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全作品レビュー 中谷美紀


「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」とベルトリッチ作品の映画音楽で2度のアカデミー賞に輝き、さらに92年にはバルセロナ五輪では開会式テーマ曲を担当、日本という狭いフィールドを飛び出し、世界規模での音楽活動にいたった坂本龍一だが、93年のYMOの再生をきっかけにふたたび国内へとその視線を向けて時期がほんの少しだけあった。
ヴァージンレコードからフォーライフの自身のレーベル、グートを作り移籍。国内の様々なアーティストを招聘して作られたアルバム『Sweet Revenge』を94年にリリース。 ダウンタウンをおもちゃにしたプロジェクト、ゲイシャ・ガールズ。レコード会社との移籍騒動中の中森明菜に提供した「Everlasting Love」。 今井美樹とのデュエット「二人の果て」。また80年代に常に共同でアルパム制作を行なってきた大貫妙子との久々の邂逅(アルバム『Lucy』)。
そういった一連の作業の中で最もポップスよりで、最も長く続いたのが、中谷美紀へのプロデュース作業であった。


中谷美紀。桜っ子クラブ・KEY WEST CLUBなど、アイドル歌手として活動するものの失敗。女優転進し、少しずつ知名度をあげつつあった96年に坂本龍一プロデュースの「Mind Circus」で歌手として再デビューする。 (―――ちなみに彼女の坂本龍一との邂逅は前述『Sweet Revenge』の1曲、「愛している愛していない」である。まさかここから彼女をピックアップして長年プロデュースするようになるとは……。お天道様もわかるまい) 彼女は本業の女優としての仕事の傍らで、坂本龍一の楽曲を歌うという使命を果たすことになる。
そして歌手業が女優業を補完するような形で彼女は名声を得ていくことになる(―――こういった女優兼歌手というのも気がつけば随分少なくなったなぁ)。

中谷自身が、どういったスタンスで歌手業を行なっていたか、私は知らない。
作品は坂本龍一のその時々の趣向がそのまま反映されているように見え、中谷は坂本の人形に徹しているように見えた。
監督に対する女優のように、いわれたことをそのままシステマチックに従っているいうか。素材ということを意識してその場にいるというか。坂本作品を歌う彼女はそんな風に見えた。 そんなわけで、坂本自身がポップスに飽きる速度と同じにして、彼女が歌をリリースする作品のペースは散漫になり、いつのまにかこのプロデュースはフェードアウトになる。
彼女は坂本龍一の手から離れてまで歌おうというという気すらないのだろう。歌手としての彼女は以来それっきりである。

当時、坂本龍一の中谷美紀への人形遊びっぷりは小室哲哉の華原朋美に対するそれにかなり近しいように見えたのだが(――もちろん、これはプライベートの話ではない)、中谷美紀の本業が女優であり「歌手」という仕事に対して一定の距離を持っていたこと、中谷が坂本に対して過剰に依存しなかったことが功を奏したのか、華原朋美のような悲惨は彼女には待っていなかった。 彼女はしれっと、今でも芝居にCMに大活躍である。


◆◆◆ シングル編 ◆◆◆


cover  Mind Circus  (96.07.19/20位/14.5万枚)  作詞:売野雅勇 作・編曲:坂本龍一
 舌ッ足らずな歌いきれてなさがロリータ感を漂わせる再デビューシングル。高橋幸宏の安田成美プロダクトのような80年代テクノ歌謡的ロリチックな妖しさがむんむん。売野雅勇による「君が、ボクが」の詞もお耽美・美少年路線で完璧。「君の誇りを汚す者から君を守っていたい」って。ぬははは。その昔、教授をおっかけた元やおい少女も納得の出来。さぁ、みなさんで萌えましょう。7点。


cover Strange Paradise (96.09.04/30位/9.3万枚) 作詞:売野雅勇 作・編曲:坂本龍一
 売野雅勇、完全に本気モード。既視感のような懐かしさと青臭さがいっぱいの売野雅勇の世界。ゴダールの映画がどうちゃらとかお好きな小道具を散りばめたり、未来は過去にあるなんて禅問答のようなこといったり、小ネタが微笑ましいです。 テーマはずばり「この世はStrange Paradise」この延長に「天国より野蛮」が来る。8点。


cover  砂の果実  (97.03.21/10位)  作詞:売野雅勇 作・編曲:坂本龍一
 坂本龍一feat. Sister M「The other side of love」の日本語詞カバー。当時てっきり「Sister M」とは中谷のことかと思っていたが、この作品のリリースでさにあらずということが判明。元歌の大ヒットもあいまってこの曲も彼女の作品で最高の売上に。ここからしばらく坂本美雨と中谷美紀は坂本プロデュースの裏表のような関係になる。 それにしてもこの歌は「エヴァ時代」を象徴するような人のトラウマを撫で上げる詞が印象的。 「生まれてこなければ本当はよかったのに……/あの日君に投げた声に復讐されてる」 イノセンスで被虐的な鬱系美少年成分をたっぷりと。これを「あらかじめ失われた革命」と最後にまとめるあたりが売野雅勇クオリティー。7点。


cover  天国より野蛮  (97.05.21/28位)  作詞:売野雅勇 作・編曲:坂本龍一
 売野雅勇、大炸裂。「Strange Paradise」+「Mind Circus」。90年代の彼の詞作の中では間違いなくNO.1でしょう。 この世は天国より野蛮なStrange Paradiseだけれども、時おり美しく、血の匂いと不吉な予感はかけめぐり、それでも君を気が触れそうなほどだきしめる。 美しくも鋭い言葉がナイフのように光を反射して思わず眩暈にたおれてしまいそう。気分はもう「黄昏詞華館」。お耽美といえば売野雅勇に任せなさいということか、そういうことなのか。 JUNESTのわたしは10点をつけざるをえない。これは否定できないよ。


cover  いばらの冠  (97.09.03/36位)  作詞:松本隆 作・編曲:坂本龍一
 ここでワンポイントリリーフで松本隆の登板。松本作品の系譜としてはズバリ「抱いて」(松田聖子)+「Wの悲劇」(薬師丸ひろ子)。不倫の恋のはて、恋人が入水自殺という歌、といったら身も蓋もないな。 死するオフィーリアのごとく水辺に浮かぶわたし。冷たくなった私の体をあなたは抱きしめる。ロマンチックで痛々しいひとつの美しい破局。 タイトルのモチーフはキリスト教のそれというよりも、大島弓子の「いたい棘いたくない棘」(「ごめんね かんむりをとりにきたよ」)あたりにむしろあるように見受けられる。 それにしても「わたしを消去して」という部分が怖い。携帯のメモリーを消すようにわたしの存在ごと消して忘れて欲しい、というような意味だろう。松本氏は90年代後半に周囲の再評価とともに少しずつ詞作を再開するが、こういった小道具に今っぽさを持たせようと努力しているように見受けられる。9点。


cover  クロニック・ラブ  (99.02.10/14位)  作詞:中谷美紀 作・編曲:坂本龍一
 坂本龍一とともにワーナーへ移籍。ここからは自作詞がメイン。この曲は岡田有希子の遺作『ヴィーナス誕生』のオープニングを飾った「Wonder Trip Lover」のカバー、ってこれには正直驚いたよ。ユッコの楽曲がこんな形で甦るとは……。 でもってドラマ「ケイゾク」の主題歌で「あなたの呼吸が静かになるのをここから僕は見届けるよ」って、不吉過ぎる。不吉過ぎます。中谷美紀の詞はよくいえば核心をはぐらかしているように聞こえるので、なんだかとっても意味深な感じが。 ちなみにこの曲は坂本自身も86年アルバム『未来派野郎』で「Ballet Mechanique」というタイトルでカバーしております。8点。


cover  フロンティア  (99.07.28/18位)  作詞:中谷美紀 作・編曲:坂本龍一
 今度は、坂本美雨「awaking」のカバー。連続の使いまわしに正直坂本センセ、ネタなかったのかなと思ってしまう。このあたりから坂本センセはこの中谷美紀プロジェクトに対して飽きているのでは、とさすがに思えて仕方ない。 それにしても楽曲に漂う圧倒的なまでの末期感にはまいってしまう。一種の葬送曲ではなかろうか。荘重の一言。 この意味のよくわからない重苦しい空気から逃れたいと思う一方でなぜかひたってしまう。この頃から再デビュー時の売野雅勇作詞作品の「演出としての暗さ」から一歩踏みこんで本気の領域に入っていく。9点。


cover  こわれたこころ  (00.05.17/22位)  作詞:中谷美紀 作・編曲:坂本龍一
 今度は坂本龍一のピアノ・ソロ「Lost Love」との競作。「Lost Love」は中谷主演のドラマ「永遠の仔」のテーマだったが、この「こわれたこころ」もまたそのドラマのイメージソングのような作品。 ドラマのイメージもあるのだろうが、「砂の果実」以来そこはかとなく漂ってきていたアダルトチルドレン路線ここにきわまれりという佇まいの1曲になっている。
 全編ひらがなの中谷美紀の詞は舌足らずな子供の悲鳴のようだし、バックトラックは坂本の必殺技なピアノ一本で、どこまでも悲劇で荘重。 リストカッターの左手首を見せつけられたような、なんともやるせない気分になること間違いなし。 捨て子のその後のようなイタイケMAXなジャケ写も完璧なプロダクト。号泣するか、どん引きするか。この曲はそのふたつしかリスナーに道筋を用意していない。9点。


cover  エアーポケット  (01.05.09/26位)  作詞:中谷美紀 作・編曲:坂本龍一
 ドラマ「R−17」主題歌。1年のタームをあけるものの、世界観は前作と変わらず。 ―――全てが遥か色褪せた世界。夢の場所だけであなたと抱きしめあえる。もう朝なんてこなくていいのに。目覚めるといつも涙がこぼれる―――。
 陳腐すれすれの歌詞なのだが、なぜか坂本龍一のシリアスなトラックとあいまるとものすごい必然感と切迫感をリスナーに与える。 ただ、このワーナー移籍以降のトラウマ路線、なんでここまで悲愴なのか、リスナーにはその前提が用意されていないので、いまいち了解しにくいところもあったりして。 なんでこんなに絶望しているの、美紀ちゃん。わかりにくいよ。わたし全然わからない。と大竹しのぶバリにわたしはいいたい。 それにしても「こわれた〜」「エアーポケット」路線で、静謐でこの世を絶望しきったようなアルバムをわたしは聞きたかったなぁ。10点。


◆◆◆ アルバム編 ◆◆◆


cover ◆ 食物連鎖  (96.09.04/フォーライフ/5位/13.1万枚)
1.MIND CIRCUS 2.STRANGE PARADISE (Paradise mix) 3.逢いびきの森で 4.汚れた脚 〜the silence of innosence〜 5.MY BEST OF LOVE 6.WHERE THE RIVER FLOWS 7.TATTOO 8.色彩の中へ 9.LUNA FEVER 10.sorriso escuro
 80年代のサカモト再び。アイドルごっこというとっぽい遊びに何を思ったのか久しぶりに手を染める坂本キョージュ。 売野雅勇、大貫妙子、小西康陽、高野寛、Arto Lindsayなどといったいつもの人脈で「中谷美紀」という一人の美少女を素材にやりたい放題弄くり倒しております。
 「色彩都市」とかあのあたりのラインを狙ったであろう大貫妙子作品の「MY BEST OF LOVE」、ロリータ・ジャズ(勝手にジャンルを作ってみた)でヨーロピアンな小西康陽の「逢いびきの森で」などなど、キョージュ以外の職人達が趣向を凝らしてがんばっております。 個人的にはどこまでもメランコリックな詞がよい「WHERE THE RIVER FLOWS」(――秋元康は絶対これを参考にして柴咲コウの「いくつかの空」を作詞したと思うぞ)、ダリの絵のように現実感が溶解していく「sorriso escuro」がツボ。中谷美紀の1枚っつったらこれだと思う。9点。


cover ◆ Cure  (97.09.26/フォーライフ/7位/12.1万枚)
[Disc.1] いばらの冠 2.天国より野蛮 3.砂の果実 4.水族館の夜 5.鳥籠の宇宙 6.Superstar 7.キノフロニカ 8.corpo e alma
[Disc.2] 1. Aromascape 2. Aromascape (No piano mix)
 今回はほぼ全作曲を坂本龍一が担当。前作にあったポップ感はぐっとなりを潜め、深遠に小難く、重い印象となった1枚。 売野雅勇のギミック満載のお耽美詞にハウスの「キロフニカ」、ラストを飾る大貫妙子詞のおおらかなサンバ「corpo e alma」でようやくほっとさせられる。これがなかったらちょっときつい。この作品以上に深いところに行ったら樹海かなぁ、とリリース後にわたしは思ったりもしたが、結果そうなってしまった。
 それにしてもおまけディスクのアンビエントなインスト「Aromascape」って意味あったと思う?そこんとこ、どうよ。なんかF1層に無駄に阿っているように見えるのは私の心が濁っているから? 8点。


cover ◆ 私生活  (99.11.10/ワーナー/11位/4.3万枚)
1.フロンティア 2.雨だれ 3.temptation 4.Confession 5.クロニック・ラブ 6.Spontaneous 7.夏に恋する女たち 8.Automatic Writing 9.フェティシュ(Fetish) 10.Leave me alone… 11.promise 12.all this time 13.temptation
 実験か、はたまた悪ふざけか、それともただ飽きただけか。
 ファッション雑誌を彩るような「演出された私生活」でない「中谷美紀の本当の私生活」とはなにか。そんなものは、所詮メディアの硝子の向こうにいるわたしたちにゃわからないし、わたしたちはそんなものを求めちゃいない。だからメディア側だってそんなものをプロデュースする必要はないのだ。
 いわゆるエヴァンゲリオン的に内面を吐露している「CONFESSION」にしても、OLの1DK的日常生活を盗聴しているような気分を味わえる「LEAVE ME ALONE」にしても、それらは「リアルを装った虚構」としてしかわたしたちには届かない。だいたいこれらにしても、イメージとしては「中谷美紀そのもの」ってよりもむしろ「『ケイゾク』の柴田の演技をしている中谷美紀」って感じだしさ。 このアルバムはメディアの俎上に上がったものの自家中毒の作品しか見えず、その魅力はわたしにはよくわからない。
 なぁんて、ぐちゃぐちゃ考えてみたりもするが、それ以前に歌モノの新曲が三つしかないって、その事実だけで手抜きだっつうことくらいわかりますがな。6点。


cover ◆ MIKI  (01.11.21/ワーナー/50位/0.9万枚)
1.クロニック・ラヴ 2.フロンティア 3.フェティッシュ(Fetish) 4.こわれたこころ(Band Mix) 5.エアーポケット 6.CHELSEA GIRLS 7.all this time 8. 夏に恋する女たち(Drum Mix) 9.雨だれ 10.クロニック・ラブ(Instrumental) 11.エアーポケット(Instrumental) 12.雨だれ(Instrumental)
 ま、アレだ。これはレコード会社との契約とか、そういった諸々の事情による産物。 ワーナー時代のシングルの全てを収録したベスト的アルバムだが、そもそもワーナーでリリースした楽曲自体が少ないのでなんとも。ワーナー時代も寡作ながら質の高いシングルをリリースしていただけに、しっかりした作りのアルバムを1枚でも聞いてみたかったなあ、というのが私の率直な感想。シングル持っていないという方はこれを買うべきなのだろうが、追いかけている身としては……。 ただひたすら後半のカラオケがむなしく響き、作曲家、坂本龍一への尊敬と愛情以外の加点要素が私のなかではみつからず、5点。

改訂 2008.12.23
2005.03.21
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