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  全作レビュー 大竹直子


 93年「エステ・de・西遊記」で漫画家デビュー。その後、90年代は角川書店「歴史ロマンDX」、潮出版「コミック・トムプラス」、マガジン・マガジン「JUNE」を中心に活動。2000年代に入り、それらの三誌が休・廃刊となると、竹書房「麗人」、雑草社「活字倶楽部」等での活動に移行。近年は歴史・時代系に強い小池書院での単行本刊行が目立っており、どちらかというとBLよりも歴史に更に重点を置いた活動にシフトしているように見受けられる。
 彼女の活動の特徴はなんといっても、徹底して日本史重視であるところと、それを支えるに十二分な重厚かつ美麗な筆致だ。大竹漫画は、日本画のタッチで本格歴史漫画を描いたらこんなだろうか、というまさにそれなのだ。
 ――なわけで、そこに描かれる男と男のいちゃこりゃも、BLでもリアルなゲイでもなく、歴史的空間にしか存在し得ない「衆道」という雰囲気にしあがっている。
 この本格志向(――と、時折読者を置いてけぼりにする唐突なギャグセンス)が、今のBL界ではなかなか受け入れられにくいのか。なかなか安定した作品発表が難しい状況にあるのが惜しい。もっと評判になってもいいのに!!
 現在、単行本未収録となっている主な作品は――。
 「エステ・de・西遊記」「青春ほっとけBOYS」をはじめとしたデビュー直後、角川で発表された作品群(中国モノ・現代モノなど。画風もストーリーもフツーに少女漫画してて驚き。作者的に黒歴史?)、角川時代末期に発表した藤本ひとみ原作のイタリアもの長編「暗殺者ロレンザッチョ」「予言者ノストラダムス」、歌舞伎の「網模様灯籠菊桐」を題材としたトム・プラス発表の「麝香御殿」、となっている。
 また現在、オリジナルの歴史・時代作品を同人誌でも発表している(――主に「白の無言」からはじまった高橋×桐島シリーズ、宇喜多直家と岡剛介に関するシリーズ、小川良原作の時代小説「妖臣伝」ファンフィクション、「妖炎」シリーズ)。


cover ◆ 写楽 原作:皆川博子 (96年3月・角川書店/07年12月・小池書院)
1. 写楽 2. 元禄蝶々伝 (小池書院版のみ収録)
 95年公開の映画「写楽」(主演・真田広之)とのタイアップによる作品。原作・皆川博子。当時の角川書店の少女漫画班は映画とのタイアップを熱心に行っていて、「KING OF ZIPANG 信長」(森川久美)、「ルビー・カイロ」(高口里純)などなどの一連のひとつといっていいかな。主役の写楽こととんぼをはじめ、ライバル役の歌麿、北斎(――なぜかワイルド系爽やかイケメン)、馬琴、十返舎一九、鶴屋南北(――兄貴分? なぜかとんぼといい雰囲気)などなど、オールスター状態でお送りしております。
 謎の絵師・写楽の誕生とその後。物語の核にあるのは、芸という魔物に魅入られた男どもの深い業――とはいえ、とんぼと蔦屋の浮世絵を介した純愛物語といえなくも……。ま、編集者と漫画家で結婚する人とか、けっこういるしね、みたいな。きっと、とんぼってファザコンなんだろうなぁ。成田屋(市川団十郎)の妬心が信じられず、むしろ、無視されたことに傷ついちゃうわけだし。パパさんが欲しいっつか、自己承認欲求が強い人なんだろうなあ、と。そんなピュアな捨てられッ子のとんぼちゃんに萌え萌えする作品。初の単行本でハードカバーという破格の待遇でのデビューだけれども、それに見合った重厚・華麗なしあがり。皆川博子の和モノの世界を漫画化するという難行を見事クリアしております。
 小池書院版には大石主税と醜女の女郎・胡蝶の一期一会を描いた「元禄蝶々伝」がおまけ収録。胡蝶ちゃんがドジ様のよく描く豆狸系のチビでソバカスの元気っ娘のよう。結構この手のキャラって、少女漫画で鉄板なのかもね。珍しく少女漫画しちゃってます。ホモでなく。


cover ◆ 源平紅雪綺譚 (96年10月・角川書店/07年12月・小池書院)
1. 青蓮華 2. 源平紅雪綺譚 3. 遮那王宵月記 4. 紅顔受難 (小池書院版のみ収録) 5. 北京的恋童 (小池書院版のみ収録)
 デビュー以前から書いていたという大竹直子の原点、源平モノをあつめた作品。絵が美麗!!!!
 琵琶の名器「青山」を介して有名な、平経正とその師・覚性法親王、ふたりを衆道的純愛方向にぐぐっと掘り下げた「青蓮華」。これまた平家物語随一の美少年キャラとして平家源氏それぞれの両雄とも言うべき、平敦盛と源義経がもし出会っていたら……という「源平紅雪綺譚」。母・常磐御前が清盛の愛妾となっていることを知り、清盛邸宅へ単身乗り込む若き牛若丸を描いた「遮那王宵月記」。源平ではわりと有名どころなエピソードやキャラを中心に展開しております。
 どのキャラも、かわういっっ。とっても強いのにママのこととなるとびっと泣いちゃうお子ちゃまな牛若といい、戦時なのにマイペース過ぎるド天然な敦盛きゅんといい、そりゃ思わず覚性さんレイープしちゃうよな無自覚に色気振り撒きな千手丸ちゅあんといいっっ、いちいちがたまらんっっ。ふがふがっ。
 ホンモノ志向なので、基本ショタ方向ってのが特徴かな。衆道って、言うならばショタ道だからさ。
 源平腐女子なら悶絶モノ。和風耽美好きも歓喜。ホント絵がため息が出るほど美麗なので(――大事なことなので二度言いました)絶対読むように。
 小池書院版では、「紅顔受難」「北京的恋童」も収録。こちらは耽美とはうって変わってオヤジ臭い艶笑譚となっております。このありえない振り子の振幅が大竹節かと。 張飛の胸毛が、凄いよね……。
 大竹版「義経一代記」、いつか読みたいよなぁ……。「遮那王宵月記」なんて、ホント大河漫画のプロローグって感じだもの。もったいない。


cover ◆ 白の無言(しじま) (04年7月・竹書房)
1. 白の無言(しじま) 2. 古痕(ふるきず) 3. 青蝉 4. 患者(クランケ)H 5. 紅蕾
 はじめてBLレーベルから発売された単行本。全てハードBL誌「麗人」に掲載されたもの。ってわけで、エロエロだったりラブラブだったりのうっとり世界を期待すると、ええええっっ、なんですかこれ。
 大竹、帝国陸軍萌え発動ってわけで、生まれたタイトル作にして高橋×桐島の第一作「白の無言」にしたって、三島由紀夫風に軍人耽美でせまっていたのが、愛の暴走ゆえのレイープっていう最大の見せ場の場面で受けの桐島思わず感極まり「大日本帝国万歳」って――おい。それはギャグなん? 本気なん? どう受け取ればいいか、悩むっちゅーに。
 「源平紅雪綺譚」のエロありバージョン「紅蕾」にしても、烏帽子つけながらのえっちシーンがシリアスなのに、ちょっと笑けるというか。や、歴史考証から言えば烏帽子とらないって、そこわかるけどさ……。
 ちんこに聴診器とか、お菊に肉注射の「青蝉」〜「患者H」は、明らかに一線踏み越えたギャグになっているかと。それでギャグオンリーで貫徹するならまだしも、なぜかラブラブハッピーエンドのムリクリに持っていこうとするから、どんどんワケわかんなくなる。
 「歴史面白耽美」という唯一無二な一冊。萌えればいいのか泣けばいいのか笑えばいいのか、ひじょーに判断に困ります。つか、書いてる本人すら読者にどう受け取ってもらいたいのか、よくわかってないんじゃなかろうか。BLなんだから、素直に乙女がうっとりする作品でいいのに、古いゲイ雑誌の実録小説っぽさやガロっぽさを融合させて、奇妙なアングラヘンテコ漫画になっちゃってるかと。実験漫画?
 それにしても大竹漫画の変態さんはホント、人生エンジョイしているという感じで――って、ま、犯罪ですけどね。


cover ◆ 秘すれば花 (08年12月・小池書院)
1. 女敵(めがたき) 2. 虜 3. 乱刃(らんじん) 4. 戦国とりかへばや異聞 5. 秘すれば花 6. 血の小姓 7. 天正鬼童剣 8. 明治うらしま細見記 9. 酔いざめの柿 10.あんこ之助がゆく!
 カドカワ以降の大竹直子・流浪の歴史をまとめた一冊といっていいかも。これまで単行本化されなかった細かい作品を一気にまとめております。少女漫画あり、BLあり、レディースあり、オヤジ向けあり、四コマ漫画までありと、なんでもありのものすんごいごった煮編集。歴史・時代モノというくくりで、ホントなんでもあり。
 義満×世阿弥のタイトル作「秘すれば花」や、驚異の弁慶受「乱刃」など、頁数もらえなかったからだろうなあ、もっと掘り下げられるのに描けなかったんだろうなぁ、という惜しい作品が散見されるのが哀。謎の小姓・松千代と若き細川ガラシャ、明智光秀の物語「天正鬼童剣」も、大きな物語の外伝といった佇まいで、もっとちゃんとした形で読みたいなあ、と。
 その中、若き鶴屋南北(――ナリも心根も「写楽」と同じなのね)が白井権八なる若衆(――武左な素朴っ子でかわういっ)と出会い、という歌舞伎「鈴ヶ森」が題材の「女敵」(――これのエッチなしバージョン、歴ロマでも描いていたけれども、こちらは単行本未収録)、「細川の血達磨」の逸話を元にした久々の歴史耽美「血の小姓」、堀部安兵衛の高田馬場の決闘をモチーフとした一般向けの渋い作りの(――てか、安兵衛カッコいいよねっっ)「酔いざめの柿」、といったあたりが今作のハイライト。
 とはいえ、なんだかんだいって、やっぱり大竹漫画は髷モノですよねー。と実感。


cover ◆ しのぶれど (09年4月・小池書院)
1. 同期に動悸してドッキン同衾 2. 市ヶ谷チェリー 3. 陸幼の花子さん  4. 高橋と桐島陸幼3年生になる 5. 陸幼美少年番付 6. 陸士にて 7. 栴檀は双葉より芳し 8. 日曜下宿のひととき 9. KDの戯れ 10. 渡せなかった手紙 11. 軍人の心得 12. 花街の母 13. 陸軍の国策 14. しのぶれど 〜東京篇・東京〜湯河原篇・湯河原篇〜 15. 蒼穹の十字架
 「白の無言」の桐島と高橋がちゅっちゅくしてるよ。以上。で済ましていいんじゃなかろーか。
 「白の無言」発表の後、同人誌で出していたふたりの作品をまとめて、新作も描いたよ、という。なので、それぞれのお話は短くって、ホントただいちゃこりゃしてるだけっていう、軍服や学ラブ大ちゅっきな方にはヨダレだらだら・鼻血ドバドバ、そうでない方には、ちょっと厳しいかもなー。ホント萌えだけで構成しましたっていう、多分、大竹直子の著作の中でいっちばんBLしてるんじゃないでしょうか。軍服のエロスがみっしり匂いたっております。しっかし「白の〜」が竹書房から出て、これが小池書院からって、なんか逆のような気がするよ。
 世界観的には三島由紀夫の軍人耽美の世界にドジ様の「まりしん」の世界を掛け合わしたような、って言ったらちょうどいいかな。三島センセーが生きていたら、是非プレゼントしたい。つか「しのぶれど 〜湯河原篇〜」の人工呼吸のシーンは三島指数高すぎ。
 っていうホモ臭軍人話のオンパレードの最後にむっちゃシリアスに特攻隊の悲劇を描いた一般向「蒼穹の十字架」って、これどっか別の本に収録できなかったのですか? ヨコシマなホモ漫画の最後の最後にこんな重いモノ読まされても、みたいな。ううう。


cover ◆ 百々之助☆変化 (09年10月・小池書院)
1. 浅草アクター 2. 花 3. 百々之助☆変化 4. 冷たいのがお好き!? 5. 浅草EDEN 6. 浅草アマテラス 7. 幸福の王子
 2004〜07年に「麗人Bravo」にて掲載された百々之助シリーズをまとめたもの。大正期の浅草の大衆演劇が舞台、というこれまたニッチな一品。
 ハイテンション・ドタバタ・エロコメ。いつもの耽美で妖しい大竹直子でなく、「紅顔受難」とか時々やらかす「こわれ系路線」でゴリゴリ進んでおります。同じ芸道モノなのに「写楽」との、このギャップ……。ライトなBLってのを目指した結果なのかしらん。他の作品と比べると絵のみっしり感もちょっと薄くなってしね、コレ。
 役者が主役のお話なので、フツーにみんな貞操観念が破綻していて、入れたり入れられたりーのな陽気なビッチで、なんだかみんな楽しそう。ふざけきっているようで、ベースの時代考証的な部分はきちっとしている安心の大竹ジルシ。新作作りやら地方巡業やら人気役者の引抜きやら枕営業やら、あるあるあるという素材を使いつつ、その向こうに芝居に賭ける者どもの日々の哀歓はきちっとリアルに感じられるのです。
 個人的には、ヤクザの親分の丑五郎さんが好きです。鼻息ふんふんしてる男の必死なコミカルさを書くの、うまいよね、大竹さん。
 おまけの「幸福な王子」はフツーの現代モノのBL。つか、なんでこんな作品描いたん? 唐突過ぎてイミフ。受けやすい作品を目指してのことだとしたら、マダムのおっぱいがポロリしている時点でアウトだしなー。受けの子がビッチってあたりもかなり違うし……。とはいえ作者の萌えだけで描いたってモノでもなさそうだし。うーむ。わからん。なんのチャレンジだったんだ、コレ……。


cover ◆ 肉食と草食の日本史 本郷和人・堀田純司 共著 (11年7月・中央アート出版)
1. 肉食と草食の日本史 2. 歴史、政治体制、ロボットアニメ 3. 「ええ、あとづけの空論なのは承知ですが、それでもAKBのことを話したいんです」 4. 開国か鎖国か。グローバル化かガラパゴス化か。 5. イラストコラム
 日本史をおたく的に再解釈してみよう、という試みの鼎談本。
 基本、話は本郷・堀田の両氏で進み、大竹さんは歴女代表という形で後半ちょろっと参加、という程度。結果的に大竹さんは聞き役にまわっているので、大竹さん目当てのみで買うとちょっと辛いかも。
 個人的にはAKBと日本史をかなり無理目に絡めたパートが印象に残ったかな。はじめてアイドルに嵌まったインテリさん、という感じでひっじょーに微笑ましいです。プロパーなアイドルオタな私としては「いや、それ、違うから」ってところも結構あるんだけれども、なんかね、自分もこういう頃あったなーって、みょーに懐かしくなってしまった。「好き」を理論武装したくなるのよね。うんうん。わかるわかる。

cover ◆ 阿修羅の契 (12年5月・小池書院)
1. 阿修羅の泪 2. 阿修羅の契 3. 兇星 〜眠り狐〜 4. 寵童
 休刊した「戦国無頼」(松文館)にて発表した、戦国時代の備前の大名・宇喜多直家に関する物語をまとめた1冊。書き下ろしがドカンとあり。
 男色家の領主・税所元常を陥れるために宇喜多直家がはなった美少年刺客・岡清三郎、その顛末を描いた「阿修羅の泪」〜「阿修羅の契」(こちらはまるまる書き下ろし)。後に梟雄とまで恐れられる直家の幼少時代を描いた「兇星」。清三郎と直家の出会いを描いた掌編「寵童」(これは同人誌発表)。以上の三本立てとなっている。
 久々に大竹直子が戻ってきた、という印象。陸士を舞台にしたとはいえ内容は典型的BL学ラブだった「しのぶれど」やコメディタッチの「百々之助☆変化」も悪くはないけれども、それにはどこか、雑誌のカラーや世間の需要にあわせて、作者が本当に目指しているベクトルから少し外れたモノを描いているという風情が感じられた。
 しかし今回は小細工なしにど真ん中にボールを投げている。がっつりと日本史で、がっつりと衆道。史実・考証をきちんと踏まえながら、それでいてフィクショナルなエンターテイメント空間を構築する、という、きわめて正統派の仕上がり。
 むろん衆道描写もBL的なドギツい濡れ場を一切排除し、精神性を重きに置いている。
 著者の目指している王道が、多分、コレ。カドカワ時代の「源平」や「写楽」が一番好き、という(――わたしみたいな――)方には、是非モノの一冊。
 24年組とそのフォロワー達が築きあげ、バブル期以降の同人出身作家達がなし崩し的に崩壊させてしまった、大人の鑑賞に堪えうる「女流漫画」ともいえる。
 おしむらくは「兇星 〜眠り狐〜」が、いつぞやの「遮那王宵月記」同様、≪直家の謀略はまだまだはじまったばかり≫という序章の段階で終わってしまっている所。雑誌休刊というという事情も相俟って「ひとまずここまで」ってことなんだろうけれどもね。どこかで続きを書く機会があればいいのだけれども……。
 ともあれ、山岸凉子や近藤よう子、波津彬子らとともに本格女流時代作家のひとりとしてこれからもがんばって欲しいな、と。


2011.08.23
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