×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

メイン・インデックス少女漫画の館>秋月こお・唯月一「王朝春宵ロマンセ」

cover
秋月こお・唯月一「王朝春宵ロマンセ」

「無垢」という擬態

(小説版・2002.06.30/漫画版 2004.03〜[全3巻]/徳間書店)


頃は平安時代。ある大寺で働く捨て児の千寿丸は常に貞操を狙われるほどの美貌の持ち主でありながら、徳の高い年老いた門主、阿闍梨の庇護によっていまだ清童である。 しかし、その美貌が仇となりひょんなところから寺を出奔しなくてはならなくなる。都を目指して逃げるところを偶然若き蔵人、藤原諸兄という貴人に拾われ、彼の下で使えることになり、 そして世話をする間に二人に間に恋が芽生え、また寺を出るきっかけとなった自身の出生の秘密もまた知るようになり、という話。
小説は秋月こお。小説挿画と漫画が唯月一。


秋月こおは小説道場の頃からどうにもタイプじゃなくて避けていた。 変にプロっぽいというか。素人の癖に情念の密度が妙に薄くて、そのくせやたら数だけはこなす。雑文書きですり切れたフリーライターという感じで、いまいち何が書きたいのかわからない。むしろ書くことによっていろんなものに縋っている感じがした。
後の代表作になったフジミシリーズの第1作「寒冷前線コンダクター」をチラッと読んで「うわっっ、下品」と思ってそれきりスルーしていたのだが、久しぶりに手に取った今作も印象は全く変わらなかった。
ひぇー、ご都合主義。ひぇー、欲望充足。ひぇー、女のいやな部分まるだし。などなど、叫ぶことしきり。

この物語はとにかく主人公の千寿丸のキャラ立てがあざとい。
なにもせずに美しく、なにもせずに周囲から求められ、なにもせずに金も男も地位も権力も名誉も血筋も彼は手に入れる。

ただ自分は適当にふらふらちっぽけな脳みそ使ってうろちょろしているだけでなんの因果か知らず周囲が全てをお膳立てしてくれ、あらゆる物が手に入る。 いや、「手に入れる」という感じですらない。「元々これは手にしていたもので、たまたま手を離したらなくして探していたものなのだ」という当然の感じすら漂う。
自分はただひたすら、無垢で可愛らしくて無邪気であればよく、そうすれば良い人すばらしい人暖かい人が自分を包んでくれ、全て上手くことが運ぶのだ、という感じ。
ここに私は「キャンディー・キャンディー」と同質の無垢の擬態の裏にある女性の「成りあがり根性」を感じて仕方ない。

金も男も地位も名誉も血筋も本当は欲しくて仕方ないくせして、その欲望を巧妙に隠蔽する。 欲望の意志は表面に出すわけにはいかない。なぜならそれは「女性」としての優位を失うことにもなりかねないから。 だから「無垢」の位置へ自身を揚棄して、全ての欲望実現のきっかけを「無垢ゆえの恩寵とする」

彼女らはいう。
「お姫様になりたくてなったんじゃない」と。
「はじめからお姫様だったのよ」あるいは「偶然お姫様になっただけよ」と。
これらは女性アイドルがデビューのきっかけを「友達にオーディションに誘われて、付き添いでいったら私が合格しちゃって……」というのと、 あるいは高学歴の女性アナウンサーが「天然ボケ」を売りにするのと全く同じ構図である。

馬鹿いってんじゃないのよ。本当にその位置にいるつもりじゃないならすぐその席どきなさいよ。―――と青木さやかのように毒づきたくもなる。


なぁんて批判的なことをいっている私が何でこの本読んでいるのかっつうと、このあざとい千寿丸にわかっていながら萌えてしまうという。これが理由なんだからわれながら困ったもんだ。
どんなにあざといとわかっていても、だめなんだってば。こういうキャラ造型は弱いんだってば。 「アーシアン」のちはやとか、「トラブル・フィッシュ」の潮とか、「魔法使いの弟子」の佑久とか、 こういうちっちゃくって、健気で、元気で、ぐずぐずしていて、かわうくて、どこまでも庇護され甘やかされている、重ーい黒髪が似合う子はだめなんよ。 わかっちゃいるけれど萌えてしまうんよ。
(―――あ、ちなみに今挙げた他の子はそこまであざとい感じがしません。作者の権力志向のレベルの違いかもしらん)

作者の狙いや下品な欲望は百も承知。素晴らしい作品ではない、人に薦められない作品だってことは痛いくらいわかるのに、萌える自分は否定できません。 さとう玉緒の「もぉ〜〜うぅっっ。ぷんぷん」にとろけるのと同じでさぁ、しょうがないのよ。そういうサガなの。ツボなの。わかって。
って、愛なんてそんなもんでしょ。嘘も罠も手管も全部わかっているのに、嵌ってしまう。むしろわかっているからこそ嵌ってしまう、嵌ってあげちゃう、それこそが愛の証にすら思える、という。 え?そうでもない?そんなマゾヒスティックなのは俺だけ。


秋月こおって、下世話な欲望充足が上手いからやおいの人気作家なんじゃないかなぁ、と私は思う。
世間から逸脱するような過激さのないほどほどに下品な「直接的エロ」と、女性であることの既得権益を捨てずにおいしいところだけを男性に成り代っていただいちゃおうとする「ご都合主義フェミニズム」の二本柱で成立している 「通俗やおいハーレクイン」って感じ。

千寿丸のあざとさに一緒に萌えたい方は唯月一の漫画版がオススメ。秋月こおって文章からラノベ臭がプンプンだからさ。っていうかむしろ俺は唯月さんの描く千寿丸に萌えたわけだし。
「や。むしろラノベばっちこい」って方はもちろん小説版をどうぞ。


それにしても、この作品、どんどん続きがでているようだけれども、はたして続編やる意味あるんかね。
二人はセックスしまくって出来あがりまくっちゃっているわけだし、千寿丸の地位もカネもオトコも盤石だし。 以後の展開が、毎回オジャマ虫が現れ危機が訪れそうになりつつもやっぱり二人はラブラブという不毛なものだったらホント、アホだよ。
そうでなく、千寿丸が「受けッ子オーラ」でどんどん権力を掌握していって、最終的には宇宙の支配者になるっつう展開だったら、わたし続き読みます。 ドラゴンボール並の「受けッ子・インフレ」の世界になったら。ってありえねーーー―っっ。

2005.01.25
勝手に毒書感想文のインデックスに戻る