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中森明菜 「SPOON」

とりあえず、コンセプトは失敗。

(1998.06.17/GAUSS/GRCO-3001)

1.ユア・バースデイ 2.雨の日は人魚 3.楽園の女神 4.今夜,流れ星 5.帰省~Never Forget~ 6.祝福 7.雪の花~White X’mas~ 8.嵐の中で 9.幻惑 10.BLOWING FROM THE SUN 11.花曇り


んーーーーー。
微妙。
そんなに、悪くはないが……。
グラジュエイション、バースディ、クリスマス、マリッジ。中森明菜がはじめて手がけた今様歳時記といったところで、数曲佳曲もあるが、全体の印象はやはりコンセプト以上でも以下でもない凡庸な作品集となっている。

まず、こういったコンセプト作品はユーミン「surf&snow」、南野陽子「スノーフレイク」など、作詞のレベルいかんで全てが決まってしまうといっても過言ではないが、それにほぼ全曲詞担当の夏野芹子がきちっとこなして「いない」。
また、作曲陣も梁邦彦、ORIGA、アルベルト城間などエスノ・ラテン系の作家を多くそろえている割には、楽曲自体はあえてなのか、そうした匂いが感じられないものが多く、いまいちディレクションの意図が見えない。
唯一ラテン曲調の「楽園の女神」も明菜の当時のマネージャーの佐竹正児が詞を書いているのだが、およそ無内容の詞で「ミ・アモーレ」と比べるとはてしなく落ちる。 ――――老婆心ながら忠告するが、こういう身内に仕事を回すようなみっともない真似はやめたほうがよい。

ひとことでいえば「このジャンルは松田聖子やユーミンに任せとけ」なのだが、一曲単位で見てみると興味深いものもあるのでそれを書く。

新しい局面が見え、良かったのは「ユア・バースディ」と「雨の日は人魚」。
「ユア・バースディ」は「今すぐ雨よ上がれ/心曇らす出来事は流れ去り/満月」の部分が良い。
明菜には元々「雨よ降れ」といえば雨が降り、「雨よ止め」といえば雨が止むような巫女のような呪術的なところがあるのだが、日々の恋愛の情景の中に祈りのようなその言葉がさりげなく入っていて、不思議な力がある。
「雨の日は人魚」は情事の風景を静かに描写している。
情事の描写を中心にした作品は「夢のふち」「FEMME FATALE」など中森作品には多いが、今までの作品は性感のただ中をひたすらに歌ったものばかりであったが、この歌には官能の波間に溺れながらも一方でひたひたと情が押し寄せてくる様子が見事に描かれていて、すばらしい。
「感じてしまう寂しさ」という歌詞の部分など、セックスと愛は本来別物であるが、それが一瞬すれ違いざまに振り向いたような、なかなか鋭い言葉だ。

これら二つの作品に共通するのは「母性」であろう。

「小乗の明菜、大乗の百恵」とその昔平岡正明は分析したが、明菜にはどこか自他ともに赦しきれていない、解放していない厳しさがあったのだが、前作『shaker』の「風を抱き締めて」「月は青く」を経て少し変わったの、か、な、と思える。
逆にいつもの中森なのが「嵐の中で」「幻惑」、これらはいつもの安定した佇まいで安心して聞ける。。力作であるが、全体の印象がばらばらで傑作になり損ねたのが「帰省」。このへんは及第点だろう。
また、孤独な女性の夜更けのため息が宮沢賢次的な観念宇宙世界に飛躍する「今夜、流れ星」は地味ながらもなかなかの意欲作である。これ以外は聞かなくてよろしい。

1998.06.21


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