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さくさくレビュー 石川セリ


cover  いつも紗のかかった幻想的なジャケットが、妖しげで、なにか思わせぶりな石川セリ。
 井上陽水夫人であるということ以外、プライベートな部分がまったく見えない石川セリ。
 そもそもいわゆるシンガーソングライター系でも、もちろんアイドル系でもないのに、ユーミン、陽水をはじめ、矢野顕子、大貫妙子、かしぶち哲郎、加藤和彦、坂本龍一、南佳孝、PANTA、あがた森魚、大村憲司、玉置晃司、筒美京平、大沢誉志幸、と、日本ポップス界の天才、秀才、異才、鬼才 が彼女の周囲に一堂に集っているのが不思議な石川セリ。
 その存在の正体不明さが、そのまま彼女の音楽の良さに繋がっているのが面白い。
それが自己プロデュースなのか、あるいは、偶然の産物なのかは、 よくわからないけれども、とても雰囲気のある、ちょっと妖しい女性歌手が歌っているよ――というのが、彼女の歌の良さだと思う。
 ポピュラリティーあふれる「顔」のある歌でなく、匿名性の紗の向こうで微笑んでいる、しかし訴求力の強い歌。 なにげなく通り過ぎて、通り過ぎた後にふと振り返りたくなるような、そういう良さがあるのだ。
 彼女の歌手活動はまったくもって散発的で、また彼女の名前を知る人も決して多くはなく、 それがちょっと悔しいかな、と思っていたときもあったが、 それが彼女の歌の表現するに一番あっているんだなと、近頃は思うようになった。


cover ◆ パセリと野の花  (71.11.05/ランクインせず)
1. 八月の濡れた砂 2. 野の花は野の花 3. あて名のない手紙 4. 鳥が逃げたわ 5. 天使は朝日に笛を吹く 6. 小さな日曜日 7. デイ・ドリーム 8. 村の娘でいたかった 9. 私の宝物 10. 聞いてちょうだい 11. あなたに夢中よ 12. グッド・ミュージック
日活映画『八月の濡れた砂』主題歌でデビューした石川セリのファーストアルバム。 ほぼすべての楽曲を樋口康雄が作曲した、フォーク色の強いアルバムとなっている――らしいが、わたしは未聴。 ベスト盤収録のこのアルバムの楽曲を聴くかぎり、後の石川セリの世界と方向性が違いすぎて、ちょっとつらいかな、と手を出していないけれども、そんなわたしの判断、どうよ。


cover ◆ ときどき私は…  (76.01.25/34位/3.6万枚)
1. イントロダクション 〜朝焼けが消える前に 2. 霧の桟橋 3. ときどき私は…… 4. 虹のひと部屋 5. なんとなく…… 6. さよならの季節 7. ひとり芝居 8. セクシー 9. タバコはやめるわ 10. 優しい関係 11. フワフワ・WOW・WOW 12. 遠い海の記憶
 四年のスパンがあいての二枚目。この空白の4年は一体なんなんだ。謎めきすぎ。 そんな仕切りなおしの二枚目。 作家は、友人の荒井由実をはじめ、下田逸郎、みなみらんぼう瀬尾一三、萩田光雄、佐瀬寿一、松本隆など。 これも筆者未聴なので判断不能。


cover ◆ 気まぐれ  (77.06.05/33位/3.6万枚)
1. Moonlight Surfer  2. ひとりぼっちの日曜日 3. 昨日はもう 4. MIDNIGHT LOVE CALL 5. Why 6. ダンスはうまく踊れない 7. すれ違いハイウェイ 8. Flight 9. るれーぶえらび 10. 気まぐれ
 おそらく第一期の石川セリの傑作、といっていいんじゃないかな。 プロデュースは矢野誠。 作家は、矢野顕子、来生たかお、中村治雄(PANTA)、南佳孝、井上陽水、長谷川きよしが参加。
 高樹澪のカバーでヒットした「ダンスはうまく踊れない」をはじめ、PANTAのポップス路線の最高傑作といって過言でない「Moonlight Surfer」、南佳孝自身もセルフカバーした「MIDNIGHT LOVE CALL」、矢野顕子とボーカルを掛け合う「昨日はもう」(――このピアノの音、露骨にアッコちゃん節っ)など、 スタンダードとしていまでも残る隠れた名曲が並んでいる。 当時のロック・NMシーンの最も良質な雫を贅沢に集めた一枚、という感じ。
 そうそうこのアルバム、矢野誠・顕子夫婦時代の作品ということもあって、ピアノはすべて矢野顕子、アッコファンも聞くべし。
 そして注目なのが、「ダンスはうまく踊れない」「Flight」「気まぐれ」の三曲を担当した井上陽水。 タイトル作「気まぐれ」(――作詞は、石川セリ本人)では、ブルースハープを熱っぽく披露している。 このアルバムが井上陽水とのロマンスの発火点になったことは、周知の通り。 男・陽水、いつも寝起きのようなぬぼーっとした顔の癖して、決めるときは決めるぜ。8点。


cover ◆ Never Letting Go  (78.06.05/66位/0.3万枚)
1. 素顔のままで 2. ワン・シング・オン・マイ・マインド 3. ハウ・メニー・ライズ 4. あふれ出る涙 5. 二人だけ 6. ミッドナイト・プラウル 7. デスペラード 8. アントニオの歌 9. 愛は惜しみなく 10. ネヴァー・レッティング・ゴー
井上陽水との結婚直前にリリースされたカバーアルバム。 ビリージョエル、イーグルス、ボブスキャッグスなど70年代のポップス・ロックを歌っているが――これも未聴。 このアルバムからしばらく石川セリは結婚出産休暇へ突入する。


cover ◆ 星くずの街で  (81.12.20/46位/2.5万枚)
1. 真珠星(パール・スター) 2. 手のひらの東京タワー 3. 風のない白い夏 4. スノウ・キャンドル 5. 不思議アラビアンナイト 6. 大じゅもん 〜ひとつひとつあなたに〜 7. バイ・バイ・オートバイ 8. OFF TO THE OUTAR LAND 9. Rose Bud 10. 星くずの街で抱きしめて
 三年の休暇が明けて、ようやく復帰アルバム。というわけで、活動休止以前の傑作「気まぐれ」をなぞったようなつくりといっていいかも。
 ほぼすべての編曲と音楽監督を矢野誠が担当。 作家は松任谷由美、矢野顕子、大貫妙子の三大歌姫に、あがた森魚、PANTA、杉真理、矢野誠、岩沢二弓。
結婚・出産というイベントを経過しても、彼女の声に生活の垢は感じられない。 そのふわふわとした存在感が次作でひとつの世界観を作り出すのだが、このアルバムは あくまで良質のポップがつまった佳盤というところにとどまっている。手堅く危なげはないが、反面面白みにかける嫌いも。 そのなかで「不思議アラビアンナイト」「大じゅもん 〜ひとつひとつあなたに〜」「OFF TO THE OUTAR LAND」あたりに次作以降のニューウェーブ路線の予感を感じる。 「大じゅもん」の、あっこちゃんの声が聞こえそうな、まんまなボーカルや、大貫妙子作品なのに、パワフルなポップンロックが意外なタイトル作「星くずの街で抱きしめて」あたりが個人的には好き。7点。


cover ◆ MOBIUS  (82.10.05/21位/5.3万枚)
1. Fairy tails 2. ヘルミーネ 3. 水晶の壁 4. メビウスのダンスホール 5. 川景色 6. とめどなく 7. VAPOROUS 〜水蒸気〜 8. 六色の虹 9. マクロコスモス
 石川セリ、ニューウェーブ化、発動。
 プロデュースは矢野誠+石川セリ。作家は矢野誠、友人のユーミン、来生姉弟、PANTA、森雪之丞、福沢もろなど。 このアルバムが、一番彼女らしいアルバムかな、と思う。
 彼女の声は、バタ臭いけれども、暑苦しくなく、さらっと身軽に歌っているように見えて、詩情が豊かで、深みがある。 アンニュイさやセクシーさの向こうに母性を感じる、ぬくみのある歌手だ、と思う。
 そんな「石川セリ」という稀有な歌手にふわっと神秘のベールをかぶせたような、虚構性の強いファンタジックなアルバムになっている。 現実的な恋愛風景を歌っていても、この世から数センチずれた世界という感じがただよっていて、不思議な印象を聞き手に残す、SF的で、ロマンチックで、浮遊感がある作品。
 矢野誠の作り出すアナログテクノ的な暖かみのある幻想的な音像も石川セリの個性にぴったりあっている。 ユーミン自身が後にセルフカバーした「川景色」の、日常的な恋愛風景の歌を、アレンジと歌唱でふわふわとスペイシーな印象に様変わりさせたりするところなど、まさしくセリ+矢野誠であればこそのプロダクトという感じ。 タイトルにもなった「メビウスのダンスホール」の、壮大なテーマをけだるくもやさしく歌うところなんかも、いいよなぁ。 隠れた、傑作アルバム。9点。


cover ◆ BOY  (83.06.10/27位/4.3万枚)
1. 睫毛の先の21世紀 2. ドクターおねがい! 3. とぎれた記憶 4. 地下室のヴィーナス 5. 風と踊る 6. 河 〜ベナレスにて〜 7. BOY 8. Tall Children 9. 夏の海岸 10. Sister Moon
 『メビウス』に続いて、矢野誠プロデュース。 作家は、矢野誠、かしぶち哲郎、筒美京平、松尾一彦など。詞作は、森雪之丞が数多く請け負っている。
 世界観は前作の延長にありながらも、『メビウス』よりも、ポップでわかりやすいつくり。 サウンドも打ち込み主体でありながら、前作のような、ある種閉鎖的ともいえる濃密さは感じられない。きらきらとしていて、すこし楽しげ。 詞も、耽美的でありながら、親しみのある――いかにも森雪之丞らしいつくりになっている。 幻想的な向こう岸にかかる紗を一枚剥いで、こちらに向かって微笑んでいるやさしい女神、という雰囲気。
 イタリアンツイストが意外なタイトル作「BOY」、つんでれ美女描写が素敵に巧みな「地下室のヴィーナス」、 倦怠的なメロディーが危うい筒美作品「風と踊る」、眩暈のようなラテンテイストの「とぎれた記憶」、坂本龍一編曲作品のようにドリーミーなテクノポップ「DOCTORお願い」(――アレンジは矢野誠)、などなど、 キャッチの強い楽曲はないが、上品でさりげない良さが漂う作品がずらりと並んでいる。
 開放的な真夏の午後、水辺の近くの木陰でききたい。涼しく、妖しい夏の幻。8点。


cover ◆ Femme Fatale  (84.12.01/57位/0.9万枚)
1. NOEL (ノエル) 2. コロニー 3. 恋愛飼育論 4. TWO 5. キ・サ・ラ恋人 6. ジャングル 7. SOLEIL (ソレイユ) 8. 永遠の誓い 9. MARTINET (雨燕) 10. 姉妹 11. NOEL 〜reprise〜
 かしぶち哲郎プロデュースによる薫り高い名盤。 すべてのアレンジと、大半の楽曲の作詞作曲をかしぶち哲郎が担当。 プレイヤーもすべてムーンライダース人脈。 挿し色で大貫妙子作品の「コロニー」、安井かずみ・加藤和彦夫妻作品の「ジャングル」、坂本龍一作曲の「永遠の誓い」が収録。この作家のチョイスも、完璧かと。
 ただひたすらに高貴で、ほんのすこしだけエロティック。そしてため息をつかんばかりに、クラシカル。 フランスの貴婦人の夏のバカンスの一景を覗き見てしまったというか、 しっかり手入れされた緑あざやかな午後の庭園でアンニュイにお茶会している貴婦人を樹陰から覗き見している使用人のわたし、というか、そんな感じですよ、これ。 決して触れることはあたわない。そもそも触れることを望んでいない。しかし、ゆえに、ずっと見つめていたい、という。って何いっているんだ。
 ニューウェーブ的な実験的なサウンドを配しながらも、常にあまく幻想的な弦楽が全篇でなっている。 どこか閉鎖的な感じがただよっているけれども、濃密で、それがとても居心地がいい。 夏の箱庭的な雰囲気は、原田知世の「GARDEN」 (――こちらは鈴木慶一プロデュースだった) に近い感じも、ある。まごうことなき傑作。10点。


cover ◆ 楽園  (85.09.05/57位/0.6万枚)
1. Panorama Heaven 2. Desire 3. 永遠の 1/2 4. フロッタージュ氏の怪物狩り 5. 愛の分量 6. オリンポス 7. 水無月のカルメン 8. いろ、なつ、ゆめ 〜彩・夏・夢〜 9. 昔イタリアで 10. あやかしのはな
プロデュースは石川セリ、全編曲は大村憲司。 作家は、矢野誠、かしぶち哲郎、森雪之丞、福沢もろ、坂本龍一などのいつもの面子に友部正人、玉置晃司、大沢誉志幸らが初参加。
 バラエティーに富んだ豪華作家によるアルバムとなったが、内容は、「メビウス」以来の、ニューウェーブないつもの石川セリ。 全体的に、リゾート感覚の溢れたリラックスした雰囲気が漂っている。「BOY」に近いつくりだが、「BOY」よりもいっそう質感は甘い。 タイトルに「オリンポス」とか「イタリア」とかあるように、ちょっと地中海っぽい雰囲気もあり、ニューウェーブ版「白の幻想 (ジュディ・オング)」という感じも。
 「愛の分量」の刹那さ、「フロッタージュ氏の怪物狩り」の不思議な童話のような雰囲気、「いろ。なつ、ゆめ」の耽美的な鮮烈さ、 ラスト「あやかしのはな」は坂本龍一の民族音楽色の強い(――東南アジアっぽい ? )玄妙な旋律が、まさしくあやしい。
 夢かうつつかという、正体不明な神秘性はいつもとかわらず。浮遊感と熱砂の余熱の感じる、真夏の夜の夢という磐石な1枚。好い。
 以後、「翼」まで10年間、オリジナルアルバムは途絶えることになる。7点。


cover ◆   (95.11.21/ランクインせず)
1. 小さな空 2. 島へ 3. 明日ハ晴レカナ曇リカナ 4. 三月のうた 5. 翼 6. めぐり逢い 7. 死んだ男の残したものは 8. うたうだけ 9. ○と△の歌 10. 恋のかくれんぼ 11. ワルツ「他人の顔」より 12. 雪 13. 見えないこども
 自らの死を間近に迎えたものは、一体なにをその眼に映すのだろう。
ガンに冒された武満徹が最後に作ったアルバムが、この「翼」である(――発売三ヵ月後に彼は亡くなっている)。 このアルバムは、あまりにもやさしい。
 なんの変哲もない、さしたる派手さや、斬新さ、趣向を凝らした仕掛けがあるわけでもない、小さな歌。 それは路傍の花のような歌なのだが、これが、しみじみとやさしく、そこには悲しみの気配すら漂っている。 あらゆるものを通り過ぎた後の、ただただ美しい残照のように――、音もなく、ひたひたと心に沁み、 なぜか、赦された――と、わけもなく思えてくる。
 少年期の黄昏の風景を追想する「小さな空」、みじかい些細な言葉にしかし、人生そのものを封印しているとも思える「明日ハ晴レカナ曇リカナ」など、どうしようもなく泣ける。 ここにあるのは、もともと彼が死期を悟って作られた歌ではないのだが、あまりにも自らのための葬送曲、という感じがして、たまらない。 さまざまな感情を閉じ込めて、あらゆるもの――もう既に失ったもの、これからすぐに失うであろうものに「ありがとう」をいっているような、そんなアルバムなのだ。
 主婦業に専念し10年以上歌手活動を休んでいた石川セリのまったく衰えない歌唱力――むしろ表現力は増している、コシミハル、Coba、服部隆之などのそれぞれのアレンジの妙味など、 他にも聞くべき点は多いのだが、いや、なんとも胸がいたむ。 どうして、人は生きていくのだろう。そして死んでいくのだろう。8点。



2006.10.03
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