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全アルバムレビュー 高岡早紀


 まず最初に言わせて頂きたい。アイドルマニアなのに高岡早紀を聞いたことがない、なんて人は絶対不幸。ブックオフで350円とかでおっこっている高岡早紀のCDをサルベージしない人も絶対不幸。ありえないぜっ。高岡早紀の楽曲のプロダクションワークは神。神なのであります。聞かないという選択肢が出てくるということ自体考えられないのでありますっ。――はぁ、すっきりした。

 80年代後半、後藤久美子を契機にどっと出てきた美少女アイドル(―――宮沢りえ、観月ありさ、藤谷美紀、坂上香織、小川範子などなど)のなかでも、より独自の佇まいのあった高岡早紀。CF、グラビア経由の露出でブレイク(――マドラスのCFは印象的だった)、そこを足かがりに色々な仕事に手を広げ、最終的には女優の領域へステップアップ、と、まぁ、当時のゴクミなどの他の美少女アイドルと同じような流れへ彼女も進むのだが、ただ彼女に限っては、あくまで女優へのステップアップ期間――色々広げた手のひとつでしかないはずの歌モノがものすごい良質なのだ。 もう、ありえないっって叫びたくなるくらい。ほとんどの楽曲のプロデュースは加藤和彦が担当、高貴でヨーロピアンな世界全開。 ひとりの美少女という素材をどれだけ「虚構世界に生きる幻の恋人」に仕立て上げるか、というのがアイドル演出の方法論だとすれば、彼女のプロダクトは1つの極北なんじゃないかなぁ、と私は思っている。
 わたしは現実の女優である高岡早紀に関しては正味の話、さしたる興味はないんだけれども、歌のなかの彼女はまるで絵画のなかを生きるかのように端正でありながらエロティックで、気品にあふれていながら野蛮で、って感じで、もう、目が離せないのですよ。 本人の素質とか思考とはまったく関係ないところで、彼女の素材だけを使って「見事なひとつの虚像」をスタッフは作り上げていて、その完成度が、ホント高い。


 こういったアルバム制作の背景には加藤和彦氏の力はもちろん、常に業界の異端児でギミック満載のアイドル(ex.松本伊代、少女隊、本田美奈子)を作ることはお手のものの当時の高岡の所属事務所であるボンド企画の高杉敬治氏であったり、ビクターにこの人ありの、岩崎宏美・ピンクレデイーらを育てた現テイチク社長の飯田久彦氏や、さらに丁寧なアルバム制作に定評のあるビクターの川原伸司氏の力というのも大きいんじゃないかなぁ。 (――彼らはエグゼクティブプロデューサーとして高岡のアルバムでは名前を連ねている。)
 例えば、彼女の作家陣をみても、安井かずみ、森雪之丞、高橋幸宏、あたりは鉄板の加藤和彦人脈なわけだけれども、 一方の千住明氏は、ドラマの劇伴で名を挙げる以前の仕事を見ると、井上陽水の「ハンサムボーイ」や中森明菜の「歌姫」をはじめ、荻野目洋子、高橋由美子などと、川原伸司氏の関った作品に彼の名前はよく散見され、川原人脈なのではって感じだし。

 正味な話、高岡早紀の歌手としての地力というのはかなり疑問なもので、声量とか安定感というあたりは、これはアイドルだからこそ許させる領域なわけだけれども、それを独特の吐息唱法と彼女の女優力で見事に魅力に変えて、最高の作品を作り出してしまう――スタッフのその姿に、よくぞここまでやったとわたしはおもわず敬服してしまう。
 とにかく聴けっ。


◆ Sabrina  (89.06.21/25位/1.9万枚)
cover 1. 野蛮な憂鬱
2. ×××のデザート
3. ナイフの鳥、綺麗な石
4. 太陽はひとりぼっち
5. SLEEP WALKER
6. 真夜中のバレリーナ
7. 悲しみよこんにちは
8. ROSE
9. 眠れぬ森の美女
10. ガラスの夜想曲
(森雪之丞/清水信之/清水信之)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/清水信之/清水信之)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/加藤和彦/千住明)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(サエキけんぞう/千住明/千住明)

 アイドル界に彗星のごとく現れた歌謡曲オタの為の美少女、高岡早紀。もろにミカ・バンドな「Sleep Walker」といい、イタリアンなオールディーズ「太陽はひとりぼっち」といい、ファーストから加藤和彦の趣味が全開。いいぞ、もっとやれ。 特に後半、「真夜中のバレリーナ」(加藤和彦のアルバム『VENEZIA』からのカバー)から「眠れぬ森の美女」までの畳み方には圧倒。
 作詞は森雪之丞がガジェット多めの虚構的で攻撃的でエロティックな作品で攻める一方、真名杏樹はわかりやすい少女趣味で勝負。 以後の作品のどれもがコンセプトがしっかり練られた、ある意味一見さんを拒むようなところがあるんだけれども、一方このアルバムは1番バラエティに富んでいて1番わかりやすいつくりになっている。
 それにしてもフィルスペクターな「悲しみよこんにちは」は名曲だなぁ。9点。


◆ 楽園の雫  (90.03.21/18位/2.3万枚)
cover 1. 不思議の森のアリス
2. フリフリ天国
3. 楽園の雫
4. 16月に逢いましょう
5. 窓辺にて
6. 天使失格
7. パーティはパニック
8. 見知らぬ彼女への伝言
9. 哀しいサーカス
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/高橋幸宏/高橋幸宏)
(森雪之丞/高橋幸宏/高橋幸宏)
(鈴木博文/千住明/千住明)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)

 「16月に逢いましょう」の高橋幸宏のドラムプレイは相変わらずパキパキドコドコしててカコイイし、「窓辺にて」の千住明のオーケストレーションはこちらも相変わらず磐石の流麗さだし、 加藤和彦先生はインドでチャクラを開いておサイケになっちまったどっかのロックアーティストのような「フリフリ天国」といい、鐘の音の乱打が眩暈のような気分にさせる「不思議の国のアリス」といい、もうなんでもやりたい放題。 詞は森先生がメインで、爆裂しております。「夢中で傷つけるしか 他人を愛せない……」(「16月に逢いましょう」)うーん。お耽美。 全体がヨーロピアン経由彼岸行きといった佇まい。天国の扉を開いた先の、はらはらと罪を清める白い花が舞い降りる世界までたどり着いてますぜ。ここまでやるとちょっと作りこみかな、とちょっと思ったりもするけど、やりきったぜ?  10代の娘にこの世界を要求する加藤御大に驚きつつ、8点。


◆ Romancero  (90.09.21/17位/2.5万枚)
cover 1. Dancing in the SUNSET
2. セザンヌ美術館
3. 水晶の夜
4. ジプシーを踊ろう
5. 哀しみのベニス
6. 砂浜のバレリーナ
7. フレスコ画の少女
8. プリマベーラ
9. バラ色の館
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/千住明/千住明)
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/千住明/千住明)
(安井かずみ/千住明/千住明)
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/J.Brahms/千住明)

 作曲は加藤和彦と千住明とを半分ずつで構成、今回の作詞は加藤氏の妻である安井かずみが全曲担当。ここまでヨーロッパ路線を歩んできた高岡だが、今作は特に南欧よりにシフトしている感じ。南仏プロヴァンスから北伊太利あたり、その場所から、遠くのエジプトやペルシャを望み見ているといった佇まいがある。なんとなく地中海風。 東から吹くオリエントの海風を感じながら、軽やかに彼女は歌い、踊っている、というか。加藤和彦の今までの諸作から見ると『VENEZIA』が1番近いかもしれない。自然体なのに重厚で耽美でロマンチック。
 安井かずみの絵画のような端正な詞作も更に磨きがかかっている。 今までの担当の森雪之丞が徹底して虚構的でデコラティブな歌詞を作っていたのもあって、彼女の書く自然でいて肝要な部分はしっかり押えた幽玄な歌詞がいっそう対照的で新鮮に響く。 ――ちなみにこの3年後、安井かずみは癌によって他界するので、このアルバムは加藤和彦『ボレロ・カリフォルニア』とともに加藤ー安井コンビの最晩期の作品集ということになる。そういった意味でも趣深い。また千住明が珍しく打ち込みメインのアレンジも披露していて、これもなかなか面白い。
 前作の虚構性の強さを薄めてちょうどいい塩梅のところに持ってきているし、とにかくどこを見ても褒めるところしか見つからない。個人的ベストは、ととわれれたら「フレスコ画の少女」や「セザンヌ美術館」といった地味めの小品を敢えて推したい。 この作品の成果をもって、高岡早紀の「ヨーロッパ3部作」は終了。10点。


◆ Mon cher  (91.03.21/59位/1.3万枚)
cover 1. 夢の扉 -introduction-
2. 真夜中のサブリナ
3. 眠れぬ森の美女
4. 妖精の森 -intermission-
5. 悲しみよこんにちは
6. ナイフの鳥・奇麗な石
7. 薔薇と毒薬
8. フリフリ天国
9. 悲しみよこんにちは -instrumental-
10. 女優マリアンヌ
11. セザンヌ美術館
12. コバルトブルーの翼がほしい
13. 夜明けに -Coda-
(千住明/千住明)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(千住明/千住明)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/清水信之/清水信之)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(加藤和彦/千住明)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/千住明/千住明)
(千住明/千住明)

 ヨーロッパ3部作からのセレクションと新録2曲、アルバム未収録シングル2曲を集め、合間に千住明のインストを盛りこんだベスト盤。 ヨーロピアンのようでいてその実G.S.の匂いの漂う「薔薇と毒薬」(――ティンパニっぽい音がG.S.指数かなり高め)もいいし、「女優マリアンヌ」はおフランス版「クライマックスご一緒に」(by 小泉今日子)という感じで微笑ましい。 ラストを飾る「コバルトブルーの翼がほしい」はちょっと公式見解な歌すぎたかな。イタリア観光している小娘風って感じで。 選曲問題なし、トータルバランス問題無しで、ベスト盤としてよく出来ている。このアルバムで高岡早紀のヨーロピアン路線を総括。8点。


◆ S'wonderful !!  (91.09.21/55位/1.4万枚)
cover 1. 悲しみの女スパイ
2. M
3. Top Seacret
4. スパイになりたい
5. 恋はいつも愚かなもの
6. ペテン師バッドムーン
7. 寒い国のジゴロ
8. 東京チューチュー
9. Ni−ya−oo
(森雪之丞/高橋幸宏/高橋幸宏)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(サエキけんぞう/大沢誉志幸/桜井鉄太郎)
(桜井鉄太郎/桜井鉄太郎/桜井鉄太郎)
(森雪之丞/大沢誉志幸/矢野誠)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(真名杏樹/高橋鮎生/高橋鮎生)
(森雪之丞/高橋鮎生/矢野誠)

 ヨーロッパを旅立った高岡早紀が行きついた先は、20〜50年代の黄金のアメリカ。目指すはマリリン・モンローか、ベティ・ブーブか。共犯者は加藤和彦、高橋幸宏、高橋鮎生、矢野誠、森雪之丞、サエキけんぞう、大沢誉志幸。――って、これは加藤和彦先生、『マルタの鷹』をアイドルポップス向けに再構築したアルバムだよね。 共産国の女スパイに南の国のジゴロ、ヒッチコックのダイヤルM……。ひとつひとつのガジェットが陳腐なのに、イマジネーション豊か。平岡正明センセのいうところの『陳腐の美学』の世界。どこかで見たこと聴いたことあるようなモノを混ぜ合わせて「黄金時代のアメリカ」という、どこかにありそうでどこもない見事なシュミラークルを作り出してる。
 それにしても「ププッピドゥ―」の一声が冗談でなくここまでハマる(――「東京チューチュー」で披露)日本女優というのもほとんど奇蹟に近い。フェロモンむんむん「Ni-ya-oo」は脳みそを愛撫されるような心地よさ。矢野誠のジャズアレンジもあやしくスリリング。「ペテン師バットムーン」や「寒い国のジゴロ」もいいんだよなぁ。のすたる爺ぃ相手に美少女が音楽のお医者さんゴッコの世界。9点。
 ちなみに同時期発売の同タイトルのイメージビデオは、アルバムの世界を映像で再現して女スパイの南の国での束の間のリゾートって世界を作ろうとしていたけれども、全体的に小林麻美の「Cryptgraph」とちょっと被っちゃったよね。

 このままがんがん突き進むかと思えたが、所属事務所「ボンド企画」がバブル期の投機が失敗して倒産。高岡の歌モノのプロジェクトはその時点で瓦解してしまう。残念。


◆ 高岡早紀 ゴールデン☆ベスト  (09.09.19/ランクインせず)
cover 1. 真夜中のサブリナ
2. NON! NON! NON!
3. 眠れぬ森の美女
4. オーロラの微笑み
5. 悲しみよこんにちは
6. ソレイユ
7. 薔薇と毒薬
8. パンドラの舟
9. フリフリ天国
10. 見知らぬ彼女への伝言
11. セザンヌ美術館
12. 哀しみのヴェニス
13. Ni-ya-oo
14. 『カ・ル・ナ・バ・ル』
15. 女優マリアンヌ
16. コバルトブルーの翼がほしい
17. 悲劇のアイドル
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(真名杏樹/桜井鉄太郎/桜井鉄太郎)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(覚和歌子/鶴来正基/鶴来正基)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/清水信之/清水信之)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/高橋鮎生/矢野誠)
(真名杏樹/加藤和彦/加藤和彦)
(森雪之丞/加藤和彦/加藤和彦)
(安井かずみ/千住明/千住明)
(森雪之丞/清水信之/清水信之)

 待ちかねたぞ、武蔵。
 ――というわけでついに来た。高岡早紀のシングル・カップリング全曲収録のベストアルバム。
 今までアルバム未収録のカップリング曲にアニメのサウンドトラックのみの収録だった「悲劇のアイドル」もプラス。わかりやすいコンパクトなベストアルバムだけれども、オリジナルアルバムにこぼれた楽曲はこの一枚で全て補完できるつくりになっている。編集者、わかってるね! 加藤和彦マニアも必携だずぇっっ。
 ぽっと出のアイドルに異様にハードルの高い豪華楽曲を与えてしまう八〇年アイドルプロデュースの無茶振り王、ボンド企画・高杉敬二。それは、本田美奈子や少女隊のような歌手としての自意識とプライドの強いアイドルにとっては、可哀想な結果になってしまうのだけれども(――目指しているものになんとか追いつこうと悲壮感が漂ってきてね、結果アイドルらしい溌剌さや可愛らしさがなくなっちゃうのだ)、一方「歌手を目指すつもりはさらさらないわ」という高岡早紀にあってはベタはまりしてしまうのだから面白い。
 加藤和彦の作り出す典雅なヨーロピアンサウンドを無意識過剰で淡々と受け流す彼女の佇まいには人形愛的な妖しさすら漂っている。このあたり中期のWinkの世界観にも近い。擬似恋愛の対象ではなく、人形をガラスケースのなかに飾って眺めるような、そういう形でのアイドルポップスといってもいい。
 実質サウンド・プロデューサーの加藤和彦をはじめ、森雪之丞も清水信之も安井かずみも千住明も、みんななにがあったのか120%の仕事をしているのに、当の高岡自身は小憎らしいほどにしれっと涼しげなんだもんなぁ。
 高岡早紀は四枚のアルバム全て傑作なので、このアルバムを買ったあとはオリジナルアルバムを探しましょう。大丈夫、ブックオフとかで結構見つかるから。
(記・09.10.04)

改訂 2008.12.21
2005.03.31
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