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さくさくレビュー 河合その子


cover ナベプロのアイドルというのは、他の事務所のアイドルと比べて音楽的素養のあるアイドルが多いような気がする。
沢田研二、吉川晃司、アンルイスなどのように長じて自作詞作曲し、セルフプロデュースするものが多いし、そうでないものにしても、天地真理は音大の付属高校の出身だし、小柳ルミ子は宝塚音楽学校を主席で卒業しているし、アグネス・チャンだって 日本デビュー前は香港で弾き語りをしていたし、キャンディーズだって、デビュー後に猛勉強し、解散直前には本人達による作曲などもてがけていたと記憶している。
60〜70年代のナベプロは芸能界の総合商社のような大きな事務所であったのでアイドルやタレントの他にも様々な人材を擁していたわけで、これはそこからの薫風かな、と私は思っている。 実際、吉川晃司も「既に大沢誉志幸さんや山下久美子さんがいたので、この事務所ならアイドル扱いでなくきちんと「音楽」が出来るなと思って所属を決めた」と後年語っていたりする。 そういった意味でいうと、作曲を後に手掛けるようになる河合その子はある面では実にナベプロらしいアイドルだったのかな、という感じがする。

しかし、この流れは彼女と吉川晃司で打ち止めと見ていいだろう。ラグフェア―でその路線を再興しようとしているようにみえるが、どうも尻すぼみ状態で上手くいっているとは思えない。 今のナベプロはやはりバラエティータレントの事務所である。ナベプロのレコード会社であったSMSが解散し、吉川晃司が独立し、河合その子が歌手廃業した時に、歌手を作るシステムとしての渡辺プロダクションの役割は終わったといえる。

吉川晃司とそのモノマネが十八番の中山秀征、歌手としての芸能活動に固執した河合その子とバラエティータレントとして延命を図った岩井由紀子(ゆうゆ)、この2組はほぼ同時期同年代のナベプロタレントだが、その間にはあまりにも深い河が横たわっている。


cover ◆ その子 (1985.12.05/第4位/17.3万枚)
1.午後のパドドゥ 2.渚のタイトロープ 3.恋のチャプターA to Z 4.緑のポインセチア 5.涙の茉莉花(ジャスミン)LOVE 6.さよなら夏のリセ 7.恋のカレッジ・リング 8.向うDEギャルソン 9.Please tell me Mr.朱 10.私の好きなキャサリン
全曲後藤次利というその気合はよくわかったから、そのキンキン声はやめなさい、と思わず忠告したくなる1枚。 しかもこのアルバムはおにゃん子クラブの他のメンバーがコーラスで全面サポートで、あぁガキがうるせーうるせー。 ジャケ写の美少女具合に期待して聞くと痛い目をみる1枚。 ここでの彼女はディレクターなど大人たちの狙いであったことは後年の作品でわかるが、だからなんなのだ。 案外音が取れているところといい、妙に芝居がかったキャンディボイスといい、いわゆる後の「アイドル声優」的なやらせなのだろう。 ちょいとシノワズリなデビュー曲「涙の茉莉花LOVE」、「午後のパパドゥ」や「緑のポインセチア」あたりが後につながるのだろうが、なんともかんとも。新田恵利のようなオールディーズ風やうしろ指風のコミックソングもありでかなりごった煮で方向性も皆無。4点。


cover ◆ Siesta (1986.05.21/第1位/15.8万枚)
1.プランタンにボンジュール 2.恋の秘伝−スパイス編 3.砂のネックレス 4.ささやくロッキング・チェアー 5.悲しみのトリスターナ 6.不思議バカンス 7.向い風とかくれんぼ 8.緑の少女 9.青いスタスィオン 10.シエスタ(instrumental) 11.星のピリオド
早速おにゃん子脱退したものの方向性は変わらず、妙に媚びたキャンディボイスにほだされるかむかつくかはあなた次第。 そのなかにあって「青いスタシィオン」だけが別世界。なぜこの傑作が生まれたのか、この時点ではほとんど奇蹟といっていい。 なんとか許せるのは、「悲しみのトリスターナ」「星のピリオド」あたり。それにしても「♪ して 優しくしないでして もじもじしないで して」(恋の秘伝)って、何もわかってないと思って歌わせる大人とわからないフリしてあどけなく歌う小娘という構図がひどく淫靡だなぁ。 うざい他メンバーの声がなくなったのと、「青いスタシィオン」がある分だけ前作より加点して、5点。


cover ◆ Mode de SONOKO (1986.10.05/第1位/13.7万枚)
1.愛のIMMIGRATION 2.雨上がりのシルエット 3.パラディラタンの夜 4.許してアバンチュール 5.ジョバンニの囁き 6.答えはアデュー 7.カフェテラスの独り言 8.サエラ 9.再会のラビリンス 10.避暑地のアンニュイ 11.PARISが聞こえる
「その子」以来連綿と漂っていたおフランスっぽさが現地録音のこのアルバムで前面に押し出されていく。が、ちょっとこれは観光気分が強すぎて微妙。 だって秋元センセと後藤センセったら、せっかく巴里くんだりまでいったのに、現地を感じてから作らないで、あらかじめ日本で作り上げちゃってるんだもん。 安井かずみ―加藤和彦コンビのように贅沢に作れとはいわんがこれは表層をなぞっただけにみえまする。特に秋元康、「PARISが聞こえる」とかなんだかとってもインチキっぽく聞こえる。もっとがんばれ。超がんばれ。
ただ、バックトラックはぐっと引き締まったし、詞も随分よくなったし、声もしっとりと落ちついてきた。本人がアルバムプロデューサーとして名を連ねるのもここから。前作と比べればこれは明らかに大きな前身なので、7点。


cover ◆ Rouge et Bleu (1987.07.22/第6位/5.2万枚)
1.ジェシーの悲劇 2.サイレント・リベンジ 3.乾いた地図 4.哀愁のカルナバル 5.雨の木 6.シャングリラの夏 7.赤道を越えたサマーセットモーム 8.泣き虫たちのトウシューズ 9.ときめき 10.ロマンスの行方
後藤次利の手による和製フレンチの決定版といっていいんじゃないかな。もちろん彼女のアルバムの中でも1番の出来。結局前回のフランス行きの成果がこのアルバムってことなのでは。 急にまとまりのある作品を見せられて、こっちが驚いてしまう。全曲、構成を含めまったく問題がないよく出来た作品。
その子の歌唱も「青いスタシィオン」をきっかけに「悲しい夜を止めて」あたりから俄然よくなってきたが、このアルバムで中間総括してもいいほど、これまでの成果がひとつの形で実っている。アイドル期の彼女の1枚と要ったらこれだろう。オープニングの「ジェシーの悲劇」から「雨の木」(――秋元センセは大江健三郎でも読んだのかしらん)までのA面の上品で翳りある世界が特にいい。 そういえば「哀愁のカルナバル」は真っ白な衣装で白鳥の舞のごとくぐりぐり踊っていたイメージがあるな。9点。


cover ◆ Dedication (1988.01.01/第15位/4.0万枚)
1.涙の茉莉花(ジャスミン)LOVE 2.落葉のクレッシェンド 3.青いスタスィオン 4.再会のラビリンス 5.愛の中ひとり 6.小さな旅 7.悲しい夜を止めて 8.哀愁のカナルバル 9.JESSY 10.戸惑いのバイエル
新曲3曲。新録音3曲のベストアルバム。デビュー曲から「青いスタシィオン」の3曲が新録音なのだが、これがまた、歌がめっきり良くなっていて驚く。え、同じ人??という感じ。ただ新アレンジがどれも地味目でいまいちなのが残念だなぁ。「青いスタシィオン」は明らかに以前のアレンジに負けております。
新曲もこれまたどれも地味目だけれど、これはいいんじゃないかな。前作「Rouge et Bleu」の延長のような気品のある作品。ただ新録新曲のどこか1曲は派手な部分が欲しかったな。やっぱり。ベストなんだしさ。7点。


cover ◆ Colors (1988.05.21/第19位/2.9万枚)
1.Weekend Monument 2.ラヴェンダーが目印 3.Endless Theater 4.さよならBack Stage Kiss 5.雨のメモランダム 6.カーテンの少年 7.指輪物語 8.Downtownの雨傘 9.想い出のオムニバス
ちょいと路線変更。後藤次利と距離を置き、フレンチの世界とも距離を置いた1枚。それまで漂っていた深窓の令嬢的雰囲気を打ち破るべく、普通の大学生を詞の主人公にしてみたり、アメリカングラフティーっぽい青春の日々みたいな路線をやったみたりするが、 「カーテンの少年」や「雨のメモランダム」のような内向的な世界がどうしてもしっくりいってしまう。このアルバムの世界が湿り気と翳りのある彼女の声にあっていたとは正直いいづらい。 「夕焼けにゃんにゃん」終了後のこのあたりから他のおにゃん子出身歌手と同じように売上に大きな翳りが見られるようになる。そのための方向転換なのか。6点。


cover ◆ Dancin' in the Light (1989.03.21/第38位/0.8万枚)
1.Libra 2.生まれたままの風 3.Contrastのすきまで 4.Hillsideの星空 5.Marvy Lady 6.Crazy Thing 7.ふたりぶんの背景画 8.海の足跡 9.淡(うす)い紫のブライトライツ 10.Dancin’ In The Light
テレビでの露出を抑え、作曲修行の末生まれた1枚。アルバム中4曲が彼女の作曲である。作曲だけでなく、歌もしっかり修行したんじゃないかな。相当上手くなっている。彼女の声の1番低いところで歌っているような楽曲もあるけれど、充分こなしている。 特にオープニングの「Libra」など、感情をつめ込むだけつめこんだという感じで泣かせる。
全編曲はTodd Yvegaという外人さんで、ミュージシャンもあちらさん、その子以外の作曲もあちらさん。海外レコーディングかな、と思われるがパーソネルに記載はない。80'sAOR風味の瀟洒な音づくりで、彼女の作品ではちょっと異端ではある。 とはいえ、これは彼女にとっていいトライアルだったといえるんじゃないかな。
ちなみにここから「sonnet」まで、当時のWinkや松田聖子などアイドルのアルバムではお馴染み川原勝氏がジャケットのアートディレクションとなる。8点。


cover ◆ Replica (1990.04.21/第50位/0.9万枚)
1 ひとときの未来 2 アネモネの記憶 3 さよならの嘘 4 刹那で踊りたい 5 夜明けをほどいて 6 月夜 7 空を見上げて 8 フレンズ 9 恋はやさしく 10 銀色海岸−Mind Lithograph−
ラストアルバムでついに全自作曲に打って出る河合その子。とはいえ、そこに妙な気負いはない。あくまで自然。今までも自分でやってましたがなにか、というさりげなさ。各曲にとり入れたジャズテイストやラテンテイストなどもそんな感じでさりげなく、風のような着こなし。歌唱も高いところ低いところと自由自在だけれども、無理しているような感じはまったくない。 そういった意味でもこの作品は彼女の歌手活動の完成形ともいえる作品。
アレンジャーは武部聡志、佐藤準、小林信吾とツワモノぞろいで良質なOL泣かせなバラードが特に目を惹く。今でいったらELTあたりの路線かなぁ??
それにしても不倫の恋を歌った自作詞「ひとときの未来」に妙な説得力があるのはなぜ。ゴツグとは当時三角関係だったのかなぁ、と穿った見方もしてしまうというもの。8点。


cover ◆ sonnet (1990.12.21/第83位/0.6万枚)
1 涙の茉莉花LOVE 2 落葉のクレッシェンド 3 青いスタスィオン 4 再会のラビリンス 5 悲しい夜を止めて 6 哀愁のカルナバル 7 JESSY 8 夢から醒めた天使 9 雨のメモランダム 10 淡い紫のブライトライツ 11 生まれたままの風 12 フレンズ 13 ひとときの未来 14 空を見上げて
歌手休業記念ベスト。この休業はそのまま後藤次利との結婚によって廃業となったのは皆さんご存知の通り。 昔(――87年頃だと思う)の彼女のインタビューで、5年後の自分は何をしている??という質問に「引退して結婚しているんじゃないかな」と答えた彼女なので、彼女の廃業にはさして悲愴な感じを私は持たない、もう2、3枚アルバム作ってもよかったよねというのはあるけれどね。
全シングルと後期の自作アルバムからのセレクションというありふれた布陣であるが、1枚モノのベストとしては1番そつのないつくりといえる(もうちょっとつめてあと3曲ぐらい入れればいいのに、というのはあるけれど)。 入門編としてもちょうどいいし、ファンが彼女のボーカリストとしての成長を楽しむというのにもちょうどいい。8点。


2004.11.28
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