に脊髄反射で口にしたろ、それ。
 「あぁ、もう、つまんないこといっちゃった。もう歌いきましょ」
 斉藤さん、猛省して、歌。というかいつの間にかこの場をゲストの斉藤由貴が完全に仕切っている。なんだ、それ。



 次のパートは「斉藤由貴 Sings 谷山ソング」。斉藤由貴のお気に入りの谷山浩子の歌――昔から歌いたかったという長年の夢であった2曲を披露したのだが――「悪魔の絵本の歌」と「そっくり人形展覧会」って、ちょっと待て。 谷山浩子の歌でも、相当ヘンテコな部類の歌だぞ、おい。 これをセレクションするのって、ちょっとやそっとでない谷山浩子ファン。
 斉藤さん、アイドル時代から谷山浩子のファンだと公言していたけれども、そういう時って、「風になれ」とか「夜のブランコ」が好きとか、わかりやすいメジャーな曲を並べていなかったかね ? あれは偽りの仮面 ?
 「悪魔の絵本の歌」は立ち上がり、舞台女優の本領発揮という感じで四方の客にアピールしながら、華やかに歌ったんだけれども、これまた斉藤さん、またすげぇ楽しそうなんだわ。斉藤さん、明るくのほほんと谷山浩子の狂気の世界を歌いきっています。
 こういう歌が好きだったのなら、もっと早く言ってよっっ。アイドル時代のよい子の斉藤由貴のイメージがいい意味でバラバラと崩れていく。

 このセレクションには谷山浩子も驚いたらしい。
 「まさか、これがくるとは――」と谷山。
 「大好き」と斉藤。さらに畳み掛けるように、
 「わたし、コアなファンですから !!」
 斉藤由貴、自信満々に堂々宣言。
 この、斉藤由貴の谷山浩子マニアっぷりっっ。
 昨日のライブ後のアンケートでも、「斉藤さんは斉藤由貴のファンよりも谷山浩子のファンに馴染んでいましたね」とか、 追っかけしているファンの人から「わたしと同じ匂いがする」とか、色々と斉藤由貴の谷山浩子マニアっぷりに感心する感想が並んだそうで。その回答に思わず斉藤、
 「匂ったのかいっっ」
 さらにつけくわえて――。
 「まあ、私を見に来てくれている人たちの前ではもっとちゃんとしているとは思うけれども――」
 って、おいおい。ちょっと待て。谷山浩子も呆れながら――。
 「由貴ちゃん由貴ちゃん、今あなたはどこにいるの ?」
 「谷山浩子さんのコンサート」
 「なにしに来てるの ?」
 「ちょっと遊びに来ている」
 ちょっと、遊び、か――。
 さらに斉藤由貴、問題発言。
 「そもそもわたし、『斉藤由貴』を見に来たという人に対して信用ならない」
 待て。由貴。目の前のファンにまで喧嘩売るのか ?
 つまりは、斉藤さん、いまだ自分に自信がないということで。
 なんでわたしを褒めるのかわからない。自分の名前が看板にあがっているのも、ダメ。なのだそうだ。その話に谷山浩子も乗る。
 「私も若い頃はそう思っていた。今は違うけれどね。自分の歌を褒めてくれる人は、きっとセンスがないんだろうなぁって」
 斉藤由貴、即答。
 「うわっっ。失礼」
 って、あんたがフッたんだろその話。

 斉藤さん、芝居は役名があるから大丈夫なんだとか。むしろ芝居をしている時の私のほうが「濃い」。普段のわたしよりわたしらしい。 普段の私はとても希薄。いるのかいないのかもよくわからないくらい。いつも上の空。しゃべらないし、表情も乏しい。のだとか。
 やはり女優という仕事は斉藤由貴にとって天職なのだろうな。
 「身内の前では『へぇー』とか『ふーん』しかいわない。うちの旦那さんがマシンガントークだから、それにつきあって――」
 「あ、うちもマシンガン。ずっとしゃべっている。しゃべり足りないと後ろついてきてまでしゃべってる」
 「それはうっとうしいですね」
 由貴ちゃん、人の旦那。つか、さっきから自らフッといて、相手につっこみいれてます。確信犯 ?
 そんなこんなで、女優している時のほうがより本当の自分が出せるという斉藤さん。
 「じゃ、今のあなたはどうなの ?」と谷山。
 「今の私は、卵でいうと、限りなく黄身に近い。白身でも殻でも殻の外でもなく――」と斉藤。
 なんつー例えだ。とはいえ谷山も乗ってくる。
 「わたしも、今はとっても黄身に近い――でも、それは、あ・な・た・のせい」

  爆笑トークは留まることなく、しかし、そろそろ歌にいかなければ。
 「こんな後に、歌なんて、気持ちが出来ないよぅ。ちょっと待ってください。わたしに時間をください」
 谷山さん、ピアノに突っ伏す。
 AQ、それっぽい効果音で盛り上げる。
 谷山さんぽつり。
 「♪ うらみぃーーまぁーすぅーー」
 会場爆笑。
 「あなたたち、中島先生の歌で笑いましたね」
 なんかもうネタ合戦の様相を呈した来たぞ。




 というわけで――ってどんなわけじゃ。次の歌説明。
 谷山浩子の歌作りは「曲先」「詞先」「曲と詞が同時進行」それぞれあるのだそうだが、 詞先の場合は、ちゃんと一曲にまとめるとか、そういう考えとか特になしで発作的に詞を一気に書くのだそうだ。 で、後から、メロディーに当てはまる時にその原型の詞を削ったり足したり、と、改変する、と。
 今回、せっかく女優の由貴ちゃんがゲストだから、その原型の詞を朗読して、そしてそこから出来上がった歌を続けていきます。といってはじまったのが「アトカタモナイノ国」。
 この「アトカタモナイノ国」の原型の詞がなかなか。
 後半部分はごっそり削って改変されていたのけど、ここがまたよかったなぁ。

 花火のあがったあとの夜空のように 世界が暗転する
 あるものをないものに見せる ないものをあるものに見せる魔法
 明滅する光は本当にあったものか なかったものなのか
 むせ返る夏の草叢の上に私は横たわる
 闇の中で誰かがくちびるをよせる
 私の中の記憶が消え 気配が残る

 後半部分、こんな感じだったんだけれども、原型の詞はなんだか非常にエロチックだった。
「アトカタモナイノ国」って歌、ファンタジィックに聞こえて、その実、被虐的なエロスを内包している曲だと、常々思っていたけれども、 原型の詞はもっと露骨に淫靡で夜の匂いのする感じ。
 でもって斉藤由貴の朗読もこれまた、濃密な恋の気配が漂っていていいんだよね。これまたいいコラボだ。



 続けて、谷山浩子と斉藤由貴のデュエットによる「SEAGULL」。
性格も似ていればボーカル特性もどこか似ている二人。掛けあうように歌うふたり、これは気持ちのいいハーモニーだった。
 それにしても斉藤由貴、つくづくリラックスして楽しそうに歌っているなぁ。
 この曲もまた斉藤のリクエストの一曲。
 「20年来の夢が叶った」と斉藤。
 「声を聞いていても好きなのがわかる」と谷山。
 この歌にある、幸福感がとてもわたしに近いと、斉藤はこの歌詞の一説を朗読する。

幸せは 遠く透き通るかもめのかたちをして
私の上にはかない円を描き はばたいていた
わたしはただ見つめるだけ なにもできず見つめるだけ
薄れていくそのかたちを その白さを その記憶を

 「悔しいっっ。やられた。天才。素晴らしいとしかいいようがない」
 斉藤由貴、身をよじらせんばかりに大絶賛。
 谷山浩子照れ隠しなのか思わず、
 「あれ、バトルは ?」
 斉藤由貴が「SEAGULL」を好きだろうことは本人の口から聞いたのははじめてだったけれども、わたしはなんとなく知っていた。 斉藤由貴は「SEAGULL」のこの部分にインスパイアされたであろう詩を、その昔書いていたからだ。
 詩集「双頭の月」収録の「永遠」(91年作品)がそれだ。

どこまでも遠い遠い冬枯れの空に
永遠が、儚い鳴き声を空しげに響かせて飛んでいる
居住まいを正してそれをながめていると
はるか上空の彼方になりそこなった自分を発見する
理想という名のまばゆい金の糸が
丁寧にその私をふちどってきらめいている
ああ 私はああなりたかったのだと
ああなるべきだったのだと

 言葉は文学的比喩が多く、完全に斉藤のオリジナルであるが、世界観は谷山のそれに近い。



 褒められたので褒め返し。
 谷山浩子もまた「わたしも、女優・斉藤由貴のファンです」と。
 それに斉藤。
 「またまたそんなぁー―」
 これまた照れてなのか、嘘おっしゃいという感じ。
 「そんな敵意の感じる言い方―― 褒められた時は、素直に喜ぶ」
 「はい」
 谷山さん、突然斉藤さんにお姉ぇさん口調でぴしゃり。
 ……なんとなくトークを聞いていて、わかった。
 このふたりの関係、ざっくり言えば似たもの姉妹なんだね。
 谷山浩子は、責任感はあるけど、どこかおっとりしている長女。体面は整えようとしているけれども、いつもほころびまくりという感じ。 一方斉藤由貴は、やりたい放題ひっかきまわしまくりの次女。体面なんて知らんわ、という感じだけれども、いざという時はリーダーシップを取っててきぱき行動できる感じ。

 谷山浩子は、斉藤由貴がフェリーニの「道」のジュリエッタ・マシーナに似ている、という。確かにくりっとした目はとっても似ている。
 「ジュリエッタ・マシーナより由貴ちゃんのほうが可愛いけれどもね」
 「ラジオのスタッフにも昔言われて、見た」
 「猫の手も借りたい」だろうな。そんなエピソード聞いた記憶がある。ただどうも、見たはいいが、斉藤さんはピンとこなかったみたい。それでも谷山は薦める。
 「もう一度、よく見て。由貴ちゃん、ジュリエッタ・マシーナに似てていいな、って、わたし思った」
 さらに似ているといえば――。
 「うちの母が、谷山さんの写真見て。あれ、由貴 ? って――」
 「あ、わたしも、『はね駒』の頃の由貴ちゃん見て、おばぁちゃんが『小学生の頃の浩子そっくり』」
 「小学生――」
 斉藤さん、あんまり嬉しくなさそうな――。
 「同じ顔の系列なんですよ」
 「きっと先祖辿るとどっか一緒、とか」
 ということで、とっても似ている、まるでドッペルゲンガーなふたりの今夜の最後の歌は「ドッペル玄関」。 今日のテーマですね、ってこれがですかっっ。

 最近の谷山浩子の歌を一から覚えるのは大変だけれども、これなら大丈夫、ベスト盤の「白と黒」――特に「黒」聞き込んでいるから、と、斉藤さんがこれまたセレクションしたそうですが、 こいつぅ、つくづく谷山浩子のファンだな。
 「ラララ 素敵なホスト 縄で吊り下げた ラララ 素敵なホステス 裂けて中が見える」
 だもん。エログロ過ぎ。斉藤さん、女優としてのイメージ、おかまいなしです。
 手拍子アリでラストらしい盛り上がり。二人そろって楽しくあっけらかんとダークネスに歌いあげる。  ちなみに斉藤さん、途中、おもいっきり歌間違えました。トークであんなこというからっっ。



 さてさて、アンコール。
 再登場していきなり客に今の時間を聞く二人。
 「トークが長くなりすぎ。もっとコンパクトに」というダメだしのもと始まった二日目でしたが、ダメだったようです。
 「まぁ、お互い話が長いタイプでしょ、一緒だとそれが増幅して倍化されるから――」
 と、谷山さん。フリだ。言えというのか。斉藤さん、ちらりと谷山さんを見て。
 「2+2でなく、2×2になるように?」
 今日の格好のネタになってしまったようで。
 ではでは。最後というので、告知。
 斉藤由貴からドラマ「お・ばんざい」「歌姫」、映画「KIDS」、ニューシングル「悲しみよこんにちは 21st Century Version」など。
 またゲーム「ビューティフル塊魂」の挿入歌の話から、ゲーム中、Wiiのリモコンを娘が誤ってぶん投げて、買ったばっかりの50インチのプラズマテレビをぶっ壊してしまって修理費だけで数十万したという話に。
 「みなさんっっ、Wiiのストラップは絶対外さない。守ってくださいね」
 斉藤さん、力説。
 「でも、それアメリカなんかだと大変なことになるでしょうね」
 「なんで」
 「訴訟とか起こりかねない」
 「あ、裁判にもっていけばよかったのか――」
 斉藤さん、その手があったかという顔(笑)。そんな手ないですからっっ。

 歌は、色んな人が今まで歌ってくれたけど、斉藤さんのも可愛いです。ということで「恋するニワトリ」。確かに可愛い出来。 ちなみに――。これまた歌い終わり間違えて、斉藤さんずっこけてます。

 さて、アンコールも終わり。ふたりは退場するが、しかし拍手なりやまず。そしてもう一度ふたりが登場。
 「時間がないので挨拶だけなんですけれども――」 と谷山。
 「会場、もうこれ以上ダメだそうです」
 最後まであけすけ過ぎです、斉藤さん。
 「なんか、母になって強くなったよね」
 谷山、感心。
 「今の言い方、お母さん。『早く寝なさい』って感じ」
 「うちも、チビスケ達が待ってますから」
 「じゃ、みなさんも。早くおうちに帰って、ご飯食べて、お風呂はいって 早く寝ましょう――」
 「って、それ、大きなお世話じゃないんですか」
 斉藤由貴、つっこまずにはいられないのか。
 「もう、最後の挨拶なんだからっ」
 「あ、余計なこといっちゃまた長くなるか」
 いや、そういう意味でなくってさぁ、斉藤さん。
 と、グダグダのまま、「ありがとうございました」の挨拶で終了。
 二時間四十分。猫森集会のAプログラムがようやく終わったのであった。
 歌よりトークのほうが、今日も長かったようです。



 総括。
 はっきりいって、濃かった。むちゃくちゃ濃かった。
 濃度高すぎ。ぐんぐんこちらの水分奪われました。二人そろうと浸透圧がすごい。 もう干からびてしまうくらい。ぐんぐんこちらの精神力が奪われる。もうMPゼロだよ、みたいな。
 ライブ終わっての感想、ひと言でいうと「疲れた」でした。
 最高に楽しかったのは確かなんだけれどもね、振り返って考えるに、あの嵐はいったいなんだったのだろう、みたいな。
 ライブレポートでこの長大ボリューム ( ――なんと原稿用紙50枚分 !! ) であるところから見ても、このライブの濃さは伝わるんじゃないかな。
 このふたりなら、全国の演芸場、制覇できるっっ。私は確信したね。――って、ふたり女優と歌手なんだってば。
 でもほんと、トークライブ、で、合間にちょっと歌、みたいな興業、充分成立します。
 いやあ、楽しかった。楽しすぎてまいった。
 あなた方ふたりには、一生ついていきます。

2007.09.20
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