80年デビューアイドル組は80年代のアイドル群の中でもとりわけ歌が上手い人が多いけれども、
その上手さはよく見るとそれぞれちょっとずつ色がちがうように見える。
河合奈保子と岩崎良美は典型的正統派。声量やリズム感、音感などが抜群にいい「ポップスシンガーとして」の歌唱力がある歌手。
松田聖子はアイドル的なコケッティーを全面に押し出した(彼女にとっての歌唱の最重要項目は「聞くものに可愛く聞こえるかどうか」であろう)「アイドルとして」正統な歌唱力を持った歌手。
で、柏原芳恵はというと、情感が豊かで湿った艶っぽさのある、いわゆる「演歌的な上手さ」のある歌手であったんじゃないかな。
歌謡曲にあった淫靡な部分、翳りというか、湿気というか、そういうものが表現できる歌手が彼女であったとおもう。
そんな彼女の声質にフォーク歌手たちの作った楽曲は実に相性がよかった。代表曲の「春なのに」をはじめ、古色蒼然スレスレのしっとりとした佳曲をヒットさせていった彼女は、ある部分では、歌手としての山口百恵の正統な後継であったともいえるかもしれない。
とはいえ、それは80年代に入って急速に歌謡曲に失われた部分である。実際の百恵の後継である中森明菜が百恵のドメスティクで重ったるい部分を殺ぎ落として成功したところをみるに、彼女の存在は少しばかりおそかったのかもしれない。
実際結果として、彼女の存在は80年代アイドルシーンにおいて反動保守程度の意味合いしかならなかったといえるわけで、デビューがあと十年早かったら、彼女はたとえば研ナオコやいしだあゆみや高田みづえ、小柳ルミ子といったあたりをライバルにした歌謡曲歌手として大成したんじゃないかな、とわたしは思っている。
で、そんな柏原芳恵。90年代になると同時に歌手としての活動はフェードアウト。セクシー写真集とセクシービデオと2時間ドラマと地方のドサ周りが今の彼女のメインの活動の場となっており、ほとんど「都落ち」という感じで、どうしたものやら、と思わずわたしは思ってしまう。
長山洋子のようにいっそのこと完全演歌転向というわけにはいかなかったのかなあ。
テレサ・テンあたりの荒木とよひさ―三木たかしラインのしっとりとしたアーバン演歌なら充分に芳恵の世界だと思うのになぁ。本人もスタッフも「歌手」としてはもういいのかなぁ。
――――と、思っていたら意外な展開。25周年を期に歌手としても活動を活発化。年一枚ペースではあるが新譜をリリースしている。頑張れっ。
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◆ How to Love (80.12.10/第48位/LP:1.5万枚 CT:1.3万枚)
1.春におびえて
2.レディ直前
3.毎日がバレンタイン
4.ひだまり
5.第二章・くちづけ
6.恋 知りそめし
7.100%のかなしみ
8.何でもない 何でもない
9.スプリング ハズ カム
10.No.1
11.マイ ファースト ラブ
12.素顔のままで・・・
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改めて聞くとなんてアダルティーなアルバムかと驚くことしきり。不思議なほどに初々しさをあまり感じない。15歳のアイドルのアルバムとはとても見えない。
タイトルからして百恵の「春風のいたずら」風の千家和也作詞の「春風におびえて」にしても百恵のようなイタイケさは感じず、妙な達者さが前に出てくる。もちろん楽曲の古臭さがその達者さをより強めているわけだが……。ある意味彼女はこの時点からずっとかわっていないのかもしれない、とも思える。
ちなみに「何でもない 何でもない」はデビュー曲の「No.1」の同工異曲である。5点。
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◆ Lovely Songs (81.08.13/第25位/LP:2.9万枚 CT:1.7万枚)
1.ファースト・メモリー
2.フィフティーン・ラブ
3.ショート・ストーリー
4.私のミュージシャン
5.ガラスの夏
6.夏は危険信号
7.未来飛行
8.あなたのリトル・ハーフ
9.サマー・ヴァケイション
10.P.S.S.=心の追伸
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あれぇ、このアルバム持っていたはずなのに、LPの棚をひっくりかえしても出てこないぞ。ということでパス1。
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◆ ハロー・グッバイ (81.12.05/第22位/LP:5.4万枚 CT:4.6万枚)
1.ハロー・グッバイ
2.迷い子天使
3.夢見てセクシー
4.ひとりごと
5.頬ぬらす涙
6. 突然の出来事
7.青の時代
8.恋はマシュマロ
9.とまどいブラディ・メアリー
10.涙のシャンソン
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先にブレイクした同期の聖子・奈保子あたりへのライバル意識が彼女のなかで生まれたのか。彼女のアイドルとしての自意識がねっとりと媚びた歌唱となって結実している、って褒めてないなぁ。
その努力がタイトル曲の「ハローグッバイ」の大ヒットにつながったことは周知の事実。低音が艶めきながらもサビで「それはいいこと?悪いこと?」と科白調で媚びる「迷い子天使」はまさしく芳恵的なプロダクト。アイドルのアルバムを聞いているなぁ、という気恥ずかしさを感じずにはいられない。そんなベタなアルバム。5点。
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◆ サマー・センセーション (82.06.08/第15位/LP:2.7万枚 CT:2.0万枚)
1.渚のシンデレラ(アルバム・ヴァージョン)
2.ロマンチックにI love you(アルバム・ヴァージョン)
3.恋はサーフィン
4.夕陽のコンチェルト
5.夏のロマンス
6.鐘が鳴る
7.太陽の季節
8.恋したがりや
9.恋人たちのキャフェテラス
10.思い出のシルエット
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このアルバム持ってません。ということでパス2。
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◆ セブンティーン (82.11.25/第17位/LP:2.2万枚 CT:1.4万枚)
1.あの場所から(アルバム・ヴァージョン)
2.夕焼けの小径
3.白いコスモス
4.あした恋
5.君に捧げるアリア
6.ブリザード
7.予期せぬ出来事
8.プラネタリウム
9.花梨(アルバム・ヴァージョン)
10.スノーバード
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芸名を「よしえ」から「芳恵」にかえた彼女。70年代アイドル路線からフォーク・ニューミュージック路線への橋渡し的な位置にあるアルバムかな。彼女の歌唱の特徴である高音部やブレスの媚態はこのアルバムから少しずつ矯正されて、きちんと作品と折り合いをつけていくようになる。
作家陣は小泉まさみ、筒美京平、谷村新司。谷村新司との相性の良さが彼女のその先を決めた。個人的にはのイタリアンツイストっぽい「予期せぬ出来事」が案外好きだったりして。6点。
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◆ 春なのに (83.02.10/第4位/LP:9.3万枚 CT:5.7万枚)
1.ボギーボビーの赤いバラ
2.あした天気になれ
3.わかれうた
4.海よ
5.ダイヤル117
6.バス通り
7.渚便り
8.髪
9.春なのに
10.夜曲
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「春なのに」大ヒット記念の中島みゆき作品のカバーアルバム。どあたまの「ボギーボビーの赤いバラ」
でなんか違うという気分になり、続く「あした天気になれ」「わかれうた」でその違和感は確信になる。
「春なのに」の良さをスタッフは研究しなかったな。「春なのに」の良さは、マイナーでしみったれた普段着ぽい地味な小娘のよさでしょ。私だったら「ほうせんか」「霧に走る」「鳥になって」あたりを歌わせるなぁ。
とはいえ芳恵のアルバムでは異例の大ヒット、みゆき様様。6点。
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◆ 夢模様 (83.07.30/第16位/LP:3.1万枚 CT:1.8万枚)
1.黄昏通り
2.目覚めると・・・
3.約束
4.思案のスクリーン
5.ふたたび〜See you again
6.夏のたった今
7.坂道
8.逃げないで
9.夕凪海岸
10.銀河鉄道
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強気のシングル収録なしのフォーク歌手勢ぞろいアルバム。提供者は南こうせつ、西島三恵子、伊勢正三、松尾一彦、井上陽水、藤田久美子。
この並びで陽水だけ浮くが、楽曲もやっぱり彼の「夏のたった今」だけ浮いている。
とはいえこの作品はいいんじゃないかな。彼女の持つパブリックイメージとおりでどの楽曲もはずしがないし、歌手としての彼女の成長も感じられる。さらにこれからもっといい歌手になりそうな予感もある。とはいえ冒頭「黄昏通り」の語りはこっぱずかしい。歌だけを見たらもはやアイドルというには大人びすぎていて、こうした語りは過剰な媚びにしか聞こえない。7点。
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◆ タイニー・メモリー (83.11.23/第20位/LP:2.0万枚 CT:1.0万枚)
1.南風にのせて
2.かざぐるま
3.貴方のことで
4.あたい
5.白い花
6.初恋
7.私を見つめて
8.愛は気まぐれ
9.タイニー・メモリー(アルバム・ヴァージョン)
10.限りある命
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アルバム『春なのに』の大ヒットで気を良くしたスタッフの2匹目のドジョウ。今度は松山千春のカバーアルバム。
それにしてもフォーク歌手の(――というか松山千春の)「田舎モノ騙し」な部分が癇に障るなぁ。この時期の芳恵の歌唱はアイドルとしてのコケッティーに重みを置くか、大人の歌手としてきちんと歌うか迷っているように聞こえる。
「私を見つめて」のような艶めいた歌いっぷりはいいのだが、「あたい」の歌唱などはこの娘は芸達者だなと思うが、それが可愛いかというと微妙。こなれた子役の演技を見るような気分になる。もう少しで殻を破ることができそうだが、一歩手前という感じ。6点。
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◆ LUSTER (84.04.25/第22位/LP:2.2万枚 CT:1.4万枚)
1.もっとタイトにI love you
2.白いヘリコプター
3.LOOK BACK もう一度
4.ト・レ・モ・ロ
5.涙がDEJA VU
6.QUIET BOY
7.エトランゼ
8.海岸線
9.カフェバー・ドンファン
10.フィンガー
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筒美京平作曲、船山基紀編曲による歴史的なテクノ・ポップアルバム。YMO陣営周囲のみで作られていたテクノポップがこの瞬間からポップス全体に広く敷衍していく。その後打ちこみサウンドが急激にポップスのメインとなることを考えるとメルクマールとなったアルバムといえる。
が、なぜその役割が柏原芳恵だったのか、となると疑問。正直いって彼女、リズム感が悪いんだよねぇ……。楽曲は粒ぞろいで面白い意欲作といえるアルバムだけれど、柏原芳恵という歌手にとっては継子的なアルバムでしょう。あ、ちなみに歌詞はハズカシ系ですね。「カフェバー・ドンファン」とか、「もっとタイトにI Love you」とか。時代なんでしょうけれど。8点。
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◆ 最愛 (84.10.25/第18位/LP:2.7万枚 CT:2.2万枚)
1.最愛
2.アザミ嬢のララバイ
3.やさしい女
4.カム・フラージュ
5.雪
6.たわむれの恋のままに
7.オー・マイ・ラブ
8.ラスト・ステーション
9.片想い
10.六月の花嫁
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前半中島みゆきカバー。後半ポプコン入賞曲カバーという「ヤマハ固め」な1枚。
中島作品は彼女のキャラ、声質と合わせ成功している。『春なのに』の仇はとっている。
後半は知名度低めの隠れ名曲が並ぶ。「たわむれの恋のままに」(ほんと名曲!!)や「ラストステーション」など実にいい曲をみつけてきたものだ。
ドラマチックな楽曲にあわせて、彼女も情緒豊かに歌いこなしている。歌、上手くなってます。安心して聞ける。ちなみに「片想い」は中尾ミエのカバーで同時期河合奈保子はコンサートで歌っていたし、後年中森明菜もカバー。この時期のアイドルにとってのスタンダードなのか。8点。
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◆ 待ちくたびれてヨコハマ (85.06.01/第33位/LP:1.2万枚 CT:0.9万枚)
1.時間を下さい
2.恋する・・・あなたと
3.おもいのままに
4.恋路唄
5.待ちくたびれてヨコハマ
6.早春譜
7.あやとり坂
8.かすみ草
9.願い星
10.車内風景
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ぐぐぐぐっっーと年齢層高め設定で演歌・歌謡曲の領域に完全に入った1枚。とはいえ歌唱力のアップでさほどの違和感はない。ただ、これがアイドルのアルバムかと問われたら、全然と答えよう。このアルバムをもってアイドル戦線から完全離脱といっていいだろう、ってまだ二十歳になるかどうかって頃だよな、うーん早熟。
個人的にはちょっとつらい楽曲が並ぶが、そのなかにあって「車内風景」はいい。こういう日常のさりげない小さい歌を歌って光るのが彼女の魅力と見た。6点。
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◆ しのび愛 (85.10.01/第17位/LP:1.7万枚 CT:1.2万枚)
1.恋のD−day
2.ショック・かくして・大人する
3.夕月檸檬
4.太陽は知っている
5.人生GAME
6.ハリウッド・ロマンス
7.し・の・び・愛−New Version−
8.センチメンタル・ホテル
9.元気でね・・・
10.一人七色
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あらわな胸の谷間もいやらしい20歳の芳恵。大人になったし、ということで彼女のセクシャルな魅力むんむんの1枚になった。
これは結構いいぞ。楽曲は粒ぞろいで幕の内式に彼女の様々な魅力がつまっている。
「センチメンタル・ホテル」「元気でね……」は盤石のマイナー路線で手堅いし、加藤和彦・安井かずみコンビの「恋のD-day」「ショック・かくして・大人する」は『LUSTER』の系譜だろう。扇情的でエロチックな「夕月檸檬」「太陽は知っている」「一人七色」もよく、不倫を歌った「し・の・び・愛」や
つっぱり歌謡風の自作詞「人生Game」もいい。8点。
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◆ 20歳のスーブニール (86.07.07/第55位/LP:0.4万枚 CT:0.1万枚)
1.なにも世界中で…。
2.微笑
3.笑ってさよなら
4.二十才のスーブニール
5.古都の恋めぐり
6.恋愛写真
7.花嫁になる朝
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キミはこれに堪えられるか。もはやムード歌謡、ご当地演歌の世界。少なくとも干支一回り分は昔の歌謡曲だよね、これって。
「瀬戸の花嫁」ねらいの「花嫁になる朝」、「わたしの城下町」ねらいの「古都の恋めぐり」と一体これって、と唖然。
セクシーな肢体と古めかしい歌謡曲、ってもしかしてスタッフが目指しているのは小柳ルミ子の世界だったのかっっ。
タイトル曲と「笑ってさよなら」のなかにし礼がこれまた眩暈を感じるほど古臭い仕事をしている。この時期の演歌ですらもっと洗練されていると思うぞ。5点。
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◆ ハイヒールを脱ぎ捨てた女 (86.10.15/第47位/LP:0.4万枚 CT:0.1万枚)
1.クレヨンで描けない昼と夜の物語
2.しなやかな夜をはさんだビスケット
3.アンティックな女(マスコット)
4.ひとり(孤独)
5.ハイヒールを脱ぎすてた女
6.夢以上・恋以上
7.グッドバイ・セレモニー−ロンリー・ハート達の街角−
8.都会のマーメイド
9.イチヂクは木の下で
10.女ともだち
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前衛的でセクシャルなA面に、しっとりと淋しげなB面と途中で世界観ががらりと変わる。
妖しげなA面もいいが、同世代のOLのペーソス溢れるマンネリ歌謡路線のB面もいい。これはもう少し洗練させると松本伊代「風のように」路線になるな、「女ともだち」などは「サヨナラは私のために」の姉妹のような作品だし。このラインはもっと掘り下げたほうが良かったかも。ちなみにB面は国安わたるがいい仕事をしている。8点。
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◆ ARIES (87.07.06/第37位/LP:0.3万枚 CT:0.3万枚 CD:0.3万枚)
1.美少女党
2.くちびるかんで純愛
3.夏の夜は一度ほほえむ
4.Stranger
5.シャワーの下で
6.不良の掟
7.A・r・i・e・s
8.ガラスの鍵
9.私のすべて
10.最後のセーラー服
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「日本フォノグラム」の邦楽部門撤退で強制移籍、東芝での1枚目は全作詞が阿久悠で作曲は林哲司・萩田光雄・船山基紀と久しぶりの一大メジャー布陣による年齢相応のポップス路線。
この盤では阿久悠は柏原芳恵を完全に百恵に見立てていてるように見える。ツッパリ風あり、セクシー・挑発風あり、一途な女路線あり、抒情派バラードあり。阿久悠も百恵に楽曲提供したかったんだな、としみじみ。
タイトル曲の「A・r・i・e・s」も歌謡ゴコロをくすぐる「思わずカラオケで絶唱したくなる」系の名曲だけれども、ベストはラストを飾る「最後のセーラー服」。「これぞ阿久悠」といいたくなる彼らしい隠れた名曲である。8点。
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◆ 愛愁 (87.12.05/ランクインせず)
1.冬の孔雀
2.さよならの刺激
3.ベイエリア・ホテル
4.愛を知るまで眠らせないで
5.白夜の国へ
6.つめ
7.六本木の赤い月
8.火遊び
9.花咲けども
10.他人
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またまた演歌アルバム。渋い。渋すぎる。とはいえこの時期になるともはや演歌テイストすらも自分のものになっている感があって、聞いて違和感はさほど感じない。
テレサ・テン的な都会で演歌で不倫で女の孤独な1枚。「花咲けども」(―――低音のドスの利かせ方が気持ちいい)、「白夜の国へ」(―――ラストの「雨、雨、雨」のゆれ落ちる感じがいい)「ベイエリア・ホテル」など、実にいい。不幸寄りなオンナの淫靡な成熟の世界。もう「演歌の花道」にでても恥ずかしくないぞ。7点。
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◆ LOVER'S SUNSET (88.07.06/ランクインせず)
1.NA・GI・SA(Opening Ver.)
2.風のサマードレス
3.別れたての夜は
4.青春譜
5.サヨナラからの愛
6.NA・GI・SA
7.みじかい季節
8.黄昏のダイアリー
9.いつとはなしに
10.25時のJUNKTION
11.マリータの伝説
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夏の名残に過ぎし日を追想するような黄昏れた作品。オープニングのアカペラの「NA・GI・SA」はなんともいえない切なさ。
―――かくしてアイドルの夏の時代を終わりを告げたのであった。というナレーションでも入れたいくらい。
ジュディ・オングのエーゲ海路線のような「マリータの伝説」や「風のサマードレス」など、さりげなくいい作品もあるが、作品のテンションは低下傾向。6点。
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◆ Yes,I Love You 運命を超えて (89.05.10/ランクインせず)
1.化石の森
2.Noという愛情
3.Any More愛なんて
4.SUMMER BREEZE
5.二年遅れのBirthday
6.まどろみTwilight
7.薔薇時間
8.DESTINATION
9.夜明けの迷路
10.愛を信じて
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火サステーマソング「化石の森」も起死回生ならず。このアルバムを最後に15年以上新曲が途絶えることに――。
AORっぽい鷺巣詩朗のアレンジが河合奈保子のようだがこれはミスマッチ。「二年遅れのBirthday」の丁寧な歌いまわしがいいかな。
とはいえこれといったトピックになりうる楽曲はほとんど、ない。なんだろ、これっていわゆる駄作??4点。
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◆ アンコール (07.01.11)
1. ふれあい
2. 夢一夜
3. シクラメンのかほり
4. ソネット
5. Yes-No
6. 止まった時計
7. めまい
8. 学生街の喫茶店
9. 酒と泪と男と女
10. 時の過ぎゆくままに
11. RUN
12. 帰らざる日々
13. つめたい部屋の世界地図
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25周年を契機に歌手としての自意識に目覚めた柏原芳恵の、今度はカバーアルバム。明菜の「歌姫3」と同じように、すべて男性歌手のカバーとなっている。
当世のベテランアーティストに流行りのカバーアルバムなるものを芳恵もしてみんと――ってことか、と穿った見方はノンノン、違うのだよ、君。
80年代からしてアルバムでは「春なのに」「タイニーメモリー」「最愛」の三枚、シングルでは「ハロー・グッバイ」「あの場所から」「し・の・び・愛」「あなたならどうする」の四枚、とカバー作品を次々とドロップしていた柏原芳恵にとって、カバーはもっとも得意とするフィールドなのだ。
今回の楽曲は、南こうせつ、アリス、小椋佳、長淵剛、井上陽水など、70年代フォークがメインの、これまた柏原芳恵にドンピシャなラインナップ。
柏原、80年代によくこのあたりから楽曲提供してもらっていたものな。
サウンドプロデュースは樫原伸彦、ということで、"ダブルかしはらーず"による新譜となったわけだが、おお、今回もなかなか聞かせるぞ。というか、サウンドがなんかやりたい放題だな、おい。
「シクラメンのかほり」はジャスバーでグラスを燻らせるように渋く決まったと思ったら、「ソネット」では冬の北欧の曠野で身も凍え、「止まった時計」では中国大陸の夜の大河のほとりでまったり、
「めまい」のアンビエント調なのだろうが、氷の牢獄のような不可思議なアレンジメント(――イントロの柏原の木霊が怖いっ)で惑わされ、
「学生街の喫茶店」の吃驚あーらんびーアレンジに慄き、「RUN」でいきなり南欧の熱波にやられ……。
――と、原曲のイメージを破壊したアレンジメントが実に多いけれども、それに臆することもなく柏原芳恵のボーカルは図太く立っている。上手いっ。
元々、ボーカルが磐石なまでに「歌謡曲」な人だから、このアルバムでは、ピアノ一本の「酒と泪と男と女」やアコギ弾き語りの「時の過ぎゆくままに」、ストリングスメインのアレンジの「冷たい部屋の世界地図」など、保守的でサウンドの方がどうしてもしっくり来るのだけれども、
こういった冒険も面白い。「めまい」「止まった時計」あたりは、成功したんじゃないかな。
結果的に「歌謡曲」をゲージュツにしてしまった中森明菜の「歌姫」シリーズの荘重さを「重すぎる」と感じる人にはほどよい湿り気と重み、臭さのある歌謡曲カバーアルバム。
サウンドでいろいろ遊んでいるけれども、このアルバムはあくまで「歌謡曲」の範疇にある。コップ酒や有線が似合う親しみやすさ、そこが強み。オススメ。8点。
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