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中森明菜 『プロローグ 〜序幕〜』

無邪気な16歳

(1982.07.01/ワーナー・パイオニア/32XL-103)

1.あなたのポートレート 2.Bon Voyage 3.イマージュの翳り 4.条件反射 5.Tシャツ・サンセット 6.銀河伝説 7.スローモーション 8.A型メランコリー 9.ひとかけらのエメラルド 10.ダウンタウンすと〜り〜


中森明菜の記念すべきファーストアルバム。
山口百恵のイミテーターとしてまず、世に出たというイメージが強い明菜。
しかし、このアルバムを聞いているとスタッフはデビュー段階から「ポスト百恵」に照準をあわせて明菜を作り上げていたわけではないことがよくわかる。
ひとまず、発売時の82年という時代を考えてみる。

時はちょうど百恵引退から2年後。
当時「ポスト百恵」を求める声というのは芸能界の内外を含め、すさまじいものだったが、それゆえにそのイメージの呪縛も強く、浜田朱里をはじめ多くの歌手が『ポスト百恵』を標榜してクラッシュしていった。
三原順子はデビュー時こそ上手くいったが、その後なかなか決定打が出せず停滞。また、この年には三田寛子がCBSソニー酒井政利の手によってポスト百恵的にデビューするがこちらも結果は思わしくなかった。
そうした状況下急成長したのが、百恵的佇まいとまったく逆ベクトルである松田聖子。
また、一方で角川書店がメディアミックス手法で売り出した薬師丸ひろ子が映画主題歌で歌手デビュー、爆発的なセールスを記録する。
この過渡期の状況でどうやって事務所、レコ社はアイドルプロデュースに臨むか、それはほとんどの82年組アイドルのデビュー段階の命題であったようだ。
実際、82年組女性アイドルのデビュー当時のほとんどは髪型こそこぞってサーフ・レイヤードカット------いわゆる聖子ちゃんカットであったが歌の内容は戦略の見えないどっちつかずのものが多かった(そのコンセプトが定まるのは83年になってからがほとんどである)。

その状況を表すかのように明菜のスタッフも中森明菜という歌手の可能性のどの部分を伸ばすのか、どう演出するのか、という部分にスタッフが迷いがあったようだ。

(勿論、時代性のほかにも明菜の所属が研音+ワーナー・パイオニアという当時およそまともなアイドル育成をしたことがない事務所、レコ社であったことというのもはずせない事実である。ちなみにいえばワーナーはナベプロ資本が入っていた70年代には小柳ルミ子、アグネス・チャンなどのアイドルがいたが、楽曲制作のほとんどは渡辺音楽出版の一任だったらしく、ナベプロ資本が抜けた後のワーナーにはアイドル楽曲制作のノウハウの蓄積はほとんどないといってもいい状況であった。)

で、明菜スタッフはファーストアルバムにどんな手段をとったのか。
中森明菜はデビューまでにスター誕生に3回出場している。
1回目が岩崎宏美「夏に抱かれて」、2回目が松田聖子「青い珊瑚礁」、3回目に山口百恵「夢先案内人」、竹内まりや「セプテンバー」を歌い、ここでデビューの切符を手に入れる。
結論から先ににいえば、スタッフはこれらスタ誕で明菜が歌った様々なアイドルをテキストにした新曲を並列に並べるというおよそ芸のない(だが堅実である)盤を制作するという手段で対応した。

「Bon Voyage」、「ひとかけらのエメラルド」は松田聖子あたりをイメージさせるし、「銀河伝説」は「獅子座の占いを読み尽くすほどに乙女座は戸惑う」のだからやはり百恵の「乙女座宮」だろう。
また「スローモーション」「あなたのポートレイト」は岩崎宏美が歌えばハマる良家の子女風の朗々とした歌だ。
唯一百恵のツッパリ歌謡にチャレンジした「条件反射」は主人公がくるりと踵を返す様が「プレイバックpart2」を意識したと見える。(がこの曲は百恵の「プレイバックpart2」の恋人に対する精神的優位を勝ち得た時点でポルシェをUターンさせるというそのドラマ性には遠く及ばない)
また田原俊彦の女性版風の「A型メランコリー」もあれば近藤真彦の恋人役の歌としてぴったりな「ダウンタウンすと〜り〜」(作詞/伊達歩)もある。

と、以下のようにテキストは完全にバラバラ。
が、これらのまとまりのない楽曲を明菜の声が実にうまくまとめている。
まとめているというより、これはたまたままとまってしまったといったところだろう。

歌が好きでしょうがない16歳の清瀬の小娘の躍動感ってのがこの盤全体に漂っている。
その躍動感がまさしく「序幕」といった感じで上手くアルバムをまとめているのだ。
そこには無理にプロたらんとする気負いもなければ、無駄な思い込みもなく、実力以上に上手く見せようとする下手な小細工もない。
ただ、あてがわれた楽曲をそのまま受けいれて楽しそうに歌っている明菜の姿がそこにあるのだ。

嗚呼、アイドルだなーーー、思いますね。
中森明菜ってその存在もまた楽曲もアイドルという範疇には(私的には)当てはまらないんだけど、このファースト・アルバムにかぎってはアイドルだなぁ、アイドル的な可愛らしさに満ちているなぁ。思いまする。
この無邪気さはここでしか味わえないテイスト。

で、アルバム全体聞き流すと「あなたのポートレイト」「スローモーション」あたりが残って、「条件反射」などは三原順子的で落ちる。
中森明菜自身、デビュー以前母に岩崎宏美の歌をレッスンに歌いなさいと師事されてよく歌っていたというのもあるが、じゃあこれらの歌が岩崎宏美的に良いのかというとそうではない。
彼女は岩崎宏美ほどの基礎力がなく、実際、この時期はレコードでもよくフラットしている。
だがそのフラット気味の声に岩崎宏美には決してない妙な、実に妙な少女の生々しさ、があるのよ。
肉の重みというか、肉の濁りというか。生き物としての生々しさみたなものが。
でもって「イマージュの翳り」のような、フラれてハイヒールを手にしながら裸足で桟橋を歩くなんてシチュエーションにやたらリアリティーが出てしまうのよ。
(この時期からすでに明菜はフラレ唄が上手い)。

スタッフは迷っただろうなぁ。
百恵的素質を伸ばすことも可能だろうがしかし、三原順子の陥計に嵌りやすい。実際多くのイミテーターの失敗をスタッフも見ていただろうし実際「条件反射」は三原順子的になってしまった。
では岩崎宏美的な歌をといえども彼女はそこまで唄が上手くなく、また出来上がった曲も妙なテイスト。失敗ではないが、他の正しい答えがありそう。
松田聖子路線では先行する同期メンバーの「見た目聖子、歌バラバラ」の失敗を見るに茨の道であることは火を見るより明らか。

と、ここでスタッフは「少女A」という奇跡の大発明、――ヤンキー系キャラなら誰でも使える「汎用型ツッパリ歌謡」の発明をし、乗りきるのだが、ここからは次のアルバム「バリエーション」の話。

ちなみに「イマージュの翳り」の少女の成長版に「黒薔薇」(「unbalance+balance」収録)というのがある。
彼女はまたまたハイヒールを恋人に投げて裸足で桟橋にしゃがみこんでしまう。

2003.06.04

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