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白井恵理子『STOP劉備くん !』 『GOGO玄徳くん !!』

是非連載の続行と全作単行本化を


(『STOP劉備くん !』全3巻/角川書店/1991〜97)
(『GOGO玄徳くん !!』1〜3巻/潮出版社/2001〜02)



日記で『GOGO玄徳くん !!』という単語をチラッと入れたらわずか3日の間に5人もの方がわざわざサーチエンジンからわがサイトに訪れていた。
こりゃちゃんと支援テキストを書かにゃならんなぁ、と勝手に妙な使命感に燃えた私が今回取り上げるのはもちろん、コレ。
白井恵理子『STOP劉備くん !』と『GOGO玄徳くん !!』です。

ということですぐに内容の話に行ってもいいんだけれども、この作品は雑誌掲載から単行本出版までの経緯が複雑なので、まずその話から。

1985年7月、当時グラフィックデザイナーだった白井恵理子さんが同人誌として『三国志遊戯』を発表する。
(―――これは人形劇「三国志」に魅せられた白井さんが愛とテンションのみで作ったような同人誌で、作品自体は拙いが、人形展で川本喜八郎さんと談笑して盛り上がったり、偶然「天の華・地の風」の作者、江森備さんと出会ったりと、原点という意味では興味深い。と書いているということは私、持っているのですね、この同人誌。軽い自慢だ)

それを「小説JUNE」(サン出版→マガジン・マガジン)のスタッフが発掘し、同人誌の4コマ漫画部分のみを採録し『STOP劉備くん !』として1987年2月号に掲載。
以後「小説JUNE」での連載となり、2003年12月号には連載100回目を迎えるに至った。(―――が、以後の「小説JUNE」で彼女の名前を見ない。まさか連載100回でグランドフィナーレということなのだろうか。「小説JUNE」を定期購読している方の連絡もとむ。)
と、そうこうしているうちに彼女は1987年に「その日仙境に龍はおちて」で「月刊ASUKA」(角川書店)から漫画家として本格デビューする。
当時「小説JUNE」「JUNE」は出版部門がなく、小説・コミックスの単行本の出版を行なっていなかったので、彼女のもう1つの活動フィールドであった角川書店のASUKAコミックスから「STOP劉備くん !」の単行本はリリースされることになる。これは、続・続々と続き計3冊出版、「小説JUNE」の連載第1回から第62回、1997年8月号までは単行本化された。

が、彼女の角川でのメイン掲載雑誌「歴史ロマンDX」が98年に廃刊。彼女の角川での仕事は事実上ほとんどなくなってしまう。
というところで1999年に「コミックトム プラス」(潮出版社)で「STOP劉備くん !」とほぼ同内容の三国志パロディー4コマ「GOGO玄徳くん !!」が連載開始となる。
それはそのまま2001年の「コミックトム プラス」の廃刊まで連載され、その作品はそのまま「GOGO玄徳くん !!」「続・GOGO玄徳くん !!」として出版された。
そして、「小説JUNE」1997年9月号〜2001年1月号掲載までの「STOP劉備くん !」も「続々・GOGO玄徳くん !!」名義で出版されるにいたった。

という流れなわけですね。あー長かった。

もっちろん作品を楽しむにはこんな長ったらしい解説など不要。
4コマギャグなわけですから、開いたそのページから面白いわけでそんな理屈を言うこと自体馬鹿馬鹿しいわけです。
が、ですがね、この話を聞けばわかる通り、「小説JUNE」2001年3月号からの分がまだ単行本になっていないのですよ。
しかも、現在「小説JUNE」の季刊化の憂き目から、今この連載は休止状態の様子。
もう、一言で言えば気が気じゃないわけです。また、白井さん自身も漫画家としてのパッションを失っていて、「もう漫画家やめるかも」といった類の発言を巻末のエッセイなどで呟いていて、……もう。
いや、作者に無理強いをしてまで作品を作らせようというのは読者のエゴですぜ。それは行きつけばスティーブンキングの「ミザリー」の世界ですわ。
ですがね、もう結構原稿は溜まっているわけですよ。だいたいいつもJUNEでの連載20〜21回で単行本1冊のところ、もう16回分までは確実に溜まっている。
もっちろん、ベストは掲載誌を変えての連載続行ですし、もし、白井さんが確実に書きつづける意志があって実際どこかに連載しているというのならおとなしく待ちますが、そうでない今の状態。ならせめて残っている原稿をかき集めてなんとか、単行本出版という形で綺麗に終わらせて欲しいのです。
一時期同じく「小説JUNE」で連載していた4コマ「なんちゃって晴☆明」を巻末に入れて、単行本化というわけには行きませんか。
是非とも。ひとまず直近で「JUNE」掲載分を出版してくれた潮出版社さん。やってみませんか。というか、出してください。手塚治虫の「ブッダ」も藤子不二雄の「TPボン」も坂田靖子セレクションも大好きですから、お願い。


と、これまたながーい業務連絡を書き綴ってしまうほど、まあ、この作品が好きなわけですよ、正味の話。
今でも枕元の本棚の、布団からすぐに手を伸ばせる1番いい位置に置いてあります。
これを、寝る前に取り出しては読むわけですよ。で、ほのぼのしくひと笑いして、穏やかに眠りにつく、と。もう、私にとってはトランキライザー代わりみたいなものですわ。
人生に疲れたとき、なにも手につかないほどおちこんだとき、やさしく出迎えてくれる、それは私とって胞衣のようなものなのです。

内容は簡単に言えば「三国志パロディ4コマ漫画」。ギャグの方向はライトサイドでノスタルジック系。悪意で笑わせるというよりもキャラで笑わせるという感じ。ドリフのコントやシチュエーションコメディーみたいなところがある。

なによりも白井さんのキャラの立て方が絶妙なんだよね。
首を掻っ切られても、白骨化しても死んだことに気づかない超体育会系の馬超。萌えキャラと思わせてておいて実はぶりっ子、仮面ライダーチップスのカードだけとって中身を捨てちゃいけませんの姜維。 いつもハイテンション、驚異のポジティブシンキングの劉備。フォトマニアで切手とテレカと寸葉品を収集していてひきこもりがちな諸葛謹。職業選択に不自由な使えない鬼才、雑兵A。全ての登場人物にいいように使われている何をやっても裏目のいじめてキャラの周瑜。太った美輪明宏みたいな董卓。 イッセー尾形のひとり芝居のような中年の哀愁漂う曹操。何故か鬼太郎な夏侯惇。何故か奥さんキャラの趙雲。存在感の希薄さからSD化が進み、マッチの長さほどになってしまった献帝。作者の偏愛ゆえに唯一端正だったはずも次第に崩れていった諸葛亮。それぞれのキャラがみぃんな特濃。
で、そんなたくさんのキャラたちが、教師のいない小学校の教室のごとく、群れてしょうもないことで騒ぐ騒ぐ騒ぎまくる。まったく収拾がつかない状態に。

あと結構時事ネタや当時のテレビのネタを多く取り入れているのでそういった面でもちょっと懐かしかったりとかして。「石原真理子の真似」とか「赤レゼルブ 白レゼルブ」とか「折り紙で作った綾波レイ」とか。 また作者のマイブームがさりげなく取り入れられたりするのもご愛嬌。「沈黙の艦隊」やら「大地の子」やら園芸やら切手収集やら。しょうもない小ネタが満載。
個人的には雑兵Aと周瑜の話や諸葛謹の幸薄い系話が好きかな。諸葛謹、ここまで来るとむしろラブリー。だけどむしゃくしゃしていたからといって、火ぃつけちゃいけないよ。

掲載誌が「小説JUNE」ということで読まないなら、これはもったいない作品ですよ、みなさん(―――正直、掲載誌の方向性と全然マッチしとらんもの)、是非、是非とも読んでみてください。そして出版社のみなさん、彼女に4コマ漫画を書く場を与えてください。個人的には小学館「fowers」や朝日ソノラマ「ネムキ」あたりを希望。でも、正直いってどこでもいいです。双葉社でも芳文社でも。 とにかく書く場を――ッッ。


2004.06.06
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