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乙一を読む

〜オタク文化の辿りついた、もうひとつのJUNE〜


(「きみにしか聞こえない 〜Calling You〜」/角川スニーカー文庫/2001.06)


 うなぎお薦めの作家、乙一。
 若手の旗手として近頃脚光を浴びているリリシズム溢れるホラー作家、という評判は知っていたが そういえば一冊も読んでいないなと、思い当たり、読んでみることにした。
 「ホラー薄め、リリカル強めの短編集、何冊か貸して」
 の言葉に渡されたのは、『失踪HOLIDAY』『さみしさの周波数』『平面いぬ。』『きみにしか聞こえない』 の四冊。
 アトランダムに「しあわせは仔猫のかたち」「Calling You」「傷 KIZ/Kids」「華歌」「未来予報」「失はれた物語」「手を握る泥棒の物語」 と一気に読む。

 ―――これ……、JUNEじゃん。
 まんまど直球の、あぜんとするほどの、正真正銘の、まごうことなきJUNEじゃん。
 ただ作品にホモが出ていないだけ、これはどうみてもJUNEです。フォロー不能です。ありがとうございます。



 もっと細かく言うならね、80年代後半当時の小説道場の門弟の作品っぽい。
 「門弟希望の乙一くん。君は3級あたりからはじめよう。とはいえ、君は小説を書くよりも今の自分をそのままで生きるが一番なんじゃないかな。だってまだ君は17歳じゃないか」とか、 「乙一初段、誕生おめでとう。きみの絶望はひとつの炎となって、孤独な誰かを照らすはずだと、小生は信じている」とかなんとか、そんな道場主の言葉が聞こえてきそう。 ひっじょーにそういうテイストです。この人の作品。 軽妙洒脱に絶望しているあたりなんか、「トラブルフィッシュ」あたりの初期の尾鮭"サーモン"あさみを想起させる。

 当時のJUNEの作品って、この世界に、いまの自分に絶望し、「わたしは貝になりたい」とばかりに海の底深く自閉しながら、 <だけれども、ひとりはいやだ。私は愛したいし、愛されたいんだ。世界から「ここにいてもいいんだ」と許されたいんだ。> と、ひとり、光のささない海底で世界へ向けてのラブレターを必死に書き綴っている、とでもいうような、 自照性の強い、孤独で、愛に飢えた、情念の塊のような作品が王道だったと思うんだけれども、乙一の作品は、まさしくそれ。

 世界から隔絶され、生きていること自体がただの苦行でしかない、死がわたしにとっての許された唯一にして最後の救済と思っている主人公が、 あるひとりの人間(――でなくてもいい、感情を持った何か)と濃密な関係性(――それは主人公の幻想であってもかまわない)を築くことによって、少しずつ癒されていき、 さまざまなわだかまりが氷解し、なんらかの形で世界とコミットしていくようになる(――それはともすれば、他者から見れば以前となにも変わらなかったりするのだが)、という物語の展開は、一体わたしはいつの時代のJUNEを読んでいるのだろうか、という気にされられた(――て、これ、褒め言葉ですよ)。
 ただJUNEと違うのは、そんな絶望の淵に眠る彼らをひきあげる救世主が、仔猫のように気まぐれな魔性の美少年でも、雄ライオンのようにワイルドで優しい美青年でもなく、ピュアな萌え系美少女だ、というそれだけ。



 全篇に渉ってただようリアリティー溢れる主人公のコミニュケーション不全っぷりが、
 「生きたい。僕は、生きたいんだ」
 と、必死の叫び声をあげているようで、生々しく突き刺さる。
 「華歌」「失はれた物語」なんて、当時のJUNEに掲載されたら、相当話題になったんじゃないかなぁ。 淡々と絶望に生き、なにも救われることはなく、しかし、読後、なにかが変わった、と、思わせるものがある。 世界は救済されないが、読者は、静かに救済される。

 ボーイズラブという言葉に取って代わり、JUNE的なるものが危機に瀕している現在のやおい文化において、 彼が、まったくやおい文化とまったく関係ないところで評価され、活躍し、誰も彼の作品をしてJUNE的だといわないところが、やおらーとして、ちょっと悔しい。
 これこそが、JUNEだと。
 萩尾望都や榊原姿保美がわたしにとって理想的なJUNEであるのと同様に、きわめて理想的なJUNEではなかろうか、と思う。



 ――それにしても、彼、女性を描くのが下手だね。というか、女性の行動パターンやものの考え方を、知らなすぎる。 主人公を女性にすると、それが露呈する。
 「Calling You」の主人公の学園内ひきこもりっぷりとか、ありえない。てか、どう見ても、典型的な男のキモオタさんの行動・思考パターンだし。 「華歌」は叙述トリックでごまかしたけれども、これも、女性かよ、という。 基本主人公は、おセンチで乙女なんだけれども、やっぱり、男性だな、という感じがある。
 ま、彼の場合、自分=男のひきこもりキモオタさん以外の視点でモノが書けないんじゃないか、という感じではあるけれども。

 そういった意味では「オタ男性のためのJUNE作家」という、特異な位置に彼はいるのかもしれないな。
 作者自身が本格JUNEモノを読んでなさそうな感じも含めて(――唯一ホモくさかった「傷 KIZ/Kids」は、いまいち踏み込みが足りなかったしな、あれ、腐女子が書いたらもっとがっつり掘り下げるだろうよ、それこそ「Night Head」のふたりっぽい感じで)。 やおい文化とはまったく関係のないところで、男オタク文化も、進化の果てに、気がつけばJUNE的な質を持った創作を生み出し始めたよ、ということなのかもしれない。
 男性オタだって、絶望しているし、孤独はいやだし、癒されたいし、救済されたいんだい、っていうね。

 個人的には、ネット友のTSU-KAさんに読ませたくなった。
 今度はホラー色の強いものも読んでみようっと。


2006.10.03
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