メイン・インデックス歌謡曲の砦>さくさくレビュー 吉川晃司


さくさくレビュー 吉川晃司


cover 「たのきんトリオ」のブレイク以降現在に到るまで、男性アイドルの市場はほとんどジャニーズ事務所に牛耳られている状態であり、 男性タレントがジャニーズ寡占状態の間隙を縫って歌でブレイクをはたすには、本業が俳優であったり、あるい「バンド」という形態をとりメンバーで作品を自作したり、といったスタイルが必要のようであって、非ジャニーズによる直球アイドルがトップに立つという状況は非常に難しくなっている。 そのなか、俳優でもなく、バンドでもなく、曲も自作しない。アイドルのソロイストとして直球で勝負し、ブレイクを果たしたのは、吉川晃司だけではなかろうか。

吉川晃司が、ナベプロのリーサルウエポンとしてデビューしたということを知る人は多いと思う。 彼は84年に『沢田研二以来の大型新人』という触れ込みで映画主演、シングル同時のデビューを飾った。 その内幕は軍司貞則氏の「ナベプロ帝国の興亡」(文藝春秋)という著書の第23章「最後の賭け」に詳しい。
(当時の渡辺プロ社長、渡辺)晋は、ゆっくりと席に座るなり30人ほどの顔を眺めて強い調子で言い放った。
「いま、渡辺プロの金庫に残っているカネは三億円だけだ。これしかない。お前たち、いいか、ようく聞けよ。この三億円を使って吉川晃司を売り出す! ともかくなんでもいいから売れる方法を考えてこい!」
会議室は一瞬静まりかえった。
吉川晃司の売出しにはファンクラブ、営業、宣伝等、沢田研二の売り出しと同クラスのスタッフチームが作られ、そのチーフにはソロ時代の沢田研二のマネージメント担当であった森本精人氏がつくことになったのだ、という。

もちろん、その大勝負に渡辺晋氏とナベプロは勝利し、吉川晃司のデビュー曲「モニカ」は30万枚の大ヒット、アイドルとして磐石の地位を彼は得ることになるのだが、 元々地元広島でロックバンドで活動していたところをスカウト(―――というか吉川自身曰く、みずから「広島に凄いやつがいる」と手紙をプロダクションに宛てて出し、事務所の人間が四国の松本明子を見るついでに訪れてスカウト、という流れらしい)された彼であるから、わかりやすい「アイドル」というアイコンで収まるはずもない。

アイドル時代の彼は「アイドル」と見られることの焦りゆえか、生放送中にセットに登る、客席に飛び込む、水に飛び込む、ギターを燃やす、アンルイスに後ろから襲いかかる、挙動不審気味にうろうろする、などやりたい放題 ――85年の紅白歌合戦では「憎まれそうなNEWフェイス」で初出場するものの、 飲んだシャンパンを吐き出すは、曲終わっても勝手に居座りギターを燃やして、次の歌手の河合奈保子を妨害するは、無茶くちゃで、以来十五年近くNHKの出入り禁止となったという伝説のステージをやらかしてしまった。 結局彼は同時期の中森明菜や小泉今日子、チェッカーズなどとともに80年代後半の「アーティスト化するアイドル」という役割を担うことになり、 86年のアルバム『Mordern Times』からは早くも自作へと大きく傾く。 このアルバム以降、シングルヒットも少なくなり、アルバム中心のロック・アーティストへと大きく様変わりし、 88年にはナベプロ本体から離脱、傘下の子会社へと移籍し(沢田研二やアンルイスの暖簾分けと近いパターンといっていいかな)。 そして89年の布袋寅泰とのCOMPLEX結成となる。そこから先の彼の歴史は、まあ、いう必要もないだろう。

元々アイドル志向であった事など一度もない彼であるから(――ナベプロを選んだのも、本人曰く、『大沢誉志幸さんや山下久美子さんも所属していたから、あそこならただのアイドルでなく、本当に音楽ができると思ったから』なんだとか)、脱アイドルの成功パターンのひとり、というのは、少々憚れるが、 とはいえ、見事にサバイブして、彼は今でもコケのついていないいい感じのロックアーティストである。 アイドル時代も、コンプレックス時代もそれぞれ趣深いけれども、近作のアルバムもまた結構いいんだよね。

吉川晃司ロックの魅力というのは、馬鹿じゃないのと思わず言いたくなるほど、無駄に男気が溢れていることころにあるとわたしは思う。
彼のロックというのは、「魁 男塾」とか「ドラゴンボール」とか「聖闘士星矢」のような、一種少年漫画的なファンタジーの世界であって、馬鹿馬鹿しさと紙一重のかっこ良さで溢れているのですよ。 聴いていると思わず吹き出してしまうことが何度もあるのだけれども、やっぱりジャンプを今週も買ってしまうように、やっぱり彼の歌を聴いてしまうんだよね。もうお前はコンドルのジョーか、とツッコミつつも聴いているという。 「まぁ、俺がかっこいいことは大前提なんだけれどもね」といわんばかりの自信満々で気さくな彼はいつでもどんな時でもお素敵です。トイレで気張っている時でも彼ならかっこいいはずっ。その自信はいったいどこから? って一度訊ねてみたいなぁ。
吉川初心者には、ひとまず05年にリリースされた3枚の年代別ベスト「BEST BEST BEST」から聴くのがいいだろうが、もちろんアルバムも粒ぞろいなので、ぜひともアルバムを聴いて欲しい。




cover
 パラシュートが落ちた夏 (84.03.01/第4位/26.5万枚)

1.フライデーナイトレビュー 2.モニカ 3.I’M IN BLUE 4.彼女はアイスウォーター 5.Be my J-Girl 6.パラシュートが落ちた夏 7.ハートショット 8.ペパーミントKIDS 9.ピンナップにシャウト!! 10.a day good night
"ガタイのやたらいい布川敏和"衝撃のデビューアルバム。「モニカ」発売一ヵ月後という早さで出ております。 あまりにも80年代どまんなかなピンクを基調としたジャケットに今となっては二の足を踏む人もいるかもしれないけれども、や、音は案外ちゃんとしていますよ。 作家はNOBODY、佐藤隆、佐藤健、原田真二など、佐野元春がジュリーにプレゼントした「I'm In Blue」もリサイクルしております。 佐藤隆のビートルマニア魂が炸裂した「ピンナップにシャウト!!」あたりが個人的にはつぼかなぁ。 それにしてもインナーの写真を見るにかの岡崎京子センセが「体格だけは美少年」といっただけあって、やぁ、なんというか、ま、いや、なにもいうまい。 しかっし"パラシュートが落ちた夏"って、それはジュリーへの皮肉か? ええいっジュリーは落ちてなどいないっっ。 ちなみにSMS時代の吉川のアルバムのディレクションは沢田研二、大沢誉志幸を担当した木崎賢治氏。7点。


cover
 La Vie En Rose  (84.10.05/第1位/26.1万枚)

1.No No サーキュレーション 2.LA VIE EN ROSE 3.ポラロイドの夏 4.サイレントムーンにつつまれて 5.サヨナラは八月のララバイ 6.グッド・ラック・チャーム 7.Border Line 8.BIG SLEEP 9.She’s gone 〜彼女が消えた夜〜  10.太陽もひとりぼっち
NOBODY、大沢誉志幸、原田真二、伊藤銀次と作家陣にはホント、事欠かないよなあ。ナベプロの組織力に感服する一枚。 吉川本人の意思はこのアルバムにはあまりないんだろうけれども、これは認めざるをえない。 同時期のライバルのチェッカーズと比べると、アルバムシングルともにセールス面では大きく水をあけられていたけれども、80年代の男性アイドルで一番かっこいいアルバムを作っていたのが吉川晃司だったんじゃないかなぁ。 特にこのアルバムは全曲のアレンジを担当した大村雅朗のソリッドなアレンジは聴きどころ。 彼のアバンギャルドな打ち込みは今の耳でも充分インパクトがある。「No No サーキュレーション」「ポラロイドの夏」「Border Line」などテンション高い楽曲が並んでいる。 ちょうど同時期の大沢誉志幸の「CONFUSION」や沢田研二の「ノンポリシー」と兄弟のような作品ともいえるかもしれない。8点。


cover
 INNOCENT SKY (85.03.30/第1位/33.5万枚)

1.心の闇(ハローダークネス) 2.Gimme One Good Night 3.スリルなモナリザ 4.サイレント・シンデレラ 5.別の夢、別の夏 6.Lady Baby 7.in a sentimental mood 8.雨上がりの非常階段 9.INNOCENT SKY
後藤次利の完全サポートによるアルバム。作家はNO BODY、大沢誉志幸、原田真二、伊藤銀次、佐藤健などいつもの面子。 そろそろアイドルであることが窮屈になってきた頃かな。シングル収録はなしで、アーティスト化の萌芽がここから出てきたといえるかもしれない。 背のびしたがりの吉川に後藤次利が一所懸命ついてあげている、という感じで、「雨のプラネタリウム」の頃の原田知世のようにも見えたりする。 ただ、作曲に関しては「提出したものの没の嵐で一曲も使われなかった」とのこと。 タイトル曲の「パープルレイン」っぷりも、まあ、そんなこんなで可愛らしいといえばそういえるかも。 この頃の吉川はトンガっていたなあ、ということで、7点。


cover
 MODERN TIME  (86.02.21/第1位/31.8万枚)

1.Mis Fit 2.キャンドルの瞳 3.Modern Time 4.MISS COOL 5.Drive 夜の終わりに 6.選ばれた夜 7.BODY WINK 8.ナーバス・ビーナス 9.サイケデリックHIP 10.ロストチャイルド
全面後藤次利アレンジで、自身の作曲が四曲、アーティスト路線が本格化した一枚。 80年代アイドルにおいてとりわけニューウェーブ臭が濃厚な吉川晃司だけれども、これは、その決定版といっていいんじゃないかな。 陰影のふかーーい、リバーブばわばわのトラックにある種の郷愁すらも漂いますね。 86年は一方にBOφWYがいて、もう一方に吉川晃司がいた、というかそんな感じで、 そんなこんなでこれを吉川晃司のベストと推す人も多いんじゃないかなぁ。 吉川作曲作品が「サイケデリックHIP」に「モダンタイムス」と振幅が激しいところを、いつもの原田真二や佐藤健の作品がその繋ぎとなっていて、ちょうどいいさじ加減。 ちなみに布袋寅泰のサポートはここから始まっている。8点。


cover
 A-LA-BA・LA-M-BA  (87.03.05/第2位/21.1万枚)

1.A-LA-BA・LA-M-BA 2.MARILYNE 3.BIG BAD BABY BASTARD 4.終わらないSun Set 5.雨のTraveller 6.Stranger in Paradise 7.Another Day 8.Good-byeの次の朝 9.きらわれついでのラスト・ダンス 10.Raspberry Angel 11.やせっぽちの天国
PATI-PATI濃度濃すぎなジャケットが今となっては妙に恥ずかしいけれども、これは痛快な一枚。 SMS時代のベストといってもいいんでなかろうか。アルバム一枚まるまる疾走しております。 ライブでお馴染み"ザ・吉川!"な「A-LA-BA・LA-M-BA」にはじまり、「雨のTraveller」「BIG BAD BABY BASTARD」と吉川はどんどんつっ走って行くぞっっ。 「車のバンパーはぶつけるためでいい」――なぁんてワイルドな吉川晃司様でござんしょうか。歌詞の面でも「吉川イズム」が明確に出てきたという感じで、全編半笑いでノれます。 アレンジは後藤次利と松本晃彦で半々。 ちなみにシングル「MARILYNE」は朝霞のマリリン本田美奈子でなく、マリリン・マーティンを歌ったもの。「平凡」の対談で二人は会い『今度「マリリン」って曲を作る』と吉川が約束をしたのをここで果たしている。わかりやすい奴だなあ。 9点。


cover
 GLAMOROUS JUMP  (87.11.21/第5位/11.8万枚)

1.踊れよRain 2.HOT LIPS 3.JUST A LIFE 4.BIRTHDAY SYMPHONY 5.Little Darlin’ 6.GLAMOROUS JUMP 7.HONEY PIE 8.恋をしようぜ!! 9.LAYLA 10.BACK TO ZERO
2曲目「HOT LIPS」はシングルの予定もあったようだが流れて、結局シングルなしのアルバムに。 そのせいかどうかわからないけれども、いまいち印象の薄い作品だなあ。 アレンジは今回は全て清水信之だが、彼のキラキラしてドリーミーなシンセの音がどうにも吉川とはあっていないかなぁ、というか。 自作曲の「恋をしようぜ」は大沢誉志幸チックなジャングルロックで好きだけれどもね。 このアルバムでナベプロとさよなら、ナベプロ子会社のレコード会社SMSともさよなら。 そういう意味で『GLAMOROUS JUMP』というアルバムタイトルなのかしらん? ラストを飾る「BACK TO ZERO」もそう思うと意味深に思えたり……。 ちなみに「GLAMOROUS JUMP」作曲の「W.GUY」とは吉川晃司と布袋の共作ペンネーム。 この歌の「とどかない世界へ飛び出せ 夢のつづき 2人ならつかめるさ」という部分はまさしく吉川からの「Complex」結成宣言といっていいんじゃないかな。6点。


cover
 LUNATIC LION  (91.05.17/第2位/23.2万枚)

1.VOICE OF MOON 2.LUNATIC LUNACY 3.不埒な天国(ヘヴン) 4.Jealousy Game 5.虚ろな悪夢 6. DUMMY 7.Weekend Shuffle 8.ONLY YOU 9.Barbarian(LUNA MARIA) 10.永遠につく前に 11.Virgin Moon〜月光浴
コンプレックス解散後、久しぶりのソロアルバム。気合はいっているぞ。 いきなりゴスなインスト「VOICE OF MOON」からの幕開けに何事!? という気分になること間違いなし。 さらに続く「LUNATIC LUNACY」の"OK、ばらしてやろうか?"のあとに"Complex !"と雄叫びをあげる部分で爆笑。 もう直球にもほどがあるってばっ。吉川先輩は"ひとりでもやるぜ"と気炎をあげております。 「DUMMY」のブレイク、"ホッホホーーーッ"の奇声もかなり爆笑を誘発するし、「不埒な天国(ヘヴン)」も来るものがあるし、「Barbarian」の「たまらない たまらないぜ 自虐!!」 の部分はなぜか「ジョジョの奇妙な冒険」チックに聞こえて……、や、まあ、K2はスタンド使いだと思うけれどもね。 シングル「Virgin Moon」も痛快なロカビリーで、是非カラオケで一発決めたい曲という。これも馬鹿馬鹿しいよなあ。 なんというか、田舎の中学生の思い込みを純化したような素敵なリリックがたまらんっっ。「俺は眠らないぜ」って、知るかっっ。 ともあれ、俺も超最新のえぐいスーツ着てみたいぞ、吉川先輩。というそんなアルバム。 ちなみにプロデュースは吉川晃司+後藤次利で、ミュージシャンは吉川晃司&CRIMEとなっているが、これが吉田光、ホッピー神山、後藤次利らがいるという豪華メンバー。 さらにプログラミングの菅原弘明など、ここでの面子は以降現在に到るまで吉川をサポートする彼にとって最重要人物たちである。8点。


cover
 Shyness Overdrive  (92.09.09/第1位/26.4万枚)

1.Brain SUGAR 2.SACRIFICE 3.ジェラシーを微笑みにかえて 4.Dance with Memories 5.planet M 6.SEX CRIME 7.Fall in Dream 8.DANDY 9.Baby NEW YORK 10.RAIN BEAT 11.星の破片 12.FANTASIA 13.Good Night
Shyness Overdrive ってシャイネスが暴走しているわけ? 吉川晃司が?  そんなぁー、嘘でしょうが、吉川先生がシャイ、だなんて、しかもそれが暴走するんですか? またまたぁー。 だいたい、先生、AV女優朝岡美嶺のあえぎ声をサンプリングした「SEX CRIME」のどこがシャイなのか、と。 「Brain SUGAR」はものすごくどこかで聴いたような気がするんですが、ま、あ、吉川だから許すっっ。ハッタリ具合が命の吉川にあっては、いい仕上がりだものね。 ともあれ、「Dance with Memories」とか「planet M」とかメロウな曲が多いので、ちょっと吉川の自信に満ち溢れた妖しげなオーラを楽しむには物足りない作品かなぁ。なんちゃってスパニッシュな「SACRIFICE」とかいいけれどもね。 「FANTASIA」のように無駄にゴージャスな曲があと2、3曲欲しかった。 ちなみにプロデュースは今回は吉川晃司+吉田建。自身がアレンジャーとして連名で記載されるのもここから。6点。


cover
 Cloudy Heart  (94.01.31/第1位/34.3万枚)

1.Purple Pain 2.Rambling Rose 3.VENUS〜迷い子の未来 4.Day by Day 5.SEXY 6.ROMANCER 7.Cloudy Heart 8.Little Heaven 9.キスに撃たれて眠りたい 10.GIVE ME A BREAK 11.Re-Birth 12.Love Way
キメキメなジャケット写真で、シングルたくさん、「Purple Pain」「ROMANCER」とシングルとタメ張るヒット感度の高いアルバム曲もたくさん、という、ヒット狙いなアルバムですな。 90年代の吉川晃司の公式見解のような作品で、 実際、自身の最高セールスを記録。確かに売れ線狙いでよくできているけれども、ディープなキッカーマニアとしてはこれだけではものたりません。 プロデュースは前作と同じく吉川晃司+吉田建。ちなみに当時沢田研二も吉田建と共同作業でアルバムを制作している。吉川のデビュー以来ひっそりと続いていたナベプロの新旧ロッカー対決というのは、ここでも味わえます。 ジュリーの『Really Love Ya』と聴き比べると面白いかも。 それにしても「Purple Pain」とか「Cloudy Heart」とか、吉川がプライベートで何を聞いていたかまるわかりなタイトルは何とかならんものか。7点。


cover
 FOREVER ROAD  (95.06.21/第5位/23.1万枚)

1.FOREVER ROAD 2.Baby Baby 3.Summer Love 4.BOMBERS 5.WHISKY NIGHT 6.SWEET GIRL 7.シャララ 8.Cafe de I Love You 9.Boy's Life-album mix- 10.心に太陽 11.Highway Staff
自然体な俺、カコイイ。そんなアルバム。 「俺って案外包容力、あるんだぜ」とリスナーに向かって気のいい兄ちゃんぶりを披露しております。 アッパーで馬鹿馬鹿しいロケンロールよりも、マイルドなロックバラードやフォークロックがメイン。 それを退屈ととるか円熟と取るかで評価が分かれるかな。やっぱ私は「BOMBERS」「シャララ」あたりのハッタリ気合路線が好きだからなぁ。 「Cafe de I Love You」の餡かけのごとくまったりとろとろな低音ボイスとか、「心に太陽」の「そして僕は月に立つ夢を見たんだ」の科白部分とか、 面白いところもあるんだけれどもね。リリース時期を意識したのか、夏向けっぽい曲が並んでいるあたりもちょっと珍しいかな。プロデュースアレンジは吉川+菅原弘明。あんまり変に本物っぽくならないでくれよな、ということで6点。


cover
 BEAT ∞ SPEED  (96.10.16/第3位/17.4万枚)

1.SPEED 2.アクセル 3.SHADOW BEAT 4.愛にそのまま 5.DATE RIPPER 6.ROUTE 31 7.RADIO GUITER 8.PEEKABOO 9.POST MAN 10.パピルス
いいよ、いいよ、いいよ。なんか、出来上がってきているよ。 シングル攻めの冒頭3曲で持っていかれるアルバムだけれども、なにより「SHADOW BEAT」が、「悪の組織シャドウへ立ち向かう正義のスーパーヒーロー、晃司」というたたずまいで、爽快に笑えます。 かっこいいはずなのになんでこんなに笑えるんだろう。 「DATE RIPPER」がどうしても「Day Tripper」に聞こえるその安易さも笑えるし、 深刻なボーカルで「愛を届けておくれよ ポストマン」と歌う「POST MAN」もベタ過ぎて狙いなのか、冗談なのか、まったく不明。 「RADIO GUITER」は歌いだしの「ギター爪弾いてジャンピン」からもう吉川としかいいようのない、語彙の少ない中学生の妄想のような歌詞が炸裂。もう吉川以外しかありえませんよ、これは。 ラスト「パピルス」は人類の虚栄の歴史を「紙」という物質にこめた壮大なバラッドのつもりで作ったんだろう、け、れ、ど、も。いやぁー見事な怪作。最高です。 車田漫画のような、猪木のような、本気か冗談かまったくわからない絶妙な俺イズムの応酬に思わずファンになるしかないじゃないかっっ。 ジャケット写真もみょうちくりんなエナジーを発しております。かっこ、いいん、だよね、これは。笑っちゃいけないん、だよね。9点。


cover
 HEROIC Rendezvous  (98.05.27/第10位/4.6万枚)

1.LEVEL WELL 2.HEROIC Rendezvous 3.WALK 4.SOLITUDE 5.KEY -胸のドアを暴け- 6.双子座 7.Black Corvette ’98 8.ASHES TO ASHES 9.RUNAWAY 10.エロス 11.星の降る夜に(Alternate Version)
あーーー、おもしれー―。さいっこうっすよ。吉川先輩。 打ち込み多用のメタリックなサイバーロックを「それってつまり特撮戦隊モノの音楽?」と解釈した吉川晃司の勝利の凱歌のようなアルバム。 「Black Corvette ’98」は吉川の所有する車、ブラック・コルベットの歌なのだが、もうマイカーを歌にするなんて、吉川のアニキにしかできないことですよ。これは。 「俺のコルベット 光のすじをくだけ 走れ 時の狭間をこえて」って、お馬鹿な男のナルシシズム炸裂。とにかく吉川のアニキは♪ ひたすらにONEWAY――って感じです。振り返ることなんてしないぜ、という。 唐突に聖書の一節を語りだす「WALK」もトンでも作品で好きだし、「HEROIC Rendezvous」も「LEVEL WELL」も吉川イズムとしかいいようのない傑作。 あと、「Key」の「胸のドアをあぶぁけー」の「ぶぁ」の部分と、ブレイクの「デデッテッテッテテーー」の部分がなんかこう、アホっぽくって痺れます。 なんがなんでも過剰にしたいのね、あなたって人は。 既発楽曲が多めで、シングルしっかり買っている人にとってはちょっとお得感がないアルバムだけれども、やあ、素晴らしすぎます。9点。


cover
 HOT ROD  (99.08.25/第20位/2.7万枚)

1.CRY/MARIA -不覚なキス- 2.ギラギラ 3.LOVIN’ NOISE 4.宵闇にまかせて-KISS&KISS- 5.HOT ROD 6.FLASH BACK 7.Wired-Boy 8.Glow In The Dark(Album Mix) 9.Loving Grooving 10.この雨の終わりに
ぬははははは。これはもう、とにかく笑とけ、笑とけ。 「俺にとっての吉川晃司」の全てであるような、いやすばらしい、すばらしすぎる。つまりは、コージは様々な悪から地球を守っているぞという、まあそんなアルバムなんですが。 いきなりロボットアニメのオープニングテーマのような「CRY/MARIA -不覚なキス-」からもう全面あげあげで最高に馬鹿馬鹿しいし、 「シャツの趣味にまで口出すな 暴れたくなっちゃうぞ」に"アニキ、そこは抑えてください。もう、暴行事件だけはっ"と引き止めたくなる「LOVIN’ NOISE」も面白カッコいいし、 シューティングゲームの中ボスあたりを攻略しているような時のBGMにぴったりのタイトル曲「HOT ROD」といい、 中間部で唐突にマリスミゼルしてしまう「FLASH BACK」なんてもうたまりませんよ。がんばれ僕らのヒーロー"宇宙戦士Ko-z"ってなもんですよ。思わずチビッ子に戻って応援しちゃうぞ。 デデッテンテンテという無駄にゴージャスなヒット音からギターソロへの流れが鳥肌な「Wired-Boy」も最高。 そんななか、弾き語りによる大沢誉志幸のカバー「宵闇にまかせて」(――引退するという大沢先輩に"まだまだやれるよ"というエールをこめてのカバーのよう。わっかりやすい奴めっっ)がやたらほっとしてこれはこれでまたよかったりする。地球を守るヒーローの束の間の休暇という感じ。 「Glow In The Dark」は新機能搭載で更にパワーアップしたスーパーコージをこれからもよろしくね、ってところかな。って茶化しているように聞こえるかもしらんが、や、傑作です。 このアルバムではアレンジ、ギター、ベース、プログラミングのほぼ全てを吉川自身の手によっているあたりも抑えなくてはならない事実。つまりオール吉川、全てが吉川色の世界でいて、傑作という。 影山ヒロノブで物足りないあなたに是非の一枚。10点。


cover
 PANDORA  (02.08.07/第32位/1.4万枚)

1.TOKYO CIRCUS 2.The Gundogs 3.Fame&Money 4.Crack 5.Little my girl 6.ユメノヒト 7.マシンガンジョー 8.パンドーラ 9.Juicy Lovin’ 10.もしも僕が君ならば
3年ぶりのオリジナルアルバムはソリッドなギターが直球で耳に飛び込んでくるロックンロールサーカスなアルバムで、なんというか、布袋寅泰の作品ですか、これは。 初回版についていた『パンドーラ』のPV(―――三池崇史監督による素浪人の風体の吉川がTVゲーム『鬼武者』のごとく悪漢たちを斬って斬って斬りまくり、最後は"スーパー晃司"になってカマキリのような形をした巨大妖怪と対決するという、どこからつっこんでいいかわからないという、超傑作) のような、もっと馬鹿馬鹿しさが致死量ぎりぎりまで盛り込まれたアルバムが俺は欲しかった。 ま、布袋の世界も馬鹿馬鹿しいんだけれどもさ、布袋は布袋学園の番長であって吉川は吉川学園の番長だから、仕切っている学校が違うというかなんというか、聴いていて「え? もしかしてこれってフツーにかっこいい?」なんて思うところが、や、いいことなんですが。 「The Gundogs」とか「Fame&Money」とか、大好きなんですけれどもね。作詞・作曲・編曲の全てを自身が担当し、 松井常松、後藤次利、ホッピー神山などサポートメンバーも充実。って、よく考えれば吉川晃司が編曲でプレイヤーが後藤次利って凄くないか?  8点。


cover
 Jellyfish & Chips  (03.08.21/第16位/1.5万枚)

1.Atomic Butterfly 2.スティングレイ 3.Mandarin Mermaid 4.Pinky Oyster 5.恋のジェリーフィッシュ(スケルトンMIX) 6.NO! Starfish from MERCURY 7.Octopus Bomb 8.Milky Way 9.青より碧く〜Bluer than Blue〜 10.STARDUST KISS (7 SEAS MIX)
クラゲだヒトデだタコだ人魚だオイスターだと、なんかタイトルからして「海」だが、もちろんリゾート感はゼロ。 前作の延長のようなノイジーでハードなギターサウンドが前面に出たフツーにカッコいいアルバムだが、こちらはミディアムテンポのものが目立つかな。 これまたほとんど吉川自身のプレイのものがメインだが、テクニカルでマッチョな汗臭い男臭いプレイで、いやぁーー心地いい。 布袋っぽくもあるが、「サーモスタットな夏」や「愛まで待てない」の頃のジュリーがふとよぎったりもする。 ただ、どうしても面白いものを求めてしまう私としては、ちょっと物足りないなと思ってしまう、ってそういう私がいけないのだろうが。 徳間への移籍の前後に完全独立し、事務所の社長さんになって思うところあったのか、ドラマやバラエティー番組にも頻繁に出るようになった吉川のアニキ。 そんなこんなで、徳間の二枚は世慣れてフツーになっちゃったのでは、という心配はちょっとあったりする。 タイトルから「あ、そういえばアマチュア時代のバンド名が『はまちバンド』だったんだよな、吉川」とか、そんなことを思い出したりもしました。7点。



2005.07.22
アーティスト別マラソンレビューのインデックスに戻る