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さくさくレビュー 和田加奈子


和田加奈子。 彼女は、どちらかというと、立ち位置的には、70年代後半の女性ニューミュージックアーティストに近いかのかもしれない。 八神純子、大橋純子、渡辺真知子、庄野真代、このあたり。 安定したな歌唱力を有し、歌謡曲とロック・NMの中間的な、アダルトオリエンテッドなシティポップスで、 20代の女性――大学生か、あるいは既に仕事に就いている女性の、都市での自立した生活を描く、という路線。

この時期も、ユーミンを筆頭に、今井美樹、杏里、岡村孝子、平松愛理など、 多くの歌手が、このターゲットにあわせ、楽曲を制作し、ヒットを獲得していたが、 彼女の場合、そんな女性たち――いわゆるF1層の女性たちが憧れるような、スタイリッシュでファッショナブルな、つまりはファッション雑誌のモデル的(ex. 今井、杏里)な部分はなかったし、 また、思わず「そうそう、わたしもそうなのよ」と曲を聴きつつ頷いてしまうような、トリッキーで、広く共感をよぶ詞(ex. ユーミン、岡村、平松)にも欠けていた。

また当時、いわゆるユーミン路線以外のロック・NMの女性勢の多くは、渡辺美里やレベッカのNOKKOをはじめ、永井真理子、プリンセスプリンセス、リンドバーグなど、 年齢層を落とし、10代をターゲットにした路線がメインとなっていたのも、彼女にとって逆風だったのかもしれない。 その末のアニメ主題歌路線も、苦肉の策といえるものだったのだろう。

セールスという見える形での成果はあげられることなく、フェードアウトしてしまった彼女だけれども、 作品は、なかなか高品質で侮れない。
それにやっぱり、この人、歌うまいしね。 ただ単にうまいだけでなく、声に勢いがあるし、清潔感のある色気があるし、 ちょっとしたフレーズに、おっ、と思わせるものがあるのですよ。 空気感というか、言葉にならないニュアンスを伝える力をもっている。

こういう、声からいい匂いの漂ってきそうな歌手が、今のポップシーンに足りないんじゃね、と、わたしは彼女の残した歌を聴きつつ思いを馳せるのである。


cover Tenderness  (86.02.01/第79位/0.2万枚)
1.Jealous girl   2.時に…はぐれて   3.Twilight Dinnner  4.Rougeは忘れない   5.1000カラットの恋人   6.Passing Through   7.Radioがこわれた夜   8.愛を掠めるRhapsody   9.Feedback 
未CD化のファーストアルバム、残念ながらわたしはもっていません。


cover Quiet Storm  (87.03.04/チャートインせず)
〜Martini Part〜   1.砂に書かれたドキュメント   2.風のOXYGEN   3.ピンクのトウ・シューズ   4.梨の形をしたBlue   5.琥珀の涙   〜Jin Tonic Part〜   6.シナモンとブラウンシュガー   7.Be My J-Boy   8.めまい   9.真昼のポーリーヌ   10.ゴシップ・グラマー 〜空っぽのガレージ〜
二枚目にして、御大・加藤和彦のプロデュース。 当時加藤は、黄金時代のアメリカのハリウッドやニューヨークを想起させるジャジーなアルバム『マルタの鷹』を制作していたが、 その影響か、このアルバムもまた古き良きジャズの薫り高い作品となった。 安井・加藤夫妻コンビ以外の作家は、清水靖晃、高橋幸宏、大貫妙子と、このあたりは加藤和彦プロデュースでお馴染みの面子、さらに中崎英也、GONTITIなど意外な作家もいる。
このアルバムは、Matini Partと題された前半部分は全曲のアレンジを担当した清水靖晃のペンが光っている。 とにかく豪華で抑えた色気がある。 アカペラですっと歌を滑り出す「砂に書かれたドキュメント」をはじめ「風のOXYGEN」、「ピンクのトゥシューズ」とさりげないソフィスケーションを感じる作品がならぶ。 匂いたつほど臭いジャズの「琥珀の涙」は妖艶。
B面のJin Tonic Partは作家陣は変わらないものの、わりといつもの和田加奈子の世界に近い。 若々しく、のびやかなロングトーンが楽しめる作品が多い。 つっぱった感じが珍しい「ゴシップ・グラマー」がなぜかここでははまっている。
このアルバムは、サロンに集う貴婦人と、夜会服と、甘い薬と、紫煙と、うわさ話と、首元にだらりとたれさがる長い真珠の首飾り、というような、そういう世界。粋だなぁ。思わず、幕の向こうの大人の世界をちらりと覗いた幼な子の気分になってため息をこぼしてしまう。 ただ、この世界をデビュー二年目にあてがうという、その理由はちょっとよくわからない。以後このようなアルバムもなく、和田にとってこの世界は継子に終わってしまったしね。 ただ、梓みちよや中山ラビの加藤和彦プロデュースアルバムが好きという人にはこれは是非。8点。


cover esquisse  (87.08.05/第82位/0.1万枚)
1.夏のミラージュ   2.パッシング・スルー  3.ジェラス・ガール   4.Be My J−Boy   5.冬のサブリナ   6.クリエイション・マイ・ハート   7.Boy   8.シナモンとブラウンシュガー   9.時に…はぐれて 
「夏のミラージュ」の小ヒットを契機にリリースされたコンピレーション。 「夏のミラージュ」までの全シングルと二枚のアルバムから数曲を収録している。 まったくの売れない新人(――失礼)のコンピレーションなのに、作家陣が、 坂本龍一、加藤和彦、林哲司、後藤次利、井上鑑、佐藤健、中崎英也、ってどういうことですか。豪華すぎます。
「夏のミラージュ」はゆったりとしたメロディーに、鷺巣詩郎の宝石を散りばめたような、キラキラとして冷たいアレンジが秀逸。 林哲司作品のデビュー曲「パッシングスルー」(――ちなみに作詞家、及川眠子のデビュー作でもある)は、湿り気がありながらものびやかなロングトーンが、みごとに決まっていて、耳ごごち、いいなぁ。 デビュー時点で既に彼女のボーカルは完成されています。 「ジェラスガール」「冬のサブリナ」はアメリカンポップス的な陽気さが、意外になかなかいい。 ただ、坂本作品の「クリエーション・マイハート」はわりと当時の教授の手癖感が強い曲で、ちょっと落ちるかな。
とはいえ、各曲粒ぞろいで、いいアルバム。 これ聞かされたら、これからの彼女をいやがおうにも期待してしまうというもの。8点。


cover KANA  (87.12.25/第91位/0.5万枚)
1.PARTY TOWN 〜WHAT CAN I DO FOR YOU〜   2.悲しいハートは燃えている   3.誕生日はマイナス1   4.不確かな I LOVE YOU  5.鳥のように   6.SUNDAY BRUNCH   7.冬の水族館   8.哀しみのヴァージン・ロード 〜NEVER FALL IN LOVE〜   9.MUSICに肩よせて   10.C・クローデルの罪
ニューヨーク録音を敢行し、エンジニアにはHOTADA GOHも参加した3枚目。 「夏のミラージュ」「悲しいハートは燃えている」の小ヒットの延長にある作品といっていいかな。 "「気まぐれオレンジロード」のテーマ曲歌いの和田加奈子"のアルバムという趣き。
パーティー会場へ向かうリムジン、運転手との会話をさりげなく織り込んだ宇多田ヒカル「travelling」風の「Party town」にはじまり(――ちなみにこのアルバムから後に宇多田ヒカルのプロデュースを担当する、三宅彰氏がプロデュース担当になっている)、 サンバの激しいリズムにのせて過ぎゆく夏の恋をハードドライヴィンに歌った「悲しいハートは燃えている」、 中崎英也とのデュエット「哀しみのヴァージン・ロード」、 和田自身の作詞作曲による、わずか一分ながら冬枯れの空模様のごとく孤独を感じる「冬の水族館」、 ピカソの愛人、C・クローデルの暗く激しい情念への共感を歌った名曲「C・クローデルの罪」などなど、 全体的に水準の高い楽曲が並んでいるが、 いかんせん全体を貫く世界観というのがこの作品にはない。
作家陣もバラバラで、作詞は和田加奈子、三浦徳子、松本一起で分担。作曲は、佐藤健、久石譲、井上大輔、鳥山雄司、水島康宏、中崎英也、TSUKASAなどなど。編曲は鳥山雄司が七曲担当で一番多い。 幕の内弁当方式でいろんな世界をあちこちに飛びまわってもちこたえるほどの胆力というのは、まだこの頃の彼女にはなかったんじゃないかな。 散漫という印象はぬぐえない。和田加奈子の魅力あふれるボーカルは堪能できるし、好きな曲は多いけれども、ひとつのアルバムとしてみると7点くらい。


cover VOCU  (88.11.06/第29位/1.7万枚)
1.ママはライバル   2.Hellow My Radio  3.あの空を抱きしめて   4.失恋教室   5.プラモデルの翼   6.ラッキー・ラブ   7.Asian Dream   8.向かい風に   9.パパのJAZZ   10.約束のイヴ
このアルバムからセルフプロデュース。 私小説的なアルバムといっていいかな。全作詞が和田自身の手によっている。
「ママとわたしと恋人」の軽い三角関係を描いた「ママはライバル」、亡き父の残したサッチモやグレンミラーのレコードを流しながら遠い日を想う「パパのJAZZ」、 50年代アメリカ風の「Hellow My Radio」「失恋教室」や、ゴスペルアレンジによる切ない恋を歌った名曲「約束のイブ」など、 このアルバムにはなぜか、昔なつかしのアメリカ文化の憧れが満ち溢れている。 その一方で、アジア的な「Asian Dream」「向かい風に」がならび、結果として全体の印象は "米軍基地の街"的というか、金網の向こうのアメリカに憧れているアジアの少女の視線というか、そんな感じなのである。
実際彼女が基地で生まれた少女なのか、あるいは彼女の父はJAZZ好きだったのか、それはわからない。 ただ、このアルバムには、今までの彼女の作品にはない暖かみがあるのは、事実。 それゆえか、ちょっと善人になりすぎたきらいがあって、食い足りない部分も一方では感じる。 ちなみに編曲は、ほぼ全曲、白井良明。彼にしてはわりとプレーンなアレンジメントである。6点。


cover dear  (89.12.13/第60位/0.8万枚)
1.赤と黒   2.Dreamin' Lady  3.Honey Moon   4.If   5.特別シート   6.流れるように   7.Crecent Moon   8.Le Vend Doux   9.See You
時は、バブル全盛。いわゆる「HANAKO族」とか「おやじギャル」といわれた当時のキャリアウーマン志願者 たちへ照準をあわせたアルバムをここで彼女はリリースすることになる(――後に「Salida」とタイアップを組んで別冊本を出したところ見ると、このあたりは確信的にやっていたよう) の、だ、が、これが、いい。一番彼女の素質にあった、それでいて、ヒット感度の高いアルバムなんじゃないかなぁ。
彼女の声の濡れてセクシーなところ、凛としてすがすがしいところ、乾いていて爽やかなところ、それぞれのツボを心得た楽曲がじつにバランスよく並んでいる。 和田加奈子も、歌がどんどん上手くなっている。 さりげない贅沢さと、大人の余裕と、遊び心を感じる。
今回の作詞は松井五郎に和田で分担しているのだが、ふたりともにさりげなく上手い。 私小説的な作品が多いのだけれども、物語の運び方、小道具の選び方などなどが的確で自然。 こういう独身OL路線は、ともすれば鼻っ柱が強く、厭味っぽくなってしまうものだけれども、 この自然な詞と、彼女の真摯で懐の深い歌声と、そしてなにより彼女の飾り気のないキャラクターが、それを救っている。 今あらためてトレンディードラマを見直した時に感じるうわっついたイタさってのは、この作品に限ってはまったくない。 手練の作家の短編小説を読むように、さまざまな風景が、さりげなく耳に飛び込んでくる。
「Dreamin' Lady」「赤と黒」「If」 「Crescent Moon」あたりもいいが、ラストを飾る「See You」が特にいい。水際立った女っぷりだ。 これでいいんだよ、加奈子さん。 ちなみに今回は全編曲を鳥山雄司が担当。作曲は上田知華とTSUKASAがメインを張っている。9点。


cover DESSERTに星くずのゼリーを  (90.09.27/第82位/0.5万枚)
1.月のHOTEL   2.Good Luck Factory   3.Convenience Boy   4.Baby ClassのGrandmother   5.風の丘   6.HEARTでふりむいて   7.涙のPuddle   8.想いのかけら   9.'90 1/8 JUNの旅 
今作は、M-6、9をのぞく全ての楽曲のサウンドプロデュースを本多俊之が担当。 とはいえ、ジャズ・フュージョン指数は低く、あくまでプレーンなポップスを追求。
『dear』のキャリアウーマン路線と『vocu』の私小説路線のちょうど中間的なアルバムといっていいかな。 ファッション雑誌の広告写真のような華やかな生活ではなく、ひとりの大人の女性のありきたりな、けれども満ち足りた生活を、ポジティブにセンチメンタルに活写している。 20代後半〜30代の未婚女性のペーソスの世界――といったら、ぶっちゃけすぎ?  きちんと年を重ねていて、それに嘘をついていないところが好感触。 生ギターの懐かしみすら覚える暖かい音色にSF的でロマンチックな詞と、やわらかく歌う和田の歌声がいい「月のホテル」(――「夏のミラージュ」といい「Dreamin' Lady」といい、和田加奈子はTSUKASAとの相性が一番いいのかな) 上田知華の流麗なメロディーにわが肩を見るように内省的な「風の丘」「想いのかけら」あたりがいい。 ただちょっとこざっぱりしすぎているあたりが、食い足りないかな。ちょっと実直すぎる感じがする。それが彼女の本当のキャラクターなんだろうけれどもね。 もっと可愛らしい悪戯心みたいなものがあるともっといい。6点。


cover 約束のイブ  (90.11.28/チャートインせず)
1.WHEN YOU WISH UPON A STAR 2.LAST CHIRISTMAS EVE 3.GIVE LOVE ON CHIRISTMAS DAY 4.約束のイヴ 〜1990 VERSION〜
クリスマス企画ミニ・アルバム。 これは、甘い。極上にスウィーーーートなアルバム。 蜜蝋がとろとろと溶けるように、官能的でロマンチックな「WHEN YOU WISH UPON A STAR」といい、 ピアノメインのアレンジで、『VOCU』よりもぐっと感情に迫ったボーカルでみせるせつない「約束のイヴ」(――わたしはこっちの方が好きだな)といい、 いろっぽいし、酔わせるし、これはいいよなぁ。 まさしく恋する人たちのためのクリスマスという、そんな多幸感いっぱい。 イブの夜にこのアルバムをBGMにして、恋人同士ひっそりと肩寄せあったら、もう、いうことないでしょ。 しっかし、彼女、歌うまいよなぁ。8点。


cover ゴールデン☆ベスト  (2006.06.21/チャートインせず)
1. あの空を抱きしめて 2. 不確かな I LOVE YOU 3. 鳥のように 4. 夏のミラージュ 5. 悲しいハートは燃えている 6. ジェニーナ 7. もうひとつのイエスタデイ 8. サルビアの花のように 9. wake up dream 10. HEARTでふりむいて 11. DREAMIN' LADY 12. LUCKY LOVE 13. 誕生日はマイナス1 14. クリエイション・マイ・ハート 15. Boy 16. パッシング・スルー 17. 約束のイブ
よもや、まさか。出るとは誰も予想しなかった和田加奈子のベスト。
前半のM.1〜M.8はアニメ「気まぐれオレンジロード」の主題歌挿入歌尽くしでアニメ層をがっちりキャッチし、後半はそれ以外のシングルをすべて収録。そしてラストに傑作の大バラード「約束のイブ」という 彼女で一枚モノのベストを作るとしたら、公式見解的な曲目といって差し支えないんじゃないでしょうか?
アルバム初収録の曲・バージョンも多数収録し、これは買わなきゃ嘘です、嘘。実際、彼女の出したアルバムの中で、一番聴き安いかも。 「夏のミラージュ」から「ジェニーナ」の流れが心地よすぎます。意外や意外、ハイエナジーな「LUCKY LOVE」もこなしております。再評価希望。9点。

2005.01.14
2008.07.14 追記
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